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We think the future of laboratory animals.

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実験動物のより良い未来を模索する

実験動物のより良い未来を模索する

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2025.06.13
【コラム更新】最長寿齧歯類ハダカデバネズミの発がん・老化耐性機構の解明に向けて(熊本大学 河村佳見)
2025.04.21
【開催案内】第72回日本実験動物学会総会へのお誘い~JALAM学術集会委員会
2025.03.28
【コラム更新】遺伝子改変モデル動物の現在と展望(東京大学 藤井渉)

新着・人気コラム

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

特集

最長寿齧歯類ハダカデバネズミの発がん・老化耐性機構の解明に向けて

熊本大学 大学院生命科学研究部 老化・健康長寿学講座
河村佳見

はじめに

キモかわいい動物として一部の層に人気を博しているハダカデバネズミ、皆さんは実際に見たことがあるでしょうか。上野動物園や埼玉県こども動物自然公園、最近私たちの研究室から個体を譲渡した熊本市動植物園などで見ることができます。体長8−10 cm、体重35 g程度と小柄で、両手で餌をもってかじったり、仰向けで眠ったり、見ていて飽きない多彩な行動をとるからでしょうか。実際にハダカデバネズミを見た多くの人は、写真や動画で見るよりかわいらしいと感じるようです。

そんなハダカデバネズミは近年、医学研究においても注目されるようになってきました。なぜならハダカデバネズミは、上述のように実験用マウスと同程度の大きさの小型齧歯類であるにも関わらず、最大寿命が40年と、体重から推定される5倍以上の長寿を誇るからです。しかも、その生存期間の大部分の間、老化の兆候を示さず、さらにこれまで、発がんがほとんど確認されていません。このような特徴から、老化やがんを含む様々な加齢性疾患の「予防法」の開発につながる新たな実験動物として、大きく注目を集めています。本稿では、ハダカデバネズミの特徴や発がん耐性・老化耐性に関与する最近の知見について、私たちの研究の成果を交えながら紹介します。

ハダカデバネズミとは

ハダカデバネズミ(図1左、デバ、英名naked mole-rat、学名 Heterocephalus glaber)はその名の通り無毛(完全に無毛ではなく、感覚毛がまばらに生えています)で、歯の突出したネズミです。デバは19世紀頃に初めて発見され、その見た目から当初は他の動物の赤ちゃんか、もしくは病気の動物ではないかと考えられたそうです1。分類上は齧歯目のヤマアラシ亜目デバネズミ上科のハダカデバネズミ科に属し、本種のみでハダカデバネズミ属を構成します。英名でラットと名前がついていますが、実験に用いられる齧歯類の中では、比較的モルモットに近い種です。野生ではアフリカの角(エチオピア・ケニア・ソマリア)と呼ばれる地域の乾燥地帯の地下にトンネルを掘り、アリの巣のような巣を作って住んでいます。住処だけでなく、その社会構造もアリに似ています。デバは哺乳類では極めて珍しい分業制の社会(真社会性)を作り(図1右)、数十から100匹以上の集団(コロニー)で生活しています2。1つのコロニーの中では1匹の女王と1−3匹の繁殖オスのみが繁殖し、その他のメンバー(女王と繁殖オスの子どもたち)は雌雄ともに性成熟が抑制されていて、働きデバとして餌集めやトンネル掘り、女王が生んだ子供の世話など様々な仕事を行います。女王は働きデバの性成熟を抑制していますが、そのメカニズムの詳細はまだよくわかっていません。女王から働きデバを隔離すると性成熟が開始すること、隔離した働きデバを女王の糞尿がついた床敷に曝露しても性成熟は抑制されないことなどから3、女王との物理的な接触(小突き行動などの攻撃的な接触)が重要ではないかと考えられています4

このようなデバの特殊な生態は、研究者たちの関心を集め、1970年代頃から地下性哺乳類の生態学的研究の一環として、実験室で飼育されるようになりました。その後、実験室での飼育によって、さらに驚くべき事実が明らかになりました。野生から捕獲されたデバが、20年を経過してもなお生存していたのです。さらに個体老化の指標として重要な加齢に伴う死亡率の上昇が認められず、加齢による各種生理機能(活動量・繁殖能力・心臓拡張機能・血管機能など)の低下もほとんど見られませんでした。加えて2000例以上の観察において腫瘍形成がほとんど認められないという、顕著な発がん耐性を示すことが判明しました5。このような老化やがんをはじめとする加齢性疾患耐性の分子メカニズムを解明することは、ヒトにおける老化やがんの予防方法の開発につながる可能性があるため、デバを用いた分子生物学的研究が近年盛んに行われるようになってきました。

デバ個体における発がん耐性メカニズム

観察研究によりデバの発がん耐性が明らかになって以来、そのメカニズムを解明するために、主に培養細胞を用いた研究が行われてきました。これまでに、デバの線維芽細胞にがん遺伝子である恒常活性化型Ras(HRAS-V12)およびSimian Virus 40 Large T(SV40LT)抗原を導入してがん化への形質転換を試みたところ、これらの細胞は形質転換に対して抵抗性を示し6、その耐性機構には高分子量ヒアルロン酸の存在が必要であることが報告されています7。一方で、近年では他の研究グループから、HRAS-V12とSV40LTの導入のみでデバ線維芽細胞ががん化形質転換するという、先行研究と異なる報告もなされており、デバの細胞がこのような遺伝子導入によるがん化誘導にどの程度耐性を持つのかについては現在も議論が続いています8,9

一方、デバの発がん耐性を評価するためには、自然発がんの発生率の観察や細胞レベルでの解析に加えて、生体内で実験的に発がんを誘導し、組織の応答を評価することが重要です。そこで私たちは、デバ個体に対して、発がん剤である3-メチルコラントレン(3-MC)または7,12-dimethylbenz[a]anthracene (DMBA)/ 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA)を用いた、2種類の化学発がんモデルによるがん誘導実験を行いました10。その結果、マウスでは両方の誘導法において30週以内にすべての個体で腫瘍が形成されたのに対し、デバでは2年以上にわたる長期観察の中で、いずれの個体にも腫瘍の発生は認められませんでした。つまり、デバは化学的な発がん誘導に対しても極めて高い耐性を示すことが明らかとなりました。

発がんの過程では一般的に、DNA損傷や配列変異により変異細胞の出現(イニシエーション)が起こり、続いて免疫細胞の浸潤を伴う炎症の亢進などの組織微小環境の変化(プロモーション)が生じて発がんが促進されます。デバでは、発がん剤によるDNA損傷や細胞死は起こるものの、マウスと比べて免疫細胞の浸潤が少なく、炎症応答が弱まっていると考えられました。この炎症応答の減弱のメカニズムを解析するために、発がん誘導時の遺伝子発現変化をマウスとデバで比較しました。その結果、マウスでは“ネクロプトーシス”と呼ばれる細胞死を引き起こす遺伝子発現変化が生じていた一方で、デバではそのような変化は見られませんでした。ネクロプトーシスはプログラムされた細胞死の一種で、細胞膜の破裂とDNAなどの細胞内物質の放出を伴うため、強い炎症応答を引き起こします。デバでネクロプトーシス経路の活性化が見られない原因を探索したところ、ネクロプトーシスの制御遺伝子であるRIPK3およびMLKLにフレームシフト変異が生じており、ネクロプトーシスを誘導する機能を失っていることが判明しました。

そこで、マウスにおいてRipk3を阻害または欠損させ、3-MCによる発がん誘導を行ったところ、3-MC投与後の免疫細胞の浸潤が抑えられ、さらに腫瘍の発生も遅くなることが明らかとなりました。これらの結果から、デバにおけるネクロプトーシス誘導能の喪失は、発がんプロモーションとして働く炎症を抑えることで、発がん耐性の一因として機能していると考えられます(図2)。とはいえ、この変異のみではデバの強い発がん耐性を完全には再現できません。発がんの過程は、変異細胞とそれを取り巻く微小環境との相互作用によって進行すると考えられているため、未解明の発がん抑制機構を明らかにするには、今後さらに個体および組織レベルでの詳細な解析が重要となります。

コラム

遺伝子改変モデル動物の現在と展望

東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 実験動物学研究室
藤井渉

遺伝子改変モデル動物

 実験動物は、ヒトの疾患の発症メカニズムの解明やその予防・治療法の開発に極めて重要な役割を果たしています。ヒト疾患の再現を目的として、様々な疾患モデル動物の開発が続けられており、基礎研究だけでなく応用研究や創薬開発など幅広い分野で利用されています。
 疾患モデル動物の中でも、遺伝子改変モデル動物は、疾患の発症メカニズムや遺伝的背景を解明するうえで欠かすことのできないツールです。遺伝子改変モデル動物とは、遺伝子改変技術を用いてゲノム配列情報を意図的に改変した動物を指します。遺伝子改変モデル動物には、外来遺伝子を挿入することで新たな性質を持たせる「トランスジェニック動物」、特定の遺伝子を削除することでその機能を失わせる「ノックアウト動物」、または特定の遺伝子領域を目的に応じて改変する「ノックイン動物」など、様々なタイプがあります。特に遺伝子ノックアウトは、その動物内で通常は機能している遺伝子を人為的に破壊してしまうことで、その遺伝子が体の中でどのような生理的役割を果たしているか、また疾患とはどのように関与しているか、などを調べるうえで非常に重要な手法です。例えば、ヒトのある疾患で機能不全が示唆されるような遺伝子をモデル動物で破壊することで、その遺伝子と疾患との因果関係を示すことができ、さらには、そのような動物を用いて、新たな治療法の開発を進めることができます。
 かつて、遺伝子ノックアウト動物を作製するためには「ジーンターゲティング法」と呼ばれる方法が一般的に使用されていました。この方法では、増殖可能でかつ個体発生も可能な多能性幹細胞などを用いて遺伝子を改変するというプロセスが必要でしたが、この改変効率は非常に低いものでした。さらには、改変された幹細胞から動物個体を作出し、交配を繰り返すことで全身に遺伝子改変が反映された動物を得ますが、このプロセスにも非常に多くの時間、労力、コストを要し、研究者にとって大きな負担となっていました。また、作製に必要となる動物の個体数が多いことも課題でした。

ゲノム編集技術の登場

 このような背景の中で革新的なブレイクスルーがもたらされました。それが「ゲノム編集技術」の登場です。この技術は、細胞が持つ自然なDNA損傷修復機構を巧妙に利用したものです。我々の体内では、紫外線、化学物質、ストレスなどの環境要因によってDNA損傷が日常的に発生していますが、細胞にはこの損傷を迅速に修復する仕組みが備わっています。ゲノム編集技術は、この修復過程を利用してゲノムDNAを改変する技術です(図1)。具体的には、特定の場所でDNAを切断する酵素を用います。この酵素がゲノム中の標的部位を認識し、切断を行うと、細胞はその損傷を修復しようとします。しかし、修復過程でエラーが生じることがあり、その結果として目的の座位のDNA配列に欠失や挿入などの変異が起こり、もとの配列から変化してしまう、という仕組みを利用します。ゲノム編集を遺伝子がコードされている場所に利用すれば、変異によって遺伝子を壊すことができるため、特定の遺伝子の高効率なノックアウトが可能となりました。

図1. ゲノム編集

ゲノム編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc Finger Nuclease, ZFN)と呼ばれるDNA切断酵素の開発によって注目されるようになりました。この酵素は、DNAを認識するタンパク質ドメインのジンクフィンガーとDNAを切断する酵素を融合させたもので、ジンクフィンガー部分を特定の配列に結合するよう設計することで、ゲノムDNAの狙った部位を切断し、変異を導入できるようになりました。同様に、DNA結合タンパク質であるTALエフェクターとDNA切断酵素を組み合わせたTALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)も開発され、広く利用されてきました。一方、2013年には新たなゲノム編集ツールとしてCRISPR/Cas9システムが発表されました。このシステムでは、DNAを認識する部分が、ZFNやTALENのようなタンパク質ではなく、ガイドRNA(gRNA)と呼ばれる短いRNA分子によって構成されています。そのため、標的配列に合わせた設計が容易で、従来の方法に比べて手間をかけずに利用できるようになりました。ゲノム編集技術の研究は急速に進展しており、遺伝子改変動物の作製プロセスは劇的に効率化されました。従来のジーンターゲティング法で必要とされた幹細胞は使わずに、受精卵内で直接遺伝子改変を行えるようになり、個体化に必要なステップや動物の個体数を大幅に削減できるようになりました。3R(Replacement, Reduction, Refinement)の原則の理念にも適合する方法としても注目されています。マウスモデルでは、限られた機器と技術で遺伝子改変個体を作出できる方法も報告されており、これまで遺伝子改変研究に参入してこなかった研究者にも門戸が開かれつつあります。

コラム

動物の大きさに関する研究と実験動物

山口大学共同獣医学部発生学・実験動物学研究室
加納 聖

1. はじめに

動物の大きさはどのようなメカニズムで決まっているのでしょうか?

動物の体の大きさを決定するメカニズムは、未だ解明されていない魅力的な生物学的課題です。実験動物としてのほ乳動物においても、マウスのような小型の種からサルなどの霊長類まで、体の大きさには多様性が存在します。また、マウスの系統間でも顕著な大きさの違いがみられます。これらの大きさの違いは一体どのようなしくみで決まっているのでしょうか?

組織レベルで見ると、ほ乳動物の細胞1個のサイズは動物種による顕著な差はほとんどみられません。では、個体の大きさは体を構成する細胞数によって決まるようにも思えますが、その実態は想像するより複雑なようです。

「THE CELL 細胞の分子生物学 第6版」(1)には、「器官および個体の大きさは全体として恒常的に制御されており、重大な外的ストレスが加わっても適切なサイズを感知し、成長や縮小に関するシグナル伝達を調整する能力を有している」と記されています。すなわち、動物の体や器官の大きさは、器官あるいは体の大きさと細胞数の組合せによって、総合的に決定されると考えられています。

このようなシンプルかつ包括的な動物の体の大きさを制御するメカニズムの全貌を明らかにするには、様々な角度からの研究が求められます。実際にこれまで、多様な矮小マウスモデルを用いて、動物のサイズに関する研究が進められてきました。本稿では、私たちが変異マウスを用いて行った、動物の体の大きさに関する研究の一端を紹介したいと思います。

2. 矮小変異マウスを用いた解析

矮小化に関与する遺伝的変異は、成長が不十分とされる矮小マウスにおいてこれまで同定されています。矮小マウスの代表例であるSnellマウス(dw)(2-4)、Amesマウス(df)(4-6)、およびlittleマウス(lit)(4, 7)は、いずれも成長ホルモン(Gh: Growth Hormone)を中心とする、成長に関わる内分泌系の変化に起因する古典的な矮小モデルマウスです。もちろん、マウスに矮小の表現型をもたらすものは、それらの内分泌系を調節する下垂体や視床下部の機能の異常だけではなく、その他の内分泌機構の異常や遺伝的要因によっても引き起こされます。たとえば、染色体結合タンパク質のグループhigh-mobility group(HMG)DNA結合タンパク質の1つであるhmga2遺伝子の変異によるpygmy(pg)(8-13)や、iscoidin Domain受容体2(DDR2)遺伝子の変異によるsmallie(slie)(14)など、トランスジェニックマウスの作出過程で生じた、DNA断片の挿入変異による自然発生的な矮小マウスも確認されています。

さらに近年、N-エチル-N-ニトロソ尿素(ENU)を用いた変異誘発による表現型誘発マウスが注目を集めています(15)。遺伝子地図やDNAサテライトマーカーなどを用いて、特定の表現型の原因遺伝子の塩基配列を特定する方法であるポジショナルクローニングを含むフォワードジェネティックススクリーニング(図1, 2)は、私たちが知りたい体の大きさなどを決定づける因子の複雑な関係性を明らかにするため、表現型と関連する生物学的経路や遺伝的要素を同定するための有力な手段です。本稿では、これらの例として、私たちが解析した2つの矮小マウスモデルSmallie(slie)マウスとfertile peewee(fpw)マウスについて紹介します。

コラム

ちゃんと向き合いたい、
実験動物のこと。

実験動物というとどんなイメージがあるでしょうか。
動物を実験に活用することへの抵抗感をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実験動物に携わる関係者の間では実験動物を科学的合理性だけでなく、
動物福祉の観点からも向き合い、飼育環境の改善、実験方法や規制の見直しといった工夫を
日々行っております。

当団体では、そういった日々進化する実験動物に関する情報を
様々なコンテンツを通じて発信しております。
当サイトが、実験動物に関心のある方々の理解を促進し、
よりよい動物と人間の共存関係を実現する一助となれば幸いに存じます。

学会案内を見る

About Laboratory Animals実験動物とは

主な実験動物の種類、実験動物の飼育環境などについて説明します。

詳しくはこちら

Mechanism動物実験のしくみ

動物実験がどのように活かされるのか、また、実験環境を取り巻く規制などについて説明します。

詳しくはこちら

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

特集

最長寿齧歯類ハダカデバネズミの発がん・老化耐性機構の解明に向けて

熊本大学 大学院生命科学研究部 老化・健康長寿学講座
河村佳見

はじめに

キモかわいい動物として一部の層に人気を博しているハダカデバネズミ、皆さんは実際に見たことがあるでしょうか。上野動物園や埼玉県こども動物自然公園、最近私たちの研究室から個体を譲渡した熊本市動植物園などで見ることができます。体長8−10 cm、体重35 g程度と小柄で、両手で餌をもってかじったり、仰向けで眠ったり、見ていて飽きない多彩な行動をとるからでしょうか。実際にハダカデバネズミを見た多くの人は、写真や動画で見るよりかわいらしいと感じるようです。

そんなハダカデバネズミは近年、医学研究においても注目されるようになってきました。なぜならハダカデバネズミは、上述のように実験用マウスと同程度の大きさの小型齧歯類であるにも関わらず、最大寿命が40年と、体重から推定される5倍以上の長寿を誇るからです。しかも、その生存期間の大部分の間、老化の兆候を示さず、さらにこれまで、発がんがほとんど確認されていません。このような特徴から、老化やがんを含む様々な加齢性疾患の「予防法」の開発につながる新たな実験動物として、大きく注目を集めています。本稿では、ハダカデバネズミの特徴や発がん耐性・老化耐性に関与する最近の知見について、私たちの研究の成果を交えながら紹介します。

ハダカデバネズミとは

ハダカデバネズミ(図1左、デバ、英名naked mole-rat、学名 Heterocephalus glaber)はその名の通り無毛(完全に無毛ではなく、感覚毛がまばらに生えています)で、歯の突出したネズミです。デバは19世紀頃に初めて発見され、その見た目から当初は他の動物の赤ちゃんか、もしくは病気の動物ではないかと考えられたそうです1。分類上は齧歯目のヤマアラシ亜目デバネズミ上科のハダカデバネズミ科に属し、本種のみでハダカデバネズミ属を構成します。英名でラットと名前がついていますが、実験に用いられる齧歯類の中では、比較的モルモットに近い種です。野生ではアフリカの角(エチオピア・ケニア・ソマリア)と呼ばれる地域の乾燥地帯の地下にトンネルを掘り、アリの巣のような巣を作って住んでいます。住処だけでなく、その社会構造もアリに似ています。デバは哺乳類では極めて珍しい分業制の社会(真社会性)を作り(図1右)、数十から100匹以上の集団(コロニー)で生活しています2。1つのコロニーの中では1匹の女王と1−3匹の繁殖オスのみが繁殖し、その他のメンバー(女王と繁殖オスの子どもたち)は雌雄ともに性成熟が抑制されていて、働きデバとして餌集めやトンネル掘り、女王が生んだ子供の世話など様々な仕事を行います。女王は働きデバの性成熟を抑制していますが、そのメカニズムの詳細はまだよくわかっていません。女王から働きデバを隔離すると性成熟が開始すること、隔離した働きデバを女王の糞尿がついた床敷に曝露しても性成熟は抑制されないことなどから3、女王との物理的な接触(小突き行動などの攻撃的な接触)が重要ではないかと考えられています4

このようなデバの特殊な生態は、研究者たちの関心を集め、1970年代頃から地下性哺乳類の生態学的研究の一環として、実験室で飼育されるようになりました。その後、実験室での飼育によって、さらに驚くべき事実が明らかになりました。野生から捕獲されたデバが、20年を経過してもなお生存していたのです。さらに個体老化の指標として重要な加齢に伴う死亡率の上昇が認められず、加齢による各種生理機能(活動量・繁殖能力・心臓拡張機能・血管機能など)の低下もほとんど見られませんでした。加えて2000例以上の観察において腫瘍形成がほとんど認められないという、顕著な発がん耐性を示すことが判明しました5。このような老化やがんをはじめとする加齢性疾患耐性の分子メカニズムを解明することは、ヒトにおける老化やがんの予防方法の開発につながる可能性があるため、デバを用いた分子生物学的研究が近年盛んに行われるようになってきました。

デバ個体における発がん耐性メカニズム

観察研究によりデバの発がん耐性が明らかになって以来、そのメカニズムを解明するために、主に培養細胞を用いた研究が行われてきました。これまでに、デバの線維芽細胞にがん遺伝子である恒常活性化型Ras(HRAS-V12)およびSimian Virus 40 Large T(SV40LT)抗原を導入してがん化への形質転換を試みたところ、これらの細胞は形質転換に対して抵抗性を示し6、その耐性機構には高分子量ヒアルロン酸の存在が必要であることが報告されています7。一方で、近年では他の研究グループから、HRAS-V12とSV40LTの導入のみでデバ線維芽細胞ががん化形質転換するという、先行研究と異なる報告もなされており、デバの細胞がこのような遺伝子導入によるがん化誘導にどの程度耐性を持つのかについては現在も議論が続いています8,9

一方、デバの発がん耐性を評価するためには、自然発がんの発生率の観察や細胞レベルでの解析に加えて、生体内で実験的に発がんを誘導し、組織の応答を評価することが重要です。そこで私たちは、デバ個体に対して、発がん剤である3-メチルコラントレン(3-MC)または7,12-dimethylbenz[a]anthracene (DMBA)/ 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA)を用いた、2種類の化学発がんモデルによるがん誘導実験を行いました10。その結果、マウスでは両方の誘導法において30週以内にすべての個体で腫瘍が形成されたのに対し、デバでは2年以上にわたる長期観察の中で、いずれの個体にも腫瘍の発生は認められませんでした。つまり、デバは化学的な発がん誘導に対しても極めて高い耐性を示すことが明らかとなりました。

発がんの過程では一般的に、DNA損傷や配列変異により変異細胞の出現(イニシエーション)が起こり、続いて免疫細胞の浸潤を伴う炎症の亢進などの組織微小環境の変化(プロモーション)が生じて発がんが促進されます。デバでは、発がん剤によるDNA損傷や細胞死は起こるものの、マウスと比べて免疫細胞の浸潤が少なく、炎症応答が弱まっていると考えられました。この炎症応答の減弱のメカニズムを解析するために、発がん誘導時の遺伝子発現変化をマウスとデバで比較しました。その結果、マウスでは“ネクロプトーシス”と呼ばれる細胞死を引き起こす遺伝子発現変化が生じていた一方で、デバではそのような変化は見られませんでした。ネクロプトーシスはプログラムされた細胞死の一種で、細胞膜の破裂とDNAなどの細胞内物質の放出を伴うため、強い炎症応答を引き起こします。デバでネクロプトーシス経路の活性化が見られない原因を探索したところ、ネクロプトーシスの制御遺伝子であるRIPK3およびMLKLにフレームシフト変異が生じており、ネクロプトーシスを誘導する機能を失っていることが判明しました。

そこで、マウスにおいてRipk3を阻害または欠損させ、3-MCによる発がん誘導を行ったところ、3-MC投与後の免疫細胞の浸潤が抑えられ、さらに腫瘍の発生も遅くなることが明らかとなりました。これらの結果から、デバにおけるネクロプトーシス誘導能の喪失は、発がんプロモーションとして働く炎症を抑えることで、発がん耐性の一因として機能していると考えられます(図2)。とはいえ、この変異のみではデバの強い発がん耐性を完全には再現できません。発がんの過程は、変異細胞とそれを取り巻く微小環境との相互作用によって進行すると考えられているため、未解明の発がん抑制機構を明らかにするには、今後さらに個体および組織レベルでの詳細な解析が重要となります。

コラム

遺伝子改変モデル動物の現在と展望

東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 実験動物学研究室
藤井渉

遺伝子改変モデル動物

 実験動物は、ヒトの疾患の発症メカニズムの解明やその予防・治療法の開発に極めて重要な役割を果たしています。ヒト疾患の再現を目的として、様々な疾患モデル動物の開発が続けられており、基礎研究だけでなく応用研究や創薬開発など幅広い分野で利用されています。
 疾患モデル動物の中でも、遺伝子改変モデル動物は、疾患の発症メカニズムや遺伝的背景を解明するうえで欠かすことのできないツールです。遺伝子改変モデル動物とは、遺伝子改変技術を用いてゲノム配列情報を意図的に改変した動物を指します。遺伝子改変モデル動物には、外来遺伝子を挿入することで新たな性質を持たせる「トランスジェニック動物」、特定の遺伝子を削除することでその機能を失わせる「ノックアウト動物」、または特定の遺伝子領域を目的に応じて改変する「ノックイン動物」など、様々なタイプがあります。特に遺伝子ノックアウトは、その動物内で通常は機能している遺伝子を人為的に破壊してしまうことで、その遺伝子が体の中でどのような生理的役割を果たしているか、また疾患とはどのように関与しているか、などを調べるうえで非常に重要な手法です。例えば、ヒトのある疾患で機能不全が示唆されるような遺伝子をモデル動物で破壊することで、その遺伝子と疾患との因果関係を示すことができ、さらには、そのような動物を用いて、新たな治療法の開発を進めることができます。
 かつて、遺伝子ノックアウト動物を作製するためには「ジーンターゲティング法」と呼ばれる方法が一般的に使用されていました。この方法では、増殖可能でかつ個体発生も可能な多能性幹細胞などを用いて遺伝子を改変するというプロセスが必要でしたが、この改変効率は非常に低いものでした。さらには、改変された幹細胞から動物個体を作出し、交配を繰り返すことで全身に遺伝子改変が反映された動物を得ますが、このプロセスにも非常に多くの時間、労力、コストを要し、研究者にとって大きな負担となっていました。また、作製に必要となる動物の個体数が多いことも課題でした。

ゲノム編集技術の登場

 このような背景の中で革新的なブレイクスルーがもたらされました。それが「ゲノム編集技術」の登場です。この技術は、細胞が持つ自然なDNA損傷修復機構を巧妙に利用したものです。我々の体内では、紫外線、化学物質、ストレスなどの環境要因によってDNA損傷が日常的に発生していますが、細胞にはこの損傷を迅速に修復する仕組みが備わっています。ゲノム編集技術は、この修復過程を利用してゲノムDNAを改変する技術です(図1)。具体的には、特定の場所でDNAを切断する酵素を用います。この酵素がゲノム中の標的部位を認識し、切断を行うと、細胞はその損傷を修復しようとします。しかし、修復過程でエラーが生じることがあり、その結果として目的の座位のDNA配列に欠失や挿入などの変異が起こり、もとの配列から変化してしまう、という仕組みを利用します。ゲノム編集を遺伝子がコードされている場所に利用すれば、変異によって遺伝子を壊すことができるため、特定の遺伝子の高効率なノックアウトが可能となりました。

図1. ゲノム編集

ゲノム編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc Finger Nuclease, ZFN)と呼ばれるDNA切断酵素の開発によって注目されるようになりました。この酵素は、DNAを認識するタンパク質ドメインのジンクフィンガーとDNAを切断する酵素を融合させたもので、ジンクフィンガー部分を特定の配列に結合するよう設計することで、ゲノムDNAの狙った部位を切断し、変異を導入できるようになりました。同様に、DNA結合タンパク質であるTALエフェクターとDNA切断酵素を組み合わせたTALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)も開発され、広く利用されてきました。一方、2013年には新たなゲノム編集ツールとしてCRISPR/Cas9システムが発表されました。このシステムでは、DNAを認識する部分が、ZFNやTALENのようなタンパク質ではなく、ガイドRNA(gRNA)と呼ばれる短いRNA分子によって構成されています。そのため、標的配列に合わせた設計が容易で、従来の方法に比べて手間をかけずに利用できるようになりました。ゲノム編集技術の研究は急速に進展しており、遺伝子改変動物の作製プロセスは劇的に効率化されました。従来のジーンターゲティング法で必要とされた幹細胞は使わずに、受精卵内で直接遺伝子改変を行えるようになり、個体化に必要なステップや動物の個体数を大幅に削減できるようになりました。3R(Replacement, Reduction, Refinement)の原則の理念にも適合する方法としても注目されています。マウスモデルでは、限られた機器と技術で遺伝子改変個体を作出できる方法も報告されており、これまで遺伝子改変研究に参入してこなかった研究者にも門戸が開かれつつあります。

コラム

動物の大きさに関する研究と実験動物

山口大学共同獣医学部発生学・実験動物学研究室
加納 聖

1. はじめに

動物の大きさはどのようなメカニズムで決まっているのでしょうか?

動物の体の大きさを決定するメカニズムは、未だ解明されていない魅力的な生物学的課題です。実験動物としてのほ乳動物においても、マウスのような小型の種からサルなどの霊長類まで、体の大きさには多様性が存在します。また、マウスの系統間でも顕著な大きさの違いがみられます。これらの大きさの違いは一体どのようなしくみで決まっているのでしょうか?

組織レベルで見ると、ほ乳動物の細胞1個のサイズは動物種による顕著な差はほとんどみられません。では、個体の大きさは体を構成する細胞数によって決まるようにも思えますが、その実態は想像するより複雑なようです。

「THE CELL 細胞の分子生物学 第6版」(1)には、「器官および個体の大きさは全体として恒常的に制御されており、重大な外的ストレスが加わっても適切なサイズを感知し、成長や縮小に関するシグナル伝達を調整する能力を有している」と記されています。すなわち、動物の体や器官の大きさは、器官あるいは体の大きさと細胞数の組合せによって、総合的に決定されると考えられています。

このようなシンプルかつ包括的な動物の体の大きさを制御するメカニズムの全貌を明らかにするには、様々な角度からの研究が求められます。実際にこれまで、多様な矮小マウスモデルを用いて、動物のサイズに関する研究が進められてきました。本稿では、私たちが変異マウスを用いて行った、動物の体の大きさに関する研究の一端を紹介したいと思います。

2. 矮小変異マウスを用いた解析

矮小化に関与する遺伝的変異は、成長が不十分とされる矮小マウスにおいてこれまで同定されています。矮小マウスの代表例であるSnellマウス(dw)(2-4)、Amesマウス(df)(4-6)、およびlittleマウス(lit)(4, 7)は、いずれも成長ホルモン(Gh: Growth Hormone)を中心とする、成長に関わる内分泌系の変化に起因する古典的な矮小モデルマウスです。もちろん、マウスに矮小の表現型をもたらすものは、それらの内分泌系を調節する下垂体や視床下部の機能の異常だけではなく、その他の内分泌機構の異常や遺伝的要因によっても引き起こされます。たとえば、染色体結合タンパク質のグループhigh-mobility group(HMG)DNA結合タンパク質の1つであるhmga2遺伝子の変異によるpygmy(pg)(8-13)や、iscoidin Domain受容体2(DDR2)遺伝子の変異によるsmallie(slie)(14)など、トランスジェニックマウスの作出過程で生じた、DNA断片の挿入変異による自然発生的な矮小マウスも確認されています。

さらに近年、N-エチル-N-ニトロソ尿素(ENU)を用いた変異誘発による表現型誘発マウスが注目を集めています(15)。遺伝子地図やDNAサテライトマーカーなどを用いて、特定の表現型の原因遺伝子の塩基配列を特定する方法であるポジショナルクローニングを含むフォワードジェネティックススクリーニング(図1, 2)は、私たちが知りたい体の大きさなどを決定づける因子の複雑な関係性を明らかにするため、表現型と関連する生物学的経路や遺伝的要素を同定するための有力な手段です。本稿では、これらの例として、私たちが解析した2つの矮小マウスモデルSmallie(slie)マウスとfertile peewee(fpw)マウスについて紹介します。

コラム