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We think the future of laboratory animals.

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実験動物のより良い未来を模索する

実験動物のより良い未来を模索する

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2025.10.17
【JCLAM会員限定動画】動物実験実施者が実感し実践できる3Rs技術の開発:動物実験獣医師だからできること~中村 鉄平 先生(北海道大学)
2025.10.13
【開催案内】第36回東北動物実験研究会
2025.10.03
【コラム更新】生殖細胞が持つポテンシャル -乾燥状態でも失われない受精能力-(大阪公立大学大学院 金子武人)

新着・人気コラム

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

特集

生殖細胞が持つポテンシャル -乾燥状態でも失われない受精能力-

大阪公立大学大学院獣医学研究科
金子 武人

はじめに

我々の研究室では、動物を中心とした受精メカニズムの解明、体外での受精技術の開発、細胞の長期保存法の開発、遺伝子改変動物の作製法の開発など生殖学に関連した多岐にわたる研究を行っています1。これまで、電気の力で細胞に穴をあけ遺伝子を細胞内に導入するエレクトロポレーション法を用いた遺伝子改変動物作製法(テイク法)の開発2-4、音波を用いて雌の妊娠環境を構築する方法(EGET)の開発5-7など、これまで用いられていた方法とは異なる新しい生殖技術の開発を行っています。

細胞の長期保存法の開発では、研究に用いられる動物の種や系統を生殖細胞である精子、卵子、そして受精卵の形で保存することで動物の利用を最小限にすることができます。精子、卵子、受精卵の保存で、最初に思い浮かべるのは液体窒素や冷凍庫で保存する凍結保存だと思います。ここでは、凍結保存とは異なる我々の研究室で開発したフリーズドライによる精子保存法について紹介したいと思います。

フリーズドライとは

「フリーズドライ」という言葉は聞いたことがあると思います。スーパーマーケットに行くとスープやコーヒーなどのラベルに書かれていることもあり、食品保存の分野ではよく用いられている技術です。フリーズドライは和訳すると凍結乾燥、つまり凍結してから乾燥させる技術です。水分を含んだサンプルを急速に凍結した後、真空状態にすることでサンプル中の水分を固体から気体へと昇華させながら乾燥状態にしていきます。フリーズドライ後のサンプルは、栄養成分や風味の劣化が少ないだけでなく、長期保存が可能になります。このことから、食品の保存だけでなく、医薬品の製造などにも利用されています。使用するときは、水を加えるだけで元の状態に戻すことができます。長期保存ができ、水分も少なく重量が軽くなるため非常食や携行食にも有効です。国際宇宙ステーションで活動する宇宙飛行士の食事(宇宙食)としても活用されています。フリーズドライ技術は、我々の生活のみならず、科学研究をも強力にサポートしているのです。

精子をフリーズドライ技術で保存する

 このフリーズドライ技術を用いて精子を乾燥させたらどうなるでしょうか。一度乾燥してしまった精子は受精する能力を失ってしまったように見えます。ですが、哺乳動物の多くの精子は、フリーズドライしても受精能力は維持されています。マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ウマ、ウシの精子はフリーズドライ後も受精能力が維持され、これらの精子と受精した卵子から正常な産子が誕生することが報告されています8-9

フリーズドライ保存は、凍結保存と何が違うのか。精子を凍結した場合は、保存するのに必ず液体窒素が必要になります。一方、フリーズドライした精子は、その保存に液体窒素は必要なく、冷蔵庫(4℃)での長期保存が可能です。「液体窒素不要の長期保存の実現」、これがフリーズドライ保存法の最大の利点です。そのほかにも、多くの利点があり表1に示してみました。

表1:フリーズドライ保存法と凍結保存法の比較

 フリーズドライ保存法凍結保存法
保存方法冷蔵庫(4℃)液体窒素保管容器(液体窒素)
保存液トリス-EDTAバッファー凍結保護物質
輸送方法常温・簡易包装液体窒素輸送器(ドライシッパー)
緊急時保存可能期間常温で3ヶ月2週間程度

液体窒素や電気などの供給が途絶した状況でサンプルを保存できる期間

液体窒素での凍結保存は、専用の液体窒素保管容器を用意し、さらに液体窒素は容器内で蒸発するため定期的に補充しなければなりません。液体窒素の補充は、重労働で酸欠を伴う危険な作業であるだけでなく、うっかり補充を忘れて液体窒素保管容器内の液体窒素を空にしてしまい、大事なサンプルを全滅させてしまったと言う話も聞きます。その点、冷蔵庫で長期保存できるフリーズドライ精子はそのような心配もなく、サンプルの国内外の施設間移動も容易にできます。実際に筆者は、日本-アメリカ間を簡易な包装で常温輸送したフリーズドライ精子から正常な産子の作出に成功しています10。これにより、生体で輸送することなく、簡易で安全に遺伝資源を移動させることが可能となりました。

震災や災害による貴重な研究生物試料の喪失

研究に用いられる生物試料は、様々な形で長期間保管されています。これらの中には、同じものを復元することが難しい貴重な試料も存在します。特に動物は、有効な形質を残す育種により長期間飼育されて現在に至っており、復元にも長い年月を要します。災害は、これまで蓄積してきた貴重な研究試料を一瞬で奪っていきます。近年は、気候変動により多くの地域で災害が起こっており、喪失の危険性は年々増加しているのが現状です。国内でも風水害による長期停電や浸水、地震による道路の寸断や建物崩壊が多くのところで起きています。液体窒素容器保管施設が地下に設置されている場合、大雨による浸水は致命的であり、地震により長期停電や液体窒素を補充できずに、ディープフリーザーや液体窒素保管容器で保存されていた貴重な研究試料の多くが失われたことも実際に国内外で報告されています。

筆者がフリーズドライ保存法の研究を始めた理由は、「インスタントコーヒーのように精子を保存しよう!」という知的好奇心でした。しかし、そのころ同時に大規模な自然災害が国内外で起きていたことから、その考えは安全な遺伝資源保存法としてフリーズドライ保存法を確立することに変わっていきました。表1に示した通り、フリーズドライ精子は冷蔵庫の電源が喪失しても3ヶ月程度は常温で保存できるため、試料さえ救出できれば簡易な梱包で安全な場所に移動させることが可能です。このことからも、フリーズドライ精子保存法は、これまでの液体窒素による凍結保存法と並行して、貴重な遺伝資源を安全に保存する上で極めて有効な方法であるといえます。

コラム

希少疾患の治療法開発と実験動物

信州大学基盤研究支援センター動物実験支援部門
吉沢 隆浩

 私達は様々な場面で薬を飲む。頭痛や風邪や花粉症など、薬を飲んで症状が和らいだ経験がある人は多いだろう。厚生労働省によれば、現在我が国では約1万3千品目の医療用医薬品が用いられている[1]。これらの医薬品は様々な病気の治療に幅広く対応し、私達の生活を支えている。その一方で、医療の発展した現代においても、治療法が確立されていない病気が数多く存在している。特に希少疾患は、そのうち95%の疾患で有効な治療法が確立されていないとされる[2]。一般的に希少疾患は、患者数が人口1万人当り1~5人未満の病気とされる。疾患ごとの患者数は少ないが、これまでに6千種類以上の希少疾患が報告され、世界全体の患者数は3億人以上と推定されている[3]。それぞれの希少疾患では患者数が少ないために、適切な診断が可能な医療機関が限られる、自然歴に関するデータの収集が難しい、研究に必要な人手や予算が集まりにくいなどの問題がある。さらに、古くから研究が進んでいる患者数が多い他の疾患と比べると、病気のメカニズム解明から治療法開発までを手探りで進める必要があるなど、全ての研究開発段階において困難を要するといった、希少疾患特有の課題がある。

 安全で効果的な医薬品を効率的に開発するためには、様々な解析手法の組み合わせが必要になる。治療薬開発(創薬)に取り組むためにまず必要なのは、臨床と基礎両方の視点から、病気の原因や発症および進行のメカニズム(病態メカニズム)を明らかにすることである。病態メカニズムの解明は、患者の診療データの収集から始まり、遺伝学的検査や培養細胞、疾患モデル動物を用いた解析など、多面的なアプローチがとられる。病態メカニズムが分かってきたら、次に、病気の原因や発症に関わる分子(治療標的分子)に作用する物質を探し出す作業(スクリーニング)が行われる。スクリーニングの対象になる物質は、低分子化合物、ペプチド、抗体、または核酸などがあり、治療標的分子に応じた様々な選択肢がある。低分子化合物での創薬の場合、莫大な数の化合物(化合物ライブラリ)から治療標的分子に作用する物質(ヒット化合物)を探し出す必要がある。そのため、まずはAIによるin silicoの解析でヒット化合物の構造式を予測し、スクリーニング対象を数千化合物程度に絞り込む場合が多い。次に、多種類の化合物を迅速に解析可能な、培養細胞などを用いたin vitroの方法でスクリーニングを行い、ヒット化合物を見つけ出す。ヒット化合物が見つかれば、その化学構造をヒントに構造最適化が行われるのが一般的である。次に、多くの場合では、実験動物を用いたin vivoでの安全性試験や薬理試験などが行われる。そして、これらの基礎研究~前臨床試験で積み重ねた知見を基に、健常者や患者への投薬実験(治験)が行われ、ヒトでの安全性と有効性が確認された物が、各種承認を経て患者の治療に使われるようになる。

 ここで少し話が逸れるが、in vivo試験の必要性について考えたい。私達の体は多種類の細胞によって構成され、さらに複数の臓器や組織が複雑に影響し合い協調することで、生命活動が維持されている。そのため、生きた体への病気や薬の影響は、生きた体でなければ分からないことが多い。その一例として薬物動態について考えると、薬の効きは消化管からの吸収率や、肝臓や腎臓での代謝や排泄、腸内細菌叢による影響、血液中のタンパク質への吸着、血管透過性、各種臓器への分布や蓄積など、全身の様々な要因の影響を受けることが知られている。また、病態メカニズムの解明やヒット化合物の安全性や効果の検証においても、病変が生じる臓器や細胞を解析するだけでは不十分で、全身にどのような影響があるのか包括的に評価する必要がある。また、多臓器連関として知られるような生体臓器同士の相互作用を慎重に解析し、病態メカニズムや薬の安全性・効果を俯瞰的に見極めることが求められる。そうしたことから、現時点で、病気の研究や治療法の開発に動物実験は欠かすことができない。

 さて、話を元に戻して、私の研究テーマについて紹介したい。前述の通り、創薬のスタートラインに立つためには、対象となる疾患の病態メカニズムの解明が必要になる。また、前臨床試験で薬の安全性や効き目を評価する手段も必要になる。そのためには、適切な疾患モデル動物が必要である。私は、日々試行錯誤しながら、希少疾患のモデル動物の研究に取り組んでいる。このコラムでは、筋拘縮型エーラス・ダンロス症候群(mcEDS)と、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)の疾患モデルマウスを用いた最近の研究について紹介したい。

コラム

ちゃんと向き合いたい、
実験動物のこと。

実験動物というとどんなイメージがあるでしょうか。
動物を実験に活用することへの抵抗感をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実験動物に携わる関係者の間では実験動物を科学的合理性だけでなく、
動物福祉の観点からも向き合い、飼育環境の改善、実験方法や規制の見直しといった工夫を
日々行っております。

当団体では、そういった日々進化する実験動物に関する情報を
様々なコンテンツを通じて発信しております。
当サイトが、実験動物に関心のある方々の理解を促進し、
よりよい動物と人間の共存関係を実現する一助となれば幸いに存じます。

学会案内を見る

About Laboratory Animals実験動物とは

主な実験動物の種類、実験動物の飼育環境などについて説明します。

詳しくはこちら

Mechanism動物実験のしくみ

動物実験がどのように活かされるのか、また、実験環境を取り巻く規制などについて説明します。

詳しくはこちら

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

特集

生殖細胞が持つポテンシャル -乾燥状態でも失われない受精能力-

大阪公立大学大学院獣医学研究科
金子 武人

はじめに

我々の研究室では、動物を中心とした受精メカニズムの解明、体外での受精技術の開発、細胞の長期保存法の開発、遺伝子改変動物の作製法の開発など生殖学に関連した多岐にわたる研究を行っています1。これまで、電気の力で細胞に穴をあけ遺伝子を細胞内に導入するエレクトロポレーション法を用いた遺伝子改変動物作製法(テイク法)の開発2-4、音波を用いて雌の妊娠環境を構築する方法(EGET)の開発5-7など、これまで用いられていた方法とは異なる新しい生殖技術の開発を行っています。

細胞の長期保存法の開発では、研究に用いられる動物の種や系統を生殖細胞である精子、卵子、そして受精卵の形で保存することで動物の利用を最小限にすることができます。精子、卵子、受精卵の保存で、最初に思い浮かべるのは液体窒素や冷凍庫で保存する凍結保存だと思います。ここでは、凍結保存とは異なる我々の研究室で開発したフリーズドライによる精子保存法について紹介したいと思います。

フリーズドライとは

「フリーズドライ」という言葉は聞いたことがあると思います。スーパーマーケットに行くとスープやコーヒーなどのラベルに書かれていることもあり、食品保存の分野ではよく用いられている技術です。フリーズドライは和訳すると凍結乾燥、つまり凍結してから乾燥させる技術です。水分を含んだサンプルを急速に凍結した後、真空状態にすることでサンプル中の水分を固体から気体へと昇華させながら乾燥状態にしていきます。フリーズドライ後のサンプルは、栄養成分や風味の劣化が少ないだけでなく、長期保存が可能になります。このことから、食品の保存だけでなく、医薬品の製造などにも利用されています。使用するときは、水を加えるだけで元の状態に戻すことができます。長期保存ができ、水分も少なく重量が軽くなるため非常食や携行食にも有効です。国際宇宙ステーションで活動する宇宙飛行士の食事(宇宙食)としても活用されています。フリーズドライ技術は、我々の生活のみならず、科学研究をも強力にサポートしているのです。

精子をフリーズドライ技術で保存する

 このフリーズドライ技術を用いて精子を乾燥させたらどうなるでしょうか。一度乾燥してしまった精子は受精する能力を失ってしまったように見えます。ですが、哺乳動物の多くの精子は、フリーズドライしても受精能力は維持されています。マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ウマ、ウシの精子はフリーズドライ後も受精能力が維持され、これらの精子と受精した卵子から正常な産子が誕生することが報告されています8-9

フリーズドライ保存は、凍結保存と何が違うのか。精子を凍結した場合は、保存するのに必ず液体窒素が必要になります。一方、フリーズドライした精子は、その保存に液体窒素は必要なく、冷蔵庫(4℃)での長期保存が可能です。「液体窒素不要の長期保存の実現」、これがフリーズドライ保存法の最大の利点です。そのほかにも、多くの利点があり表1に示してみました。

表1:フリーズドライ保存法と凍結保存法の比較

 フリーズドライ保存法凍結保存法
保存方法冷蔵庫(4℃)液体窒素保管容器(液体窒素)
保存液トリス-EDTAバッファー凍結保護物質
輸送方法常温・簡易包装液体窒素輸送器(ドライシッパー)
緊急時保存可能期間常温で3ヶ月2週間程度

液体窒素や電気などの供給が途絶した状況でサンプルを保存できる期間

液体窒素での凍結保存は、専用の液体窒素保管容器を用意し、さらに液体窒素は容器内で蒸発するため定期的に補充しなければなりません。液体窒素の補充は、重労働で酸欠を伴う危険な作業であるだけでなく、うっかり補充を忘れて液体窒素保管容器内の液体窒素を空にしてしまい、大事なサンプルを全滅させてしまったと言う話も聞きます。その点、冷蔵庫で長期保存できるフリーズドライ精子はそのような心配もなく、サンプルの国内外の施設間移動も容易にできます。実際に筆者は、日本-アメリカ間を簡易な包装で常温輸送したフリーズドライ精子から正常な産子の作出に成功しています10。これにより、生体で輸送することなく、簡易で安全に遺伝資源を移動させることが可能となりました。

震災や災害による貴重な研究生物試料の喪失

研究に用いられる生物試料は、様々な形で長期間保管されています。これらの中には、同じものを復元することが難しい貴重な試料も存在します。特に動物は、有効な形質を残す育種により長期間飼育されて現在に至っており、復元にも長い年月を要します。災害は、これまで蓄積してきた貴重な研究試料を一瞬で奪っていきます。近年は、気候変動により多くの地域で災害が起こっており、喪失の危険性は年々増加しているのが現状です。国内でも風水害による長期停電や浸水、地震による道路の寸断や建物崩壊が多くのところで起きています。液体窒素容器保管施設が地下に設置されている場合、大雨による浸水は致命的であり、地震により長期停電や液体窒素を補充できずに、ディープフリーザーや液体窒素保管容器で保存されていた貴重な研究試料の多くが失われたことも実際に国内外で報告されています。

筆者がフリーズドライ保存法の研究を始めた理由は、「インスタントコーヒーのように精子を保存しよう!」という知的好奇心でした。しかし、そのころ同時に大規模な自然災害が国内外で起きていたことから、その考えは安全な遺伝資源保存法としてフリーズドライ保存法を確立することに変わっていきました。表1に示した通り、フリーズドライ精子は冷蔵庫の電源が喪失しても3ヶ月程度は常温で保存できるため、試料さえ救出できれば簡易な梱包で安全な場所に移動させることが可能です。このことからも、フリーズドライ精子保存法は、これまでの液体窒素による凍結保存法と並行して、貴重な遺伝資源を安全に保存する上で極めて有効な方法であるといえます。

コラム

希少疾患の治療法開発と実験動物

信州大学基盤研究支援センター動物実験支援部門
吉沢 隆浩

 私達は様々な場面で薬を飲む。頭痛や風邪や花粉症など、薬を飲んで症状が和らいだ経験がある人は多いだろう。厚生労働省によれば、現在我が国では約1万3千品目の医療用医薬品が用いられている[1]。これらの医薬品は様々な病気の治療に幅広く対応し、私達の生活を支えている。その一方で、医療の発展した現代においても、治療法が確立されていない病気が数多く存在している。特に希少疾患は、そのうち95%の疾患で有効な治療法が確立されていないとされる[2]。一般的に希少疾患は、患者数が人口1万人当り1~5人未満の病気とされる。疾患ごとの患者数は少ないが、これまでに6千種類以上の希少疾患が報告され、世界全体の患者数は3億人以上と推定されている[3]。それぞれの希少疾患では患者数が少ないために、適切な診断が可能な医療機関が限られる、自然歴に関するデータの収集が難しい、研究に必要な人手や予算が集まりにくいなどの問題がある。さらに、古くから研究が進んでいる患者数が多い他の疾患と比べると、病気のメカニズム解明から治療法開発までを手探りで進める必要があるなど、全ての研究開発段階において困難を要するといった、希少疾患特有の課題がある。

 安全で効果的な医薬品を効率的に開発するためには、様々な解析手法の組み合わせが必要になる。治療薬開発(創薬)に取り組むためにまず必要なのは、臨床と基礎両方の視点から、病気の原因や発症および進行のメカニズム(病態メカニズム)を明らかにすることである。病態メカニズムの解明は、患者の診療データの収集から始まり、遺伝学的検査や培養細胞、疾患モデル動物を用いた解析など、多面的なアプローチがとられる。病態メカニズムが分かってきたら、次に、病気の原因や発症に関わる分子(治療標的分子)に作用する物質を探し出す作業(スクリーニング)が行われる。スクリーニングの対象になる物質は、低分子化合物、ペプチド、抗体、または核酸などがあり、治療標的分子に応じた様々な選択肢がある。低分子化合物での創薬の場合、莫大な数の化合物(化合物ライブラリ)から治療標的分子に作用する物質(ヒット化合物)を探し出す必要がある。そのため、まずはAIによるin silicoの解析でヒット化合物の構造式を予測し、スクリーニング対象を数千化合物程度に絞り込む場合が多い。次に、多種類の化合物を迅速に解析可能な、培養細胞などを用いたin vitroの方法でスクリーニングを行い、ヒット化合物を見つけ出す。ヒット化合物が見つかれば、その化学構造をヒントに構造最適化が行われるのが一般的である。次に、多くの場合では、実験動物を用いたin vivoでの安全性試験や薬理試験などが行われる。そして、これらの基礎研究~前臨床試験で積み重ねた知見を基に、健常者や患者への投薬実験(治験)が行われ、ヒトでの安全性と有効性が確認された物が、各種承認を経て患者の治療に使われるようになる。

 ここで少し話が逸れるが、in vivo試験の必要性について考えたい。私達の体は多種類の細胞によって構成され、さらに複数の臓器や組織が複雑に影響し合い協調することで、生命活動が維持されている。そのため、生きた体への病気や薬の影響は、生きた体でなければ分からないことが多い。その一例として薬物動態について考えると、薬の効きは消化管からの吸収率や、肝臓や腎臓での代謝や排泄、腸内細菌叢による影響、血液中のタンパク質への吸着、血管透過性、各種臓器への分布や蓄積など、全身の様々な要因の影響を受けることが知られている。また、病態メカニズムの解明やヒット化合物の安全性や効果の検証においても、病変が生じる臓器や細胞を解析するだけでは不十分で、全身にどのような影響があるのか包括的に評価する必要がある。また、多臓器連関として知られるような生体臓器同士の相互作用を慎重に解析し、病態メカニズムや薬の安全性・効果を俯瞰的に見極めることが求められる。そうしたことから、現時点で、病気の研究や治療法の開発に動物実験は欠かすことができない。

 さて、話を元に戻して、私の研究テーマについて紹介したい。前述の通り、創薬のスタートラインに立つためには、対象となる疾患の病態メカニズムの解明が必要になる。また、前臨床試験で薬の安全性や効き目を評価する手段も必要になる。そのためには、適切な疾患モデル動物が必要である。私は、日々試行錯誤しながら、希少疾患のモデル動物の研究に取り組んでいる。このコラムでは、筋拘縮型エーラス・ダンロス症候群(mcEDS)と、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)の疾患モデルマウスを用いた最近の研究について紹介したい。

コラム