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We think the future of laboratory animals.

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実験動物のより良い未来を模索する

実験動物のより良い未来を模索する

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2025.02.04
【コラム更新】動物の大きさに関する研究と実験動物(山口大学 加納聖)
2024.11.25
【JCLAM会員限定公開動画】動物福祉と法―欧米における動物実験規制―(長崎大学:本庄萌先生)
2024.11.13
【開催案内】第72回日本実験動物学会総会

新着・人気コラム

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

特集

動物の大きさに関する研究と実験動物

山口大学共同獣医学部発生学・実験動物学研究室
加納 聖

1. はじめに

動物の大きさはどのようなメカニズムで決まっているのでしょうか?

動物の体の大きさを決定するメカニズムは、未だ解明されていない魅力的な生物学的課題です。実験動物としてのほ乳動物においても、マウスのような小型の種からサルなどの霊長類まで、体の大きさには多様性が存在します。また、マウスの系統間でも顕著な大きさの違いがみられます。これらの大きさの違いは一体どのようなしくみで決まっているのでしょうか?

組織レベルで見ると、ほ乳動物の細胞1個のサイズは動物種による顕著な差はほとんどみられません。では、個体の大きさは体を構成する細胞数によって決まるようにも思えますが、その実態は想像するより複雑なようです。

「THE CELL 細胞の分子生物学 第6版」(1)には、「器官および個体の大きさは全体として恒常的に制御されており、重大な外的ストレスが加わっても適切なサイズを感知し、成長や縮小に関するシグナル伝達を調整する能力を有している」と記されています。すなわち、動物の体や器官の大きさは、器官あるいは体の大きさと細胞数の組合せによって、総合的に決定されると考えられています。

このようなシンプルかつ包括的な動物の体の大きさを制御するメカニズムの全貌を明らかにするには、様々な角度からの研究が求められます。実際にこれまで、多様な矮小マウスモデルを用いて、動物のサイズに関する研究が進められてきました。本稿では、私たちが変異マウスを用いて行った、動物の体の大きさに関する研究の一端を紹介したいと思います。

2. 矮小変異マウスを用いた解析

矮小化に関与する遺伝的変異は、成長が不十分とされる矮小マウスにおいてこれまで同定されています。矮小マウスの代表例であるSnellマウス(dw)(2-4)、Amesマウス(df)(4-6)、およびlittleマウス(lit)(4, 7)は、いずれも成長ホルモン(Gh: Growth Hormone)を中心とする、成長に関わる内分泌系の変化に起因する古典的な矮小モデルマウスです。もちろん、マウスに矮小の表現型をもたらすものは、それらの内分泌系を調節する下垂体や視床下部の機能の異常だけではなく、その他の内分泌機構の異常や遺伝的要因によっても引き起こされます。たとえば、染色体結合タンパク質のグループhigh-mobility group(HMG)DNA結合タンパク質の1つであるhmga2遺伝子の変異によるpygmy(pg)(8-13)や、iscoidin Domain受容体2(DDR2)遺伝子の変異によるsmallie(slie)(14)など、トランスジェニックマウスの作出過程で生じた、DNA断片の挿入変異による自然発生的な矮小マウスも確認されています。

さらに近年、N-エチル-N-ニトロソ尿素(ENU)を用いた変異誘発による表現型誘発マウスが注目を集めています(15)。遺伝子地図やDNAサテライトマーカーなどを用いて、特定の表現型の原因遺伝子の塩基配列を特定する方法であるポジショナルクローニングを含むフォワードジェネティックススクリーニング(図1, 2)は、私たちが知りたい体の大きさなどを決定づける因子の複雑な関係性を明らかにするため、表現型と関連する生物学的経路や遺伝的要素を同定するための有力な手段です。本稿では、これらの例として、私たちが解析した2つの矮小マウスモデルSmallie(slie)マウスとfertile peewee(fpw)マウスについて紹介します。

コラム

実験動物としてのウサギ

自然科学研究機構
西島 和俊

皆さんが一度は接したことがあると思われるカイウサギ(英名:rabbit, 学名:Oryctolagus cuniculus)は、元はイベリア半島の地中海沿岸地域に生息していた野生のアナウサギが家畜化されたもので、全世界に広まり、食肉用、毛皮用、愛玩用、観賞用等の多くの品種が作られてきました。欧州等では、ウサギは現在でも食用として一般的に利用されていますが(高蛋白、低脂肪!)、日本においては一部の食肉文化が残る地域(秋田県大仙市周辺)を除いては、愛玩用としての需要が大部分を占めます。ちなみに、日本にも生息するノウサギ(英名:hare, 学名:Lepus brachyurus)はウサギ亜科のアナウサギとは別属の動物で、生態、身体的特徴や染色体数も異なり、両者は交配しないことが知られています。

カイウサギは、実験動物としても古くから利用されてきました。19世紀の後半に、近代細菌学の開祖と呼ばれるルイ・パスツールは、狂犬病に罹ったイヌの脳をすりつぶし、その乳剤をウサギの脳に接種して病原体(ウイルス:当時は“ウイルス”の存在が明らかにされていない)を継代【注1】しました。継代した病原体(弱毒狂犬病ウイルス)をウサギの脊髄に感染させ、その脊髄を乾燥させてすりつぶしたものを乳剤にして人の発症予防に使用しました。これが世界初の狂犬病ワクチンとなります。同じく近代細菌学の開祖とされるロベルト・コッホも1905年にノーベル生理医学賞の受賞業績である結核菌の研究でウサギを用いました。化学療法の創始者といわれるパウル・エールリッヒの下で研究を行った秦佐八郎は、ウサギの陰嚢で継代できる梅毒スピロヘータを用いて実験を重ね、ある砒素化合物(サルバルサン)をウサギの耳介静脈に注射すると陰嚢の潰瘍が改善し、梅毒スペロヘータが消えることを発見しました。サルバルサンは合成物質による世界最初の化学療法剤としてドイツのヘキスト社から市販されました。

このように、ウサギは感染症研究の発展に大きく寄与すると同時に、1890年にはウォルター・ヘップにより、哺乳動物における最初の胚移植の成功例がウサギで報告されるなど[1]、その扱いやすさから様々な動物実験に使用されてきました。近年は、小型で飼育・実験コストが低い、繁殖能が高い、世代交代が早い、微生物学的コントロールの技術が普及している、遺伝・育種学、発生工学技術【注2】が発展している等の理由により、多くの研究領域で小型げっ歯類(マウス、ラット)が実験モデルとして用いられています。実験動物としてのウサギには、マウスに比べると大型で飼育・実験コストが高い、発生工学技術の開発が遅れている、利用できる解析キット・抗体(ウサギを用いて特異抗体を作製することが多い)が少ない等の難点があります。しかし、手ごろな大きさであるため外科処置がしやすい、十分な生物サンプルが採取できる等の利点に加え、ゲノムが解読され、ゲノム編集技術の発達により遺伝子欠損個体が作出できるようになった、オミックス解析【注3】などの解析技術が進歩した等により、ウサギを用いた実験における難点が克服されつつあります。

現在、研究に用いられるウサギの品種としては、アルビノ【注4】の日本白色(JW:Japanese White)やニュージーランド白色(NZW:New Zealand White)、有色のダッチ(Dutch-belted)などが一般的です。JWは、日本でNZWにいくつかの品種を掛け合わせて作出されたと考えられており、国内では実験動物として一般的に使用されますが、世界的にはNZWが広く使用されています。ダッチは病気に強いといわれており、体重が1.5~2 ㎏程度の小型(JW、NZWは3~4 ㎏程度)であることや有色であることが利点となる場合に選択されます。また、大型の実験用アルビノウサギも開発されており、イヌなどに代わる実験モデル動物となることが期待されています[2]。

コラム

ちゃんと向き合いたい、
実験動物のこと。

実験動物というとどんなイメージがあるでしょうか。
動物を実験に活用することへの抵抗感をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実験動物に携わる関係者の間では実験動物を科学的合理性だけでなく、
動物福祉の観点からも向き合い、飼育環境の改善、実験方法や規制の見直しといった工夫を
日々行っております。

当団体では、そういった日々進化する実験動物に関する情報を
様々なコンテンツを通じて発信しております。
当サイトが、実験動物に関心のある方々の理解を促進し、
よりよい動物と人間の共存関係を実現する一助となれば幸いに存じます。

学会案内を見る

About Laboratory Animals実験動物とは

主な実験動物の種類、実験動物の飼育環境などについて説明します。

詳しくはこちら

Mechanism動物実験のしくみ

動物実験がどのように活かされるのか、また、実験環境を取り巻く規制などについて説明します。

詳しくはこちら

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

特集

動物の大きさに関する研究と実験動物

山口大学共同獣医学部発生学・実験動物学研究室
加納 聖

1. はじめに

動物の大きさはどのようなメカニズムで決まっているのでしょうか?

動物の体の大きさを決定するメカニズムは、未だ解明されていない魅力的な生物学的課題です。実験動物としてのほ乳動物においても、マウスのような小型の種からサルなどの霊長類まで、体の大きさには多様性が存在します。また、マウスの系統間でも顕著な大きさの違いがみられます。これらの大きさの違いは一体どのようなしくみで決まっているのでしょうか?

組織レベルで見ると、ほ乳動物の細胞1個のサイズは動物種による顕著な差はほとんどみられません。では、個体の大きさは体を構成する細胞数によって決まるようにも思えますが、その実態は想像するより複雑なようです。

「THE CELL 細胞の分子生物学 第6版」(1)には、「器官および個体の大きさは全体として恒常的に制御されており、重大な外的ストレスが加わっても適切なサイズを感知し、成長や縮小に関するシグナル伝達を調整する能力を有している」と記されています。すなわち、動物の体や器官の大きさは、器官あるいは体の大きさと細胞数の組合せによって、総合的に決定されると考えられています。

このようなシンプルかつ包括的な動物の体の大きさを制御するメカニズムの全貌を明らかにするには、様々な角度からの研究が求められます。実際にこれまで、多様な矮小マウスモデルを用いて、動物のサイズに関する研究が進められてきました。本稿では、私たちが変異マウスを用いて行った、動物の体の大きさに関する研究の一端を紹介したいと思います。

2. 矮小変異マウスを用いた解析

矮小化に関与する遺伝的変異は、成長が不十分とされる矮小マウスにおいてこれまで同定されています。矮小マウスの代表例であるSnellマウス(dw)(2-4)、Amesマウス(df)(4-6)、およびlittleマウス(lit)(4, 7)は、いずれも成長ホルモン(Gh: Growth Hormone)を中心とする、成長に関わる内分泌系の変化に起因する古典的な矮小モデルマウスです。もちろん、マウスに矮小の表現型をもたらすものは、それらの内分泌系を調節する下垂体や視床下部の機能の異常だけではなく、その他の内分泌機構の異常や遺伝的要因によっても引き起こされます。たとえば、染色体結合タンパク質のグループhigh-mobility group(HMG)DNA結合タンパク質の1つであるhmga2遺伝子の変異によるpygmy(pg)(8-13)や、iscoidin Domain受容体2(DDR2)遺伝子の変異によるsmallie(slie)(14)など、トランスジェニックマウスの作出過程で生じた、DNA断片の挿入変異による自然発生的な矮小マウスも確認されています。

さらに近年、N-エチル-N-ニトロソ尿素(ENU)を用いた変異誘発による表現型誘発マウスが注目を集めています(15)。遺伝子地図やDNAサテライトマーカーなどを用いて、特定の表現型の原因遺伝子の塩基配列を特定する方法であるポジショナルクローニングを含むフォワードジェネティックススクリーニング(図1, 2)は、私たちが知りたい体の大きさなどを決定づける因子の複雑な関係性を明らかにするため、表現型と関連する生物学的経路や遺伝的要素を同定するための有力な手段です。本稿では、これらの例として、私たちが解析した2つの矮小マウスモデルSmallie(slie)マウスとfertile peewee(fpw)マウスについて紹介します。

コラム

実験動物としてのウサギ

自然科学研究機構
西島 和俊

皆さんが一度は接したことがあると思われるカイウサギ(英名:rabbit, 学名:Oryctolagus cuniculus)は、元はイベリア半島の地中海沿岸地域に生息していた野生のアナウサギが家畜化されたもので、全世界に広まり、食肉用、毛皮用、愛玩用、観賞用等の多くの品種が作られてきました。欧州等では、ウサギは現在でも食用として一般的に利用されていますが(高蛋白、低脂肪!)、日本においては一部の食肉文化が残る地域(秋田県大仙市周辺)を除いては、愛玩用としての需要が大部分を占めます。ちなみに、日本にも生息するノウサギ(英名:hare, 学名:Lepus brachyurus)はウサギ亜科のアナウサギとは別属の動物で、生態、身体的特徴や染色体数も異なり、両者は交配しないことが知られています。

カイウサギは、実験動物としても古くから利用されてきました。19世紀の後半に、近代細菌学の開祖と呼ばれるルイ・パスツールは、狂犬病に罹ったイヌの脳をすりつぶし、その乳剤をウサギの脳に接種して病原体(ウイルス:当時は“ウイルス”の存在が明らかにされていない)を継代【注1】しました。継代した病原体(弱毒狂犬病ウイルス)をウサギの脊髄に感染させ、その脊髄を乾燥させてすりつぶしたものを乳剤にして人の発症予防に使用しました。これが世界初の狂犬病ワクチンとなります。同じく近代細菌学の開祖とされるロベルト・コッホも1905年にノーベル生理医学賞の受賞業績である結核菌の研究でウサギを用いました。化学療法の創始者といわれるパウル・エールリッヒの下で研究を行った秦佐八郎は、ウサギの陰嚢で継代できる梅毒スピロヘータを用いて実験を重ね、ある砒素化合物(サルバルサン)をウサギの耳介静脈に注射すると陰嚢の潰瘍が改善し、梅毒スペロヘータが消えることを発見しました。サルバルサンは合成物質による世界最初の化学療法剤としてドイツのヘキスト社から市販されました。

このように、ウサギは感染症研究の発展に大きく寄与すると同時に、1890年にはウォルター・ヘップにより、哺乳動物における最初の胚移植の成功例がウサギで報告されるなど[1]、その扱いやすさから様々な動物実験に使用されてきました。近年は、小型で飼育・実験コストが低い、繁殖能が高い、世代交代が早い、微生物学的コントロールの技術が普及している、遺伝・育種学、発生工学技術【注2】が発展している等の理由により、多くの研究領域で小型げっ歯類(マウス、ラット)が実験モデルとして用いられています。実験動物としてのウサギには、マウスに比べると大型で飼育・実験コストが高い、発生工学技術の開発が遅れている、利用できる解析キット・抗体(ウサギを用いて特異抗体を作製することが多い)が少ない等の難点があります。しかし、手ごろな大きさであるため外科処置がしやすい、十分な生物サンプルが採取できる等の利点に加え、ゲノムが解読され、ゲノム編集技術の発達により遺伝子欠損個体が作出できるようになった、オミックス解析【注3】などの解析技術が進歩した等により、ウサギを用いた実験における難点が克服されつつあります。

現在、研究に用いられるウサギの品種としては、アルビノ【注4】の日本白色(JW:Japanese White)やニュージーランド白色(NZW:New Zealand White)、有色のダッチ(Dutch-belted)などが一般的です。JWは、日本でNZWにいくつかの品種を掛け合わせて作出されたと考えられており、国内では実験動物として一般的に使用されますが、世界的にはNZWが広く使用されています。ダッチは病気に強いといわれており、体重が1.5~2 ㎏程度の小型(JW、NZWは3~4 ㎏程度)であることや有色であることが利点となる場合に選択されます。また、大型の実験用アルビノウサギも開発されており、イヌなどに代わる実験モデル動物となることが期待されています[2]。

コラム