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We think the future of laboratory animals.

We think the future of laboratory animals.

実験動物のより良い未来を模索する

実験動物のより良い未来を模索する

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2024.11.25
【JCLAM会員限定公開動画】動物福祉と法―欧米における動物実験規制―(長崎大学:本庄萌先生)
2024.11.13
【開催案内】第72回日本実験動物学会総会
2024.09.26
【コラム更新】実験動物としてのウサギ(自然科学研究機構 西島和俊)

新着・人気コラム

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

特集

実験動物としてのウサギ

自然科学研究機構
西島 和俊

皆さんが一度は接したことがあると思われるカイウサギ(英名:rabbit, 学名:Oryctolagus cuniculus)は、元はイベリア半島の地中海沿岸地域に生息していた野生のアナウサギが家畜化されたもので、全世界に広まり、食肉用、毛皮用、愛玩用、観賞用等の多くの品種が作られてきました。欧州等では、ウサギは現在でも食用として一般的に利用されていますが(高蛋白、低脂肪!)、日本においては一部の食肉文化が残る地域(秋田県大仙市周辺)を除いては、愛玩用としての需要が大部分を占めます。ちなみに、日本にも生息するノウサギ(英名:hare, 学名:Lepus brachyurus)はウサギ亜科のアナウサギとは別属の動物で、生態、身体的特徴や染色体数も異なり、両者は交配しないことが知られています。

カイウサギは、実験動物としても古くから利用されてきました。19世紀の後半に、近代細菌学の開祖と呼ばれるルイ・パスツールは、狂犬病に罹ったイヌの脳をすりつぶし、その乳剤をウサギの脳に接種して病原体(ウイルス:当時は“ウイルス”の存在が明らかにされていない)を継代【注1】しました。継代した病原体(弱毒狂犬病ウイルス)をウサギの脊髄に感染させ、その脊髄を乾燥させてすりつぶしたものを乳剤にして人の発症予防に使用しました。これが世界初の狂犬病ワクチンとなります。同じく近代細菌学の開祖とされるロベルト・コッホも1905年にノーベル生理医学賞の受賞業績である結核菌の研究でウサギを用いました。化学療法の創始者といわれるパウル・エールリッヒの下で研究を行った秦佐八郎は、ウサギの陰嚢で継代できる梅毒スピロヘータを用いて実験を重ね、ある砒素化合物(サルバルサン)をウサギの耳介静脈に注射すると陰嚢の潰瘍が改善し、梅毒スペロヘータが消えることを発見しました。サルバルサンは合成物質による世界最初の化学療法剤としてドイツのヘキスト社から市販されました。

このように、ウサギは感染症研究の発展に大きく寄与すると同時に、1890年にはウォルター・ヘップにより、哺乳動物における最初の胚移植の成功例がウサギで報告されるなど[1]、その扱いやすさから様々な動物実験に使用されてきました。近年は、小型で飼育・実験コストが低い、繁殖能が高い、世代交代が早い、微生物学的コントロールの技術が普及している、遺伝・育種学、発生工学技術【注2】が発展している等の理由により、多くの研究領域で小型げっ歯類(マウス、ラット)が実験モデルとして用いられています。実験動物としてのウサギには、マウスに比べると大型で飼育・実験コストが高い、発生工学技術の開発が遅れている、利用できる解析キット・抗体(ウサギを用いて特異抗体を作製することが多い)が少ない等の難点があります。しかし、手ごろな大きさであるため外科処置がしやすい、十分な生物サンプルが採取できる等の利点に加え、ゲノムが解読され、ゲノム編集技術の発達により遺伝子欠損個体が作出できるようになった、オミックス解析【注3】などの解析技術が進歩した等により、ウサギを用いた実験における難点が克服されつつあります。

現在、研究に用いられるウサギの品種としては、アルビノ【注4】の日本白色(JW:Japanese White)やニュージーランド白色(NZW:New Zealand White)、有色のダッチ(Dutch-belted)などが一般的です。JWは、日本でNZWにいくつかの品種を掛け合わせて作出されたと考えられており、国内では実験動物として一般的に使用されますが、世界的にはNZWが広く使用されています。ダッチは病気に強いといわれており、体重が1.5~2 ㎏程度の小型(JW、NZWは3~4 ㎏程度)であることや有色であることが利点となる場合に選択されます。また、大型の実験用アルビノウサギも開発されており、イヌなどに代わる実験モデル動物となることが期待されています[2]。

コラム

アジアの国々における実験動物獣医師と日本実験動物医学専門医協会(JCLAM)

花井幸次
島根大学 実験動物部門, JCLAM国際渉外委員会委員(IACLAM担当), IACLAM理事(前Secretary/Treasurer) 

科学の進歩のために多くの国で動物実験が行われています。たとえ人間の生活をよりよくするという目的のためであっても、実験動物を命あるものと理解し、福祉的・倫理的、かつ、科学的にも適切に使用・飼養しなくてはならないことは、現在では疑いのないことです。そして、それを達成するために、実験動物の使用・飼養は、実験動物獣医師の責任の下に行われる必要があると世界的に考えられています(関連したコラム「JCLAMが果たす国際貢献」を参照してください)。こうした要求に応えるために日本では日本実験動物医学会(JALAM)と日本実験動物医学専門医協会(JCLAM)が協力して努力してきました。しかしながら、今なお日本では実験動物獣医師の重要性について、多くの人に十分に理解されていないように感じられます。
 2023年9月にAsian Federation of Laboratory Animal Science Associations (AFLAS:アジアの国々の実験動物学会の連合会)の学会が韓国の済州島で開催され、その中で韓国の実験動物医学専門医協会(KCLAM)が共催するシンポジウム「アジアの国々における実験動物獣医師の役割」が行われました。このセッションには、日本を含む11の国と地域から実験動物獣医師の代表者が集まり、各国の動物実験や実験動物の使用・飼養に関する法令や国の指針、それらに記載された実験動物獣医師の役割、実験動物獣医師の研修制度などについてラウンドテーブルとして議論が行われました。この貴重な機会に、私はJCLAMの代表者として参加させていただきました。これからの日本の実験動物に関する規制や管理のあり方、そしてJALAM/JCLAMの活動を検討するための資料として、更に動物実験に関心のある一般の方に世界の現状を知っていただく機会として、このセッションでの議論の内容を簡単に紹介いたします。(なお、このコラムは、2023年12月にJALAM/JCLAM ウェブセミナーで、会員限定で紹介した内容を一般の方向けに紹介するものです。)

1)参加国
 下表にラウンドテーブルに参加した団体とその所属する国と地域を示しました。11の国と地域の内、日本、韓国、インド、フィリピンの代表者は実験動物医学専門医協会からの参加でした。それらの協会はいずれも「実験動物医学専門医を通じて、世界中で実験動物獣医師の役割を広げ、それにより実験動物の福祉と健康を向上させる」ことを目的に活動を行っているIACLAM (The International Association of Colleges of Laboratory Animal Medicine)のメンバー協会です。台湾からも実験動物医学専門医協会(TCLAM)の代表者が参加しましたが、この団体は2023年に立ち上げられ、学会開催時には米国の実験動物医学専門医協会(ACLAM)のサポートを受けて活動準備中とのことで、まだ台湾には専門医制度は整備されていませんでした。インドネシアからは実験動物獣医師団体であるILAVA(Indonesian Laboratory Animal Veterinarians Association)の代表者が参加しました。この組織は、インドネシアの獣医学会の下部組織で、日本のJALAMに近い組織です。そのほかの参加国には、実験動物獣医師の団体はなく、各国の実験動物学会で獣医学的ケアに関する諸問題を取り扱っているとのことでした。以下、理解しやすくするために団体名の代わりに国や地域名を使用して説明します。
 今回参加した国や地域では、実験動物の適切な使用・飼養に関して、上記の台湾の他にも欧米の考え方・システムを取り入れている、あるいは参考にしているところが多いことが窺われました。IACLAMメンバー4か国と台湾以外の6か国の組織のうち、ACLAMの認定専門医が活動の中心にいるのは4か国(中国、シンガポール、インドネシア、タイ)で、そのうち3か国(中国、タイ、シンガポール)は米国実験動物学会(AALAS)のGlobal Affiliate Memberになっています。また、タイとマレーシアはAALAS研修制度を自国の実験動物獣医師の研修として利用しています。スリランカの活動の中心人物は欧州の実験動物学会(FELASA)の実験動物科学のスペシャリスト認定を受けているとのことでした。

2)各国の法令・指針における実験動物獣医師
 参加した団体のすべての国と地域で実験動物の適切な使用・飼養に関する法令あるいは国の指針が整備されていることが示されました。また、ほとんどの国と地域で法令又は国の指針として実験動物獣医師の関与や役割を定めており、定められていないのは日本とスリランカだけのようでした。タイやシンガポールでは、動物実験施設は必ず獣医師を設置しなくてはならないと法令で定めています。しかし、いずれの国あるいは地域も実験動物獣医師の人数が十分というわけではないので、獣医師の存在が法令により必須と規定されたタイやシンガポールのほかは、条件によって必ずしも実験動物獣医師が存在しなくとも動物実験は行えるようです。例えば、動物実験施設の規模や扱う動物種によって扱いを変えるような事例も紹介されました。
 シンガポールには獣医師の養成を行う大学がなく、海外からの獣医師に頼った運用ですが、動物実験施設は登録制で実験動物獣医師が必須であるため、パートタイムでいくつもの施設を受け持つ方もいるようです。

3)日本(JCLAM)の指導力への期待
 JCLAMは、IACLAMの設立メンバーで韓国(KCLAM)とともに実験動物医学専門医の組織として長年活動しており経験が豊富です。また、IACLAMメンバーの中でも米国(ACLAM)に次いで実験動物医学専門医の資格を有する実験動物獣医師が多くいます(2023年12月現在;欧州全体よりも多い)。また、日本では世界の中でもトップクラスと言えるほど動物実験が多く実施されています(Addict Biol. 2021; 26(6): e12991)。こうした背景からと思われますが、今回、日本の動物実験に関する現状やJCLAMの紹介を行った後、多くの質問や期待を示すコメントがあり、アジアの国々で実験動物獣医師が一層活躍できる環境づくりに、日本やJCLAMが期待されていると感じました。特に、実験動物獣医師の技能レベルの向上・研修制度は各国の課題となっており、KCLAMやJCLAMを中心として今回参加した団体が協力して相互に向上できる仕組みが得られればとの意見もありました。
 国際的には、国際獣疫事務局(WOAH; World Organization for Animal Health)の Terrestrial Code, Chapter 7.8や米国ILAR guide (第8版)など主要な指針や規則として、「動物実験施設における実験動物の福祉・健康に関して責任を有するのは獣医師である」とされています。上述のとおり、今回のほとんどの参加国でこの要求に準拠した法令や指針が作成されていました。一方、日本は多くの国と異なり、法令や国の指針として動物実験施設に獣医師が必要とは明記されておらず、その代わりに「実験動物に関して優れた識見を有する者」を動物実験委員会の委員とすること、および実験動物管理者を設置することが必要とされています。今回のセッションでは、この日本の仕組みにも関心が寄せられました。獣医師の数が十分でない中で、動物実験施設で必要とされる獣医学的ケアを満たす方法としてよい一例として受け止めてもらえたようです。
 動物実験の成果を一定のレベルで達成するためには、世界的に認められた基準で実験動物を飼養し、適切な方法で動物実験を実施する必要があります。しかしその一方で、動物実験の管理についても各国の文化・歴史的背景を考慮した独自性を尊重することは重要で、全てを米国のスタイルに統一させる必要はないと思われます。こうした考えからも日本の仕組みに共感を得たのかもしれません。
 とは言え、今の日本の法令や指針では、先に述べたような国際的な獣医師への期待・要求に応えられていません。今後日本が国際社会の中で「適切な動物実験を実施している」と認め続けてもらうために、そしてアジアや世界のリーダーとして日本型システムを示し続けていくためにも、日本の法令や国の指針の中に実験動物獣医師の定義と役割について明記するとともに、現在の仕組みを昇華させていく必要があると考えられました。そしてJALAMやJCLAMはその仕組みにふさわしい高いレベルの実験動物獣医師を育成し、行政とも協力して日本型システムの完成度を高めていく原動力になるべきと考えます。

コラム

ちゃんと向き合いたい、
実験動物のこと。

実験動物というとどんなイメージがあるでしょうか。
動物を実験に活用することへの抵抗感をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実験動物に携わる関係者の間では実験動物を科学的合理性だけでなく、
動物福祉の観点からも向き合い、飼育環境の改善、実験方法や規制の見直しといった工夫を
日々行っております。

当団体では、そういった日々進化する実験動物に関する情報を
様々なコンテンツを通じて発信しております。
当サイトが、実験動物に関心のある方々の理解を促進し、
よりよい動物と人間の共存関係を実現する一助となれば幸いに存じます。

学会案内を見る

About Laboratory Animals実験動物とは

主な実験動物の種類、実験動物の飼育環境などについて説明します。

詳しくはこちら

Mechanism動物実験のしくみ

動物実験がどのように活かされるのか、また、実験環境を取り巻く規制などについて説明します。

詳しくはこちら

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

特集

実験動物としてのウサギ

自然科学研究機構
西島 和俊

皆さんが一度は接したことがあると思われるカイウサギ(英名:rabbit, 学名:Oryctolagus cuniculus)は、元はイベリア半島の地中海沿岸地域に生息していた野生のアナウサギが家畜化されたもので、全世界に広まり、食肉用、毛皮用、愛玩用、観賞用等の多くの品種が作られてきました。欧州等では、ウサギは現在でも食用として一般的に利用されていますが(高蛋白、低脂肪!)、日本においては一部の食肉文化が残る地域(秋田県大仙市周辺)を除いては、愛玩用としての需要が大部分を占めます。ちなみに、日本にも生息するノウサギ(英名:hare, 学名:Lepus brachyurus)はウサギ亜科のアナウサギとは別属の動物で、生態、身体的特徴や染色体数も異なり、両者は交配しないことが知られています。

カイウサギは、実験動物としても古くから利用されてきました。19世紀の後半に、近代細菌学の開祖と呼ばれるルイ・パスツールは、狂犬病に罹ったイヌの脳をすりつぶし、その乳剤をウサギの脳に接種して病原体(ウイルス:当時は“ウイルス”の存在が明らかにされていない)を継代【注1】しました。継代した病原体(弱毒狂犬病ウイルス)をウサギの脊髄に感染させ、その脊髄を乾燥させてすりつぶしたものを乳剤にして人の発症予防に使用しました。これが世界初の狂犬病ワクチンとなります。同じく近代細菌学の開祖とされるロベルト・コッホも1905年にノーベル生理医学賞の受賞業績である結核菌の研究でウサギを用いました。化学療法の創始者といわれるパウル・エールリッヒの下で研究を行った秦佐八郎は、ウサギの陰嚢で継代できる梅毒スピロヘータを用いて実験を重ね、ある砒素化合物(サルバルサン)をウサギの耳介静脈に注射すると陰嚢の潰瘍が改善し、梅毒スペロヘータが消えることを発見しました。サルバルサンは合成物質による世界最初の化学療法剤としてドイツのヘキスト社から市販されました。

このように、ウサギは感染症研究の発展に大きく寄与すると同時に、1890年にはウォルター・ヘップにより、哺乳動物における最初の胚移植の成功例がウサギで報告されるなど[1]、その扱いやすさから様々な動物実験に使用されてきました。近年は、小型で飼育・実験コストが低い、繁殖能が高い、世代交代が早い、微生物学的コントロールの技術が普及している、遺伝・育種学、発生工学技術【注2】が発展している等の理由により、多くの研究領域で小型げっ歯類(マウス、ラット)が実験モデルとして用いられています。実験動物としてのウサギには、マウスに比べると大型で飼育・実験コストが高い、発生工学技術の開発が遅れている、利用できる解析キット・抗体(ウサギを用いて特異抗体を作製することが多い)が少ない等の難点があります。しかし、手ごろな大きさであるため外科処置がしやすい、十分な生物サンプルが採取できる等の利点に加え、ゲノムが解読され、ゲノム編集技術の発達により遺伝子欠損個体が作出できるようになった、オミックス解析【注3】などの解析技術が進歩した等により、ウサギを用いた実験における難点が克服されつつあります。

現在、研究に用いられるウサギの品種としては、アルビノ【注4】の日本白色(JW:Japanese White)やニュージーランド白色(NZW:New Zealand White)、有色のダッチ(Dutch-belted)などが一般的です。JWは、日本でNZWにいくつかの品種を掛け合わせて作出されたと考えられており、国内では実験動物として一般的に使用されますが、世界的にはNZWが広く使用されています。ダッチは病気に強いといわれており、体重が1.5~2 ㎏程度の小型(JW、NZWは3~4 ㎏程度)であることや有色であることが利点となる場合に選択されます。また、大型の実験用アルビノウサギも開発されており、イヌなどに代わる実験モデル動物となることが期待されています[2]。

コラム

アジアの国々における実験動物獣医師と日本実験動物医学専門医協会(JCLAM)

花井幸次
島根大学 実験動物部門, JCLAM国際渉外委員会委員(IACLAM担当), IACLAM理事(前Secretary/Treasurer) 

科学の進歩のために多くの国で動物実験が行われています。たとえ人間の生活をよりよくするという目的のためであっても、実験動物を命あるものと理解し、福祉的・倫理的、かつ、科学的にも適切に使用・飼養しなくてはならないことは、現在では疑いのないことです。そして、それを達成するために、実験動物の使用・飼養は、実験動物獣医師の責任の下に行われる必要があると世界的に考えられています(関連したコラム「JCLAMが果たす国際貢献」を参照してください)。こうした要求に応えるために日本では日本実験動物医学会(JALAM)と日本実験動物医学専門医協会(JCLAM)が協力して努力してきました。しかしながら、今なお日本では実験動物獣医師の重要性について、多くの人に十分に理解されていないように感じられます。
 2023年9月にAsian Federation of Laboratory Animal Science Associations (AFLAS:アジアの国々の実験動物学会の連合会)の学会が韓国の済州島で開催され、その中で韓国の実験動物医学専門医協会(KCLAM)が共催するシンポジウム「アジアの国々における実験動物獣医師の役割」が行われました。このセッションには、日本を含む11の国と地域から実験動物獣医師の代表者が集まり、各国の動物実験や実験動物の使用・飼養に関する法令や国の指針、それらに記載された実験動物獣医師の役割、実験動物獣医師の研修制度などについてラウンドテーブルとして議論が行われました。この貴重な機会に、私はJCLAMの代表者として参加させていただきました。これからの日本の実験動物に関する規制や管理のあり方、そしてJALAM/JCLAMの活動を検討するための資料として、更に動物実験に関心のある一般の方に世界の現状を知っていただく機会として、このセッションでの議論の内容を簡単に紹介いたします。(なお、このコラムは、2023年12月にJALAM/JCLAM ウェブセミナーで、会員限定で紹介した内容を一般の方向けに紹介するものです。)

1)参加国
 下表にラウンドテーブルに参加した団体とその所属する国と地域を示しました。11の国と地域の内、日本、韓国、インド、フィリピンの代表者は実験動物医学専門医協会からの参加でした。それらの協会はいずれも「実験動物医学専門医を通じて、世界中で実験動物獣医師の役割を広げ、それにより実験動物の福祉と健康を向上させる」ことを目的に活動を行っているIACLAM (The International Association of Colleges of Laboratory Animal Medicine)のメンバー協会です。台湾からも実験動物医学専門医協会(TCLAM)の代表者が参加しましたが、この団体は2023年に立ち上げられ、学会開催時には米国の実験動物医学専門医協会(ACLAM)のサポートを受けて活動準備中とのことで、まだ台湾には専門医制度は整備されていませんでした。インドネシアからは実験動物獣医師団体であるILAVA(Indonesian Laboratory Animal Veterinarians Association)の代表者が参加しました。この組織は、インドネシアの獣医学会の下部組織で、日本のJALAMに近い組織です。そのほかの参加国には、実験動物獣医師の団体はなく、各国の実験動物学会で獣医学的ケアに関する諸問題を取り扱っているとのことでした。以下、理解しやすくするために団体名の代わりに国や地域名を使用して説明します。
 今回参加した国や地域では、実験動物の適切な使用・飼養に関して、上記の台湾の他にも欧米の考え方・システムを取り入れている、あるいは参考にしているところが多いことが窺われました。IACLAMメンバー4か国と台湾以外の6か国の組織のうち、ACLAMの認定専門医が活動の中心にいるのは4か国(中国、シンガポール、インドネシア、タイ)で、そのうち3か国(中国、タイ、シンガポール)は米国実験動物学会(AALAS)のGlobal Affiliate Memberになっています。また、タイとマレーシアはAALAS研修制度を自国の実験動物獣医師の研修として利用しています。スリランカの活動の中心人物は欧州の実験動物学会(FELASA)の実験動物科学のスペシャリスト認定を受けているとのことでした。

2)各国の法令・指針における実験動物獣医師
 参加した団体のすべての国と地域で実験動物の適切な使用・飼養に関する法令あるいは国の指針が整備されていることが示されました。また、ほとんどの国と地域で法令又は国の指針として実験動物獣医師の関与や役割を定めており、定められていないのは日本とスリランカだけのようでした。タイやシンガポールでは、動物実験施設は必ず獣医師を設置しなくてはならないと法令で定めています。しかし、いずれの国あるいは地域も実験動物獣医師の人数が十分というわけではないので、獣医師の存在が法令により必須と規定されたタイやシンガポールのほかは、条件によって必ずしも実験動物獣医師が存在しなくとも動物実験は行えるようです。例えば、動物実験施設の規模や扱う動物種によって扱いを変えるような事例も紹介されました。
 シンガポールには獣医師の養成を行う大学がなく、海外からの獣医師に頼った運用ですが、動物実験施設は登録制で実験動物獣医師が必須であるため、パートタイムでいくつもの施設を受け持つ方もいるようです。

3)日本(JCLAM)の指導力への期待
 JCLAMは、IACLAMの設立メンバーで韓国(KCLAM)とともに実験動物医学専門医の組織として長年活動しており経験が豊富です。また、IACLAMメンバーの中でも米国(ACLAM)に次いで実験動物医学専門医の資格を有する実験動物獣医師が多くいます(2023年12月現在;欧州全体よりも多い)。また、日本では世界の中でもトップクラスと言えるほど動物実験が多く実施されています(Addict Biol. 2021; 26(6): e12991)。こうした背景からと思われますが、今回、日本の動物実験に関する現状やJCLAMの紹介を行った後、多くの質問や期待を示すコメントがあり、アジアの国々で実験動物獣医師が一層活躍できる環境づくりに、日本やJCLAMが期待されていると感じました。特に、実験動物獣医師の技能レベルの向上・研修制度は各国の課題となっており、KCLAMやJCLAMを中心として今回参加した団体が協力して相互に向上できる仕組みが得られればとの意見もありました。
 国際的には、国際獣疫事務局(WOAH; World Organization for Animal Health)の Terrestrial Code, Chapter 7.8や米国ILAR guide (第8版)など主要な指針や規則として、「動物実験施設における実験動物の福祉・健康に関して責任を有するのは獣医師である」とされています。上述のとおり、今回のほとんどの参加国でこの要求に準拠した法令や指針が作成されていました。一方、日本は多くの国と異なり、法令や国の指針として動物実験施設に獣医師が必要とは明記されておらず、その代わりに「実験動物に関して優れた識見を有する者」を動物実験委員会の委員とすること、および実験動物管理者を設置することが必要とされています。今回のセッションでは、この日本の仕組みにも関心が寄せられました。獣医師の数が十分でない中で、動物実験施設で必要とされる獣医学的ケアを満たす方法としてよい一例として受け止めてもらえたようです。
 動物実験の成果を一定のレベルで達成するためには、世界的に認められた基準で実験動物を飼養し、適切な方法で動物実験を実施する必要があります。しかしその一方で、動物実験の管理についても各国の文化・歴史的背景を考慮した独自性を尊重することは重要で、全てを米国のスタイルに統一させる必要はないと思われます。こうした考えからも日本の仕組みに共感を得たのかもしれません。
 とは言え、今の日本の法令や指針では、先に述べたような国際的な獣医師への期待・要求に応えられていません。今後日本が国際社会の中で「適切な動物実験を実施している」と認め続けてもらうために、そしてアジアや世界のリーダーとして日本型システムを示し続けていくためにも、日本の法令や国の指針の中に実験動物獣医師の定義と役割について明記するとともに、現在の仕組みを昇華させていく必要があると考えられました。そしてJALAMやJCLAMはその仕組みにふさわしい高いレベルの実験動物獣医師を育成し、行政とも協力して日本型システムの完成度を高めていく原動力になるべきと考えます。

コラム