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動物福祉の記事一覧

動物福祉の評価ツールのご紹介-3 福祉を評価するツールを紹介するサイト2: NC3Rsの Welfare Assessment

前回の「動物福祉の評価ツールのご紹介-2」では、米国農務省USDAの“National Agricultural Library”の中にある“Animal Welfare Assessments” について紹介しました。

今回は、英国のNC3Rs(The National Centre for the Replacement, Refinement & Reduction of Animals in Research)が作成したガイドライン“Welfare Assessment”について紹介します。この文書は、USDAのNational Agricultural Libraryの中では”Welfare Assessments”として示されていて、前回は、このガイドラインが以下の情報を提供していることを報告しました。

●福祉指標の策定

●実際上の侵襲性(物理的および心理的傷害)の評価と報告

●適切な記録の保管方法とそのレビュー

●スタッフのトレーニング

今回は、それぞれの項についてもう少し踏み込んでいきます。

コラム

動物福祉の評価ツールのご紹介-2
〜福祉を評価するツールを紹介するサイト1:USDAのNational Agricultural Library〜

 前回の「動物福祉の評価ツールのご紹介-1」では、本シリーズのイントロダクションとして、AVMA((American Veterinary Medical Association)主催の“学生動物福祉状況の評価コンテスト”を扱いました。

 今回は、福祉を評価するツールを紹介するウェブサイトの第一弾として、アメリカ農務省(USDA, United States Department of Agriculture)の国立農業図書館(National Agricultural Library)に格納されている“Animal Welfare Assessments”のウェブページ(下図)を紹介していきたいと思います。

 “Animal Welfare Assessments”のページはいくつかのパートに分かれ、“Welfare Assessment Training and Resources”(動物福祉の評価のトレーニングとリソース)、“Literature on Welfare Assessment and Indicators”(動物福祉の評価と指標に関する文献へのリンク集)、“Grimace Scale”(グリマス(しかめっつら)スケール)などが掲載されています。以下、掲載されている情報を順番に説明してみます。なお、情報は2023年1月現在のものです。

コラム

動物福祉の評価ツールのご紹介-1
〜AVMA主催の“学生動物福祉状況の評価コンテスト”〜

 動物の福祉状況を良くしていこうと言われていますが、日本では、法律、指針や、日本学術会議のガイドラインにおいて、動物の福祉状況に関する評価方法の、簡便で使いやすい具体的な記述・指標は見当たりません。特に動物実験においては、法規制が求めるところが機関管理なので、具体的な記述や指標を設定することにむずかしいところがあることも理解ができますが、動物実験を管理し施行状況の評価を任される立場の視点から見ると、もう少し情報が欲しいところです。

 実験動物の福祉状況の評価について世界に目を向けると、2014年にTexas A&M UniversityのBonnie V. BeaverとAAALAC InternationalのKathryn Bayneが、“Animal Welfare Assessment Considerations”1)という記事で評価法を公開しています。本コラムでは、数回にわたって、この視点から少し深堀りしてみましょう。

 まず触れたいのは、“北米で、学生を対象とした動物福祉状況の評価コンテストが行われる”ことを紹介したイリノイ大学のニュース2)です。学生だけでなく、私たち実験動物医学の専門家の能力向上にも役立つのではないかと思い、紹介することにしてみました。

AVMAが学生対象に動物福祉評価コンテストを開催

 イリノイ大学のニュースが詳しく紹介していたのは、AVMA(American Veterinary Medical Association)が先月(2022年11月)に開催した、“学生を対象とした動物福祉評価コンテスト:ANIMAL WELFARE ASSESSMENT CONTEST 3)(下図は、その登録募集のチラシのコピー)についてです。本コンテストは、もともとミシガン州立大学(MSU)とパデュー大学の教員が提案し、2002年にMSU、ゲルフ大学、ウィスコンシン大学、パデュー大学の代表4チームが集まって始めた小さなコンテストから始まりました。これが、2014年には、北米各地の学校から合計28チーム、116名の参加者を集めるようになり、いまの形になったとのことです。当初は対象動物を家畜としていましたが、現在では、生産動物、コンパニオンアニマル、実験動物、エキゾチックアニマルにまで拡大しています。今年(2022年)の動物種には、展示用に飼育された鶏(愛玩用)、乳用牛(主に搾乳群に入らないオス)、水族館のタコが含まれます。仮想のしなりを設定は、アニマルシェルターの犬・猫です。参加者は、輸送、住居、健康、トレーニング、退役 、生産、屠殺/安楽死など、各動物種の生活のすべての側面における福祉を評価することになっています。頭足類を評価の対象に入れるところは、AVMAが時代の趨勢を敏感に反映していこうとする姿勢がうかがえます。このような先取の精神には見習う点があります。

 

コラム

文献紹介:フィンランドにおける実験用ビーグルの最初のリホーミング:社会化訓練からフォローアップまでの完全なプロセス

The First Rehoming of Laboratory Beagles in Finland: The Complete Process from Socialisation Training to Follow-up

Laura Hänninen, Marianna Norring

Altern Lab Anim. 2020 May; 48(3): 116-126. doi: 10.1177/0261192920942135

概要
実験動物の運命は、倫理的なジレンマであり、社会的な関心事でもある。EUでは、指令2010/63/EUにより、安楽死ではなく、元実験動物のリホーミングが認められている。しかし、我々の知る限り、フィンランドでビーグルのリホーミングが行われたという報告は過去にない。本研究は、ヘルシンキ大学で初めて行われた実験用ビーグルのリホーミングの過程を説明し、その成功を評価することを目的としている。動物保護団体とヘルシンキ大学の協力のもと、合計16頭の元実験用ビーグルが里親として迎えられた。これらの犬は、動物の認知に関する研究に参加したり、動物用医薬品の開発中に小さな処置を受けたりした経験があります。犬たちがまだ実験室にいた頃、数ヶ月に及ぶ社会化トレーニングプログラムが実施された。里親へのアンケート調査、関係者(研究者、動物保護団体、動物管理者)へのインタビューを通じて、社会化トレーニングプログラム、若い犬と高齢の犬の再導入の比較成功、里親の選定基準、新しい飼い主への再導入の成功など、全体のプロセスが評価された。大半の犬は新しい家庭環境によく適応した。実験的な使用を終えた時点で安楽死させることは不必要であり、欧州指令の目的に反する可能性があった。

フィンランドでは、科学的または教育的目的のための動物の使用を対象とする国内法(Act 497/2013)があり、科学的目的のために使用される動物の保護に関する欧州指令2010/63/EUに基づいています。
EU指令は実験動物の運命に関わり、すべての欧州機関に実験犬が実験用途に不要になった後にリホーミングする機会を与えています。
Article 19では、実験に使用された動物は、動物の健康状態がそれを許し、公衆衛生、動物の健康、環境に対する危険がない場合、一定の条件を満たせば、リホーミングすることができるとしています。また、EU指令の前文26には、「手続きの最後に、動物の将来に関して、動物福祉と環境への潜在的なリスクに基づいて、最も適切な決定がなされるべきである。福祉が損なわれるような動物は、殺処分されるべきである」との記述もあります。
したがって著者らは、暗黙の了解として福祉が損なわれない動物は殺処分されるべきではないと考えています。
本研究は、フィンランドで行われた実験用ビーグルの最初のリホーミングと社会化プログラムについて述べたものです。

コラム

【Webinar】マウスの環境エンリッチメントと老齢モデルコロニーの維持(EPトレーディング株式会社提供)

実験動物の特殊飼料やエンリッチメント、水分・栄養補給用ジェルなどを取り扱っているEPトレーディング株式会社(https://www.eptrading.co.jp/index.html)に、JALAMのために日本語字幕付きWebinar動画をご提供いただきました。

AALAS(米国実験動物学会)2020で行った、ジャクソンラボラトリー Dr.Schile による「環境エンリッチメントと繁殖」、「老齢モデルコロニー の維持」の解説ビデオ(51分)

https://www.eptrading.co.jp/service/ssp/video.html

コラム

文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査

A semi-structured questionnaire survey of laboratory animal rehoming practice across 41 UK animal research facilities

Tess Skidmore, Emma Roe

PLoS One. 2020 Jun 19;15(6):e0234922. doi: 10.1371/journal.pone.0234922.

概要
実験動物が福祉を損なうことなく実験を乗り切った場合、その将来について交渉しなければならない。リホーミングが考慮されるかもしれない。この論文では、英国の施設における動物のリホーミングの受け入れ状況と、リホーミングするかしないかの判断に関わる道徳的、倫理的、実用的、規制的な考慮事項を示す研究結果について報告している。本研究では、英国の研究施設でリホーミングされている動物の数や種類、リホーミングを行っている主な動機、リホーミングを行っていない施設にとっての障壁などを理解することで、広く知られている文献のギャップを解消することを目的としています。英国にある約160の研究施設のうち、41施設がアンケートに回答し、回答率は約25%でした。その結果、リホーミングは日常的に行われていることが示唆されましたが、その数は少なく、2015年から2017年の間にリホーミングされたとされる動物はわずか2322頭でした。少なくとも10施設のうち1施設はリホーミングを行っていることになります。ある種の動物(主に猫、犬、馬)が他の種(げっ歯類、農耕用動物、霊長類)よりも明らかにリホーミングされることを好む傾向があります。実際、実験室で飼育されている動物の94.15%がげっ歯類であるにもかかわらず、2015年から2017年の間にリホーミングされたことがわかっている動物の5分の1以下(19.14%)を占めています。リホーミングの主な動機は、スタッフの士気を高め、施設の倫理的プロファイルをポジティブにすることです。障壁となるのは、再帰の際の動物の福祉に対する懸念、動物に対する科学的な需要が高く、リホーミングの対象となる動物が少ないこと、そして、特定の動物(主に遺伝子組み換え動物)がリホーミングに適していないことです。この研究の結果は、リホーミングを選択している施設だけでなく、現在リホーミングを行っていない施設にも役立つものです。リホーミングを推進することで、実験動物の生活の質を向上させ、施設のスタッフが殺処分の道徳的ストレスを克服し、実験動物の運命に関する社会的関心に応えることができるという利点があります。英国の研究施設の視点から見たリホーミングについての理解が得られて初めて、適切な政策や支援が可能になります。

英国内務省の定義によると、リホーミングとは、”関連する保護対象動物を施設から、Animals (Scientific Procedures) Act に基づく施設ではないその他の場所に移動させること”とされています。そして、その「場所」としては、農場、水族館、動物園、または個人宅が選ばれています。

調査の結果、2015年から2017年の間に、英国の約160の施設のうち、少なくとも19施設、11.9%がリホーミングをしていました。リホーミングされた数は2322匹で、対象となる動物種に大きく依存していました。

実験室で飼育されている動物の94.15%がげっ歯類であるにもかかわらず、リホーミングされたとされる動物の5分の1以下(19.14%)であり、逆に、鳥類、猫、犬、馬、両生類、農業動物は、飼育されている動物のわずか5.84%を占めるにもかかわらず、リホーミングされた全種の80.86%を占めていました。

特集

文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?観察テストと新しい飼い主へのアンケート調査の結果

How do rehomed laboratory beagles behave in everyday situations? Results from an observational test and a survey of new owners

Dorothea Döring, Ophelia Nick, Alexander Bauer, Helmut Küchenhoff, Michael H Erhard

PLoS One. 2017 Jul 25; 12(7): e0181303. doi: 10.1371/journal.pone.0181303. eCollection 2017.

概要
実験用の犬が一般家庭に戻されると、犬の生活環境は大きく変化します。慣れ親しんだ研究施設の限られた環境を離れ、新しい家庭では生物や無生物の様々な刺激に遭遇します。文献によると、リホームの経験はほとんど肯定的であるとされていますが、日常的な状況における犬の科学的な観察は行われていません。そこで我々は、74頭の実験用ビーグルを用いて、新しい家に迎え入れてから6週間後に観察テストを行った。このテストには標準化されたタスクと要素が含まれており、犬たちは新しい飼い主との具体的なやりとりや散歩中に観察されました。さらに、この74頭と71頭の飼い主は、里親になってから1週間後と12週間後に、標準化された電話インタビューに参加し、日常的な場面での犬の行動について質問に答えました。観察テストでは、犬は人間や犬に対してほとんど友好的に振る舞い、飼い主が操作している間も寛容で、散歩中は交通量が多くてもリラックスしていました。80%(n=71のうち)の犬は、リードを引っ張らずに行儀よく歩いていた。インタビューによると、大多数の犬が望ましい、友好的でリラックスした行動を示しており、アンケート結果は犬と飼い主の絆を反映していた。様々な要因(年齢、性別、出身地など)の影響を混合回帰モデルで分析したところ、過去2回の行動テストとインタビューの結果を確認することができました。具体的には、研究施設で飼育されていた犬は、研究施設が商業的な実験用犬のブリーダーから購入した犬よりも、有意に良いスコアを示した(p = 0.0113)。本研究の結果は、リホームされたビーグルたちが新しい生活環境にうまく適応できたことを示している。

ドイツでは、多くの企業や大学が長年にわたってリホーミングを促進しており、ドイツの動物福祉法は、脊椎動物の殺害を「正当な理由なしに」罰せられる犯罪と宣言しています。ドイツのほとんどの犬は、専門の動物福祉団体を通じてリホームされています。

本研究では、ドイツの製薬会社(Bayer AG, Leverkusen, Germany)で飼育されている145頭の実験用ビーグルが研究対象となりました。平均年齢±標準偏差は2.2±1.5歳、生後2か月から7.9歳のオス65頭、メス80頭でした。研究施設内の6m2の室内犬舎で、主に単独で飼育されており、少なくとも1日1回は屋外のランを利用していました。犬舎には、寝床、木製の噛みつき棒、犬用のおやつが用意されており、また、犬たちは採血、一般的な検査、経口投与、ワクチン接種などの医療行為に慣れていました。

インタビューの結果では、大多数の新しい飼い主は、愛犬が自分との接触を求め、撫でられるのが好きで、グルーミングも喜んで許可し、ほとんどの犬は、子供や他の犬を含む他の家族に対して友好的であると報告されました。犬たちは獣医師に対しても寛容で、通行人や見知らぬ子供に対する犬の行動は友好的で慎重でした。

見知らぬ子供、飼い猫、獣医師に対する行動だけが、時間の経過とともに若干悪化したとのことですが、時間の経過とともに望ましい行動の出現率が増加しており、犬は日常生活に適応し、飼い主との情緒的な結びつきが見られたと考えられています。

特集

文献紹介:実験動物獣医師の生物医学研究におけるマウスの福祉に対する調査

A Survey of Laboratory Animal Veterinarians Regarding Mouse Welfare in Biomedical Research.
Marx, James O ; Jacobsen, Kenneth O ; Petervary, Nicolette A ; Casebolt, Donald B
JAALAS, Volume 60, Number 2, March 2021, pp. 139-145(7)
doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-20-000063

【概要】
研究用動物の福祉の質は、その動物から生み出される科学的成果の質に否応なく結びついている。マウスは生物医学研究において最もよく用いられる哺乳動物種であるが、将来の進歩を促すためにどのような要素を考慮すべきかについては、ほとんど情報がない。この問題を解決するために、米国実験動物獣医師会(ASLAP)の動物福祉委員会は、実験動物獣医師を対象に、マウスの福祉に関する意見を聞き、生物医学研究における動物福祉に大きく影響する5つの要因(飼育、臨床ケア、実験使用、規制監督、訓練)の役割を検討するための調査を行った。調査の結果、95%の獣医師がマウスの福祉について「許容できる」から「素晴らしい」と評価しましたが、改善すべき点も残されていた。これらの分野には以下が含まれる。

1)実験を行う研究者のトレーニング
2)実験操作によって痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングの頻度
3)痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングに機関の獣医師スタッフを含めること
4)マウスに提供される環境エンリッチメントの継続的な改善
5)研究室内および機関内の他の研究グループでの再発を防止するために、IACUC(動物実験委員会)がコンプライアンス違反の事例に完全に対処する能力があること
6)病気や怪我をしたマウスの検査、病気の診断、治療の処方を獣医師以外の人に頼っていること

アメリカの動物実験規制は自主管理を柱とする体制であり、日本の動物実験に関する法制度の基本的な枠組みもこの自主管理制度を参考にしているとされています。しかし、これらの法的根拠となる動物福祉法(Animal Welfare Act; AWA)の対象動物には動物実験で多く用いられるマウスやラットなどが含まれておらず、どのように動物福祉が担保されているか外からは分かりづらい問題がありました。そこでASLAPはマウスの福祉が実際にはどうなっているか、会員にアンケートを実施したのがこの論文の趣旨です。

今回の調査では、95%の獣医師がマウスの福祉全般を「許容できる」から「優れている」と評価した一方で、半数の獣医師が、ケアの水準向上を正当化する科学的データがないことが、研究用マウスの福祉向上の主な制約になっていると考えているとのことです。特に、環境エンリッチメントの評価にばらつきがあるのは、環境エンリッチメントの基準を裏付ける実験データがないことが原因と考えられています。

また、実験手順によって痛みや苦痛を感じる可能性のある動物の観察頻度にも懸念があることが報告されました。動物福祉に満足していると回答した獣医師の多くは、観察頻度を1日あたり3回以上に設定しているのに対し、動物福祉が不十分であると回答した獣医師の多くは、観察頻度が1日1回以下であると回答しています(下表)。満足度は必ずしもケアの回数に比例するわけではありませんが、獣医師の満足度が高い施設では相対的に観察頻度が高くなっているようです。このように、動物に対して単にケアするだけではなく、どれだけ手厚くケアができるかということも動物福祉の重要な要素になっています。

観察頻度に対する回答(上記論文から引用)

日本国内では比較的小規模施設の多くが、マウスやラットのみを飼育している施設であり、実験動物獣医師などの専門家を配置することが出来ずにいます。これらの施設にどうやって動物福祉の考え方を浸透させることができるか、関係者は知恵を絞って考える必要がありそうです。

コラム

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