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We think the future of laboratory animals.

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実験動物のより良い未来を模索する

実験動物のより良い未来を模索する

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2021.09.03
JALAMシンポジウムおよびJCLAMフォーラムの開催について
2021.09.01
JALAM News Letter No.57 / 2021.9を掲載しました。
2021.08.02
2021年度ウェットハンド研修会(第2回)のお知らせ

新着・人気コラム

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

最近では、酪農学園大学から引き取られた実験犬「しょうゆ」の里親譲渡の話題もあり、こちらも「実験動物の里親制度」についてのコラムですでに紹介されていますが、国内でも少なからず実験動物を安楽死せずに余生を送らせるリホーミングの活動が行われています。リホーミングは動物の福祉を考えること、また実施者の心理的負担を軽減させるという点でとても有意義なことではありますが、同時に、実験動物が社会の目に触れ、動物実験に関心をもつきっかけとなるということは、社会的に適正な動物実験を考える上でもとても重要なことでもあるのではないでしょうか。

ここでは実験動物のエンドポイントとして安楽死に代わる選択肢としての可能性があるリホーミングについて、実際にリホーミングをされた方からの寄稿を交えて、文献を紹介します。多くの方が実験動物に関心を持ち、適正な動物実験を考えるきっかけとなればと思います。

寄稿:実験動物の印象革命<前編>
寄稿:実験動物の印象革命<中編>
寄稿:実験動物の印象革命<後編>

国内で実験用ビーグルのリホーミングに取り組むM社Aさんのご紹介で、実際に実験犬を引き取られたKさんからのお話を聞く機会がありました。ぜひ多くの方にも紹介させて頂きたい内容と思いましたので、ご厚意により、この場に寄稿いただきます。

文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?

製薬企業から引き取られた実験犬の、その後に関するドイツでの調査です。

文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査

実験動物のリホーミングに関する英国での実態調査です。

特集

【会員限定公開】動物実験手技動画(株式会社ケー・エー・シー提供)

株式会社ケー・エー・シーにご協力いただき、JALAM会員限定で動物実験手技動画を公開することになりました。

なお、本企画の掲載動画は、株式会社ケー・エー・シーの動物実験委員会が定める基準に則り、厳正な審査の基に作成されております。動画の閲覧にあたっては、以下の注意事項をお守りいただけますようお願い申し上げます。
1.掲載動画の内容の一部又は全部を無断でダウンロード、録画、録音、撮影するなどの行為はおやめ下さい。
2.掲載動画の著作権及び著作者人格権は、株式会社ケー・エー・シーに帰属します。

動物実験手技動画-投与編

動物実験手技動画-採血編

動物実験手技動画-その他

動画視聴後は以下のアンケートにもご協力ください。

https://docs.google.com/forms/d/1AGAnGqnkss9XWciqatlBkcJTOHXtxofaR1AAbJPHg3U/edit

特集

文献紹介:フィンランドにおける実験用ビーグルの最初のリホーミング:社会化訓練からフォローアップまでの完全なプロセス

The First Rehoming of Laboratory Beagles in Finland: The Complete Process from Socialisation Training to Follow-up

Laura Hänninen, Marianna Norring

Altern Lab Anim. 2020 May; 48(3): 116-126. doi: 10.1177/0261192920942135

概要
実験動物の運命は、倫理的なジレンマであり、社会的な関心事でもある。EUでは、指令2010/63/EUにより、安楽死ではなく、元実験動物のリホーミングが認められている。しかし、我々の知る限り、フィンランドでビーグルのリホーミングが行われたという報告は過去にない。本研究は、ヘルシンキ大学で初めて行われた実験用ビーグルのリホーミングの過程を説明し、その成功を評価することを目的としている。動物保護団体とヘルシンキ大学の協力のもと、合計16頭の元実験用ビーグルが里親として迎えられた。これらの犬は、動物の認知に関する研究に参加したり、動物用医薬品の開発中に小さな処置を受けたりした経験があります。犬たちがまだ実験室にいた頃、数ヶ月に及ぶ社会化トレーニングプログラムが実施された。里親へのアンケート調査、関係者(研究者、動物保護団体、動物管理者)へのインタビューを通じて、社会化トレーニングプログラム、若い犬と高齢の犬の再導入の比較成功、里親の選定基準、新しい飼い主への再導入の成功など、全体のプロセスが評価された。大半の犬は新しい家庭環境によく適応した。実験的な使用を終えた時点で安楽死させることは不必要であり、欧州指令の目的に反する可能性があった。

フィンランドでは、科学的または教育的目的のための動物の使用を対象とする国内法(Act 497/2013)があり、科学的目的のために使用される動物の保護に関する欧州指令2010/63/EUに基づいています。
EU指令は実験動物の運命に関わり、すべての欧州機関に実験犬が実験用途に不要になった後にリホーミングする機会を与えています。
Article 19では、実験に使用された動物は、動物の健康状態がそれを許し、公衆衛生、動物の健康、環境に対する危険がない場合、一定の条件を満たせば、リホーミングすることができるとしています。また、EU指令の前文26には、「手続きの最後に、動物の将来に関して、動物福祉と環境への潜在的なリスクに基づいて、最も適切な決定がなされるべきである。福祉が損なわれるような動物は、殺処分されるべきである」との記述もあります。
したがって著者らは、暗黙の了解として福祉が損なわれない動物は殺処分されるべきではないと考えています。
本研究は、フィンランドで行われた実験用ビーグルの最初のリホーミングと社会化プログラムについて述べたものです。

対象となった実験用ビーグル犬はヘルシンキ大学が所有する16頭で、すべての犬は商業ブリーダー(オランダのハーラン社)から購入したもので、高齢グループは生後6カ月から8歳まで、若年グループは生後4カ月から2歳まで研究施設で飼養されました。どちらも避妊・去勢済みの8頭(雌2頭、雄6頭)でした。
これらの犬は、犬での実験が必要な動物用医薬品の開発研究として、非侵襲的動物認知研究と犬用の新しい鎮静剤に関する臨床獣医学研究に使用されていました。実験処置としては、前者の研究では、ポジティブオペラント条件付け法によって、コンピュータ画面上の視覚刺激をじっと観察し、脳波や眼球運動を非侵襲的に記録するように訓練されました。後者の研究では、数回の鎮静処置が行なわれ、血液の採取、呼吸と心臓の機能のモニターが実施されました。

社会化トレーニングは、犬を研究施設の外に連れ出しさまざまな路面やリードでの歩行に慣れさせること、屋外での排便・排尿を促すこと、犬不慣れな人を施設に迎え入れることから構成されていました。
高齢犬は1回あたり約1時間、半年間で25〜35回散歩させました。若齢犬には、4ヶ月の準備期間を設け、研究施設に隣接するフェンス付きのパドックで監視下での遊びや休憩も含めて個別にトレーニングが実施されました。また、犬の反応や初対面の人に対する心構えも評価しています。
このトレーニングには、アニマルケアテイカー、研究者、動物保護団体のスタッフ、犬の訓練士など、多くの人が関わりました。また、動物保護団体とその地域会員組織がヘルシンキ大学とともに新しい里親探しを行い、それぞれの犬の所有権を大学から動物保護団体に、そして動物保護団体から新しい所有者に譲渡する契約が結ばれました。残念ながら、最後の1頭となった老犬には不安な行動が見られたことから、慣れ親しんだ8頭の群れがないまま施設にとどまることになりました。

アンケートはリホーミング後1ヶ月、半年〜1年、4年の3回実施され、回答したすべての飼い主が圧倒的に新しい犬を溺愛し、その性格の良さを賞賛していました。人間から攻撃されたとの報告はありませんでした。しかし中には、初めての人や状況、音、知らない犬、飼い主との別れ、車での移動などに対して恐怖心を示す犬もおり、リホーミングから4年後の最終アンケートでは、ほぼすべての犬が分離不安を抱えていることが明らかになりました。

全体的な結果としては、行動上の問題はほとんど報告されず、親しい人や家族の他の犬に対して攻撃的であったり、遊びの最中に噛みついたりする犬もいませんでした。また、爪切りなど、犬の扱いに困難はなかったと報告されています。ただし、最終的なアンケートでは、ほとんどの飼い主がトイレのしつけが不十分であると答えていました。

動物保護団体への聞き取り調査によると、これらの犬は小型で穏やかで扱いやすいため比較的容易にリホーミングできると考えていたようです。ところが、その後は無事に再飼育されましたが、若齢犬のうち3頭(2件の里親から)は動物保護団体に戻されました。また、4年間の期間中には老齢犬4頭、若齢犬1頭が安楽死されました。4頭は健康上の理由、1頭は行動上の問題が続いたことが理由でした。

   

リホーミング後のビーグルの生活において、トイレのしつけに問題があるようでしたが、リホーミングの結果は他の文献紹介にもあるように良好な結果でした。
リホーミングに向けて半年から10カ月のトレーニングが実施され、万全な準備がなされたのではないかと推察できますし、元々非侵襲的な動物認知研究に用いられておりトレーニングに慣れているビーグルであったようにも推察されました。しかし、残念ながら1頭がリホーミングを断念されたこと、3頭が一度里親から返却されたことからは、リホーミングの難しさも垣間見えるのではないかと思います。
分離不安には里親での飼育方法も関連しているとは思いますが、新たな環境においてもストレスを溜め込んでしまう状況もあるのかもしれません。さらに、文化の違いもあるとは思われますし、理由もありますが、リホーミングから4年の間に5頭のビーグルに安楽死が選択されたことも憂慮される点かもしれません。
著者らはさらに家畜など他の多くの動物種のリホーミングの機会もあったことを述べていますが、回答としては、リホーミングのアイデアは気に入っているものの、他の動物にとっては今回のケースで使用された社会化プログラムは、あまりにも計画が不十分で、性急かつ無秩序であったとの見解が示されたと述べています。

リホーミングは実験動物の余生を考える素晴らしい方法ではありますし、著者らもリホーミングを推奨してはいますが、この文献では課題として憂慮されるプロセスも赤裸々に示されており、安易に進めることがまた新たな問題を生じさせてしまう可能性も示唆されます。リホーミングにおいては各動物種に最適な方法を慎重に選択することが必要でしょう。ある意味リホーミングではなくとも、残された1頭のように、実験施設や研究者自身が最初の飼養者としての責任を持ち、アニマルサンクチュアリのように実験施設や自宅での終生飼育を考えるといったことも実験動物の余生を考える選択肢の一つとなるようにも思います。

また 大変興味深いことに、今回リホーミングの対象となった認知研究について、著者らはビーグルを用いて実施していた実験法を家庭犬に用いることで、その後実験用ビーグルの必要性がなくなったと報告していました。動物実験とは通常実験動物を用いて行われるものではありますが、実験法を確立した後の実験には実験動物が必要なくなったということです。こうした動物実験の代替の可能性もあるのかもしれません。

もちろん研究対象は目的に拠るものですが、実際に動物用医薬品の開発でも医薬品の開発でも、ボランティアによる治験や臨床試験が行われます。動物実験とは実験動物を用いて実験をするという側面だけではなく、動物のことを研究して理解を深めてゆくことでもあります。動物の余生についても研究を重ね、多様な選択肢の中で考えを巡らせてみることは、改めて社会として適切な動物実験を実施するとは何かということを考える材料にもなるかもしれません。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

マウスの系統間、亜系統間にみられる遺伝子型、表現型の違い〜 C57BL/6JとC57BL/6Nとの比較を中心に

 マウスは世界で最も多く用いられている実験動物です。実験用マウスには数多くの系統が樹立されており、なかでも20代以上兄妹交配を繰り返して作出された「近交系」と総称される系統は、個体間の遺伝的背景が均一であるため、実験成績にばらつきがないと予想されるので優れた実験動物であると考えられます。近交系マウスのうち最も多用される系統の一つがC57BL/6です。C57BL/6系統は樹立後の早い段階で異なる2施設で維持されはじめ、現在では2つの亜系統グループを形成しています。それぞれの亜系統グループの間では外見上の区別はつきませんが、詳しく比較すると遺伝子型や表現型に違いが見られるため、「似て非なる」「独立した」系統であるとも言えます。今回はいくつかの事例を引用しつつ、C57BL/6由来の亜系統に関してご紹介したいと思います。

 C57BL/6は、C. C. リトルがA. E. ラスロップから1921年に入手したマウスから樹立したC57BL系統に由来します[1]。C57BL/6系統は、1948年にアメリカのジャクソン研究所に導入され維持されてきましたが、1951年にはアメリカNIHに導入され、それぞれC57BL/6J, C57BL/6Nとして系統樹立されました。その後様々な施設に導入されて育成・維持された結果、現在ではC57BL/6JおよびC57BL/6Nからそれぞれ数多くの亜系統が派生しました(図1)。C57BL/6Jはマウス全ゲノム配列の決定に最初に用いられた系統であり、C57BL/6Nとともに一般的な動物実験のみならずトランスジェニック動物やノックアウト動物を作製する際にも頻繁に用いられています。

 種々の施設で独立して維持されているC57BL/6亜系統の間では、年月とともにゲノム配列の多型が蓄積されていると予想されます。岡山理科大学の目加田和之先生らは、イルミナ社のマウスSNPジェノタイピングアレイを用いたり、マウスゲノムの一塩基多型(SNP)データベースを比較することによってC57BL/6Jグループの亜系統とC57BL/6Nグループの亜系統の間に存在するSNPを検索し、さらに一部はゲノムシーケンスを行いSNPの存在を明らかにしました [2, 3]。その結果、C57BL/6J(ジャクソン研究所で維持されてきたC57BL/6J系統)とC57BL/6NJ(ジャクソン研究所で維持されてきたC57BL/6N系統)の間に存在するSNPのうち、277箇所を同定しました。その中には翻訳されるタンパク質のアミノ酸置換を伴う10箇所のSNPが含まれていました。さらに、これらのSNPはC57BL/6J亜系統の間においても、さらにはC57BL/6N亜系統間においてもそれぞれ保存の程度に差が見られ、亜系統の分岐の年代等によってSNPの蓄積度に違いがあることが明らかになったとのことです。

 C57BL/6JとC57BL/6Nの間にはタンパク質のアミノ酸置換を伴うSNPが存在しますが、それ以外にも一部の遺伝子において欠失の有無に差がみられます。例えば、ミトコンドリア内膜に存在し、抗酸化反応に関与する酵素タンパク質NADトランスヒドロゲナーゼタンパク質をコードするNnt遺伝子は、C57BL/6Jグループの亜系統ではexon 7-11が欠失しており、遺伝子機能が喪失しています [4]。 

 C57BL/6JとC57BL/6Nとの間にある遺伝子上の差違は、結果として表現型にも違いとして現れることは十分に予想されます。そして実際、数多くの表現型の差違がこれまでに報告されています。中には、表現型の違いが実験成績の解釈にまで影響を及ぼした例もあります。例えば、一般的に広く普及している解熱鎮静薬であるアセトアミノフェンは、過剰摂取により肝障害が起こることがあります。アメリカNIHのある研究グループが、MAPキナーゼカスケードに属するc-Jun N-terminal kinase 2 (JNK2)のノックアウトマウスを用いて、アセトアミノフェン誘導性肝障害に対するJNK2の役割について解析していました。彼らはジャクソン研究所からJNK2ノックアウトマウスを「C57BL/6Jを用いて作製された」マウスとして入手しました。そして、JNK2ノックアウトマウスは野生型マウス(C57BL/6J)よりも肝障害の程度が高かったことから、JNK2は肝障害に対して保護的な作用をもたらすと考えました [5]。ところが、他の研究グループからJNK2ノックアウトマウスは野生型マウスよりも肝障害の程度が低くなることが報告されました [6]。そこで、使用したJNK2ノックアウトマウスのNnt遺伝子を調べてみると、C57BL/6J系統に見られる欠失が存在しなかったそうです。さらに、C57BL/6J、C57BL/6N、および彼らが使用したJNK2ノックアウトマウスをそれぞれアセトアミノフェンを投与すると、下記の順序で肝障害の程度に有意差がみられたそうです。

           C57BL/6J < JNK2ノックアウトマウス < C57BL/6N

 すなわち、彼らが用いたJNK2ノックアウトマウスはC57BL/6JではなくC57BL/6Nを背景に持ち、コントロール系統としてC57BL/6Jを使用していたために、JNK2ノックアウトマウスはアセトアミノフェン誘導性肝障害がコントロールマウスより増悪していたように見えていたのです。従って、はじめは「JNK2はアセトアミノフェン誘導性肝障害に対して保護的な作用をもたらす」という結論を得たものの、実際のところは「JNK2は肝障害に対して増悪的な作用をもたらす」という結論が正しく、これは他の研究グループと一致したということです [7]。

 以上、C57BL/6JとC57BL/6Nの遺伝子型・表現型の違いについて簡単にご紹介致しました。C57BL/6JとC57BL/6Nはともに多くの亜系統があり、それぞれのグループの間に遺伝子型、表現型の違いが見られることがあります。C57BL/6JとC57BL/6Nは非常に多くの動物実験に使用されており、遺伝子改変動物の作製にも頻繁に利用されています。由来も同一で系統名もほとんど同じマウスですので、2つの系統を混同してしまうことが起こり得るかと思います。コントロール(野生型)マウスとして異なる亜系統のマウスを使用してしまい、そのことが結果として研究の結論にまで影響を及ぼす可能性があることなどは、頭の片隅に置いておいても良いのではないかと思います。また、過去の研究報告と自らの実験成績を比較・検討する際にも、用いた実験動物の系統については十分注意する必要があるでしょう。本webサイトのコラムに動物研究の報告のための指針である「ARRIVEガイドライン」に関する記事が掲載されております。ARRIVEガイドラインでは、実験動物の種・系統・亜系統・性別・年齢・体重などの情報を研究報告に記載することが推奨されております(項目8:実験動物)。用いた実験動物の詳細を明示しておくことは、研究データの有益性や利用性を向上させ、世界中の多くの研究者にとって多大な利益につながることが期待されることでしょう。

 (本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

参考文献

[1] Russell ES. Genetic origins and some research used of C57BL/6, DBA/2, and B6D2F1 mice. in: Gibson DC, Adelman RC, Finch C. editors. Development of the rodent as a model system of aging. Bethesda: DHEW Publ No. (NIH) 79–161; 1978. pp. 37–44.

[2] Mekada K and Yoshiki A. Substrains matter in phenotyping of C57BL/6 mice. Exp Anim. 2021. 70:145-160. doi: 10.1538/expanim.20-0158.

[3] Mekada K, Hirose M, Murakami A, Yoshiki A. Development of SNP markers for C57BL/6N-derived mouse inbred strains. Exp Anim. 2015. 64: 91–100. doi: 10.1538/expanim.14-0061.

[4] Huang TT, Naeemuddin M, Elchuri S, Yamaguchi M, Kozy HM, Carlson EJ, Epstein CJ. Genetic modifiers of the phenotype of mice deficient in mitochondrial superoxide dismutase. Hum. Mol. Genet. 2006. 15: 1187–1194. doi: 10.1093/hmg/ddl034.

[5] Bourdi M, Korrapati MC, Chakraborty M, Yee SB, Pohl LR. Protective role of c-Jun N-terminal kinase 2 in acetaminophen-induced liver injury. Biochem Biophys Res Commun. 2008. 374(1):6-10. doi: 10.1016/j.bbrc.2008.06.065.

[6] Nakagawa H, Maeda S, Hikiba Y, Ohmae T, Shibata W, Yanai A, Sakamoto K, Ogura K, Noguchi T, Karin M, Ichijo H, Omata M. Deletion of apoptosis signal-regulating kinase 1 attenuates acetaminophen-induced liver injury by inhibiting c-Jun N-terminal kinase activation. Gastroenterology. 2008. 135(4):1311-21. doi: 10.1053/j.gastro.2008.07.006.

[7] Bourdi M, Davies JS, Pohl LR. Mispairing C57BL/6 substrains of genetically engineered mice and wild-type controls can lead to confounding results as it did in studies of JNK2 in acetaminophen and concanavalin A liver injury. Chem Res Toxicol. 2011. 24(6):794-6. doi: 10.1021/tx200143x.

コラム

今後のイベント、ウェビナー

◆:ハイブリッド開催

2022年1月

第4回 BMSA 公開セミナー ◆沖縄科学技術大学院大学(恩納村) 1月18日
日本実験動物技術者協会 関東支部 中動物部会 第35回講演会 オンライン 1月22日

2022年2月

Laboratory Animal Sciences 2022 (labroots) オンライン 2月10日
日本実験動物技術者協会 関東支部 第47回懇話会 川崎市産業振興会館(川崎市) 2月26日

2022年3月

第95回日本薬理学会年会 福岡国際会議場・福岡サンパレス(福岡市) 3月7日~9日
Meeting the Requirements of the Animal Welfare Act オンライン 3月9日、11日
第28回ヒトと動物の関係学会 学術大会 ◆慶應義塾大学日吉キャンパス(横浜市) 3月12~13日
第99回日本生理学会大会 ◆東北大学川内北キャンパス(仙台市) 3月16日~18日
日本薬学会第142年会 名古屋国際会議場(名古屋市) 3月25日~28日

2022年5月

第69回日本実験動物学会総会 仙台国際センター(仙台市) 5月18~20日

2022年6月

日本ゲノム編集学会第7回大会 オンライン 6月6日~8日
15th FELASA congress: Communication in Animal Research マルセイユ 6月13日~16日
第49回日本毒性学会学術年会 札幌コンベンションセンター(札幌市) 6月30日~7月2日

コラム

ちゃんと向き合いたい、
実験動物のこと。

実験動物というとどんなイメージがあるでしょうか。
動物を実験に活用することへの抵抗感をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実験動物に携わる関係者の間では実験動物を科学的合理性だけでなく、
動物福祉の観点からも向き合い、飼育環境の改善、実験方法や規制の見直しといった工夫を
日々行っております。

当団体では、そういった日々進化する実験動物に関する情報を
様々なコンテンツを通じて発信しております。
当サイトが、実験動物に関心のある方々の理解を促進し、
よりよい動物と人間の共存関係を実現する一助となれば幸いに存じます。

学会案内を見る

About Laboratory Animals実験動物とは

主な実験動物の種類、実験動物の飼育環境などについて説明します。

詳しくはこちら

Mechanism動物実験のしくみ

動物実験がどのように活かされるのか、また、実験環境を取り巻く規制などについて説明します。

詳しくはこちら

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

最近では、酪農学園大学から引き取られた実験犬「しょうゆ」の里親譲渡の話題もあり、こちらも「実験動物の里親制度」についてのコラムですでに紹介されていますが、国内でも少なからず実験動物を安楽死せずに余生を送らせるリホーミングの活動が行われています。リホーミングは動物の福祉を考えること、また実施者の心理的負担を軽減させるという点でとても有意義なことではありますが、同時に、実験動物が社会の目に触れ、動物実験に関心をもつきっかけとなるということは、社会的に適正な動物実験を考える上でもとても重要なことでもあるのではないでしょうか。

ここでは実験動物のエンドポイントとして安楽死に代わる選択肢としての可能性があるリホーミングについて、実際にリホーミングをされた方からの寄稿を交えて、文献を紹介します。多くの方が実験動物に関心を持ち、適正な動物実験を考えるきっかけとなればと思います。

寄稿:実験動物の印象革命<前編>
寄稿:実験動物の印象革命<中編>
寄稿:実験動物の印象革命<後編>

国内で実験用ビーグルのリホーミングに取り組むM社Aさんのご紹介で、実際に実験犬を引き取られたKさんからのお話を聞く機会がありました。ぜひ多くの方にも紹介させて頂きたい内容と思いましたので、ご厚意により、この場に寄稿いただきます。

文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?

製薬企業から引き取られた実験犬の、その後に関するドイツでの調査です。

文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査

実験動物のリホーミングに関する英国での実態調査です。

特集

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動物実験手技動画-投与編

動物実験手技動画-採血編

動物実験手技動画-その他

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特集

文献紹介:フィンランドにおける実験用ビーグルの最初のリホーミング:社会化訓練からフォローアップまでの完全なプロセス

The First Rehoming of Laboratory Beagles in Finland: The Complete Process from Socialisation Training to Follow-up

Laura Hänninen, Marianna Norring

Altern Lab Anim. 2020 May; 48(3): 116-126. doi: 10.1177/0261192920942135

概要
実験動物の運命は、倫理的なジレンマであり、社会的な関心事でもある。EUでは、指令2010/63/EUにより、安楽死ではなく、元実験動物のリホーミングが認められている。しかし、我々の知る限り、フィンランドでビーグルのリホーミングが行われたという報告は過去にない。本研究は、ヘルシンキ大学で初めて行われた実験用ビーグルのリホーミングの過程を説明し、その成功を評価することを目的としている。動物保護団体とヘルシンキ大学の協力のもと、合計16頭の元実験用ビーグルが里親として迎えられた。これらの犬は、動物の認知に関する研究に参加したり、動物用医薬品の開発中に小さな処置を受けたりした経験があります。犬たちがまだ実験室にいた頃、数ヶ月に及ぶ社会化トレーニングプログラムが実施された。里親へのアンケート調査、関係者(研究者、動物保護団体、動物管理者)へのインタビューを通じて、社会化トレーニングプログラム、若い犬と高齢の犬の再導入の比較成功、里親の選定基準、新しい飼い主への再導入の成功など、全体のプロセスが評価された。大半の犬は新しい家庭環境によく適応した。実験的な使用を終えた時点で安楽死させることは不必要であり、欧州指令の目的に反する可能性があった。

フィンランドでは、科学的または教育的目的のための動物の使用を対象とする国内法(Act 497/2013)があり、科学的目的のために使用される動物の保護に関する欧州指令2010/63/EUに基づいています。
EU指令は実験動物の運命に関わり、すべての欧州機関に実験犬が実験用途に不要になった後にリホーミングする機会を与えています。
Article 19では、実験に使用された動物は、動物の健康状態がそれを許し、公衆衛生、動物の健康、環境に対する危険がない場合、一定の条件を満たせば、リホーミングすることができるとしています。また、EU指令の前文26には、「手続きの最後に、動物の将来に関して、動物福祉と環境への潜在的なリスクに基づいて、最も適切な決定がなされるべきである。福祉が損なわれるような動物は、殺処分されるべきである」との記述もあります。
したがって著者らは、暗黙の了解として福祉が損なわれない動物は殺処分されるべきではないと考えています。
本研究は、フィンランドで行われた実験用ビーグルの最初のリホーミングと社会化プログラムについて述べたものです。

対象となった実験用ビーグル犬はヘルシンキ大学が所有する16頭で、すべての犬は商業ブリーダー(オランダのハーラン社)から購入したもので、高齢グループは生後6カ月から8歳まで、若年グループは生後4カ月から2歳まで研究施設で飼養されました。どちらも避妊・去勢済みの8頭(雌2頭、雄6頭)でした。
これらの犬は、犬での実験が必要な動物用医薬品の開発研究として、非侵襲的動物認知研究と犬用の新しい鎮静剤に関する臨床獣医学研究に使用されていました。実験処置としては、前者の研究では、ポジティブオペラント条件付け法によって、コンピュータ画面上の視覚刺激をじっと観察し、脳波や眼球運動を非侵襲的に記録するように訓練されました。後者の研究では、数回の鎮静処置が行なわれ、血液の採取、呼吸と心臓の機能のモニターが実施されました。

社会化トレーニングは、犬を研究施設の外に連れ出しさまざまな路面やリードでの歩行に慣れさせること、屋外での排便・排尿を促すこと、犬不慣れな人を施設に迎え入れることから構成されていました。
高齢犬は1回あたり約1時間、半年間で25〜35回散歩させました。若齢犬には、4ヶ月の準備期間を設け、研究施設に隣接するフェンス付きのパドックで監視下での遊びや休憩も含めて個別にトレーニングが実施されました。また、犬の反応や初対面の人に対する心構えも評価しています。
このトレーニングには、アニマルケアテイカー、研究者、動物保護団体のスタッフ、犬の訓練士など、多くの人が関わりました。また、動物保護団体とその地域会員組織がヘルシンキ大学とともに新しい里親探しを行い、それぞれの犬の所有権を大学から動物保護団体に、そして動物保護団体から新しい所有者に譲渡する契約が結ばれました。残念ながら、最後の1頭となった老犬には不安な行動が見られたことから、慣れ親しんだ8頭の群れがないまま施設にとどまることになりました。

アンケートはリホーミング後1ヶ月、半年〜1年、4年の3回実施され、回答したすべての飼い主が圧倒的に新しい犬を溺愛し、その性格の良さを賞賛していました。人間から攻撃されたとの報告はありませんでした。しかし中には、初めての人や状況、音、知らない犬、飼い主との別れ、車での移動などに対して恐怖心を示す犬もおり、リホーミングから4年後の最終アンケートでは、ほぼすべての犬が分離不安を抱えていることが明らかになりました。

全体的な結果としては、行動上の問題はほとんど報告されず、親しい人や家族の他の犬に対して攻撃的であったり、遊びの最中に噛みついたりする犬もいませんでした。また、爪切りなど、犬の扱いに困難はなかったと報告されています。ただし、最終的なアンケートでは、ほとんどの飼い主がトイレのしつけが不十分であると答えていました。

動物保護団体への聞き取り調査によると、これらの犬は小型で穏やかで扱いやすいため比較的容易にリホーミングできると考えていたようです。ところが、その後は無事に再飼育されましたが、若齢犬のうち3頭(2件の里親から)は動物保護団体に戻されました。また、4年間の期間中には老齢犬4頭、若齢犬1頭が安楽死されました。4頭は健康上の理由、1頭は行動上の問題が続いたことが理由でした。

   

リホーミング後のビーグルの生活において、トイレのしつけに問題があるようでしたが、リホーミングの結果は他の文献紹介にもあるように良好な結果でした。
リホーミングに向けて半年から10カ月のトレーニングが実施され、万全な準備がなされたのではないかと推察できますし、元々非侵襲的な動物認知研究に用いられておりトレーニングに慣れているビーグルであったようにも推察されました。しかし、残念ながら1頭がリホーミングを断念されたこと、3頭が一度里親から返却されたことからは、リホーミングの難しさも垣間見えるのではないかと思います。
分離不安には里親での飼育方法も関連しているとは思いますが、新たな環境においてもストレスを溜め込んでしまう状況もあるのかもしれません。さらに、文化の違いもあるとは思われますし、理由もありますが、リホーミングから4年の間に5頭のビーグルに安楽死が選択されたことも憂慮される点かもしれません。
著者らはさらに家畜など他の多くの動物種のリホーミングの機会もあったことを述べていますが、回答としては、リホーミングのアイデアは気に入っているものの、他の動物にとっては今回のケースで使用された社会化プログラムは、あまりにも計画が不十分で、性急かつ無秩序であったとの見解が示されたと述べています。

リホーミングは実験動物の余生を考える素晴らしい方法ではありますし、著者らもリホーミングを推奨してはいますが、この文献では課題として憂慮されるプロセスも赤裸々に示されており、安易に進めることがまた新たな問題を生じさせてしまう可能性も示唆されます。リホーミングにおいては各動物種に最適な方法を慎重に選択することが必要でしょう。ある意味リホーミングではなくとも、残された1頭のように、実験施設や研究者自身が最初の飼養者としての責任を持ち、アニマルサンクチュアリのように実験施設や自宅での終生飼育を考えるといったことも実験動物の余生を考える選択肢の一つとなるようにも思います。

また 大変興味深いことに、今回リホーミングの対象となった認知研究について、著者らはビーグルを用いて実施していた実験法を家庭犬に用いることで、その後実験用ビーグルの必要性がなくなったと報告していました。動物実験とは通常実験動物を用いて行われるものではありますが、実験法を確立した後の実験には実験動物が必要なくなったということです。こうした動物実験の代替の可能性もあるのかもしれません。

もちろん研究対象は目的に拠るものですが、実際に動物用医薬品の開発でも医薬品の開発でも、ボランティアによる治験や臨床試験が行われます。動物実験とは実験動物を用いて実験をするという側面だけではなく、動物のことを研究して理解を深めてゆくことでもあります。動物の余生についても研究を重ね、多様な選択肢の中で考えを巡らせてみることは、改めて社会として適切な動物実験を実施するとは何かということを考える材料にもなるかもしれません。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

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マウスの系統間、亜系統間にみられる遺伝子型、表現型の違い〜 C57BL/6JとC57BL/6Nとの比較を中心に

 マウスは世界で最も多く用いられている実験動物です。実験用マウスには数多くの系統が樹立されており、なかでも20代以上兄妹交配を繰り返して作出された「近交系」と総称される系統は、個体間の遺伝的背景が均一であるため、実験成績にばらつきがないと予想されるので優れた実験動物であると考えられます。近交系マウスのうち最も多用される系統の一つがC57BL/6です。C57BL/6系統は樹立後の早い段階で異なる2施設で維持されはじめ、現在では2つの亜系統グループを形成しています。それぞれの亜系統グループの間では外見上の区別はつきませんが、詳しく比較すると遺伝子型や表現型に違いが見られるため、「似て非なる」「独立した」系統であるとも言えます。今回はいくつかの事例を引用しつつ、C57BL/6由来の亜系統に関してご紹介したいと思います。

 C57BL/6は、C. C. リトルがA. E. ラスロップから1921年に入手したマウスから樹立したC57BL系統に由来します[1]。C57BL/6系統は、1948年にアメリカのジャクソン研究所に導入され維持されてきましたが、1951年にはアメリカNIHに導入され、それぞれC57BL/6J, C57BL/6Nとして系統樹立されました。その後様々な施設に導入されて育成・維持された結果、現在ではC57BL/6JおよびC57BL/6Nからそれぞれ数多くの亜系統が派生しました(図1)。C57BL/6Jはマウス全ゲノム配列の決定に最初に用いられた系統であり、C57BL/6Nとともに一般的な動物実験のみならずトランスジェニック動物やノックアウト動物を作製する際にも頻繁に用いられています。

 種々の施設で独立して維持されているC57BL/6亜系統の間では、年月とともにゲノム配列の多型が蓄積されていると予想されます。岡山理科大学の目加田和之先生らは、イルミナ社のマウスSNPジェノタイピングアレイを用いたり、マウスゲノムの一塩基多型(SNP)データベースを比較することによってC57BL/6Jグループの亜系統とC57BL/6Nグループの亜系統の間に存在するSNPを検索し、さらに一部はゲノムシーケンスを行いSNPの存在を明らかにしました [2, 3]。その結果、C57BL/6J(ジャクソン研究所で維持されてきたC57BL/6J系統)とC57BL/6NJ(ジャクソン研究所で維持されてきたC57BL/6N系統)の間に存在するSNPのうち、277箇所を同定しました。その中には翻訳されるタンパク質のアミノ酸置換を伴う10箇所のSNPが含まれていました。さらに、これらのSNPはC57BL/6J亜系統の間においても、さらにはC57BL/6N亜系統間においてもそれぞれ保存の程度に差が見られ、亜系統の分岐の年代等によってSNPの蓄積度に違いがあることが明らかになったとのことです。

 C57BL/6JとC57BL/6Nの間にはタンパク質のアミノ酸置換を伴うSNPが存在しますが、それ以外にも一部の遺伝子において欠失の有無に差がみられます。例えば、ミトコンドリア内膜に存在し、抗酸化反応に関与する酵素タンパク質NADトランスヒドロゲナーゼタンパク質をコードするNnt遺伝子は、C57BL/6Jグループの亜系統ではexon 7-11が欠失しており、遺伝子機能が喪失しています [4]。 

 C57BL/6JとC57BL/6Nとの間にある遺伝子上の差違は、結果として表現型にも違いとして現れることは十分に予想されます。そして実際、数多くの表現型の差違がこれまでに報告されています。中には、表現型の違いが実験成績の解釈にまで影響を及ぼした例もあります。例えば、一般的に広く普及している解熱鎮静薬であるアセトアミノフェンは、過剰摂取により肝障害が起こることがあります。アメリカNIHのある研究グループが、MAPキナーゼカスケードに属するc-Jun N-terminal kinase 2 (JNK2)のノックアウトマウスを用いて、アセトアミノフェン誘導性肝障害に対するJNK2の役割について解析していました。彼らはジャクソン研究所からJNK2ノックアウトマウスを「C57BL/6Jを用いて作製された」マウスとして入手しました。そして、JNK2ノックアウトマウスは野生型マウス(C57BL/6J)よりも肝障害の程度が高かったことから、JNK2は肝障害に対して保護的な作用をもたらすと考えました [5]。ところが、他の研究グループからJNK2ノックアウトマウスは野生型マウスよりも肝障害の程度が低くなることが報告されました [6]。そこで、使用したJNK2ノックアウトマウスのNnt遺伝子を調べてみると、C57BL/6J系統に見られる欠失が存在しなかったそうです。さらに、C57BL/6J、C57BL/6N、および彼らが使用したJNK2ノックアウトマウスをそれぞれアセトアミノフェンを投与すると、下記の順序で肝障害の程度に有意差がみられたそうです。

           C57BL/6J < JNK2ノックアウトマウス < C57BL/6N

 すなわち、彼らが用いたJNK2ノックアウトマウスはC57BL/6JではなくC57BL/6Nを背景に持ち、コントロール系統としてC57BL/6Jを使用していたために、JNK2ノックアウトマウスはアセトアミノフェン誘導性肝障害がコントロールマウスより増悪していたように見えていたのです。従って、はじめは「JNK2はアセトアミノフェン誘導性肝障害に対して保護的な作用をもたらす」という結論を得たものの、実際のところは「JNK2は肝障害に対して増悪的な作用をもたらす」という結論が正しく、これは他の研究グループと一致したということです [7]。

 以上、C57BL/6JとC57BL/6Nの遺伝子型・表現型の違いについて簡単にご紹介致しました。C57BL/6JとC57BL/6Nはともに多くの亜系統があり、それぞれのグループの間に遺伝子型、表現型の違いが見られることがあります。C57BL/6JとC57BL/6Nは非常に多くの動物実験に使用されており、遺伝子改変動物の作製にも頻繁に利用されています。由来も同一で系統名もほとんど同じマウスですので、2つの系統を混同してしまうことが起こり得るかと思います。コントロール(野生型)マウスとして異なる亜系統のマウスを使用してしまい、そのことが結果として研究の結論にまで影響を及ぼす可能性があることなどは、頭の片隅に置いておいても良いのではないかと思います。また、過去の研究報告と自らの実験成績を比較・検討する際にも、用いた実験動物の系統については十分注意する必要があるでしょう。本webサイトのコラムに動物研究の報告のための指針である「ARRIVEガイドライン」に関する記事が掲載されております。ARRIVEガイドラインでは、実験動物の種・系統・亜系統・性別・年齢・体重などの情報を研究報告に記載することが推奨されております(項目8:実験動物)。用いた実験動物の詳細を明示しておくことは、研究データの有益性や利用性を向上させ、世界中の多くの研究者にとって多大な利益につながることが期待されることでしょう。

 (本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

参考文献

[1] Russell ES. Genetic origins and some research used of C57BL/6, DBA/2, and B6D2F1 mice. in: Gibson DC, Adelman RC, Finch C. editors. Development of the rodent as a model system of aging. Bethesda: DHEW Publ No. (NIH) 79–161; 1978. pp. 37–44.

[2] Mekada K and Yoshiki A. Substrains matter in phenotyping of C57BL/6 mice. Exp Anim. 2021. 70:145-160. doi: 10.1538/expanim.20-0158.

[3] Mekada K, Hirose M, Murakami A, Yoshiki A. Development of SNP markers for C57BL/6N-derived mouse inbred strains. Exp Anim. 2015. 64: 91–100. doi: 10.1538/expanim.14-0061.

[4] Huang TT, Naeemuddin M, Elchuri S, Yamaguchi M, Kozy HM, Carlson EJ, Epstein CJ. Genetic modifiers of the phenotype of mice deficient in mitochondrial superoxide dismutase. Hum. Mol. Genet. 2006. 15: 1187–1194. doi: 10.1093/hmg/ddl034.

[5] Bourdi M, Korrapati MC, Chakraborty M, Yee SB, Pohl LR. Protective role of c-Jun N-terminal kinase 2 in acetaminophen-induced liver injury. Biochem Biophys Res Commun. 2008. 374(1):6-10. doi: 10.1016/j.bbrc.2008.06.065.

[6] Nakagawa H, Maeda S, Hikiba Y, Ohmae T, Shibata W, Yanai A, Sakamoto K, Ogura K, Noguchi T, Karin M, Ichijo H, Omata M. Deletion of apoptosis signal-regulating kinase 1 attenuates acetaminophen-induced liver injury by inhibiting c-Jun N-terminal kinase activation. Gastroenterology. 2008. 135(4):1311-21. doi: 10.1053/j.gastro.2008.07.006.

[7] Bourdi M, Davies JS, Pohl LR. Mispairing C57BL/6 substrains of genetically engineered mice and wild-type controls can lead to confounding results as it did in studies of JNK2 in acetaminophen and concanavalin A liver injury. Chem Res Toxicol. 2011. 24(6):794-6. doi: 10.1021/tx200143x.

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今後のイベント、ウェビナー

◆:ハイブリッド開催

2022年1月

第4回 BMSA 公開セミナー ◆沖縄科学技術大学院大学(恩納村) 1月18日
日本実験動物技術者協会 関東支部 中動物部会 第35回講演会 オンライン 1月22日

2022年2月

Laboratory Animal Sciences 2022 (labroots) オンライン 2月10日
日本実験動物技術者協会 関東支部 第47回懇話会 川崎市産業振興会館(川崎市) 2月26日

2022年3月

第95回日本薬理学会年会 福岡国際会議場・福岡サンパレス(福岡市) 3月7日~9日
Meeting the Requirements of the Animal Welfare Act オンライン 3月9日、11日
第28回ヒトと動物の関係学会 学術大会 ◆慶應義塾大学日吉キャンパス(横浜市) 3月12~13日
第99回日本生理学会大会 ◆東北大学川内北キャンパス(仙台市) 3月16日~18日
日本薬学会第142年会 名古屋国際会議場(名古屋市) 3月25日~28日

2022年5月

第69回日本実験動物学会総会 仙台国際センター(仙台市) 5月18~20日

2022年6月

日本ゲノム編集学会第7回大会 オンライン 6月6日~8日
15th FELASA congress: Communication in Animal Research マルセイユ 6月13日~16日
第49回日本毒性学会学術年会 札幌コンベンションセンター(札幌市) 6月30日~7月2日

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