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We think the future of laboratory animals.

We think the future of laboratory animals.

実験動物のより良い未来を模索する

実験動物のより良い未来を模索する

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2022.03.03
げっ歯類の胎児・新生児の鎮痛・麻酔および安楽死に関する声明(第2版、2015年)
2022.03.03
飼養保管苦痛軽減基準の解説書に関する要望書(平成28年7月8日)
2021.09.03
JALAMシンポジウムおよびJCLAMフォーラムの開催について

新着・人気コラム

JALAM会員からの寄稿

今野 兼次郎

コンノ ケンジロウ

国立循環器病研究センター研究所

寄稿文

温故知新、前島賞」

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安居院 高志

アグイ タカシ

北海道大学名誉教授

YouTubeチャンネルの紹介

前JALAM会長の安居院高志先生(北大名誉教授)が、YouTubeチャンネルを開設されました。本チャンネルでは、自然散策や山菜類の魅力を発信されております。

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特集

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

最近では、酪農学園大学から引き取られた実験犬「しょうゆ」の里親譲渡の話題もあり、こちらも「実験動物の里親制度」についてのコラムですでに紹介されていますが、国内でも少なからず実験動物を安楽死せずに余生を送らせるリホーミングの活動が行われています。リホーミングは動物の福祉を考えること、また実施者の心理的負担を軽減させるという点でとても有意義なことではありますが、同時に、実験動物が社会の目に触れ、動物実験に関心をもつきっかけとなるということは、社会的に適正な動物実験を考える上でもとても重要なことでもあるのではないでしょうか。

ここでは実験動物のエンドポイントとして安楽死に代わる選択肢としての可能性があるリホーミングについて、実際にリホーミングをされた方からの寄稿を交えて、文献を紹介します。多くの方が実験動物に関心を持ち、適正な動物実験を考えるきっかけとなればと思います。

文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?

製薬企業から引き取られた実験犬の、その後に関するドイツでの調査です。

文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査

実験動物のリホーミングに関する英国での実態調査です。

文献紹介:フィンランドにおける実験用ビーグルの最初のリホーミング:社会化訓練からフォローアップまでの完全なプロセス

フィンランドで行われた実験用ビーグルの最初のリホーミングと社会化プログラムの紹介です。

特集

実験動物の飼育環境

東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 准教授 角田 茂

1. とても綺麗な環境で飼育されている実験動物

 コロナ禍が始まって以来、マスク、手洗いが欠かせない生活になってから、あらゆる感染症が減っていますよね。人間は普段、いかに感染性微生物にさらされて生きているのか痛感する今日この頃です。

 さて、みなさんは実験動物業界の専門用語である“SPF”という言葉、ご存知ですか。

 スーパーやレストランで、SPFブタ肉など、目にしたことがあるかもしれません。

 “SPF”とはSpecific Pathogen Freeの略語であり、”特定の病原性微生物を持たないことが保証されている”ということで、言うなれば微生物学的にきれい、あるいは安全であるということになります。ヒトに感染する病原体を排除して飼育すれば、抗生物質やワクチンの投与が不要になり、健康な動物を飼育することができます。1990年頃に日本に初めてSPFブタの飼育技術を導入したのは、本学会の発起人である波岡茂郎先生(1929-2014, 北大名誉教授)で、企業との共同で日本初のSPFブタを開発されました。当時、貴重な第一号のSPFブタの焼肉を、現在の本学会・会長である佐々木先生ら学生にふるまったようです。

 さて、医学系の動物実験施設では、基本的にはSPF状態を保つための環境で動物が飼育されています。このSPF環境を維持するためには、バリア施設が必要であり、動物室内を陽圧に保つことにより外からの病原体の侵入をブロックするような特殊な構造の建物に、実験従事者および動物の厳密な入退室管理、滅菌・消毒した飼料や水、ケージの供給・使用など、大変なコストと労力を掛けて管理運営が行われています。

 ちなみに、SPF環境維持が適切に行われていることを保証するために、定期的な微生物モニタリングが実施されています。例えば、実験動物中央研究所ICLASモニタリングセンターに検査をお願いした場合、12〜19項目のSPF対象微生物検査セットで14,500〜25,000円/匹となっていることからも、SPF維持が高コストであることがおわかりいただけるかと思います。

 では、なぜ研究にSPF環境で飼育したクリーン動物を用いるのでしょうか。

 まず、実験動物に対する動物福祉の観点から、環境省の基準に疾病予防が義務付けられており(1,2)、SPF環境での飼育はその一つとなります。また、実験に用いた動物が病原性微生物に感染していた場合、実験成績に影響を及ぼし、再現性のある正しい実験結果を得ることが出来なくなってしまうことも重要なポイントです。加えて、ヒトがん研究や、再生医療・幹細胞研究において、動物にヒト細胞の移植実験を行う際、レシピエント(移植を受ける側)には重度免疫不全動物が必要になります。このような免疫不全動物を飼育するためには、高度にクリーンな環境が必須となる訳です。

 このような事情から、医学系の動物実験施設では大変なコストを掛けながらも基本的にSPF環境で動物を飼育しています。ちなみに、我が国における実験動物のSPF化には、前述の実験動物中央研究所の創設者である野村達次先生が多大な貢献をしており、1962年に川崎市野川にSPF動物生産施設を作り、SPFマウスの種親を米国より輸入して、野川でSPFマウスの生産を開始したそうです(3)

2. 実験モデルと飼育環境

 ところで、ヒトの疾患を考えた場合、クリーン動物の結果は必ずしも適切でない(クリーンな飼育環境では病態を反映できない)ことがあります。私たちの研究グループが経験した事例をご紹介したいと思います。

 私がかつて東大医科研に所属していた際、特定の糖鎖を認識する自然免疫受容体の一群であるC型レクチン受容体ファミリー分子の研究プロジェクトに参画していました。この中で、デクチン1というカビの細胞壁構成成分の一つであるβグルカンのセンサー分子をコードする遺伝子Clec7aを欠損させたマウス(Clec7a KOマウス)を用いて、デクチン1の免疫応答における役割の解明に関する研究を行なっていました。私たちは、研究所のSPF環境で飼育しているClec7a KOマウスを用いて大腸炎発症におけるデクチン1の役割を調べました。マウスにデキストラン硫酸ナトリウム塩(DSS)含有水を与えて飼育するだけで、ヒトの潰瘍性大腸炎に類似した急性の大腸炎を誘発することが出来る方法があり、ヒト潰瘍性大腸炎の疾患モデルとして広く使われています。私たちがClec7a KOマウスにDSSを投与して誘導大腸炎を誘発すると、対照の正常マウスと比較して大腸炎がとても軽症となっていることがわかりました。そこでこの結果をまとめて発表しようとしていたところ、Cedars-Sinai Medical Center(アメリカ)の研究グループからClec7a KOマウスにDSS誘導大腸炎を行うと増悪化するという真逆の研究結果が報告されました。ヒトの薬物療法不応答潰瘍性大腸炎(MRUC)患者はCLEC7A遺伝子座に存在する2つの一塩基多型(SNP)ハプロタイプと相関があるという結果と併せての説得力のある研究成果であり、トップジャーナル“Science”誌に掲載されました(4)。ではなぜ、私たちの研究グループと正反対の結果となっていたのでしょうか。

 Cedars-Sinai Medical Centerの研究グループは、日和見病原性真菌であるカンジダ菌がマウス腸内に存在しており、DSS投与で大腸上皮が傷害を受けバリア機能が破綻した際にデクチン1が存在しないとカンジダ菌をうまく排除出来ずに炎症が増悪化すると説明していました。これはヒトMRUC患者でも同様に説明可能とのことでした。デクチン1は特定の真菌に対する自然免疫センサー分子としての役割を持っていることから、まさに予想されうる結果です。一方、私たちの動物は極めてクリーンな環境で飼育していたことから腸内真菌が存在せず、このような増悪化は起こりようがなかったのです。そのため、デクチン1の持つ別の機能によって腸管が抗炎症の状態になっていたのです(詳細については参考文献5,6,7をお読みください)。

3. 最後に

 私たちは、再現性のある質の高い動物実験を担保するために、実験動物をクリーンな状態を保ちながら大切に飼育しています。これはがん研究や再生医療研究には欠かせないものなのですが、免疫学などに関係する研究を行う際には、少し注意が必要です。SPF環境で飼育されたマウスの免疫状態は、ヒトでいうと未成熟な幼児の状態に近いとの報告もなされています(8)。すなわち、病態を発現させるため“ちょうどよい”程度の感染症(環境微生物)への暴露も必要という概念もあると思うのですが、それをコントロールし、さまざまな研究に対して適切な環境を一律に提供するというのは現実的ではないのかもしれません。

 最近、コロナ感染を防ぐ目的による過剰な対応(行き過ぎた清潔な環境維持)のため、子供たちが幼少期にかかることの多い疾患(サイトメガロウイルス、EBウイルス、トキソプラズマなど)にかからずに大人になってしまうことが想定されており、将来の危険性が憂慮されています。

 ヒトの現実社会も、実験動物の衛生管理も、一筋縄ではいきませんね。

4. 参考文献

1. 実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準 (環境省)

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/nt_h180428_88.html (cited 2022. Sept. 29)

2. 実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説 (環境省)

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2911.html (cited 2022. Sept. 29)

3. 六匹のマウスから―「私史」日本の実験動物・45年 講談社(1991)

4. Iliev I.D. et al., Interactions between commensal fungi and the C-type lectin receptor Dectin-1 influence colitis. Science 336(6086): 1314-17 (2012) DOI: 10.1126/science.1221789

5. Tang C. et al., Inhibition of Dectin-1 Signaling Ameliorates Colitis by Inducing Lactobacillus-Mediated Regulatory T Cell Expansion in the Intestine. Cell Host Microbe 18 (2): 183-97 (2015) DOI: 10.1016/j.chom.2015.07.003

6. 唐 策ら.低分子βグルカン摂取により炎症性腸疾患を予防,改善する 昆布がお腹の調子を整える!—腸内細菌を介した分子機構の解明— 生物と化学 55(2): 128-34 (2017)  DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.128

7. Iliev I.D. Dectin-1 Exerts Dual Control in the Gut. Cell Host Microbe 18 (2): 139-41 (2015)  DOI: 10.1016/j.chom.2015.07.010

8. Beura L.K. et al., Normalizing the environment recapitulates adult human immune traits in laboratory mice. Nature 532(7600): 512-6 (2016) DOI: 10.1038/nature17655

コラム

理研マウスENUミュータジェネシスプロジェクトを利用したフォワードジェネティクス研究

岩手大学農学部共同獣医学科・実験動物学研究室 古市 達哉

 

 マウス遺伝学の研究には大きく分けて2つのアプローチが存在します。フォワードジェネティクス(順遺伝学)アプローチでは、遺伝性がみられる異常形質をもつマウスを見つけ出し、その原因となる遺伝子変異を連鎖解析などの手法を用いて同定します。リバースジェネティクス(逆遺伝学)アプローチでは、特定の遺伝子のノックアウト(KO)やトランスジェニックマウスを作製し、どのような表現型が発現するのかを調べます。私はこの2つのアプローチを駆使して、骨格系(骨、軟骨、関節)に異常を示す遺伝子変異マウスを同定し、骨格の発生メカニズムや骨関節疾患の病態機序について研究しています。

 私は2004年〜2010年の間、理化学研究所に勤務していました。この頃、理研ゲノム科学総合研究センター(GSC)では、大規模なマウスENUミュータジェネシスプロジェクトが展開されていました1)2)。N-ethyl-N-nitrosourea(ENU)はゲノムDNA上に高頻度で点突然変異を誘発する化学変異原であり、ENUを腹腔内投与した雄マウスと正常雌マウスを交配することで誕生した約10,000匹の突然変異第一世代(G1)マウスから摘出した精子の凍結保存ライブラリーが構築されました。私たちは、これらG1と次世代のG2で誕生した多くの遺伝子変異マウスの中から、骨格系に異常を示す個体を見つけ出し、原因遺伝子の同定を試みるフォワードジェネティクス研究を展開してきました。

1. 変形性関節症モデル : M451マウス

 はじめに同定した M451マウスは常染色体顕性(優性)形式で短指症を呈するマウスで3)、連鎖解析によって原因遺伝子は第2染色体上にマップされました。この領域には自然発症短指症マウス(bpマウス)の原因遺伝子であるGdf5が存在しており4)、予想通りにM451マウスのGdf5遺伝子にはp.Trp408Arg(408番目のTrpがArgに置換される)ミスセンス変異が同定されました。bpマウス以外にも、Gdf5変異によって短指症を発症するマウスは報告されており、科学的価値があまり高くない結果に落ち着きそうだと落胆していたのですが、研究は急展開していきました。

 私は当時、池川志郎先生が率いる理研生命医科学研究センター・骨関節疾患研究チームに所属していたのですが、池川先生らはヒトGDF5遺伝子上の一塩基多型(SNP)が変形性関節症(OA)の疾患感受性と関連していることを報告していました5)。OAは関節軟骨の変性や消失を特徴とし、疼痛や歩行障害が生じる疾患です。OAの発症には複数の遺伝要因と複数の環境要因がかかわっており、多因子疾患に分類されます。OAの発症にかかわるSNP(+104 T/C)はGDF5遺伝子のプロモーター上に存在し、OA患者が多く持つ+104Tアレルを持つプロモーターの活性は、健常者が多く持つ+104Cアレルを持つプロモーター活性よりも有意に低下します。つまり+104Tアレルを持つとGDF5産生量が低下し、OAに罹患しやすくなると考えられます。そこで、私たちはp.Trp408Arg変異をホモ接合でもつM451マウスの関節を調べた結果、肘関節の関節軟骨にOAと類似した病変が確認されました(図1A)3)。p.Trp408Arg変異は優性阻害を引き起こす強い変異効果を持っており(図1B)、この一種類の変異だけでOA様の病変が誘発されます。

 M451マウスの研究から、マウス遺伝学からもGDF5がOAの感受性遺伝子であることが証明されました。GDF5の機能異常がOAを引き起こすメカニズムは、まだよくわかっていません。GDF5はBMPスーパーファミリーに属する成長因子で胎生期の関節形成に関わっていることから6)、+104 Tアレルを持つヒトは、OAになりやすい構造的な関節の異常を持っているのかもしれません 。これはX線解析などでは判別できないわずかな異常で、加齢に伴い徐々にOA病変が発現してくると考えられます。またGDF5は関節の恒常性維持に関わっているという報告もありますので、+104 Tアレルを持つヒトでは、この維持機構にわずかな異常が生じているのかもしれません。M451マウスはGDF5とOAの関連を調べるためのよいモデル動物です。

 2. トーランス型扁平異形成症モデル : M413/M856マウス

 次に紹介するM413とM856マウスは共に常染色体顕性形式で体が小型化 (矮小化) するマウスです7)8)。連鎖解析によって原因遺伝子は共に第15染色体上にマップされたことから、両マウスの原因遺伝子は同一の可能性があると思われました。この領域に存在する遺伝子を調べた結果、軟骨で特異的に産生される II型コラーゲンをコードするCol2a1が原因遺伝子の第一候補として選抜され、確かにM413マウスのCol2a1遺伝子にはp.Try1391Ser、M856マウスにはp.Asp1499Alaミスセンス変異が同定されました。

 ヒトにおけるCOL2A1変異は、軟骨無発生症II型、トーランス型扁平異形成症(PLSD-T)、先天性脊椎骨端異形成症といった別々の病気の原因となりますが9) 、PLSD-T患者にp. Try1391Cys、p. Asp1469His変異が同定されていました。すなわち、II型コラーゲンの1391番目のCys、1469番目のAspが、M413またはM856マウスとPLSD-T患者で共に置換されている訳です。それぞれの変異のホモ接合マウスはPLSD-Tと類似の骨格異常を示しており、M413/M856ホモ接合マウスはPLSD-Tモデル動物として有用性であることが示されました。M413とM856マウスの間に表現型の違いはみつかっていませんが、別々の論文として発表することができました7)8) 。

 両マウスの軟骨細胞を電子顕微鏡で観察すると、小胞体が異常に拡張しており、変異コラーゲンタンパク質が小胞体内に貯留していました(図2A)。軟骨における小胞体ストレスマーカーの発現が上昇しており、軟骨細胞は高頻度にアポトーシスを起こしていました(図2B)。つまり、M413/M856ホモ接合マウスの軟骨細胞では異常タンパク質の貯留により過度の小胞体ストレスが付加され、アポトーシスが亢進していることがわかりました。PLSD-Tの第一の原因はII型コラーゲンが細胞外へ分泌されないことですが、軟骨細胞におけるアポトーシスの亢進も大きく関わっているようです。

 最近、さまざまな疾患と小胞体ストレスとの関連が注文されており、小胞体ストレス応答調節薬の創薬研究が展開されています10)。M413/M856マウスは小胞体ストレス応答調節薬の創薬研究に有用なモデル動物ですと締めたいとこですが、応用は難しいと思っています。PLSD-Tは周産期致死性の重度の骨格異常を示し、PLSD-TモデルとなるM413/M856ホモ接合マウスは出生後、すぐに死亡してしまいます。このような致死性の骨格異常を薬で直すのは、現時点では不可能であると思います。しかし、小胞体ストレスが関わっている軽度の骨格異常を示す疾患は存在しており、これらの疾患を対象とした小胞体ストレス応答調節薬の創薬研究に、M413/M856マウスから調整した培養軟骨細胞などが貢献できるかもしれません。

3. 世界初のミスセンス変異によって表現型を発現するCrim1変異マウス

 最後にM2047マウスから得られたimlaマウスを紹介します11)。詳しい説明は省略しますが、ENU変異を誘発したC57BL/6遺伝的背景のM2047マウス12)とDBA/2マウスの交配で誕生したF1マウス同士の交配を行った結果、常染色体潜性(劣性)形式で小眼球症と合指症を発症するマウスが誕生し、imla (iwate microphthalmia with limb anomalies)マウスと命名しました。

 imlaマウスの原因遺伝子の同定は連鎖解析ではなく、全エクソーム解析で行いました。メンデル遺伝する明確な異常を引き起こす遺伝子変異のほとんどは、ゲノム上のエクソンとその周辺領域に存在しており、全エクソーム解析ではゲノム上のエクソンとその周辺領域のDNA配列を全て決定します。その結果、imlaマウス特異的な変異として、218個の変異が抽出され(ENU投与によって、たくさんの変異が誘発されている)、この中の71個は遺伝子産物の機能に影響を及ぼす変異であると予測されました。データベースを用いて、71個の候補遺伝子について調べた結果、Crim1遺伝子のKOマウスが小眼球症、合指症といったimlaマウスと類似の表現型を示すことがわかりました12)Crim1遺伝子周辺の遺伝子多型マーカーを用いた連鎖解析によって、Crim1におけるミスセンス変異(p.Cys140Ser)が imlaマウスの原因変異であることが証明されました。

 C57BL/6遺伝的背景のCrim1 KOマウスは胎生期に死亡しますが、imlaマウスの遺伝的背景をC57BL/6にすると同様に胎生致死になりました。つまり、imlaマウスはC57BL/6とDBA/2をミックスした遺伝的背景であったため、運よく胎生致死を免れて同定されたマウスだったのです。CRIM1はいろいろな成長因子と結合し、それらの活性・局在の調節に関わっていることが報告されています14)。しかし、これらの機能だけでは説明がつかないCrim1 KOマウスの表現型が存在しており、CRIM1は他にもさまざまな機能を持っているはずです。imlaマウスは世界初のミスセンス変異によって明確な表現型を示すCrim1変異マウスであり、今後、CRIM1の新規機能の同定に役立つ可能性を持っています。

4. おわりに

 ジーンターゲッティング技術、ゲノム編集技術の確立によって、マウス遺伝学研究の主流はリバースジェネティクスになっており、最近ではフォワードジェネティクスを用いて発表された論文数はかなり少なくなっています。しかし、リバースジェネティクスだけでは、ミスセンス変異がもたらす重要な表現型を見過ごしてしまう可能性があります。ミスセンス変異は1つのアミノ酸を置換するだけですが、タンパク質に新しい機能を付与したり(gain of function)、1つのアミノ酸が置換された変異タンパク質が正常タンパク質の機能を阻害することがあり(dominant negative)、これらの作用は通常の遺伝子KOがもたらす機能消失 (loss of function)とは異なります。

 理研マウスENUミュータジェネシスプロジェクトは既に終了していますが、構築された変異マウスライブラリーはバイオリソース研究センター(BRC)に保存されており、私たちも利用可能です15)。このライブラリーから、貴重な変異マウスを探してみてはいかがでしょうか。

 今回紹介した研究には多くの先生方のご支援をいただきましたが、特に理研の桝屋啓志先生、若菜茂晴先生(現所属 : 神戸医療産業都市推進機構)、権藤洋一先生(現所属 : 東海大学)、そして池川志郎先生には多大なご支援をいただきました。そして多くの研究は岩手大学獣医実験動物学研究室で卒業研究に取り組んでくれた卒業生によって行われました (H26卒 : 市村さん、H27卒 : 木村さん、佐藤さん、H28卒 : 塚本さん、H30 年卒 : 斎藤さん)。最後に厚くお礼申し上げます。

5. 参考文献

1) Masuya H, Nakai Y, Motegi H, et al. Development and implementation of a database system to manage a large-scale mouse ENU-mutagenesis program. Mamm Genome 15: 404–411 (2004)

2) Sakuraba Y, Sezutsu H, Takahasi KR, et al. Molecular characterization of ENU mouse mutagenesis and archives. Biochem Biophys Res Commun 336: 609–616 (2005)

3) Masuya H, Nishida K, Furuichi T, et al. A novel dominant-negative mutation in Gdf5 generated by ENU mutagenesis impairs joint formation and causes osteoarthritis in mice. Hum Mol Genet 16: 2366–2375 (2007)

4) Storm EE, Huynh TV, Copeland NG, et al. Limb alterations in brachypodism mice due to mutations in a new member of the TGF beta-superfamily. Nature 368: 639–643 (1994)

5) Miyamoto Y, Mabuchi. A, Shi D, et al. A functional polymorphism in the 5′ UTR of GDF5 is associated with susceptibility to osteoarthritis. Nat Genet 39: 529–533 (2007)

6) Sun K, Guo J, Yao X, Guo Z, Guo F. Growth differentiation factor 5 in cartilage and osteoarthritis: A possible therapeutic candidate. Cell Prolif 54: e12998 (2021)

7) Furuichi T, Masuya H, Murakami T, at al. ENU-induced missense mutation in the C-propeptide coding region of Col2a1 creates a mouse model of platyspondylic lethal skeletal dysplasia, Torrance type. Mamm Genome 22: 318–328 (2011)

8) Kimura M, Ichimura S, Sasaki K, et al. Endoplasmic reticulum stress-mediated apoptosis contributes to a skeletal dysplasia resembling platyspondylic lethal skeletal dysplasia, Torrance type, in a novel Col2a1 mutant mouse line. Biochem Biophys Res Commun 468: 86–91 (2015)

9) Nishimura G, Haga N, Kitoh H, T, et al. The phenotypic spectrum of COL2A1 mutations. Hum Mutat 26: 36–43 (2005)

10) Marciniak SJ, Chambers JE, Ron D. et al. Pharmacological targeting of endoplasmic reticulum stress in disease. Nat Rev Drug Discov 21: 115–140 (2022)

11) Furuichi T, Tsukamoto M, Saito M, et al. Crim1C140S mutant mice reveal the importance of cysteine 140 in the internal region 1 of CRIM1 for its physiological functions. Mamm Genome 30: 329–338 (2019)

12) Ichimura S, Sasaki S, Murata T, et al. An ENU-induced p.C225S missense mutation in the mouse Tgfb1 gene does not cause Camurati-Engelmann disease-like skeletal phenotypes. Exp Anim 66: 137–144 (2017)

13) Chiu HS, York JP, Wilkinson L, et al. Production of a mouse line with a conditional Crim1 mutant allele. Genesis 50: 711–776 (2012)

14) Iyer S, Pennisi DJ, Piper M. Crim1–, a regulator of developmental organogenesis. Histol Histopathol 31: 1049–1057 (2016)

15. 理研BRC・ENU誘発突然変異マウス系統の提供, https://mus.brc.riken.jp/ja/ catalogue_gsc, (cited Sept 25, 2022).

コラム

ブタの麻酔医〜周術期管理に関する総論的なお話〜

鹿児島大学先端科学研究推進センター 生命科学動物実験ユニット

瀬戸山健太郎

 ブタは解剖学的、生理学的にヒトと類似しているため、外科的処置を伴う研究や医療技術トレーニングで利用される機会が増えています。そのため、研究をサポートする立場である我々にとってブタの麻酔や周術期管理の知識/技術の習得は必要不可欠です。そこで、今回、ブタの麻酔(周術期)管理の基本事項について紹介したいと思います。なお、私自身、クラウン系ミニブタ(30~40kg)を用いた研究に多く従事してきたことから、これら経験に基づく私見が含まれていますこと、ご容赦ください。

〇術前処置

 ブタでは麻酔時の誤嚥等を防止するため12時間以上の絶食が必要です。特に消化管の処置を行う際は消化管内容物を空にするため24~48時間の絶食が必要となります[1, 2]。絶食が不十分な場合、ブタの結腸が横隔膜を圧迫するため呼吸管理が難しくなり、腹腔内の操作も困難になるケースがあるので、絶食処置は確実に行うことがとても重要です。飲水は術前まで可能ですが、腹腔内手術を行う際には4~6時間程度の絶水を行います[1]。また、経験的に絶食を行ったブタは飲水量が減少する傾向にあるので、麻酔導入後の輸液は十分に行った方が良いでしょう。

麻酔導入ブタではイヌやネコに比べて体が大きく、力が強いため保定が容易でないこと、体表の血管が少ないことから、アプローチが容易な筋肉内投与による麻酔前投与、麻酔導入を行うのが一般的です(図1)。麻酔前投与には流涎抑制や麻酔による徐脈防止のためアトロピンを用いるのが一般的です[1]。麻酔導入薬としては、ミダゾラム-メデトミジン、メデトミジン-ケタミン、ミダゾラム-メデトミジン-ブトルファノールなど様々な薬剤が用いられますが[2, 3]、これら薬剤では麻酔導入が不十分(体動)なケースを経験したことがあります。そのため、当施設ではミダゾラム-メデトミジン-ケタミン混合薬の筋肉内投与にて麻酔導入を実施しています。麻酔導入が不十分な場合には薬剤を追加で投与する必要がありますが、追加投与は呼吸停止、血圧低下などのリスクがあることを十分に考慮し、追加投与の必要性や投与量について、追加投与する際に慎重に検討する必要があります。また、麻酔導入~挿管までは動物にとって呼吸停止や血圧低下といったリスクが高い時間帯であるため、呼吸状態、血圧、可視粘膜の確認を怠ってはいけません。

麻酔の維持管理(術中管理)麻酔導入後は挿管を実施し、麻酔維持(吸入麻酔もしくは静脈麻酔)へ移行します。ブタがどの体位であっても挿管ができなければなりませんが、あまり経験がない方は腹臥位で実施すると挿管しやすいかと思います(図2)。術中は麻酔、呼吸、循環、体温の管理を行う必要がありますが、その管理には生体情報モニタリングシステムが有用です。ただし、モニタリングシステムのみに頼るのではなく、しっかりと動物を観察(見る、触る、聞く)することも重要なポイントです。モニタリングシステムと動物(術野含む)の双方を観察することで生体に何が生じているのか的確に判断することが可能となると私は考えています。

○麻酔管理:当然ながら不適切な麻酔深度は外科的処置を困難にさせるだけでなく生命を脅かす可能性があります。外科処置を円滑に進め、再現性のある手技を行うためには適切な麻酔深度を保つ必要があります。麻酔深度は眼瞼、角膜反射や心拍数、血圧の変化、呼吸数の変化、体動などがその指標として挙げられます[1, 3]。また、自発呼吸にて管理を行っている場合は呼吸数の変化、開腹手術の場合にはさらに腹圧の変化も麻酔深度の指標となります。ヒトの臨床で使用されているBispectral index(脳波等を解析するシステム)については、ブタでの有用性は低いとされており、現時点でブタへの応用は難しいと考えられます[1]。

○呼吸管理:麻酔下での呼吸管理は自発呼吸による管理と陽圧呼吸(人工呼吸)による管理に大きく分けることができます。自発呼吸は文字通り動物の自発呼吸を主体に呼吸管理を実施する方法であり、陽圧呼吸は人工呼吸器や用手法により強制的に換気を行う方法です。これらの呼吸管理は動脈血液ガス(pH:7.3~7.5、PaO2>80 mmHg、PaCO2:35~45 mmHgで維持)もしくは血中酸素飽和度(SpO2)や終末呼気炭酸ガス濃度(EtCO2)を参考(図3)に行います(SpO2:>90%、EtCO2:35~45 mmHgで維持)。自発呼吸管理を行う際には、これらのデータを参考にして、適宜、用手法による補助呼吸を行います。また、陽圧呼吸では換気条件(呼吸回数、1回換気量、吸気時最大気道内圧、PEEP、IE比など)を適宜変える必要があります。

○循環管理:麻酔下においては、外科処置中の出血や不感蒸泄などによる循環血液量の減少、不適切な麻酔深度による血圧、心拍出量の低下、モデル動物の病態に起因した循環不全や不整脈に対応するため、心電図、心拍数、血圧をモニターする必要があります。

 術中は循環血液量を維持(心拍出量、血圧の維持)するために基本的に輸液(10~15ml/kg/hr)を行います[1, 2]。ブタでは経験的に、輸液量が少ないと腹腔内臓器を展開する際に血行動態の変化が著しく、循環管理が難しくなることがあるため、輸液はしっかりと実施した方が良いと考えています。私は絶食処置を行ったブタでは脱水(循環血液量の減少)傾向があるように感じています。絶食にともなって飲水量が減少するのかもしれません。そのため、臓器移植など侵襲の大きい外科手術を行う際には、輸液開始1時間ほどは流量を多め(30~40ml/kg/hr)にすることをお勧めします。

 また、侵襲の大きい手術の際には必ず尿量をモニタリングする必要がありますが、雄ブタではそのペニスの形状から外尿道口からカテーテルを挿入することが困難なケースがほとんどです。この場合、我々は必要に応じて開腹し、膀胱にカテーテルを留置します。

○体温管理:術中は麻酔や開腹/開胸により体温が低下しやすい状況にあります。体温が著しく低下すると血圧低下や徐脈、不整脈などの循環不全や代謝性アシドーシスの進行が認められ、生命を脅かすことがある[1]ため、ブランケットや保温マット(図4)の利用により体温の保持に努めます。また、ブタでは揮発性吸入麻酔薬や筋弛緩薬などを用いた際に、悪性高熱(筋硬直、頻脈、異常な高熱)が認められることがあるので注意が必要です。

術後管理術後の低体温を防止するための保温の実施や手術領域によってはサードスペースへの細胞外液喪失による循環血液量の減少を補うため輸液の実施について、検討、準備しておく必要があります。また、感染防止の抗生剤の投与や鎮痛剤の投与についても実施します。なお、抗生剤、鎮痛剤の投与は術前から実施しておくことが推奨されます。

 以上、ブタの麻酔について、総論的な内容を経験も交え、ざっくりと紹介しました。先生方の参考になれば幸いです。

参考文献

1. Lais M. Malavasi. (2015). In “Veterinary Anesthesia and Analgesia, The fifth edition of Lumb and Jones” (Kurt A.Grimm ed). pp928-939, Wiley Blackwell, UK.Paul Flecknell. (2015).

2. Laboratory Animal Anaesthesia 4th edition. pp 77-108, 238-242, Academic press, UK.

3. Alison C. Smith and M. Michael Swindle. (2008). Anesthesia and Analgesia in Swine. In “Anesthesia and Analgesia in Laboratory Animals 2nd edition” (Richard E. Fish, ed). pp 414-436, Academic press, UK.

コラム

ちゃんと向き合いたい、
実験動物のこと。

実験動物というとどんなイメージがあるでしょうか。
動物を実験に活用することへの抵抗感をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実験動物に携わる関係者の間では実験動物を科学的合理性だけでなく、
動物福祉の観点からも向き合い、飼育環境の改善、実験方法や規制の見直しといった工夫を
日々行っております。

当団体では、そういった日々進化する実験動物に関する情報を
様々なコンテンツを通じて発信しております。
当サイトが、実験動物に関心のある方々の理解を促進し、
よりよい動物と人間の共存関係を実現する一助となれば幸いに存じます。

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About Laboratory Animals実験動物とは

主な実験動物の種類、実験動物の飼育環境などについて説明します。

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Mechanism動物実験のしくみ

動物実験がどのように活かされるのか、また、実験環境を取り巻く規制などについて説明します。

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JALAM会員からの寄稿

今野 兼次郎

コンノ ケンジロウ

国立循環器病研究センター研究所

寄稿文

温故知新、前島賞」

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安居院 高志

アグイ タカシ

北海道大学名誉教授

YouTubeチャンネルの紹介

前JALAM会長の安居院高志先生(北大名誉教授)が、YouTubeチャンネルを開設されました。本チャンネルでは、自然散策や山菜類の魅力を発信されております。

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特集

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

最近では、酪農学園大学から引き取られた実験犬「しょうゆ」の里親譲渡の話題もあり、こちらも「実験動物の里親制度」についてのコラムですでに紹介されていますが、国内でも少なからず実験動物を安楽死せずに余生を送らせるリホーミングの活動が行われています。リホーミングは動物の福祉を考えること、また実施者の心理的負担を軽減させるという点でとても有意義なことではありますが、同時に、実験動物が社会の目に触れ、動物実験に関心をもつきっかけとなるということは、社会的に適正な動物実験を考える上でもとても重要なことでもあるのではないでしょうか。

ここでは実験動物のエンドポイントとして安楽死に代わる選択肢としての可能性があるリホーミングについて、実際にリホーミングをされた方からの寄稿を交えて、文献を紹介します。多くの方が実験動物に関心を持ち、適正な動物実験を考えるきっかけとなればと思います。

文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?

製薬企業から引き取られた実験犬の、その後に関するドイツでの調査です。

文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査

実験動物のリホーミングに関する英国での実態調査です。

文献紹介:フィンランドにおける実験用ビーグルの最初のリホーミング:社会化訓練からフォローアップまでの完全なプロセス

フィンランドで行われた実験用ビーグルの最初のリホーミングと社会化プログラムの紹介です。

特集

実験動物の飼育環境

東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 准教授 角田 茂

1. とても綺麗な環境で飼育されている実験動物

 コロナ禍が始まって以来、マスク、手洗いが欠かせない生活になってから、あらゆる感染症が減っていますよね。人間は普段、いかに感染性微生物にさらされて生きているのか痛感する今日この頃です。

 さて、みなさんは実験動物業界の専門用語である“SPF”という言葉、ご存知ですか。

 スーパーやレストランで、SPFブタ肉など、目にしたことがあるかもしれません。

 “SPF”とはSpecific Pathogen Freeの略語であり、”特定の病原性微生物を持たないことが保証されている”ということで、言うなれば微生物学的にきれい、あるいは安全であるということになります。ヒトに感染する病原体を排除して飼育すれば、抗生物質やワクチンの投与が不要になり、健康な動物を飼育することができます。1990年頃に日本に初めてSPFブタの飼育技術を導入したのは、本学会の発起人である波岡茂郎先生(1929-2014, 北大名誉教授)で、企業との共同で日本初のSPFブタを開発されました。当時、貴重な第一号のSPFブタの焼肉を、現在の本学会・会長である佐々木先生ら学生にふるまったようです。

 さて、医学系の動物実験施設では、基本的にはSPF状態を保つための環境で動物が飼育されています。このSPF環境を維持するためには、バリア施設が必要であり、動物室内を陽圧に保つことにより外からの病原体の侵入をブロックするような特殊な構造の建物に、実験従事者および動物の厳密な入退室管理、滅菌・消毒した飼料や水、ケージの供給・使用など、大変なコストと労力を掛けて管理運営が行われています。

 ちなみに、SPF環境維持が適切に行われていることを保証するために、定期的な微生物モニタリングが実施されています。例えば、実験動物中央研究所ICLASモニタリングセンターに検査をお願いした場合、12〜19項目のSPF対象微生物検査セットで14,500〜25,000円/匹となっていることからも、SPF維持が高コストであることがおわかりいただけるかと思います。

 では、なぜ研究にSPF環境で飼育したクリーン動物を用いるのでしょうか。

 まず、実験動物に対する動物福祉の観点から、環境省の基準に疾病予防が義務付けられており(1,2)、SPF環境での飼育はその一つとなります。また、実験に用いた動物が病原性微生物に感染していた場合、実験成績に影響を及ぼし、再現性のある正しい実験結果を得ることが出来なくなってしまうことも重要なポイントです。加えて、ヒトがん研究や、再生医療・幹細胞研究において、動物にヒト細胞の移植実験を行う際、レシピエント(移植を受ける側)には重度免疫不全動物が必要になります。このような免疫不全動物を飼育するためには、高度にクリーンな環境が必須となる訳です。

 このような事情から、医学系の動物実験施設では大変なコストを掛けながらも基本的にSPF環境で動物を飼育しています。ちなみに、我が国における実験動物のSPF化には、前述の実験動物中央研究所の創設者である野村達次先生が多大な貢献をしており、1962年に川崎市野川にSPF動物生産施設を作り、SPFマウスの種親を米国より輸入して、野川でSPFマウスの生産を開始したそうです(3)

2. 実験モデルと飼育環境

 ところで、ヒトの疾患を考えた場合、クリーン動物の結果は必ずしも適切でない(クリーンな飼育環境では病態を反映できない)ことがあります。私たちの研究グループが経験した事例をご紹介したいと思います。

 私がかつて東大医科研に所属していた際、特定の糖鎖を認識する自然免疫受容体の一群であるC型レクチン受容体ファミリー分子の研究プロジェクトに参画していました。この中で、デクチン1というカビの細胞壁構成成分の一つであるβグルカンのセンサー分子をコードする遺伝子Clec7aを欠損させたマウス(Clec7a KOマウス)を用いて、デクチン1の免疫応答における役割の解明に関する研究を行なっていました。私たちは、研究所のSPF環境で飼育しているClec7a KOマウスを用いて大腸炎発症におけるデクチン1の役割を調べました。マウスにデキストラン硫酸ナトリウム塩(DSS)含有水を与えて飼育するだけで、ヒトの潰瘍性大腸炎に類似した急性の大腸炎を誘発することが出来る方法があり、ヒト潰瘍性大腸炎の疾患モデルとして広く使われています。私たちがClec7a KOマウスにDSSを投与して誘導大腸炎を誘発すると、対照の正常マウスと比較して大腸炎がとても軽症となっていることがわかりました。そこでこの結果をまとめて発表しようとしていたところ、Cedars-Sinai Medical Center(アメリカ)の研究グループからClec7a KOマウスにDSS誘導大腸炎を行うと増悪化するという真逆の研究結果が報告されました。ヒトの薬物療法不応答潰瘍性大腸炎(MRUC)患者はCLEC7A遺伝子座に存在する2つの一塩基多型(SNP)ハプロタイプと相関があるという結果と併せての説得力のある研究成果であり、トップジャーナル“Science”誌に掲載されました(4)。ではなぜ、私たちの研究グループと正反対の結果となっていたのでしょうか。

 Cedars-Sinai Medical Centerの研究グループは、日和見病原性真菌であるカンジダ菌がマウス腸内に存在しており、DSS投与で大腸上皮が傷害を受けバリア機能が破綻した際にデクチン1が存在しないとカンジダ菌をうまく排除出来ずに炎症が増悪化すると説明していました。これはヒトMRUC患者でも同様に説明可能とのことでした。デクチン1は特定の真菌に対する自然免疫センサー分子としての役割を持っていることから、まさに予想されうる結果です。一方、私たちの動物は極めてクリーンな環境で飼育していたことから腸内真菌が存在せず、このような増悪化は起こりようがなかったのです。そのため、デクチン1の持つ別の機能によって腸管が抗炎症の状態になっていたのです(詳細については参考文献5,6,7をお読みください)。

3. 最後に

 私たちは、再現性のある質の高い動物実験を担保するために、実験動物をクリーンな状態を保ちながら大切に飼育しています。これはがん研究や再生医療研究には欠かせないものなのですが、免疫学などに関係する研究を行う際には、少し注意が必要です。SPF環境で飼育されたマウスの免疫状態は、ヒトでいうと未成熟な幼児の状態に近いとの報告もなされています(8)。すなわち、病態を発現させるため“ちょうどよい”程度の感染症(環境微生物)への暴露も必要という概念もあると思うのですが、それをコントロールし、さまざまな研究に対して適切な環境を一律に提供するというのは現実的ではないのかもしれません。

 最近、コロナ感染を防ぐ目的による過剰な対応(行き過ぎた清潔な環境維持)のため、子供たちが幼少期にかかることの多い疾患(サイトメガロウイルス、EBウイルス、トキソプラズマなど)にかからずに大人になってしまうことが想定されており、将来の危険性が憂慮されています。

 ヒトの現実社会も、実験動物の衛生管理も、一筋縄ではいきませんね。

4. 参考文献

1. 実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準 (環境省)

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/nt_h180428_88.html (cited 2022. Sept. 29)

2. 実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説 (環境省)

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2911.html (cited 2022. Sept. 29)

3. 六匹のマウスから―「私史」日本の実験動物・45年 講談社(1991)

4. Iliev I.D. et al., Interactions between commensal fungi and the C-type lectin receptor Dectin-1 influence colitis. Science 336(6086): 1314-17 (2012) DOI: 10.1126/science.1221789

5. Tang C. et al., Inhibition of Dectin-1 Signaling Ameliorates Colitis by Inducing Lactobacillus-Mediated Regulatory T Cell Expansion in the Intestine. Cell Host Microbe 18 (2): 183-97 (2015) DOI: 10.1016/j.chom.2015.07.003

6. 唐 策ら.低分子βグルカン摂取により炎症性腸疾患を予防,改善する 昆布がお腹の調子を整える!—腸内細菌を介した分子機構の解明— 生物と化学 55(2): 128-34 (2017)  DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.128

7. Iliev I.D. Dectin-1 Exerts Dual Control in the Gut. Cell Host Microbe 18 (2): 139-41 (2015)  DOI: 10.1016/j.chom.2015.07.010

8. Beura L.K. et al., Normalizing the environment recapitulates adult human immune traits in laboratory mice. Nature 532(7600): 512-6 (2016) DOI: 10.1038/nature17655

コラム

理研マウスENUミュータジェネシスプロジェクトを利用したフォワードジェネティクス研究

岩手大学農学部共同獣医学科・実験動物学研究室 古市 達哉

 

 マウス遺伝学の研究には大きく分けて2つのアプローチが存在します。フォワードジェネティクス(順遺伝学)アプローチでは、遺伝性がみられる異常形質をもつマウスを見つけ出し、その原因となる遺伝子変異を連鎖解析などの手法を用いて同定します。リバースジェネティクス(逆遺伝学)アプローチでは、特定の遺伝子のノックアウト(KO)やトランスジェニックマウスを作製し、どのような表現型が発現するのかを調べます。私はこの2つのアプローチを駆使して、骨格系(骨、軟骨、関節)に異常を示す遺伝子変異マウスを同定し、骨格の発生メカニズムや骨関節疾患の病態機序について研究しています。

 私は2004年〜2010年の間、理化学研究所に勤務していました。この頃、理研ゲノム科学総合研究センター(GSC)では、大規模なマウスENUミュータジェネシスプロジェクトが展開されていました1)2)。N-ethyl-N-nitrosourea(ENU)はゲノムDNA上に高頻度で点突然変異を誘発する化学変異原であり、ENUを腹腔内投与した雄マウスと正常雌マウスを交配することで誕生した約10,000匹の突然変異第一世代(G1)マウスから摘出した精子の凍結保存ライブラリーが構築されました。私たちは、これらG1と次世代のG2で誕生した多くの遺伝子変異マウスの中から、骨格系に異常を示す個体を見つけ出し、原因遺伝子の同定を試みるフォワードジェネティクス研究を展開してきました。

1. 変形性関節症モデル : M451マウス

 はじめに同定した M451マウスは常染色体顕性(優性)形式で短指症を呈するマウスで3)、連鎖解析によって原因遺伝子は第2染色体上にマップされました。この領域には自然発症短指症マウス(bpマウス)の原因遺伝子であるGdf5が存在しており4)、予想通りにM451マウスのGdf5遺伝子にはp.Trp408Arg(408番目のTrpがArgに置換される)ミスセンス変異が同定されました。bpマウス以外にも、Gdf5変異によって短指症を発症するマウスは報告されており、科学的価値があまり高くない結果に落ち着きそうだと落胆していたのですが、研究は急展開していきました。

 私は当時、池川志郎先生が率いる理研生命医科学研究センター・骨関節疾患研究チームに所属していたのですが、池川先生らはヒトGDF5遺伝子上の一塩基多型(SNP)が変形性関節症(OA)の疾患感受性と関連していることを報告していました5)。OAは関節軟骨の変性や消失を特徴とし、疼痛や歩行障害が生じる疾患です。OAの発症には複数の遺伝要因と複数の環境要因がかかわっており、多因子疾患に分類されます。OAの発症にかかわるSNP(+104 T/C)はGDF5遺伝子のプロモーター上に存在し、OA患者が多く持つ+104Tアレルを持つプロモーターの活性は、健常者が多く持つ+104Cアレルを持つプロモーター活性よりも有意に低下します。つまり+104Tアレルを持つとGDF5産生量が低下し、OAに罹患しやすくなると考えられます。そこで、私たちはp.Trp408Arg変異をホモ接合でもつM451マウスの関節を調べた結果、肘関節の関節軟骨にOAと類似した病変が確認されました(図1A)3)。p.Trp408Arg変異は優性阻害を引き起こす強い変異効果を持っており(図1B)、この一種類の変異だけでOA様の病変が誘発されます。

 M451マウスの研究から、マウス遺伝学からもGDF5がOAの感受性遺伝子であることが証明されました。GDF5の機能異常がOAを引き起こすメカニズムは、まだよくわかっていません。GDF5はBMPスーパーファミリーに属する成長因子で胎生期の関節形成に関わっていることから6)、+104 Tアレルを持つヒトは、OAになりやすい構造的な関節の異常を持っているのかもしれません 。これはX線解析などでは判別できないわずかな異常で、加齢に伴い徐々にOA病変が発現してくると考えられます。またGDF5は関節の恒常性維持に関わっているという報告もありますので、+104 Tアレルを持つヒトでは、この維持機構にわずかな異常が生じているのかもしれません。M451マウスはGDF5とOAの関連を調べるためのよいモデル動物です。

 2. トーランス型扁平異形成症モデル : M413/M856マウス

 次に紹介するM413とM856マウスは共に常染色体顕性形式で体が小型化 (矮小化) するマウスです7)8)。連鎖解析によって原因遺伝子は共に第15染色体上にマップされたことから、両マウスの原因遺伝子は同一の可能性があると思われました。この領域に存在する遺伝子を調べた結果、軟骨で特異的に産生される II型コラーゲンをコードするCol2a1が原因遺伝子の第一候補として選抜され、確かにM413マウスのCol2a1遺伝子にはp.Try1391Ser、M856マウスにはp.Asp1499Alaミスセンス変異が同定されました。

 ヒトにおけるCOL2A1変異は、軟骨無発生症II型、トーランス型扁平異形成症(PLSD-T)、先天性脊椎骨端異形成症といった別々の病気の原因となりますが9) 、PLSD-T患者にp. Try1391Cys、p. Asp1469His変異が同定されていました。すなわち、II型コラーゲンの1391番目のCys、1469番目のAspが、M413またはM856マウスとPLSD-T患者で共に置換されている訳です。それぞれの変異のホモ接合マウスはPLSD-Tと類似の骨格異常を示しており、M413/M856ホモ接合マウスはPLSD-Tモデル動物として有用性であることが示されました。M413とM856マウスの間に表現型の違いはみつかっていませんが、別々の論文として発表することができました7)8) 。

 両マウスの軟骨細胞を電子顕微鏡で観察すると、小胞体が異常に拡張しており、変異コラーゲンタンパク質が小胞体内に貯留していました(図2A)。軟骨における小胞体ストレスマーカーの発現が上昇しており、軟骨細胞は高頻度にアポトーシスを起こしていました(図2B)。つまり、M413/M856ホモ接合マウスの軟骨細胞では異常タンパク質の貯留により過度の小胞体ストレスが付加され、アポトーシスが亢進していることがわかりました。PLSD-Tの第一の原因はII型コラーゲンが細胞外へ分泌されないことですが、軟骨細胞におけるアポトーシスの亢進も大きく関わっているようです。

 最近、さまざまな疾患と小胞体ストレスとの関連が注文されており、小胞体ストレス応答調節薬の創薬研究が展開されています10)。M413/M856マウスは小胞体ストレス応答調節薬の創薬研究に有用なモデル動物ですと締めたいとこですが、応用は難しいと思っています。PLSD-Tは周産期致死性の重度の骨格異常を示し、PLSD-TモデルとなるM413/M856ホモ接合マウスは出生後、すぐに死亡してしまいます。このような致死性の骨格異常を薬で直すのは、現時点では不可能であると思います。しかし、小胞体ストレスが関わっている軽度の骨格異常を示す疾患は存在しており、これらの疾患を対象とした小胞体ストレス応答調節薬の創薬研究に、M413/M856マウスから調整した培養軟骨細胞などが貢献できるかもしれません。

3. 世界初のミスセンス変異によって表現型を発現するCrim1変異マウス

 最後にM2047マウスから得られたimlaマウスを紹介します11)。詳しい説明は省略しますが、ENU変異を誘発したC57BL/6遺伝的背景のM2047マウス12)とDBA/2マウスの交配で誕生したF1マウス同士の交配を行った結果、常染色体潜性(劣性)形式で小眼球症と合指症を発症するマウスが誕生し、imla (iwate microphthalmia with limb anomalies)マウスと命名しました。

 imlaマウスの原因遺伝子の同定は連鎖解析ではなく、全エクソーム解析で行いました。メンデル遺伝する明確な異常を引き起こす遺伝子変異のほとんどは、ゲノム上のエクソンとその周辺領域に存在しており、全エクソーム解析ではゲノム上のエクソンとその周辺領域のDNA配列を全て決定します。その結果、imlaマウス特異的な変異として、218個の変異が抽出され(ENU投与によって、たくさんの変異が誘発されている)、この中の71個は遺伝子産物の機能に影響を及ぼす変異であると予測されました。データベースを用いて、71個の候補遺伝子について調べた結果、Crim1遺伝子のKOマウスが小眼球症、合指症といったimlaマウスと類似の表現型を示すことがわかりました12)Crim1遺伝子周辺の遺伝子多型マーカーを用いた連鎖解析によって、Crim1におけるミスセンス変異(p.Cys140Ser)が imlaマウスの原因変異であることが証明されました。

 C57BL/6遺伝的背景のCrim1 KOマウスは胎生期に死亡しますが、imlaマウスの遺伝的背景をC57BL/6にすると同様に胎生致死になりました。つまり、imlaマウスはC57BL/6とDBA/2をミックスした遺伝的背景であったため、運よく胎生致死を免れて同定されたマウスだったのです。CRIM1はいろいろな成長因子と結合し、それらの活性・局在の調節に関わっていることが報告されています14)。しかし、これらの機能だけでは説明がつかないCrim1 KOマウスの表現型が存在しており、CRIM1は他にもさまざまな機能を持っているはずです。imlaマウスは世界初のミスセンス変異によって明確な表現型を示すCrim1変異マウスであり、今後、CRIM1の新規機能の同定に役立つ可能性を持っています。

4. おわりに

 ジーンターゲッティング技術、ゲノム編集技術の確立によって、マウス遺伝学研究の主流はリバースジェネティクスになっており、最近ではフォワードジェネティクスを用いて発表された論文数はかなり少なくなっています。しかし、リバースジェネティクスだけでは、ミスセンス変異がもたらす重要な表現型を見過ごしてしまう可能性があります。ミスセンス変異は1つのアミノ酸を置換するだけですが、タンパク質に新しい機能を付与したり(gain of function)、1つのアミノ酸が置換された変異タンパク質が正常タンパク質の機能を阻害することがあり(dominant negative)、これらの作用は通常の遺伝子KOがもたらす機能消失 (loss of function)とは異なります。

 理研マウスENUミュータジェネシスプロジェクトは既に終了していますが、構築された変異マウスライブラリーはバイオリソース研究センター(BRC)に保存されており、私たちも利用可能です15)。このライブラリーから、貴重な変異マウスを探してみてはいかがでしょうか。

 今回紹介した研究には多くの先生方のご支援をいただきましたが、特に理研の桝屋啓志先生、若菜茂晴先生(現所属 : 神戸医療産業都市推進機構)、権藤洋一先生(現所属 : 東海大学)、そして池川志郎先生には多大なご支援をいただきました。そして多くの研究は岩手大学獣医実験動物学研究室で卒業研究に取り組んでくれた卒業生によって行われました (H26卒 : 市村さん、H27卒 : 木村さん、佐藤さん、H28卒 : 塚本さん、H30 年卒 : 斎藤さん)。最後に厚くお礼申し上げます。

5. 参考文献

1) Masuya H, Nakai Y, Motegi H, et al. Development and implementation of a database system to manage a large-scale mouse ENU-mutagenesis program. Mamm Genome 15: 404–411 (2004)

2) Sakuraba Y, Sezutsu H, Takahasi KR, et al. Molecular characterization of ENU mouse mutagenesis and archives. Biochem Biophys Res Commun 336: 609–616 (2005)

3) Masuya H, Nishida K, Furuichi T, et al. A novel dominant-negative mutation in Gdf5 generated by ENU mutagenesis impairs joint formation and causes osteoarthritis in mice. Hum Mol Genet 16: 2366–2375 (2007)

4) Storm EE, Huynh TV, Copeland NG, et al. Limb alterations in brachypodism mice due to mutations in a new member of the TGF beta-superfamily. Nature 368: 639–643 (1994)

5) Miyamoto Y, Mabuchi. A, Shi D, et al. A functional polymorphism in the 5′ UTR of GDF5 is associated with susceptibility to osteoarthritis. Nat Genet 39: 529–533 (2007)

6) Sun K, Guo J, Yao X, Guo Z, Guo F. Growth differentiation factor 5 in cartilage and osteoarthritis: A possible therapeutic candidate. Cell Prolif 54: e12998 (2021)

7) Furuichi T, Masuya H, Murakami T, at al. ENU-induced missense mutation in the C-propeptide coding region of Col2a1 creates a mouse model of platyspondylic lethal skeletal dysplasia, Torrance type. Mamm Genome 22: 318–328 (2011)

8) Kimura M, Ichimura S, Sasaki K, et al. Endoplasmic reticulum stress-mediated apoptosis contributes to a skeletal dysplasia resembling platyspondylic lethal skeletal dysplasia, Torrance type, in a novel Col2a1 mutant mouse line. Biochem Biophys Res Commun 468: 86–91 (2015)

9) Nishimura G, Haga N, Kitoh H, T, et al. The phenotypic spectrum of COL2A1 mutations. Hum Mutat 26: 36–43 (2005)

10) Marciniak SJ, Chambers JE, Ron D. et al. Pharmacological targeting of endoplasmic reticulum stress in disease. Nat Rev Drug Discov 21: 115–140 (2022)

11) Furuichi T, Tsukamoto M, Saito M, et al. Crim1C140S mutant mice reveal the importance of cysteine 140 in the internal region 1 of CRIM1 for its physiological functions. Mamm Genome 30: 329–338 (2019)

12) Ichimura S, Sasaki S, Murata T, et al. An ENU-induced p.C225S missense mutation in the mouse Tgfb1 gene does not cause Camurati-Engelmann disease-like skeletal phenotypes. Exp Anim 66: 137–144 (2017)

13) Chiu HS, York JP, Wilkinson L, et al. Production of a mouse line with a conditional Crim1 mutant allele. Genesis 50: 711–776 (2012)

14) Iyer S, Pennisi DJ, Piper M. Crim1–, a regulator of developmental organogenesis. Histol Histopathol 31: 1049–1057 (2016)

15. 理研BRC・ENU誘発突然変異マウス系統の提供, https://mus.brc.riken.jp/ja/ catalogue_gsc, (cited Sept 25, 2022).

コラム

ブタの麻酔医〜周術期管理に関する総論的なお話〜

鹿児島大学先端科学研究推進センター 生命科学動物実験ユニット

瀬戸山健太郎

 ブタは解剖学的、生理学的にヒトと類似しているため、外科的処置を伴う研究や医療技術トレーニングで利用される機会が増えています。そのため、研究をサポートする立場である我々にとってブタの麻酔や周術期管理の知識/技術の習得は必要不可欠です。そこで、今回、ブタの麻酔(周術期)管理の基本事項について紹介したいと思います。なお、私自身、クラウン系ミニブタ(30~40kg)を用いた研究に多く従事してきたことから、これら経験に基づく私見が含まれていますこと、ご容赦ください。

〇術前処置

 ブタでは麻酔時の誤嚥等を防止するため12時間以上の絶食が必要です。特に消化管の処置を行う際は消化管内容物を空にするため24~48時間の絶食が必要となります[1, 2]。絶食が不十分な場合、ブタの結腸が横隔膜を圧迫するため呼吸管理が難しくなり、腹腔内の操作も困難になるケースがあるので、絶食処置は確実に行うことがとても重要です。飲水は術前まで可能ですが、腹腔内手術を行う際には4~6時間程度の絶水を行います[1]。また、経験的に絶食を行ったブタは飲水量が減少する傾向にあるので、麻酔導入後の輸液は十分に行った方が良いでしょう。

麻酔導入ブタではイヌやネコに比べて体が大きく、力が強いため保定が容易でないこと、体表の血管が少ないことから、アプローチが容易な筋肉内投与による麻酔前投与、麻酔導入を行うのが一般的です(図1)。麻酔前投与には流涎抑制や麻酔による徐脈防止のためアトロピンを用いるのが一般的です[1]。麻酔導入薬としては、ミダゾラム-メデトミジン、メデトミジン-ケタミン、ミダゾラム-メデトミジン-ブトルファノールなど様々な薬剤が用いられますが[2, 3]、これら薬剤では麻酔導入が不十分(体動)なケースを経験したことがあります。そのため、当施設ではミダゾラム-メデトミジン-ケタミン混合薬の筋肉内投与にて麻酔導入を実施しています。麻酔導入が不十分な場合には薬剤を追加で投与する必要がありますが、追加投与は呼吸停止、血圧低下などのリスクがあることを十分に考慮し、追加投与の必要性や投与量について、追加投与する際に慎重に検討する必要があります。また、麻酔導入~挿管までは動物にとって呼吸停止や血圧低下といったリスクが高い時間帯であるため、呼吸状態、血圧、可視粘膜の確認を怠ってはいけません。

麻酔の維持管理(術中管理)麻酔導入後は挿管を実施し、麻酔維持(吸入麻酔もしくは静脈麻酔)へ移行します。ブタがどの体位であっても挿管ができなければなりませんが、あまり経験がない方は腹臥位で実施すると挿管しやすいかと思います(図2)。術中は麻酔、呼吸、循環、体温の管理を行う必要がありますが、その管理には生体情報モニタリングシステムが有用です。ただし、モニタリングシステムのみに頼るのではなく、しっかりと動物を観察(見る、触る、聞く)することも重要なポイントです。モニタリングシステムと動物(術野含む)の双方を観察することで生体に何が生じているのか的確に判断することが可能となると私は考えています。

○麻酔管理:当然ながら不適切な麻酔深度は外科的処置を困難にさせるだけでなく生命を脅かす可能性があります。外科処置を円滑に進め、再現性のある手技を行うためには適切な麻酔深度を保つ必要があります。麻酔深度は眼瞼、角膜反射や心拍数、血圧の変化、呼吸数の変化、体動などがその指標として挙げられます[1, 3]。また、自発呼吸にて管理を行っている場合は呼吸数の変化、開腹手術の場合にはさらに腹圧の変化も麻酔深度の指標となります。ヒトの臨床で使用されているBispectral index(脳波等を解析するシステム)については、ブタでの有用性は低いとされており、現時点でブタへの応用は難しいと考えられます[1]。

○呼吸管理:麻酔下での呼吸管理は自発呼吸による管理と陽圧呼吸(人工呼吸)による管理に大きく分けることができます。自発呼吸は文字通り動物の自発呼吸を主体に呼吸管理を実施する方法であり、陽圧呼吸は人工呼吸器や用手法により強制的に換気を行う方法です。これらの呼吸管理は動脈血液ガス(pH:7.3~7.5、PaO2>80 mmHg、PaCO2:35~45 mmHgで維持)もしくは血中酸素飽和度(SpO2)や終末呼気炭酸ガス濃度(EtCO2)を参考(図3)に行います(SpO2:>90%、EtCO2:35~45 mmHgで維持)。自発呼吸管理を行う際には、これらのデータを参考にして、適宜、用手法による補助呼吸を行います。また、陽圧呼吸では換気条件(呼吸回数、1回換気量、吸気時最大気道内圧、PEEP、IE比など)を適宜変える必要があります。

○循環管理:麻酔下においては、外科処置中の出血や不感蒸泄などによる循環血液量の減少、不適切な麻酔深度による血圧、心拍出量の低下、モデル動物の病態に起因した循環不全や不整脈に対応するため、心電図、心拍数、血圧をモニターする必要があります。

 術中は循環血液量を維持(心拍出量、血圧の維持)するために基本的に輸液(10~15ml/kg/hr)を行います[1, 2]。ブタでは経験的に、輸液量が少ないと腹腔内臓器を展開する際に血行動態の変化が著しく、循環管理が難しくなることがあるため、輸液はしっかりと実施した方が良いと考えています。私は絶食処置を行ったブタでは脱水(循環血液量の減少)傾向があるように感じています。絶食にともなって飲水量が減少するのかもしれません。そのため、臓器移植など侵襲の大きい外科手術を行う際には、輸液開始1時間ほどは流量を多め(30~40ml/kg/hr)にすることをお勧めします。

 また、侵襲の大きい手術の際には必ず尿量をモニタリングする必要がありますが、雄ブタではそのペニスの形状から外尿道口からカテーテルを挿入することが困難なケースがほとんどです。この場合、我々は必要に応じて開腹し、膀胱にカテーテルを留置します。

○体温管理:術中は麻酔や開腹/開胸により体温が低下しやすい状況にあります。体温が著しく低下すると血圧低下や徐脈、不整脈などの循環不全や代謝性アシドーシスの進行が認められ、生命を脅かすことがある[1]ため、ブランケットや保温マット(図4)の利用により体温の保持に努めます。また、ブタでは揮発性吸入麻酔薬や筋弛緩薬などを用いた際に、悪性高熱(筋硬直、頻脈、異常な高熱)が認められることがあるので注意が必要です。

術後管理術後の低体温を防止するための保温の実施や手術領域によってはサードスペースへの細胞外液喪失による循環血液量の減少を補うため輸液の実施について、検討、準備しておく必要があります。また、感染防止の抗生剤の投与や鎮痛剤の投与についても実施します。なお、抗生剤、鎮痛剤の投与は術前から実施しておくことが推奨されます。

 以上、ブタの麻酔について、総論的な内容を経験も交え、ざっくりと紹介しました。先生方の参考になれば幸いです。

参考文献

1. Lais M. Malavasi. (2015). In “Veterinary Anesthesia and Analgesia, The fifth edition of Lumb and Jones” (Kurt A.Grimm ed). pp928-939, Wiley Blackwell, UK.Paul Flecknell. (2015).

2. Laboratory Animal Anaesthesia 4th edition. pp 77-108, 238-242, Academic press, UK.

3. Alison C. Smith and M. Michael Swindle. (2008). Anesthesia and Analgesia in Swine. In “Anesthesia and Analgesia in Laboratory Animals 2nd edition” (Richard E. Fish, ed). pp 414-436, Academic press, UK.

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