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文献紹介の記事一覧

運動器を制御する非線維性コラーゲン分子の役割  〜遺伝子改変マウスモデル研究からわかったこと〜

岡山理科大学獣医学部 伊豆弥生(JALAM教育委員会)

 コラーゲンは、哺乳動物を構成するタンパク質の中で最も多く含まれる(全タンパク質の約30%)細胞外マトリクス構成成分であり、3本のa鎖からなる3重らせん構造(コラーゲン構造)を特徴とした分子群を表します。コラーゲン分子は、現在までに28種類が発見され、順番にI型、II型とローマ数字で番号が付けられています。コラーゲン分子は、自身が重合し線維を形成する線維性コラーゲンと、線維形成をしない非線維性コラーゲンの2つに大別されます。「コラーゲン」としてよく知られているのは、I型やII型であり、これらは線維性タイプに分類され、組織の構造基盤を構築します。一方、非線維性タイプは、ビーズ状や膜貫通型など様々な構造をもち、線維性タイプが作る線維の太さや長さなどの調節に関与する他、細胞の増殖や分化など、生理活性分子として機能することも知られています。私はこれまで、非線維性コラーゲンのうち、VIとXII型コラーゲンに着目して研究を行ってきましたので、本コラムでは、これらコラーゲン分子による運動器制御機構について、動物モデルの研究結果とともに紹介したいと思います。

コラム

がんも遺伝する:モード・スライの功績

 現在では、化学物質、活性酸素、ウイルス感染、生活習慣や加齢など、さまざまな原因により複数の遺伝子に異常が生じ、がんが生ずることがわかってきている。本コラムでは、実験動物学の黎明期である1900年代初頭の化学発がん説やウイルス発がん説が優勢な頃、マウスを用い、がん遺伝説を提唱したモード・スライ(Maud Slye)を紹介します。

独楽鼠(こまねずみ)

 リンネが名付けたマウスの学名「Mus musculus(ラテン語)」のmusは古代サンスクリット語の「泥棒」を意味するmushaに由来している。ディズニーが自室に迷い込んだマウスを餌付けし、このマウスを参考にキャラクターを考案したというのは架空の話のようだが、招かれざる客が、歓迎すべき客となり、飼い慣らし繁殖したものが現在の愛玩用マウス(ファンシーマウス)になったとの説が有力である。他の愛玩動物と同様、古代より愛好家たちは、興味深い毛色や行動パターンを持つ珍しいタイプを選んで交配・維持してきたようだ。1920年代には、英米でマウス愛好家組織が結成されたほどポピュラーな存在になった。このムーブメントは1927年のミッキーマウスの誕生にも影響を与えたかもしれない。

 1890年代の米国では、ワルツを踊るようにくるくる回る、ジャパニーズワルチングマウス(Japanese waltzing mouse :JWM)がペットとして人気を博した。心理学者のロバート・ヤーキーズは、このマウスの由来や習性を調べ本にまとめている [1]。このワルツを踊るマウスは、紀元前の中国の漢の時代の文献に登場している。日本では独楽鼠または舞鼠と言われていた。JWMは、中国から日本を経て欧州に到着し、その後、米国に上陸したと思われる。ヤーキーズが所有したJWMは、白地に黒の斑点や縞模様が入っていたことから、JF1マウス(パンダマウス)と同様、エンドセリン受容体B型遺伝子(Ednrb)の変異をもっていたのであろう [2]。JWMは、旋回運動を示すほか難聴でもあり、これらの症状は、遺伝性の内耳の構造異常に起因する場合が多い。平衡感覚がおかしいので、体勢を維持するために旋回するのである。この表現型(遺伝変異)を持つマウスは1947年にジョージ・スネルによってジャクソン研究所へ導入後、近交系C57BL/10に交配することで変異遺伝子が維持され、現在でも同所に受精卵が凍結保存されている[2]。2001年に、聴覚と平衡感覚器官の異常の原因としてカドヘリン23遺伝子の変異が同定された [3, 4]。また、カドヘリン23は、人の先天的難聴を伴う遺伝病であるUsher症候群の原因遺伝子と同一であることが判明した [5]。

コラム

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

文献紹介:フィンランドにおける実験用ビーグルの最初のリホーミング:社会化訓練からフォローアップまでの完全なプロセス

The First Rehoming of Laboratory Beagles in Finland: The Complete Process from Socialisation Training to Follow-up

Laura Hänninen, Marianna Norring

Altern Lab Anim. 2020 May; 48(3): 116-126. doi: 10.1177/0261192920942135

概要
実験動物の運命は、倫理的なジレンマであり、社会的な関心事でもある。EUでは、指令2010/63/EUにより、安楽死ではなく、元実験動物のリホーミングが認められている。しかし、我々の知る限り、フィンランドでビーグルのリホーミングが行われたという報告は過去にない。本研究は、ヘルシンキ大学で初めて行われた実験用ビーグルのリホーミングの過程を説明し、その成功を評価することを目的としている。動物保護団体とヘルシンキ大学の協力のもと、合計16頭の元実験用ビーグルが里親として迎えられた。これらの犬は、動物の認知に関する研究に参加したり、動物用医薬品の開発中に小さな処置を受けたりした経験があります。犬たちがまだ実験室にいた頃、数ヶ月に及ぶ社会化トレーニングプログラムが実施された。里親へのアンケート調査、関係者(研究者、動物保護団体、動物管理者)へのインタビューを通じて、社会化トレーニングプログラム、若い犬と高齢の犬の再導入の比較成功、里親の選定基準、新しい飼い主への再導入の成功など、全体のプロセスが評価された。大半の犬は新しい家庭環境によく適応した。実験的な使用を終えた時点で安楽死させることは不必要であり、欧州指令の目的に反する可能性があった。

フィンランドでは、科学的または教育的目的のための動物の使用を対象とする国内法(Act 497/2013)があり、科学的目的のために使用される動物の保護に関する欧州指令2010/63/EUに基づいています。
EU指令は実験動物の運命に関わり、すべての欧州機関に実験犬が実験用途に不要になった後にリホーミングする機会を与えています。
Article 19では、実験に使用された動物は、動物の健康状態がそれを許し、公衆衛生、動物の健康、環境に対する危険がない場合、一定の条件を満たせば、リホーミングすることができるとしています。また、EU指令の前文26には、「手続きの最後に、動物の将来に関して、動物福祉と環境への潜在的なリスクに基づいて、最も適切な決定がなされるべきである。福祉が損なわれるような動物は、殺処分されるべきである」との記述もあります。
したがって著者らは、暗黙の了解として福祉が損なわれない動物は殺処分されるべきではないと考えています。
本研究は、フィンランドで行われた実験用ビーグルの最初のリホーミングと社会化プログラムについて述べたものです。

コラム

特集:マウスの最適な飼育室温度(1) NAFLD

実験動物の教科書には、実験用マウスの標準的な飼育室温は20~26℃と記載されています。一方、体温維持にエネルギーを使用しないマウスのサーモニュートラルゾーンは、30℃前後と言われています。室温がマウスの表現型に及ぼす影響を示した文献を紹介し、実験用マウスは何℃で飼育するのが最適なのかを、多面的に考えていきます。

文献紹介:非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のモデルとしてのマウス -サーモニュートラル飼育により、性差のない悪化した病態を再現できる

Giles, D., Moreno-Fernandez, M., Stankiewicz, T. et al. Thermoneutral housing exacerbates nonalcoholic fatty liver disease in mice and allows for sex-independent disease modeling. 

Nat Med 23, 829–838 (2017). https://doi.org/10.1038/nm.4346

(概要)

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肝硬変や肝細胞癌の前兆として知られている、世界的に最も一般的で重要なヒトの慢性肝疾患です。ヒトのNAFLDの病態を再現できるモデル動物を用いることで治療法の開発が可能になります。ところが、広く実験動物として利用されているマウスを用いた場合、高脂肪食給餌などの方法でNAFLDの症状が現れるものの、症状に性差が見られ、肝線維化の進行が制限されるなど、ヒトのNAFLDとは異なる病態を示すそうです。

 実験用マウスの標準的な飼育室温(TS)は20~26℃です(ILAR Guide)。一方、マウスが基礎代謝によって体温を維持できる室温、すなわちサーモニュートラルゾーン(TN)は30~32℃です。マウスをTN条件で飼育すると、寒冷ストレスが緩和され、カテコールアミンやコルチコステロイドの産生量が低下します。また、LPS投与による発熱反応が増強されます。すなわち「代謝」と「炎症」の両方に影響を及ぼします。そこで、著者らはTN飼育によって、より「ヒトに近い」NAFLDのマウスモデルを開発できるのではないかと考え、研究を行いました。

 実験の結果、TN飼育したマウスはTSと比較して、高脂肪食給餌による肝重量の増加、および肝脂肪症が悪化しており、肝臓のケモカイン発現、マクロファージの肝臓への浸潤、細菌の肝臓への移動が顕著に悪化したとのことです。また、ヒトNAFLD患者に類似した腸内細菌叢の変化、特にグラム陰性菌の拡大が見られました。さらにTlr4fl/flマウスとVav1-Creマウスを用いることにより、TN飼育と高脂肪食給餌によるNAFLDの病態進行に、造血系細胞のTLR4シグナルが関与していることが明らかになりました。TN飼育の肥満IL-17軸欠損マウス(Il17ra-/-およびIl17a-/-)は、TN飼育の野生型対照マウスと比較して、耐糖能異常、肝重量および肝細胞障害の悪化から免れました。一方、TN飼育と高脂肪食給餌により、C57BL/6では肝線維化は見られませんでしたが、AKRマウスでは肝線維化が誘導されたそうです。また、雄マウスのみならず雌マウスにもNAFLD様病態の徴候が見られました。以上のことから、TN飼育+高脂肪食給餌によるNAFLDの発症マウスは、免疫反応、代謝応答、腸内細菌叢の変化を伴う、より「ヒトに近い」新しい疾患モデルであることが明らかになりました。

【コメント】

 論文中のコメントにもありましたが、ヒトの場合、先進国では住居内の温度調節機能を利用して、一日の大半を中温域で過ごす傾向にあり、さらに着衣等も考慮に入れるとサーモニュートラルに近い環境で過ごしていると考えられます。遺伝子型だけでなく、飼育温度などの環境的要因を工夫することで表現型の変動をもたらし、ヒト疾患モデルを作出することができた点は、医学生物学の観点のみならず、実験動物学の観点からも興味深いと感じました。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

文献紹介:犬、猫におけるミノキシジル外用薬の暴露状況とその毒性:211症例(2001-2019)

Topical Minoxidil Exposures and Toxicoses in Dogs and Cats: 211 Cases (2001-2019)

Kathy C. Tater, MPH, DVM, DACVD, Sharon Gwaltney-Brant, DVM, PhD, DABVT, DABT, Tina Wismer, MS, DVM, DABVT, DABT 

 Am Anim Hosp Assoc. 2021 Sep 1;57(5):225-231.  doi: 10.5326/JAAHA-MS-7154.

ミノキシジルは、CM等で宣伝されている育毛剤の主要成分です。この研究は、データベースに登録されている過去の症例報告に基づき、疾患の要因と発症の関連を調べた後ろ向き研究(retrospective study)であるため、エビデンスレベルは高くありません。本当の意味で犬・猫におけるミノキシジルの毒性を調べるためには、実験的に犬猫にミノキシジルを摂取させる(動物実験)、あるいは育毛剤を使用している飼い主と、使用していない飼い主に飼育されている犬猫の中毒症状の発症率を調べる、前向き研究(prospective study)が必要です。しかしながら、ミノキシジルの毒性については、種差(人間には安全な濃度でも、犬猫には危険)があり、犬猫は少量摂取するだけで臨床症状を呈する可能性があるので、育毛剤の保管や廃棄には十分注意が必要でしょう。また、ミノキシジルは重度の中毒を起こす危険性があるため、犬や猫の脱毛症の治療には使用しない方が良さそうです。

(要旨)

 この論文では、犬と猫におけるミノキシジルへの曝露と中毒の疫学を明らかにするために、米国の動物虐待防止協会の動物毒物管理センターにおけるデータベースに登録されているミノキシジル外用薬に暴露した犬と猫211症例を調べました。臨床的に中毒症状を呈した87例(猫62例、犬25例)については、病歴を詳細に検討しています。猫の場合、最も一般的な暴露状況としては、飼い主が自分の脱毛のためにミノキシジルを塗布している間の、意図しない摂取(例:ペットが飼い主の皮膚や枕カバーを舐めた、薬をこぼしたときにペットが飛び散った)が、最も一般的な暴露状況でした。犬では、探索行動(例:ゴミ箱の中を探す)による暴露状況が最も多く認められました。臨床症状を呈した症例では、ほとんどが中等度または重度の疾患を発症し犬56.0%、猫59.7%)、猫の場合、飼い主がミノキシジルを使用した後に臨床症状を呈した62例中8例(12.9%)が死亡しています。因果関係については、検討の余地はありますが、ペットの飼い主は、ミノキシジルの偶発的な暴露による犬や猫の中毒のリスクについて知っておく必要があります。

コラム

凄いぞ 実験動物! – 2021 年アルバート・ラスカー賞は光遺伝学 –

実験動物から得られた画期的成果をご紹介します。
〜国立大学法人動物実験施設協議会の許可を得て転載〜

 今年のアルバート・ラスカー基礎医学研究賞は光遺伝学の発展に貢献した 3 名の科学者 が受賞されました。本賞の受賞者はノーベル生理学・医学賞を授与されることが多く、た いへん権威ある賞です。ディーター・エスターヘルト博士は光駆動の水素イオンポンプ活 性を示すバクテリオロドプシンを発見、ペーター・ヘーゲマン博士は現在光遺伝学で汎用 されているイオンチャネル型の光活性化タンパクであるチャネルロドプシンを発見、カー ル・ダイセロス博士はこの分子を神経細胞に発現させ光応答させるシステムを作成、動物 の行動を光で制御することに成功しました。光遺伝学は実験動物の脳機能解析に応用され ており、多くの画期的な研究成果が得られています。今回は、その一部をご紹介します。

心を科学

 初めてのデートや失恋など強い感情はひとつの 記憶として心の中に長く残ります。この記憶は記 憶痕跡と呼ばれます。最近では記憶痕跡が脳のひ とつの場所だけでなく連携し広く存在していると 考えられているようです。事実、記憶には五感的 な要素が含まれ総合的なものなのです。2012 年にマサチューセッツ工科大学の利根川 進先生(1987 年ノーベル生理・医学賞受賞)たちはマウ スの記憶痕跡に関わる脳の特定の神経細胞にチャ ネルロドプシンを遺伝子操作で発現させ、マウス に恐怖体験をさせた後、光刺激のみでマウスの心に残っている恐怖体験の記憶痕跡を想起 させることに成功しました。心は形あるものの変化に基づいていることを光遺伝学と実験 動物で証明した画期的な研究です。

Optogenetic stimulation of a hippocampal engram activates fear memory recall Liu et al., (2012) Nature, 484: 381-385. doi: 10.1038/nature11028

コラム

文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査

A semi-structured questionnaire survey of laboratory animal rehoming practice across 41 UK animal research facilities

Tess Skidmore, Emma Roe

PLoS One. 2020 Jun 19;15(6):e0234922. doi: 10.1371/journal.pone.0234922.

概要
実験動物が福祉を損なうことなく実験を乗り切った場合、その将来について交渉しなければならない。リホーミングが考慮されるかもしれない。この論文では、英国の施設における動物のリホーミングの受け入れ状況と、リホーミングするかしないかの判断に関わる道徳的、倫理的、実用的、規制的な考慮事項を示す研究結果について報告している。本研究では、英国の研究施設でリホーミングされている動物の数や種類、リホーミングを行っている主な動機、リホーミングを行っていない施設にとっての障壁などを理解することで、広く知られている文献のギャップを解消することを目的としています。英国にある約160の研究施設のうち、41施設がアンケートに回答し、回答率は約25%でした。その結果、リホーミングは日常的に行われていることが示唆されましたが、その数は少なく、2015年から2017年の間にリホーミングされたとされる動物はわずか2322頭でした。少なくとも10施設のうち1施設はリホーミングを行っていることになります。ある種の動物(主に猫、犬、馬)が他の種(げっ歯類、農耕用動物、霊長類)よりも明らかにリホーミングされることを好む傾向があります。実際、実験室で飼育されている動物の94.15%がげっ歯類であるにもかかわらず、2015年から2017年の間にリホーミングされたことがわかっている動物の5分の1以下(19.14%)を占めています。リホーミングの主な動機は、スタッフの士気を高め、施設の倫理的プロファイルをポジティブにすることです。障壁となるのは、再帰の際の動物の福祉に対する懸念、動物に対する科学的な需要が高く、リホーミングの対象となる動物が少ないこと、そして、特定の動物(主に遺伝子組み換え動物)がリホーミングに適していないことです。この研究の結果は、リホーミングを選択している施設だけでなく、現在リホーミングを行っていない施設にも役立つものです。リホーミングを推進することで、実験動物の生活の質を向上させ、施設のスタッフが殺処分の道徳的ストレスを克服し、実験動物の運命に関する社会的関心に応えることができるという利点があります。英国の研究施設の視点から見たリホーミングについての理解が得られて初めて、適切な政策や支援が可能になります。

英国内務省の定義によると、リホーミングとは、”関連する保護対象動物を施設から、Animals (Scientific Procedures) Act に基づく施設ではないその他の場所に移動させること”とされています。そして、その「場所」としては、農場、水族館、動物園、または個人宅が選ばれています。

調査の結果、2015年から2017年の間に、英国の約160の施設のうち、少なくとも19施設、11.9%がリホーミングをしていました。リホーミングされた数は2322匹で、対象となる動物種に大きく依存していました。

実験室で飼育されている動物の94.15%がげっ歯類であるにもかかわらず、リホーミングされたとされる動物の5分の1以下(19.14%)であり、逆に、鳥類、猫、犬、馬、両生類、農業動物は、飼育されている動物のわずか5.84%を占めるにもかかわらず、リホーミングされた全種の80.86%を占めていました。

特集

文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?観察テストと新しい飼い主へのアンケート調査の結果

How do rehomed laboratory beagles behave in everyday situations? Results from an observational test and a survey of new owners

Dorothea Döring, Ophelia Nick, Alexander Bauer, Helmut Küchenhoff, Michael H Erhard

PLoS One. 2017 Jul 25; 12(7): e0181303. doi: 10.1371/journal.pone.0181303. eCollection 2017.

概要
実験用の犬が一般家庭に戻されると、犬の生活環境は大きく変化します。慣れ親しんだ研究施設の限られた環境を離れ、新しい家庭では生物や無生物の様々な刺激に遭遇します。文献によると、リホームの経験はほとんど肯定的であるとされていますが、日常的な状況における犬の科学的な観察は行われていません。そこで我々は、74頭の実験用ビーグルを用いて、新しい家に迎え入れてから6週間後に観察テストを行った。このテストには標準化されたタスクと要素が含まれており、犬たちは新しい飼い主との具体的なやりとりや散歩中に観察されました。さらに、この74頭と71頭の飼い主は、里親になってから1週間後と12週間後に、標準化された電話インタビューに参加し、日常的な場面での犬の行動について質問に答えました。観察テストでは、犬は人間や犬に対してほとんど友好的に振る舞い、飼い主が操作している間も寛容で、散歩中は交通量が多くてもリラックスしていました。80%(n=71のうち)の犬は、リードを引っ張らずに行儀よく歩いていた。インタビューによると、大多数の犬が望ましい、友好的でリラックスした行動を示しており、アンケート結果は犬と飼い主の絆を反映していた。様々な要因(年齢、性別、出身地など)の影響を混合回帰モデルで分析したところ、過去2回の行動テストとインタビューの結果を確認することができました。具体的には、研究施設で飼育されていた犬は、研究施設が商業的な実験用犬のブリーダーから購入した犬よりも、有意に良いスコアを示した(p = 0.0113)。本研究の結果は、リホームされたビーグルたちが新しい生活環境にうまく適応できたことを示している。

ドイツでは、多くの企業や大学が長年にわたってリホーミングを促進しており、ドイツの動物福祉法は、脊椎動物の殺害を「正当な理由なしに」罰せられる犯罪と宣言しています。ドイツのほとんどの犬は、専門の動物福祉団体を通じてリホームされています。

本研究では、ドイツの製薬会社(Bayer AG, Leverkusen, Germany)で飼育されている145頭の実験用ビーグルが研究対象となりました。平均年齢±標準偏差は2.2±1.5歳、生後2か月から7.9歳のオス65頭、メス80頭でした。研究施設内の6m2の室内犬舎で、主に単独で飼育されており、少なくとも1日1回は屋外のランを利用していました。犬舎には、寝床、木製の噛みつき棒、犬用のおやつが用意されており、また、犬たちは採血、一般的な検査、経口投与、ワクチン接種などの医療行為に慣れていました。

インタビューの結果では、大多数の新しい飼い主は、愛犬が自分との接触を求め、撫でられるのが好きで、グルーミングも喜んで許可し、ほとんどの犬は、子供や他の犬を含む他の家族に対して友好的であると報告されました。犬たちは獣医師に対しても寛容で、通行人や見知らぬ子供に対する犬の行動は友好的で慎重でした。

見知らぬ子供、飼い猫、獣医師に対する行動だけが、時間の経過とともに若干悪化したとのことですが、時間の経過とともに望ましい行動の出現率が増加しており、犬は日常生活に適応し、飼い主との情緒的な結びつきが見られたと考えられています。

特集