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動物福祉の評価ツールのご紹介-2
〜福祉を評価するツールを紹介するサイト1:USDAのNational Agricultural Library〜
前回の「動物福祉の評価ツールのご紹介-1」では、本シリーズのイントロダクションとして、AVMA((American Veterinary Medical Association)主催の“学生動物福祉状況の評価コンテスト”を扱いました。
今回は、福祉を評価するツールを紹介するウェブサイトの第一弾として、アメリカ農務省(USDA, United States Department of Agriculture)の国立農業図書館(National Agricultural Library)に格納されている“Animal Welfare Assessments”のウェブページ(下図)を紹介していきたいと思います。

“Animal Welfare Assessments”のページはいくつかのパートに分かれ、“Welfare Assessment Training and Resources”(動物福祉の評価のトレーニングとリソース)、“Literature on Welfare Assessment and Indicators”(動物福祉の評価と指標に関する文献へのリンク集)、“Grimace Scale”(グリマス(しかめっつら)スケール)などが掲載されています。以下、掲載されている情報を順番に説明してみます。なお、情報は2023年1月現在のものです。
動物福祉の評価ツールのご紹介-1
〜AVMA主催の“学生動物福祉状況の評価コンテスト”〜
動物の福祉状況を良くしていこうと言われていますが、日本では、法律、指針や、日本学術会議のガイドラインにおいて、動物の福祉状況に関する評価方法の、簡便で使いやすい具体的な記述・指標は見当たりません。特に動物実験においては、法規制が求めるところが機関管理なので、具体的な記述や指標を設定することにむずかしいところがあることも理解ができますが、動物実験を管理し施行状況の評価を任される立場の視点から見ると、もう少し情報が欲しいところです。
実験動物の福祉状況の評価について世界に目を向けると、2014年にTexas A&M UniversityのBonnie V. BeaverとAAALAC InternationalのKathryn Bayneが、“Animal Welfare Assessment Considerations”1)という記事で評価法を公開しています。本コラムでは、数回にわたって、この視点から少し深堀りしてみましょう。
まず触れたいのは、“北米で、学生を対象とした動物福祉状況の評価コンテストが行われる”ことを紹介したイリノイ大学のニュース2)です。学生だけでなく、私たち実験動物医学の専門家の能力向上にも役立つのではないかと思い、紹介することにしてみました。
AVMAが学生対象に動物福祉評価コンテストを開催
イリノイ大学のニュースが詳しく紹介していたのは、AVMA(American Veterinary Medical Association)が先月(2022年11月)に開催した、“学生を対象とした動物福祉評価コンテスト:ANIMAL WELFARE ASSESSMENT CONTEST” 3)(下図は、その登録募集のチラシのコピー)についてです。本コンテストは、もともとミシガン州立大学(MSU)とパデュー大学の教員が提案し、2002年にMSU、ゲルフ大学、ウィスコンシン大学、パデュー大学の代表4チームが集まって始めた小さなコンテストから始まりました。これが、2014年には、北米各地の学校から合計28チーム、116名の参加者を集めるようになり、いまの形になったとのことです。当初は対象動物を家畜としていましたが、現在では、生産動物、コンパニオンアニマル、実験動物、エキゾチックアニマルにまで拡大しています。今年(2022年)の動物種には、展示用に飼育された鶏(愛玩用)、乳用牛(主に搾乳群に入らないオス)、水族館のタコが含まれます。仮想のしなりを設定は、アニマルシェルターの犬・猫です。参加者は、輸送、住居、健康、トレーニング、退役 、生産、屠殺/安楽死など、各動物種の生活のすべての側面における福祉を評価することになっています。頭足類を評価の対象に入れるところは、AVMAが時代の趨勢を敏感に反映していこうとする姿勢がうかがえます。このような先取の精神には見習う点があります。

実験動物の飼育環境
東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 准教授 角田 茂
1. とても綺麗な環境で飼育されている実験動物
コロナ禍が始まって以来、マスク、手洗いが欠かせない生活になってから、あらゆる感染症が減っていますよね。人間は普段、いかに感染性微生物にさらされて生きているのか痛感する今日この頃です。
さて、みなさんは実験動物業界の専門用語である“SPF”という言葉、ご存知ですか。
スーパーやレストランで、SPFブタ肉など、目にしたことがあるかもしれません。
“SPF”とは「Specific Pathogen Free」の略語であり、”特定の病原性微生物を持たないことが保証されている”ということで、言うなれば微生物学的にきれい、あるいは安全であるということになります。ヒトに感染する病原体を排除して飼育すれば、抗生物質やワクチンの投与が不要になり、健康な動物を飼育することができます。1990年頃に日本に初めてSPFブタの飼育技術を導入したのは、本学会の発起人である波岡茂郎先生(1929-2014, 北大名誉教授)で、企業との共同で日本初のSPFブタを開発されました。当時、貴重な第一号のSPFブタの焼肉を、現在の本学会・会長である佐々木先生ら学生にふるまったようです。
さて、医学系の動物実験施設では、基本的にはSPF状態を保つための環境で動物が飼育されています。このSPF環境を維持するためには、バリア施設が必要であり、動物室内を陽圧に保つことにより外からの病原体の侵入をブロックするような特殊な構造の建物に、実験従事者および動物の厳密な入退室管理、滅菌・消毒した飼料や水、ケージの供給・使用など、大変なコストと労力を掛けて管理運営が行われています。
ちなみに、SPF環境維持が適切に行われていることを保証するために、定期的な微生物モニタリングが実施されています。例えば、実験動物中央研究所ICLASモニタリングセンターに検査をお願いした場合、12〜19項目のSPF対象微生物検査セットで14,500〜25,000円/匹となっていることからも、SPF維持が高コストであることがおわかりいただけるかと思います。
では、なぜ研究にSPF環境で飼育したクリーン動物を用いるのでしょうか。
情報発信のあり方を考える
科学研究の継続や進展のためには一般市民の支持が必要不可欠です。毎年、Gallup社のアメリカ人の”実験動物を使った医学研究”に対する世論調査に注目しておりますが、2001年〜2019年にかけて徐々に低下してきました (容認率、65% ➝ 50%)。昨年はコロナの影響もあり56%と上昇しましたが、2021年に再び50%に低下しました。日本がお手本としてきた米国の動物福祉政策を以ってしても、容認率の低下は避けられないようです。今回は、関連する話題として、一昨年のJALAS総会にて、塩谷恭子先生が企画された英国Understanding Animal Research (UAR)の活動の一部を紹介させて頂きます。
UARは、代表のWendy Jarrett氏と8名の職員で運営されるNPO団体で、動物実験に関する情報の透明性を高め、英国民から理解・支持を得ることを目的としている。現在、英国の124の主要な研究機関 (公的研究機関、大学、学会、製薬会社、飼育関連機器会社等)がUARに加盟し、加盟施設は下記の4つの協定を結び、UARは加盟施設への指導・助言を行う。
1. 実験に動物を使用する場合、いつ、どのように、なぜを明確にする。
2. メディアや一般市民に対し動物実験についてより積極的に情報を公開する。
(HPに情報を掲載し、問い合わせや質問には確実に回答すること等)
3. 自ら進んで動物実験について国民が知る機会を増やす
(出前授業や施設内のバーチャルツアー動画を公開する等)。
4. 年に一度、UARに活動内容を報告し、加盟施設間で情報(成功/失敗体験)を共有する。
加盟施設のうち、マスコミ向けに動物実験の情報を積極的に提供している施設は61箇所、外部の訪問客を受け入れた施設は57箇所、学校に演者を派遣あるいは施設に学生を受け入れた施設は56箇所、マスコミの撮影を受け入れた施設は13箇所である(2019年)。情報公開において先駆的な試みを行った施設には、12月に開催される情報公開表彰式において表彰される。
コラム 情報発信