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ENUの記事一覧

理研マウスENUミュータジェネシスプロジェクトを利用したフォワードジェネティクス研究

岩手大学農学部共同獣医学科・実験動物学研究室 古市 達哉

 

 マウス遺伝学の研究には大きく分けて2つのアプローチが存在します。フォワードジェネティクス(順遺伝学)アプローチでは、遺伝性がみられる異常形質をもつマウスを見つけ出し、その原因となる遺伝子変異を連鎖解析などの手法を用いて同定します。リバースジェネティクス(逆遺伝学)アプローチでは、特定の遺伝子のノックアウト(KO)やトランスジェニックマウスを作製し、どのような表現型が発現するのかを調べます。私はこの2つのアプローチを駆使して、骨格系(骨、軟骨、関節)に異常を示す遺伝子変異マウスを同定し、骨格の発生メカニズムや骨関節疾患の病態機序について研究しています。

 私は2004年〜2010年の間、理化学研究所に勤務していました。この頃、理研ゲノム科学総合研究センター(GSC)では、大規模なマウスENUミュータジェネシスプロジェクトが展開されていました1)2)。N-ethyl-N-nitrosourea(ENU)はゲノムDNA上に高頻度で点突然変異を誘発する化学変異原であり、ENUを腹腔内投与した雄マウスと正常雌マウスを交配することで誕生した約10,000匹の突然変異第一世代(G1)マウスから摘出した精子の凍結保存ライブラリーが構築されました。私たちは、これらG1と次世代のG2で誕生した多くの遺伝子変異マウスの中から、骨格系に異常を示す個体を見つけ出し、原因遺伝子の同定を試みるフォワードジェネティクス研究を展開してきました。

1. 変形性関節症モデル : M451マウス

 はじめに同定した M451マウスは常染色体顕性(優性)形式で短指症を呈するマウスで3)、連鎖解析によって原因遺伝子は第2染色体上にマップされました。この領域には自然発症短指症マウス(bpマウス)の原因遺伝子であるGdf5が存在しており4)、予想通りにM451マウスのGdf5遺伝子にはp.Trp408Arg(408番目のTrpがArgに置換される)ミスセンス変異が同定されました。bpマウス以外にも、Gdf5変異によって短指症を発症するマウスは報告されており、科学的価値があまり高くない結果に落ち着きそうだと落胆していたのですが、研究は急展開していきました。

 私は当時、池川志郎先生が率いる理研生命医科学研究センター・骨関節疾患研究チームに所属していたのですが、池川先生らはヒトGDF5遺伝子上の一塩基多型(SNP)が変形性関節症(OA)の疾患感受性と関連していることを報告していました5)。OAは関節軟骨の変性や消失を特徴とし、疼痛や歩行障害が生じる疾患です。OAの発症には複数の遺伝要因と複数の環境要因がかかわっており、多因子疾患に分類されます。OAの発症にかかわるSNP(+104 T/C)はGDF5遺伝子のプロモーター上に存在し、OA患者が多く持つ+104Tアレルを持つプロモーターの活性は、健常者が多く持つ+104Cアレルを持つプロモーター活性よりも有意に低下します。つまり+104Tアレルを持つとGDF5産生量が低下し、OAに罹患しやすくなると考えられます。そこで、私たちはp.Trp408Arg変異をホモ接合でもつM451マウスの関節を調べた結果、肘関節の関節軟骨にOAと類似した病変が確認されました(図1A)3)。p.Trp408Arg変異は優性阻害を引き起こす強い変異効果を持っており(図1B)、この一種類の変異だけでOA様の病変が誘発されます。

 M451マウスの研究から、マウス遺伝学からもGDF5がOAの感受性遺伝子であることが証明されました。GDF5の機能異常がOAを引き起こすメカニズムは、まだよくわかっていません。GDF5はBMPスーパーファミリーに属する成長因子で胎生期の関節形成に関わっていることから6)、+104 Tアレルを持つヒトは、OAになりやすい構造的な関節の異常を持っているのかもしれません 。これはX線解析などでは判別できないわずかな異常で、加齢に伴い徐々にOA病変が発現してくると考えられます。またGDF5は関節の恒常性維持に関わっているという報告もありますので、+104 Tアレルを持つヒトでは、この維持機構にわずかな異常が生じているのかもしれません。M451マウスはGDF5とOAの関連を調べるためのよいモデル動物です。

 2. トーランス型扁平異形成症モデル : M413/M856マウス

 次に紹介するM413とM856マウスは共に常染色体顕性形式で体が小型化 (矮小化) するマウスです7)8)。連鎖解析によって原因遺伝子は共に第15染色体上にマップされたことから、両マウスの原因遺伝子は同一の可能性があると思われました。この領域に存在する遺伝子を調べた結果、軟骨で特異的に産生される II型コラーゲンをコードするCol2a1が原因遺伝子の第一候補として選抜され、確かにM413マウスのCol2a1遺伝子にはp.Try1391Ser、M856マウスにはp.Asp1499Alaミスセンス変異が同定されました。

 ヒトにおけるCOL2A1変異は、軟骨無発生症II型、トーランス型扁平異形成症(PLSD-T)、先天性脊椎骨端異形成症といった別々の病気の原因となりますが9) 、PLSD-T患者にp. Try1391Cys、p. Asp1469His変異が同定されていました。すなわち、II型コラーゲンの1391番目のCys、1469番目のAspが、M413またはM856マウスとPLSD-T患者で共に置換されている訳です。それぞれの変異のホモ接合マウスはPLSD-Tと類似の骨格異常を示しており、M413/M856ホモ接合マウスはPLSD-Tモデル動物として有用性であることが示されました。M413とM856マウスの間に表現型の違いはみつかっていませんが、別々の論文として発表することができました7)8) 。

 両マウスの軟骨細胞を電子顕微鏡で観察すると、小胞体が異常に拡張しており、変異コラーゲンタンパク質が小胞体内に貯留していました(図2A)。軟骨における小胞体ストレスマーカーの発現が上昇しており、軟骨細胞は高頻度にアポトーシスを起こしていました(図2B)。つまり、M413/M856ホモ接合マウスの軟骨細胞では異常タンパク質の貯留により過度の小胞体ストレスが付加され、アポトーシスが亢進していることがわかりました。PLSD-Tの第一の原因はII型コラーゲンが細胞外へ分泌されないことですが、軟骨細胞におけるアポトーシスの亢進も大きく関わっているようです。

 最近、さまざまな疾患と小胞体ストレスとの関連が注文されており、小胞体ストレス応答調節薬の創薬研究が展開されています10)。M413/M856マウスは小胞体ストレス応答調節薬の創薬研究に有用なモデル動物ですと締めたいとこですが、応用は難しいと思っています。PLSD-Tは周産期致死性の重度の骨格異常を示し、PLSD-TモデルとなるM413/M856ホモ接合マウスは出生後、すぐに死亡してしまいます。このような致死性の骨格異常を薬で直すのは、現時点では不可能であると思います。しかし、小胞体ストレスが関わっている軽度の骨格異常を示す疾患は存在しており、これらの疾患を対象とした小胞体ストレス応答調節薬の創薬研究に、M413/M856マウスから調整した培養軟骨細胞などが貢献できるかもしれません。

3. 世界初のミスセンス変異によって表現型を発現するCrim1変異マウス

 最後にM2047マウスから得られたimlaマウスを紹介します11)。詳しい説明は省略しますが、ENU変異を誘発したC57BL/6遺伝的背景のM2047マウス12)とDBA/2マウスの交配で誕生したF1マウス同士の交配を行った結果、常染色体潜性(劣性)形式で小眼球症と合指症を発症するマウスが誕生し、imla (iwate microphthalmia with limb anomalies)マウスと命名しました。

 imlaマウスの原因遺伝子の同定は連鎖解析ではなく、全エクソーム解析で行いました。メンデル遺伝する明確な異常を引き起こす遺伝子変異のほとんどは、ゲノム上のエクソンとその周辺領域に存在しており、全エクソーム解析ではゲノム上のエクソンとその周辺領域のDNA配列を全て決定します。その結果、imlaマウス特異的な変異として、218個の変異が抽出され(ENU投与によって、たくさんの変異が誘発されている)、この中の71個は遺伝子産物の機能に影響を及ぼす変異であると予測されました。データベースを用いて、71個の候補遺伝子について調べた結果、Crim1遺伝子のKOマウスが小眼球症、合指症といったimlaマウスと類似の表現型を示すことがわかりました12)Crim1遺伝子周辺の遺伝子多型マーカーを用いた連鎖解析によって、Crim1におけるミスセンス変異(p.Cys140Ser)が imlaマウスの原因変異であることが証明されました。

 C57BL/6遺伝的背景のCrim1 KOマウスは胎生期に死亡しますが、imlaマウスの遺伝的背景をC57BL/6にすると同様に胎生致死になりました。つまり、imlaマウスはC57BL/6とDBA/2をミックスした遺伝的背景であったため、運よく胎生致死を免れて同定されたマウスだったのです。CRIM1はいろいろな成長因子と結合し、それらの活性・局在の調節に関わっていることが報告されています14)。しかし、これらの機能だけでは説明がつかないCrim1 KOマウスの表現型が存在しており、CRIM1は他にもさまざまな機能を持っているはずです。imlaマウスは世界初のミスセンス変異によって明確な表現型を示すCrim1変異マウスであり、今後、CRIM1の新規機能の同定に役立つ可能性を持っています。

4. おわりに

 ジーンターゲッティング技術、ゲノム編集技術の確立によって、マウス遺伝学研究の主流はリバースジェネティクスになっており、最近ではフォワードジェネティクスを用いて発表された論文数はかなり少なくなっています。しかし、リバースジェネティクスだけでは、ミスセンス変異がもたらす重要な表現型を見過ごしてしまう可能性があります。ミスセンス変異は1つのアミノ酸を置換するだけですが、タンパク質に新しい機能を付与したり(gain of function)、1つのアミノ酸が置換された変異タンパク質が正常タンパク質の機能を阻害することがあり(dominant negative)、これらの作用は通常の遺伝子KOがもたらす機能消失 (loss of function)とは異なります。

 理研マウスENUミュータジェネシスプロジェクトは既に終了していますが、構築された変異マウスライブラリーはバイオリソース研究センター(BRC)に保存されており、私たちも利用可能です15)。このライブラリーから、貴重な変異マウスを探してみてはいかがでしょうか。

 今回紹介した研究には多くの先生方のご支援をいただきましたが、特に理研の桝屋啓志先生、若菜茂晴先生(現所属 : 神戸医療産業都市推進機構)、権藤洋一先生(現所属 : 東海大学)、そして池川志郎先生には多大なご支援をいただきました。そして多くの研究は岩手大学獣医実験動物学研究室で卒業研究に取り組んでくれた卒業生によって行われました (H26卒 : 市村さん、H27卒 : 木村さん、佐藤さん、H28卒 : 塚本さん、H30 年卒 : 斎藤さん)。最後に厚くお礼申し上げます。

5. 参考文献

1) Masuya H, Nakai Y, Motegi H, et al. Development and implementation of a database system to manage a large-scale mouse ENU-mutagenesis program. Mamm Genome 15: 404–411 (2004)

2) Sakuraba Y, Sezutsu H, Takahasi KR, et al. Molecular characterization of ENU mouse mutagenesis and archives. Biochem Biophys Res Commun 336: 609–616 (2005)

3) Masuya H, Nishida K, Furuichi T, et al. A novel dominant-negative mutation in Gdf5 generated by ENU mutagenesis impairs joint formation and causes osteoarthritis in mice. Hum Mol Genet 16: 2366–2375 (2007)

4) Storm EE, Huynh TV, Copeland NG, et al. Limb alterations in brachypodism mice due to mutations in a new member of the TGF beta-superfamily. Nature 368: 639–643 (1994)

5) Miyamoto Y, Mabuchi. A, Shi D, et al. A functional polymorphism in the 5′ UTR of GDF5 is associated with susceptibility to osteoarthritis. Nat Genet 39: 529–533 (2007)

6) Sun K, Guo J, Yao X, Guo Z, Guo F. Growth differentiation factor 5 in cartilage and osteoarthritis: A possible therapeutic candidate. Cell Prolif 54: e12998 (2021)

7) Furuichi T, Masuya H, Murakami T, at al. ENU-induced missense mutation in the C-propeptide coding region of Col2a1 creates a mouse model of platyspondylic lethal skeletal dysplasia, Torrance type. Mamm Genome 22: 318–328 (2011)

8) Kimura M, Ichimura S, Sasaki K, et al. Endoplasmic reticulum stress-mediated apoptosis contributes to a skeletal dysplasia resembling platyspondylic lethal skeletal dysplasia, Torrance type, in a novel Col2a1 mutant mouse line. Biochem Biophys Res Commun 468: 86–91 (2015)

9) Nishimura G, Haga N, Kitoh H, T, et al. The phenotypic spectrum of COL2A1 mutations. Hum Mutat 26: 36–43 (2005)

10) Marciniak SJ, Chambers JE, Ron D. et al. Pharmacological targeting of endoplasmic reticulum stress in disease. Nat Rev Drug Discov 21: 115–140 (2022)

11) Furuichi T, Tsukamoto M, Saito M, et al. Crim1C140S mutant mice reveal the importance of cysteine 140 in the internal region 1 of CRIM1 for its physiological functions. Mamm Genome 30: 329–338 (2019)

12) Ichimura S, Sasaki S, Murata T, et al. An ENU-induced p.C225S missense mutation in the mouse Tgfb1 gene does not cause Camurati-Engelmann disease-like skeletal phenotypes. Exp Anim 66: 137–144 (2017)

13) Chiu HS, York JP, Wilkinson L, et al. Production of a mouse line with a conditional Crim1 mutant allele. Genesis 50: 711–776 (2012)

14) Iyer S, Pennisi DJ, Piper M. Crim1–, a regulator of developmental organogenesis. Histol Histopathol 31: 1049–1057 (2016)

15. 理研BRC・ENU誘発突然変異マウス系統の提供, https://mus.brc.riken.jp/ja/ catalogue_gsc, (cited Sept 25, 2022).

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