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麻酔の記事一覧

ブタの麻酔医〜周術期管理に関する総論的なお話〜

鹿児島大学先端科学研究推進センター 生命科学動物実験ユニット

瀬戸山健太郎

 ブタは解剖学的、生理学的にヒトと類似しているため、外科的処置を伴う研究や医療技術トレーニングで利用される機会が増えています。そのため、研究をサポートする立場である我々にとってブタの麻酔や周術期管理の知識/技術の習得は必要不可欠です。そこで、今回、ブタの麻酔(周術期)管理の基本事項について紹介したいと思います。なお、私自身、クラウン系ミニブタ(30~40kg)を用いた研究に多く従事してきたことから、これら経験に基づく私見が含まれていますこと、ご容赦ください。

〇術前処置

 ブタでは麻酔時の誤嚥等を防止するため12時間以上の絶食が必要です。特に消化管の処置を行う際は消化管内容物を空にするため24~48時間の絶食が必要となります[1, 2]。絶食が不十分な場合、ブタの結腸が横隔膜を圧迫するため呼吸管理が難しくなり、腹腔内の操作も困難になるケースがあるので、絶食処置は確実に行うことがとても重要です。飲水は術前まで可能ですが、腹腔内手術を行う際には4~6時間程度の絶水を行います[1]。また、経験的に絶食を行ったブタは飲水量が減少する傾向にあるので、麻酔導入後の輸液は十分に行った方が良いでしょう。

麻酔導入ブタではイヌやネコに比べて体が大きく、力が強いため保定が容易でないこと、体表の血管が少ないことから、アプローチが容易な筋肉内投与による麻酔前投与、麻酔導入を行うのが一般的です(図1)。麻酔前投与には流涎抑制や麻酔による徐脈防止のためアトロピンを用いるのが一般的です[1]。麻酔導入薬としては、ミダゾラム-メデトミジン、メデトミジン-ケタミン、ミダゾラム-メデトミジン-ブトルファノールなど様々な薬剤が用いられますが[2, 3]、これら薬剤では麻酔導入が不十分(体動)なケースを経験したことがあります。そのため、当施設ではミダゾラム-メデトミジン-ケタミン混合薬の筋肉内投与にて麻酔導入を実施しています。麻酔導入が不十分な場合には薬剤を追加で投与する必要がありますが、追加投与は呼吸停止、血圧低下などのリスクがあることを十分に考慮し、追加投与の必要性や投与量について、追加投与する際に慎重に検討する必要があります。また、麻酔導入~挿管までは動物にとって呼吸停止や血圧低下といったリスクが高い時間帯であるため、呼吸状態、血圧、可視粘膜の確認を怠ってはいけません。

コラム

文献紹介:フェンタニル-ミダゾラム-メデトミジンを用いたマウスの麻酔:拮抗剤と周術期ケアの重要性

Injection anaesthesia with fentanyl–midazolam–medetomidine in adult female mice: importance of antagonization and perioperative care. 

Thea Fleischmann, Paulin Jirkof, Julia Henke, Margarete Arras and Nikola Cesarovic Laboratory Animals 2016, Vol. 50(4) 264–274  DOI: 10.1177/0023677216631458 

【コメント】
 国内では、一般的にメデトミジン-ミダゾラム-ブトルファノールの3剤が使用されていますが(Kawai S. et al, Exp. Anim, 2011)、ブトルファノールをより鎮痛効果が強いフェンタニルに変更したメデトミジン(0.5mg/kg)-ミダゾラム(5mg/kg)-フェンタニル(0.05mg/kg)の3剤によるバランス麻酔薬です。フェンタニルを使用するときは、麻薬研究者の免許が必要です。鎮痛効果が強いフェンタニルに変更することで、より侵襲度が高い手術も可能になると期待しましたが、足の引き込み反射、尾部および後脚第一趾骨の刺激による体動を完全に抑えることができなかったので、侵襲度の低い手術のみの適用になりそうです。著者らも侵襲的な治療や苦痛を伴う介入に使用する場合は、投与量を調整する必要があると結論づけています。

 拮抗薬のナロキソン-フルマゼニル-アチパメゾールを腹腔内に投与すると、数分以内に麻酔から回復しました。現在、三種混合麻酔薬は、メデトミジンの拮抗薬のみが使用されていますが、覚醒後の鎮静時間が長く、低体温になりやすいので、ミダゾラムの拮抗薬であるフルマゼニルも併用することで、覚醒後の鎮静がより短くなるかもしれません。また、著者らは、実際に手術に使う場合は、術後の痛みを取るため、(i)フェンタニルの拮抗剤であるナロキソンを除く、(ii) 術後の痛みを数時間緩和するためにブプレノルフィンを投与することを提案しています。

コラム

文献紹介:SDラットにおけるアルファキサロン及びアルファキサロン-デクスメデトミジン混合麻酔の腹腔内投与

Intraperitoneal Alfaxalone and Alfaxalone–Dexmedetomidine Anesthesia in Sprague–Dawley Rats (Rattus norvegicus)
Authors: West, Sylvia E; Lee, Jonathan C; Johns, Tinika N; Nunamaker, Elizabeth A
Source: Journal of the American Association for Laboratory Animal Science
Publisher: American Association for Laboratory Animal Science
DOI: https://doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-19-000161
Appeared or available online: 2020/08/05

【概要】
予測不可能性や効果の変化があるため、実験用げっ歯類における注射麻酔薬のレジメンは洗練されたものとなっている。本研究では,近年獣医学的に人気が高まっているアルファキサロンを単独およびデクスメデトミジンと併用して,SDラットに腹腔内投与した場合の麻酔能を評価することを試みた。アルファキサロンのみの3用量と、アルファキサロン-デクスメデトミジンの4用量の組み合わせを雄ラットと雌ラットで試験した。誘導までの時間、麻酔時間、脈拍数、呼吸数、体温、回復までの時間を盲検化された観察者によって記録した。様々な麻酔プロトコルによって誘導された麻酔のレベルは、有害な刺激に対するペダル離脱反射を用いて評価し、反応に応じてスコア化した。処置群に依存して、アティパメゾールまたは生理食塩水を、動物が麻酔の60分に達した時点で腹腔内投与した。投与量にかかわらず、アルファキサロン単独では鎮静レベルの麻酔しか達成できなかったのに対し、アルファキサロン-デクスメデトミジンの組み合わせはすべての動物において外科レベルの麻酔をもたらした。アルファキサロン単独およびデクスメデトミジンとの併用による麻酔レジメンは性差を示し、雌ラットは雄ラットよりも長時間の鎮静または麻酔を維持した。雌雄ともに、デクスメデトミジンの効果と一致する生理的パラメータの減少を示した。以上の結果から、雌ラットの手術麻酔には、鎮静には20mg/kgのアルファキサロンを、手術麻酔には30mg/kgのアルファキサロンと0.05mg/kgのデクスメデトミジンを併用することを推奨する。雄性ラットに対するアルファキサロンのみおよびアルファキサロン-デクスメデトミジンの適切な用量は、本研究では決定されておらず、さらなる評価が必要である。

注射用麻酔でどこまで外科手術をするかという事がありますが、現在、実験動物で多く使用されている三種混合麻酔(メデトミジン、ミダゾラム、ブトルファノール)は血糖値の上昇や体温の低下などの副作用があり若干使いづらい印象があるので、代替麻酔の開発には大いに賛成。でも今回の結果はかなり性差があることが示唆されているため、その点についてはフォローが必要かなという印象です。

ちなみに代替麻酔の話で、日本国内では2020年8月7日にムンディファーマが超短時間作用型の静脈麻酔薬アネレム(一般名:レミマゾラムベシル酸塩)を発売しました。レミマゾラムは日経メディカルの記事にこういった記載があります。

レミマゾラムは、既存のミダゾラムと同じベンゾジアゼピン系全身麻酔薬である。循環抑制作用が少なく、投与時の注射部位反応が少ないこと、拮抗薬フルマゼニルによって拮抗されることなど、既存のミダゾラムと同様の利点もある。ミダゾラムと類似した構造を有しているが、レミマゾラムはジアゼピン環にエステル結合の側鎖を持ち、主に肝臓の組織エステラーゼによって速かに代謝される超短時間作用型静注製剤となっている。また、代謝に肝薬物代謝酵素CYPが関与しておらず、代謝物に活性がないことも、ミダゾラムとの大きな相違点となっている。レミマゾラムはこうした特徴から、高齢者や循環動態が不安定な患者を含め、全身麻酔を施行する幅広い患者に対して有効かつ安全性の高い薬剤として期待されている。

2020/03/13 北村 正樹(東京慈恵会医科⼤学附属病院薬剤部)CYPを介さず代謝される超短時間作用型ベンゾジアゼピン系全身麻酔薬
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/202003/564675.html

代謝にCYPが関与していないのは良いですね。ミダゾラムは3A4によって代謝されるため併用注意が結構ありましたし。加えて、日本人の全身麻酔施行手術患者を対象とした国内第2/3相実薬対照無作為化単盲検比較試験(対照薬:プロポフォール)において、プロポフォールに対する本薬の非劣性が検証されたとの記載もありますので、むしろプロポの代替麻酔として臨床の方が使用されるのも良いのかもしれませんね。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

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