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実験動物に対する印象革命<後編>

特集

〜動物実験には多くの獣医師が関わっていますが、獣医師の果たすべき役割は、診療、公衆衛生や食の安全など多岐にわたります。今回は、実験動物に直接の関わりのない臨床獣医師から見た動物実験への意見を紹介します〜
                               JALAM学術集会委員会

最後にKがビーグルをお迎えしたことによって、K以外も大きな印象変化があったお話を紹介します。

動物病院関係者からの答えですが、ビーグルに関わりを持つ前は、ほぼ全員が実験動物に対する悪い印象をもっていました。

また、ほとんどが想像、妄想の域であるのに注目していただければと思います。

誰もが確かな情報を得たわけではなく、実験動物という響きや検索で引っ掛かってくる画像や動画、SNSの広告バナーなどちらっと眼に入った強烈なイメージをそのまま当人の実験動物に対するイメージとしてしまっているのが容易に想像できます。

そして気になったのが殺処分という言葉でした。安楽死ではなく殺処分と言っているのは実験動物施設と保健所を混同しているからなのか・・・はたまた、酷いことをしている!というイメージから導き出した言葉だったのか・・・・アンケートをとった9名のうち2名がそう回答していました。

ですが実際にM社さんのビーグルを見てからは、悪い印象が拭い去られ、良い印象に変わりました。人によっては、自分で実際にアニマルウェルフェアのセミナーに参加してみたりと、従来の実験動物に対するイメージに疑問を持った方もいました。

実験動物は現在、決して酷い扱いを受けてはいませんし、そこで働く方々も動物が好きで、動物のことを考えて働いていらっしゃる方ばかりです。なのに、なぜ実験動物に対するネガティブなイメージが払拭されないのでしょうか??それは、公開されている情報の少なさに原因があるのではないかと思っています。皆さんもお肉がどうやってできるのか知っていても薬がどうやってできているのか知っている方は少ないのではないでしょうか?

Kのような一般の獣医師にも実験動物のこれからのために何か出来ることはないのでしょうか?

ビーグルを迎えて以降、Kはビーグルのリホーミングの里親探しに関わらせて頂くようになり、一般の家庭へ里子に出す際、実験動物について、“しつこいだろ!”というほど里親希望さんにはお話を聞いてもらっています。やはりどの里親さんも実験動物と聞くと最初は良い印象をお持ちではありません。Kはこの子たちの果たしてきた役割のことや、日夜私たちのため、動物のためにと薬を開発している方々の話を懇々とし、それから、実際に本人たちに会っていただいているのですが、実際のビーグルはそんな長い説明を一瞬で体現し、印象をがらりと変えてくれます。誰に対しても初対面から尻尾を振り振り、とても愛想よくご挨拶をするビーグルを見て、最初は“実験動物だったんですね・・・”というような言い方をしていたにも関わらず、“とても大切にされていたんですね。私たちのためにありがとうね。”とビーグルに言葉をかけてくれるまでに心象変化される方ばかりで、K自身もM社さんのビーグルが持つ力に大変びっくりさせられています。

Kはまだまだ微力ですが、K自身の経験、そしてKの周りの人たちの経験から、実際に目にすることの大切さを実感しました。ビーグルの、そして実験動物のイメージを少しでも変え、皆さんの心にも印象革命がおこるとよいなと思っています。

最後に、実験動物に関わるお仕事をされている皆様へ、動物実験とは実際、どんなことをしているのか、新しい薬ができるまでの大まかな過程も含め、一般の方にわかりやすい言葉で、もう少し説明して頂けるともっともっと実験動物に対する理解が進むのではないかと考えます。

薬は私たちの生活に欠かせないものだからこそ、食育のように、学生の教育に組み込むなど、ちゃんと理解する必要があるのではないかと思います。昔のKのように一方からの情報のみで判断せざるを得ない状況の若者を減らすためにも是非ともご考慮頂ければ幸いです。

このコラムを最後までお読みいただき本当にありがとうございます。 最後は実験動物に関わる方へのメッセージで終わっていますが、言い換えれば、ご覧になってくださった全ての皆様に是非興味をもって頂き、お子様や、お友達、パートナーとの夕飯の話題にでも上げて頂ければ幸いです。みんなで実験動物に対して正しい知識を持ち、話し合えば、より良い実験動物の未来が見えてくるのではないかと思います!

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臨床獣医師 K先生

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実験動物のリホーミング

実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準では、第4章実験等の実施上の配慮の項において、「実験に供する期間をできるだけ短くする等実験終了の時期に配慮すること」と記されています。そして、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説によると、実験計画の立案においては、「実験や術後観察の終了の時期(人道的エンドポイント)等について、具体的な計画を立案する必要がある。(p. 114)」と解説されています。また、人道的エンドポイントとは、「実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を終了あるいは途中で中止する時期(すなわち安楽死処置を施す時期)を意味する。(p. 142)」と解説されています。こうしたことから、動物実験の終了とは、主として安楽死処置を施すこととも捉えられます。

一方で、安楽死処置については、上述の通り実験動物を激しい苦痛から解放するための措置である反面、「安全性に加え、安楽死処置実施者が感じる精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮し、科学的研究の目的を損なわない限り、心理的負担の少ない安全な方法を選択すべきである。(p. 159)」とも解説されており、実施者にとっては精神的不安、不快感、あるいは苦痛といった心理的負担を伴う措置であるということも理解されています。

このような安楽死における実施者の心理的負担に関しては、「安楽死にまつわる諸問題」についてのコラムですでに紹介されていますが、動物実験が遂行される中で、必ずしも動物は苦痛を被って実験を終えるものでもありません。こうした動物に対してはどのようにエンドポイントを考えたらよいでしょうか。これらの動物にも安楽死処置を施すのでしょうか。その心理的負担は苦痛から解放するための安楽死処置の場合よりも大きいものになるかもしれません。他に選択肢はないのでしょうか。

最近では、酪農学園大学から引き取られた実験犬「しょうゆ」の里親譲渡の話題もあり、こちらも「実験動物の里親制度」についてのコラムですでに紹介されていますが、国内でも少なからず実験動物を安楽死せずに余生を送らせるリホーミングの活動が行われています。リホーミングは動物の福祉を考えること、また実施者の心理的負担を軽減させるという点でとても有意義なことではありますが、同時に、実験動物が社会の目に触れ、動物実験に関心をもつきっかけとなるということは、社会的に適正な動物実験を考える上でもとても重要なことでもあるのではないでしょうか。

ここでは実験動物のエンドポイントとして安楽死に代わる選択肢としての可能性があるリホーミングについて、実際にリホーミングをされた方からの寄稿を交えて、文献を紹介します。多くの方が実験動物に関心を持ち、適正な動物実験を考えるきっかけとなればと思います。

寄稿:実験動物の印象革命<前編>
寄稿:実験動物の印象革命<中編>
寄稿:実験動物の印象革命<後編>

国内で実験用ビーグルのリホーミングに取り組むM社Aさんのご紹介で、実際に実験犬を引き取られたKさんからのお話を聞く機会がありました。ぜひ多くの方にも紹介させて頂きたい内容と思いましたので、ご厚意により、この場に寄稿いただきます。

文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?

製薬企業から引き取られた実験犬の、その後に関するドイツでの調査です。

文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査

実験動物のリホーミングに関する英国での実態調査です。

特集

実験動物に対する印象革命<前編>

〜動物実験には多くの獣医師が関わっていますが、獣医師の果たすべき役割は、診療、公衆衛生や食の安全など多岐にわたります。今回は、実験動物に直接の関わりのない臨床獣医師から見た動物実験への意見を紹介します〜
                               JALAM学術集会委員会

動物が大好きで大好きで・・・それだけで獣医師になった一個人Kの実験動物に対する印象となぜそのように考えるようになったのかについての背景、そして、M社さんのビーグルやAさんに出会って変化した実験動物に対する印象について。そして最後にこれからの実験動物についての希望を少しだけ書かせていただきます。

はじめに。このコラムは実験動物とそれに関わる皆様を批判するものではありません。しかし、それを期待してこのコラムを読もうとしてくださった方にこそ読んでいただきたいものになるよう書かせていただきました。

主人公のKは、少し?いや、かなり??変わり者ですが、正直な実験動物に対する印象とその変化を、周囲の一般市民の声とともに紹介します。

このコラムを読んでいただいて実験動物に実際に関わっていらっしゃる皆さんと一般市民とのイメージのギャップが少しでも埋まり、実験動物に対する理解が進めば幸いです

まず、Kの事を、少し紹介させていただきます。

幼少期より、どうしてもなりたかった獣医師になるため、一浪してやっとこさ大学に入り、無事卒業、その後、埼玉で2年間、新潟で4年目になるまだまだ駆け出しの獣医師です。

3年ほど前に、実験動物施設に勤める友人の紹介でAさんと出会い、Aさんの人柄とビーグルへの愛に感動し、微力ながらリホーミングを手伝わせていただいています。

そして、去年一児の母となり育児をしつつ動物病院の手伝いを少しこなしながら毎日を過ごしています。

趣味は動植物のお世話、読書、お酒です。

少しKという人物が分かっていただけましたでしょうか?

こちらの図ではKの実験動物に対する印象の変化をグラフにしました。

Kは、幼少期より犬猫以外のいろいろな動物に囲まれて育ち、特に父が連れて帰ってくる実験動物がメインで、あとはKが捕まえてきたダンゴムシやカナヘビが主でした。父の影響も少なからず受けながら、自然と幼稚園の頃から、将来の夢は獣医さんでした。

小学校に上がり、Kにとって身近な生き物であったラットを小学校の夏休みの工作として全身骨格模型を作成し、意気揚々と持参したところクラスの友達に泣かれてしまったのをよく覚えています。そのくらい実験動物とは密に接して育ちました。

しかし、学年が進むにつれて兄弟が増え母の手も回らなくなったために父も実験動物を連れて帰ってくることがなくなりました。それにより自然とKの中から実験動物という概念は消えていきました。

実験動物と密に接していた時は悪いイメージはありませんでしたが、関りがなくなってからは身近なものでは無くなったため普通という印象でした。

余談ではありますが、中学校では三年間柔道部に所属し、朝から晩まで練習三昧・・・神奈川県の大会で3位に入賞するまで自分を鍛え上げました。おかげで身長はそこからのびなくなり、肩幅もふくらはぎもアスリートになりました。高校では馬術部に所属し主将を務め早朝から夜まで一日のほとんどを厩舎で過ごしました。おかげさまさまで、家族とは一緒に洗濯をまわしてもらえなくなり、高校の教室でもファブリーズをかけられる・・・などどっぷり馬漬けでした。というように、Kは、やりだしたらそれだけを追及するタイプで、周りが見えなくなりやすいです。猪突猛進というやつでしょうか??

普通になった実験動物の印象に変化が出るのは、高校に入ってからです。獣医大学について調べるようになり、その中で実験動物について興味をもちました。Kなりに図書館に通ったりインターネットで調べたりと色々行いました。しかし、肝心な部分については詳しくは書かれておらず直接聞くしかないと思い、猪突猛進のKは製薬会社さん、日本実験動物協会さん、動物愛護団体さんにメールを送りました。

しかし、返事をくれたのは動物愛護団体さんのみで、ここからKの中の実験動物に対してのイメージが偏ることになりました。そこでの情報については割愛させていただきますが、主に虐待の映像や写真でした。当時のKには刺激が強く、ものすごく印象に残ったのを覚えています。

実験動物に対する印象は日に日に悪くなってゆきました。

<中編へ続く>

特集

実験動物に対する印象革命<中編>

〜動物実験には多くの獣医師が関わっていますが、獣医師の果たすべき役割は、診療、公衆衛生や食の安全など多岐にわたります。今回は、実験動物に直接の関わりのない臨床獣医師から見た動物実験への意見を紹介します〜
                               JALAM学術集会委員会

大学入学を機に、愛護活動には前々から興味があったのもあり、返事をくれた動物愛護団体に所属し、野良猫問題、多頭飼育崩壊などなど様々な問題に関わらせてもらいました。

当時実際の現場をみせていただく中で、自分でも様々なメディアを使って知識として知ったような気でいた自分を恥ずかしく思ったのをよく覚えています。知識として知っていたことと、実際の現場とは全く違っており、さらに刺激が強いものだったからです。特に、多頭飼育崩壊は顕著で、新聞や雑誌からは到底イメージできなかった匂いを感じ、生々しい動物の遺体などを目の当たりにし、同じ人間がやったこととは到底思えませんでした。話が脱線してしまいましたが、そのような体験を経て書籍やインターネット、伝聞などのメディアだけでは、実際に起きていることを把握するには不十分なんだなと思うようになりました。まさに百聞は一見に如かずですね。

ここで実験動物についても実際の現場に飛び込んでみればよかったのですが、当時は学業にアルバイトにサークルに愛護活動にと・・・余裕なく毎日を過ごしていたため、実験動物について調べなおす猶予はありませんでした。

実験動物に対する印象は変わらず悪いまま、次に実験動物と関わることができたのは、大学の研究室に配属された4年生でした。研究用に飼育されている実験動物は、基本の世話はきちんと行われていたため、犬もそこそこなついており、身体的にはなんの問題もありませんでした。強いて挙げれば、犬舎はある程度の広さがあるものの、他の犬との交流や広いところでの運動は実施されていなかったため、犬としては少し欲求不満なのかなというくらいの印象でした。実験動物についての授業では、主に3Rsや実験動物の取り扱い方、種類などについてでした。Kは実際の現場では、どんな実験がどのように行われていて、実験動物はどのような状態なのか?新しい薬ができるまでにはどの過程でどのくらいの動物実験を行う必要があるのかなど知りたかったのですが、知りたいところには触れてもらえませんでした。実験動物の先生にも質問をさせてもらったことがありますが、将来そっちの道に進むわけではないことが分かると急に面倒くさそうな態度になり、“今忙しいからまた今度ね~”のように有耶無耶にされてしまったのを覚えています。これによって就職の希望がないと話せないようなことなんだな、と実験動物のイメージがKの中でさらに悪化してゆきました。

そしてそのまま大学を卒業。小動物臨床の個人病院に就職し、3年目で結婚を機に夫が開業し、忙しく過ごしていましたが、それから1年後に、大学時代の友人の紹介で実験動物ブリーダーM社のAさんのビーグルリホーミングのお話を聞かせてもらう機会があり、実際に実験動物だったビーグルと会ってみることになりました。するとKの実験動物の印象が激変。雷に打たれたらこんな感じなんだろうなというくらい衝撃でした。

Aさんが紹介してくれたビーグルは、まず、しっぽを振って人に寄っていきます。初めてKと会ったのにもかかわらず、知識として知っていた実験動物とは違い、決して噛みついたり大暴れしたり縮こまって震えたりすることはなかったです。体重管理もばっちりなので動物病院で目にする管理不足の飼い犬よりも状態がよく見えました。お迎えしてから一週間もすると新しい環境にも慣れ、徐々に個体それぞれの個性が出てきて簡単なコマンドを理解するようになり、一般的な家庭で暮らしていくためにある程度のしつけを行うのですが、何を教えていても楽しいらしく常に上機嫌で吸収も早いように感じました。施設でもとても大切に扱われていたのだろうなと容易に想像できました。まさに百聞は一見に如かず!!これまでの実験動物に対するイメージは新規の場所では縮こまり怯え、もしかしたら唸り声をあげてくる子もいるかも・・・とマイナスイメージでしたが、M社さんのビーグルが180度変えてくれました。さらに、Aさんからも実験動物について大変詳細なお話を伺うことができ、これまでの実験動物に対する疑念がスッキリ晴れて、もっと早くにAさんとビーグル達に出会えていたら、在学中あんなにもやっとしながら過ごすこともなく、もっと精力的に授業にも取り組めたのになと思いました。ビーグルをお迎えしたのを機に、Kの実験動物に対する印象はうなぎ上りです。

ここまでがKの実験動物に対するイメージの変化についてお話させていただきました。

<後編へ続く>

特集

実験動物に対する印象革命<後編>

〜動物実験には多くの獣医師が関わっていますが、獣医師の果たすべき役割は、診療、公衆衛生や食の安全など多岐にわたります。今回は、実験動物に直接の関わりのない臨床獣医師から見た動物実験への意見を紹介します〜
                               JALAM学術集会委員会

最後にKがビーグルをお迎えしたことによって、K以外も大きな印象変化があったお話を紹介します。

動物病院関係者からの答えですが、ビーグルに関わりを持つ前は、ほぼ全員が実験動物に対する悪い印象をもっていました。

また、ほとんどが想像、妄想の域であるのに注目していただければと思います。

誰もが確かな情報を得たわけではなく、実験動物という響きや検索で引っ掛かってくる画像や動画、SNSの広告バナーなどちらっと眼に入った強烈なイメージをそのまま当人の実験動物に対するイメージとしてしまっているのが容易に想像できます。

そして気になったのが殺処分という言葉でした。安楽死ではなく殺処分と言っているのは実験動物施設と保健所を混同しているからなのか・・・はたまた、酷いことをしている!というイメージから導き出した言葉だったのか・・・・アンケートをとった9名のうち2名がそう回答していました。

ですが実際にM社さんのビーグルを見てからは、悪い印象が拭い去られ、良い印象に変わりました。人によっては、自分で実際にアニマルウェルフェアのセミナーに参加してみたりと、従来の実験動物に対するイメージに疑問を持った方もいました。

実験動物は現在、決して酷い扱いを受けてはいませんし、そこで働く方々も動物が好きで、動物のことを考えて働いていらっしゃる方ばかりです。なのに、なぜ実験動物に対するネガティブなイメージが払拭されないのでしょうか??それは、公開されている情報の少なさに原因があるのではないかと思っています。皆さんもお肉がどうやってできるのか知っていても薬がどうやってできているのか知っている方は少ないのではないでしょうか?

Kのような一般の獣医師にも実験動物のこれからのために何か出来ることはないのでしょうか?

ビーグルを迎えて以降、Kはビーグルのリホーミングの里親探しに関わらせて頂くようになり、一般の家庭へ里子に出す際、実験動物について、“しつこいだろ!”というほど里親希望さんにはお話を聞いてもらっています。やはりどの里親さんも実験動物と聞くと最初は良い印象をお持ちではありません。Kはこの子たちの果たしてきた役割のことや、日夜私たちのため、動物のためにと薬を開発している方々の話を懇々とし、それから、実際に本人たちに会っていただいているのですが、実際のビーグルはそんな長い説明を一瞬で体現し、印象をがらりと変えてくれます。誰に対しても初対面から尻尾を振り振り、とても愛想よくご挨拶をするビーグルを見て、最初は“実験動物だったんですね・・・”というような言い方をしていたにも関わらず、“とても大切にされていたんですね。私たちのためにありがとうね。”とビーグルに言葉をかけてくれるまでに心象変化される方ばかりで、K自身もM社さんのビーグルが持つ力に大変びっくりさせられています。

Kはまだまだ微力ですが、K自身の経験、そしてKの周りの人たちの経験から、実際に目にすることの大切さを実感しました。ビーグルの、そして実験動物のイメージを少しでも変え、皆さんの心にも印象革命がおこるとよいなと思っています。

最後に、実験動物に関わるお仕事をされている皆様へ、動物実験とは実際、どんなことをしているのか、新しい薬ができるまでの大まかな過程も含め、一般の方にわかりやすい言葉で、もう少し説明して頂けるともっともっと実験動物に対する理解が進むのではないかと考えます。

薬は私たちの生活に欠かせないものだからこそ、食育のように、学生の教育に組み込むなど、ちゃんと理解する必要があるのではないかと思います。昔のKのように一方からの情報のみで判断せざるを得ない状況の若者を減らすためにも是非ともご考慮頂ければ幸いです。

このコラムを最後までお読みいただき本当にありがとうございます。 最後は実験動物に関わる方へのメッセージで終わっていますが、言い換えれば、ご覧になってくださった全ての皆様に是非興味をもって頂き、お子様や、お友達、パートナーとの夕飯の話題にでも上げて頂ければ幸いです。みんなで実験動物に対して正しい知識を持ち、話し合えば、より良い実験動物の未来が見えてくるのではないかと思います!

特集

文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?観察テストと新しい飼い主へのアンケート調査の結果

How do rehomed laboratory beagles behave in everyday situations? Results from an observational test and a survey of new owners

Dorothea Döring, Ophelia Nick, Alexander Bauer, Helmut Küchenhoff, Michael H Erhard

PLoS One. 2017 Jul 25; 12(7): e0181303. doi: 10.1371/journal.pone.0181303. eCollection 2017.

概要
実験用の犬が一般家庭に戻されると、犬の生活環境は大きく変化します。慣れ親しんだ研究施設の限られた環境を離れ、新しい家庭では生物や無生物の様々な刺激に遭遇します。文献によると、リホームの経験はほとんど肯定的であるとされていますが、日常的な状況における犬の科学的な観察は行われていません。そこで我々は、74頭の実験用ビーグルを用いて、新しい家に迎え入れてから6週間後に観察テストを行った。このテストには標準化されたタスクと要素が含まれており、犬たちは新しい飼い主との具体的なやりとりや散歩中に観察されました。さらに、この74頭と71頭の飼い主は、里親になってから1週間後と12週間後に、標準化された電話インタビューに参加し、日常的な場面での犬の行動について質問に答えました。観察テストでは、犬は人間や犬に対してほとんど友好的に振る舞い、飼い主が操作している間も寛容で、散歩中は交通量が多くてもリラックスしていました。80%(n=71のうち)の犬は、リードを引っ張らずに行儀よく歩いていた。インタビューによると、大多数の犬が望ましい、友好的でリラックスした行動を示しており、アンケート結果は犬と飼い主の絆を反映していた。様々な要因(年齢、性別、出身地など)の影響を混合回帰モデルで分析したところ、過去2回の行動テストとインタビューの結果を確認することができました。具体的には、研究施設で飼育されていた犬は、研究施設が商業的な実験用犬のブリーダーから購入した犬よりも、有意に良いスコアを示した(p = 0.0113)。本研究の結果は、リホームされたビーグルたちが新しい生活環境にうまく適応できたことを示している。

ドイツでは、多くの企業や大学が長年にわたってリホーミングを促進しており、ドイツの動物福祉法は、脊椎動物の殺害を「正当な理由なしに」罰せられる犯罪と宣言しています。ドイツのほとんどの犬は、専門の動物福祉団体を通じてリホームされています。

本研究では、ドイツの製薬会社(Bayer AG, Leverkusen, Germany)で飼育されている145頭の実験用ビーグルが研究対象となりました。平均年齢±標準偏差は2.2±1.5歳、生後2か月から7.9歳のオス65頭、メス80頭でした。研究施設内の6m2の室内犬舎で、主に単独で飼育されており、少なくとも1日1回は屋外のランを利用していました。犬舎には、寝床、木製の噛みつき棒、犬用のおやつが用意されており、また、犬たちは採血、一般的な検査、経口投与、ワクチン接種などの医療行為に慣れていました。

インタビューの結果では、大多数の新しい飼い主は、愛犬が自分との接触を求め、撫でられるのが好きで、グルーミングも喜んで許可し、ほとんどの犬は、子供や他の犬を含む他の家族に対して友好的であると報告されました。犬たちは獣医師に対しても寛容で、通行人や見知らぬ子供に対する犬の行動は友好的で慎重でした。

見知らぬ子供、飼い猫、獣医師に対する行動だけが、時間の経過とともに若干悪化したとのことですが、時間の経過とともに望ましい行動の出現率が増加しており、犬は日常生活に適応し、飼い主との情緒的な結びつきが見られたと考えられています。

観察テストでは攻撃的な行動は見られませんでした。大多数の犬はリードをつけて行儀よく歩き、車やトラックが通りかかってもリラックスしていて、階段の上り下りも問題なくでき、犬たちはほとんどリラックスして望ましい行動をとっていました。これらの結果は、リホーミングされた実験犬の適応能力の高さを示すものであり、非常にポジティブな結果であったと著者らは考えています。

動物実験実施施設では実験動物福祉の考え方に基づき、それを実現するための管理をしています。少ない例ではありますが、寄稿:実験動物の印象革命<後編>でもご紹介いただき、こうした施設からリホーミングされた動物が、虐待を受けた動物のように人間に不信感をもっているということではなく、一般社会に上手く適応できるということであれば、動物実験実施者としての実験動物に対する気持ちは救われますし、嬉しくも感じるのではないでしょうか。

一方で、著者らは、ポジティブな結果については、研究施設の犬は刺激が少なかったことが理由でもあったのではないかとも考えています。全ての犬が良好な結果であったというものでもありませんでした。リホーミング実施の有無にかかわらず、動物実験実施者はより洗練した管理をしなければならないと、厳しく受け止める必要もあるのだと思います。

リホーミングを実施している施設は、実際のところ社会の期待よりも多くはないかもしれません。そうした施設がもっと多くなれば、実験動物の余生はより豊かになるでしょうし、安楽死を実施せざるを得ない場合の実施者の精神的負担も軽減されるでしょう。多くの実験動物が社会の目に触れることで、引き取られた実験動物を通じて一般社会が動物実験を知る機会も増えてゆくのではないでしょうか。そしてわが身を振り返るきっかけにもなるのではないでしょうか。

実験動物のリホーミングは、社会全体で適切な動物実験を考え遂行するために、鍵となる重要な手法かもしれません。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

特集

文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査

A semi-structured questionnaire survey of laboratory animal rehoming practice across 41 UK animal research facilities

Tess Skidmore, Emma Roe

PLoS One. 2020 Jun 19;15(6):e0234922. doi: 10.1371/journal.pone.0234922.

概要
実験動物が福祉を損なうことなく実験を乗り切った場合、その将来について交渉しなければならない。リホーミングが考慮されるかもしれない。この論文では、英国の施設における動物のリホーミングの受け入れ状況と、リホーミングするかしないかの判断に関わる道徳的、倫理的、実用的、規制的な考慮事項を示す研究結果について報告している。本研究では、英国の研究施設でリホーミングされている動物の数や種類、リホーミングを行っている主な動機、リホーミングを行っていない施設にとっての障壁などを理解することで、広く知られている文献のギャップを解消することを目的としています。英国にある約160の研究施設のうち、41施設がアンケートに回答し、回答率は約25%でした。その結果、リホーミングは日常的に行われていることが示唆されましたが、その数は少なく、2015年から2017年の間にリホーミングされたとされる動物はわずか2322頭でした。少なくとも10施設のうち1施設はリホーミングを行っていることになります。ある種の動物(主に猫、犬、馬)が他の種(げっ歯類、農耕用動物、霊長類)よりも明らかにリホーミングされることを好む傾向があります。実際、実験室で飼育されている動物の94.15%がげっ歯類であるにもかかわらず、2015年から2017年の間にリホーミングされたことがわかっている動物の5分の1以下(19.14%)を占めています。リホーミングの主な動機は、スタッフの士気を高め、施設の倫理的プロファイルをポジティブにすることです。障壁となるのは、再帰の際の動物の福祉に対する懸念、動物に対する科学的な需要が高く、リホーミングの対象となる動物が少ないこと、そして、特定の動物(主に遺伝子組み換え動物)がリホーミングに適していないことです。この研究の結果は、リホーミングを選択している施設だけでなく、現在リホーミングを行っていない施設にも役立つものです。リホーミングを推進することで、実験動物の生活の質を向上させ、施設のスタッフが殺処分の道徳的ストレスを克服し、実験動物の運命に関する社会的関心に応えることができるという利点があります。英国の研究施設の視点から見たリホーミングについての理解が得られて初めて、適切な政策や支援が可能になります。

英国内務省の定義によると、リホーミングとは、”関連する保護対象動物を施設から、Animals (Scientific Procedures) Act に基づく施設ではないその他の場所に移動させること”とされています。そして、その「場所」としては、農場、水族館、動物園、または個人宅が選ばれています。

調査の結果、2015年から2017年の間に、英国の約160の施設のうち、少なくとも19施設、11.9%がリホーミングをしていました。リホーミングされた数は2322匹で、対象となる動物種に大きく依存していました。

実験室で飼育されている動物の94.15%がげっ歯類であるにもかかわらず、リホーミングされたとされる動物の5分の1以下(19.14%)であり、逆に、鳥類、猫、犬、馬、両生類、農業動物は、飼育されている動物のわずか5.84%を占めるにもかかわらず、リホーミングされた全種の80.86%を占めていました。

研究動物の殺処分は,

1)科学的要求
2)回避可能な苦痛を防ぐため(安楽死)
3)経済的・物流的理由

の3つの主な理由で行われますが、リホーミングの主な機会は、3)経済的・物流的な理由で人道的な殺処分が行われてしまう場合にあります

Directive 2010/63/EUでは、以下の場合に動物をリホーミングさせることができるとしています。

・「動物の健康状態がそれを可能にしている」場合
・「公衆衛生、動物の健康、または環境に危険がない」場合
・「動物の幸福を守るために適切な措置が取られている」場合

この指令では、リホーミングされると福祉が損なわれるような動物は、実験の終了時に殺処分されるべきであることが明示されています。

本研究では、動物が リホーミング に適しているかどうかを評価する際に、さまざまな要素が重要であると考えており、5段階の リホーミング のプロセスが示されています。

1. 動物の選択。健康状態、年齢、種類、気質、そして長期的な健康状態を左右するような処置を受けたかどうか。
2. 効果的な社会化とトレーニング。新しい環境への暴露、必要な医療処置(去勢手術など)の実施が含まれます。
3. 最適な住まいを見つけること。
4. 飼い主の能力を評価すること。これは非常に重要であると判断されています。基準としては、飼い主候補が、過去に動物を飼った経験があること、適切な住居があること、取り扱い能力があることを証明できなければならない。家を訪問/検査して、その適合性を確認することもあります。
5. 新しい飼い主の準備。いくつかの施設では、飼い主に適切な住居と初期のフードを提供しています。飼い主に動物の健康に対する責任と、ペットの飼い主としての法的責任を十分に認識させることの重要性があります。

リホーミングの実施にあたって、大半の施設は問題なかったと回答していましたが、リホーミングを困難にする要因として、プロセスに時間がかかることが挙げられています。

リホーミングの機会については、「スタッフの士気を高める」「積極的な倫理観を示せる」など、動物たちの将来の幸福が期待されていました。

リホーミングの障壁となることは、再帰化した場合の動物の健康に関する福祉面での懸念、需要や研究の必要性から退役する動物が少なくなる傾向にあるという現実的な問題、そしてメディアからの否定的な注目への懸念などの外的な課題が挙げられています。

リホーミング後、飼い主が興味を失って動物を処分してしまうことも考えられるため、動物が施設を離れた後の動物福祉の確保について心配されています。また、施設はリホーミングのプロセスが自分たちとその評判にどう影響するかをコントロールすることはできません。サンクチュアリや一般市民が動物の異常な行動や生理についてメディアで議論し、その結果、施設が否定的なイメージを持たれてしまうことが心配されています。

アンケートの結果、実験動物のリホーミングはよく知られており、検討されているが、その数は比較的少ないことが分かりました。数が少ないにもかかわらず、リホーミングを行っている施設では、動物の福祉、スタッフ、施設全体のためになると解釈しており、可能な限り検討すべきである。リホーミングは、スタッフのモラル・ストレスの克服をサポートするとともに、実験室での動物殺傷が日常的に行われていることに対する社会的な関心を喚起するものである。リホーミングを推進するためには、どの施設がどのようにリホーミングを行っているかについての理解を深め、現在この分野で活動していない施設にも情報を広めることが必要である。著者らはこのように結論付けています。

過去の報告から、リホーミングには、1)不必要な殺処分による精神的ストレスを回避する(負の状態の回避)、2)リホーミングした動物の生活の質を向上させる(正の状態の促進)、という双方向のプロセスが存在することが知られていますが、一方では動物福祉を損ねることにもなりかねないために慎重に実施する必要があるかもしれません。また、動物種は犬、猫に限られたことではないでしょうし、飼育数に反してリホーミングの機会の少ないげっ歯類について関心をもつことも必要かもしれません。

寄稿:実験動物の印象革命<前編>の中でもご紹介いただきましたが、私も過去に、知人のつてで実験動物であったマウスやスナネズミを譲り受け飼育した経験があります。もしかしたら過去には国内でも多くの施設がリホーミングを考えていたのかもしれません。

当時よりも動物福祉の考えが進む現在では、動物福祉を損ねることが憂慮されているのかもしれませんが、改めて多くの動物がリホーミングの機会を持つことが検討され、実験動物が社会の目に触れ、より適正な動物実験が考えられてゆくとよいなと思います。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

特集

文献紹介:フィンランドにおける実験用ビーグルの最初のリホーミング:社会化訓練からフォローアップまでの完全なプロセス

The First Rehoming of Laboratory Beagles in Finland: The Complete Process from Socialisation Training to Follow-up

Laura Hänninen, Marianna Norring

Altern Lab Anim. 2020 May; 48(3): 116-126. doi: 10.1177/0261192920942135

概要
実験動物の運命は、倫理的なジレンマであり、社会的な関心事でもある。EUでは、指令2010/63/EUにより、安楽死ではなく、元実験動物のリホーミングが認められている。しかし、我々の知る限り、フィンランドでビーグルのリホーミングが行われたという報告は過去にない。本研究は、ヘルシンキ大学で初めて行われた実験用ビーグルのリホーミングの過程を説明し、その成功を評価することを目的としている。動物保護団体とヘルシンキ大学の協力のもと、合計16頭の元実験用ビーグルが里親として迎えられた。これらの犬は、動物の認知に関する研究に参加したり、動物用医薬品の開発中に小さな処置を受けたりした経験があります。犬たちがまだ実験室にいた頃、数ヶ月に及ぶ社会化トレーニングプログラムが実施された。里親へのアンケート調査、関係者(研究者、動物保護団体、動物管理者)へのインタビューを通じて、社会化トレーニングプログラム、若い犬と高齢の犬の再導入の比較成功、里親の選定基準、新しい飼い主への再導入の成功など、全体のプロセスが評価された。大半の犬は新しい家庭環境によく適応した。実験的な使用を終えた時点で安楽死させることは不必要であり、欧州指令の目的に反する可能性があった。

フィンランドでは、科学的または教育的目的のための動物の使用を対象とする国内法(Act 497/2013)があり、科学的目的のために使用される動物の保護に関する欧州指令2010/63/EUに基づいています。
EU指令は実験動物の運命に関わり、すべての欧州機関に実験犬が実験用途に不要になった後にリホーミングする機会を与えています。
Article 19では、実験に使用された動物は、動物の健康状態がそれを許し、公衆衛生、動物の健康、環境に対する危険がない場合、一定の条件を満たせば、リホーミングすることができるとしています。また、EU指令の前文26には、「手続きの最後に、動物の将来に関して、動物福祉と環境への潜在的なリスクに基づいて、最も適切な決定がなされるべきである。福祉が損なわれるような動物は、殺処分されるべきである」との記述もあります。
したがって著者らは、暗黙の了解として福祉が損なわれない動物は殺処分されるべきではないと考えています。
本研究は、フィンランドで行われた実験用ビーグルの最初のリホーミングと社会化プログラムについて述べたものです。

対象となった実験用ビーグル犬はヘルシンキ大学が所有する16頭で、すべての犬は商業ブリーダー(オランダのハーラン社)から購入したもので、高齢グループは生後6カ月から8歳まで、若年グループは生後4カ月から2歳まで研究施設で飼養されました。どちらも避妊・去勢済みの8頭(雌2頭、雄6頭)でした。
これらの犬は、犬での実験が必要な動物用医薬品の開発研究として、非侵襲的動物認知研究と犬用の新しい鎮静剤に関する臨床獣医学研究に使用されていました。実験処置としては、前者の研究では、ポジティブオペラント条件付け法によって、コンピュータ画面上の視覚刺激をじっと観察し、脳波や眼球運動を非侵襲的に記録するように訓練されました。後者の研究では、数回の鎮静処置が行なわれ、血液の採取、呼吸と心臓の機能のモニターが実施されました。

社会化トレーニングは、犬を研究施設の外に連れ出しさまざまな路面やリードでの歩行に慣れさせること、屋外での排便・排尿を促すこと、犬不慣れな人を施設に迎え入れることから構成されていました。
高齢犬は1回あたり約1時間、半年間で25〜35回散歩させました。若齢犬には、4ヶ月の準備期間を設け、研究施設に隣接するフェンス付きのパドックで監視下での遊びや休憩も含めて個別にトレーニングが実施されました。また、犬の反応や初対面の人に対する心構えも評価しています。
このトレーニングには、アニマルケアテイカー、研究者、動物保護団体のスタッフ、犬の訓練士など、多くの人が関わりました。また、動物保護団体とその地域会員組織がヘルシンキ大学とともに新しい里親探しを行い、それぞれの犬の所有権を大学から動物保護団体に、そして動物保護団体から新しい所有者に譲渡する契約が結ばれました。残念ながら、最後の1頭となった老犬には不安な行動が見られたことから、慣れ親しんだ8頭の群れがないまま施設にとどまることになりました。

アンケートはリホーミング後1ヶ月、半年〜1年、4年の3回実施され、回答したすべての飼い主が圧倒的に新しい犬を溺愛し、その性格の良さを賞賛していました。人間から攻撃されたとの報告はありませんでした。しかし中には、初めての人や状況、音、知らない犬、飼い主との別れ、車での移動などに対して恐怖心を示す犬もおり、リホーミングから4年後の最終アンケートでは、ほぼすべての犬が分離不安を抱えていることが明らかになりました。

全体的な結果としては、行動上の問題はほとんど報告されず、親しい人や家族の他の犬に対して攻撃的であったり、遊びの最中に噛みついたりする犬もいませんでした。また、爪切りなど、犬の扱いに困難はなかったと報告されています。ただし、最終的なアンケートでは、ほとんどの飼い主がトイレのしつけが不十分であると答えていました。

動物保護団体への聞き取り調査によると、これらの犬は小型で穏やかで扱いやすいため比較的容易にリホーミングできると考えていたようです。ところが、その後は無事に再飼育されましたが、若齢犬のうち3頭(2件の里親から)は動物保護団体に戻されました。また、4年間の期間中には老齢犬4頭、若齢犬1頭が安楽死されました。4頭は健康上の理由、1頭は行動上の問題が続いたことが理由でした。

   

リホーミング後のビーグルの生活において、トイレのしつけに問題があるようでしたが、リホーミングの結果は他の文献紹介にもあるように良好な結果でした。
リホーミングに向けて半年から10カ月のトレーニングが実施され、万全な準備がなされたのではないかと推察できますし、元々非侵襲的な動物認知研究に用いられておりトレーニングに慣れているビーグルであったようにも推察されました。しかし、残念ながら1頭がリホーミングを断念されたこと、3頭が一度里親から返却されたことからは、リホーミングの難しさも垣間見えるのではないかと思います。
分離不安には里親での飼育方法も関連しているとは思いますが、新たな環境においてもストレスを溜め込んでしまう状況もあるのかもしれません。さらに、文化の違いもあるとは思われますし、理由もありますが、リホーミングから4年の間に5頭のビーグルに安楽死が選択されたことも憂慮される点かもしれません。
著者らはさらに家畜など他の多くの動物種のリホーミングの機会もあったことを述べていますが、回答としては、リホーミングのアイデアは気に入っているものの、他の動物にとっては今回のケースで使用された社会化プログラムは、あまりにも計画が不十分で、性急かつ無秩序であったとの見解が示されたと述べています。

リホーミングは実験動物の余生を考える素晴らしい方法ではありますし、著者らもリホーミングを推奨してはいますが、この文献では課題として憂慮されるプロセスも赤裸々に示されており、安易に進めることがまた新たな問題を生じさせてしまう可能性も示唆されます。リホーミングにおいては各動物種に最適な方法を慎重に選択することが必要でしょう。ある意味リホーミングではなくとも、残された1頭のように、実験施設や研究者自身が最初の飼養者としての責任を持ち、アニマルサンクチュアリのように実験施設や自宅での終生飼育を考えるといったことも実験動物の余生を考える選択肢の一つとなるようにも思います。

また 大変興味深いことに、今回リホーミングの対象となった認知研究について、著者らはビーグルを用いて実施していた実験法を家庭犬に用いることで、その後実験用ビーグルの必要性がなくなったと報告していました。動物実験とは通常実験動物を用いて行われるものではありますが、実験法を確立した後の実験には実験動物が必要なくなったということです。こうした動物実験の代替の可能性もあるのかもしれません。

もちろん研究対象は目的に拠るものですが、実際に動物用医薬品の開発でも医薬品の開発でも、ボランティアによる治験や臨床試験が行われます。動物実験とは実験動物を用いて実験をするという側面だけではなく、動物のことを研究して理解を深めてゆくことでもあります。動物の余生についても研究を重ね、多様な選択肢の中で考えを巡らせてみることは、改めて社会として適切な動物実験を実施するとは何かということを考える材料にもなるかもしれません。

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