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動物の難治性疾病に対する創薬研究 〜動物の免疫療法について〜

コラム

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3. イヌの腫瘍疾患に対する創薬研究

 イヌの死因の約3割は悪性腫瘍(がん)であるとされており、特に高齢犬ではその傾向が高いです。イヌの腫瘍に対しては現在、外科療法・放射線療法・化学療法の3大療法が主として用いられていますが、高齢犬の体への負担や副作用、がん種と療法との相性などの面で制限を受ける場合も多く、3大療法に加えて新たな治療戦略の開発が望まれています。我々はまず、イヌにおいても、悪性黒色腫や血管肉腫、肥満細胞腫等を中心とした数々の悪性腫瘍においてPD-L1 が高発現していること、またこれに対する抗PD-L1 モノクローナル抗体を用いてその免疫抑制機序を遮断するとイヌ免疫担当細胞の機能を回復できることを明らかにしました(Maekawa et al., PLoS One. 2014. 9(6):e98415. Maekawa et al., PLoS One. 2016. 11(6):e0157176)。そこで、イヌの腫瘍治療に応用できる免疫チェックポイント阻害薬としてイヌ用の抗PD-L1抗体医薬品を開発し、難治性の悪性腫瘍に罹ったイヌに対する臨床応用研究を北海道大学動物医療センター高木 哲准教授(現麻布大学・教授)と行いました。その結果、悪性黒色腫と未分化肉腫に罹ったイヌの一部で、明らかな腫瘍の退縮効果が確認され、さらに悪性黒色腫では肺に転移した後の生存期間を延長する効果も得られました。

 ● 2017年8月25日:イヌのがん治療に有効な免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1 抗体)の開発にはじめて成功~北海道大学動物医療センターにおける臨床研究成果~

(https://lab-inf.vetmed.hokudai.ac.jp/content/files/Research/2017.8.25_jyu.pdf)

 ●  New therapeutic antibody for dog cancers

(https://www.global.hokudai.ac.jp/blog/new-therapeutic-antibody-for-dog-cancers/)

 さらに、肺に転移した悪性黒色腫をもつイヌ 29 頭(ステージ4 (末期がん))に対し、抗 PD-L1 抗体による試験的治療を行ったところ、イヌで肺転移巣を含む腫瘍の退縮が観察されたほか、北海道大学動物医療センターにおいて治療した過去の症例と比べ、抗 PD-L1 抗体治療群では有意に生存期間が長いことが明らかになりました。

 ● 2021年2月15日:続報・肺転移のあるイヌ悪性黒色腫に抗PD-L1抗体が有効であることをはじめて実証 ~イヌ用免疫チェックポイント阻害薬の実現に大きく前進~

(https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/210215_pr.pdf)

 ● New therapy target for malignant melanomas in dogs

(https://www.global.hokudai.ac.jp/blog/new-therapy-target-for-malignant-melanomas-in-dogs/)

 しかし、奏効(がんの退縮効果)が得られるイヌは一部にとどまっていました。そこで、それまでに抗 PD-L1 抗体による治療を行った肺転移のある口腔内悪性黒色腫のイヌについて回顧的な解析を行うことで、放射線療法と抗 PD-L1 抗体療法の組み合わせがより良い治療効果に繋がるかを検討しました。その結果、放射線治療歴の有無やそのタイミングが抗 PD-L1 抗体の治療効果と相関することを発見しました。すなわち、「RT(放射線療法)なし群」では、20頭中2頭で肺転移病変が抗 PD-L1 抗体治療に反応し(完全奏効1頭及び維持1頭)、 臨床的有用率は 10.0%でしたが、「RT 前治療群」では、9頭中4頭で完全奏効及び1 頭で維持/部分奏効が認められ、肺転移病変の臨床的有用率は55.6%となり、これは 「RT なし群」と比較して有意に高い比率(P = 0.016)であることを確認しました。この組み合わせ療法において安全性にも大きな問題は認められなかったことから、 放射線治療を免疫チェックポイント阻害薬の開始前に適用することで、 より良い治療効果が得られる新しい治療法となる可能性があります。本臨床研究の成果は、放射線療法が適用される他のがんにも適用できる可能性があり、免疫チェックポイント阻害薬の適用拡大と併せて検討を進めることでイヌの腫瘍に対するより良い治療の提供に繋がるものと期待されます。

 ● 2023年6月2日:イヌ悪性黒色腫に対して放射線治療との併用で抗PD-L1抗体の効果が高まることをはじめて報告 ~イヌ用免疫チェックポイント阻害薬のより良い使用法の実現に期待~

(https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/230602_pr.pdf)

 ●  Combination therapy effective against canine melanoma – Hokkaido University

(https://www.global.hokudai.ac.jp/news/8896)

 さらに、これまで臨床研究の対象としてきた口腔内悪性黒色腫以外の、進行した悪性腫瘍に罹患したイヌ 12 頭に対して、抗PD-L1 抗体の安全性と有効性を調べるための臨床研究を行いました。その結果、鼻腔内腺癌の 1 頭及び骨肉腫の 1 頭で腫瘍の退縮が認められました。

 ● 2023年10月5日:イヌの鼻腔内腺癌や骨肉腫に免疫チェックポイント阻害剤が有効であることを初めて報告  ~イヌ用抗PD-L1抗体による免疫療法の適用拡大に期待~

(https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/231005_pr.pdf)

 抗 PD-L1 抗体治療単独での効果は限定的であり、治療効果を高めるための併用療法の開発が求められていることは先述のとおりです。そこで次に、抗 PD-L1 抗体治療に併用する免疫療法薬として、イヌ Cytotoxic T lymphocyte Antigen-4(CTLA-4)に対する阻害抗体(抗 CTLA-4 抗体)を新たに開発しました。そこで抗 PD-L1 抗体単独治療を行ったものの腫瘍の拡大認められたイヌに対して抗 CTLA-4 抗体による併用療法を行いました。その結果、抗腫瘍効果の評価が可能だった 6 頭のうち、1 頭で腫瘍の退縮が認められました。本研究成果は、抗 PD-L1 抗体単独治療に効果を示さなかったイヌにおいても、抗 CTLA-4 抗体との併用治療による免疫療法が有効となる可能性を示しており、イヌ腫瘍に対する新たな免疫療法の実現につながる重要な知見となります。

 ●  2025年5月20日:イヌのがんに抗 CTLA-4抗体治療が有効であることを初めて報告 ~イヌのがんへの免疫療法の適用拡大に期待~

(https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/250520_pr2.pdf)

 これらの研究開発品は,悪性黒色腫をはじめとしたイヌの難治性腫瘍の治療薬として期待できる成果と考えられ、現在も北海道大学動物医療センターにて臨床研究を継続実施中です(図3)。

 ● https://www.vetmed.hokudai.ac.jp/VMTH/aboutus/research/

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北海道大学大学院獣医学研究院 今内 覚

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