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JALAM会員の寄稿 の記事一覧

「温故知新、前島賞」

皆さんは「前島賞」の由来や趣旨をご存知でしょうか。

前島賞をご存知の方でも、この賞の由来となっている前島一淑(まえじま・かずよし)先生をご存知ない方、特に若い方に増えてきているかもしれません。そこで、このコラムでは、前島先生と前島賞を知って頂くと共に、先輩を倣い、実験動物医学を一層、発展させる事を考える機会になれば幸いです。

JALAM初代会長の前島一淑(まえじま・かずよし)先生は、1937年、静岡県生れで、1960年に北海道大学獣医学部を卒業されました。その後、1962年に東京大学伝染病研究所(北里柴三郎が創設、現東京大学医科学研究所)助手に着任され、田嶋嘉雄先生や藤原公策先生の両先生の指導の下で感染症の研究を開始し、実験動物学、無菌動物学、実験動物衛生管理学を中心に多方面にわたって業績を残されました。1973年には慶應義塾大学医学部に助教授で着任された後には(1988年教授就任)、日本において実験動物福祉や動物実験倫理の分野を開拓されました。また、獣医学系大学において実験動物学の講義を開講をされると共に、笠井憲雪先生らと共に、実験動物医学専門医制度を確立されるなど、後進の指導にも大きく貢献されました。こうした業績が認められ、2003年には日本獣医学会賞越智賞を、2005年には、日本実験動物学会功労賞を受賞されました。

前島先生のご芳名を冠した前島賞が創設された経緯ですが、2003年に前島先生が慶應義塾大学を退任されるのを機に、JALAMに多額の寄付をされました。JALAMでは、前島先生の意思を汲み取り、後継者の育成を目的とした賞(前島賞)を創設すること事となりました。前島賞は、JALAM学術集会において最も優秀な発表を行った会員1名に贈呈されます。賞の創設は2004年ですので、既に18年の歳月が流れ、毎年、多数の応募があり、本年まで18名の先生が受賞されております(下表参照)。審査にあたっては、研究の独創性及び新規性、科学的重要性、実験動物学分野への貢献と将来への期待を基準に選出されてきました。その結果、多くの優れた成果が得られ、新たな分野が拓かれてきました。これからも、JALAM学術集会(前島賞への応募)が若手研究者の一層の活躍につながる場になることを期待しております。

来年より、本賞は、日本獣医学会の賞として、学術集会優秀発表賞(前島賞)に改名されます。最近は、SDGs (Sustainable Development Goals) と言う言葉をよく耳にする様になりました。若手の研究者の皆さんには、是非、本賞を目指して切磋琢磨して頂き、継続的な成長に繋げて頂きたいものです。

歴代受賞者 (2004-2021)

第1回今野 兼次郎群馬大医 動物実験施設
第2回益山 拓JT医薬総合研究所安全性研究所
第3回高橋 英機理研脳科学研究センター 動物資源開発支援ユニット
第4回浅野 淳鳥取大農獣医 生化学研究室/北大獣医 実験動物学教室
第5回岡野 伸哉東北大医 動物実験施設
第6回酒井 宏治国立感染研 動物管理室
第7回西野 智博北大獣医 実験動物学教室
第8回党 瑞華北大獣医 実験動物学教室
第9回近藤 泰介東大農獣医 実験動物学研究室
第10回大沼 俊名愛媛大 総合科学研究支援センター動物実験部門
第11回北沢 実乃莉東京農工大農獣医 衛生学研究室
第12回佐々木 隼人北里大獣医 実験動物学研究室
第13回中野 堅太国際医療センター動物実験施設/北里大獣医 実験動物学研究室
第14回越後谷 裕介日大獣医 実験動物学研究室
第15回松田 研史郎東京農工大獣医 比較動物医学研究室
第16回 守屋 大樹大阪大谷大薬応用薬学系 免疫学講座
第17回高橋 悠記北里大獣医 実験動物学研究室
第18回橋本 茉由子酪農大獣医 生理学ユニット

コラム

JALAM会員からの寄稿

今野 兼次郎

コンノ ケンジロウ

国立循環器病研究センター研究所

寄稿文

温故知新、前島賞」

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安居院 高志

アグイ タカシ

北海道大学名誉教授

YouTubeチャンネルの紹介

前JALAM会長の安居院高志先生(北大名誉教授)が、YouTubeチャンネルを開設されました。本チャンネルでは、自然散策や山菜類の魅力を発信されております。

Profile Picture

特集

情報発信のあり方を考える

 科学研究の継続や進展のためには一般市民の支持が必要不可欠です。毎年、Gallup社のアメリカ人の”実験動物を使った医学研究”に対する世論調査に注目しておりますが、2001年〜2019年にかけて徐々に低下してきました (容認率、65% ➝ 50%)。昨年はコロナの影響もあり56%と上昇しましたが、2021年に再び50%に低下しました。日本がお手本としてきた米国の動物福祉政策を以ってしても、容認率の低下は避けられないようです。今回は、関連する話題として、一昨年のJALAS総会にて、塩谷恭子先生が企画された英国Understanding Animal Research (UAR)の活動の一部を紹介させて頂きます。

 UARは、代表のWendy Jarrett氏と8名の職員で運営されるNPO団体で、動物実験に関する情報の透明性を高め、英国民から理解・支持を得ることを目的としている。現在、英国の124の主要な研究機関 (公的研究機関、大学、学会、製薬会社、飼育関連機器会社等)がUARに加盟し、加盟施設は下記の4つの協定を結び、UARは加盟施設への指導・助言を行う。

  1. 実験に動物を使用する場合、いつ、どのように、なぜを明確にする。

  2. メディアや一般市民に対し動物実験についてより積極的に情報を公開する。

   (HPに情報を掲載し、問い合わせや質問には確実に回答すること等)

  3. 自ら進んで動物実験について国民が知る機会を増やす 

  (出前授業や施設内のバーチャルツアー動画を公開する等)。

  4. 年に一度、UARに活動内容を報告し、加盟施設間で情報(成功/失敗体験)を共有する。

 加盟施設のうち、マスコミ向けに動物実験の情報を積極的に提供している施設は61箇所、外部の訪問客を受け入れた施設は57箇所、学校に演者を派遣あるいは施設に学生を受け入れた施設は56箇所、マスコミの撮影を受け入れた施設は13箇所である(2019年)。情報公開において先駆的な試みを行った施設には、12月に開催される情報公開表彰式において表彰される。

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第2回)

第二回 実験動物懇話会と実験動物研究会の設立

(このコラムはJALAMニュースレターNo.40/2013.2に掲載されている特集を転載しています)

実験動物懇話会の設立

 1991 年(平成 3 年)4 月に「実験動物懇話会」が慶応大学前島一淑教授を始め 10 名の呼びかけで日本獣医畜産大学にて設立会が開催された。この時の講演会では「実験動物界における欧米諸国の獣医師の役割」のタイトルで、黒澤努先生のイギリスとフランスの状況、前島先生からアメリカの状況が紹介された。

 また、前号にも述べた様に私はこの年の 10 月 5 日から 11 月 4 日まで米国のミシガン大学等六つの大学研究機関の動物実験施設を訪問したが、この時の経験を基に帰国早々の11 月に「実験動物(動物実験)専門獣医師制度の確立に向けて―私見—」という文章を公表した。そこには当時の状況下で実現可能と思われるシミュレーションを示したものである。そこでは実験動物専門獣医師制度及び専門医育成制度の早急な確立に向けて、第一にこれらの制度によって立つべき組織として、日本獣医学会や日本獣医師会、日本実験動物学会等を上げ、第二に教育制度として2 つの制度、すなわちレジデント制度と講習会制度を提案した。もちろん前者は ACLAM の制度を模してわが国に適用した場合、後者は現状をにらんで可能な方法を示した。そして最後に当時私が在籍していた北海道大学を例として上記制度の設立の可能性をシミュレートしたものであった。

 翌年の 1992 年(平成4年)4 月には実験動物懇話会の小シンポジウムとして私が「実験動物医学に関する卒後教育」のタイトルで前回紹介した ACLAM の制度を紹介した。そして 1992 年(平 成 4 年)9 月には北海道大学学術交流会館で前島先生をはじめ鍵山先生や私により周到な企画立 案と準備を行ない、「実験動物医学の専門教育に期待するもの」とのタイトルで、午後の 4 時間 をかけて懇話会として最大のシンポジウムを開催した。そこでは私を始め、高橋和明、浦野徹、 高頭廸明、山本博、前出吉光、鍵山直子の各博士がそれぞれの立場から意見を述べ、議論した。

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第3回)

第三回 日本実験動物医学会認定獣医師制度の設立

(このコラムはJALAMニュースレターNo.41/2013.8に掲載された特集を転載しています)

教育セミナーのスタート

 実験動物医学会は専門獣医師の育成をめざして発足したため、学会開催毎に教育セミナーを開催することが大きな事業であった。前回にも記載した様に第一回教育セミナーは 1994 年(平成 6 年)3 月 31 日の実験動物医学研究会第一回総会とともに開催した。そしてほぼ同時に、同セミナ ー参加者の登録を開始し、参加証の発行を行なった。また、このセミナーを効果的に行ない、実験動物医学の基礎を網羅するために基本方針を決めた。そこでは、実験動物の遺伝と育種、実験 動物の特性、実験動物の疾病、動物実験技術、動物実験管理学の 5 項目をあげ、これをもとにして講演テーマを決めることとした。

 私もいくつかのセミナーを企画したが、その中で印象的なものを紹介すると、第 122 回日本獣医学会(1996 年・平成 8 年、帯広畜産大学)では東大農学部実験動物学教室の板垣慎一助教授と ともに「実験動物の麻酔について考える」を企画した。この時は板垣先生と大阪大学医学部助教授黒澤努先生の司会で、私がイントロダクションを行ない、東北大学医学部麻酔科学講座加藤正人助教授の「ヒトの麻酔科学:最近の話題」、東大農学部外科学研究室西村亮平助教授の「犬および猫の臨床麻酔」というタイトルで講演をいただいた。ヒトの先進的な麻酔学を紹介していただき、現在の獣医麻酔の先端を紹介してもらう狙いであった。このセミナー会場は実験動物分科会 (日本実験動物医学会)メンバーのみならず他分科会のメンバーも大勢集まり、聴衆で満員にな った。このときまで私は、実験動物分科会は獣医学会では後発のマイナーな分科会であると思っていたが、獣医学会会員の実験動物医学に対する感心の大きさがわかり、企画がよければ多くの 聴衆が集まることを認識した。以後の獣医学会でも我々の分科会の企画には多くの聴衆が集まることはご存知の通りであり、企画者の努力の結果であろう。

 この時のエクスカーションは大雪山の麓の「トムラウシ温泉東大雪荘」であり、今は亡き国立感染研究所の内貴正治獣医科学部長と酒を酌み交わしたのは楽しい思い出である。

 また、板垣先生は本会の理事はもとより学術集会委員会委員長や認定制度検討委員会委員もしていただき、本学会の中心メンバーとして今後の活躍を大いに期待されていたが、1997年・平成 9 年 8 月 8 日に早世された。30 代半ばの一番脂ののった時期であり、大変惜しまれた。

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第4回)

第四回 創立認定獣医師と本学会の課題

(このコラムはJALAMニュースレターNo.42/2014.4に掲載された特集を転載しています)

 この特集も 4 回目を迎えた。第一回で「発足当時尽力した人々は私も含め第一線から退く時代 となり、創成期の出来事を残しておきたい・・」と言う初めの目的は、前回の「・・・初めての認定獣医師が誕生した」というところまでを描いたので、達成したと考え、今回は書き残した若干の事柄を記載して、「私観・日本実験動物医学会史」を終えたい。

創立認定獣医師

 暫定制度ながら、1999 年 3 月 25 日に初めての認定獣医師 32 名が誕生した。この後 2 回、合計 3 回で認定された獣医師は暫定制度のもと、筆記試験を経ずに資格認定試験のみで認定獣医師と認定された。

 認定制度を確立するためのプロセスとして、次のようなステップをとることとした。まず暫定制度を制定し、この制度の下で厳しい基準の資格審査により「創立認定獣医師」を認定すること。 つぎに本制度を制定し、創立認定獣医師により試験問題を作成し、筆記試験と若干緩められた基準による資格審査により認定獣医師を認定する。暫定制度は施行後 3 年以内に廃止し、本制度に移行する、というものである。

 暫定制度により認定された創立認定獣医師は 3 年間で 58 名誕生した。筆記試験を課さずに認定し た「創立認定獣医師」に批判もあろうかと思うが、この制度を少しでも早く社会に認知されるため には、早急に一定の数の認定獣医師を作る必要があるという判断があった。また、すでに各研究教育機関等で責任ある立場で活躍している獣医師は、それなりの評価を既にそれぞれの所属する研究機関等や実験動物界から受けており、厳しい資格審査でその事を評価する事で、十分に認定獣医師の認定を受けるにふさわしいという判断もあった。結果として制度設立への長い助走の時期や設立後もほとんど社会に認知されていない時期に頑張っていただいた認定獣医師はまさに創立認定獣医師(Founder)という称号を受領するにふさわしいと思う。創立認定獣医師は、2013 年 3 月 25 日現在の名簿では 33 名に減っており、すでに 25 名 43%の方々が専門医をリタイヤされ た。今後も多くの専門医の方々が第一線から引退されるが、実験動物医学会から専門医制度を引き継いだ日本実験動物医学専門医協会は、創立認定獣医師のみならず専門医をリタイヤされた 方々のお名前を何らかの形で永久に名簿に残していただきたいものである。この場をお借りして 特に創設認定獣医師の方々に対して心から敬意と感謝の意を表したい。

 本制度は 2001 年にスタートしたが、暫定制度が当時第一線で活躍しているベテランの獣医師 を認定して、この制度の基礎を築く性格が大きかったのに対し、本制度はこれから活躍する若手 の専門獣医師を育て認定することが目的となった。2002 年 3 月に初めての資格審査と筆記試験に よる認定獣医師が3名誕生した。未知の新制度に果敢に挑戦して初認定された阿部敏男氏(認定第 59 号) 、梶原典子氏(認定第 60 号)、中井伸子氏(認定第 61 号)にも敬意を表したい。

 難しい筆記試験が加わった理由からか、その後も受験者の数は少なく、6-7 年間はわずか 2-4 名の認定がつづいた。受験者がゼロの年もあり、さすが制度そのものの可否、さらには存続を懸念することもあったが、我慢我慢の時期である。しかし近年は多くの会員非会員が本会主催の教育セミナーやウェットハンド研修に参加し、また受験者も増え、2013 年 3 月に認定された専門医 は 2 桁となり、当時を知るものとして、さらにはこの制度の設立に関わったものとしては、考え深いものがある。

コラム

老化研究と実験動物

北里大学獣医学部実験動物学研究室 宍戸晧也

1.はじめに

昨今、アンチエイジングの分野の注目度が高まっており、様々な分野で商品開発や研究がされています。多くの方が、一度は「年老いたくない!」と思ったことがあると思います。人類は古来より不老不死の追求や、死からの蘇りを切望してきました。秦の始皇帝が不死の薬として丹薬を飲んだり、来世の復活を願うエジプト王のミイラとして残したことが広く知られています。現代でも、未来の蘇生技術やクローン技術に期待して、遺体を冷凍保存するビジネスが複数存在します(1)。

我が国を含む先進国では医療(特に感染症分野)が発達したことで、平均寿命が飛躍的に延びました。一方、寿命の延伸によって、今度は新たにがんと生活習慣病、フレイル、ロコモティブシンドローム、認知症、骨疾患などが問題となってきました。2050年には65歳以上の高齢者が6人に1人を占めると推定されており、急速な高齢化が世界的に進むことが危惧されます。生活の質や健康の向上がないまま寿命を延ばすことには、問題があることは明らかです。

この将来直面する問題に先駆けて、わが国では老化の遅延による健康寿命の延長や老化制御、疾患予防、克服を目的としてAMEDでは老化研究の領域に対して支援を行っています。老化研究は国の研究支援機構にとどまらず、Googleは2013年に15億ドルをかけてCalicoというベンチャー子会社を立ち上げるなど、老化とその治療は今や世界的に大きなニーズとなっております。本コラムでは老化研究と実験動物の老化モデルについてご紹介します。

コラム

シンガポールにおける動物研究施設の運用

Chugai Pharmabody Research Pte. Ltd. 山本 駿

【はじめに】

シンガポールにあるChugai Pharmabody Research Pte. Ltd.の山本と申します。私が駐在を始めた2020年3月から長きにわたり、新型コロナウイルスに関する行動制限があったのですが、今はそれらもなくなり、シンガポールライフを楽しんでいます。

さて今回は、シンガポールにおける動物研究施設の運営について取り上げたいと思います。私は元々有機合成化学を専門としており、動物実験に従事したことがなかったのですが、現職の業務の一環として、弊社のInstitutional Animal Care & Use Committee (IACUC) 事務局を務めることになりました。最初は初めてのことで戸惑いが大きかったのですが、前任者から数カ月間の引継ぎ期間を設けてもらい、弊社が契約している管理獣医師からのサポートや、シンガポールにおける事務局に必須のトレーニングの受講を通じて、必要な情報を迅速にキャッチアップすることができました。

現在弊社は、管理獣医師、社内の研究者3名、社内の非研究者2名、社外委員1名に加えて、事務局の私を含む8名体制でIACUCを運用しています。今回はシンガポールにおけるIACUC運営を通じて私が知ったこと、経験したことなどをごく簡単にご紹介させていただきます。

【動物研究施設管理の概要】

シンガポールにおける動物研究施設はライセンス制で運営されており、Ministry of National Development (MND、日本語では“国家開発省”と訳されます) のサブ機関であるNational Parks Board (NParks) 内にあるAnimal & Veterinary Service (AVS) という組織が、動物研究施設を管理しています。AVSは動物の健康と福祉を総合的に管理しており、その一環として動物研究施設の管理も行っております。

AVSは動物研究施設の運用に関するガイドラインの作成・ライセンスの付与・年次の査察・必要なトレーニングの提供等を行っており、動物研究施設はガイドラインに基づいた施設運用、研究用動物の管理、AVSへの必要な情報やレポート(Annual ReportやIncident Report)の提出、および年次査察の受け入れが義務付けられています。(図1)

図1. シンガポールの動物研究施設管理の概要

【ライセンス】

ライセンスについてもう少し詳しく説明します。新たに動物研究施設の運用をスタートするには、AVSからの査察を受ける必要があり、その査察をパスすると、ライセンスが発行されます。ライセンスの期限は1年で、更新前に再度AVSからの査察をパスすることでライセンスが更新されます。

AVSの査察は、書類査察と実際の施設の査察の2部構成となっており、それぞれガイドラインに沿った運用ができているか細かくチェックされます。私が初めて査察対応をしたときは、「どんな厳しい指摘がされるのだろうか?」「ライセンスが剥奪されたらどうしよう?」「そもそも英語のやり取りがちゃんとできるんだろうか?」と準備段階から胃がキリキリする思いでした。しかしながら、査察自体は細部にわたって行われるのですが、査察員の対応がとても丁寧で、一方的な指摘ではなくこちらの意図を確認してくれたり、 “どうすればもっと良くなるか” を一緒にディスカッションしたりすることもでき、安堵したことを思い出します。

なおAVSの査察は原則毎年受ける必要がありますが、国際的な第三者認証機関であるAssociation for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care International (AAALACi) 認証を受けた施設では、AAALACiのsite visitがある年に限り、site visitをAVSの査察に置き換えることができる、という運用もされています。

コラム

実験動物と伴侶動物の二刀流獣医師

とちぎ うさぎ・ことり・ちびっこ動物の病院 早稲田大研究推進部 獨協医科大薬理学講座 寺田節

はじめに

獣医師として活躍できる場は多く、小動物臨床、大動物臨床、公務員、研究職などの選択肢を挙げることができる。その選択肢の中には実験動物の管理に携わる獣医師もある。さらに深く掘り下げると、その獣医師のなかには実験動物医学専門医の資格を有し、より専門的な見地から携わっている獣医師もいる。実験動物医学専門医の資格の有無に関わらず実験動物の管理に携わる獣医師は不足しがちなのが現状である。個人的な意見として、獣医師を目指して大学に入学する学生の多くは、「動物の命を救う」という目標を胸に勉学に励んでおり、動物実験はその志と相反するものであると認識している学生が多いと思われる。そのため、動物実験に携わる獣医師の道に進む学生が少ないのではないかと推察する。私自身もそんな学生のひとりであったが、実験動物学教室の門をくぐることになるのである。

なぜ二刀流獣医師になったのか

将来、競走馬の獣医師になりたいと大学に入学したのだが、研究室配属の際に、学生のうちにしかできない勉強をしたいと思い、当時「動物行動学」を研究していた実験動物学教室の斎藤徹先生に師事したのがはじめの一歩であった。斎藤徹先生は㈶残留農薬研究所毒性部室長の経歴を持つ実験動物学の専門家であり、厳しい指導の下実験動物学及び研究の基礎を学ぶこととなるのである。さらに私の運命を決定づけたのが、私が大学院生の時に斎藤徹先生が大学附属病院にて特殊動物診療科を立ち上げたことであった。これは今で言うエキゾチックペット(犬猫及び野生動物以外の動物)の診療科であり、私はそこの立ち上げメンバーに選ばれたのである。卒業後、医科大学実験動物センターの教員及びセンター長の傍ら、外勤制度を利用してエキゾチックペットの臨床獣医師の非常勤を12年間経験した後、動物病院を開業し実験動物医学専門医と小動物臨床獣医師の二足の草鞋を履き活動することとなる。現代で言う二刀流である。

二刀流の根底は動物への苦痛軽減

 実際、動物実験では実験に用いられる動物の多くは最終的に安楽死処置される。したがって初心で抱いていた「動物の命を救う」という考えに反するのではとジレンマに陥る。しかしながら、医学・獣医学研究において動物実験は必要である。そこには獣医師が不可欠であり、特に実験動物医学専門医の存在が重要となる。二刀流で活躍する中で、見えてくる境地がある。実際には私自身、動物実験も臨床も動物に対しての考え方は根底では同じであると理解している。この理解があるからこそ、二刀流が成り立ち、そんな私だからこそできるアプローチで動物実験及び臨床と活躍の場を広げているのだと考えている。

 基本的に動物実験は法律、ガイドライン、規程等に則り実施されている。その中でも獣医学的ケアは重要な位置づけとなっており、実験動物医学専門医の活躍の場となっている。動物実験に携わる研究者たちは、必ずしも実験動物に精通しているわけでもなく、ましてや獣医学的ケアが全ての実験動物に行き届くとは限らない。動物実験の一部では苦痛度の高い研究も行われるため、これら実験動物において苦痛の緩和に配慮することが求められる。臨床においては伴侶動物たちには飼い主がいて、多くの愛情を注いでもらいながら暮らしている。そんな伴侶動物では飼い主の意識が高く、病気や傷害からの苦痛を取り除くことを求められ、獣医師として積極的に苦痛軽減を行うこととなる。苦痛軽減の方法は多岐にわたり鎮痛薬等の種類も多い。これら知識は実験動物における苦痛軽減にも活かされている。もちろん動物実験において人道的エンドポイントが存在し、鎮痛薬等を使用しても軽減できない苦痛を呈している実験動物には安楽死処置が行われる。一方で我が国の伴侶動物医療において、この「安楽死」は一般的に受け入れられているとは限らない。しかしながら、私は各国、各学会等の動物実験のガイドライン等を参照し、飼い主に安楽死の重要性を説明することもある。これは実験動物医学専門医である知識が活かされているが、根拠なく飼い主に安楽死を勧めることは望ましいとは思えず、伴侶動物の苦痛軽減を最大限に考慮して説明している。

 私が考える二刀流獣医師の考えの根底は動物の苦痛軽減を最大限に追求することと考える。それは治療することはもちろんのこと、治療困難な動物においても積極的に苦痛軽減を行い、動物の福祉を守ることに集約される。

二刀流の利点

 現在は、臨床獣医師に主軸を置き、特にエキゾチックアニマルを専門で診察を行っている。動物実験に携わる期間が長かったことから、マウス、ラット、ハムスター、ウサギと小さい動物の扱いは慣れていて、また手術も実施することができる。実験動物医学専門医からの視点では当然のことであるが、臨床獣医師からの視点では、げっ歯類等の小型動物に麻酔を施し手術をすることの難易度は並大抵ではない。多くの臨床獣医師は、これら動物の扱い方、麻酔方法及び手術が不慣れもしくは不可能なことから敬遠する傾向が強い。そのため現在では近隣の動物病院より症例を紹介していただく機会が多く、近隣のエキゾチックアニマル、飼い主及び動物病院に貢献できていると自負している。また、動物実験は医科大学で経験を積んでいたため、医師の友人が多くでき、その医師たちから医学のスキルを学ぶ機会を得ることが、今の臨床獣医師としての糧となっている。当然、診療で困ったときも相談できるため、重宝しているのも事実である。

 実験動物医学専門医としては、企業等の管理獣医師及び大学関連の動物実験委員等の役職をいただいている。そこでは動物実験が適切に実施されているか、動物福祉・倫理が遵守されているか目を光らせている。臨床獣医師の肩書もあるせいか、麻酔方法、鎮痛剤等の苦痛軽減方法及び治療等の問い合わせでは説得力のある様々な方法を提案することができる。また、疾病に対して早期に診断することも可能である。近年の実験動物は非常に清浄度の高い環境で飼育繁殖されているため、感染性の疾病を見る機会が少ない。一方で、小動物臨床の現場では感染症を含む様々な疾病と遭遇する。そのため小動物臨床での経験が動物実験で活かされるのは疾病の診断治療によるところが大きいと思う。

おわりに 二刀流獣医師ならではのアプローチで相反すると思われる分野でも、お互いの経験を活用し、それぞれのスキルを高めることは可能であり、逆にそれぞれの分野での信頼を得られる機会でもあると考える。この二刀流獣医師は何も私だけができることではなく、多くの獣医師でも活躍は可能であり機会を得ることができると考える。ひとつの分野に縛られることなく、多くの機会、経験を得て、スキルを高め、多種の分野で活躍できる獣医師が今後誕生することを切に願う。

コラム

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