動物の大きさに関する研究と実験動物
コラム
・smallie (slie)マウス
smallie(slie)マウス(図3)は、Jackson研究所で発見された自然発生的な常染色体劣性変異を持つ系統で、小人症と不妊症を呈します。離乳期以降、slieマウスは成長遅延と体重減少(16,17)、さらに突出した目や短い鼻先などの軽度の頭蓋顔面異常を示します(14)。ホモ接合体のslieマウスは、出生時には正常に見えますが、Lewy型小人症と類似した特徴を持つため、ヒトの小人症研究において有用である可能性があります。解析の結果、slieマウスではDiscoidin Domain受容体2(DDR2)をコードするDdr2遺伝子に150 kbの欠失が確認されました(14)。詳細な表現型解析により、slieマウスの雌はすべて無排卵であり(18)、雄も精子形成が欠如し(19)、性腺機能不全が不妊症の原因と考えられました。性成熟前のslieマウスの下垂体の大きさは、野生型マウスより小さいものの、下垂体および視床下部ホルモンのレベルや視床下部の遺伝子発現には差は認められませんでした。また、細胞の増殖や分化、成長促進などの機能を持つIgf-1 mRNAの肝臓における発現は低下しているものの、血中のIGF-1レベルに大きな変化はみられませんでした(14)。生殖器官や精巣、卵巣を刺激して性ホルモンや精子、卵子の生成を促す働きを持つゴナドトロピン投与後、成体slieマウスにおけるステロイドホルモン反応は低下しており、DDR2欠損によりホルモン応答経路の末梢機能に欠損が生じ、成長遅延および性腺機能不全を引き起こしていると考えられました。
・fertile peewee (fpw)マウス fertile peewee (fpw) マウス(図4)は、Jackson研究所における領域特異的なENU変異誘発法によって作出された、常染色体劣性変異による矮小マウスです(20)。矮小の表現型を呈しますが、繁殖能力がある変異マウスです。fpwマウスの個体は他系統と比較して出生時の体重が小さく、組織学的解析では主要臓器は一見正常に見えるものの、骨、肝臓、精巣において異常な細胞増殖が観察されました。ポジショナルクローニング法を用いたゲノム解析によって、fpw変異の原因遺伝子はマイクロサテライトマーカーD5Mit83とD5Mit356.3の間の3.3 Mb領域に局在することが明らかになりました。この領域には18の候補遺伝子が含まれおり、このうちSlc10a4(Solute Carrier Family 10 Member 4)遺伝子の発現のみが、正常なC57BL/6Jマウスと比較してfpwマウスにおいて低下していることが確認されました。しかし、fpwマウスにおけるSlc10a4遺伝子のエクソン、イントロン、非翻訳領域のゲノム変異解析では、残念ながらC57BL/6Jマウスとの間に塩基配列の違いはみられませんでした。この結果より、fpwマウスにおいてはSlc10a4遺伝子の転写調節領域に変異が存在している可能性も考えられました。fpwマウスに関する詳細な解析は、体の大きさや成長を調節する複雑なメカニズムについての新たな分子レベルの洞察を提供する可能性があり、さらなる解析が必要と考えています。