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運動器を制御する非線維性コラーゲン分子の役割  〜遺伝子改変マウスモデル研究からわかったこと〜

コラム

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1. 結合組織と筋肉を制御するVI型コラーゲン

 VI型コラーゲンは、a1、a2、a3鎖のヘテロトリマーを形成し、細胞外ではビーズ状あるいはマイクロフィブリル構造として認められる分子です。VI型コラーゲンは、N末端とC末端に球状のドメインを持ち、この部分でI、II、IV、XIV型コラーゲンやインテグリン、NG2プロテオグリカンなど様々な細胞外マトリクス分子と相互作用することで、細胞や組織の安定性に寄与していると考えられています(1)。ヒトのVI型コラーゲン遺伝子(COL6A1COL6A2COL6A3)変異は、重症型のウルリッヒ病(厚生労働省指定難病29)と軽症型のベスレムミオパチー(同指定難病31)の原因として知られ、日本ではそれぞれ約300人、100人の罹患者がいると報告されています。本疾患は、生後初期から遠位関節の過伸展、近位関節の拘縮、ならびに筋肉量と筋力の低下を主徴としています。すなわち、筋肉だけでなく、結合組織も機能障害を受けることを特徴とする疾患です。

 Bonaldoらは、1998年にヒトCOL6A1遺伝子のマウスオルソログであるCol6a1遺伝子を欠損させたマウスを作出し、VI型コラーゲンが欠失すること、ベスレムミオパチーの病態モデルとなることを発表しました(2)。彼らはまた、VI型コラーゲン欠失は、持続的なアポトーシスや酸化ストレスの増加、オートファジーの減少を引き起こすことを明らかにし、これが筋再生を障害していると結論づけています(3)。この結果をサポートするように、Merliniらは、VI型コラーゲンの下流のシグナル分子をターゲットとした処置により、病態モデルマウスと罹患者で治療効果を報告しており(4)、VI型コラーゲンが調節する細胞内制御機構が筋病態の発症に重要であることが明らかになってきました。

 一方、我々のグループは、Col6a1遺伝子欠損マウスの腱と骨の研究から、VI型コラーゲンの細胞外マトリクスとしての重要性を明らかにしました。腱は、I型コラーゲン細線維を最小単位とし、これが線維、線維束と集合した構造体であり、各ユニットは、それぞれエピテノン、エンドテノン、ペリテノンと呼ばれる結合組織の膜で覆われ、伸縮時に独立して動くことで、腱の柔軟性を維持しています。一方、I型コラーゲンを産生する腱細胞は、発生・成長過程において、腱の長軸方向に沿って縦列し、細胞体同士で結合することで、縦に連なる細胞群として認められ、同時に、横方向へと細胞突起を伸ばし、近隣の細胞と結合します。腱細胞で産生・重合されたI型コラーゲン細線維は、腱の長軸方向に沿って分泌され、横方向に伸張した腱細胞突起で取り囲まれることで、線維ユニットが形成されます。VI型コラーゲンは、上述した腱の結合組織膜に局在しており、Col6a1遺伝子欠損マウスでは、腱細胞は変形し、突起形成が抑制されることが電子顕微鏡学的解析により明らかになりました。また、細胞外では、I型コラーゲン細線維の配向性の乱れや細線維の密度が増加するとともに、腱の力学特性が低下しました。このため、細胞外のVI型コラーゲンは腱細胞の形状を維持することで、I型コラーゲンの分泌や配向性の制御、その結果として生じる力学的特性の獲得に寄与すると考えられました(5)。実際、このような細胞の変形は、COL6遺伝子変異患者から得られた腱細胞や(6)、Col6a1欠損マウスの骨芽細胞でも確認されています(7)。以上のように、我々は、細胞外VI型コラーゲンが細胞と細胞外環境の維持において重要な役割を担うことを明らかにしました。これらの知見から、細胞外のVI型コラーゲンが欠失することで、細胞形状を維持することが難しくなり、アポトーシスなど細胞内制御が破綻し、筋肉や腱の機能障害を引き起こすと推測されます。

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伊豆弥生(JALAM教育委員会)

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