ブタの麻酔医〜周術期管理に関する総論的なお話〜
麻酔の維持管理(術中管理):麻酔導入後は挿管を実施し、麻酔維持(吸入麻酔もしくは静脈麻酔)へ移行します。ブタがどの体位であっても挿管ができなければなりませんが、あまり経験がない方は腹臥位で実施すると挿管しやすいかと思います(図2)。術中は麻酔、呼吸、循環、体温の管理を行う必要がありますが、その管理には生体情報モニタリングシステムが有用です。ただし、モニタリングシステムのみに頼るのではなく、しっかりと動物を観察(見る、触る、聞く)することも重要なポイントです。モニタリングシステムと動物(術野含む)の双方を観察することで生体に何が生じているのか的確に判断することが可能となると私は考えています。
○麻酔管理:当然ながら不適切な麻酔深度は外科的処置を困難にさせるだけでなく生命を脅かす可能性があります。外科処置を円滑に進め、再現性のある手技を行うためには適切な麻酔深度を保つ必要があります。麻酔深度は眼瞼、角膜反射や心拍数、血圧の変化、呼吸数の変化、体動などがその指標として挙げられます[1, 3]。また、自発呼吸にて管理を行っている場合は呼吸数の変化、開腹手術の場合にはさらに腹圧の変化も麻酔深度の指標となります。ヒトの臨床で使用されているBispectral index(脳波等を解析するシステム)については、ブタでの有用性は低いとされており、現時点でブタへの応用は難しいと考えられます[1]。
○呼吸管理:麻酔下での呼吸管理は自発呼吸による管理と陽圧呼吸(人工呼吸)による管理に大きく分けることができます。自発呼吸は文字通り動物の自発呼吸を主体に呼吸管理を実施する方法であり、陽圧呼吸は人工呼吸器や用手法により強制的に換気を行う方法です。これらの呼吸管理は動脈血液ガス(pH:7.3~7.5、PaO2>80 mmHg、PaCO2:35~45 mmHgで維持)もしくは血中酸素飽和度(SpO2)や終末呼気炭酸ガス濃度(EtCO2)を参考(図3)に行います(SpO2:>90%、EtCO2:35~45 mmHgで維持)。自発呼吸管理を行う際には、これらのデータを参考にして、適宜、用手法による補助呼吸を行います。また、陽圧呼吸では換気条件(呼吸回数、1回換気量、吸気時最大気道内圧、PEEP、IE比など)を適宜変える必要があります。