理研マウスENUミュータジェネシスプロジェクトを利用したフォワードジェネティクス研究
1. 変形性関節症モデル : M451マウス
はじめに同定した M451マウスは常染色体顕性(優性)形式で短指症を呈するマウスで3)、連鎖解析によって原因遺伝子は第2染色体上にマップされました。この領域には自然発症短指症マウス(bpマウス)の原因遺伝子であるGdf5が存在しており4)、予想通りにM451マウスのGdf5遺伝子にはp.Trp408Arg(408番目のTrpがArgに置換される)ミスセンス変異が同定されました。bpマウス以外にも、Gdf5変異によって短指症を発症するマウスは報告されており、科学的価値があまり高くない結果に落ち着きそうだと落胆していたのですが、研究は急展開していきました。
私は当時、池川志郎先生が率いる理研生命医科学研究センター・骨関節疾患研究チームに所属していたのですが、池川先生らはヒトGDF5遺伝子上の一塩基多型(SNP)が変形性関節症(OA)の疾患感受性と関連していることを報告していました5)。OAは関節軟骨の変性や消失を特徴とし、疼痛や歩行障害が生じる疾患です。OAの発症には複数の遺伝要因と複数の環境要因がかかわっており、多因子疾患に分類されます。OAの発症にかかわるSNP(+104 T/C)はGDF5遺伝子のプロモーター上に存在し、OA患者が多く持つ+104Tアレルを持つプロモーターの活性は、健常者が多く持つ+104Cアレルを持つプロモーター活性よりも有意に低下します。つまり+104Tアレルを持つとGDF5産生量が低下し、OAに罹患しやすくなると考えられます。そこで、私たちはp.Trp408Arg変異をホモ接合でもつM451マウスの関節を調べた結果、肘関節の関節軟骨にOAと類似した病変が確認されました(図1A)3)。p.Trp408Arg変異は優性阻害を引き起こす強い変異効果を持っており(図1B)、この一種類の変異だけでOA様の病変が誘発されます。
M451マウスの研究から、マウス遺伝学からもGDF5がOAの感受性遺伝子であることが証明されました。GDF5の機能異常がOAを引き起こすメカニズムは、まだよくわかっていません。GDF5はBMPスーパーファミリーに属する成長因子で胎生期の関節形成に関わっていることから6)、+104 Tアレルを持つヒトは、OAになりやすい構造的な関節の異常を持っているのかもしれません 。これはX線解析などでは判別できないわずかな異常で、加齢に伴い徐々にOA病変が発現してくると考えられます。またGDF5は関節の恒常性維持に関わっているという報告もありますので、+104 Tアレルを持つヒトでは、この維持機構にわずかな異常が生じているのかもしれません。M451マウスはGDF5とOAの関連を調べるためのよいモデル動物です。