実験動物としてのウサギ
コラム
生理学的、解剖学的特徴からウサギが実験モデルとして選ばれる場合も少なくありません。その一つとして、生体内での脂質代謝異常、動脈硬化発症に関する研究があります。
厚生労働省の統計によると、2022年の日本人の死因は1位 悪性新生物(腫瘍)24.6%、2位 心疾患14.8%、3位 老衰11.4%、4位 脳血管疾患6.8%、5位 肺炎4.7%でした[3]。この中の血管が関係する心疾患と脳血管疾患を合わせると21.6%を占めますが、これらの疾患の多くは、脂質代謝異常による粥状動脈硬化に起因します。血液中の脂質やリポ蛋白(HDLやLDLなど)に含まれるコレステロールはエネルギー源として動脈壁に取り込まれますが、これが過剰に蓄積した状態が動脈硬化であり、その部分を粥状動脈硬化巣(プラーク)と呼びます。プラークが厚くなると血管の内腔が狭くなったり、プラークが剥がれたりすることで血管の内腔を塞ぐことになります。血流が阻害されることで、必要な酸素、栄養が行き渡りにくくなり、心臓の血管が詰まると狭心症や心筋梗塞、脳の血管が詰まると脳梗塞などを発症します。
この病態の発生には、体内における脂質代謝系が大きくかかわっており、その特性には種差があることが知られています。ヒト、ウサギ、マウスを比較すると、主要なリポ蛋白がウサギとヒトではLDL(低比重リポ蛋白:悪玉と呼ばれることもある)であるのに対してマウスではHDL(高比重リポ蛋白:善玉と呼ばれることもある)である、CETP(コレステリルエステル転送蛋白)の活性がウサギとヒトではあるのに対して、マウスではない等、ウサギはマウスに比べて、ヒトに近い脂質代謝特性を持つことが知られています(表1)。また、これらの脂質代謝特性に起因して、マウスは食事由来のコレステロールに抵抗性を示して動脈硬化を発症しにくいのに対し、ウサギは容易に動脈硬化を発症します。神戸大学で系統として確立された高脂血症を示すWHHLウサギは、突然変異によりLDLを代謝するための受容体(LDL受容体)がほとんど機能していないことが知られています[5]。このウサギは、1985年にゴールドスタインとブラウンに授与されたノーベル生理医学賞の受賞業績“コレステロール代謝の調節に関する発見”に大きく寄与しました。
表1.脂質代謝 と動脈硬化における種差
マウス | ウサギ | ヒト | |
血液中の主要なリポ蛋白質 | HDL | LDL | LDL |
apoB48の発現 | VLDL/LDL、カイロミクロン | カイロミクロン | カイロミクロン |
肝でのapoB編集酵素 | 発現あり | 発現なし | 発現なし |
CETP | 発現なし | 豊富 | 豊富 |
肝性リパーゼ | 多、70%が血液中に遊離 | 少、細胞膜に結合 | 少、細胞膜に結合 |
肝のLDL受容体 | 高発現(通常) | 低発現 | 低発現 |
食事由来コレステロール | 抵抗性 | 感受性 | 感受性 |
動脈硬化の発症 | 抵抗性 | 高感受性 | - |
HDL:高比重リポ蛋白、LDL:低比重リポ蛋白、VLDL:超低比重リポ蛋白、CETP:コレステリルエステル転送蛋白、apoB:アポリポ蛋白B
[4]の表を一部改変して掲載