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実験動物としてのウサギ

コラム

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近年、発達したゲノム編集技術【注5】などを駆使したヒト化マウス【注6】の開発が精力的に行われていますが、同じ遺伝子を導入した場合に、マウスとウサギとでは異なった結果が得られる例も知られています(表2)。

表2.遺伝子組換えマウスと遺伝子組換えウサギの表現型の比較

導入したヒト遺伝子マウスウサギ
LCAT動脈硬化進行動脈硬化抑制
HTGL動脈硬化進行動脈硬化抑制
apoE3動脈硬化抑制動脈硬化進行
apo(a)“影響しない
[Lp(a)を構成しない]”
“動脈硬化進行
[Lp(a)を構成する]”
15-lipoxigenase動脈硬化進行動脈硬化抑制
LPL内臓脂肪に変化なし内臓脂肪を減少
CRP機能しない機能する

LCAT:レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ、HTGL:肝性(トリグリセリド)リパーゼ、apo:アポリポ蛋白、LPL:リポ蛋白リパーゼ、CRP:C反応性蛋白
[5]の表を一部改変して掲載

我々の研究グループでは、遺伝子組換えウサギを作出し、その特性を遺伝子組換えをしていない(野生型)ウサギと比較することで、研究のターゲットとなる分子(遺伝子)が脂質代謝異常、動脈硬化発症にどのような役割を持つかを解析しています(https://www.animal.med.saga-u.ac.jp/rabbit.html)。ウサギの特性が生かされた分かりやすい例としてC反応性蛋白(CRP)に関する研究があります。CRPは補体【注7】を活性化し、炎症が起きたり組織細胞に障害が起きたりすると血中濃度が上昇する物質(炎症マーカー)ですが、ヒトの臨床において高CRP値と動脈硬化性疾患の発症が関連することが示されました。しかし、CRPの上昇が動脈硬化を引き起こすのか、それとも動脈硬化の発症がCRPを上昇させるのかは分かっていなかったため、これを動物実験で確かめる必要がありました。マウスでは、炎症時でも血中の CRP値はヒトに比べ極端に低く(マウスの主要な炎症マーカーは血清アミロイドP成分:SAPといわれています)、遺伝子導入したヒトCRPはマウスにおいて補体活性化作用を示さないため(表1)、モデル動物として不適当でした。我々の研究グループで、ヒトのCRPを持つ遺伝子組換えウサギを作製して解析したところ、ヒトCRPがウサギの補体を活性化することが確認されました。このウサギに高コレステロール食を給餌して動脈硬化を誘起したところ、ヒトCRPを発現するウサギと対照となる野生型ウサギの動脈硬化の程度は変わらないことが分かりました。つまり、CRPは動脈硬化発症の原因ではなく、その結果として高値となることが明らかとなったのです。

このような例からも、マウスを使った実験だけでは分からないことも多々あるため、研究目的に合ったモデルの選択は大変重要で、近年はあまり選ばれる機会が多くはなくなっているウサギにも、その特性からまだまだ活躍の場があると思っています。

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自然科学研究機構 西島和俊

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