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私観・日本実験動物医学会史(第4回)

コラム

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第四回 創立認定獣医師と本学会の課題

(このコラムはJALAMニュースレターNo.42/2014.4に掲載された特集を転載しています)

 この特集も 4 回目を迎えた。第一回で「発足当時尽力した人々は私も含め第一線から退く時代 となり、創成期の出来事を残しておきたい・・」と言う初めの目的は、前回の「・・・初めての認定獣医師が誕生した」というところまでを描いたので、達成したと考え、今回は書き残した若干の事柄を記載して、「私観・日本実験動物医学会史」を終えたい。

創立認定獣医師

 暫定制度ながら、1999 年 3 月 25 日に初めての認定獣医師 32 名が誕生した。この後 2 回、合計 3 回で認定された獣医師は暫定制度のもと、筆記試験を経ずに資格認定試験のみで認定獣医師と認定された。

 認定制度を確立するためのプロセスとして、次のようなステップをとることとした。まず暫定制度を制定し、この制度の下で厳しい基準の資格審査により「創立認定獣医師」を認定すること。 つぎに本制度を制定し、創立認定獣医師により試験問題を作成し、筆記試験と若干緩められた基準による資格審査により認定獣医師を認定する。暫定制度は施行後 3 年以内に廃止し、本制度に移行する、というものである。

 暫定制度により認定された創立認定獣医師は 3 年間で 58 名誕生した。筆記試験を課さずに認定し た「創立認定獣医師」に批判もあろうかと思うが、この制度を少しでも早く社会に認知されるため には、早急に一定の数の認定獣医師を作る必要があるという判断があった。また、すでに各研究教育機関等で責任ある立場で活躍している獣医師は、それなりの評価を既にそれぞれの所属する研究機関等や実験動物界から受けており、厳しい資格審査でその事を評価する事で、十分に認定獣医師の認定を受けるにふさわしいという判断もあった。結果として制度設立への長い助走の時期や設立後もほとんど社会に認知されていない時期に頑張っていただいた認定獣医師はまさに創立認定獣医師(Founder)という称号を受領するにふさわしいと思う。創立認定獣医師は、2013 年 3 月 25 日現在の名簿では 33 名に減っており、すでに 25 名 43%の方々が専門医をリタイヤされ た。今後も多くの専門医の方々が第一線から引退されるが、実験動物医学会から専門医制度を引き継いだ日本実験動物医学専門医協会は、創立認定獣医師のみならず専門医をリタイヤされた 方々のお名前を何らかの形で永久に名簿に残していただきたいものである。この場をお借りして 特に創設認定獣医師の方々に対して心から敬意と感謝の意を表したい。

 本制度は 2001 年にスタートしたが、暫定制度が当時第一線で活躍しているベテランの獣医師 を認定して、この制度の基礎を築く性格が大きかったのに対し、本制度はこれから活躍する若手 の専門獣医師を育て認定することが目的となった。2002 年 3 月に初めての資格審査と筆記試験に よる認定獣医師が3名誕生した。未知の新制度に果敢に挑戦して初認定された阿部敏男氏(認定第 59 号) 、梶原典子氏(認定第 60 号)、中井伸子氏(認定第 61 号)にも敬意を表したい。

 難しい筆記試験が加わった理由からか、その後も受験者の数は少なく、6-7 年間はわずか 2-4 名の認定がつづいた。受験者がゼロの年もあり、さすが制度そのものの可否、さらには存続を懸念することもあったが、我慢我慢の時期である。しかし近年は多くの会員非会員が本会主催の教育セミナーやウェットハンド研修に参加し、また受験者も増え、2013 年 3 月に認定された専門医 は 2 桁となり、当時を知るものとして、さらにはこの制度の設立に関わったものとしては、考え深いものがある。

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東北大学名誉教授 笠井憲雪

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私観・日本実験動物医学会史(第1回) 

第一回 実験動物医学の創成期

(このコラムはJALAMニュースレターNo.39/2012.8に掲載された特集を転載しています)

 先頃、本会情報・編集委員会委員矢野一男君から私の会長辞任を機に、任期中の事柄について、 何か一文を書くように仰せつかった。考えてみると、本学会は 1993 年(平成 5 年)4 月 1 日に「実験動物医学研究会」として発足し、明年 4 月 1 日で創立 20 周年を迎えることになる。また、発足当時尽力した人々は私も含め第一線から退く時代となり、創成期の出来事を残しておきたいと言う年寄りの懐古趣味から、私観・実験動物医学会史なるものを書いてみることとした。これから 2~3 回に分けて書いてみたい。「私観」と冠した実験動物医学会史はあくまでも私から見た学会の歴史であり、この文を私が 実験動物の世界に入った頃から始めたい。

実験動物界へのデビュー

 1985 年(昭和 60 年)4 月16 日付けで、私は北海道大学医学部附属動物実験施設に配置替えになったが、この時が、私が本格的に実験動物界へ足を踏み入れた時である。この後に日本獣医学会や日本実験動物学会に参加し始め、そこで前島一淑先生や波岡茂郎先生、黒澤努君(あえて君つけする)に出会うこととなった。そして皆さんと実験動物や動物実験と獣医師の役割について熱心に議論した。その中で、日本の獣医師は実験動物界ではあまり重視されていないこと、さらには実験動物に携わる獣医師が集い議論する場がないことが明らかになった。  

 1988 年(昭和 63 年)春の日本獣医学会の折りに都市会館の一室に光岡知足先生(東大)、波岡先生(北大)、前島先生(慶大)、黒澤君(大阪大)、伊藤勇夫先生(千葉大)と私が集まり、昼食 を共にして獣医学会の中に実験動物分科会の設立の可能性について議論した。これが、日本実験 動物医学会発足への活動の始まりであると、私は認識している。

 翌年、1989 年(平成元年)11 月には私たちは前島先生を通して日本獣医学会に「実験動物分科 会設立に関する要望書」を提出した。

 そして私は 1990 年(平成 2 年)と 1991 年(平成 3 年)の 2 回にわたって米国の実験動物や動物実験の事情を視察する機会をえた。この 2 回の米国訪問はその後の私の本会活動に大きな影響を与えた。

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JALAM会員寄稿

私観・日本実験動物医学会史(第2回)

第二回 実験動物懇話会と実験動物研究会の設立

(このコラムはJALAMニュースレターNo.40/2013.2に掲載されている特集を転載しています)

実験動物懇話会の設立

 1991 年(平成 3 年)4 月に「実験動物懇話会」が慶応大学前島一淑教授を始め 10 名の呼びかけで日本獣医畜産大学にて設立会が開催された。この時の講演会では「実験動物界における欧米諸国の獣医師の役割」のタイトルで、黒澤努先生のイギリスとフランスの状況、前島先生からアメリカの状況が紹介された。

 また、前号にも述べた様に私はこの年の 10 月 5 日から 11 月 4 日まで米国のミシガン大学等六つの大学研究機関の動物実験施設を訪問したが、この時の経験を基に帰国早々の11 月に「実験動物(動物実験)専門獣医師制度の確立に向けて―私見—」という文章を公表した。そこには当時の状況下で実現可能と思われるシミュレーションを示したものである。そこでは実験動物専門獣医師制度及び専門医育成制度の早急な確立に向けて、第一にこれらの制度によって立つべき組織として、日本獣医学会や日本獣医師会、日本実験動物学会等を上げ、第二に教育制度として2 つの制度、すなわちレジデント制度と講習会制度を提案した。もちろん前者は ACLAM の制度を模してわが国に適用した場合、後者は現状をにらんで可能な方法を示した。そして最後に当時私が在籍していた北海道大学を例として上記制度の設立の可能性をシミュレートしたものであった。

 翌年の 1992 年(平成4年)4 月には実験動物懇話会の小シンポジウムとして私が「実験動物医学に関する卒後教育」のタイトルで前回紹介した ACLAM の制度を紹介した。そして 1992 年(平 成 4 年)9 月には北海道大学学術交流会館で前島先生をはじめ鍵山先生や私により周到な企画立 案と準備を行ない、「実験動物医学の専門教育に期待するもの」とのタイトルで、午後の 4 時間 をかけて懇話会として最大のシンポジウムを開催した。そこでは私を始め、高橋和明、浦野徹、 高頭廸明、山本博、前出吉光、鍵山直子の各博士がそれぞれの立場から意見を述べ、議論した。

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JALAM会員の寄稿

私観・日本実験動物医学会史(第3回)

第三回 日本実験動物医学会認定獣医師制度の設立

(このコラムはJALAMニュースレターNo.41/2013.8に掲載された特集を転載しています)

教育セミナーのスタート

 実験動物医学会は専門獣医師の育成をめざして発足したため、学会開催毎に教育セミナーを開催することが大きな事業であった。前回にも記載した様に第一回教育セミナーは 1994 年(平成 6 年)3 月 31 日の実験動物医学研究会第一回総会とともに開催した。そしてほぼ同時に、同セミナ ー参加者の登録を開始し、参加証の発行を行なった。また、このセミナーを効果的に行ない、実験動物医学の基礎を網羅するために基本方針を決めた。そこでは、実験動物の遺伝と育種、実験 動物の特性、実験動物の疾病、動物実験技術、動物実験管理学の 5 項目をあげ、これをもとにして講演テーマを決めることとした。

 私もいくつかのセミナーを企画したが、その中で印象的なものを紹介すると、第 122 回日本獣医学会(1996 年・平成 8 年、帯広畜産大学)では東大農学部実験動物学教室の板垣慎一助教授と ともに「実験動物の麻酔について考える」を企画した。この時は板垣先生と大阪大学医学部助教授黒澤努先生の司会で、私がイントロダクションを行ない、東北大学医学部麻酔科学講座加藤正人助教授の「ヒトの麻酔科学:最近の話題」、東大農学部外科学研究室西村亮平助教授の「犬および猫の臨床麻酔」というタイトルで講演をいただいた。ヒトの先進的な麻酔学を紹介していただき、現在の獣医麻酔の先端を紹介してもらう狙いであった。このセミナー会場は実験動物分科会 (日本実験動物医学会)メンバーのみならず他分科会のメンバーも大勢集まり、聴衆で満員にな った。このときまで私は、実験動物分科会は獣医学会では後発のマイナーな分科会であると思っていたが、獣医学会会員の実験動物医学に対する感心の大きさがわかり、企画がよければ多くの 聴衆が集まることを認識した。以後の獣医学会でも我々の分科会の企画には多くの聴衆が集まることはご存知の通りであり、企画者の努力の結果であろう。

 この時のエクスカーションは大雪山の麓の「トムラウシ温泉東大雪荘」であり、今は亡き国立感染研究所の内貴正治獣医科学部長と酒を酌み交わしたのは楽しい思い出である。

 また、板垣先生は本会の理事はもとより学術集会委員会委員長や認定制度検討委員会委員もしていただき、本学会の中心メンバーとして今後の活躍を大いに期待されていたが、1997年・平成 9 年 8 月 8 日に早世された。30 代半ばの一番脂ののった時期であり、大変惜しまれた。

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JALAM会員の寄稿

シンガポールにおける動物研究施設の運用

Chugai Pharmabody Research Pte. Ltd. 山本 駿

【はじめに】

シンガポールにあるChugai Pharmabody Research Pte. Ltd.の山本と申します。私が駐在を始めた2020年3月から長きにわたり、新型コロナウイルスに関する行動制限があったのですが、今はそれらもなくなり、シンガポールライフを楽しんでいます。

さて今回は、シンガポールにおける動物研究施設の運営について取り上げたいと思います。私は元々有機合成化学を専門としており、動物実験に従事したことがなかったのですが、現職の業務の一環として、弊社のInstitutional Animal Care & Use Committee (IACUC) 事務局を務めることになりました。最初は初めてのことで戸惑いが大きかったのですが、前任者から数カ月間の引継ぎ期間を設けてもらい、弊社が契約している管理獣医師からのサポートや、シンガポールにおける事務局に必須のトレーニングの受講を通じて、必要な情報を迅速にキャッチアップすることができました。

現在弊社は、管理獣医師、社内の研究者3名、社内の非研究者2名、社外委員1名に加えて、事務局の私を含む8名体制でIACUCを運用しています。今回はシンガポールにおけるIACUC運営を通じて私が知ったこと、経験したことなどをごく簡単にご紹介させていただきます。

【動物研究施設管理の概要】

シンガポールにおける動物研究施設はライセンス制で運営されており、Ministry of National Development (MND、日本語では“国家開発省”と訳されます) のサブ機関であるNational Parks Board (NParks) 内にあるAnimal & Veterinary Service (AVS) という組織が、動物研究施設を管理しています。AVSは動物の健康と福祉を総合的に管理しており、その一環として動物研究施設の管理も行っております。

AVSは動物研究施設の運用に関するガイドラインの作成・ライセンスの付与・年次の査察・必要なトレーニングの提供等を行っており、動物研究施設はガイドラインに基づいた施設運用、研究用動物の管理、AVSへの必要な情報やレポート(Annual ReportやIncident Report)の提出、および年次査察の受け入れが義務付けられています。(図1)

図1. シンガポールの動物研究施設管理の概要

【ライセンス】

ライセンスについてもう少し詳しく説明します。新たに動物研究施設の運用をスタートするには、AVSからの査察を受ける必要があり、その査察をパスすると、ライセンスが発行されます。ライセンスの期限は1年で、更新前に再度AVSからの査察をパスすることでライセンスが更新されます。

AVSの査察は、書類査察と実際の施設の査察の2部構成となっており、それぞれガイドラインに沿った運用ができているか細かくチェックされます。私が初めて査察対応をしたときは、「どんな厳しい指摘がされるのだろうか?」「ライセンスが剥奪されたらどうしよう?」「そもそも英語のやり取りがちゃんとできるんだろうか?」と準備段階から胃がキリキリする思いでした。しかしながら、査察自体は細部にわたって行われるのですが、査察員の対応がとても丁寧で、一方的な指摘ではなくこちらの意図を確認してくれたり、 “どうすればもっと良くなるか” を一緒にディスカッションしたりすることもでき、安堵したことを思い出します。

なおAVSの査察は原則毎年受ける必要がありますが、国際的な第三者認証機関であるAssociation for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care International (AAALACi) 認証を受けた施設では、AAALACiのsite visitがある年に限り、site visitをAVSの査察に置き換えることができる、という運用もされています。

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JALAM会員の寄稿 コラム