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研究者が実践するサイエンスコミュニケーション(後編)

コラム

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 他の人の意見を聞く

 ピアレビューと言いますが、ある程度完成した作品を他の人に見せ、意見をもらう過程が非常に重要です。特に自分の研究に関連したことは、どの程度他の人が理解できるのか感覚が鈍っていたり、一般の認識とずれが生じていることがあります。通常、ピアとは「仲間や同僚」を意味しますが、必ずしも自分と立場の近い人を選ぶ必要はありません。逆にとても遠い立場の人にお願いする必要もなく、科学研究者であっても分野が異なれば「非専門家」であり、自分には見えない気付きをもたらしてくれるはずです。伝えたい層が明確であれば、その立場に近い人をピアとして選ぶのは情報の洗練に効果的です。

 現時点の日本では、科学者が積極的にサイエンスコミュニケーション活動に参画する機会はあまりないかもしれません。一方、外部競争的資金を利用する場合など、社会への情報発信を義務付けているものもあります。また近年、クラウドファンディングによる研究資金の調達も活発化しており、科学に対する社会の関心や理解を得ることは、社会課題を解決するという大義に加え、研究費の獲得に繋がります。研究の持続的発展という観点では、子どもを含めた市民の関心が高まることで、次世代の優秀な研究者が育つことも期待できます。実際に英国では、このような多角的な視点から、科学者の多くはサイエンスコミュニケーション活動に前向きな姿勢を示しています。

科学者とサイエンスコミュニケーション

 個人的な体感ですが、動物に関することは自然科学の中でも人々の関心が高く、その分、意見も多様化し、熱量も千差万別です。ただ、一般に大多数の人は動物のしあわせを願っていると私は考えています。動物実験/実験動物に関しては、世界中で常に議論がありますが、それに反対する人も科学者も、動物や人のしあわせといった、そう離れていない目標や信念を持っているのかもしれません。一方で、特定の意見こそなくても、私たちは日々、動物由来食品や製品、動物実験を経て開発された薬など、その恩恵を大いに享受して生きており、すべての人は動物に関する課題の利害関係者、ステークホルダーです。熱量の高い人だけでなく、すべてのステークホルダーがこの課題について考え、行動することが解決に必要であり、一科学者としては、サイエンスコミュニケーションを通じて多様な立場の人と情報を共有することがその一歩となると考えています。

 大震災やパンデミックなど、危機的状況が発生したときのサイエンスコミュニケーションは、特にリスクコミュニケーションと呼ばれます。東日本大震災および福島第一原子力発電所事故時には、耳なじみのない専門用語が汎用されることで社会は混乱し、その重要性が強く認識されました。その反省も踏まえ、SARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症パンデミックでは、専門家や各学会が積極的に社会と情報を共有する動きがみられました。一方で、何が「正しい」情報なのか専門家も私たちも模索する日々を過ごし、昨日まで正しかったことが、今日から間違った情報になることを実体験しました。情報の正確性を高めるのは、真摯な科学研究による知見の蓄積しかありません。一方で、その伝え方や受け手のリテラシー、または社会的な文脈により、科学的に正しいことが社会の「正解」になるとは限らないことを、私たち研究者は意識する必要がある時代だと感じます。再生医療や人工知能など技術が高度・複雑化する一方、社会における理解と倫理的な議論が追い付いていない課題も多く、サイエンスコミュニケーションの拡がりにより、議論が活発化することを期待しています。

参考文献

1. 加納圭,水町衣里,岩崎琢哉,磯部洋明,川人よし恵,前波晴彦.サイエンスカフェ参加者のセグメンテーションとターゲティング : 「科学・技術への関与」という観点から.科学技術コミュニケーション 第13号.2013; 3-16.

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JALAM学術集会委員会

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研究者が実践するサイエンスコミュニケーション(前編)

サイエンスコミュニケーションの発展

 具体的にサイエンスコミュニケーションが大きく発展したのは英国で、1985年に発生した牛海綿状脳症(BSE)がきっかけとされています。BSEの発生当初、英国政府が設置した科学研究者を含む専門委員会は「BSEがヒトに感染するリスクはわずかである」とし、政府はそれを根拠として牛由来食品の安全性を強調しました。のちの1996年に、感染牛を摂取したことによる人への感染が科学的に認められることとなり、科学および科学者に対する社会の信頼が揺らぎます(4)。それまでも、科学の場から社会への一方向性の知識提供は行われていましたが、この問題をきっかけに、科学の持つ不確実性、リスクを含む情報共有と社会との対話を通じた意思決定(この文脈だと、どのくらいの感染リスクで牛由来食品の製造・販売を禁止するか等)の重要性が強く認識され、双方向性のサイエンスコミュニケーションが発展したとされています(5)。

 このような背景を踏まえ、ここからは科学研究者として身に着けられるサイエンスコミュニケーション的視点の具体をみていきます。

サイエンスコミュニケーションの基本原則

 発展の歴史にあるように、サイエンスコミュニケーションは「双方向性」を原則としています。科学の場からは、社会に情報や知識を共有する、そして社会からは科学を使う立場の視点や考えを科学の場に伝える双方向性コミュニケーションの実践で、課題解決を目指します(下図) 。類似の概念としてアウトリーチがありますが、この場合、科学の場を「イン」サイドとし、その外、すなわち社会を「アウト」サイドとしていることから、インからアウトに伝える一方向性のコミュニケーションと捉えられ、正確にはサイエンスコミュニケーションとは区別されます(かつ、上から目線と批判的に捉えられることもあります)。また、パブリックエンゲージメント(公衆関与)は、特に市民や社会が積極的に意思決定や課題解決に参与することを促す手法であり、英国ではより双方向性の強いサイエンスコミュニケーションの一つと捉えられています。

 

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