国内承認ワクチンの非臨床試験を垣間見る 〜ワクチン開発と動物実験〜
日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)での合意に基づき、「医薬品の臨床試験のための非臨床試験の実施時期についてのガイドライン」が2010年に改正され、「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験実施についてのガイダンス」がまとめられて現在に至っている (ICH-M3{R2})3)。この改正の主な目的は、承認審査資料の国際的なハーモナイゼーションを推進することにあり、「動物実験の3Rsの原則」に従うこと、および「早期探索的臨床試験のための非臨床試験」という概念を導入することなどにあり、これ以降、毒性試験や薬理試験など12の試験項目の安全性(Safety)についてICHガイドラインが各々整備されてきている (ICH-S1~S12)。
臨床第Ⅰ相試験の初期に実施される「早期探索的臨床試験」に応じて、ヒト初回投与試験までに実施すべきマイクロドーズ試験や単回投与毒性などの非臨床試験が、げっ歯類および非げっ歯類を用いて実施される。すなわち「早期探索的臨床試験の開始時までに実施される非臨床試験は一部にすぎず、実施予定の臨床試験の時期や期間に応じて非臨床試験がデザインされる」のが一般的である。
この分野の専門家ではない著者の私見ではあるが、「ほとんどの動物実験(試験)がヒト臨床に先だって実施されるもの」という、現実からやや乖離した先入観が社会の根底にあるように感じている。時に動物実験(試験)は「非臨床試験(前臨床試験)」などと記載されることもあり、研究者による社会に向けた正確な情報発信という点で誤解を生み易い表現には都度解説する必要があると自戒を込めて考えている。
【参考アドレス】
1. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) 「医療用医薬品 情報検索」
2. 一般社団法人日本医薬情報センター(JAPIC) 「医薬品情報データベース (iyakuSearch)」
3. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) 「ICH 医薬品規制調和国際会議 ガイドライン 」
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ARRIVEガイドライン2.0が公開されました
7月14日にNC3Rs(英国3Rセンター)にてARRIVEガイドライン2.0が公開(https://arriveguidelines.org/)されました。2010年に初めて公開されたARRIVEガイドラインは、動物実験計画において最低限記載すべき項目をまとめたものであり、Natureをはじめ多くの学術雑誌に支持されているガイドラインです。
そもそもこのガイドラインが作成された背景には、動物実験の再現性があまりにも低い(一説には70%以上の実験が再現できない)と言われてきたことがあります。その一因として実験方法の詳細が述べられていないとの指摘がありました。
英国の機関が、動物実験の記載がある271報(1999-2005)の論文を精査したところ、研究の仮説・目的を記載し、かつ動物の数と特徴が記載されていたのは271報のうち、わずか59%であったことを報告(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0007824)しています。
これらの事を受けてNC3Rsは記載すべき20の項目を定めて2010年にARRIVEガイドラインとして発表しました。多くの研究機関や出版社から支持されてきたものの、記載項目が多いことからも問題の根本的な解決には至りませんでした。そこで改訂版であるARRIVEガイドライン2.0が新たに公開されました。
ARRIVEガイドライン2.0の主な変更点は以下のとおりです。
記載すべき最低限の項目を10項目に絞った「ARRIVE Essential 10」とそれらを補完する「Recommended Set」に分類した
ARRIVE Essential 10は以下のとおりです。なお正式な日本語訳は日本実験動物学会等、公的機関によるアナウンスをお待ちください。
1. Study design(研究計画)
2. Sample size(サンプルサイズ)
3. Inclusion and exclusion criteria(包含基準と除外基準)
4. Randomisation(ランダム化)
5. Blinding(盲検化)
6. Outcome measures(実験の帰結)
7. Statistical methods(統計学的方法)
8. Experimental animals(実験動物の情報)
9. Experimental procedures(実験処置)
10. Results(結果)
前回のガイドラインが20項目であったことからも項目数を絞って記載しやすくなっていることが分かります。通常の動物実験審査においては3~5の項目を審査することは少ないのですが、今後はこのあたりも審査することが求められてくるかもしれません。