老化研究と実験動物
3.老化細胞除去薬(Senolytics drug)とは?
現在開発途上の老化細胞除去薬の一例として、ダサチニブとケルセチンという薬剤をご紹介します。ダサシチニブとケルセチンはいずれも老化細胞を選択的に除去する作用を有しており、この2種類の薬を併用することで老化細胞のアポトーシス抑制機構を抑制します(つまり、老化細胞のアポトーシスを促進します)。実際に、この薬をマウスに投与した実験では脂肪肝の減少(13)、肺線維症の改善(14)、アルツハイマーモデルの脳における神経原線維変化が軽減されました(15)。加えて、自然老化マウスの運動機能の改善や寿命の延長、ヒト由来の脂肪細胞からのSASP因子の分泌抑制(16)などの効果も確認されており、ヒトへの臨床応用も検討されています(17)。
4.老化研究に用いられる実験動物
ヒトの老化研究はBLSA(Baltimore Longitudinal Study of Aging) が最古の研究とされており、加齢に伴う代謝機能不全や血液学的変化、歩行速度の低下、認知機能低下といった知見を与えてきました。ですがヒトの平均寿命は80年を超えていることから、研究には長期的な期間を要する上、それに伴い多大なコストを要するといった問題や、検体のサンプリングの制限など大きな制約をいくつも抱えています。
このような問題から、出芽酵母、線虫、ショウジョウバエの老化モデルが用いられてきましたが、ヒトの老化で見られる免疫系や各臓器の老化、痴呆症などの脳神経疾患などを評価するためには、哺乳類モデルが必要不可欠です。非ヒト霊長類を用いたカロリー制限の研究は記憶に新しいと思いますが、非ヒト霊長類の老化研究も非常に時間がかかる研究です(18)。一方、げっ歯類は世代が短く、寿命が比較的短く、取り扱いや飼育に便利であることから、老化研究における哺乳類モデルとして最も使用されております。現在まで、マウスを用いて、寿命に影響を与える様々な因子が検討され、活性酸素除去(19)やテロメア長は寿命に与える効果が不明であり(20)、サーチュイン活性化(21)、メトホルミン投与(22)、mTORC1阻害(23)、GH/IGF-1シグナルの抑制(24)などは、マウスに対して延長効果があることが報告されております。老化は、このような様々な生命現象が複合的に折り重なって起こる現象であるようです。こうした老化の機序や治療研究には、遺伝子改変マウスに加え、自然老化したマウスや早老症のモデルマウスが大きく貢献してきました。しかしながら、老化におけるマウスとヒトの相似性と相違性は未だ不明であり、マウスの標準的な老化を包括的に理解する必要が生じてきました。つまり、ヒトへの外挿性について検討が必要となっている状況です。
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動物福祉の評価ツールのご紹介-1
〜AVMA主催の“学生動物福祉状況の評価コンテスト”〜
さて、イリノイ大のニュースによると、このコンテストの目的は、「農業、研究、伴侶など、人間のために使用される動物に影響を与える福祉問題の理解と認識を高めるための教育ツールを経験することであり、倫理的推論に対する理解の上に、科学的理論とデータに基づいた動物福祉の客観的評価を促し、批判的思考を促進し、コミュニケーション能力を向上させる」ことです。参加対象は、3・4年学部生、獣医学部生、院生(1チーム3-5人)であり、動物看護師やAVMA会員の獣医師も少数に限り参加できます(ただし、コンテストの対象外)。参加者はいくつかのシナリオに沿って出題される動物とその福祉状況を分析して、その中から優れたシナリオを選び出し、発表するというものです。
ニュースでは、“動物福祉のさまざまな事象をそのときどきの断片として客観的かつ定量的に評価することも可能ですが、福祉問題は連続したものであり、どのあたりで許容できるか、どのあたりが好ましいか、または許容できないかの判断は、多くの場合、倫理に基づく選択に帰着するものです。コンテストでは、問題解決へ学際的にアプローチするため、科学に基づく知識を倫理的価値観と統合することを学生に教えています”という風に審査の方法について説明しています。私たちが学生の動物福祉評価を審査するのであれば、北米でどのような基準やチェック方法に従って動物福祉が評価されているのかの具体例を知りたいところです。
今回はこのくらいにさせていただいて、次は、動物福祉評価のツールについて整理していきたいと思います。
参考文献
1) Beaver B. V. and Bayne K, Chapter 4 – Animal Welfare Assessment Considerations, Laboratory Animal Welfare, 29-38 (2014)
2) Animal welfare judging team provides unique experiential learning for students. (cited 2022. Oct.28)
3) AVMA Animal Welfare Assessment Contest. (cited 2022. Dec. 05)
動物福祉の評価ツールのご紹介-2
〜福祉を評価するツールを紹介するサイト1:USDAのNational Agricultural Library〜
“Literature on Welfare Assessment and Indicators” 動物福祉の評価と指標に関する文献へのリンク集
福祉評価と福祉指標に関する文献を検索できるよう、産業動物用にPubAg、そして実験動物用にPubMedへのリンクが検索式とともに配置されています。検索式や検索文字列作成の詳細についても触れていて、丁寧です。
“Grimace Scale”
Grimace Scaleは「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説」(平成29年10月)に記載があり、実験動物種ではいまや標準的な福祉指標になっていますが、典型的な実験動物種以外の動物について詳しく調べようとすると案外骨が折れるので、このページを知っていると便利です。Grimace Scaleは、顔の様々な部位や体の姿勢を評価することで、動物の痛みを評価するために用いられるスコアリングシステムです。このパートでは典型的な実験動物種や家畜以外の情報にもリンクが貼られています。
“その他の Web リソース”
最後のパートでは、マカクや動物園動物の福祉アセスメントにも対応できるようリンクが貼られています。
今回はこのくらいにして、次回は、英国NC3Rsの“Welfare Assessment”を扱いたいと思います。
なお、米国USDAの”Animal Welfare Assessments“を閲覧される際には、ぜひ一度は、National Agricultural LibraryのトップサイトのTopicsメニューを開いて”Animal Health and Welfare”のページにも寄ってみて下さい。いろいろな情報があることにお気づきになることと思います。