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特集:マウスの最適な飼育室温度(1) NAFLD

コラム

実験動物の教科書には、実験用マウスの標準的な飼育室温は20~26℃と記載されています。一方、体温維持にエネルギーを使用しないマウスのサーモニュートラルゾーンは、30℃前後と言われています。室温がマウスの表現型に及ぼす影響を示した文献を紹介し、実験用マウスは何℃で飼育するのが最適なのかを、多面的に考えていきます。

文献紹介:非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のモデルとしてのマウス -サーモニュートラル飼育により、性差のない悪化した病態を再現できる

Giles, D., Moreno-Fernandez, M., Stankiewicz, T. et al. Thermoneutral housing exacerbates nonalcoholic fatty liver disease in mice and allows for sex-independent disease modeling. 

Nat Med 23, 829–838 (2017). https://doi.org/10.1038/nm.4346

(概要)

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肝硬変や肝細胞癌の前兆として知られている、世界的に最も一般的で重要なヒトの慢性肝疾患です。ヒトのNAFLDの病態を再現できるモデル動物を用いることで治療法の開発が可能になります。ところが、広く実験動物として利用されているマウスを用いた場合、高脂肪食給餌などの方法でNAFLDの症状が現れるものの、症状に性差が見られ、肝線維化の進行が制限されるなど、ヒトのNAFLDとは異なる病態を示すそうです。

 実験用マウスの標準的な飼育室温(TS)は20~26℃です(ILAR Guide)。一方、マウスが基礎代謝によって体温を維持できる室温、すなわちサーモニュートラルゾーン(TN)は30~32℃です。マウスをTN条件で飼育すると、寒冷ストレスが緩和され、カテコールアミンやコルチコステロイドの産生量が低下します。また、LPS投与による発熱反応が増強されます。すなわち「代謝」と「炎症」の両方に影響を及ぼします。そこで、著者らはTN飼育によって、より「ヒトに近い」NAFLDのマウスモデルを開発できるのではないかと考え、研究を行いました。

 実験の結果、TN飼育したマウスはTSと比較して、高脂肪食給餌による肝重量の増加、および肝脂肪症が悪化しており、肝臓のケモカイン発現、マクロファージの肝臓への浸潤、細菌の肝臓への移動が顕著に悪化したとのことです。また、ヒトNAFLD患者に類似した腸内細菌叢の変化、特にグラム陰性菌の拡大が見られました。さらにTlr4fl/flマウスとVav1-Creマウスを用いることにより、TN飼育と高脂肪食給餌によるNAFLDの病態進行に、造血系細胞のTLR4シグナルが関与していることが明らかになりました。TN飼育の肥満IL-17軸欠損マウス(Il17ra-/-およびIl17a-/-)は、TN飼育の野生型対照マウスと比較して、耐糖能異常、肝重量および肝細胞障害の悪化から免れました。一方、TN飼育と高脂肪食給餌により、C57BL/6では肝線維化は見られませんでしたが、AKRマウスでは肝線維化が誘導されたそうです。また、雄マウスのみならず雌マウスにもNAFLD様病態の徴候が見られました。以上のことから、TN飼育+高脂肪食給餌によるNAFLDの発症マウスは、免疫反応、代謝応答、腸内細菌叢の変化を伴う、より「ヒトに近い」新しい疾患モデルであることが明らかになりました。

【コメント】

 論文中のコメントにもありましたが、ヒトの場合、先進国では住居内の温度調節機能を利用して、一日の大半を中温域で過ごす傾向にあり、さらに着衣等も考慮に入れるとサーモニュートラルに近い環境で過ごしていると考えられます。遺伝子型だけでなく、飼育温度などの環境的要因を工夫することで表現型の変動をもたらし、ヒト疾患モデルを作出することができた点は、医学生物学の観点のみならず、実験動物学の観点からも興味深いと感じました。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

鹿児島大学共同獣医学部獣医学科 浅野 淳 

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文献紹介:SDラットにおけるアルファキサロン及びアルファキサロン-デクスメデトミジン混合麻酔の腹腔内投与

Intraperitoneal Alfaxalone and Alfaxalone–Dexmedetomidine Anesthesia in Sprague–Dawley Rats (Rattus norvegicus)
Authors: West, Sylvia E; Lee, Jonathan C; Johns, Tinika N; Nunamaker, Elizabeth A
Source: Journal of the American Association for Laboratory Animal Science
Publisher: American Association for Laboratory Animal Science
DOI: https://doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-19-000161
Appeared or available online: 2020/08/05

【概要】
予測不可能性や効果の変化があるため、実験用げっ歯類における注射麻酔薬のレジメンは洗練されたものとなっている。本研究では,近年獣医学的に人気が高まっているアルファキサロンを単独およびデクスメデトミジンと併用して,SDラットに腹腔内投与した場合の麻酔能を評価することを試みた。アルファキサロンのみの3用量と、アルファキサロン-デクスメデトミジンの4用量の組み合わせを雄ラットと雌ラットで試験した。誘導までの時間、麻酔時間、脈拍数、呼吸数、体温、回復までの時間を盲検化された観察者によって記録した。様々な麻酔プロトコルによって誘導された麻酔のレベルは、有害な刺激に対するペダル離脱反射を用いて評価し、反応に応じてスコア化した。処置群に依存して、アティパメゾールまたは生理食塩水を、動物が麻酔の60分に達した時点で腹腔内投与した。投与量にかかわらず、アルファキサロン単独では鎮静レベルの麻酔しか達成できなかったのに対し、アルファキサロン-デクスメデトミジンの組み合わせはすべての動物において外科レベルの麻酔をもたらした。アルファキサロン単独およびデクスメデトミジンとの併用による麻酔レジメンは性差を示し、雌ラットは雄ラットよりも長時間の鎮静または麻酔を維持した。雌雄ともに、デクスメデトミジンの効果と一致する生理的パラメータの減少を示した。以上の結果から、雌ラットの手術麻酔には、鎮静には20mg/kgのアルファキサロンを、手術麻酔には30mg/kgのアルファキサロンと0.05mg/kgのデクスメデトミジンを併用することを推奨する。雄性ラットに対するアルファキサロンのみおよびアルファキサロン-デクスメデトミジンの適切な用量は、本研究では決定されておらず、さらなる評価が必要である。

注射用麻酔でどこまで外科手術をするかという事がありますが、現在、実験動物で多く使用されている三種混合麻酔(メデトミジン、ミダゾラム、ブトルファノール)は血糖値の上昇や体温の低下などの副作用があり若干使いづらい印象があるので、代替麻酔の開発には大いに賛成。でも今回の結果はかなり性差があることが示唆されているため、その点についてはフォローが必要かなという印象です。

ちなみに代替麻酔の話で、日本国内では2020年8月7日にムンディファーマが超短時間作用型の静脈麻酔薬アネレム(一般名:レミマゾラムベシル酸塩)を発売しました。レミマゾラムは日経メディカルの記事にこういった記載があります。

レミマゾラムは、既存のミダゾラムと同じベンゾジアゼピン系全身麻酔薬である。循環抑制作用が少なく、投与時の注射部位反応が少ないこと、拮抗薬フルマゼニルによって拮抗されることなど、既存のミダゾラムと同様の利点もある。ミダゾラムと類似した構造を有しているが、レミマゾラムはジアゼピン環にエステル結合の側鎖を持ち、主に肝臓の組織エステラーゼによって速かに代謝される超短時間作用型静注製剤となっている。また、代謝に肝薬物代謝酵素CYPが関与しておらず、代謝物に活性がないことも、ミダゾラムとの大きな相違点となっている。レミマゾラムはこうした特徴から、高齢者や循環動態が不安定な患者を含め、全身麻酔を施行する幅広い患者に対して有効かつ安全性の高い薬剤として期待されている。

2020/03/13 北村 正樹(東京慈恵会医科⼤学附属病院薬剤部)CYPを介さず代謝される超短時間作用型ベンゾジアゼピン系全身麻酔薬
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/202003/564675.html

代謝にCYPが関与していないのは良いですね。ミダゾラムは3A4によって代謝されるため併用注意が結構ありましたし。加えて、日本人の全身麻酔施行手術患者を対象とした国内第2/3相実薬対照無作為化単盲検比較試験(対照薬:プロポフォール)において、プロポフォールに対する本薬の非劣性が検証されたとの記載もありますので、むしろプロポの代替麻酔として臨床の方が使用されるのも良いのかもしれませんね。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

動物が人になつく ~その不思議な行動のしくみ解明を目指して~

国立遺伝学研究所マウス開発研究室
小出 剛

はじめに

家畜動物は人によくなつく特徴を持っています。人の社会において、家畜動物が産業動物やペット、さらには実験動物として広く飼育されている大きな理由の一つがこのなつき行動にあるのです。この性質があるからこそ、家畜動物は安全で親しみをもって飼育しやすい動物として人の社会の中で受け入れられて、さまざまな形で私たちに貢献してくれているのです。また、家畜動物の中でもイヌやネコなどコンパニオンアニマルと呼ばれるものは、人にとっては愛着を持って生活を共にする対象としてなくてはならないものになっているといえます。これもなつき行動があるからと言えるでしょう。では、動物が異種である人になつくというのはいったいどのような行動なのでしょうか?

なつき行動とは

 動物が人になつくという行動には二つのタイプがあるとされています(1)。一つ目は、人に接近されたり触られたりしてもそれを避けなくなる性質であり「受動的なつき行動」といいます。二つ目は、動物が自ら人に接近して親和的な接触を行う性質であり「能動的なつき行動」といいます。これら二つのなつき行動は、前者が人による接近や接触を受け入れているだけであるのに対して、後者は意欲的に人に近づき接触するという点で質的に大きく異なる行動であると考えられるのです。そこで私たちは、これら二つのタイプのなつき行動を区別して解析することを目的として、マウスを使って定量的に行動を調べるために「能動的なつき行動テスト」と「受動的なつき行動テスト」を確立しました(図1)(2)。

 能動的なつき行動テストでは人の手に対してマウスが自発的に近づき接触している時間を測定します。一方で、受動的なつき行動テストでは、マウスが人の手で触られることを許容している時間を測定します。これら二つの行動テストを用いて、野生系統と実験用系統で比較してみたのです。実験用系統は、もともと人がペットとして飼育していた愛玩用マウスのストックから樹立されており、過去に家畜化の過程を経ていると考えられます。一方で、野生系統は、野生で捕獲されたマウスが実験室に導入されたあと、そのまま意図的な選択はされずに維持され、現在に至るまで野生マウスの特徴を色濃く持っています。 行動テストで調べた結果、能動的なつき行動では野生系統と実験用系統で明らかな違いは見られなかったものの、受動的なつき行動テストでは実験用系統が野生系統と比較して顕著に高いなつき行動を示しました(図1)(2)。このことは、実験用マウス系統の基となった愛玩用マウスでは、受動的なつき行動に関して選択を受けた結果、人に触られることを避けない性質を獲得してきたことを示唆しています。一方で、愛玩用マウスは人に自ら近づくという能動的なつき行動の性質に関しては選択されてこなかったと言えるのです。

図1.能動的なつき行動と受動的なつき行動のテスト方法とそれによる系統比較(上段)能動的なつき行動テストと受動的なつき行動テストの模式図。(下段)実験用系統と野生系統を用いて能動的なつき行動テストと受動的なつき行動テストを行った結果。文献2より改変

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