凄いぞ 実験動物! – 2021 年アルバート・ラスカー賞は光遺伝学 –
冬眠スイッチ
野生動物の一部は食料の乏しい冬をのりきるた めに冬眠することが良く知られています。SF 小 説や近未来映画では、長い宇宙旅行の間に歳を取 らないように、冬眠カプセルに入り、はるか遠い 銀河にある星へと向かう描写にしばしば出会いま す。これは夢物語なのでしょうか。2020 年に筑波大学の櫻井 武先生たちは通常は冬眠しないマウスの脳内に存在するピログルタミン化 RF アミドペプチド産生神経細胞(Q ニューロン)を化学的 もしくは物理的に興奮させると冬眠様状態へと誘 発できることを示しました。物理的方法では Q ニ ューロンにチャネルロドプシンを遺伝子操作で発現させ、ある領域の Q ニューロンを光で 刺激すると、マウスは冬眠同様に体温低下と低代謝を起こしました。驚いたことに光刺激 を止めると、体温は戻り、冬眠様状態による組織障害は起こらなかったようです。動物が 秘める冬眠様生理現象誘導の発見は、長期宇宙旅行に用いる冬眠カプセルが現実味のある 夢となり、それ以上に臨床医学では革新的治療への応用が大きく期待さられています。こ れらも光遺伝学と実験動物が開いた画期的な成果です。
A discrete neuronal circuit induces a hibernation-like state in rodents. Takahashi et al., (2020) Nature, 583: 109-114. doi: 10.1038/s41586-020-2163-6
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ARRIVEガイドライン2.0が公開されました
7月14日にNC3Rs(英国3Rセンター)にてARRIVEガイドライン2.0が公開(https://arriveguidelines.org/)されました。2010年に初めて公開されたARRIVEガイドラインは、動物実験計画において最低限記載すべき項目をまとめたものであり、Natureをはじめ多くの学術雑誌に支持されているガイドラインです。
そもそもこのガイドラインが作成された背景には、動物実験の再現性があまりにも低い(一説には70%以上の実験が再現できない)と言われてきたことがあります。その一因として実験方法の詳細が述べられていないとの指摘がありました。
英国の機関が、動物実験の記載がある271報(1999-2005)の論文を精査したところ、研究の仮説・目的を記載し、かつ動物の数と特徴が記載されていたのは271報のうち、わずか59%であったことを報告(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0007824)しています。
これらの事を受けてNC3Rsは記載すべき20の項目を定めて2010年にARRIVEガイドラインとして発表しました。多くの研究機関や出版社から支持されてきたものの、記載項目が多いことからも問題の根本的な解決には至りませんでした。そこで改訂版であるARRIVEガイドライン2.0が新たに公開されました。
ARRIVEガイドライン2.0の主な変更点は以下のとおりです。
記載すべき最低限の項目を10項目に絞った「ARRIVE Essential 10」とそれらを補完する「Recommended Set」に分類した
ARRIVE Essential 10は以下のとおりです。なお正式な日本語訳は日本実験動物学会等、公的機関によるアナウンスをお待ちください。
1. Study design(研究計画)
2. Sample size(サンプルサイズ)
3. Inclusion and exclusion criteria(包含基準と除外基準)
4. Randomisation(ランダム化)
5. Blinding(盲検化)
6. Outcome measures(実験の帰結)
7. Statistical methods(統計学的方法)
8. Experimental animals(実験動物の情報)
9. Experimental procedures(実験処置)
10. Results(結果)
前回のガイドラインが20項目であったことからも項目数を絞って記載しやすくなっていることが分かります。通常の動物実験審査においては3~5の項目を審査することは少ないのですが、今後はこのあたりも審査することが求められてくるかもしれません。