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凄いぞ 実験動物! – 2021 年アルバート・ラスカー賞は光遺伝学 –

コラム

実験動物から得られた画期的成果をご紹介します。
〜国立大学法人動物実験施設協議会の許可を得て転載〜

 今年のアルバート・ラスカー基礎医学研究賞は光遺伝学の発展に貢献した 3 名の科学者 が受賞されました。本賞の受賞者はノーベル生理学・医学賞を授与されることが多く、た いへん権威ある賞です。ディーター・エスターヘルト博士は光駆動の水素イオンポンプ活 性を示すバクテリオロドプシンを発見、ペーター・ヘーゲマン博士は現在光遺伝学で汎用 されているイオンチャネル型の光活性化タンパクであるチャネルロドプシンを発見、カー ル・ダイセロス博士はこの分子を神経細胞に発現させ光応答させるシステムを作成、動物 の行動を光で制御することに成功しました。光遺伝学は実験動物の脳機能解析に応用され ており、多くの画期的な研究成果が得られています。今回は、その一部をご紹介します。

心を科学

 初めてのデートや失恋など強い感情はひとつの 記憶として心の中に長く残ります。この記憶は記 憶痕跡と呼ばれます。最近では記憶痕跡が脳のひ とつの場所だけでなく連携し広く存在していると 考えられているようです。事実、記憶には五感的 な要素が含まれ総合的なものなのです。2012 年にマサチューセッツ工科大学の利根川 進先生(1987 年ノーベル生理・医学賞受賞)たちはマウ スの記憶痕跡に関わる脳の特定の神経細胞にチャ ネルロドプシンを遺伝子操作で発現させ、マウス に恐怖体験をさせた後、光刺激のみでマウスの心に残っている恐怖体験の記憶痕跡を想起 させることに成功しました。心は形あるものの変化に基づいていることを光遺伝学と実験 動物で証明した画期的な研究です。

Optogenetic stimulation of a hippocampal engram activates fear memory recall Liu et al., (2012) Nature, 484: 381-385. doi: 10.1038/nature11028

冬眠スイッチ

 野生動物の一部は食料の乏しい冬をのりきるた めに冬眠することが良く知られています。SF 小 説や近未来映画では、長い宇宙旅行の間に歳を取 らないように、冬眠カプセルに入り、はるか遠い 銀河にある星へと向かう描写にしばしば出会いま す。これは夢物語なのでしょうか。2020 年に筑波大学の櫻井 武先生たちは通常は冬眠しないマウスの脳内に存在するピログルタミン化 RF アミドペプチド産生神経細胞(Q ニューロン)を化学的 もしくは物理的に興奮させると冬眠様状態へと誘 発できることを示しました。物理的方法では Q ニ ューロンにチャネルロドプシンを遺伝子操作で発現させ、ある領域の Q ニューロンを光で 刺激すると、マウスは冬眠同様に体温低下と低代謝を起こしました。驚いたことに光刺激 を止めると、体温は戻り、冬眠様状態による組織障害は起こらなかったようです。動物が 秘める冬眠様生理現象誘導の発見は、長期宇宙旅行に用いる冬眠カプセルが現実味のある 夢となり、それ以上に臨床医学では革新的治療への応用が大きく期待さられています。こ れらも光遺伝学と実験動物が開いた画期的な成果です。

A discrete neuronal circuit induces a hibernation-like state in rodents. Takahashi et al., (2020) Nature, 583: 109-114. doi: 10.1038/s41586-020-2163-6

国立大学法人動物実験施設協議会(令和3年11月1日)

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ARRIVEガイドライン2.0が公開されました

7月14日にNC3Rs(英国3Rセンター)にてARRIVEガイドライン2.0が公開(https://arriveguidelines.org/)されました。2010年に初めて公開されたARRIVEガイドラインは、動物実験計画において最低限記載すべき項目をまとめたものであり、Natureをはじめ多くの学術雑誌に支持されているガイドラインです。

そもそもこのガイドラインが作成された背景には、動物実験の再現性があまりにも低い(一説には70%以上の実験が再現できない)と言われてきたことがあります。その一因として実験方法の詳細が述べられていないとの指摘がありました。

英国の機関が、動物実験の記載がある271報(1999-2005)の論文を精査したところ、研究の仮説・目的を記載し、かつ動物の数と特徴が記載されていたのは271報のうち、わずか59%であったことを報告(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0007824)しています。

これらの事を受けてNC3Rsは記載すべき20の項目を定めて2010年にARRIVEガイドラインとして発表しました。多くの研究機関や出版社から支持されてきたものの、記載項目が多いことからも問題の根本的な解決には至りませんでした。そこで改訂版であるARRIVEガイドライン2.0が新たに公開されました。

ARRIVEガイドライン2.0の主な変更点は以下のとおりです。

記載すべき最低限の項目を10項目に絞った「ARRIVE Essential 10」とそれらを補完する「Recommended Set」に分類した

ARRIVE Essential 10は以下のとおりです。なお正式な日本語訳は日本実験動物学会等、公的機関によるアナウンスをお待ちください。
1. Study design(研究計画)
2. Sample size(サンプルサイズ)
3. Inclusion and exclusion criteria(包含基準と除外基準)
4. Randomisation(ランダム化)
5. Blinding(盲検化)
6. Outcome measures(実験の帰結)
7. Statistical methods(統計学的方法)
8. Experimental animals(実験動物の情報)
9. Experimental procedures(実験処置)
10. Results(結果)

前回のガイドラインが20項目であったことからも項目数を絞って記載しやすくなっていることが分かります。通常の動物実験審査においては3~5の項目を審査することは少ないのですが、今後はこのあたりも審査することが求められてくるかもしれません。

コラム

実験動物の微生物検査

実験動物は一般に販売されている動物と異なり、特定の病原体を有していないことが明らかになっているSPF(Specific Pathogen Free)動物が多く用いられています。これは病原体が動物に与える影響(ノイズ)を排除するためなのですが、では一般の動物はどの程度、病原体に汚染されているのでしょうか。2015年に日本国内のペットショップで販売されているマウスの病原体保有状況を調べた報告(Hayashimoto N et al. Exp Anim. 2015;64:155-160.)がありますが、そちらの報告によると神奈川県と東京都の5つのペットショップに由来する28匹のマウスを検査したところ、以下のような結果(検出率)が得られたとのことです。

上記論文から引用

このようにペットショップごとにその検出率は異なるものの、多くの動物が微生物汚染を受けていることが分かりました。なお、人獣共通感染症を引き起こす病原体は検出されませんでしたが、動物に影響を及ぼす病原体は複数のペットショップから検出されています。これらの病原体は一般に飼育されている状態では特に問題がないことも多いのですが、動物実験に用いる際には状況が変わってきます。冒頭でも述べましたが、実験動物は余計なノイズを排除する必要があります。「再現性」は動物実験において最も重要な一つの要素ですが、動物によって病原体を持っていたり持っていなかったりすると、動物の状態が安定せず、試験結果の信頼性に影響する場合があります。また、このことによって実験に用いる動物の数が多くなってしまうことは避けるべきです。

このような考えから、試験に用いる動物は病原体の影響をできるだけ排除したSPF動物を用いることが一般的です。しかし、施設に入ってきた際には確かに病原体がいないかもしれませんが、人や動物の出入りが多い施設において、試験期間が長い動物実験などでは試験の最後まで病原体がいないとは限りません。これを担保するのが「微生物モニタリング」という手法です。

微生物モニタリングは定期的(通常3か月に1回)に飼育されている動物や施設の微生物調査を行うものですが、従来は「おとり動物」を用いた方法(下図)が主体でした。

おとり動物の「おとり」は漢字で書くと囮となり、英語だとSentinel(センチネル)とも言います。まさに言葉のとおりで、他の動物の感染をいち早く察知し、被害を拡大させないための動物です。かつて使われていた、炭鉱におけるカナリアのような存在とも言えますね(カナリアは有毒ガスに敏感なため、炭鉱で発生する可能性のある有毒ガスから身の危険を知らせてくれたそうです)。

また、おとり動物は検査の際に採血・解剖され、人の目ですみずみまで検査することで検査項目以外の病原体が思いがけず発見されるなど正確性が担保されているのですが、病原体の培養に時間がかかったり、最近導入が進んできた個別換気システム(IVC)を用いたラックやケージなどでは検出率が低い問題がありました。

そこで最近用いられ始めているのがPCRを用いた手法です。動物を解剖するのではなく、実際に試験に用いた動物を拭った綿棒や、糞からDNAを抽出して病原体を検出する方法なのですが、最近ではそれらに加え、部屋やケージのホコリから病原体を検出することが可能になってきました。おとり動物を使用しない、動物福祉にかなった方法で今後導入が進んでいくことと思われますが、PCRの特性上、検査項目以外のものは検出することが出来ないので、おとり動物を用いた方法とは一長一短の間柄になっています。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

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