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遺伝性疾患の研究における実験動物の役割と課題〜筋ジストロフィーモデル動物を例に〜

コラム

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2. DMDモデル動物と治療法開発への応用

  DMDの研究分野では、マウスのみならずラットやウサギ、イヌ、ブタなど様々な動物種でジストロフィン欠損モデル動物の開発が進められています(4-8) 初期のDMDモデル動物は突然変異個体として発見され、その内のいくつかは現在でも系統として維持されています(9)。1984年にモデル動物として最初に公表されたのがDmd遺伝子エクソン23に点突然変異を持つmdxマウスです(10)。mdxマウスは、ジストロフィン欠損によって生じる骨格筋病態(ジストロフィノパチー)の解明だけでなく、治療法開発においても多大な貢献をしてきました(11, 12)。しかし、本マウスのDmd変異は患者DMD遺伝子では稀なナンセンス変異であることや、病気の進行が緩徐であることが課題でした。これらの課題を克服すべく、1997年に本邦において、患者で高頻度に見られる変異を模したDmdエクソン52欠失変異マウス(mdx52マウス)がジーンターゲッティング法により開発されました(13)。本mdx52マウスの大きな特徴の一つとして、エクソン・スキッピング療法*の開発に活用できることが挙げられます(*mRNA前駆体に配列特異的に結合するアンチセンス人工核酸[ASO]を用いて、標的エクソンの除去と遺伝子の読み枠の修正、機能的なタンパク質の発現回復を誘導する技術)。すなわち、mdx52マウスは、欠失変異を持つ患者の約19%を治療対象とできるエクソン51、または約14%を対象とするエクソン53・スキッピング療法の開発コンセプトを実証できるモデルとして活躍してきました(図2)。

図2 エクソン52欠失ジストロフィンmRNA(ピンク)に対するアンチセンス人工核酸(ASO)を用いたエクソン51・スキッピング療法の概念図。 エクソン52を欠くとエクソン53が正しいコドン(3つ組塩基)を形成できない(上図)。ASOによりエクソン51が除去されるとエクソン50と53の末端の塩基が新たなコドンを作り、以降の塩基配列は正常なアミノ酸の読み枠となり、短いジストロフィンの発現が可能となる(下図)。

 mdx52マウスの登場により、ASOによるエクソン51・スキッピングは生体においても短縮型ジストロフィンの発現を誘導し、治療学的な有効性を示すことが2010年に国立精神・神経医療研究センター神経研究所の武田伸一先生、青木吉嗣先生らによって報告されました(14)。このような疾患モデル動物における治療コンセプトの実証や、患者細胞におけるヒトDMD遺伝子に対するスキッピング効果を根拠として臨床試験が進められ、2016年に世界初のエクソン51・スキッピングASOが核酸医薬品としてアメリカ食品医薬品局(FDA)によって迅速承認されました(15)。現在(2022年3月26日時点)までに4種類のDMDに対する核酸医薬品が承認されています。その内の一つは日本新薬株式会社と国立精神・神経医療研究センターの共同開発による核酸医薬品です。筋ジストロフィー治療研究はモデル動物の開発と共に、日本がリードする分野の一つであると考えられます。

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日本大学生物資源科学部 獣医学科 動物医科学研究センター  越後谷 裕介(JALAM教育委員会)

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動物福祉の評価ツールのご紹介-1
〜AVMA主催の“学生動物福祉状況の評価コンテスト”〜

 さて、イリノイ大のニュースによると、このコンテストの目的は、「農業、研究、伴侶など、人間のために使用される動物に影響を与える福祉問題の理解と認識を高めるための教育ツールを経験することであり、倫理的推論に対する理解の上に、科学的理論とデータに基づいた動物福祉の客観的評価を促し、批判的思考を促進し、コミュニケーション能力を向上させる」ことです。参加対象は、3・4年学部生、獣医学部生、院生(1チーム3-5人)であり、動物看護師やAVMA会員の獣医師も少数に限り参加できます(ただし、コンテストの対象外)。参加者はいくつかのシナリオに沿って出題される動物とその福祉状況を分析して、その中から優れたシナリオを選び出し、発表するというものです。

 ニュースでは、“動物福祉のさまざまな事象をそのときどきの断片として客観的かつ定量的に評価することも可能ですが、福祉問題は連続したものであり、どのあたりで許容できるか、どのあたりが好ましいか、または許容できないかの判断は、多くの場合、倫理に基づく選択に帰着するものです。コンテストでは、問題解決へ学際的にアプローチするため、科学に基づく知識を倫理的価値観と統合することを学生に教えています”という風に審査の方法について説明しています。私たちが学生の動物福祉評価を審査するのであれば、北米でどのような基準やチェック方法に従って動物福祉が評価されているのかの具体例を知りたいところです。

 今回はこのくらいにさせていただいて、次は、動物福祉評価のツールについて整理していきたいと思います。

参考文献

1) Beaver B. V. and Bayne K, Chapter 4 – Animal Welfare Assessment Considerations, Laboratory Animal Welfare, 29-38 (2014)

2) Animal welfare judging team provides unique experiential learning for students. (cited 2022. Oct.28)

3) AVMA Animal Welfare Assessment Contest. (cited 2022. Dec. 05)

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コラム

動物福祉の評価ツールのご紹介-2
〜福祉を評価するツールを紹介するサイト1:USDAのNational Agricultural Library〜

“Literature on Welfare Assessment and Indicators” 動物福祉の評価と指標に関する文献へのリンク集

 福祉評価と福祉指標に関する文献を検索できるよう、産業動物用にPubAg、そして実験動物用にPubMedへのリンクが検索式とともに配置されています。検索式や検索文字列作成の詳細についても触れていて、丁寧です。

“Grimace Scale”

 Grimace Scaleは「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説」(平成29年10月)に記載があり、実験動物種ではいまや標準的な福祉指標になっていますが、典型的な実験動物種以外の動物について詳しく調べようとすると案外骨が折れるので、このページを知っていると便利です。Grimace Scaleは、顔の様々な部位や体の姿勢を評価することで、動物の痛みを評価するために用いられるスコアリングシステムです。このパートでは典型的な実験動物種や家畜以外の情報にもリンクが貼られています。

“その他の Web リソース”

 最後のパートでは、マカクや動物園動物の福祉アセスメントにも対応できるようリンクが貼られています。

今回はこのくらいにして、次回は、英国NC3Rsの“Welfare Assessment”を扱いたいと思います。

 なお、米国USDAの”Animal Welfare Assessments“を閲覧される際には、ぜひ一度は、National Agricultural LibraryのトップサイトのTopicsメニューを開いて”Animal Health and Welfare”のページにも寄ってみて下さい。いろいろな情報があることにお気づきになることと思います。

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コラム

実験動物の里親制度

このように研究機関においては実験動物の健康と福祉を管轄する選任獣医師の承認が必須になっています。さらに演者が所属しているブラウン大学の譲渡動物の基準が説明されていますので併せて紹介します。

・譲渡される動物は健康で、行動に問題がないことが確認されていなければならない。

・FDAが承認した人用もしくは動物用医薬品、サプリメント、もしくは動物用医薬品の薬品グレード化合物以外の物質を投与されていないこと。

・感染性物質に曝露されていないこと。

・遺伝子組換え、もしくは免疫抑制動物ではないこと。

・職員もしくはその家族のペットとしてのみ許可され、販売されないこと。

・人用もしくは動物用の食料とされないこと。

・里親は将来に渡って獣医学的ケアが必要な場合は責任を持つこと。

大学と製薬企業では譲渡条件も異なるとは思いますが(製薬企業は承認前の化合物を投与しているため、この条件では譲渡できない)、基本的には各国の法律や規則、大学や企業の動物実験委員会での規程など厳格なルールのもとに動物を選定する必要があることが分かります。

先にも述べたように里親制度が出来たことで実験動物を譲渡することで救われる命がある一方、命の選別をしなければならない実験従事者がいるのも事実です。彼らの精神的負担を軽減するためにも譲渡動物選定における明快なルールの策定と、実験動物の里親制度の更なるブラッシュアップが求められています。

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コラム

動物福祉の評価ツールのご紹介-3 福祉を評価するツールを紹介するサイト2: NC3Rsの Welfare Assessment

2.実際上の侵襲性(物理的および心理的傷害)の評価と報告

ここでは、NC3Rsを設けている英国のガイダンス“Guidance to the Operation of the Animals (Scientific Procedures)Act 1986”2)に基づいて重症度の分類や分類時の注意点について説明されています。

●「適切な資格を有する者」は、各処置の実際の重症度を「回復しない」、「軽度」、「中度」、「重度」に分類しなければならない。

●この分類の根拠は、将来的な重症度や処置の種類ではなく、日々の(ケージサイドでの)福祉評価を総括したものなので、その場で目にする重症度とは違うかもしれないし、その後の状況によっては重症度も変わっているかもしれない。

これはつまり、「求められる知識やスキルを保持している人が重症度をしっかりと判定しなさい。加えて、重症度はさまざま条件で変化するので、通り一遍にならないようよく見なさい」ということだろうと思います。

 なお、より詳しいガイダンスは、“European Commission severity assessment document and examples”に格納されている” European Commission (2012) Working document on a severity assessment framework“と”European Commission (2013) Examples to illustrate the process of severity classification, day-to-day assessment and actual severity assessment “を見るようにとも記載されています。

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