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動物福祉の評価ツールのご紹介-3 福祉を評価するツールを紹介するサイト2: NC3Rsの Welfare Assessment

コラム

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1.福祉指標の策定

このガイドラインは福祉指標として着目すべき事柄を以下の6つのカテゴリーに分けています。詳細については、欧州委員会の「苦痛度評価の枠組みに関する作業文書」の13ページ下から始まる表“Appearance / Body Functions / Environment / Behaviours / Procedure-specific indicators / Free observations”を引用する建付けになっています。動物の状態のチェックリストとして使うと考えると、この表で十分ではないかと思います。

●身体、被毛、皮膚の状態を含む外見(例:身繕い行動の低下、ラットのポルフィリン着色)

●身体機能(例:摂餌・摂水量の減少、体温の変化など)

●ケージやペンなど内の環境(例:巣の質、排せつの場所など)

●行動(社会的相互作用、姿勢、歩行、常同行動のような望ましくない行動など)

●実験方法特有の指標(例:がん研究における腫瘍の大きさなど)

●自由観察(観察者が予測しなかった苦痛の指標を見た場合、自由にテキストを入力できるようにする)

福祉指標の策定の進め方は以下のように記載されています。

●最初に、各手技に適した福祉指標を具体的に定義する。

●「手順全体を検討」し、「発生しうる苦痛の種類と原因を特定」することから始める。

●「肉体的苦痛」だけでなく、「不安や苦痛」、「科学的処置の直接的影響」、さらに「取り扱いや拘束、あらゆる飼育上の制限」、「安楽死の影響」なども検討する。

●体重などの「客観的基準」と、被毛の状態、姿勢、社会的行動などの「主観的指標」を組み合わせる。

●「重大な苦痛を示す指標(毛玉など)」ばかりに注目するべきではない。また、「劣悪な福祉状況を早期に発見できるような指標(巣の状態の悪化など)」も含める。

●マウスの開腹手術後の苦痛の状態について「術後に鎮痛処置を施さなかった場合、鎮痛処置を施した場合と異なり、心拍数の上昇などが24時間認められ、体重と摂餌量の減少が2・3日続いた」と報告1)されている。

●「指標の数」は、苦痛の兆候を確実に検出するのに十分で、かつ、有能な観察者がその動物を自由に評価できる「設定時間内で観察可能なもの」とする。

●福祉状況記録用紙に「自由記述欄」を設け、追加観察事項を記録可能とする。

●観察のタイミングと頻度は、動物の通常の活動パターン、科学的処置のタイミング、起こりうる苦痛のレベルなどを考慮する。例えば、ラットやマウスは夜行性なので、観察を動物が眠っているはずの明るい時間帯(人間の労働時間)だけに限定すると、重要な行動指標を見逃す可能性がある。同様に、術後や疾患の経過における重要な時期など、有害事象が発生しやすい時期には、より頻繁に評価を行う必要がある。

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A Pollinator/訪花人 (JALAM)

関連記事

文献紹介:実験動物獣医師の生物医学研究におけるマウスの福祉に対する調査

A Survey of Laboratory Animal Veterinarians Regarding Mouse Welfare in Biomedical Research.
Marx, James O ; Jacobsen, Kenneth O ; Petervary, Nicolette A ; Casebolt, Donald B
JAALAS, Volume 60, Number 2, March 2021, pp. 139-145(7)
doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-20-000063

【概要】
研究用動物の福祉の質は、その動物から生み出される科学的成果の質に否応なく結びついている。マウスは生物医学研究において最もよく用いられる哺乳動物種であるが、将来の進歩を促すためにどのような要素を考慮すべきかについては、ほとんど情報がない。この問題を解決するために、米国実験動物獣医師会(ASLAP)の動物福祉委員会は、実験動物獣医師を対象に、マウスの福祉に関する意見を聞き、生物医学研究における動物福祉に大きく影響する5つの要因(飼育、臨床ケア、実験使用、規制監督、訓練)の役割を検討するための調査を行った。調査の結果、95%の獣医師がマウスの福祉について「許容できる」から「素晴らしい」と評価しましたが、改善すべき点も残されていた。これらの分野には以下が含まれる。

1)実験を行う研究者のトレーニング
2)実験操作によって痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングの頻度
3)痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングに機関の獣医師スタッフを含めること
4)マウスに提供される環境エンリッチメントの継続的な改善
5)研究室内および機関内の他の研究グループでの再発を防止するために、IACUC(動物実験委員会)がコンプライアンス違反の事例に完全に対処する能力があること
6)病気や怪我をしたマウスの検査、病気の診断、治療の処方を獣医師以外の人に頼っていること

アメリカの動物実験規制は自主管理を柱とする体制であり、日本の動物実験に関する法制度の基本的な枠組みもこの自主管理制度を参考にしているとされています。しかし、これらの法的根拠となる動物福祉法(Animal Welfare Act; AWA)の対象動物には動物実験で多く用いられるマウスやラットなどが含まれておらず、どのように動物福祉が担保されているか外からは分かりづらい問題がありました。そこでASLAPはマウスの福祉が実際にはどうなっているか、会員にアンケートを実施したのがこの論文の趣旨です。

今回の調査では、95%の獣医師がマウスの福祉全般を「許容できる」から「優れている」と評価した一方で、半数の獣医師が、ケアの水準向上を正当化する科学的データがないことが、研究用マウスの福祉向上の主な制約になっていると考えているとのことです。特に、環境エンリッチメントの評価にばらつきがあるのは、環境エンリッチメントの基準を裏付ける実験データがないことが原因と考えられています。

また、実験手順によって痛みや苦痛を感じる可能性のある動物の観察頻度にも懸念があることが報告されました。動物福祉に満足していると回答した獣医師の多くは、観察頻度を1日あたり3回以上に設定しているのに対し、動物福祉が不十分であると回答した獣医師の多くは、観察頻度が1日1回以下であると回答しています(下表)。満足度は必ずしもケアの回数に比例するわけではありませんが、獣医師の満足度が高い施設では相対的に観察頻度が高くなっているようです。このように、動物に対して単にケアするだけではなく、どれだけ手厚くケアができるかということも動物福祉の重要な要素になっています。

観察頻度に対する回答(上記論文から引用)

日本国内では比較的小規模施設の多くが、マウスやラットのみを飼育している施設であり、実験動物獣医師などの専門家を配置することが出来ずにいます。これらの施設にどうやって動物福祉の考え方を浸透させることができるか、関係者は知恵を絞って考える必要がありそうです。

コラム

文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?観察テストと新しい飼い主へのアンケート調査の結果

観察テストでは攻撃的な行動は見られませんでした。大多数の犬はリードをつけて行儀よく歩き、車やトラックが通りかかってもリラックスしていて、階段の上り下りも問題なくでき、犬たちはほとんどリラックスして望ましい行動をとっていました。これらの結果は、リホーミングされた実験犬の適応能力の高さを示すものであり、非常にポジティブな結果であったと著者らは考えています。

動物実験実施施設では実験動物福祉の考え方に基づき、それを実現するための管理をしています。少ない例ではありますが、寄稿:実験動物の印象革命<後編>でもご紹介いただき、こうした施設からリホーミングされた動物が、虐待を受けた動物のように人間に不信感をもっているということではなく、一般社会に上手く適応できるということであれば、動物実験実施者としての実験動物に対する気持ちは救われますし、嬉しくも感じるのではないでしょうか。

一方で、著者らは、ポジティブな結果については、研究施設の犬は刺激が少なかったことが理由でもあったのではないかとも考えています。全ての犬が良好な結果であったというものでもありませんでした。リホーミング実施の有無にかかわらず、動物実験実施者はより洗練した管理をしなければならないと、厳しく受け止める必要もあるのだと思います。

リホーミングを実施している施設は、実際のところ社会の期待よりも多くはないかもしれません。そうした施設がもっと多くなれば、実験動物の余生はより豊かになるでしょうし、安楽死を実施せざるを得ない場合の実施者の精神的負担も軽減されるでしょう。多くの実験動物が社会の目に触れることで、引き取られた実験動物を通じて一般社会が動物実験を知る機会も増えてゆくのではないでしょうか。そしてわが身を振り返るきっかけにもなるのではないでしょうか。

実験動物のリホーミングは、社会全体で適切な動物実験を考え遂行するために、鍵となる重要な手法かもしれません。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

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リホーミング

文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査

研究動物の殺処分は,

1)科学的要求
2)回避可能な苦痛を防ぐため(安楽死)
3)経済的・物流的理由

の3つの主な理由で行われますが、リホーミングの主な機会は、3)経済的・物流的な理由で人道的な殺処分が行われてしまう場合にあります

Directive 2010/63/EUでは、以下の場合に動物をリホーミングさせることができるとしています。

・「動物の健康状態がそれを可能にしている」場合
・「公衆衛生、動物の健康、または環境に危険がない」場合
・「動物の幸福を守るために適切な措置が取られている」場合

この指令では、リホーミングされると福祉が損なわれるような動物は、実験の終了時に殺処分されるべきであることが明示されています。

本研究では、動物が リホーミング に適しているかどうかを評価する際に、さまざまな要素が重要であると考えており、5段階の リホーミング のプロセスが示されています。

1. 動物の選択。健康状態、年齢、種類、気質、そして長期的な健康状態を左右するような処置を受けたかどうか。
2. 効果的な社会化とトレーニング。新しい環境への暴露、必要な医療処置(去勢手術など)の実施が含まれます。
3. 最適な住まいを見つけること。
4. 飼い主の能力を評価すること。これは非常に重要であると判断されています。基準としては、飼い主候補が、過去に動物を飼った経験があること、適切な住居があること、取り扱い能力があることを証明できなければならない。家を訪問/検査して、その適合性を確認することもあります。
5. 新しい飼い主の準備。いくつかの施設では、飼い主に適切な住居と初期のフードを提供しています。飼い主に動物の健康に対する責任と、ペットの飼い主としての法的責任を十分に認識させることの重要性があります。

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リホーミング