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動物福祉の評価ツールのご紹介-3 福祉を評価するツールを紹介するサイト2: NC3Rsの Welfare Assessment

コラム

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2.実際上の侵襲性(物理的および心理的傷害)の評価と報告

ここでは、NC3Rsを設けている英国のガイダンス“Guidance to the Operation of the Animals (Scientific Procedures)Act 1986”2)に基づいて重症度の分類や分類時の注意点について説明されています。

●「適切な資格を有する者」は、各処置の実際の重症度を「回復しない」、「軽度」、「中度」、「重度」に分類しなければならない。

●この分類の根拠は、将来的な重症度や処置の種類ではなく、日々の(ケージサイドでの)福祉評価を総括したものなので、その場で目にする重症度とは違うかもしれないし、その後の状況によっては重症度も変わっているかもしれない。

これはつまり、「求められる知識やスキルを保持している人が重症度をしっかりと判定しなさい。加えて、重症度はさまざま条件で変化するので、通り一遍にならないようよく見なさい」ということだろうと思います。

 なお、より詳しいガイダンスは、“European Commission severity assessment document and examples”に格納されている” European Commission (2012) Working document on a severity assessment framework“と”European Commission (2013) Examples to illustrate the process of severity classification, day-to-day assessment and actual severity assessment “を見るようにとも記載されています。

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A Pollinator/訪花人 (JALAM)

関連記事

文献紹介:実験動物獣医師の生物医学研究におけるマウスの福祉に対する調査

A Survey of Laboratory Animal Veterinarians Regarding Mouse Welfare in Biomedical Research.
Marx, James O ; Jacobsen, Kenneth O ; Petervary, Nicolette A ; Casebolt, Donald B
JAALAS, Volume 60, Number 2, March 2021, pp. 139-145(7)
doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-20-000063

【概要】
研究用動物の福祉の質は、その動物から生み出される科学的成果の質に否応なく結びついている。マウスは生物医学研究において最もよく用いられる哺乳動物種であるが、将来の進歩を促すためにどのような要素を考慮すべきかについては、ほとんど情報がない。この問題を解決するために、米国実験動物獣医師会(ASLAP)の動物福祉委員会は、実験動物獣医師を対象に、マウスの福祉に関する意見を聞き、生物医学研究における動物福祉に大きく影響する5つの要因(飼育、臨床ケア、実験使用、規制監督、訓練)の役割を検討するための調査を行った。調査の結果、95%の獣医師がマウスの福祉について「許容できる」から「素晴らしい」と評価しましたが、改善すべき点も残されていた。これらの分野には以下が含まれる。

1)実験を行う研究者のトレーニング
2)実験操作によって痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングの頻度
3)痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングに機関の獣医師スタッフを含めること
4)マウスに提供される環境エンリッチメントの継続的な改善
5)研究室内および機関内の他の研究グループでの再発を防止するために、IACUC(動物実験委員会)がコンプライアンス違反の事例に完全に対処する能力があること
6)病気や怪我をしたマウスの検査、病気の診断、治療の処方を獣医師以外の人に頼っていること

アメリカの動物実験規制は自主管理を柱とする体制であり、日本の動物実験に関する法制度の基本的な枠組みもこの自主管理制度を参考にしているとされています。しかし、これらの法的根拠となる動物福祉法(Animal Welfare Act; AWA)の対象動物には動物実験で多く用いられるマウスやラットなどが含まれておらず、どのように動物福祉が担保されているか外からは分かりづらい問題がありました。そこでASLAPはマウスの福祉が実際にはどうなっているか、会員にアンケートを実施したのがこの論文の趣旨です。

今回の調査では、95%の獣医師がマウスの福祉全般を「許容できる」から「優れている」と評価した一方で、半数の獣医師が、ケアの水準向上を正当化する科学的データがないことが、研究用マウスの福祉向上の主な制約になっていると考えているとのことです。特に、環境エンリッチメントの評価にばらつきがあるのは、環境エンリッチメントの基準を裏付ける実験データがないことが原因と考えられています。

また、実験手順によって痛みや苦痛を感じる可能性のある動物の観察頻度にも懸念があることが報告されました。動物福祉に満足していると回答した獣医師の多くは、観察頻度を1日あたり3回以上に設定しているのに対し、動物福祉が不十分であると回答した獣医師の多くは、観察頻度が1日1回以下であると回答しています(下表)。満足度は必ずしもケアの回数に比例するわけではありませんが、獣医師の満足度が高い施設では相対的に観察頻度が高くなっているようです。このように、動物に対して単にケアするだけではなく、どれだけ手厚くケアができるかということも動物福祉の重要な要素になっています。

観察頻度に対する回答(上記論文から引用)

日本国内では比較的小規模施設の多くが、マウスやラットのみを飼育している施設であり、実験動物獣医師などの専門家を配置することが出来ずにいます。これらの施設にどうやって動物福祉の考え方を浸透させることができるか、関係者は知恵を絞って考える必要がありそうです。

コラム

文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?観察テストと新しい飼い主へのアンケート調査の結果

観察テストでは攻撃的な行動は見られませんでした。大多数の犬はリードをつけて行儀よく歩き、車やトラックが通りかかってもリラックスしていて、階段の上り下りも問題なくでき、犬たちはほとんどリラックスして望ましい行動をとっていました。これらの結果は、リホーミングされた実験犬の適応能力の高さを示すものであり、非常にポジティブな結果であったと著者らは考えています。

動物実験実施施設では実験動物福祉の考え方に基づき、それを実現するための管理をしています。少ない例ではありますが、寄稿:実験動物の印象革命<後編>でもご紹介いただき、こうした施設からリホーミングされた動物が、虐待を受けた動物のように人間に不信感をもっているということではなく、一般社会に上手く適応できるということであれば、動物実験実施者としての実験動物に対する気持ちは救われますし、嬉しくも感じるのではないでしょうか。

一方で、著者らは、ポジティブな結果については、研究施設の犬は刺激が少なかったことが理由でもあったのではないかとも考えています。全ての犬が良好な結果であったというものでもありませんでした。リホーミング実施の有無にかかわらず、動物実験実施者はより洗練した管理をしなければならないと、厳しく受け止める必要もあるのだと思います。

リホーミングを実施している施設は、実際のところ社会の期待よりも多くはないかもしれません。そうした施設がもっと多くなれば、実験動物の余生はより豊かになるでしょうし、安楽死を実施せざるを得ない場合の実施者の精神的負担も軽減されるでしょう。多くの実験動物が社会の目に触れることで、引き取られた実験動物を通じて一般社会が動物実験を知る機会も増えてゆくのではないでしょうか。そしてわが身を振り返るきっかけにもなるのではないでしょうか。

実験動物のリホーミングは、社会全体で適切な動物実験を考え遂行するために、鍵となる重要な手法かもしれません。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

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リホーミング

文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査

リホーミングの実施にあたって、大半の施設は問題なかったと回答していましたが、リホーミングを困難にする要因として、プロセスに時間がかかることが挙げられています。

リホーミングの機会については、「スタッフの士気を高める」「積極的な倫理観を示せる」など、動物たちの将来の幸福が期待されていました。

リホーミングの障壁となることは、再帰化した場合の動物の健康に関する福祉面での懸念、需要や研究の必要性から退役する動物が少なくなる傾向にあるという現実的な問題、そしてメディアからの否定的な注目への懸念などの外的な課題が挙げられています。

リホーミング後、飼い主が興味を失って動物を処分してしまうことも考えられるため、動物が施設を離れた後の動物福祉の確保について心配されています。また、施設はリホーミングのプロセスが自分たちとその評判にどう影響するかをコントロールすることはできません。サンクチュアリや一般市民が動物の異常な行動や生理についてメディアで議論し、その結果、施設が否定的なイメージを持たれてしまうことが心配されています。

アンケートの結果、実験動物のリホーミングはよく知られており、検討されているが、その数は比較的少ないことが分かりました。数が少ないにもかかわらず、リホーミングを行っている施設では、動物の福祉、スタッフ、施設全体のためになると解釈しており、可能な限り検討すべきである。リホーミングは、スタッフのモラル・ストレスの克服をサポートするとともに、実験室での動物殺傷が日常的に行われていることに対する社会的な関心を喚起するものである。リホーミングを推進するためには、どの施設がどのようにリホーミングを行っているかについての理解を深め、現在この分野で活動していない施設にも情報を広めることが必要である。著者らはこのように結論付けています。

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