logo

当サイトではサービス向上のためにCookieを取得します。同意いただける場合は、「同意する」ボタンをクリックしてください。
詳細は、Cookieポリシーのページをご覧ください。

JALAM学術集会委員会の記事一覧

文献紹介(特別編):動物実験に関する一般の方々とのコミュニケーション

その中で2014年にイギリスで締結された「動物実験に関する情報開示のための協定(Concordat for Openness on Animal Research in UK)」は非常に画期的なものであり、署名している機関は現在120を超え、署名機関は以下の4項目の遵守が求められています。

この協定を結んでいる機関は積極的に情報を発信しており、大学などでは使用した動物種や動物数を公開し、大手の製薬企業では従業員全員(動物実験を実施するしない関わらず)に対してなぜ動物実験が必要なのかなど説明責任を果たしているとのことです。

こちらの取り組みに比べて、日本は以下のようにだけ記載されています。

日本では、動物実験関係者連絡協議会が中心となって、動物研究に関するよくある質問を掲載したウェブサイトを開設したり、動物をモデルとした研究の必要性を説明したパンフレットを発行しています。動物実験関係者連絡協議会を支援している団体には、日本生理学会、神経生理学会などがあります。日本実験動物学会でも一般向けのパンフレットを作成しています。また、日本の大手公共放送であるNHKの番組では、医学の進歩を紹介する番組があり、その中で実験動物が科学の発展に果たす役割を紹介することが多いです。

また、終盤のセクションで非常に興味深いフレーズがあります。

科学界は、研究動物に依存している研究の価値を平易な言葉で公に共有するのが遅れている。さらに、その研究がどのようにして達成されているのか、また実験動物を使って仕事をしている人たちの思いやりの文化を説明することにも抵抗感を持っている。このような抵抗感は、これまで述べてきたオープン性と透明性を 促進する取り組みに支えられて、変化しつつあります。しかし、米国や他の国では、現在の変化の速度は遅すぎます。

そうなんです、科学の進歩に対してそれらを一般の方々に説明できる人間が少なすぎると個人的には思うのです。もっと自分たちの行っていることに対して誇りをもって積極的に分かりやすく開示していけば良いのですが、それがイギリス以外の国々ではなかなか出来ていないのが現状です。現在はこのような現状を受けて科学コミュニケーターの育成が国内でも進みつつあります。このあたりの話はまたどこかで出来ればいいと思っています。

長々と書いてきましたが、最後に文末の部分を引用して終えたいと思います。

国民の信頼を得て、動物を必要とする生物医学科学への支持が明らかに低下しているのを逆転させるためには、 築き上げなければならないことがたくさんある。実験動物は、医学の進歩に不可欠な資源であることに変わりはない。研究機関は、透明性を求める動きを受け入れ、研究室を開放し、将来の有権者と誠実に関わっていかなければならない。そうでなければ、不必要に制限的な法律が後を絶たず、医学の進歩を妨げることになる。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

文献紹介:環境経済学における動物福祉の直接評価

Directly Valuing Animal Welfare in (Environmental) Economics.
Carlier, Alexis and Treich, Nicolas
International Review of Environmental and Resource Economics, 14 (1). pp. 113-152. (2020)

【概要】
経済学の研究は人間中心である。人間の福祉にしか関心がなく、通常は動物には関心がない。その場合、動物は資源、生物多様性、あるいは食料として扱われます。つまり、動物は人間にとって道具的な価値しかないのです。しかし、水や木や野菜と違って、人間と同じように、ほとんどの動物は脳と神経系を持っています。痛みや快楽を感じることができるので、動物の福祉は重要であると多くの人が主張しています。経済学の研究の中には、動物の福祉を評価するものもあるが、人間の利他的な評価によって間接的にしか評価されない。このような経済学の全体的な立場は、利他主義の伝統と矛盾しており、種差別主義者としての資格を得ることができる。我々は、経済学は、少なくとも時には近くのある動物の福祉を直接評価すべきであると提案する。我々は、(環境)経済学のために考えられるいくつかの意味合いと課題について簡単に論じる。

動物福祉を定量化することは非常に難しいことです。実験動物分野における環境エンリッチメントの効果をストレスホルモンの測定などで定量化する動きもありますが、測定時のストレスの方が大きかったりするなどして効果判定を明確化するのは難しいのが現状です。

この論文では経済学の観点から動物福祉を評価する試みをまとめていますが、結論から言うとまだまだ難しいようです。人間は肉用家畜のような草食動物に穀物を与えますが、動物の欲するままに穀物を与えることである意味動物の福祉を向上させることは出来ます。しかしその一方で肥満によって動物自身の体調を悪くし、結果的にQOLを下げることにもつながります。これらの解決策として動物の福祉と動物の体調のバランスをとって、肉の生産量を多くすることが挙げられていますが、これは動物を食肉として消費することを前提とした考えであり、そもそも人間が食肉をせず穀物だけ摂取していればこれらの問題が生じることも無いといった考えもあります。

このように食肉など動物の利用を前提とした動物福祉の考えと、そもそも動物を利用しないことが望ましいとするヴィーガニズムが同時に存在することで評価軸がブレてしまい、経済学でまとめることができないのが問題のようです。動物福祉に関する費用対効果を試算する試みは興味深い分野ですので、今後も多くの研究がなされると思いますが、根本的な解決にはまだまだ時間がかかりそうです。そして、この論文の最後の部分に非常に興味深いことが記載されていました。

一般の人々は、野生動物の絶滅問題や、工業的農業に伴う動物の飼育条件の悪さをますます認識するようになってきています。多くの豊かな国では、ベジタリアンやヴィーガン(通常は3~10%)の割合が、人口に占める農家の割合を上回っています。

動物の飼養環境が悪いことを認識することでベジタリアンやヴィーガンの割合が増加し、消費される動物がさらに少なくなり、質の悪い動物福祉を重視しない農家が廃業することで、残る動物の福祉が向上するといった全体のバランスが今後は取れていくのかもしれませんね。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

実験動物のための水分補給・栄養補給用ジェル

通常の動物実験では、マウス・ラットなどの小動物は自由にエサや水を摂取することが出来るようになっています。

ScienceNewsから引用
https://www.sciencenews.org/article/sex-differences-bias-male-female-lab-animals

しかし疾患モデルだったり、手術後の回復期などでは立ち上がってエサや水を摂取することが難しい場合があります。そのような場合には動物福祉の観点から水分補給・栄養補給を目的としたジェルをケージの中に置くことがあり、その際に良く利用される市販品がClearH2O社(https://www.clearh2o.com/)のHydroGelなどです。

ClearH2O社HPから引用

個人的にも実験の際に使用していましたが、滅菌された状態で個別になっているので、蓋のシールを剥がしてやってケージの中に入れれば済むといったお手軽さが非常に良かった印象です。また、動物の状態によっても様々なタイプのジェルを使い分けることが出来ます。

水分補給のみだったらHydrogel、術後の回復には電解質バランスを整えるためのDietgelのRecovery、立ち上がるのが難しいような疾患モデルにはエサと水の要素を兼ね備えたDietgelの76Aといった感じで使い分けていました。HPを見るとサルなどの大動物にも薬の苦みなどをマスキングして使えるようですね。

以前は術後鎮痛のために鎮痛剤(カルプロフェン)が含まれていたジェルもあったのですが、FDA(アメリカ食品医薬品局)が厳しくなったとかで製造が中止になってしまいました。手術直後にオピオイドを打って、あとは鎮痛剤入りのジェルで2~3日様子見が出来ただけに無くなってしまったことが悔やまれます。とはいえ今販売されているジェルにも薬を混ぜ込んで投与できるとのことですので、事前準備に十分な時間がかけられる場合には試してみるのも良さそうです。

また、消費期限は常温で製造日から24カ月とのことですので、災害などで断水が起きた際の緊急用としてストックしておくのも良いと思います。実際、とある製薬会社では東日本大震災で研究所が被災し、断水になった際にこちらのジェルで動物を維持したと伺っています。このように動物福祉の観点からだけではなく、防災に備えるためのBCPの一環としても、いつでも使用できるように備えておくのが望ましいと考えています。

コラム

英語で書かれた科学論文の読み方(自動翻訳活用術)

何か気になることがあって調べるときにどのような情報を基に判断しますか?一般的には検索サイトで調べたり、wikipediaを見たりすると思いますが、最新の情報は日本語ではなかなか手に入りにくいものです。それが例えば「○○の最新の治療法が知りたい」「動物に関する最新の飼育方法を知りたい」などの科学的な話であればなおさらです。そのような際には英語の論文を読む必要がありますが、理系の大学に進むなどある程度のトレーニングを積んだことが無いと読むのも一苦労です。というか私も分野外の論文は単語が分からないので全然読めません。そんな時の自動翻訳の活用術を今回は紹介したいと思います。

科学論文を検索するサイトはいくつもありますが、私がお勧めするのは「Google Scholor(グーグルスカラー)」(https://scholar.google.co.jp/)です。

なぜGoogle Scholorをお勧めするかというと、ここは無料で読める論文が一目で分かるからです。科学論文は基本的には市販の雑誌に掲載されるため、有料の場合(最近では無料の論文も増えてきていますが…)が多いです。そうすると折角検索に引っかかっても有料で読めずガッカリする場合が良くあります。そうした際にGoogle Scholorでは下の図の赤枠で囲ったように右の部分にリンクがあればそこから読むことができます。(なお今回は個人の引用の範囲内とのことで著作権の説明については省略しています)

1つ目のリンクをたどるとHTML、つまり通常のホームページに行きますので翻訳したい文章をコピーして、あとは自動翻訳のDeepL(https://www.deepl.com/ja/translator)にかけるだけです。

こんな感じで翻訳したい文章がHTMLのページで書かれているのであれば問題無いのですが、さきほどの赤枠で囲った2つ目のリンクのようにPDFで書かれている場合は要注意です。以下に同様の手順でPDFの文章を自動翻訳にかけてみます。

先ほどと違って翻訳結果がなんか微妙ですよね。と言うのも英語の文章をコピペしてくる際に改行が入ってしまうからなのです。ひとつひとつ改行を消していけば良いのですが、多くの文章をコピペする際にいちいち消すのも面倒です。そこで「google翻訳のための英語論文(pdf文書)の文末整形ツール(javascript)」(https://www.robotech-note.com/entry/2016/11/22/120020)を間に挟みます。

そうすると改行を自動的に消してくれますので整形後文章をコピペしてさきほどのDeepLにかけてみます。

どうでしょう。かなり自然な文章になったのではないでしょうか。ここ数年で自動翻訳がかなりの進歩を遂げています。このように自動翻訳を活用することで私を含め、英語が苦手な人でも科学論文をあまりストレスなく読むことができるようになってきました。ぜひ皆さんも科学論文で最新の情報に触れ、動物の飼育管理等に活かしてもらえればと思います。

コラム

文献紹介:実験動物の福祉と人間の態度 異種特異的な遊びや「ラットのくすぐり」に関する横断的調査

Laboratory animal welfare and human attitudes: A cross-sectional survey on heterospecific play or “rat tickling”.
LaFollette MR, Cloutier S, Brady C, Gaskill BN, O’Haire ME
PLoS ONE 14(8): e0220580 (2019).
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0220580

【概要】
導入
実験室のラットの福祉は様々なエンリッチメント技術の実装、または実装の欠如を通じて、実験動物の担当者によって影響を受けています。そのような有望な技術の一つが異種特異的な遊び、つまり「ラットのくすぐり」であり、これはラットの“けんかごっこ”を模倣したもので、福祉の向上に貢献することができますが、実施されることは少ないかもしれません。計画行動理論を用いて、行動態度(良いか悪いか)、主観的規範(提供することに対する社会的・職業的要望があるかどうか)、コントロール信念(提供することに対してコントロールされていると感じているかどうか)など、ラットのくすぐりに対する意図や信念を測定することで、実施の検討を行うことができます。そこで、本研究の目的は、米国とカナダの実験動物従事者の間で、現在のラットのくすぐりの実施率と予測因子を特定することでした。我々の仮説では、ラットのくすぐりの実施率は低く、その実践、エンリッチメント、実験動物全般に関する信念と関連しているとしました。
方法
実験動物関係者は、広範なオンラインプロモーションから募集した。合計794名(平均=40±11歳、白人80%、女性80%)が混合法オンライン調査の少なくとも50%を完了し、現在米国またはカナダで実験用ラットを使って仕事をしているという包含基準を満たした。調査には、人口統計学、豊かになるための実践と信念、ラットに対する態度、一般的な肯定的な行動(実験動物との会話など)、ラットのくすぐりに関する実践と信念に関する質問が含まれていました。質的データは、テーマ別分析を用いてコード化した。量的データは一般的な線形モデルを用いて分析した。
結果
実験室の職員はラットのくすぐりの実施レベルが低く、89%の参加者がラットのくすぐりを実施したことがない、またはめったに実施しないと報告しています。研究室関係者は、定性的分析を用いて、ラットのくすぐりに対する2つの重要な利点(ハンドリング:61%、福祉:55%)と3つの重要な障壁(時間:59%、人員:22%、研究:22%)を報告しています。現在のラットのくすぐり行為と計画的なくすぐり行為は、よりポジティブな信念(社会的/専門家の要望 p<0.0001、くすぐり行為を提供することのコントロール p<0.0001)とくすぐり行為への親しみやすさ(p<0.0001)と正の関連がありました。また、現在のラットのくすぐりは、動物に名前をつけるなど、実験動物に対するより積極的な一般行動と正の相関がありました(p<0.0001)。今後のラットのくすぐりは、くすぐりに対する肯定的な態度(p<0.0001)と、より豊かにしたいという願望(p<0.01)と正の関連があった。
結論
その結果、ラットのくすぐりは、現在のところ実施率が低いにもかかわらず、職員の信念、親しみやすさ、一般的な態度、そしてもっと充実したものにしたいという欲求と正の関係があることが示されました。つまり、実験動物の担当者は、ラットのくすぐりを提供することに慣れていて、提供することは良いことであり、自分の管理下にあると考えていて、社会的・職業的な要望を受けていると感じている場合には、ラットのくすぐりを提供する可能性が高く、また、より豊かにしたいと考えている場合や、実験動物に対してより積極的な行動をとっている場合には、実験動物の担当者はラットのくすぐりを提供する可能性が高いことがわかりました。トレーニングを行うことで、スタッフの手順への親しみやすさを高め、必要な時間を短縮し、スタッフの信念を変えることで、ラットのくすぐりを増やすことができる可能性があり、それによってラットの福祉を向上させることができます。

動物実験で実際の実験操作をする前には、動物を十分ハンドリングしておく必要があります。これは人に触られるのを慣れさせておくことで、その後の実験操作をスムースに行えるとのメリットがあります。しかし今回の調査の目的はそうではなく、ラットをくすぐるスタッフはどういった環境で働いているかを調査したものです。

この文献でいうラットのくすぐりですが、こんな感じで実施しているところだそうです。

上記文献から引用

結論だけ見てみると当たり前かもしれませんが、時間的余裕が無いとこれらの行動をとることは出来ないという事が明らかになりました。実験動物従事者は動物の状態がより良いものにすることで様々な研究に貢献しています。日々の飼育管理だけではなく、これらプラスアルファの活動こそが彼らの糧になるものであり、やりがいを自覚するものでもあります。管理側には適切な人数配置が求められますが、最低限賄えるといったギリギリの環境にするのではなく、こういった時間的余裕を生み出せる職場環境づくりが今後は必要なようです。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

動物実験におけるPAM(Post Approval Monitoring)

動物実験は申請後に動物実験委員会等で承認され、実験を実施し、終了報告によって終了するといった一連の流れがあります。終了報告では申請時から逸脱した操作は無かったとか、申請時の使用予定匹数を超過するものではなかったなどの報告をしますが、それらが実際に報告通り行われていたかを知るすべが少ないのが現状です。そこで考えられたのがPAM(承認後モニタリング)という、実験が走っている最中に本当に申請通り行われているかを確かめるための仕組みです。

PAMは通常、動物実験委員会のメンバーや管理獣医師が行いますが、様々なタイプのものがあります。動物実験施設にふらっと入って、その場に居合わせた研究者に軽く質問をしながら何か困ったこと無い?と聞いてやりとりをするのもありますし、実験や手術などに立ち会って最初から最後まで手技についてチェックするのもあります。私は経験がありませんが、事前通告なしの抜き打ちによるPAMも存在するとのことです。

PAMを実施する際には苦痛度の高い試験や、中大動物の大規模手術、PAMを受けた経験のない人を優先して実施するところが多いようです。もちろん動物実験を実施する際には教育訓練を受講してもらいますが、何事もよくある話で、ある一定の割合で内容を理解していない人が必ず出てきます。そう言った意味でもPAMは現場でのセーフティネットの役割を果たしていると考えています。またPAMとセットで多いのが匿名の通報制度です。動物実験をする際に動物虐待があってはなりませんが、疑わしい場合があった際には匿名で通報できるようなシステムを採っています。これらの通報を受けて緊急のPAMを実施することもあります。研究の進捗はもちろん重要ですが、動物の命を扱っている以上、科学的根拠もなしに3Rsや5Freedomsを侵害してはならないからです。

PAMを実施する際には研究員からの反発も予想されますが、こと製薬企業においては品質保証、QA(Quality Assurance)の考えが根付いており、他者からチェックを受けることが日常茶飯事ですので案外スムースに実施できるといった印象です。個人で動くことの多いアカデミアなどではこう上手くはいかないかもしれません。

コラム

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

Compassion Fatigueに対処する上で、最も重要なのは自分が今どのような状態にあるかを認識することです。その認識を手助けする分類方法として、Professional Quality of Life (ProQOL)というものがあります。

ProQOLは、相手と自らの職務との関連で感じるQOLの事と定義されており、ネガティブ・ポジティブの両側面を含むものとして概念化されています。つまり、相手がいる仕事において、ポジティブな方向に振れればそれはCompassion Satisfaction(共感満足:CS)であるし、ネガティブな方向に振れればそれはCompassion Fatigue(共感疲労、思いやり疲労:CF)であるとしています。さらにCFを2つに分類することができ、一般的にその仕事を続けられないと思えばそれはバーンアウト(燃え尽き症候群)であるし、その仕事を続けたいと思えば二次的外傷性ストレスだとされています。このようなProQOLを模式図化したものが以下の図です。

ProQOLは現在第5版が発行されていますが、日本語訳されたものは第4版が最新のものになっています(https://img1.wsimg.com/blobby/go/dfc1e1a0-a1db-4456-9391-18746725179b/downloads/Japanese.pdf)。第4版では30項目の問いから構成されており、その問いに対して0~5の6段階(0=まったくない、1=めったにない、2=たまにある、3=ときどきある、4=よくある、5=とてもよくある)でどの頻度で当てはまるかを数値化していき、その合計点で判断するといったものです。では具体的に項目を見ていきましょう。なお、項目は私の方で実験動物従事者用(特に飼育管理の方向け)にアレンジがしてありますので、公式なものではないことを申し添えておきます。

続いて自己採点方法です。

CSの平均点は37点です。上位約25%の人が42点以上、また下位25%は33点以下の得点です。42点以上であれば現在の仕事によってかなりの職業的満足感が得られていると考えられますが、33点以下であれば現在の仕事に問題を抱えているか、もしくは仕事以外の活動から満足感を得ているなど、他に理由がある場合も有ります。

バーンアウトの平均点は22点です。上位25%の人が27点以上、また下位25%は18点以下の得点です。18点以下であれば自身の業務遂行能力に関して肯定的な気持ちを持っていることを反映していますが、27点以上であれば効果的に自分の役割を果たせないのは仕事のどういった部分であるかについて省みたくなるかもしれません。

二次的外傷性ストレスの平均値は13点です。上位25%の人が17点以上、また下位25%は8点以下の得点です。17点以上の場合、仕事のどういう部分が恐怖感を与えているのかについてじっくり考える時間を持つことも良いかもしれません。高得点が必ずしも問題があることを意味するわけではありませんが、今の仕事や職場環境についてどう感じているのかを考察してみる方が良いのではないかという事を示唆しています。

今回の平均値などの得点はあくまでProQOLの基準であり、動物実験従事者に対してチューニングされたものではありません。ちなみに私はどの項目も平均点付近でしたので、どれにも合致しないといったごく普通の感じでしょうか。こちらは日本人と外国人である場合も結果が異なるでしょうし、飼育管理業務が主体的なのか、実験作業が主体的なのかによっても異なるかもしれません。いずれにせよ、このProQOLの概念が広がり、多くの方が実施することで信頼性が高まっていくと考えられますので、是非みなさんも実践して頂ければと思います。

コラム