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文献紹介:環境経済学における動物福祉の直接評価

コラム

Directly Valuing Animal Welfare in (Environmental) Economics.
Carlier, Alexis and Treich, Nicolas
International Review of Environmental and Resource Economics, 14 (1). pp. 113-152. (2020)

【概要】
経済学の研究は人間中心である。人間の福祉にしか関心がなく、通常は動物には関心がない。その場合、動物は資源、生物多様性、あるいは食料として扱われます。つまり、動物は人間にとって道具的な価値しかないのです。しかし、水や木や野菜と違って、人間と同じように、ほとんどの動物は脳と神経系を持っています。痛みや快楽を感じることができるので、動物の福祉は重要であると多くの人が主張しています。経済学の研究の中には、動物の福祉を評価するものもあるが、人間の利他的な評価によって間接的にしか評価されない。このような経済学の全体的な立場は、利他主義の伝統と矛盾しており、種差別主義者としての資格を得ることができる。我々は、経済学は、少なくとも時には近くのある動物の福祉を直接評価すべきであると提案する。我々は、(環境)経済学のために考えられるいくつかの意味合いと課題について簡単に論じる。

動物福祉を定量化することは非常に難しいことです。実験動物分野における環境エンリッチメントの効果をストレスホルモンの測定などで定量化する動きもありますが、測定時のストレスの方が大きかったりするなどして効果判定を明確化するのは難しいのが現状です。

この論文では経済学の観点から動物福祉を評価する試みをまとめていますが、結論から言うとまだまだ難しいようです。人間は肉用家畜のような草食動物に穀物を与えますが、動物の欲するままに穀物を与えることである意味動物の福祉を向上させることは出来ます。しかしその一方で肥満によって動物自身の体調を悪くし、結果的にQOLを下げることにもつながります。これらの解決策として動物の福祉と動物の体調のバランスをとって、肉の生産量を多くすることが挙げられていますが、これは動物を食肉として消費することを前提とした考えであり、そもそも人間が食肉をせず穀物だけ摂取していればこれらの問題が生じることも無いといった考えもあります。

このように食肉など動物の利用を前提とした動物福祉の考えと、そもそも動物を利用しないことが望ましいとするヴィーガニズムが同時に存在することで評価軸がブレてしまい、経済学でまとめることができないのが問題のようです。動物福祉に関する費用対効果を試算する試みは興味深い分野ですので、今後も多くの研究がなされると思いますが、根本的な解決にはまだまだ時間がかかりそうです。そして、この論文の最後の部分に非常に興味深いことが記載されていました。

一般の人々は、野生動物の絶滅問題や、工業的農業に伴う動物の飼育条件の悪さをますます認識するようになってきています。多くの豊かな国では、ベジタリアンやヴィーガン(通常は3~10%)の割合が、人口に占める農家の割合を上回っています。

動物の飼養環境が悪いことを認識することでベジタリアンやヴィーガンの割合が増加し、消費される動物がさらに少なくなり、質の悪い動物福祉を重視しない農家が廃業することで、残る動物の福祉が向上するといった全体のバランスが今後は取れていくのかもしれませんね。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

JALAM学術集会委員会

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独楽鼠(こまねずみ)

 リンネが名付けたマウスの学名「Mus musculus(ラテン語)」のmusは古代サンスクリット語の「泥棒」を意味するmushaに由来している。ディズニーが自室に迷い込んだマウスを餌付けし、このマウスを参考にキャラクターを考案したというのは架空の話のようだが、招かれざる客が、歓迎すべき客となり、飼い慣らし繁殖したものが現在の愛玩用マウス(ファンシーマウス)になったとの説が有力である。他の愛玩動物と同様、古代より愛好家たちは、興味深い毛色や行動パターンを持つ珍しいタイプを選んで交配・維持してきたようだ。1920年代には、英米でマウス愛好家組織が結成されたほどポピュラーな存在になった。このムーブメントは1927年のミッキーマウスの誕生にも影響を与えたかもしれない。

 1890年代の米国では、ワルツを踊るようにくるくる回る、ジャパニーズワルチングマウス(Japanese waltzing mouse :JWM)がペットとして人気を博した。心理学者のロバート・ヤーキーズは、このマウスの由来や習性を調べ本にまとめている [1]。このワルツを踊るマウスは、紀元前の中国の漢の時代の文献に登場している。日本では独楽鼠または舞鼠と言われていた。JWMは、中国から日本を経て欧州に到着し、その後、米国に上陸したと思われる。ヤーキーズが所有したJWMは、白地に黒の斑点や縞模様が入っていたことから、JF1マウス(パンダマウス)と同様、エンドセリン受容体B型遺伝子(Ednrb)の変異をもっていたのであろう [2]。JWMは、旋回運動を示すほか難聴でもあり、これらの症状は、遺伝性の内耳の構造異常に起因する場合が多い。平衡感覚がおかしいので、体勢を維持するために旋回するのである。この表現型(遺伝変異)を持つマウスは1947年にジョージ・スネルによってジャクソン研究所へ導入後、近交系C57BL/10に交配することで変異遺伝子が維持され、現在でも同所に受精卵が凍結保存されている[2]。2001年に、聴覚と平衡感覚器官の異常の原因としてカドヘリン23遺伝子の変異が同定された [3, 4]。また、カドヘリン23は、人の先天的難聴を伴う遺伝病であるUsher症候群の原因遺伝子と同一であることが判明した [5]。

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コラム 教育委員会

文献紹介:SDラットにおけるアルファキサロン及びアルファキサロン-デクスメデトミジン混合麻酔の腹腔内投与

Intraperitoneal Alfaxalone and Alfaxalone–Dexmedetomidine Anesthesia in Sprague–Dawley Rats (Rattus norvegicus)
Authors: West, Sylvia E; Lee, Jonathan C; Johns, Tinika N; Nunamaker, Elizabeth A
Source: Journal of the American Association for Laboratory Animal Science
Publisher: American Association for Laboratory Animal Science
DOI: https://doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-19-000161
Appeared or available online: 2020/08/05

【概要】
予測不可能性や効果の変化があるため、実験用げっ歯類における注射麻酔薬のレジメンは洗練されたものとなっている。本研究では,近年獣医学的に人気が高まっているアルファキサロンを単独およびデクスメデトミジンと併用して,SDラットに腹腔内投与した場合の麻酔能を評価することを試みた。アルファキサロンのみの3用量と、アルファキサロン-デクスメデトミジンの4用量の組み合わせを雄ラットと雌ラットで試験した。誘導までの時間、麻酔時間、脈拍数、呼吸数、体温、回復までの時間を盲検化された観察者によって記録した。様々な麻酔プロトコルによって誘導された麻酔のレベルは、有害な刺激に対するペダル離脱反射を用いて評価し、反応に応じてスコア化した。処置群に依存して、アティパメゾールまたは生理食塩水を、動物が麻酔の60分に達した時点で腹腔内投与した。投与量にかかわらず、アルファキサロン単独では鎮静レベルの麻酔しか達成できなかったのに対し、アルファキサロン-デクスメデトミジンの組み合わせはすべての動物において外科レベルの麻酔をもたらした。アルファキサロン単独およびデクスメデトミジンとの併用による麻酔レジメンは性差を示し、雌ラットは雄ラットよりも長時間の鎮静または麻酔を維持した。雌雄ともに、デクスメデトミジンの効果と一致する生理的パラメータの減少を示した。以上の結果から、雌ラットの手術麻酔には、鎮静には20mg/kgのアルファキサロンを、手術麻酔には30mg/kgのアルファキサロンと0.05mg/kgのデクスメデトミジンを併用することを推奨する。雄性ラットに対するアルファキサロンのみおよびアルファキサロン-デクスメデトミジンの適切な用量は、本研究では決定されておらず、さらなる評価が必要である。

注射用麻酔でどこまで外科手術をするかという事がありますが、現在、実験動物で多く使用されている三種混合麻酔(メデトミジン、ミダゾラム、ブトルファノール)は血糖値の上昇や体温の低下などの副作用があり若干使いづらい印象があるので、代替麻酔の開発には大いに賛成。でも今回の結果はかなり性差があることが示唆されているため、その点についてはフォローが必要かなという印象です。

ちなみに代替麻酔の話で、日本国内では2020年8月7日にムンディファーマが超短時間作用型の静脈麻酔薬アネレム(一般名:レミマゾラムベシル酸塩)を発売しました。レミマゾラムは日経メディカルの記事にこういった記載があります。

レミマゾラムは、既存のミダゾラムと同じベンゾジアゼピン系全身麻酔薬である。循環抑制作用が少なく、投与時の注射部位反応が少ないこと、拮抗薬フルマゼニルによって拮抗されることなど、既存のミダゾラムと同様の利点もある。ミダゾラムと類似した構造を有しているが、レミマゾラムはジアゼピン環にエステル結合の側鎖を持ち、主に肝臓の組織エステラーゼによって速かに代謝される超短時間作用型静注製剤となっている。また、代謝に肝薬物代謝酵素CYPが関与しておらず、代謝物に活性がないことも、ミダゾラムとの大きな相違点となっている。レミマゾラムはこうした特徴から、高齢者や循環動態が不安定な患者を含め、全身麻酔を施行する幅広い患者に対して有効かつ安全性の高い薬剤として期待されている。

2020/03/13 北村 正樹(東京慈恵会医科⼤学附属病院薬剤部)CYPを介さず代謝される超短時間作用型ベンゾジアゼピン系全身麻酔薬
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/202003/564675.html

代謝にCYPが関与していないのは良いですね。ミダゾラムは3A4によって代謝されるため併用注意が結構ありましたし。加えて、日本人の全身麻酔施行手術患者を対象とした国内第2/3相実薬対照無作為化単盲検比較試験(対照薬:プロポフォール)において、プロポフォールに対する本薬の非劣性が検証されたとの記載もありますので、むしろプロポの代替麻酔として臨床の方が使用されるのも良いのかもしれませんね。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

動物が人になつく ~その不思議な行動のしくみ解明を目指して~

国立遺伝学研究所マウス開発研究室
小出 剛

はじめに

家畜動物は人によくなつく特徴を持っています。人の社会において、家畜動物が産業動物やペット、さらには実験動物として広く飼育されている大きな理由の一つがこのなつき行動にあるのです。この性質があるからこそ、家畜動物は安全で親しみをもって飼育しやすい動物として人の社会の中で受け入れられて、さまざまな形で私たちに貢献してくれているのです。また、家畜動物の中でもイヌやネコなどコンパニオンアニマルと呼ばれるものは、人にとっては愛着を持って生活を共にする対象としてなくてはならないものになっているといえます。これもなつき行動があるからと言えるでしょう。では、動物が異種である人になつくというのはいったいどのような行動なのでしょうか?

なつき行動とは

 動物が人になつくという行動には二つのタイプがあるとされています(1)。一つ目は、人に接近されたり触られたりしてもそれを避けなくなる性質であり「受動的なつき行動」といいます。二つ目は、動物が自ら人に接近して親和的な接触を行う性質であり「能動的なつき行動」といいます。これら二つのなつき行動は、前者が人による接近や接触を受け入れているだけであるのに対して、後者は意欲的に人に近づき接触するという点で質的に大きく異なる行動であると考えられるのです。そこで私たちは、これら二つのタイプのなつき行動を区別して解析することを目的として、マウスを使って定量的に行動を調べるために「能動的なつき行動テスト」と「受動的なつき行動テスト」を確立しました(図1)(2)。

 能動的なつき行動テストでは人の手に対してマウスが自発的に近づき接触している時間を測定します。一方で、受動的なつき行動テストでは、マウスが人の手で触られることを許容している時間を測定します。これら二つの行動テストを用いて、野生系統と実験用系統で比較してみたのです。実験用系統は、もともと人がペットとして飼育していた愛玩用マウスのストックから樹立されており、過去に家畜化の過程を経ていると考えられます。一方で、野生系統は、野生で捕獲されたマウスが実験室に導入されたあと、そのまま意図的な選択はされずに維持され、現在に至るまで野生マウスの特徴を色濃く持っています。 行動テストで調べた結果、能動的なつき行動では野生系統と実験用系統で明らかな違いは見られなかったものの、受動的なつき行動テストでは実験用系統が野生系統と比較して顕著に高いなつき行動を示しました(図1)(2)。このことは、実験用マウス系統の基となった愛玩用マウスでは、受動的なつき行動に関して選択を受けた結果、人に触られることを避けない性質を獲得してきたことを示唆しています。一方で、愛玩用マウスは人に自ら近づくという能動的なつき行動の性質に関しては選択されてこなかったと言えるのです。

図1.能動的なつき行動と受動的なつき行動のテスト方法とそれによる系統比較(上段)能動的なつき行動テストと受動的なつき行動テストの模式図。(下段)実験用系統と野生系統を用いて能動的なつき行動テストと受動的なつき行動テストを行った結果。文献2より改変

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