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情報発信の記事一覧

動物実験の情報発信(イギリス編)

物実験・実験動物の情報発信について、何回かに分けてお伝えしていきたいと思います。情報発信に関してはまずは先達である海外に倣えとのことで、初回はイギリス編です。なお、今回の内容はLABIO 21の記事「特集 イギリスの一般市民への動物実験に関する情報発信の状況 訪問調査研究の報告(1)市民へ動物実験の理解を促す活動団体”UAR”」をもとに構成しています。

イギリスは1800年代から動物虐待に関する法律が制定されるなどの歴史的背景から動物愛護に関する意識が非常に高い国です。そのような流れを受け、動物実験・実験動物に対しても非常に強い反対運動が巻き起こりました。SHAC(Stop Huntingdon Animal Cruelty)と呼ばれる団体がイギリスの大手CRO企業であるハンティンドン・ライフ・サイエンス社に対して放火や実験動物の連れ去りなど、非合法活動を行っていたことも記憶に新しいことかと思います。

イギリスでは1908年にResearch Defence Societyという団体が設立され、以前から研究を擁護してきました。また、2003年頃から市民に向けて研究への理解を推進するための活動を行っていたCoalition for Medical Progressという団体があったのですが、2008年にこれらの団体がまとまり、UAR(Understanding Animal Research;https://www.understandinganimalresearch.org.uk/)が設立されました。元々あった2つの団体はそれぞれ、動物実験に関する理解促進、情報発信活動を行ってきたのですが、名称からは分かりづらいという声が上がっていたことから、新しい団体には目的が分かりやすい名称となったとのことです。

UARの活動は大きく3つの活動に分かれており、ここからはそれぞれの活動を見ていきたいと思います。

教育

UAR HPから引用

主に日本の中学生・高校生にあたる生徒を対象に動物実験に対する正しい理解を深めるべく教育を行っています。主な内容はボランティアの研究者や動物実験技術者による学校訪問であり、年間300件ほど行っているとのことです。現在はイギリス全土で500名ほどのボランティア登録があり、ボランティアとして登録するためにはUARが初めに研修を行います。

さらに一部希望者に関しては実際の動物実験施設への見学ツアーも行っているとのことです。受け入れ側施設の準備などもあるかと思いますが、実際に見学した生徒たちの感想を聞くと、実際に訪問してみて動物の世話が行き届いていることや、スタッフの熱心さを知ることが出来て好評とのことです。このあたりは日本でも積極的に導入していければ良いですね。

ロビー活動

最近、日本でも徐々に見られるようになってきましたが、特定の候補や政党が安易に得票を狙って「動物実験の禁止」などを訴えることの無いよう、動物実験の禁止による医学・獣医学などの発展の阻害などを丁寧に説明して回る活動を行っています。UARは団体としてこれらの活動に熱心に取り組んできたこともあり、イギリスではUAR設立後2回の総選挙を経験していますが、選挙の際にこのような動物実験禁止をマニフェストに掲げるような候補者は出なかったとのことです。日本国内でこれらロビー活動を行っている団体はほとんど無く、日本人ももっとしたたかにこういった活動に取り組むべきだと個人的には考えています。

コミュニケーション

UAR HPから引用

コミュニケーションは情報発信において非常に重要な役割を果たします。UARが設立された当初はテレビや新聞などマスメディアで動物実験擁護活動を展開していましたが、現在ではインターネットやソーシャルメディアでの発信に切り替わってきているようです。動物実験反対派の事実に異なる主張に対し、正しい情報を公開し、その意義を訴えるという姿勢を明確にしており、このことによりメンバーや組織が動物実験に改めて理解を深めることで、さらに自信をもって自らの立場を鮮明にアナウンスすることも出来るようになってきているとのことです。つまりは情報発信側のトレーニングにもなっているようですね。

また、情報開示に関する活動として、UARではweb上で動物実験施設のバーチャルツアーを開設(http://www.labanimaltour.org/)しています。

上記HPから引用

上の写真はオックスフォード大学の動物実験施設のバーチャルツアーです。公開している部屋は限られますが、色の付いている部屋はすべて見ることが出来ますし、Googleのストリートビューのように360度ぐるぐる回して見ることが出来ます。また驚くべきことに、このようにサルに電極を付けた非常にシビアな試験を公開しており、逆にオックスフォードの動物実験に対する透明性を高めるものになっています。

このようにUARの様々な活動を見てきましたが、イギリスでは長年これらの活動に取り組んできただけあって非常に洗練されたものとなっています。現在、日本でもUARの活動を見習って情報発信活動を始める動きが出てきていますが、それにはまず現在の閉鎖的な環境を打破し、胸襟を開いて、動物実験はそもそも何のために行っているのかという原点に立ち返って正しい情報発信を進めていく必要があると考えています。

コラム

文献紹介(特別編):動物実験に関する一般の方々とのコミュニケーション

Communicating About Animal Research with the Public
Judy MacArthur Clark, Paula Clifford, Wendy Jarrett, Cynthia Pekow
ILAR Journal, Volume 60, Issue 1, 2019, Pages 34–42
https://doi.org/10.1093/ilar/ilz007

【概要】
動物は、生物医学研究やその他の科学的調査の分野で重要な役割を果たしています。しかし、世論は、この分野の科学がどのように規制され、資金が提供されるかに影響を与える上で重要な役割を果たしています。それにもかかわらず、科学者は歴史的に、動物研究について公然と話したり、動物施設を一般に公開したりすることには消極的でした。その結果、入手可能な情報のほとんどは、動物研究に反対する人々からのものでした。このバランスの悪さが、この研究に対する疑念と国民の支持の遅れにつながっている。この影響を逆転させるために、現在、世界の多くの地域で、この分野の公開性と透明性を高めるための努力が行われている。著者らは、動物を含む正当な研究を行うための研究コミュニティの「許可」を維持するためには、より多くの研究機関がこの運動に参加することを奨励し、より良いコミュニケーションに焦点を当てていくことが不可欠であると確信している。この論文では、世論調査で意見を求められたり、選挙で投票したりする社会の断面を「一般の人々」と考えている。また、メディア、他の分野の科学者、動物愛護団体、規制の枠組みを形成する可能性のある政治家など、その他の影響力のあるグループも含まれます。この問題に関する世論は重要である。生物医学研究のための資金提供の大部分は、直接または間接的に公的資金から得ている。製薬研究の場合、資金は消費者に医薬品を販売することから得られる。したがって、私たちは皆、この資金提供に対して既得権益を持っている。さらに、研究における動物の使用を対象とした法律は、動物愛護法に反し ている可能性のあることを科学者が行うことを許可しています。しかし、この許可は通常、世論が適切と判断した倫理的枠組みの中での研究を確実に行うための厳格な保護措置を遵守することを条件としています。オープンで透明性のあるコミュニケーションは、世間の理解を 促進するための最良の方法です。このように、科学者、動物飼育スタッフ、医師、獣医師、倫理委員会のメンバー、管理者、指導者など、動物研究に携わるすべての人には、この研究に対する世間の認識と信頼を支持し、促進する責任があります。状況証拠は、このようなオープンな対話があれば、個人の標的化やハラスメントが減り、関係者全員の仕事への誇りと満足度が向上することを示しています。

かつてイギリスやアメリカなどでは過激な動物実験反対運動が巻き起こったことで、研究者が説明責任を果たす中で動物実験に関する理解が深まったという現象が起きていました。今では法に抵触するような過激な運動は鳴りを潜めたこともあり、研究者から積極的に情報発信することが少なくなり、動物実験の必要性が疑問視されています。

その中で2014年にイギリスで締結された「動物実験に関する情報開示のための協定(Concordat for Openness on Animal Research in UK)」は非常に画期的なものであり、署名している機関は現在120を超え、署名機関は以下の4項目の遵守が求められています。

この協定を結んでいる機関は積極的に情報を発信しており、大学などでは使用した動物種や動物数を公開し、大手の製薬企業では従業員全員(動物実験を実施するしない関わらず)に対してなぜ動物実験が必要なのかなど説明責任を果たしているとのことです。

こちらの取り組みに比べて、日本は以下のようにだけ記載されています。

日本では、動物実験関係者連絡協議会が中心となって、動物研究に関するよくある質問を掲載したウェブサイトを開設したり、動物をモデルとした研究の必要性を説明したパンフレットを発行しています。動物実験関係者連絡協議会を支援している団体には、日本生理学会、神経生理学会などがあります。日本実験動物学会でも一般向けのパンフレットを作成しています。また、日本の大手公共放送であるNHKの番組では、医学の進歩を紹介する番組があり、その中で実験動物が科学の発展に果たす役割を紹介することが多いです。

また、終盤のセクションで非常に興味深いフレーズがあります。

科学界は、研究動物に依存している研究の価値を平易な言葉で公に共有するのが遅れている。さらに、その研究がどのようにして達成されているのか、また実験動物を使って仕事をしている人たちの思いやりの文化を説明することにも抵抗感を持っている。このような抵抗感は、これまで述べてきたオープン性と透明性を 促進する取り組みに支えられて、変化しつつあります。しかし、米国や他の国では、現在の変化の速度は遅すぎます。

そうなんです、科学の進歩に対してそれらを一般の方々に説明できる人間が少なすぎると個人的には思うのです。もっと自分たちの行っていることに対して誇りをもって積極的に分かりやすく開示していけば良いのですが、それがイギリス以外の国々ではなかなか出来ていないのが現状です。現在はこのような現状を受けて科学コミュニケーターの育成が国内でも進みつつあります。このあたりの話はまたどこかで出来ればいいと思っています。

長々と書いてきましたが、最後に文末の部分を引用して終えたいと思います。

国民の信頼を得て、動物を必要とする生物医学科学への支持が明らかに低下しているのを逆転させるためには、 築き上げなければならないことがたくさんある。実験動物は、医学の進歩に不可欠な資源であることに変わりはない。研究機関は、透明性を求める動きを受け入れ、研究室を開放し、将来の有権者と誠実に関わっていかなければならない。そうでなければ、不必要に制限的な法律が後を絶たず、医学の進歩を妨げることになる。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

情報発信のあり方を考える

 科学研究の継続や進展のためには一般市民の支持が必要不可欠です。毎年、Gallup社のアメリカ人の”実験動物を使った医学研究”に対する世論調査に注目しておりますが、2001年〜2019年にかけて徐々に低下してきました (容認率、65% ➝ 50%)。昨年はコロナの影響もあり56%と上昇しましたが、2021年に再び50%に低下しました。日本がお手本としてきた米国の動物福祉政策を以ってしても、容認率の低下は避けられないようです。今回は、関連する話題として、一昨年のJALAS総会にて、塩谷恭子先生が企画された英国Understanding Animal Research (UAR)の活動の一部を紹介させて頂きます。

 UARは、代表のWendy Jarrett氏と8名の職員で運営されるNPO団体で、動物実験に関する情報の透明性を高め、英国民から理解・支持を得ることを目的としている。現在、英国の124の主要な研究機関 (公的研究機関、大学、学会、製薬会社、飼育関連機器会社等)がUARに加盟し、加盟施設は下記の4つの協定を結び、UARは加盟施設への指導・助言を行う。

  1. 実験に動物を使用する場合、いつ、どのように、なぜを明確にする。

  2. メディアや一般市民に対し動物実験についてより積極的に情報を公開する。

   (HPに情報を掲載し、問い合わせや質問には確実に回答すること等)

  3. 自ら進んで動物実験について国民が知る機会を増やす 

  (出前授業や施設内のバーチャルツアー動画を公開する等)。

  4. 年に一度、UARに活動内容を報告し、加盟施設間で情報(成功/失敗体験)を共有する。

 加盟施設のうち、マスコミ向けに動物実験の情報を積極的に提供している施設は61箇所、外部の訪問客を受け入れた施設は57箇所、学校に演者を派遣あるいは施設に学生を受け入れた施設は56箇所、マスコミの撮影を受け入れた施設は13箇所である(2019年)。情報公開において先駆的な試みを行った施設には、12月に開催される情報公開表彰式において表彰される。

 UARは他にも様々な活動を行っている。Webサイトには様々な情報や統計データ、国内外の実験動物を用いた研究に関するニュースが提供されている。様々な動物実験のプロトコールについて、目的や利点だけでなく苦痛についても紹介され、また、学生、ジャーナリスト、一般人向けに動物実験の情報を提供するウェブサイトanimalresearch. infoや、複数の動物施設のバーチャルツアーが体験できるlabanimaltour.orgも作成している。twitter等ソーシャルメディアも積極的に用い、多方面に情報提供を行っている(COVID-19のワクチンの開発過程における動物実験を行う意義について説明した図は、英国の多くのメディアでシェアされた)。

 特に印象的な試みは、11〜18歳を対象に、UARがアンバサダーを学校に派遣し、ワークショップにて学生と”対話”することである若年層ほど動物実験に抵抗を持っているので、将来を担う若者に正しい情報を隠すこと無く提供し、自発的に理解を深めてもらうことが目的である。人は一方的に事実を投げかけられても正しい判断を下すことができないため、学生との共通点や見解の一致点を探すことができる”対話”形式を用いている。年間1万人のペースで、すでに10万人以上の学生と対話を行ってきた。アンバサダーは動物実験の専門家(研究者、医療関係者、獣医師等)や動物飼育スタッフからなる167名のボランティアである。彼らは、効果的な対話法やプレゼン法の研修を受けた後に学校に派遣される。UARのHPには、学校向けコンテンツの一部が公開されている。学生アンケートの結果、アンバサダーのうち管理獣医師の話が最も信用できるとのことである。また、学生や先生方に動物実験施設見学の機会も設けている。

 これらの試みによって、動物実験に関して英国民が入手できる情報は飛躍的に増え、事実を公表しても悪い影響や反発は起きていないこと、施設のHPで情報が豊富に入手できるため情報公開請求件数も減少し、動物実験に関するマスコミのネガティブな報道が大幅に減少したようだ。

 本稿ではUARの試みの一部を紹介しましたが、動物実験の社会的理解を得るための情報発信のあり方について、議論のきっかけになっていただければ幸いです。

コラム

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