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コラムの記事一覧

新型コロナウイルス感染症研究における3Rs(in WC11)

The 11th World Congress on Alternatives and Animal Use in the Life Sciences(第11回 国際代替法学会;WC11)は2020年8月にオランダのマーストリヒトで開催する予定だったのですが、コロナの影響で2021年8月に順延されました。

2020年のWC11の開催は無くなりましたが、代わりにタイトルのウェビナー(https://wc11maastricht.org/webinar/)が無料で開催されることになりました。非常に興味深い内容ですし、YouTubeにアーカイブされており日本語(自動翻訳)の字幕を出すことも可能ですので、興味のある方は是非ご覧ください。個人的には2日目のジョンズホプキンス大学CATT(動物実験代替法センター)の方の講演が新型コロナ研究をゴールドラッシュのように例えていて面白かったです。

しかし代替法はあくまで他の試験を代替するものであり、今回の新型コロナウイルスなど試験自体が確立していないもの(動物実験もゴールドスタンダードと言われるものが確立していないもの)に対しては難しいということが明らかになってしまいました。もちろんiPS細胞などin vitroの試験を用いて研究していくことは必要ですが、スピード感が求められている中では動物実験と同時並行で進めていかざるを得ないのが現状です。この中でも私たちのような管理者が出来ることは、非常にシビアな感染実験などに対し、人道的エンドポイントを積極的に適用するなどのRefinementの実践だと考えています。

コラム

【Webinar】マウスの環境エンリッチメントと老齢モデルコロニーの維持(EPトレーディング株式会社提供)

実験動物の特殊飼料やエンリッチメント、水分・栄養補給用ジェルなどを取り扱っているEPトレーディング株式会社(https://www.eptrading.co.jp/index.html)に、JALAMのために日本語字幕付きWebinar動画をご提供いただきました。

AALAS(米国実験動物学会)2020で行った、ジャクソンラボラトリー Dr.Schile による「環境エンリッチメントと繁殖」、「老齢モデルコロニー の維持」の解説ビデオ(51分)

https://www.eptrading.co.jp/service/ssp/video.html

コラム

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

Compassion Fatigueに対処する上で、最も重要なのは自分が今どのような状態にあるかを認識することです。その認識を手助けする分類方法として、Professional Quality of Life (ProQOL)というものがあります。

ProQOLは、相手と自らの職務との関連で感じるQOLの事と定義されており、ネガティブ・ポジティブの両側面を含むものとして概念化されています。つまり、相手がいる仕事において、ポジティブな方向に振れればそれはCompassion Satisfaction(共感満足:CS)であるし、ネガティブな方向に振れればそれはCompassion Fatigue(共感疲労、思いやり疲労:CF)であるとしています。さらにCFを2つに分類することができ、一般的にその仕事を続けられないと思えばそれはバーンアウト(燃え尽き症候群)であるし、その仕事を続けたいと思えば二次的外傷性ストレスだとされています。このようなProQOLを模式図化したものが以下の図です。

ProQOLは現在第5版が発行されていますが、日本語訳されたものは第4版が最新のものになっています(https://proqol.org/uploads/ProQOLJapanese.pdf)。第4版では30項目の問いから構成されており、その問いに対して0~5の6段階(0=まったくない、1=めったにない、2=たまにある、3=ときどきある、4=よくある、5=とてもよくある)でどの頻度で当てはまるかを数値化していき、その合計点で判断するといったものです。では具体的に項目を見ていきましょう。なお、項目は私の方で実験動物従事者用(特に飼育管理の方向け)にアレンジがしてありますので、公式なものではないことを申し添えておきます。

続いて自己採点方法です。

CSの平均点は37点です。上位約25%の人が42点以上、また下位25%は33点以下の得点です。42点以上であれば現在の仕事によってかなりの職業的満足感が得られていると考えられますが、33点以下であれば現在の仕事に問題を抱えているか、もしくは仕事以外の活動から満足感を得ているなど、他に理由がある場合も有ります。

バーンアウトの平均点は22点です。上位25%の人が27点以上、また下位25%は18点以下の得点です。18点以下であれば自身の業務遂行能力に関して肯定的な気持ちを持っていることを反映していますが、27点以上であれば効果的に自分の役割を果たせないのは仕事のどういった部分であるかについて省みたくなるかもしれません。

二次的外傷性ストレスの平均値は13点です。上位25%の人が17点以上、また下位25%は8点以下の得点です。17点以上の場合、仕事のどういう部分が恐怖感を与えているのかについてじっくり考える時間を持つことも良いかもしれません。高得点が必ずしも問題があることを意味するわけではありませんが、今の仕事や職場環境についてどう感じているのかを考察してみる方が良いのではないかという事を示唆しています。

今回の平均値などの得点はあくまでProQOLの基準であり、動物実験従事者に対してチューニングされたものではありません。ちなみに私はどの項目も平均点付近でしたので、どれにも合致しないといったごく普通の感じでしょうか。こちらは日本人と外国人である場合も結果が異なるでしょうし、飼育管理業務が主体的なのか、実験作業が主体的なのかによっても異なるかもしれません。いずれにせよ、このProQOLの概念が広がり、多くの方が実施することで信頼性が高まっていくと考えられますので、是非みなさんも実践して頂ければと思います。

コラム

文献紹介:犬、猫におけるミノキシジル外用薬の暴露状況とその毒性:211症例(2001-2019)

Topical Minoxidil Exposures and Toxicoses in Dogs and Cats: 211 Cases (2001-2019)

Kathy C. Tater, MPH, DVM, DACVD, Sharon Gwaltney-Brant, DVM, PhD, DABVT, DABT, Tina Wismer, MS, DVM, DABVT, DABT 

 Am Anim Hosp Assoc. 2021 Sep 1;57(5):225-231.  doi: 10.5326/JAAHA-MS-7154.

ミノキシジルは、CM等で宣伝されている育毛剤の主要成分です。この研究は、データベースに登録されている過去の症例報告に基づき、疾患の要因と発症の関連を調べた後ろ向き研究(retrospective study)であるため、エビデンスレベルは高くありません。本当の意味で犬・猫におけるミノキシジルの毒性を調べるためには、実験的に犬猫にミノキシジルを摂取させる(動物実験)、あるいは育毛剤を使用している飼い主と、使用していない飼い主に飼育されている犬猫の中毒症状の発症率を調べる、前向き研究(prospective study)が必要です。しかしながら、ミノキシジルの毒性については、種差(人間には安全な濃度でも、犬猫には危険)があり、犬猫は少量摂取するだけで臨床症状を呈する可能性があるので、育毛剤の保管や廃棄には十分注意が必要でしょう。また、ミノキシジルは重度の中毒を起こす危険性があるため、犬や猫の脱毛症の治療には使用しない方が良さそうです。

(要旨)

 この論文では、犬と猫におけるミノキシジルへの曝露と中毒の疫学を明らかにするために、米国の動物虐待防止協会の動物毒物管理センターにおけるデータベースに登録されているミノキシジル外用薬に暴露した犬と猫211症例を調べました。臨床的に中毒症状を呈した87例(猫62例、犬25例)については、病歴を詳細に検討しています。猫の場合、最も一般的な暴露状況としては、飼い主が自分の脱毛のためにミノキシジルを塗布している間の、意図しない摂取(例:ペットが飼い主の皮膚や枕カバーを舐めた、薬をこぼしたときにペットが飛び散った)が、最も一般的な暴露状況でした。犬では、探索行動(例:ゴミ箱の中を探す)による暴露状況が最も多く認められました。臨床症状を呈した症例では、ほとんどが中等度または重度の疾患を発症し犬56.0%、猫59.7%)、猫の場合、飼い主がミノキシジルを使用した後に臨床症状を呈した62例中8例(12.9%)が死亡しています。因果関係については、検討の余地はありますが、ペットの飼い主は、ミノキシジルの偶発的な暴露による犬や猫の中毒のリスクについて知っておく必要があります。

コラム

安楽死にまつわる諸問題

安楽死にまつわる諸問題 part1

欧米と異なる日本独自の宗教観と言う観点から、日本人に特有の安楽死に抱いている感情や作法を振り返る

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueについて解説する

コラム

動物実験におけるPAM(Post Approval Monitoring)

動物実験は申請後に動物実験委員会等で承認され、実験を実施し、終了報告によって終了するといった一連の流れがあります。終了報告では申請時から逸脱した操作は無かったとか、申請時の使用予定匹数を超過するものではなかったなどの報告をしますが、それらが実際に報告通り行われていたかを知るすべが少ないのが現状です。そこで考えられたのがPAM(承認後モニタリング)という、実験が走っている最中に本当に申請通り行われているかを確かめるための仕組みです。

PAMは通常、動物実験委員会のメンバーや管理獣医師が行いますが、様々なタイプのものがあります。動物実験施設にふらっと入って、その場に居合わせた研究者に軽く質問をしながら何か困ったこと無い?と聞いてやりとりをするのもありますし、実験や手術などに立ち会って最初から最後まで手技についてチェックするのもあります。私は経験がありませんが、事前通告なしの抜き打ちによるPAMも存在するとのことです。

PAMを実施する際には苦痛度の高い試験や、中大動物の大規模手術、PAMを受けた経験のない人を優先して実施するところが多いようです。もちろん動物実験を実施する際には教育訓練を受講してもらいますが、何事もよくある話で、ある一定の割合で内容を理解していない人が必ず出てきます。そう言った意味でもPAMは現場でのセーフティネットの役割を果たしていると考えています。またPAMとセットで多いのが匿名の通報制度です。動物実験をする際に動物虐待があってはなりませんが、疑わしい場合があった際には匿名で通報できるようなシステムを採っています。これらの通報を受けて緊急のPAMを実施することもあります。研究の進捗はもちろん重要ですが、動物の命を扱っている以上、科学的根拠もなしに3Rsや5Freedomsを侵害してはならないからです。

PAMを実施する際には研究員からの反発も予想されますが、こと製薬企業においては品質保証、QA(Quality Assurance)の考えが根付いており、他者からチェックを受けることが日常茶飯事ですので案外スムースに実施できるといった印象です。個人で動くことの多いアカデミアなどではこう上手くはいかないかもしれません。

コラム

ミノキシジルの中毒リスクはどれくらいなのか?

文献紹介:犬、猫におけるミノキシジル外用薬の暴露状況とその毒性:211症例(2001-2019)の中で、ミノキシジルの偶発的な暴露による犬や猫の中毒のリスクについて紹介されました。

医薬品の開発においては非臨床試験(動物実験)により、その薬の安全性や毒性が確認されていると考えられますが、動物に対する影響はどのようなものだったのでしょうか。

先のコラムでは後ろ向き研究であることが注意喚起されていますが、調べてみると、微量の暴露が重篤な中毒の危険性を引き起こすということは過剰な結論であるようにも考えられました。

私自身、ミノキシジルは育毛剤としての認識が先行してしまっていましたが、そもそも経口降圧剤として開発されたものであり、本邦では経口薬の承認はされていませんが、現在はファイザー社によってLoniten®として販売されています。その使用において、多毛の副作用が認められたことから、外用発毛剤として開発されたものであるということでした。
したがって、ミノキシジル外用薬を経口摂取した場合の中毒症状というのは、そもそもミノキシジルがもつ主作用である可能性が考えられます。

一方で、医療用医薬品として開発された後に一般用医薬品となっています。その安全性については経口薬の開発段階では十分に調べられていたかもしれませんが、適応を変更した際には改めて詳しくは調べられていないかもしれません。既に必要な安全性が確認されているものであれば再試験をしないということは開発戦略としては妥当と考えられますし、不要な試験をしないということは3Rsの観点からも適切と考えられるところです。

しかし、Loniten®の添付文書ではBoxed Warningが掲載されています。これはFDA(米国食品医薬品局)の指示により記載される警告文で、重篤な副作用を起こす危険性を最も強く警告するものです。 外用薬としての開発にはこの非常に強い主作用と副作用とを逆転させ開発された経緯が伺えます。先の文献のような報告があると、動物を用いた試験をしていないことは、後々こうして人と動物の社会にとってリスクにもなるということも言えるかもしれません。

国内承認されている外用ミノキシジルの申請情報によると、用量変更による申請の内容からですが、非臨床安全性試験に関しては、モルモット皮膚感作性試験、ウサギ皮膚一次刺激性試験、累積刺激性試験、眼刺激性試験、ラット経皮反復毒性試験、サル経皮反復毒性試験が実施されており、イヌを用いた安全性試験は実施されていませんでした。外用薬としての申請ですので、経口投与毒性に関しては試験されていなくてもおかしくありません。妥当なものと考えられますし、心臓に対する作用が最も重要であることも認識されていました。
薬物動態に関する試験としてはイヌの持続静注試験が行われ、0.14mg/kgの用量で静脈内に投与されていましたが、病理組織学的な変化はないということでした。

経口ミノキシジルではどうでしょうか。ラット、イヌ、ミニブタ、サルでの経口投与試験と、ウサギの経皮局所投与試験が行われていました。こちらのイヌへの経口投与量は0.5~20mg/kgでした。この用量では、数日以内の乳頭筋/心内膜下壊死、出血性病変(右心房)、限局性心外膜炎が起こりますが、他のβアドレナリン受容体作動薬、末梢拡張薬でも同様に起こる病変と考えられていました。また長期の投与によって、慢性増殖性心外膜炎、漿液血性心膜液、心肥大および心拡大が起こりますが、慢性的な影響と考えられています。

臨床用量は大人の体重を60kgとすると0.17~1.67mg/kgの投与量なので、動物に投与されていた用量はこの用量と比べると高くなっています。経口治療とされていますので効力試験として実施されたものだと推察されますが、上記のようなリスクは臨床試験へ進める上では効力に比べて大きな問題にならなかったのではないかと考えられます。

ミノキシジル外用薬は患者さんの切実な要望もあり、より濃度の高い製剤が開発されてきたという経緯があります。現在では1%から5%の製剤として多くの国で承認されています。この濃度では、1ml中に10mgから50mgを含むことになりますので、錠剤と比べると高濃度になります。ですが、1滴を0.05mLとすると0.5~2.5mg/滴なので、体重5kgのイヌ・ネコが1~2滴を舐めたとしても体重当たりでみればそれほど高濃度でもありません。先の文献では、ミノキシジル暴露で臨床症状が現れた最低投与量は0.79mg/kgであったとされています。臨床使用では大人も子供も慎重使用が喚起されています。同様の初回投与のリスクは動物に対してもあると考えられますが、元来の主作用を考えれば、中毒とは言え想定内の作用であったとも考えられます。

経皮投与の情報からは、皮膚からの吸収は種差が大きく、ヒトでは吸収され難いものであることが推察されます。吸収され難いということは、継続した使用で髪の毛や寝具に濃縮されて残る可能性は高くなるかもしれません。患者さんの想いからちょっと多めに使用してしまうこともあるかも分かりません。
また、ミノキシジルは経口投与でおよそ90%が吸収されると書かれています。経口摂取した場合は血中濃度が上がりやすいことがリスクになることは推察されますが、文献ではミノキシジル外用薬に晒された後でも動物の57~63%が臨床症状を発現しなかったとされています。実際にどれだけの量に継続暴露されて中毒が引き起こされたのかといったところは、危険性を正しく理解するためにも議論の余地がありそうです。

ネコでは非臨床試験のデータはありませんが、調べられた多種の動物で同様の傾向がありますし、薬物代謝の関係からもイヌに比べても危険性は高くなると考えられます。
また、中毒の臨床症状にはプロピレングリコールなどの溶媒やその他の添加剤も関連している可能性もあります。化学物質のリスク評価については保健や環境面で広く調査されているところですが、人の健康や生態系に加えて、伴侶動物の健康も考慮されるとよいのかもしれません。

もちろん適応外使用は獣医師としての責任や力量が問われるところですので、問題のある使用となってはいけません。正確に、詳しく、くすりのことを理解し、使用により起こる現象に適切に対処する必要があります。開発の経緯を知っていれば著者らの研究背景の認識も違ったものとなっていたかもしれません。

イヌやネコへの影響について、3RSに基づいた必要な前向き研究も実施され、適正で、誤解のない成果が得られ、人と動物が安心して共生できる社会へと繋がる情報がアウトリーチされてゆくとよいと思います。

コラム

ARRIVEガイドライン2.0が公開されました

7月14日にNC3Rs(英国3Rセンター)にてARRIVEガイドライン2.0が公開(https://arriveguidelines.org/)されました。2010年に初めて公開されたARRIVEガイドラインは、動物実験計画において最低限記載すべき項目をまとめたものであり、Natureをはじめ多くの学術雑誌に支持されているガイドラインです。

そもそもこのガイドラインが作成された背景には、動物実験の再現性があまりにも低い(一説には70%以上の実験が再現できない)と言われてきたことがあります。その一因として実験方法の詳細が述べられていないとの指摘がありました。

英国の機関が、動物実験の記載がある271報(1999-2005)の論文を精査したところ、研究の仮説・目的を記載し、かつ動物の数と特徴が記載されていたのは271報のうち、わずか59%であったことを報告(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0007824)しています。

これらの事を受けてNC3Rsは記載すべき20の項目を定めて2010年にARRIVEガイドラインとして発表しました。多くの研究機関や出版社から支持されてきたものの、記載項目が多いことからも問題の根本的な解決には至りませんでした。そこで改訂版であるARRIVEガイドライン2.0が新たに公開されました。

ARRIVEガイドライン2.0の主な変更点は以下のとおりです。

記載すべき最低限の項目を10項目に絞った「ARRIVE Essential 10」とそれらを補完する「Recommended Set」に分類した

ARRIVE Essential 10は以下のとおりです。なお正式な日本語訳は日本実験動物学会等、公的機関によるアナウンスをお待ちください。
1. Study design(研究計画)
2. Sample size(サンプルサイズ)
3. Inclusion and exclusion criteria(包含基準と除外基準)
4. Randomisation(ランダム化)
5. Blinding(盲検化)
6. Outcome measures(実験の帰結)
7. Statistical methods(統計学的方法)
8. Experimental animals(実験動物の情報)
9. Experimental procedures(実験処置)
10. Results(結果)

前回のガイドラインが20項目であったことからも項目数を絞って記載しやすくなっていることが分かります。通常の動物実験審査においては3~5の項目を審査することは少ないのですが、今後はこのあたりも審査することが求められてくるかもしれません。

コラム

文献紹介:実験動物の福祉と人間の態度 異種特異的な遊びや「ラットのくすぐり」に関する横断的調査

Laboratory animal welfare and human attitudes: A cross-sectional survey on heterospecific play or “rat tickling”.
LaFollette MR, Cloutier S, Brady C, Gaskill BN, O’Haire ME
PLoS ONE 14(8): e0220580 (2019).
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0220580

【概要】
導入
実験室のラットの福祉は様々なエンリッチメント技術の実装、または実装の欠如を通じて、実験動物の担当者によって影響を受けています。そのような有望な技術の一つが異種特異的な遊び、つまり「ラットのくすぐり」であり、これはラットの“けんかごっこ”を模倣したもので、福祉の向上に貢献することができますが、実施されることは少ないかもしれません。計画行動理論を用いて、行動態度(良いか悪いか)、主観的規範(提供することに対する社会的・職業的要望があるかどうか)、コントロール信念(提供することに対してコントロールされていると感じているかどうか)など、ラットのくすぐりに対する意図や信念を測定することで、実施の検討を行うことができます。そこで、本研究の目的は、米国とカナダの実験動物従事者の間で、現在のラットのくすぐりの実施率と予測因子を特定することでした。我々の仮説では、ラットのくすぐりの実施率は低く、その実践、エンリッチメント、実験動物全般に関する信念と関連しているとしました。
方法
実験動物関係者は、広範なオンラインプロモーションから募集した。合計794名(平均=40±11歳、白人80%、女性80%)が混合法オンライン調査の少なくとも50%を完了し、現在米国またはカナダで実験用ラットを使って仕事をしているという包含基準を満たした。調査には、人口統計学、豊かになるための実践と信念、ラットに対する態度、一般的な肯定的な行動(実験動物との会話など)、ラットのくすぐりに関する実践と信念に関する質問が含まれていました。質的データは、テーマ別分析を用いてコード化した。量的データは一般的な線形モデルを用いて分析した。
結果
実験室の職員はラットのくすぐりの実施レベルが低く、89%の参加者がラットのくすぐりを実施したことがない、またはめったに実施しないと報告しています。研究室関係者は、定性的分析を用いて、ラットのくすぐりに対する2つの重要な利点(ハンドリング:61%、福祉:55%)と3つの重要な障壁(時間:59%、人員:22%、研究:22%)を報告しています。現在のラットのくすぐり行為と計画的なくすぐり行為は、よりポジティブな信念(社会的/専門家の要望 p<0.0001、くすぐり行為を提供することのコントロール p<0.0001)とくすぐり行為への親しみやすさ(p<0.0001)と正の関連がありました。また、現在のラットのくすぐりは、動物に名前をつけるなど、実験動物に対するより積極的な一般行動と正の相関がありました(p<0.0001)。今後のラットのくすぐりは、くすぐりに対する肯定的な態度(p<0.0001)と、より豊かにしたいという願望(p<0.01)と正の関連があった。
結論
その結果、ラットのくすぐりは、現在のところ実施率が低いにもかかわらず、職員の信念、親しみやすさ、一般的な態度、そしてもっと充実したものにしたいという欲求と正の関係があることが示されました。つまり、実験動物の担当者は、ラットのくすぐりを提供することに慣れていて、提供することは良いことであり、自分の管理下にあると考えていて、社会的・職業的な要望を受けていると感じている場合には、ラットのくすぐりを提供する可能性が高く、また、より豊かにしたいと考えている場合や、実験動物に対してより積極的な行動をとっている場合には、実験動物の担当者はラットのくすぐりを提供する可能性が高いことがわかりました。トレーニングを行うことで、スタッフの手順への親しみやすさを高め、必要な時間を短縮し、スタッフの信念を変えることで、ラットのくすぐりを増やすことができる可能性があり、それによってラットの福祉を向上させることができます。

動物実験で実際の実験操作をする前には、動物を十分ハンドリングしておく必要があります。これは人に触られるのを慣れさせておくことで、その後の実験操作をスムースに行えるとのメリットがあります。しかし今回の調査の目的はそうではなく、ラットをくすぐるスタッフはどういった環境で働いているかを調査したものです。

この文献でいうラットのくすぐりですが、こんな感じで実施しているところだそうです。

上記文献から引用

結論だけ見てみると当たり前かもしれませんが、時間的余裕が無いとこれらの行動をとることは出来ないという事が明らかになりました。実験動物従事者は動物の状態がより良いものにすることで様々な研究に貢献しています。日々の飼育管理だけではなく、これらプラスアルファの活動こそが彼らの糧になるものであり、やりがいを自覚するものでもあります。管理側には適切な人数配置が求められますが、最低限賄えるといったギリギリの環境にするのではなく、こういった時間的余裕を生み出せる職場環境づくりが今後は必要なようです。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

特集:マウスの最適な飼育室温度(1) NAFLD

実験動物の教科書には、実験用マウスの標準的な飼育室温は20~26℃と記載されています。一方、体温維持にエネルギーを使用しないマウスのサーモニュートラルゾーンは、30℃前後と言われています。室温がマウスの表現型に及ぼす影響を示した文献を紹介し、実験用マウスは何℃で飼育するのが最適なのかを、多面的に考えていきます。

文献紹介:非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のモデルとしてのマウス -サーモニュートラル飼育により、性差のない悪化した病態を再現できる

Giles, D., Moreno-Fernandez, M., Stankiewicz, T. et al. Thermoneutral housing exacerbates nonalcoholic fatty liver disease in mice and allows for sex-independent disease modeling. 

Nat Med 23, 829–838 (2017). https://doi.org/10.1038/nm.4346

(概要)

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肝硬変や肝細胞癌の前兆として知られている、世界的に最も一般的で重要なヒトの慢性肝疾患です。ヒトのNAFLDの病態を再現できるモデル動物を用いることで治療法の開発が可能になります。ところが、広く実験動物として利用されているマウスを用いた場合、高脂肪食給餌などの方法でNAFLDの症状が現れるものの、症状に性差が見られ、肝線維化の進行が制限されるなど、ヒトのNAFLDとは異なる病態を示すそうです。

 実験用マウスの標準的な飼育室温(TS)は20~26℃です(ILAR Guide)。一方、マウスが基礎代謝によって体温を維持できる室温、すなわちサーモニュートラルゾーン(TN)は30~32℃です。マウスをTN条件で飼育すると、寒冷ストレスが緩和され、カテコールアミンやコルチコステロイドの産生量が低下します。また、LPS投与による発熱反応が増強されます。すなわち「代謝」と「炎症」の両方に影響を及ぼします。そこで、著者らはTN飼育によって、より「ヒトに近い」NAFLDのマウスモデルを開発できるのではないかと考え、研究を行いました。

 実験の結果、TN飼育したマウスはTSと比較して、高脂肪食給餌による肝重量の増加、および肝脂肪症が悪化しており、肝臓のケモカイン発現、マクロファージの肝臓への浸潤、細菌の肝臓への移動が顕著に悪化したとのことです。また、ヒトNAFLD患者に類似した腸内細菌叢の変化、特にグラム陰性菌の拡大が見られました。さらにTlr4fl/flマウスとVav1-Creマウスを用いることにより、TN飼育と高脂肪食給餌によるNAFLDの病態進行に、造血系細胞のTLR4シグナルが関与していることが明らかになりました。TN飼育の肥満IL-17軸欠損マウス(Il17ra-/-およびIl17a-/-)は、TN飼育の野生型対照マウスと比較して、耐糖能異常、肝重量および肝細胞障害の悪化から免れました。一方、TN飼育と高脂肪食給餌により、C57BL/6では肝線維化は見られませんでしたが、AKRマウスでは肝線維化が誘導されたそうです。また、雄マウスのみならず雌マウスにもNAFLD様病態の徴候が見られました。以上のことから、TN飼育+高脂肪食給餌によるNAFLDの発症マウスは、免疫反応、代謝応答、腸内細菌叢の変化を伴う、より「ヒトに近い」新しい疾患モデルであることが明らかになりました。

【コメント】

 論文中のコメントにもありましたが、ヒトの場合、先進国では住居内の温度調節機能を利用して、一日の大半を中温域で過ごす傾向にあり、さらに着衣等も考慮に入れるとサーモニュートラルに近い環境で過ごしていると考えられます。遺伝子型だけでなく、飼育温度などの環境的要因を工夫することで表現型の変動をもたらし、ヒト疾患モデルを作出することができた点は、医学生物学の観点のみならず、実験動物学の観点からも興味深いと感じました。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

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