A Survey of Laboratory Animal Veterinarians Regarding Mouse Welfare in Biomedical Research.
Marx, James O ; Jacobsen, Kenneth O ; Petervary, Nicolette A ; Casebolt, Donald B
JAALAS, Volume 60, Number 2, March 2021, pp. 139-145(7)
doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-20-000063
【概要】
研究用動物の福祉の質は、その動物から生み出される科学的成果の質に否応なく結びついている。マウスは生物医学研究において最もよく用いられる哺乳動物種であるが、将来の進歩を促すためにどのような要素を考慮すべきかについては、ほとんど情報がない。この問題を解決するために、米国実験動物獣医師会(ASLAP)の動物福祉委員会は、実験動物獣医師を対象に、マウスの福祉に関する意見を聞き、生物医学研究における動物福祉に大きく影響する5つの要因(飼育、臨床ケア、実験使用、規制監督、訓練)の役割を検討するための調査を行った。調査の結果、95%の獣医師がマウスの福祉について「許容できる」から「素晴らしい」と評価しましたが、改善すべき点も残されていた。これらの分野には以下が含まれる。
1)実験を行う研究者のトレーニング
2)実験操作によって痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングの頻度
3)痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングに機関の獣医師スタッフを含めること
4)マウスに提供される環境エンリッチメントの継続的な改善
5)研究室内および機関内の他の研究グループでの再発を防止するために、IACUC(動物実験委員会)がコンプライアンス違反の事例に完全に対処する能力があること
6)病気や怪我をしたマウスの検査、病気の診断、治療の処方を獣医師以外の人に頼っていること
アメリカの動物実験規制は自主管理を柱とする体制であり、日本の動物実験に関する法制度の基本的な枠組みもこの自主管理制度を参考にしているとされています。しかし、これらの法的根拠となる動物福祉法(Animal Welfare Act; AWA)の対象動物には動物実験で多く用いられるマウスやラットなどが含まれておらず、どのように動物福祉が担保されているか外からは分かりづらい問題がありました。そこでASLAPはマウスの福祉が実際にはどうなっているか、会員にアンケートを実施したのがこの論文の趣旨です。
今回の調査では、95%の獣医師がマウスの福祉全般を「許容できる」から「優れている」と評価した一方で、半数の獣医師が、ケアの水準向上を正当化する科学的データがないことが、研究用マウスの福祉向上の主な制約になっていると考えているとのことです。特に、環境エンリッチメントの評価にばらつきがあるのは、環境エンリッチメントの基準を裏付ける実験データがないことが原因と考えられています。
また、実験手順によって痛みや苦痛を感じる可能性のある動物の観察頻度にも懸念があることが報告されました。動物福祉に満足していると回答した獣医師の多くは、観察頻度を1日あたり3回以上に設定しているのに対し、動物福祉が不十分であると回答した獣医師の多くは、観察頻度が1日1回以下であると回答しています(下表)。満足度は必ずしもケアの回数に比例するわけではありませんが、獣医師の満足度が高い施設では相対的に観察頻度が高くなっているようです。このように、動物に対して単にケアするだけではなく、どれだけ手厚くケアができるかということも動物福祉の重要な要素になっています。
日本国内では比較的小規模施設の多くが、マウスやラットのみを飼育している施設であり、実験動物獣医師などの専門家を配置することが出来ずにいます。これらの施設にどうやって動物福祉の考え方を浸透させることができるか、関係者は知恵を絞って考える必要がありそうです。