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ミネラル調節ホルモン「スタニオカルシン-1」:変わらずに変わった変わり者?

コラム

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ii) STC1の細胞代謝変容作用と抗線維化作用

その後、筆者らの研究グループは、ヒト特発性肺線維症のマウスモデルであるブレオマイシン肺障害において、組換え体のSTC1を経気道投与することにより、肺の炎症ならびに線維化が有意に抑制されること(抗線維化作用)を報告しました [8](図5)。本研究を糸口とし、筆者らはSTC1について複数の新たな知見を得ました(少々複雑です)。STC1はUCP2(Uncoupling Protein 2)とよばれる分子を介して、ミトコンドリアの代謝を大きく変容させます。よく知られているミトコンドリアの働きは、解糖系を介して、グルコースと酸素から、二酸化炭素、水、ATPを合成すること(NADH2+やFADH2の形で水素イオンを取り出し、水素イオンの濃度勾配を利用してATP合成酵素を駆動し、大量のATPを合成する)ですが、これらの反応が行われる過程で、様々な物質の代謝が行われます(例 TCA回路)。ミトコンドリアで代謝される物質の中には、遺伝子のメチル化、脱メチル化や、タンパクのアセチル化の反応に関わるものがあります。これらの反応は、DNAからmRNA、タンパク合成といった「翻訳機構」に化学的修飾により影響を与えることから、「翻訳後修飾(エピジェネティクス)」と呼ばれます。つまりSTC1は、ミトコンドリア代謝を変容させることにより、翻訳後修飾に関わっています。特に筆者らは、STC1による抗線維化作用の一端が、抗線維化因子SMAD7遺伝子のプロモーター領域の脱メチル化による転写促進、同時に、SMAD7タンパクのアセチル化による安定化であることを明らかにしました(図6)[9]。また、STC1はUCP2の働きを通して、ミトコンドリアの過酸化ストレスを緩和する働きも持っており、このことが、障害を受けた肺胞上皮細胞のアポトーシスを抑制していると考えています [10]。


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JALAM学術集会委員会

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