私観・日本実験動物医学会史(第3回)
認定制度の反対意見と必要理由
当時、会員以外の獣医師からはもとより会員間においても根強い意見は、「なぜ、獣医師の中に 認定獣医師を作らなければならないのか?獣医師の資格があればよいのではないか?」というも のであった。ここにある獣医科大学の先生から 1998 年 2 月にいただいた手紙があるが、15 年経っているので時効が成立していると解釈し、その要旨を紹介する。
『この学会(実験動物医学会)は獣医師による構成と云うことで設立された筈です。この獣医師は国家資格者としての獣医師である。この獣医師は大学で実験動物学の単位を取得している。 国家資格を持つ獣医師に対して「認定獣医師」なる語を使うのは全くおかしい。実験動物に関わる獣医師を特別視(上位視)するが如き印象を与えるのは良くない。獣医師は飼育動物と人の公衆衛生に対応する資格を始めから持っている。動物実験の対象の実験動物も広義では飼育動物と看做して差し支えない。獣医師一人ひとりの前には常に厳しい市民の目がある。市民を甘く見てはならない。「認定獣医師」がトラブルを起こしたときにはまず国家資格者としての獣医師が罰をうける。実験動物医学会はどのような罰を与え得るのか。「認定獣医師」とか「専門獣医師」の制度には大反対である。』
この手紙に代表される意見は繰り返し述べられ、実際、私自身、それまでの認定制度設立への活動の足が思わず止められた思いがした。そして拙速な制度の設立は慎み、もっと会員間での意見の交換を行ない、多くの会員に納得してもらうことが必要であるとの思いに至った。
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シンガポールにおける動物研究施設の運用
【NACLAR Guidelines: Training】
本セクションでは、実験従事者、ケアテーカー、獣医、IACUCメンバーなど役割に応じて、必須もしくは推奨されるトレーニングが細かく定められております。細かい部分は機会がありましたらガイドライン自体を見ていただきたいのですが、ここでは特に重要度の高いResponsible Care and Use of Laboratory Animals Course (通称RCULAC) とSALAS Basic IACUC Trainingについて取り上げます。
RCULACはNParks/AVSが認定した施設から提供されるトレーニングで、多くの役割に対して必須という位置づけになっています。動物実験に関する法律・倫理・手技等の基礎を学ぶ研修で、座学パートと実際に動物を使用する手技パートで構成されており、手技パートは動物種ごとにコースが分かれています。座学パートは試験をパスすることで、手技パートは実習を完了することで受講証が発行され、それぞれの役割に従事できるようになります。座学パートはかなり細かい部分までNACLAR Guidelinesを理解する必要があったため、英語というハンデも加わり、試験に合格するか、とても緊張したのを覚えています。
2022年の改訂から座学は5年ごとrefresher courseの受講を、手技は2年以上のブランクがあれば再受講を推奨する、という文言が加わり、認定施設からもrefresherに合わせたトレーニングの提供が開始されました。
SALAS Basic IACUC Trainingは、NParks/AVSが認定したSALASという機関から提供されるトレーニングプログラムです。ガイドラインでは半数以上のIACUC委員が、IACUCに関する正式なトレーニングを受講することを義務付けており、SALAS Basic IACUC Trainingはガイドライン中にも紹介されている、シンガポールで最もメジャーなトレーニングという位置づけです。IACUCの運営に特化した内容で、前半に法規制・研究倫理・動物施設運用を学ぶ座学パートを受講したのち、後半では5-6人のグループに分かれた模擬IACUC委員会を行うという二部構成となっています。模擬IACUC委員会では、AVSの方や有識者が議長となり、事前に用意された研究計画書をもとに議論を実施します。
実際に私が参加した際は、議長から「研究目的と実験方法が合致していると思う?」「3Rsがちゃんと考えられている?」「使用匹数の計算は適切?」といった点について矢継ぎ早に意見を求められた他、「あなたなら実験従事者に対してどのような確認をする?そしてその意図は?」といった形の問いかけもあり、「IACUCとして重要なポイントは何か」を学ぶだけでなく、「自分で考える力」の育成も重視しているのだと感じました(その分、トレーニングはタフでしたが・・・)。また議長より、「科学者だけでなく、一般の人々も理解・納得できるか、という視点を忘れないように」というアドバイスもいただきました。
【NACLAR Guidelines: Occupational Health and Safety】
従事者の安全を守るために、Occupational Health and Safetyについて、改訂前のガイドラインでも触れられておりましたが、2022年の改訂より1つのセクションとして独立しました。本セクションでは、全ての動物研究施設においてoccupational health and safety program (OHSP) の確立・維持を義務付けており、OHSPについての具体的な項目と考慮すべき点が定められています。OHSPの例として、以下が挙げられています。 危険源の特定とリスクアセスメントの実施と、特定したリスクの低減策の実施事故発生時の報告ルートの確立緊急時の対応プランの確立従事者の健康チェックと予防措置の実施施設や設備の設計及びモニタリングを通した安全策の実施
いずれの項目も、動物研究施設に限らず、職場の安全性を確保するために当たり前のことですが、明文化することで抜け漏れなく対応することが容易になりました。またガイドラインは動物施設の関係者だけではなく、安全衛生や研究倫理等に関わる様々な部門と協働することを求めており、より効果的なOHSPの確立を意識した内容となっています。
【さいごに】
以上、簡単にシンガポールの動物研究施設の運用について紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか? 当然日本と共通するところもありますが、少し違った部分もあったかと思います。本コラムが、動物福祉や動物研究施設の運用を考えるうえで、少しでも参考になりましたら幸いです。
<参考>
Animals and Birds Act 1965 (2020 Revised edition), https://sso.agc.gov.sg/Act/ABA1965 (Accessed: 27 October 2023).
Animals and Birds (Care and Use of Animals for Scientific Purposes) Rules (2007 Revised Edition), https://sso.agc.gov.sg/SL/ABA1965-R10 (Accessed: 27 October 2023).
Guidelines on the Care and Use of Animals for Scientific Purposes Second Edition 2022, https://www.nparks.gov.sg/-/media/naclar-guidelines-(second-edition)_v2.ashx (Accessed: 27 October 2023).