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私観・日本実験動物医学会史(第3回)

コラム

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認定獣医師制度案の公表

認定制度検討委員会は何回かの会合の後、いよいよ認定獣医師制度案をニュースレターNo. 9 (1998 年 1 月)に発表した。まず、先の認定制度検討委員会での議論となった「提言」を起草し、 そこには「実験動物医学に携わる獣医師には臨床獣医学的知識と技術、医学生物学的研究の方法 の知識と経験、動物福祉に対する明確な考えを身につけることが必要であり、これらを通して実験動物の福祉を達成することが獣医師の責務である。我々はこれらの能力を身につけるために卒 後研修システムを確立するとともに、実験動物の福祉を求める社会の期待に応える獣医師の水準を保証するために、日本実験動物医学会に認定獣医師制度を制定する」と高らかに宣言した。

制度はまず創立認定獣医師を認定するための暫定制度とその後本格的に運用するための本制度の 2 段階とした。前者は認定資格基準による資格審査のみで認定し、後者は資格審査と試験による認定方法である。また暫定制度は 3 年間に限定し、4 年目からは本制度に移行するとした。また認定獣医師資格の有効期限は 5 年とし、更新審査を行うこととした。その上で、創立認定獣医 師制度(暫定制度)規程案と創立認定獣医師資格評点基準(暫定 JALAM 評点)案を公表した。 資格審査の基本は、獣医師であること、5 年以上継続しての学会会員であること、資格評点基準 によるポイントが 80 点以上であること、である。この資格評点基準案は当時、やはりこのような 資格制度を確立しつつあった日本毒性学会の認定トキシコロジストや日本獣医病理学専門家協会の資格審査案を参考にして作成した。また暫定基準は、基本的にこの分野のベテランの獣医師に照準を当て、たとえば背景資格として実験動物医学分野の10年以上の経験やこの分野での指導的役割を担っていることなどを必要とした。この 3 年の間に少しでも多くのこの分野のベテラン獣医師を取り込むことによりこの制度の早期の確立を目指したものである。

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東北大学名誉教授 笠井憲雪

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私観・日本実験動物医学会史(第1回) 

米国事情:ピッツバーグ大学

 ピッツバーグ大学には 1 週間滞在した。1991 年当時のことであるがピッツバーグ大学は臓器移植症例数では世界のトップであり、年間で肝臓移植約 600 例、心臓移植 200 例、さらに腎臓や小 腸などあらゆる臓器の移植を行っていた。研究でもイヌ、ブタ、ラット等を用い、大規模な動物 実験が行われていた。動物実験施設は Dr Paul Bramson 施設長をはじめ 4 名の獣医師、3 名の獣医技術師、6 名の事務スタッフを含め 60 名を越える職員を抱えていた。当時同大学のトップの肝臓 移植外科医は九大出身の藤堂省博士であり、彼はその後 1997 年に北海道大学に移り、同大学に肝 臓移植を“移植”した。そのとき藤堂博士から 2 匹のビーグル犬を用いた小腸の相互交換移植手術 を見学させていただいた。動物の事前健康チェックと麻酔、更に手術台への固定を獣医技術師が 行い、手術は世界各国から研修に来ている 4 名の医師により 5~6 時間かけて行われた。動物の購 入から手術時まで、さらに術後の回復や飼育管理に至るまで、動物実験施設の専任獣医師により 入念なケアが行われていた。

 さらに、当時すでに米国農務省 (USDA)によりサルやイヌの動物福祉基準 (Animal Welfare Standard)が変わり、いわゆる環境エンリッチメントの項目が加わった。動物の社会性の重視、ケージ外での人(飼育技術者)との運動時間の確保、おもちゃやテレビを与え退屈させないように、 うつ病からの予防を諮ることが義務づけられた。そしてそれらの実施状況はログブックに記録さ れ、後に USDA の視察の際にチェックされるとのことであった。実際、技術職員が飼育室内にイヌを放し運動させ、その記録をログブックに記載しているところを見学させていただいた。そのとき、いつか日本でもこのことを取り入れようと誓った。現在、私の勤務する東北大学では、技術職員の理解と積極的な関わりで、イヌやブタの飼育室内での運動を含めてかなりの福祉的飼育管理を行っているが、組織的に行うという意味では残念ながら現在の日本の状況も当時の米国の状況には追いついていない。

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JALAM会員寄稿

私観・日本実験動物医学会史(第2回)

 活動スタイルはほぼ現在のスタイルを当初から取った。つまり日本獣医学会の春秋の学術大会時に本会主催の教育セミナーや講演会、シンポジウムを開催し、会員の勉強の場とした。さらに 獣医学会に実験動物分科会と認められてからはオリジナル研究の発表の場を提供した。

 また 1995 年(平成 7 年)11 月に開催された第 120 回日本獣医学会学術大会(鳥取)の折に当時鳥取大学の柴原寿行先生のご発案とご尽力で温泉に一泊して会員間の懇親を深めようと米子市皆生温泉にて第一回となるエクスカーションを開催した。これ以後毎年秋の獣医学会の折に近くの温泉や観光地で催しているが、これまで一度も欠けたことはない。昨年の盛岡繋温泉でのエク スカーションは 18 回目となる計算である。こういう活動はみんな大歓迎である。

 さて、母体となる組織が日本実験動物研究会として設立され、いよいよ次なる目標の実験動物医学専門獣医師の資格認定システムの構築活動を開始した。

 1995 年(平成 7 年)2 月の研究会理事会では会の長期的な方向性を探るためとして「活動方向検討委員会」が設置され、笠井理事が担当となった。その活動の手始めとして 3 月の獣医学会/ 実験動物医学研究会総会終了後、研究会の 14~5 名の有志で会合を持ち、ACLAM の制度を勉強するとともに我が国にも同様の教育と認定システムの必要性が議論された。そこでの発言のいくつかを抜粋してみる。

・実験動物医学研究会は他の類似の学会との違いを明らかにして、未開の分野を拓く活動を行うべきであり、専門領域を明確にする必要がある。

・医学部の動物実験施設利用者からはいろいろなことが聞かれる。獣医学的専門知識が求められる。麻酔の専門知識は獣医師でなければ持っていない。

・専門医制度を作って医学部では獣医師としての地位を上げることができるだろうか。

・専門知識を全て網羅する必要がある。しかし一人の獣医師が専門全てをマスターすることはできないから、それぞれの専門を把握して、研究者から問い合わせがあれば専門家に問い合わせられる制度をつくる。インターネット等のコンピュータネットワークを十分活用する。

・専門獣医師のための教育には実習トレーニングの場が必要である。

・ACLAM の制度は非常に良い。獣医学科での学生教育がまずキチンとなされなければならない。 何処に焦点を合わせるのか ACLAM 制度を参考に調べる必要がある。

・実験動物医学の専門医制度を作るのは良いが、しっかりした制度になるには時間がかかる。そ れまでの過渡期はどのようにするか。また第一期生はどのように作るのか。

 本会の活動について、本会員が持つべき専門知識のこと、専門教育のこと、そして ACLAM のことから専門医制度の設立に関することまで幅広く議論された。そしてこの年、大阪大学黒沢努 先生のご尽力で研究会のメーリングリストが開設され、会員会の専門情報の交換が飛躍的に活発になった。

1996 年(平成 8 年)4 月総会にて「日本実験動物医学会」と会の名称を変更し、認定制度検討委員会発足させた。

……次号につづく

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 平成4年9月29日に北海道大学学術交流会館でシンポジウム「実験動物医学の専門教育に期待するもの」を開催されたことを述べたが、ここでのシンポジストのご講演タイトルを記載して、当時の状況をご推察いただきたい。 (講演順)実験動物医学とは(笠井憲雪、北大医)、実験動物学教育の現場から(高橋和明、日獣 大)、医学部動物実験施設から(伊藤勇夫、千葉大医)、製薬会社研究所から(高頭廸明)、米国霊長類研究センターでの経験(山本博、富山医薬大)、獣医臨床教育の現場から(前出吉光、北大獣 医)、獣医師に求められているもの(鍵山直子、実中研)。

 

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JALAM会員の寄稿

私観・日本実験動物医学会史(第4回)

今後の課題

 本会も昨年 20 周年を迎え、ようやく軌道に乗って来た感がある。ここで、学会としての今後の課題を一つあげる。我が国では動物実験に関する法律や各種規定、指針には獣医師の必要性や役割が全く記載されていないことがある。動物愛護管理法、実験動物に関する基準、文科省を始め 各省庁の動物実験に関する基本指針のどこにも「獣医師」はもとより「獣医学的管理」という言 葉すら見つけることができない。このようなことは世界の主要な国々ではあり得ない。国際医学団体協議会(CIOMS)が 1985 年に制定し、昨年 2013 年に改正された「医学生物学領域の動物実験に関する国際原則」、世界動物保健機構(OIE)が決定した実験動物福祉条項、そして米国国内の指針ながら国際的に使用されている National Research Council の「実験動物の管理と使用に関する指針(第 8 版)」にはすべて、獣医師の役割や獣医学的管理の重要性が謳われている。近年は アジアの国々にも動物実験に関する法規が整備されて来たが、これらの国々の法規にも獣医師の役割が記載されている。グローバル化を叫ぶ我が国のこうした状況は異常としか言いようがない し、もう一つのガラパゴス化であり、その被害は実験動物が被っている。

 実験動物といえども動物であり、第 3 の家畜という言い方もある。この動物の健康管理はも より、研究者の行う実験における苦痛の軽減や術前術後の健康管理に獣医師が関わるのは当然で あり、動物の福祉を求める国民が強く望んでいることである。もちろんこれまでも我々獣医師は 実験動物の飼育や動物実験の現場はもとより、施設の管理や研究者への教育、さらには動物愛護 管理法や各種指針の制定や改正の節目節目に国や学術会議等が設置した委員会等に多くの獣医師が関わって来たし、大きな役割を果たして来た。しかし、上記で示した「異常な状況」が続いており、現在までも改善できないことは、我が国では獣医師の立場が弱いとか、社会の理解がない などのせいばかりではなく、実験動物界に足場を置いてきた私を含めた獣医師の力や努力も圧倒的に足りなかったと言わざるを得ない。

 我が国のこれからの動物実験を含む研究倫理や動物福祉の観念の高まり認識し、また何よりも 実験動物の立場に立った適正な動物実験のあり方を考えるとき、我が国の法規や指針等の公のル ールで獣医師の役割を明確にすることは喫緊の課題である。社会や各種学会、さらには 5 年毎に行われる動物愛護管理法見直しの議論においても本学会の会員の皆さん、また研究機関や教育機 関で重要な立場を占めるようになっている実験動物医学専門医の皆さんの大いなる努力に期待し たい。

 4 回にわたって「私観・日本実験動物医学会史」として、本学会の歩みを振り返ってみた。こ の日本実験動物医学会の設立に至る過程やその後の活動、そして実験動物医学専門医(認定獣医師)制度の設立とその後の発展過程は、私が 1985 年(昭和 60 年)にこの世界に足を踏み入れて 以来の私の活動の軌跡そのものだったように思う。この間、多くの諸先輩、同僚、そして現在第 一線で活躍されている後輩の皆さんと活動を共にできて、大変楽しかったし、充実した活動ができた。この場をお借りしてお礼を述べて、筆を置く。

2014 年 2 月節分

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JALAM会員の寄稿

シンガポールにおける動物研究施設の運用

【NACLAR Guidelines: Training】

本セクションでは、実験従事者、ケアテーカー、獣医、IACUCメンバーなど役割に応じて、必須もしくは推奨されるトレーニングが細かく定められております。細かい部分は機会がありましたらガイドライン自体を見ていただきたいのですが、ここでは特に重要度の高いResponsible Care and Use of Laboratory Animals Course (通称RCULAC) とSALAS Basic IACUC Trainingについて取り上げます。

RCULACはNParks/AVSが認定した施設から提供されるトレーニングで、多くの役割に対して必須という位置づけになっています。動物実験に関する法律・倫理・手技等の基礎を学ぶ研修で、座学パートと実際に動物を使用する手技パートで構成されており、手技パートは動物種ごとにコースが分かれています。座学パートは試験をパスすることで、手技パートは実習を完了することで受講証が発行され、それぞれの役割に従事できるようになります。座学パートはかなり細かい部分までNACLAR Guidelinesを理解する必要があったため、英語というハンデも加わり、試験に合格するか、とても緊張したのを覚えています。

2022年の改訂から座学は5年ごとrefresher courseの受講を、手技は2年以上のブランクがあれば再受講を推奨する、という文言が加わり、認定施設からもrefresherに合わせたトレーニングの提供が開始されました。

SALAS Basic IACUC Trainingは、NParks/AVSが認定したSALASという機関から提供されるトレーニングプログラムです。ガイドラインでは半数以上のIACUC委員が、IACUCに関する正式なトレーニングを受講することを義務付けており、SALAS Basic IACUC Trainingはガイドライン中にも紹介されている、シンガポールで最もメジャーなトレーニングという位置づけです。IACUCの運営に特化した内容で、前半に法規制・研究倫理・動物施設運用を学ぶ座学パートを受講したのち、後半では5-6人のグループに分かれた模擬IACUC委員会を行うという二部構成となっています。模擬IACUC委員会では、AVSの方や有識者が議長となり、事前に用意された研究計画書をもとに議論を実施します。

実際に私が参加した際は、議長から「研究目的と実験方法が合致していると思う?」「3Rsがちゃんと考えられている?」「使用匹数の計算は適切?」といった点について矢継ぎ早に意見を求められた他、「あなたなら実験従事者に対してどのような確認をする?そしてその意図は?」といった形の問いかけもあり、「IACUCとして重要なポイントは何か」を学ぶだけでなく、「自分で考える力」の育成も重視しているのだと感じました(その分、トレーニングはタフでしたが・・・)。また議長より、「科学者だけでなく、一般の人々も理解・納得できるか、という視点を忘れないように」というアドバイスもいただきました。

【NACLAR Guidelines: Occupational Health and Safety】

従事者の安全を守るために、Occupational Health and Safetyについて、改訂前のガイドラインでも触れられておりましたが、2022年の改訂より1つのセクションとして独立しました。本セクションでは、全ての動物研究施設においてoccupational health and safety program (OHSP) の確立・維持を義務付けており、OHSPについての具体的な項目と考慮すべき点が定められています。OHSPの例として、以下が挙げられています。 危険源の特定とリスクアセスメントの実施と、特定したリスクの低減策の実施事故発生時の報告ルートの確立緊急時の対応プランの確立従事者の健康チェックと予防措置の実施施設や設備の設計及びモニタリングを通した安全策の実施

いずれの項目も、動物研究施設に限らず、職場の安全性を確保するために当たり前のことですが、明文化することで抜け漏れなく対応することが容易になりました。またガイドラインは動物施設の関係者だけではなく、安全衛生や研究倫理等に関わる様々な部門と協働することを求めており、より効果的なOHSPの確立を意識した内容となっています。

【さいごに】

以上、簡単にシンガポールの動物研究施設の運用について紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか? 当然日本と共通するところもありますが、少し違った部分もあったかと思います。本コラムが、動物福祉や動物研究施設の運用を考えるうえで、少しでも参考になりましたら幸いです。

<参考>

Animals and Birds Act 1965 (2020 Revised edition), https://sso.agc.gov.sg/Act/ABA1965 (Accessed: 27 October 2023).

Animals and Birds (Care and Use of Animals for Scientific Purposes) Rules (2007 Revised Edition), https://sso.agc.gov.sg/SL/ABA1965-R10 (Accessed: 27 October 2023).

Guidelines on the Care and Use of Animals for Scientific Purposes Second Edition 2022, https://www.nparks.gov.sg/-/media/naclar-guidelines-(second-edition)_v2.ashx (Accessed: 27 October 2023).

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JALAM会員の寄稿 コラム