文献紹介:フィンランドにおける実験用ビーグルの最初のリホーミング:社会化訓練からフォローアップまでの完全なプロセス
対象となった実験用ビーグル犬はヘルシンキ大学が所有する16頭で、すべての犬は商業ブリーダー(オランダのハーラン社)から購入したもので、高齢グループは生後6カ月から8歳まで、若年グループは生後4カ月から2歳まで研究施設で飼養されました。どちらも避妊・去勢済みの8頭(雌2頭、雄6頭)でした。
これらの犬は、犬での実験が必要な動物用医薬品の開発研究として、非侵襲的動物認知研究と犬用の新しい鎮静剤に関する臨床獣医学研究に使用されていました。実験処置としては、前者の研究では、ポジティブオペラント条件付け法によって、コンピュータ画面上の視覚刺激をじっと観察し、脳波や眼球運動を非侵襲的に記録するように訓練されました。後者の研究では、数回の鎮静処置が行なわれ、血液の採取、呼吸と心臓の機能のモニターが実施されました。
社会化トレーニングは、犬を研究施設の外に連れ出しさまざまな路面やリードでの歩行に慣れさせること、屋外での排便・排尿を促すこと、犬不慣れな人を施設に迎え入れることから構成されていました。
高齢犬は1回あたり約1時間、半年間で25〜35回散歩させました。若齢犬には、4ヶ月の準備期間を設け、研究施設に隣接するフェンス付きのパドックで監視下での遊びや休憩も含めて個別にトレーニングが実施されました。また、犬の反応や初対面の人に対する心構えも評価しています。
このトレーニングには、アニマルケアテイカー、研究者、動物保護団体のスタッフ、犬の訓練士など、多くの人が関わりました。また、動物保護団体とその地域会員組織がヘルシンキ大学とともに新しい里親探しを行い、それぞれの犬の所有権を大学から動物保護団体に、そして動物保護団体から新しい所有者に譲渡する契約が結ばれました。残念ながら、最後の1頭となった老犬には不安な行動が見られたことから、慣れ親しんだ8頭の群れがないまま施設にとどまることになりました。
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実験動物のリホーミング
最近では、酪農学園大学から引き取られた実験犬「しょうゆ」の里親譲渡の話題もあり、こちらも「実験動物の里親制度」についてのコラムですでに紹介されていますが、国内でも少なからず実験動物を安楽死せずに余生を送らせるリホーミングの活動が行われています。リホーミングは動物の福祉を考えること、また実施者の心理的負担を軽減させるという点でとても有意義なことではありますが、同時に、実験動物が社会の目に触れ、動物実験に関心をもつきっかけとなるということは、社会的に適正な動物実験を考える上でもとても重要なことでもあるのではないでしょうか。
ここでは実験動物のエンドポイントとして安楽死に代わる選択肢としての可能性があるリホーミングについて、実際にリホーミングをされた方からの寄稿を交えて、文献を紹介します。多くの方が実験動物に関心を持ち、適正な動物実験を考えるきっかけとなればと思います。
文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?
製薬企業から引き取られた実験犬の、その後に関するドイツでの調査です。
文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査
実験動物のリホーミングに関する英国での実態調査です。
文献紹介:フィンランドにおける実験用ビーグルの最初のリホーミング:社会化訓練からフォローアップまでの完全なプロセス
フィンランドで行われた実験用ビーグルの最初のリホーミングと社会化プログラムの紹介です。