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精子がオタマジャクシ状になる理由を求めて

コラム

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4. 遺伝子の「引き算」による未知の機能探索

精原細胞(図2,mIn)と完成した精子(図2,16)を比較すれば、その形態変化がいかに如実であるかが分かり、その変化は精子細胞(図2,青枠内)で起こっていることが分かります。鞭毛の出現、ミトコンドリア鞘の構築、核の劇的な形状変化と濃縮、そして不要な細胞質の徹底的な除去。これら他の細胞には見られない特殊な変化が起こるということから、この期間に精子細胞のみに発現する遺伝子が、精子の形態変化に重要であると考えられます。

私たちは、データベースを活用して「精巣のみで特異的に発現している遺伝子」を特定し、それらを欠損させた「ノックアウト(KO)マウス」を作出する戦略をとっています。特定の遺伝子を欠損させた雄マウスが依然として妊孕性がある(子供を作れる)のであれば、その遺伝子は単独では生殖に必須ではないと判断できます。逆に、雌と交配しても子供が生まれない場合は、欠損させた遺伝子が不妊の原因となっていることが判明します。そこからさらに、不妊の原因が「精子形成そのもの」にあるのか、「精子の運動機能」にあるのか、あるいは「受精後の胚発生」にあるのか等を多角的な実験によって調べ、遺伝子の機能を分子レベルで明らかにしていきます。

私はこの10年間で、少なくとも107個の遺伝子が単独では妊孕性に必須ではないことを明らかにしてきました(詳細はリサーチマップ記載の論文をご確認ください)。これまでの経験上、精巣特異的な遺伝子を単独で欠損させても、その半数以上は妊孕性に影響を与えません。これは、生命の設計図における「機能的冗長性(バックアップ体制)」によるものであり、似た機能を持つ別の遺伝子がその役割を補完しているためと考えられます。

5. 形作りを制御する遺伝子たちの発見

一方で、単独欠損によって顕著な不妊形質を示す遺伝子も多く見出してきました。これらは精子のユニークな形態を作り上げるため必須の存在ともいうことができます。以下に、我々が見出してきた精子形成に必須の遺伝子とその代表的な役割の例を挙げます(詳細はリサーチマップ記載の論文をご確認ください)。
減数分裂の制御:Pdha2、半数体を作るのに必須の減数分裂に関わる遺伝子(雄限定)。
頭部の造形:Tex38Fam209Phf7 など、精子の顔とも言える核やアクロソームの形態形成に関わる遺伝子。
首部の安定化:Ccdc188、頭部と鞭毛を繋ぐ構造に関わる遺伝子。
鞭毛と運動性:Cfap91Fbxo24Ccdc183Tsnaxip1Tulp2Irgc1Lrrc23Drc7Kif9Dnah8Tmprss12Rsph6 など、精子の運動性や鞭毛形成に関わる遺伝子群。
ミトコンドリア鞘形成:MisfaArmc12Tbc1d21Spata33Gk2 など、精子に特徴的な「ミトコンドリア鞘」の形成に関わる遺伝子群。

6. 精子鞭毛のコンパートメント化と細胞質除去

具体的な分子メカニズムの一端をここでご紹介します。

鞭毛が正しく形成されるためには、細胞内の「区画化(コンパートメント化)」が不可欠です。CCDC183というタンパク質には、鞭毛の伸長の起点となる中心体(遠位および近位中心小体)が、核および細胞膜を繋ぎ止める「ブリッジ(架け橋)」として機能させる働きがあります。この架け橋があることで、核が鞭毛とは逆方向に移動する際に細胞膜が一緒に引き込まれ、「細胞質陥入」という現象が起こります(図3,赤矢頭)。これにより、鞭毛は細胞質とは切り離された独立したコンパートメントで伸長することが可能になるのです。CCDC183を欠損させると、この区画化が失敗し、鞭毛周囲に大量の細胞質が存在することで、鞭毛構造が崩壊してしまいます(3)。

図3:精子細胞における鞭毛の伸長と細胞質の陥入
マウス精子細胞が完成するまでの鞭毛形成プロセスを時系列(Step)で示す。この図のStepは図2のStep(1から16の数字)と同じものを示す。軸糸の伸長(Steps 2-3):中心小体から軸糸が伸び始める(茶色矢印)。線維鞘の形成(Step 7):遠位側から軸糸を囲むように線維鞘が形成される(オレンジ色矢印)。核と中心小体の結合(Step 7):2つの中心小体(中心体、青色矢頭)が、核の後端と細胞膜を橋渡しするように繋ぎ止める。細胞質の陥入(Step 8):核が中心小体との結合部とは反対側に移動することで、中心小体も移動し、細胞質が内側へ陥入する(赤色矢頭)。これにより、鞭毛は細胞質とは別の区画(コンパートメント)へと収まる。精子構造の完成(Steps 9-16):核の形態変化と首部構造の形成が進み、アニュラスから遠位側へ外側緻密線維(水色矢印)が伸長する(Step 9)。アニュラスが遠位側へ移動すると(赤色矢印)、首部からアニュラスの間に球状ミトコンドリアが集まる(Step 15)。ミトコンドリアが軸糸に対して垂直方向に伸長して「ミトコンドリア鞘」が形成し、精子が完成する(Step 16)。(Miyata et al., 2024, Development of functional spermatozoa in mammalian spermiogenesis のFig. 2Bを改変)

また、精子が完成する最終ステップにおいて細胞質除去による「スリム化」を担うのがTSKSです。TSKSは精子細胞の「nuage」と呼ばれる構造に局在し、不要な細胞質の除去に関わります。通常、精子が放出される際には体細胞であり、生殖細胞を支持する役割を持つセルトリ細胞に引っ張られる形で余分な細胞質が除去されますが(図4,左図)、TSKSが欠損するとこのプロセスが正しく機能せず、大量の細胞質を抱えたままの「太った精子」ができてしまいます(図4,右図)。この後、この太った精子は細胞死をしてしまうことから、鞭毛周囲の過剰な細胞質は精子にとって極めて有害であることが分かります(4)。

図4:精子からの細胞質の除去
Step 16のマウス精子細胞を透過型電子顕微鏡で観察した像。正常な精子(左図): 精子細胞が管腔(図右下)へ移動する際、付着している細胞質(黒破線内)がセルトリ細胞に引っぱられ、適切な位置(白矢印付近)で切り離される。TSKS欠損精子(右図): 細胞質除去がうまく行われないため、過剰な細胞質を残したままの精子が管腔内に生じる。スケールバー:2.0 µm. (Shimada et al., 2023, TSKS localizes to nuage in spermatids and regulates cytoplasmic elimination during spermiation のFig. 1Iを改変)

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酪農学園大学獣医学群獣医学類 嶋田圭祐

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実験動物の微生物検査

このような考えから、試験に用いる動物は病原体の影響をできるだけ排除したSPF動物を用いることが一般的です。しかし、施設に入ってきた際には確かに病原体がいないかもしれませんが、人や動物の出入りが多い施設において、試験期間が長い動物実験などでは試験の最後まで病原体がいないとは限りません。これを担保するのが「微生物モニタリング」という手法です。

微生物モニタリングは定期的(通常3か月に1回)に飼育されている動物や施設の微生物調査を行うものですが、従来は「おとり動物」を用いた方法(下図)が主体でした。

おとり動物の「おとり」は漢字で書くと囮となり、英語だとSentinel(センチネル)とも言います。まさに言葉のとおりで、他の動物の感染をいち早く察知し、被害を拡大させないための動物です。かつて使われていた、炭鉱におけるカナリアのような存在とも言えますね(カナリアは有毒ガスに敏感なため、炭鉱で発生する可能性のある有毒ガスから身の危険を知らせてくれたそうです)。

また、おとり動物は検査の際に採血・解剖され、人の目ですみずみまで検査することで検査項目以外の病原体が思いがけず発見されるなど正確性が担保されているのですが、病原体の培養に時間がかかったり、最近導入が進んできた個別換気システム(IVC)を用いたラックやケージなどでは検出率が低い問題がありました。

そこで最近用いられ始めているのがPCRを用いた手法です。動物を解剖するのではなく、実際に試験に用いた動物を拭った綿棒や、糞からDNAを抽出して病原体を検出する方法なのですが、最近ではそれらに加え、部屋やケージのホコリから病原体を検出することが可能になってきました。おとり動物を使用しない、動物福祉にかなった方法で今後導入が進んでいくことと思われますが、PCRの特性上、検査項目以外のものは検出することが出来ないので、おとり動物を用いた方法とは一長一短の間柄になっています。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

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コラム

ARRIVEガイドライン2.0が公開されました

7月14日にNC3Rs(英国3Rセンター)にてARRIVEガイドライン2.0が公開(https://arriveguidelines.org/)されました。2010年に初めて公開されたARRIVEガイドラインは、動物実験計画において最低限記載すべき項目をまとめたものであり、Natureをはじめ多くの学術雑誌に支持されているガイドラインです。

そもそもこのガイドラインが作成された背景には、動物実験の再現性があまりにも低い(一説には70%以上の実験が再現できない)と言われてきたことがあります。その一因として実験方法の詳細が述べられていないとの指摘がありました。

英国の機関が、動物実験の記載がある271報(1999-2005)の論文を精査したところ、研究の仮説・目的を記載し、かつ動物の数と特徴が記載されていたのは271報のうち、わずか59%であったことを報告(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0007824)しています。

これらの事を受けてNC3Rsは記載すべき20の項目を定めて2010年にARRIVEガイドラインとして発表しました。多くの研究機関や出版社から支持されてきたものの、記載項目が多いことからも問題の根本的な解決には至りませんでした。そこで改訂版であるARRIVEガイドライン2.0が新たに公開されました。

ARRIVEガイドライン2.0の主な変更点は以下のとおりです。

記載すべき最低限の項目を10項目に絞った「ARRIVE Essential 10」とそれらを補完する「Recommended Set」に分類した

ARRIVE Essential 10は以下のとおりです。なお正式な日本語訳は日本実験動物学会等、公的機関によるアナウンスをお待ちください。
1. Study design(研究計画)
2. Sample size(サンプルサイズ)
3. Inclusion and exclusion criteria(包含基準と除外基準)
4. Randomisation(ランダム化)
5. Blinding(盲検化)
6. Outcome measures(実験の帰結)
7. Statistical methods(統計学的方法)
8. Experimental animals(実験動物の情報)
9. Experimental procedures(実験処置)
10. Results(結果)

前回のガイドラインが20項目であったことからも項目数を絞って記載しやすくなっていることが分かります。通常の動物実験審査においては3~5の項目を審査することは少ないのですが、今後はこのあたりも審査することが求められてくるかもしれません。

コラム

文献紹介:実験動物獣医師の生物医学研究におけるマウスの福祉に対する調査

A Survey of Laboratory Animal Veterinarians Regarding Mouse Welfare in Biomedical Research.
Marx, James O ; Jacobsen, Kenneth O ; Petervary, Nicolette A ; Casebolt, Donald B
JAALAS, Volume 60, Number 2, March 2021, pp. 139-145(7)
doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-20-000063

【概要】
研究用動物の福祉の質は、その動物から生み出される科学的成果の質に否応なく結びついている。マウスは生物医学研究において最もよく用いられる哺乳動物種であるが、将来の進歩を促すためにどのような要素を考慮すべきかについては、ほとんど情報がない。この問題を解決するために、米国実験動物獣医師会(ASLAP)の動物福祉委員会は、実験動物獣医師を対象に、マウスの福祉に関する意見を聞き、生物医学研究における動物福祉に大きく影響する5つの要因(飼育、臨床ケア、実験使用、規制監督、訓練)の役割を検討するための調査を行った。調査の結果、95%の獣医師がマウスの福祉について「許容できる」から「素晴らしい」と評価しましたが、改善すべき点も残されていた。これらの分野には以下が含まれる。

1)実験を行う研究者のトレーニング
2)実験操作によって痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングの頻度
3)痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングに機関の獣医師スタッフを含めること
4)マウスに提供される環境エンリッチメントの継続的な改善
5)研究室内および機関内の他の研究グループでの再発を防止するために、IACUC(動物実験委員会)がコンプライアンス違反の事例に完全に対処する能力があること
6)病気や怪我をしたマウスの検査、病気の診断、治療の処方を獣医師以外の人に頼っていること

アメリカの動物実験規制は自主管理を柱とする体制であり、日本の動物実験に関する法制度の基本的な枠組みもこの自主管理制度を参考にしているとされています。しかし、これらの法的根拠となる動物福祉法(Animal Welfare Act; AWA)の対象動物には動物実験で多く用いられるマウスやラットなどが含まれておらず、どのように動物福祉が担保されているか外からは分かりづらい問題がありました。そこでASLAPはマウスの福祉が実際にはどうなっているか、会員にアンケートを実施したのがこの論文の趣旨です。

今回の調査では、95%の獣医師がマウスの福祉全般を「許容できる」から「優れている」と評価した一方で、半数の獣医師が、ケアの水準向上を正当化する科学的データがないことが、研究用マウスの福祉向上の主な制約になっていると考えているとのことです。特に、環境エンリッチメントの評価にばらつきがあるのは、環境エンリッチメントの基準を裏付ける実験データがないことが原因と考えられています。

また、実験手順によって痛みや苦痛を感じる可能性のある動物の観察頻度にも懸念があることが報告されました。動物福祉に満足していると回答した獣医師の多くは、観察頻度を1日あたり3回以上に設定しているのに対し、動物福祉が不十分であると回答した獣医師の多くは、観察頻度が1日1回以下であると回答しています(下表)。満足度は必ずしもケアの回数に比例するわけではありませんが、獣医師の満足度が高い施設では相対的に観察頻度が高くなっているようです。このように、動物に対して単にケアするだけではなく、どれだけ手厚くケアができるかということも動物福祉の重要な要素になっています。

観察頻度に対する回答(上記論文から引用)

日本国内では比較的小規模施設の多くが、マウスやラットのみを飼育している施設であり、実験動物獣医師などの専門家を配置することが出来ずにいます。これらの施設にどうやって動物福祉の考え方を浸透させることができるか、関係者は知恵を絞って考える必要がありそうです。

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