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精子がオタマジャクシ状になる理由を求めて

コラム

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7. ミトコンドリア鞘の形成

精子の中片部には、「ミトコンドリア鞘」と呼ばれる非常に精巧な構造が存在します。ミトコンドリア鞘の構造的な意義は分からないことが多いですが、ミトコンドリア鞘の形成過程におけるミトコンドリアの振る舞いは、とても美しく制御されています(図5)。

ミトコンドリア鞘形成前に細胞質内に点在していた球状のミトコンドリアは、まず軸糸の周囲に整列します(図5,左上図)。次に、これらのミトコンドリアが軸糸に対して垂直方向に伸長することで、隣接するミトコンドリア同士がパズルのように噛み合う「インターロッキング構造」が形成されます(図5,中央上図)。ミトコンドリアはさらに伸長し、軸糸を隙間なくタイトに包み込む「コンパクション」を経て、ミトコンドリア鞘が完成します(図5,右上図)。

ARMC12は、この過程でミトコンドリア間の接着因子として決定的な役割を果たします。ARMC12は、ミトコンドリア外膜上でチャネルとして働くVDAC3や、GK2、TBC1D21といったタンパク質と複合体を形成することで、ミトコンドリアが正しい方向に伸長するように働いていることが分かりました。ARMC12を欠損させたマウスでは、ミトコンドリア鞘形成において、ミトコンドリアが正しく集まるものの(図5,左下図)、適切な方向への伸長(図5,中央下図)とコンパクションができず(図5,右下図)、異常なミトコンドリア鞘を持つ精子が作られ、不妊となってしまいます(5)。

図5:ミトコンドリア鞘形成
走査型電子顕微鏡を用い、ミトコンドリア鞘が形成される3つのステップを観察した。正常の精子(上図)では、まず鞭毛周辺に球状ミトコンドリアが整列し(左上図),ミトコンドリアが横に伸びることで互いに噛みあったインターロッキング構造が形成される(中央上図)。さらにミトコンドリアは伸長を続けることで、鞭毛周辺にタイトに巻き付き、「ミトコンドリア鞘」が形成される(右上図)。ARMC12欠損精子(下図)では、インターロッキング構造が正しく形成されず(中央下図,白矢印)、最終的にミトコンドリアが鞭毛にタイトに巻き付くことができない(右下図)。スケールバー:5.0 µm. (Shimada et al., 2021, ARMC12 regulates spatiotemporal mitochondrial dynamics during spermiogenesis and is required for male fertility のFig. 2Bを改変)

8. 社会への貢献と未来の展望

こうした「精子のかたち」にまつわる基礎研究は、決して単なる知的好奇心の充足に留まるものではありません。それは現代社会が抱える課題、特に不妊治療や避妊の新しい選択肢に直結しています。

例えば、マウスで明らかにしたARMC12の機能欠損は、ヒトにおいても男性不妊の原因となることが既に判明しています(6, 7)。我々の研究は,間接的にこのような男性不妊患者の原因解明につながっていると思われ、将来的な治療方針の決定や、患者さんの心の平穏に関わっていると思われます。

さらに、上述の精子形成に特化した遺伝子の機能を一時的に阻害する化合物を見出すことができれば、ホルモンバランスに影響を与えない副作用の少ない「男性用避妊薬」の開発へと繋がります。女性用避妊薬が普及している一方で、男性用の選択肢は依然として限られており、私たちの研究は新しい時代のライフスタイルを支える基盤となり得るかもしれません。

9. おわりに:動物実験を含むウェットな実験の価値

AIの急速な普及により、膨大なデータから知識を導き出すことが容易な時代となりました。しかし、実際に実験動物を用いて、顕微鏡観察などの泥臭い実験をおこなうことにより、仮説を一つずつ検証していく「ウェットな実験」でしか得られない真実は、依然として数多く存在しています。

「精子がなぜこのような形をしているのか」という問いに対する答えを分子レベルで積み上げていくことは、生命の神秘を解き明かす純粋な喜びであると同時に、人々の幸福に貢献する確かな道であると信じています。私は今後も、まだ誰も知らない生命の「真実」を明らかにするために、実験動物を用いたウェットな研究をしていきたいと考えています。

引用文献
1. Miyata H, Shimada K, Kaneda Y, & Ikawa M (2024) Development of functional spermatozoa in mammalian spermiogenesis. Development 151(14):dev202838.
2. Russell L, Ettlin R, Sinha Hikim A, & Clegg E (1990) Histological and histopathological evaluation of the testis. 1990.  (Cache River Press).
3. Shimada K & Ikawa M (2023) CCDC183 is essential for cytoplasmic invagination around the flagellum during spermiogenesis and male fertility. Development 150(21):dev201724.
4. Shimada K, et al. (2023) TSKS localizes to nuage in spermatids and regulates cytoplasmic elimination during spermiation. Proc. Natl. Acad. Sci. 120(11):e2221762120.
5. Shimada K, et al. (2021) ARMC12 regulates spatiotemporal mitochondrial dynamics during spermiogenesis and is required for male fertility. Proc. Natl. Acad. Sci. 118(6):e2018355118.
6. Xue Y, Yang J, Qiao S, & Shi S (2026) Homozygous ARMC12 variant causes multiple morphological abnormalities of the sperm flagella. Translational Andrology and Urology 15(3):86.
7. Liu W, et al. (2022) Biallelic mutations in ARMC12 cause asthenozoospermia and multiple midpiece defects in humans and mice. J. Med. Genet.:jmedgenet-2021-108137.

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酪農学園大学獣医学群獣医学類 嶋田圭祐

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実験動物の微生物検査

このような考えから、試験に用いる動物は病原体の影響をできるだけ排除したSPF動物を用いることが一般的です。しかし、施設に入ってきた際には確かに病原体がいないかもしれませんが、人や動物の出入りが多い施設において、試験期間が長い動物実験などでは試験の最後まで病原体がいないとは限りません。これを担保するのが「微生物モニタリング」という手法です。

微生物モニタリングは定期的(通常3か月に1回)に飼育されている動物や施設の微生物調査を行うものですが、従来は「おとり動物」を用いた方法(下図)が主体でした。

おとり動物の「おとり」は漢字で書くと囮となり、英語だとSentinel(センチネル)とも言います。まさに言葉のとおりで、他の動物の感染をいち早く察知し、被害を拡大させないための動物です。かつて使われていた、炭鉱におけるカナリアのような存在とも言えますね(カナリアは有毒ガスに敏感なため、炭鉱で発生する可能性のある有毒ガスから身の危険を知らせてくれたそうです)。

また、おとり動物は検査の際に採血・解剖され、人の目ですみずみまで検査することで検査項目以外の病原体が思いがけず発見されるなど正確性が担保されているのですが、病原体の培養に時間がかかったり、最近導入が進んできた個別換気システム(IVC)を用いたラックやケージなどでは検出率が低い問題がありました。

そこで最近用いられ始めているのがPCRを用いた手法です。動物を解剖するのではなく、実際に試験に用いた動物を拭った綿棒や、糞からDNAを抽出して病原体を検出する方法なのですが、最近ではそれらに加え、部屋やケージのホコリから病原体を検出することが可能になってきました。おとり動物を使用しない、動物福祉にかなった方法で今後導入が進んでいくことと思われますが、PCRの特性上、検査項目以外のものは検出することが出来ないので、おとり動物を用いた方法とは一長一短の間柄になっています。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

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コラム

ARRIVEガイドライン2.0が公開されました

7月14日にNC3Rs(英国3Rセンター)にてARRIVEガイドライン2.0が公開(https://arriveguidelines.org/)されました。2010年に初めて公開されたARRIVEガイドラインは、動物実験計画において最低限記載すべき項目をまとめたものであり、Natureをはじめ多くの学術雑誌に支持されているガイドラインです。

そもそもこのガイドラインが作成された背景には、動物実験の再現性があまりにも低い(一説には70%以上の実験が再現できない)と言われてきたことがあります。その一因として実験方法の詳細が述べられていないとの指摘がありました。

英国の機関が、動物実験の記載がある271報(1999-2005)の論文を精査したところ、研究の仮説・目的を記載し、かつ動物の数と特徴が記載されていたのは271報のうち、わずか59%であったことを報告(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0007824)しています。

これらの事を受けてNC3Rsは記載すべき20の項目を定めて2010年にARRIVEガイドラインとして発表しました。多くの研究機関や出版社から支持されてきたものの、記載項目が多いことからも問題の根本的な解決には至りませんでした。そこで改訂版であるARRIVEガイドライン2.0が新たに公開されました。

ARRIVEガイドライン2.0の主な変更点は以下のとおりです。

記載すべき最低限の項目を10項目に絞った「ARRIVE Essential 10」とそれらを補完する「Recommended Set」に分類した

ARRIVE Essential 10は以下のとおりです。なお正式な日本語訳は日本実験動物学会等、公的機関によるアナウンスをお待ちください。
1. Study design(研究計画)
2. Sample size(サンプルサイズ)
3. Inclusion and exclusion criteria(包含基準と除外基準)
4. Randomisation(ランダム化)
5. Blinding(盲検化)
6. Outcome measures(実験の帰結)
7. Statistical methods(統計学的方法)
8. Experimental animals(実験動物の情報)
9. Experimental procedures(実験処置)
10. Results(結果)

前回のガイドラインが20項目であったことからも項目数を絞って記載しやすくなっていることが分かります。通常の動物実験審査においては3~5の項目を審査することは少ないのですが、今後はこのあたりも審査することが求められてくるかもしれません。

コラム

文献紹介:実験動物獣医師の生物医学研究におけるマウスの福祉に対する調査

A Survey of Laboratory Animal Veterinarians Regarding Mouse Welfare in Biomedical Research.
Marx, James O ; Jacobsen, Kenneth O ; Petervary, Nicolette A ; Casebolt, Donald B
JAALAS, Volume 60, Number 2, March 2021, pp. 139-145(7)
doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-20-000063

【概要】
研究用動物の福祉の質は、その動物から生み出される科学的成果の質に否応なく結びついている。マウスは生物医学研究において最もよく用いられる哺乳動物種であるが、将来の進歩を促すためにどのような要素を考慮すべきかについては、ほとんど情報がない。この問題を解決するために、米国実験動物獣医師会(ASLAP)の動物福祉委員会は、実験動物獣医師を対象に、マウスの福祉に関する意見を聞き、生物医学研究における動物福祉に大きく影響する5つの要因(飼育、臨床ケア、実験使用、規制監督、訓練)の役割を検討するための調査を行った。調査の結果、95%の獣医師がマウスの福祉について「許容できる」から「素晴らしい」と評価しましたが、改善すべき点も残されていた。これらの分野には以下が含まれる。

1)実験を行う研究者のトレーニング
2)実験操作によって痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングの頻度
3)痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングに機関の獣医師スタッフを含めること
4)マウスに提供される環境エンリッチメントの継続的な改善
5)研究室内および機関内の他の研究グループでの再発を防止するために、IACUC(動物実験委員会)がコンプライアンス違反の事例に完全に対処する能力があること
6)病気や怪我をしたマウスの検査、病気の診断、治療の処方を獣医師以外の人に頼っていること

アメリカの動物実験規制は自主管理を柱とする体制であり、日本の動物実験に関する法制度の基本的な枠組みもこの自主管理制度を参考にしているとされています。しかし、これらの法的根拠となる動物福祉法(Animal Welfare Act; AWA)の対象動物には動物実験で多く用いられるマウスやラットなどが含まれておらず、どのように動物福祉が担保されているか外からは分かりづらい問題がありました。そこでASLAPはマウスの福祉が実際にはどうなっているか、会員にアンケートを実施したのがこの論文の趣旨です。

今回の調査では、95%の獣医師がマウスの福祉全般を「許容できる」から「優れている」と評価した一方で、半数の獣医師が、ケアの水準向上を正当化する科学的データがないことが、研究用マウスの福祉向上の主な制約になっていると考えているとのことです。特に、環境エンリッチメントの評価にばらつきがあるのは、環境エンリッチメントの基準を裏付ける実験データがないことが原因と考えられています。

また、実験手順によって痛みや苦痛を感じる可能性のある動物の観察頻度にも懸念があることが報告されました。動物福祉に満足していると回答した獣医師の多くは、観察頻度を1日あたり3回以上に設定しているのに対し、動物福祉が不十分であると回答した獣医師の多くは、観察頻度が1日1回以下であると回答しています(下表)。満足度は必ずしもケアの回数に比例するわけではありませんが、獣医師の満足度が高い施設では相対的に観察頻度が高くなっているようです。このように、動物に対して単にケアするだけではなく、どれだけ手厚くケアができるかということも動物福祉の重要な要素になっています。

観察頻度に対する回答(上記論文から引用)

日本国内では比較的小規模施設の多くが、マウスやラットのみを飼育している施設であり、実験動物獣医師などの専門家を配置することが出来ずにいます。これらの施設にどうやって動物福祉の考え方を浸透させることができるか、関係者は知恵を絞って考える必要がありそうです。

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