動物が人になつく ~その不思議な行動のしくみ解明を目指して~

国立遺伝学研究所マウス開発研究室
小出 剛
はじめに
家畜動物は人によくなつく特徴を持っています。人の社会において、家畜動物が産業動物やペット、さらには実験動物として広く飼育されている大きな理由の一つがこのなつき行動にあるのです。この性質があるからこそ、家畜動物は安全で親しみをもって飼育しやすい動物として人の社会の中で受け入れられて、さまざまな形で私たちに貢献してくれているのです。また、家畜動物の中でもイヌやネコなどコンパニオンアニマルと呼ばれるものは、人にとっては愛着を持って生活を共にする対象としてなくてはならないものになっているといえます。これもなつき行動があるからと言えるでしょう。では、動物が異種である人になつくというのはいったいどのような行動なのでしょうか?
なつき行動とは
動物が人になつくという行動には二つのタイプがあるとされています(1)。一つ目は、人に接近されたり触られたりしてもそれを避けなくなる性質であり「受動的なつき行動」といいます。二つ目は、動物が自ら人に接近して親和的な接触を行う性質であり「能動的なつき行動」といいます。これら二つのなつき行動は、前者が人による接近や接触を受け入れているだけであるのに対して、後者は意欲的に人に近づき接触するという点で質的に大きく異なる行動であると考えられるのです。そこで私たちは、これら二つのタイプのなつき行動を区別して解析することを目的として、マウスを使って定量的に行動を調べるために「能動的なつき行動テスト」と「受動的なつき行動テスト」を確立しました(図1)(2)。
能動的なつき行動テストでは人の手に対してマウスが自発的に近づき接触している時間を測定します。一方で、受動的なつき行動テストでは、マウスが人の手で触られることを許容している時間を測定します。これら二つの行動テストを用いて、野生系統と実験用系統で比較してみたのです。実験用系統は、もともと人がペットとして飼育していた愛玩用マウスのストックから樹立されており、過去に家畜化の過程を経ていると考えられます。一方で、野生系統は、野生で捕獲されたマウスが実験室に導入されたあと、そのまま意図的な選択はされずに維持され、現在に至るまで野生マウスの特徴を色濃く持っています。 行動テストで調べた結果、能動的なつき行動では野生系統と実験用系統で明らかな違いは見られなかったものの、受動的なつき行動テストでは実験用系統が野生系統と比較して顕著に高いなつき行動を示しました(図1)(2)。このことは、実験用マウス系統の基となった愛玩用マウスでは、受動的なつき行動に関して選択を受けた結果、人に触られることを避けない性質を獲得してきたことを示唆しています。一方で、愛玩用マウスは人に自ら近づくという能動的なつき行動の性質に関しては選択されてこなかったと言えるのです。


国立遺伝学研究所マウス開発研究室 小出剛