動物実験の情報発信(イギリス編)
教育
主に日本の中学生・高校生にあたる生徒を対象に動物実験に対する正しい理解を深めるべく教育を行っています。主な内容はボランティアの研究者や動物実験技術者による学校訪問であり、年間300件ほど行っているとのことです。現在はイギリス全土で500名ほどのボランティア登録があり、ボランティアとして登録するためにはUARが初めに研修を行います。
さらに一部希望者に関しては実際の動物実験施設への見学ツアーも行っているとのことです。受け入れ側施設の準備などもあるかと思いますが、実際に見学した生徒たちの感想を聞くと、実際に訪問してみて動物の世話が行き届いていることや、スタッフの熱心さを知ることが出来て好評とのことです。このあたりは日本でも積極的に導入していければ良いですね。
ロビー活動
最近、日本でも徐々に見られるようになってきましたが、特定の候補や政党が安易に得票を狙って「動物実験の禁止」などを訴えることの無いよう、動物実験の禁止による医学・獣医学などの発展の阻害などを丁寧に説明して回る活動を行っています。UARは団体としてこれらの活動に熱心に取り組んできたこともあり、イギリスではUAR設立後2回の総選挙を経験していますが、選挙の際にこのような動物実験禁止をマニフェストに掲げるような候補者は出なかったとのことです。日本国内でこれらロビー活動を行っている団体はほとんど無く、日本人ももっとしたたかにこういった活動に取り組むべきだと個人的には考えています。
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ARRIVEガイドライン2.0が公開されました
7月14日にNC3Rs(英国3Rセンター)にてARRIVEガイドライン2.0が公開(https://arriveguidelines.org/)されました。2010年に初めて公開されたARRIVEガイドラインは、動物実験計画において最低限記載すべき項目をまとめたものであり、Natureをはじめ多くの学術雑誌に支持されているガイドラインです。
そもそもこのガイドラインが作成された背景には、動物実験の再現性があまりにも低い(一説には70%以上の実験が再現できない)と言われてきたことがあります。その一因として実験方法の詳細が述べられていないとの指摘がありました。
英国の機関が、動物実験の記載がある271報(1999-2005)の論文を精査したところ、研究の仮説・目的を記載し、かつ動物の数と特徴が記載されていたのは271報のうち、わずか59%であったことを報告(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0007824)しています。
これらの事を受けてNC3Rsは記載すべき20の項目を定めて2010年にARRIVEガイドラインとして発表しました。多くの研究機関や出版社から支持されてきたものの、記載項目が多いことからも問題の根本的な解決には至りませんでした。そこで改訂版であるARRIVEガイドライン2.0が新たに公開されました。
ARRIVEガイドライン2.0の主な変更点は以下のとおりです。
記載すべき最低限の項目を10項目に絞った「ARRIVE Essential 10」とそれらを補完する「Recommended Set」に分類した
ARRIVE Essential 10は以下のとおりです。なお正式な日本語訳は日本実験動物学会等、公的機関によるアナウンスをお待ちください。
1. Study design(研究計画)
2. Sample size(サンプルサイズ)
3. Inclusion and exclusion criteria(包含基準と除外基準)
4. Randomisation(ランダム化)
5. Blinding(盲検化)
6. Outcome measures(実験の帰結)
7. Statistical methods(統計学的方法)
8. Experimental animals(実験動物の情報)
9. Experimental procedures(実験処置)
10. Results(結果)
前回のガイドラインが20項目であったことからも項目数を絞って記載しやすくなっていることが分かります。通常の動物実験審査においては3~5の項目を審査することは少ないのですが、今後はこのあたりも審査することが求められてくるかもしれません。