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アジアの国々における実験動物獣医師と日本実験動物医学専門医協会(JCLAM)

花井幸次
島根大学 実験動物部門, JCLAM国際渉外委員会委員(IACLAM担当), IACLAM理事(前Secretary/Treasurer) 

科学の進歩のために多くの国で動物実験が行われています。たとえ人間の生活をよりよくするという目的のためであっても、実験動物を命あるものと理解し、福祉的・倫理的、かつ、科学的にも適切に使用・飼養しなくてはならないことは、現在では疑いのないことです。そして、それを達成するために、実験動物の使用・飼養は、実験動物獣医師の責任の下に行われる必要があると世界的に考えられています(関連したコラム「JCLAMが果たす国際貢献」を参照してください)。こうした要求に応えるために日本では日本実験動物医学会(JALAM)と日本実験動物医学専門医協会(JCLAM)が協力して努力してきました。しかしながら、今なお日本では実験動物獣医師の重要性について、多くの人に十分に理解されていないように感じられます。
 2023年9月にAsian Federation of Laboratory Animal Science Associations (AFLAS:アジアの国々の実験動物学会の連合会)の学会が韓国の済州島で開催され、その中で韓国の実験動物医学専門医協会(KCLAM)が共催するシンポジウム「アジアの国々における実験動物獣医師の役割」が行われました。このセッションには、日本を含む11の国と地域から実験動物獣医師の代表者が集まり、各国の動物実験や実験動物の使用・飼養に関する法令や国の指針、それらに記載された実験動物獣医師の役割、実験動物獣医師の研修制度などについてラウンドテーブルとして議論が行われました。この貴重な機会に、私はJCLAMの代表者として参加させていただきました。これからの日本の実験動物に関する規制や管理のあり方、そしてJALAM/JCLAMの活動を検討するための資料として、更に動物実験に関心のある一般の方に世界の現状を知っていただく機会として、このセッションでの議論の内容を簡単に紹介いたします。(なお、このコラムは、2023年12月にJALAM/JCLAM ウェブセミナーで、会員限定で紹介した内容を一般の方向けに紹介するものです。)

1)参加国
 下表にラウンドテーブルに参加した団体とその所属する国と地域を示しました。11の国と地域の内、日本、韓国、インド、フィリピンの代表者は実験動物医学専門医協会からの参加でした。それらの協会はいずれも「実験動物医学専門医を通じて、世界中で実験動物獣医師の役割を広げ、それにより実験動物の福祉と健康を向上させる」ことを目的に活動を行っているIACLAM (The International Association of Colleges of Laboratory Animal Medicine)のメンバー協会です。台湾からも実験動物医学専門医協会(TCLAM)の代表者が参加しましたが、この団体は2023年に立ち上げられ、学会開催時には米国の実験動物医学専門医協会(ACLAM)のサポートを受けて活動準備中とのことで、まだ台湾には専門医制度は整備されていませんでした。インドネシアからは実験動物獣医師団体であるILAVA(Indonesian Laboratory Animal Veterinarians Association)の代表者が参加しました。この組織は、インドネシアの獣医学会の下部組織で、日本のJALAMに近い組織です。そのほかの参加国には、実験動物獣医師の団体はなく、各国の実験動物学会で獣医学的ケアに関する諸問題を取り扱っているとのことでした。以下、理解しやすくするために団体名の代わりに国や地域名を使用して説明します。
 今回参加した国や地域では、実験動物の適切な使用・飼養に関して、上記の台湾の他にも欧米の考え方・システムを取り入れている、あるいは参考にしているところが多いことが窺われました。IACLAMメンバー4か国と台湾以外の6か国の組織のうち、ACLAMの認定専門医が活動の中心にいるのは4か国(中国、シンガポール、インドネシア、タイ)で、そのうち3か国(中国、タイ、シンガポール)は米国実験動物学会(AALAS)のGlobal Affiliate Memberになっています。また、タイとマレーシアはAALAS研修制度を自国の実験動物獣医師の研修として利用しています。スリランカの活動の中心人物は欧州の実験動物学会(FELASA)の実験動物科学のスペシャリスト認定を受けているとのことでした。

2)各国の法令・指針における実験動物獣医師
 参加した団体のすべての国と地域で実験動物の適切な使用・飼養に関する法令あるいは国の指針が整備されていることが示されました。また、ほとんどの国と地域で法令又は国の指針として実験動物獣医師の関与や役割を定めており、定められていないのは日本とスリランカだけのようでした。タイやシンガポールでは、動物実験施設は必ず獣医師を設置しなくてはならないと法令で定めています。しかし、いずれの国あるいは地域も実験動物獣医師の人数が十分というわけではないので、獣医師の存在が法令により必須と規定されたタイやシンガポールのほかは、条件によって必ずしも実験動物獣医師が存在しなくとも動物実験は行えるようです。例えば、動物実験施設の規模や扱う動物種によって扱いを変えるような事例も紹介されました。
 シンガポールには獣医師の養成を行う大学がなく、海外からの獣医師に頼った運用ですが、動物実験施設は登録制で実験動物獣医師が必須であるため、パートタイムでいくつもの施設を受け持つ方もいるようです。

3)日本(JCLAM)の指導力への期待
 JCLAMは、IACLAMの設立メンバーで韓国(KCLAM)とともに実験動物医学専門医の組織として長年活動しており経験が豊富です。また、IACLAMメンバーの中でも米国(ACLAM)に次いで実験動物医学専門医の資格を有する実験動物獣医師が多くいます(2023年12月現在;欧州全体よりも多い)。また、日本では世界の中でもトップクラスと言えるほど動物実験が多く実施されています(Addict Biol. 2021; 26(6): e12991)。こうした背景からと思われますが、今回、日本の動物実験に関する現状やJCLAMの紹介を行った後、多くの質問や期待を示すコメントがあり、アジアの国々で実験動物獣医師が一層活躍できる環境づくりに、日本やJCLAMが期待されていると感じました。特に、実験動物獣医師の技能レベルの向上・研修制度は各国の課題となっており、KCLAMやJCLAMを中心として今回参加した団体が協力して相互に向上できる仕組みが得られればとの意見もありました。
 国際的には、国際獣疫事務局(WOAH; World Organization for Animal Health)の Terrestrial Code, Chapter 7.8や米国ILAR guide (第8版)など主要な指針や規則として、「動物実験施設における実験動物の福祉・健康に関して責任を有するのは獣医師である」とされています。上述のとおり、今回のほとんどの参加国でこの要求に準拠した法令や指針が作成されていました。一方、日本は多くの国と異なり、法令や国の指針として動物実験施設に獣医師が必要とは明記されておらず、その代わりに「実験動物に関して優れた識見を有する者」を動物実験委員会の委員とすること、および実験動物管理者を設置することが必要とされています。今回のセッションでは、この日本の仕組みにも関心が寄せられました。獣医師の数が十分でない中で、動物実験施設で必要とされる獣医学的ケアを満たす方法としてよい一例として受け止めてもらえたようです。
 動物実験の成果を一定のレベルで達成するためには、世界的に認められた基準で実験動物を飼養し、適切な方法で動物実験を実施する必要があります。しかしその一方で、動物実験の管理についても各国の文化・歴史的背景を考慮した独自性を尊重することは重要で、全てを米国のスタイルに統一させる必要はないと思われます。こうした考えからも日本の仕組みに共感を得たのかもしれません。
 とは言え、今の日本の法令や指針では、先に述べたような国際的な獣医師への期待・要求に応えられていません。今後日本が国際社会の中で「適切な動物実験を実施している」と認め続けてもらうために、そしてアジアや世界のリーダーとして日本型システムを示し続けていくためにも、日本の法令や国の指針の中に実験動物獣医師の定義と役割について明記するとともに、現在の仕組みを昇華させていく必要があると考えられました。そしてJALAMやJCLAMはその仕組みにふさわしい高いレベルの実験動物獣医師を育成し、行政とも協力して日本型システムの完成度を高めていく原動力になるべきと考えます。

コラム

日本実験動物医学専門医協会(JCLAM)が果たす国際貢献

花井幸次
島根大学 実験動物部門, JCLAM国際渉外委員会委員(IACLAM担当), IACLAM理事(前Secretary/Treasurer) 

科学の発展のために動物実験は必要不可欠であり、実際、世界中の国々で毎年多くの動物実験が実施されています。動物実験の実施にあたっては実験動物を倫理的に、かつ科学的に適切に使用しなければならないことは疑いがありません。その大原則が、よく知られた3Rs の原則(Replacement, Reduction, and Refinement)です。3Rsの原則に従って動物実験が適切に実施されたことを保証するためには、実験動物の健康状態を正しく評価する技能を有する獣医師の役割が欠かせません。動物の健康や福祉的扱いを司る国際的な政府間機関である国際獣疫事務局/The World Organization for Animal Health (WOAH;日本は1930年より加盟)の動物実験に係る規定 (Terrestrial Code, Chapter 7.8. Use of animals in research and education) においても、『科学的に適切な動物実験の実施には実験動物の福祉的取り扱いが必要であり、そのためには技能を有する獣医師が必須のメンバーである』ことが記載されています。今回のコラムでは、優れた技能を有する実験動物医学専門医を地球規模で育成し、動物実験を実験動物の健康の側面から支えることを目指す団体(IACLAM)と、そのIACLAMの活躍にJCLAMが果たしてきた国際貢献活動について紹介いたします。

IACLAM について

 この団体は正式名をThe International Association of Colleges of Laboratory Animal Medicineと言い、頭文字をとってIACLAMと呼んでいます。4つの国・地域の実験動物医学専門医協会、すなわちACLAM(米国の実験動物医学専門医協会)、ECLAM(欧州の実験動物医学専門医協会)、KCLAM(韓国の実験動物医学専門医協会)とJCLAMをメンバーとして2006年に活動を開始しました。各協会から代表者を出してIACLAMの理事会を組織し、実験動物の福祉にIACLAMとして貢献できる事項を協議して実行してきました。これまでにインドとフィリピン(フィリピンは2024年4月現在アソシエートメンバー)を加え現在は6つの国・地域で活動を行っています。またIACLAMは世界獣医師会(The World Veterinary Association;WVA)のメンバー協会であり、世界の獣医学および動物を用いた産業の発展にも貢献してきました。

IACLAMの活動目標に向けた取り組み

 科学的な研究成果を世界で共有するためには、実験に関する科学的な質の保証が必要です。動物実験においては全実験期間にわたる実験動物の品質の保持もその一つになります。実験動物の品質の保持とは、実験動物が身体的に健康であるとともに精神的な苦痛も実験条件として許容される範囲内である必要があります。すなわち、飼育条件としての「5つの自由」と動物実験における「3Rsの原則」が遵守される必要があります。そして、『訓練された実験動物獣医師がそれらを監視し、保証する役割を担う』ことが世界で求められています。

ところが、それぞれの国には文化的・政治的背景があり、実験動物の身体的・精神的健康に関する考え方が異なることも大いにあり、それ故に獣医師に求められる内容・水準もところ変われば異なってしまいます。しかし、実験動物の扱いが変われば科学的な質は保証されず研究成果を世界で共有することが難しくなります。そこで世界的な指標が必要になります。IACLAMでは、実験動物の健康と福祉的扱いを世界的指標に照らして保証するために、指導的役割を担う実験動物医学専門医が有すべき知識・技能・考え方を指標として明確にし、それらを有する実験動物医学専門医を世界の国々で育成することを目標としています。それらをビジョンとミッションとし(表1)、その実現に向けて中長期的な活動計画を設定しました。

(表1 IACLAMのミッション)

 前述のように、国や地域によって文化的・政治的な背景が異なりますが、IACLAMはそれを否定してはいません。IACLAMは画一的に先進国のやり方を押し付けたり、直接個々の獣医師を指導したりするのではなく、国・地域毎に設立された実験動物医学専門医協会をサポートし、その国・地域の協会が『その国の実情に合わせてIACLAM基準の専門医を認定するシステムを構築する』という方式を採用しています。すなわち、具体的な運営方法は、一定の決まり事/枠組みを守り、IACLAMの定める専門医の基準に達するようにさえすれば、それぞれの協会がある程度の自由度をもって定めることができます。最初は米国、欧州、韓国、そして日本の4つの国・地域で始まったIACLAMですが、上記の考え方でインドの専門医協会が仲間に加わり、現在アソシエートメンバー(仮入会)のフィリピンの協会が新しい仲間(=正会員・フルメンバー)となるべくシステムの構築を進めています。このほかにも数か国の関係団体から実験動物医学専門医協会を設立しIACLAMのメンバーに加わりたいとの希望を聞いています。将来は多くの国の協会が、それぞれ工夫を凝らして国際指標に合致した実験動物医学専門医を輩出するようになることが期待されます。

 また、これまでは各協会に任せていましたが、現メンバー協会の会員の知識のアップデートや技能の向上も、これからのIACLAMの重要な課題と捉えています。実験動物医学専門医は国際的な水準の知識・技能を要求されるので、IACLAMのメンバー協会の会員が必要な情報にアクセスしやすいよう、各協会から持ち寄った有用な研修や学会の情報、先進国の法令改正やガイドラインの改定の情報などを共有できるようにしました。更に、初めての試みとしてIACLAMが主催する実験動物医学に関する研究会を2025年に欧州で開催することとし、準備を開始したところです。

 このほか、IACLAMの認知度を高める活動を進めています。適切な動物実験の実施には、研究者のパートナーとして実験動物獣医師(日本のガイドラインでは実験動物管理者が相当)の役割は重要であることは疑いがありません。しかし、その重要な実験動物獣医師の指導役であるべき実験動物医学専門医の能力を保証することの必要性、およびそれを行う国際的に唯一の団体であるIACLAMについて、世界的にはまだ十分に認知/理解されていないと考えているのです。これまでに実験動物関連の組織にIACLAMの活動を紹介するニュースレターを配信し、またいくつかの国際学会でIACLAMに関する発表を行ってきました。論文投稿も行いました(表2)。これからも機会を得て学会等を通じて情報発信を行うことにしていますので、このコラムを読まれている方も、どこかで目にされるかもしれません。

(表2 IACLAMの活動に関する論文の例)

IACLAMの活動におけるJCLAMの貢献

 最初に記載したように、JCLAMはIACLAMの設立メンバー協会であり、ここまでに記載したIACLAMの活動を支えてきました。JCLAMの代表者がIACLAMの役員や各種委員会の委員・委員長を歴任して重要な役割を担いましたし、現在進行中の中期計画でも立案や実行に多くの力を注いできました。上述以外の活動として具体的な例を挙げると、インドの実験動物医学専門医協会(ICLAM)の設立に際して、インドの実験動物学会で他の専門医協会と並んでJCLAMからも実験動物医学専門医協会設立の意義やその方法について紹介を行いました。また、2023年に台湾で開催されたWVAの総会では、JCLAMが担当してIACLAMの活動をポスター発表しました。WVAの学術集会には今のところ実験動物関係者の参加は多くありませんが、発展途上国を含め多くの国から産業動物関係を中心に多数の獣医師が参加します。そのため、世界中の動物実験実施機関に実験動物福祉の考えを理解してもらうための布石として非常に重要な機会です。

 逆にIACLAMの活動方針に呼応してJCLAMが活動を改善した事例もあります。例えば、実験動物医学専門医が有するべき知識・技能をIACLAMメンバー協会で共有するため、役割概要説明文書(RDD; Role Delineation Document)をまとめ、JCLAMのwebsiteに掲示しました。このRDDはIACLAMの各協会のwebsiteに掲示されたものと相互リンクしています。また、実験動物医学専門医がより専門的で高度な知識や技術を習得する研修を行うためのレジデントプログラムを設置し運用を開始しました。そのほかにも他の協会の事例を参考にした改善例がいくつもあります。今後もIACLAMで定める方針や他協会の情報を参考に、JCLAMの活動も微調整していく必要があると考えています。

最後に

動物実験を行うあらゆる国で実験動物医学専門医の重要性を知ってもらい、関連法令・ガイドラインに実験動物医学専門医や実験動物獣医師の役割を明記してもらうことにより、実験動物の福祉を多いに進展させることが可能になると考えています。また、実験動物の福祉に関心を持っていても実験動物医学専門医というものを知らない方もいるかもしれません。そういう方に情報を届けることで、将来、実験動物医学専門医を目指してくださるかもしれません。IACLAMの活動は実験動物の福祉を通じて科学の発展に寄与するものとして、世界の人々に理解していただけることを期待しています。

これまでに記載した通り、JCLAMはIACLAMの設立時から実験動物医学専門医の役割を通して国際的にも動物福祉に力を注いできました。その甲斐もあって日本の動物実験における実験動物福祉の水準は世界からも注目されています。JCLAMが協会として活動を推進していく姿を、またその会員一人ひとりが今後も一層大きな力を発揮していくところを、読者の皆様には期待の目をもって見届けてほしいと願います。

コラム

実験動物と伴侶動物の二刀流獣医師

とちぎ うさぎ・ことり・ちびっこ動物の病院 早稲田大研究推進部 獨協医科大薬理学講座 寺田節

はじめに

獣医師として活躍できる場は多く、小動物臨床、大動物臨床、公務員、研究職などの選択肢を挙げることができる。その選択肢の中には実験動物の管理に携わる獣医師もある。さらに深く掘り下げると、その獣医師のなかには実験動物医学専門医の資格を有し、より専門的な見地から携わっている獣医師もいる。実験動物医学専門医の資格の有無に関わらず実験動物の管理に携わる獣医師は不足しがちなのが現状である。個人的な意見として、獣医師を目指して大学に入学する学生の多くは、「動物の命を救う」という目標を胸に勉学に励んでおり、動物実験はその志と相反するものであると認識している学生が多いと思われる。そのため、動物実験に携わる獣医師の道に進む学生が少ないのではないかと推察する。私自身もそんな学生のひとりであったが、実験動物学教室の門をくぐることになるのである。

なぜ二刀流獣医師になったのか

将来、競走馬の獣医師になりたいと大学に入学したのだが、研究室配属の際に、学生のうちにしかできない勉強をしたいと思い、当時「動物行動学」を研究していた実験動物学教室の斎藤徹先生に師事したのがはじめの一歩であった。斎藤徹先生は㈶残留農薬研究所毒性部室長の経歴を持つ実験動物学の専門家であり、厳しい指導の下実験動物学及び研究の基礎を学ぶこととなるのである。さらに私の運命を決定づけたのが、私が大学院生の時に斎藤徹先生が大学附属病院にて特殊動物診療科を立ち上げたことであった。これは今で言うエキゾチックペット(犬猫及び野生動物以外の動物)の診療科であり、私はそこの立ち上げメンバーに選ばれたのである。卒業後、医科大学実験動物センターの教員及びセンター長の傍ら、外勤制度を利用してエキゾチックペットの臨床獣医師の非常勤を12年間経験した後、動物病院を開業し実験動物医学専門医と小動物臨床獣医師の二足の草鞋を履き活動することとなる。現代で言う二刀流である。

二刀流の根底は動物への苦痛軽減

 実際、動物実験では実験に用いられる動物の多くは最終的に安楽死処置される。したがって初心で抱いていた「動物の命を救う」という考えに反するのではとジレンマに陥る。しかしながら、医学・獣医学研究において動物実験は必要である。そこには獣医師が不可欠であり、特に実験動物医学専門医の存在が重要となる。二刀流で活躍する中で、見えてくる境地がある。実際には私自身、動物実験も臨床も動物に対しての考え方は根底では同じであると理解している。この理解があるからこそ、二刀流が成り立ち、そんな私だからこそできるアプローチで動物実験及び臨床と活躍の場を広げているのだと考えている。

 基本的に動物実験は法律、ガイドライン、規程等に則り実施されている。その中でも獣医学的ケアは重要な位置づけとなっており、実験動物医学専門医の活躍の場となっている。動物実験に携わる研究者たちは、必ずしも実験動物に精通しているわけでもなく、ましてや獣医学的ケアが全ての実験動物に行き届くとは限らない。動物実験の一部では苦痛度の高い研究も行われるため、これら実験動物において苦痛の緩和に配慮することが求められる。臨床においては伴侶動物たちには飼い主がいて、多くの愛情を注いでもらいながら暮らしている。そんな伴侶動物では飼い主の意識が高く、病気や傷害からの苦痛を取り除くことを求められ、獣医師として積極的に苦痛軽減を行うこととなる。苦痛軽減の方法は多岐にわたり鎮痛薬等の種類も多い。これら知識は実験動物における苦痛軽減にも活かされている。もちろん動物実験において人道的エンドポイントが存在し、鎮痛薬等を使用しても軽減できない苦痛を呈している実験動物には安楽死処置が行われる。一方で我が国の伴侶動物医療において、この「安楽死」は一般的に受け入れられているとは限らない。しかしながら、私は各国、各学会等の動物実験のガイドライン等を参照し、飼い主に安楽死の重要性を説明することもある。これは実験動物医学専門医である知識が活かされているが、根拠なく飼い主に安楽死を勧めることは望ましいとは思えず、伴侶動物の苦痛軽減を最大限に考慮して説明している。

 私が考える二刀流獣医師の考えの根底は動物の苦痛軽減を最大限に追求することと考える。それは治療することはもちろんのこと、治療困難な動物においても積極的に苦痛軽減を行い、動物の福祉を守ることに集約される。

二刀流の利点

 現在は、臨床獣医師に主軸を置き、特にエキゾチックアニマルを専門で診察を行っている。動物実験に携わる期間が長かったことから、マウス、ラット、ハムスター、ウサギと小さい動物の扱いは慣れていて、また手術も実施することができる。実験動物医学専門医からの視点では当然のことであるが、臨床獣医師からの視点では、げっ歯類等の小型動物に麻酔を施し手術をすることの難易度は並大抵ではない。多くの臨床獣医師は、これら動物の扱い方、麻酔方法及び手術が不慣れもしくは不可能なことから敬遠する傾向が強い。そのため現在では近隣の動物病院より症例を紹介していただく機会が多く、近隣のエキゾチックアニマル、飼い主及び動物病院に貢献できていると自負している。また、動物実験は医科大学で経験を積んでいたため、医師の友人が多くでき、その医師たちから医学のスキルを学ぶ機会を得ることが、今の臨床獣医師としての糧となっている。当然、診療で困ったときも相談できるため、重宝しているのも事実である。

 実験動物医学専門医としては、企業等の管理獣医師及び大学関連の動物実験委員等の役職をいただいている。そこでは動物実験が適切に実施されているか、動物福祉・倫理が遵守されているか目を光らせている。臨床獣医師の肩書もあるせいか、麻酔方法、鎮痛剤等の苦痛軽減方法及び治療等の問い合わせでは説得力のある様々な方法を提案することができる。また、疾病に対して早期に診断することも可能である。近年の実験動物は非常に清浄度の高い環境で飼育繁殖されているため、感染性の疾病を見る機会が少ない。一方で、小動物臨床の現場では感染症を含む様々な疾病と遭遇する。そのため小動物臨床での経験が動物実験で活かされるのは疾病の診断治療によるところが大きいと思う。

おわりに 二刀流獣医師ならではのアプローチで相反すると思われる分野でも、お互いの経験を活用し、それぞれのスキルを高めることは可能であり、逆にそれぞれの分野での信頼を得られる機会でもあると考える。この二刀流獣医師は何も私だけができることではなく、多くの獣医師でも活躍は可能であり機会を得ることができると考える。ひとつの分野に縛られることなく、多くの機会、経験を得て、スキルを高め、多種の分野で活躍できる獣医師が今後誕生することを切に願う。

コラム

シンガポールにおける動物研究施設の運用

【シンガポールの法令】

次に動物研究施設に関するシンガポールの法令を紹介します。シンガポールにはANIMALS AND BIRDS ACTを上位とし、その下に動物研究施設のルールを規定しているANIMALS AND BIRDS (CARE AND USE OF ANIMALS FOR SCIENTIFIC PURPOSES) RULESがあります。これらについて、具体的な運用を定めたGuidelines on the Care and Use of Animals for Scientific Purposes (通称NACLAR Guidelines) があり、動物研究施設運用者にとって “バイブル” のような存在となっています。

NACLAR Guidelinesは、アカデミア・研究機関・AVS・獣医師・コミュニティからの代表者等で組織されたNational Advisory Committee for Laboratory Animal Research (NACLAR) が策定したガイドラインで、オーストラリア・カナダ・ニュージーランド・アメリカ等の考え方や規則を参考に、シンガポールでの運用に落とし込んだ100ページを超える大作です。元々2004年に1st editionとして発行し、2022年に2nd editionとして大幅なリニューアルがなされました。現在のガイドラインは表1に示すセクションで構成されており、リニューアルの際に要求度を強い順にmust⇒should⇒may の3段階で定義し直されたことで、私自身はとても分かりやすくなったと感じております。

セクション内容
Introduction背景や定義など基本的な情報が記載されている。
Guiding Principles3Rに準拠して、研究用動物の人道的かつ責任あるケア及び使用を推進するための全体的な指針について記載されている。飼育環境や研究用動物の扱い方などはこのセクションに含まれている。
IACUCIACUCの運営面について記載されている。
Training研究用動物の使用者及び施設関係者に対して必要なトレーニングについて記載されている。
Occupational Health and Safety2022年の改訂から加えられたセクションで、animal care and useにおける従事者の安全衛生に関する基本的な情報及びリスクアセスメントに関して記載されている。

表1. NACLAR Guidelinesのセクション

以降IACUC・Training・Occupational Health and Safetyの各セクションについて少し詳しく取り上げます。Guiding Principlesについてはボリュームが大きく要約が難しいので、興味がある方は該当する項目を参照いただけますと幸いです。

【NACLAR Guidelines: IACUC】

シンガポールでは、全ての動物研究施設に対してIACUCの設置義務があります。IACUCは施設で行われるanimal care and useについてあらゆる側面から評価・監督する役割を担うと規定されています。表2に示す各カテゴリーから最低1名ずつ、かつ最低5名以上で組織する必要があります。

カテゴリー要件社内/社外
a動物研究施設における管理獣医師(パートタイム契約でも可)社内
b動物実験に十分の経験のある科学者社内/社外
c現在、研究施設と利害関係がなく、動物実験にも従事していない者社外
d科学分野を主たる業務としていない者社内/社外

表2. IACUCの構成員

IACUCの主な活動を表3にまとめます。

主な活動説明
研究プロトコールの審査・承認研究プロトコールが人道的及び科学的であるか、3Rの観点から問題ないか等を審査し、必要があれば修正や取り下げを勧告する。
研究プロトコールの承認後モニタリング承認されたプロトコールからの逸脱や予期せぬ事象等が起こっていないか等をチェックする。研究者は少なくとも年に1度、進捗レポートをIACUCに提出することが義務付けられている。
Incidentやnon-complianceに対する対応措置の検討施設全体について、事故(ヒヤリハット含む)や法規制・社内SOPからの逸脱等がないかをチェックする。もしそれらが見つかれば是正措置を検討し、施設の管理者に対応するよう報告する。
Animal care and use programのreview (Annual program review)少なくとも年に1度、動物施設の管理体制やIACUCの運用等についてreviewを行い、施設の管理者に報告する。是正措置が必要な場合は併せて報告する。動物施設の巡視と3-7カ月の間隔をあけて実施する。
動物施設の巡視少なくとも年に1度、動物施設の巡視を行い、施設の管理者に報告する。是正措置が必要な場合は併せて報告する。巡視は管理獣医師を含めIACUC委員3名以上で行う必要がある。Annual program reviewと3-7カ月の間隔をあけて実施する。

表3. IACUCの主な活動

AVSによる査察の際には、活動記録や社内のStandard Operating Procedures (SOP) をもとにかなり細かい内容までチェックが入るほか、「一部の委員だけでなく、ちゃんと委員全体で議論してコンセンサスを取っているか」という点まで確認され、シンガポールがIACUCの活動の透明性や正当性の維持向上にとても注意を払っていることを感じました。

コラム

老化研究と実験動物

2. 老化とは何か?

そもそも老化とはどのような状態を指すのでしょうか?代謝機能の低下や皮膚にシワができるなどがイメージしやすいことと思いますが、ここではまず細胞レベルに焦点を当てて考えてみましょう。

細胞の老化は、動物の正常な組織から取り出した細胞が培養を繰り返すと、テロメアの短縮によって、それ以上分裂できなくなる現象から発見されました(2)。いわゆるヘイフリック限界(Hayflick limit)です。この老化細胞はタンパク質群(炎症性サイトカインやケモカイン、増殖因子など)を分泌し、生体ネットワークに多彩な影響を示すことが知られています。この現象は細胞老化随伴分泌現象(senescence-associated secretory phenotype:SASP)と呼ばれ、分泌されるタンパク質はSASP因子と呼ばれます。

老化細胞が分泌するSASP因子はNK細胞を組織に誘導し、腫瘍組織を除去する機能を持っています(3)。他にもSASP因子は、周囲の細胞へ老化やアポトーシスを誘導させる機能を持ち、細胞増殖を抑制します(4)。がん遺伝子であるRasの活性化変異(5)によっても細胞老化が誘導され、過剰な細胞増殖を抑制します。こうした情報をまとめるとSASPはがんを抑制するプラスの面ばかりのようですが、マイナスの面もあります。SASP因子の分泌が短期的であれば、がんの発生は抑制されますが、長期にわたり分泌されると、周囲の組織に慢性炎症を引き起こし、逆に発がんを促進することが報告されています(6)

脂肪細胞はインスリンに応答してグルコースを取り込み、グルコースの恒常性を維持する機能を有していますが、加齢に伴うSASP因子の分泌によって、インスリンへの抵抗性や脂肪分解、脂肪酸への反応性低下が起きます。インスリン抵抗性を持つと、血中の糖分や脂肪が取り込まれにくくなるため高血糖・高脂血症を引き起こします(8)。高血糖・高脂血症はさらに老化細胞の増加を誘導し、負のスパイラルが続くことになります。つまり、「老化細胞の増加 → 高脂血症・高血糖→糖尿病」の経過をたどり、老化は糖尿病のリスク因子になるようです。また、発生工学的手法を用い、老化したマウスの体内から老化細胞の特徴であるp16発現細胞を選択的に取り除くと、腎臓や心臓、膵β細胞の機能低下、脂肪肝の形成、動脈硬化、発がんが抑制され、寿命が伸びることが報告されております(9,10,11,12)。老化細胞にはこういったマイナスの面があるため、蓄積した老化細胞を選択的に除去することで健康増進を図ろうとする研究が進んでおり、現在、老化細胞除去薬(Senolytics drug)が多数開発されてきています。

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第4回)

今後の課題

 本会も昨年 20 周年を迎え、ようやく軌道に乗って来た感がある。ここで、学会としての今後の課題を一つあげる。我が国では動物実験に関する法律や各種規定、指針には獣医師の必要性や役割が全く記載されていないことがある。動物愛護管理法、実験動物に関する基準、文科省を始め 各省庁の動物実験に関する基本指針のどこにも「獣医師」はもとより「獣医学的管理」という言 葉すら見つけることができない。このようなことは世界の主要な国々ではあり得ない。国際医学団体協議会(CIOMS)が 1985 年に制定し、昨年 2013 年に改正された「医学生物学領域の動物実験に関する国際原則」、世界動物保健機構(OIE)が決定した実験動物福祉条項、そして米国国内の指針ながら国際的に使用されている National Research Council の「実験動物の管理と使用に関する指針(第 8 版)」にはすべて、獣医師の役割や獣医学的管理の重要性が謳われている。近年は アジアの国々にも動物実験に関する法規が整備されて来たが、これらの国々の法規にも獣医師の役割が記載されている。グローバル化を叫ぶ我が国のこうした状況は異常としか言いようがない し、もう一つのガラパゴス化であり、その被害は実験動物が被っている。

 実験動物といえども動物であり、第 3 の家畜という言い方もある。この動物の健康管理はも より、研究者の行う実験における苦痛の軽減や術前術後の健康管理に獣医師が関わるのは当然で あり、動物の福祉を求める国民が強く望んでいることである。もちろんこれまでも我々獣医師は 実験動物の飼育や動物実験の現場はもとより、施設の管理や研究者への教育、さらには動物愛護 管理法や各種指針の制定や改正の節目節目に国や学術会議等が設置した委員会等に多くの獣医師が関わって来たし、大きな役割を果たして来た。しかし、上記で示した「異常な状況」が続いており、現在までも改善できないことは、我が国では獣医師の立場が弱いとか、社会の理解がない などのせいばかりではなく、実験動物界に足場を置いてきた私を含めた獣医師の力や努力も圧倒的に足りなかったと言わざるを得ない。

 我が国のこれからの動物実験を含む研究倫理や動物福祉の観念の高まり認識し、また何よりも 実験動物の立場に立った適正な動物実験のあり方を考えるとき、我が国の法規や指針等の公のル ールで獣医師の役割を明確にすることは喫緊の課題である。社会や各種学会、さらには 5 年毎に行われる動物愛護管理法見直しの議論においても本学会の会員の皆さん、また研究機関や教育機 関で重要な立場を占めるようになっている実験動物医学専門医の皆さんの大いなる努力に期待し たい。

 4 回にわたって「私観・日本実験動物医学会史」として、本学会の歩みを振り返ってみた。こ の日本実験動物医学会の設立に至る過程やその後の活動、そして実験動物医学専門医(認定獣医師)制度の設立とその後の発展過程は、私が 1985 年(昭和 60 年)にこの世界に足を踏み入れて 以来の私の活動の軌跡そのものだったように思う。この間、多くの諸先輩、同僚、そして現在第 一線で活躍されている後輩の皆さんと活動を共にできて、大変楽しかったし、充実した活動ができた。この場をお借りしてお礼を述べて、筆を置く。

2014 年 2 月節分

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第3回)

日本実験動物医学会への名称変更と認定制度検討委員会の発足 

 研究会は、その体制が確立し活動が軌道に乗ったため 1996 年(平成 8 年)4 月 2 日に総会にて 本会名称を「日本実験動物医学会」と変更した。日本獣医学会理事会で承認されたのは平成 8 年 12 月 6 日である。この 4 月の総会ではいよいよ実験動物医学会の認定制度を具体的に検討するた めに認定制度検討委員会を発足させた。委員長は私が指名され、委員は 8 名で委員会を発足させ た。ここに認定制度の基礎を共に考えていただいた委員のお名前を掲載して、敬意を表したい。 安居院高志、板垣慎一、黒澤努、二宮博義、降矢強、宮嶌宏彰、毛利資郎、八神健一(敬称略)。

 認定制度検討委員会では委員間での議論を通して、認定制度の骨格を考えることはもとより、 総会やシンポジウムを通して、認定制度の必要性について会員間での議論を活発に行なった。ニュースレターNo. 9(1998 年 1 月)に 1997 年 7 月から 10 月の認定制度検討委員会内での議論が報告されている。抜粋して紹介してみる。

「認定制度の会員へのメリットは何か、認定された獣医師の目標や理想像を示すべきである。 ただ、目に見えるメリットが現れるのは 20年先でよいが、その時になって認定された獣医師がその任に相応しくなっていれば、この制度が脚光をあびる。「獣医師」資格をこの認定の前提とすることでよい、しかし認定委員等は獣医師ではない実験動物学講座教授であっても良い。獣医師会との連携が必要である。ウェットハンドの研修会が必要である。制度案をまとめるにあたり、 この制度の意義や目的を明確にした前文を作り、それによりこの制度のイメージが誰にでもわかるようにすることが必要。」

 この議論では、とくに制度設立のメリットを早急に追うことは難しく、10 年後、20 年後の後輩 にメリットが享受できるよう、現在の会員ががんばるという少々悲壮感にも似た意見も見られ、 委員は全員うなずいた。この議論から既に16 年経っており、昨今はようやく少しはメリットが現れていると思うが、専門医は社会の期待に添う実力はついているか、専門医の不断の努力ととも に、専門医協会の制度的な対応も課題となっているように思う。

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第2回)

本会の前身「実験動物医学研究会」の発足

 1993 年(平成 5 年)3 月 31 日開催された実験動物懇話会総会で、当日付けで「実験動物懇話会」 を解消し、翌 4 月 1 日付けで「実験動物医学研究会」を発足させることが決められた。同時に会則も制定し、学会として本格的な体制を整えた。これは日本獣医学会に対して実験動物分科会の設立を求めたことと、同学会へ本会を所属研究団体として認可申請するため、研究団体としてのしっかりとした組織を構築する必要がある事が直接のきっかけである。これが現在の日本実験動物医学会の創立となり、本年 2013 年(平成 25 年)4 月で創立 20 周年となる。手元に前島懇話会 幹事長が作成したと思われる「実験動物医学研究会設立趣旨」なる文章があるが、内容を抜粋要約すると「設立の第一の目的は、獣医学領域で行なわれている研究情報の効率的な収集と流布である。獣医学領域で公表されている研究には実験動物に関するものは解剖学や生理学,薬理学、 病理学、微生物学、臨床学等の領域に分かれて報告されており、実験動物に関係している者には 必ずしも有効な情報となっていない。研究会を設立することにより実験動物医学を中心とした情報の会員間伝達を促進する。第二に、獣医学学生や実験動物専門家に対する教育の質の向上を図る。獣医科大学間の実験動物学教育内容の相違や大学院や卒後教育が不完全である。本研究会で 実験動物医学に重点を置く実験動物に関する教育の充実を目指す。」となっている。

 1994 年(平成 6 年)2 月には JALAM ニュースレター「実験動物医学」を発刊し、年 2 回発行 する機関誌とした。これによると 1994 年(平成 6 年)2 月 7 日付けの日本獣医学会実験動物分科会会員数(実験動物医学研究会会員数)は 237 名と記されている。最新(平成 24 年 3 月)のデー タでも会員数は 265 名とほぼ同じであり、発足当初から実験動物学に興味のある獣医学会会員は直ちに実験動物医学研究会に参加してくれたことになり、その期待の大きさが読み取れる。1994 年(平成 6 年)3 月 31 日には実験動物医学研究会としての第一回総会開催し、同時に第一回教育セミナーを開催した。教育セミナーは教科書的な基本内容とトッピクス的なものについての講演 会を企画することとし、第一回目は講義として有川二郎先生の「実験動物の疾病,人獣共通伝染病—腎症候性出血熱を中心としてー」であり、トッピックスとして松沼尚史先生の「毒性試験における種差」および野々山孝先生の「自然発生病変に及ぼす飼料の影響」であった。

コラム