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私観・日本実験動物医学会史(第3回)

日本実験動物医学会への名称変更と認定制度検討委員会の発足 

 研究会は、その体制が確立し活動が軌道に乗ったため 1996 年(平成 8 年)4 月 2 日に総会にて 本会名称を「日本実験動物医学会」と変更した。日本獣医学会理事会で承認されたのは平成 8 年 12 月 6 日である。この 4 月の総会ではいよいよ実験動物医学会の認定制度を具体的に検討するた めに認定制度検討委員会を発足させた。委員長は私が指名され、委員は 8 名で委員会を発足させ た。ここに認定制度の基礎を共に考えていただいた委員のお名前を掲載して、敬意を表したい。 安居院高志、板垣慎一、黒澤努、二宮博義、降矢強、宮嶌宏彰、毛利資郎、八神健一(敬称略)。

 認定制度検討委員会では委員間での議論を通して、認定制度の骨格を考えることはもとより、 総会やシンポジウムを通して、認定制度の必要性について会員間での議論を活発に行なった。ニュースレターNo. 9(1998 年 1 月)に 1997 年 7 月から 10 月の認定制度検討委員会内での議論が報告されている。抜粋して紹介してみる。

「認定制度の会員へのメリットは何か、認定された獣医師の目標や理想像を示すべきである。 ただ、目に見えるメリットが現れるのは 20年先でよいが、その時になって認定された獣医師がその任に相応しくなっていれば、この制度が脚光をあびる。「獣医師」資格をこの認定の前提とすることでよい、しかし認定委員等は獣医師ではない実験動物学講座教授であっても良い。獣医師会との連携が必要である。ウェットハンドの研修会が必要である。制度案をまとめるにあたり、 この制度の意義や目的を明確にした前文を作り、それによりこの制度のイメージが誰にでもわかるようにすることが必要。」

 この議論では、とくに制度設立のメリットを早急に追うことは難しく、10 年後、20 年後の後輩 にメリットが享受できるよう、現在の会員ががんばるという少々悲壮感にも似た意見も見られ、 委員は全員うなずいた。この議論から既に16 年経っており、昨今はようやく少しはメリットが現れていると思うが、専門医は社会の期待に添う実力はついているか、専門医の不断の努力ととも に、専門医協会の制度的な対応も課題となっているように思う。

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第2回)

本会の前身「実験動物医学研究会」の発足

 1993 年(平成 5 年)3 月 31 日開催された実験動物懇話会総会で、当日付けで「実験動物懇話会」 を解消し、翌 4 月 1 日付けで「実験動物医学研究会」を発足させることが決められた。同時に会則も制定し、学会として本格的な体制を整えた。これは日本獣医学会に対して実験動物分科会の設立を求めたことと、同学会へ本会を所属研究団体として認可申請するため、研究団体としてのしっかりとした組織を構築する必要がある事が直接のきっかけである。これが現在の日本実験動物医学会の創立となり、本年 2013 年(平成 25 年)4 月で創立 20 周年となる。手元に前島懇話会 幹事長が作成したと思われる「実験動物医学研究会設立趣旨」なる文章があるが、内容を抜粋要約すると「設立の第一の目的は、獣医学領域で行なわれている研究情報の効率的な収集と流布である。獣医学領域で公表されている研究には実験動物に関するものは解剖学や生理学,薬理学、 病理学、微生物学、臨床学等の領域に分かれて報告されており、実験動物に関係している者には 必ずしも有効な情報となっていない。研究会を設立することにより実験動物医学を中心とした情報の会員間伝達を促進する。第二に、獣医学学生や実験動物専門家に対する教育の質の向上を図る。獣医科大学間の実験動物学教育内容の相違や大学院や卒後教育が不完全である。本研究会で 実験動物医学に重点を置く実験動物に関する教育の充実を目指す。」となっている。

 1994 年(平成 6 年)2 月には JALAM ニュースレター「実験動物医学」を発刊し、年 2 回発行 する機関誌とした。これによると 1994 年(平成 6 年)2 月 7 日付けの日本獣医学会実験動物分科会会員数(実験動物医学研究会会員数)は 237 名と記されている。最新(平成 24 年 3 月)のデー タでも会員数は 265 名とほぼ同じであり、発足当初から実験動物学に興味のある獣医学会会員は直ちに実験動物医学研究会に参加してくれたことになり、その期待の大きさが読み取れる。1994 年(平成 6 年)3 月 31 日には実験動物医学研究会としての第一回総会開催し、同時に第一回教育セミナーを開催した。教育セミナーは教科書的な基本内容とトッピクス的なものについての講演 会を企画することとし、第一回目は講義として有川二郎先生の「実験動物の疾病,人獣共通伝染病—腎症候性出血熱を中心としてー」であり、トッピックスとして松沼尚史先生の「毒性試験における種差」および野々山孝先生の「自然発生病変に及ぼす飼料の影響」であった。

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第1回) 

米国事情:ミシガン大学

 まず、1990 年(平成 2 年)10 月 14 日から約 2 週間にわたって日本実験動物学会から派遣される形で、米国の実験動物の実情を視察する機会が与えられた。派遣の目的の一つは当時の実中研野村達次所長が中心になって NIH で開催されていた U.S.-Japan Program of Cooperation in R & D in Science and Technology の会合に参加し、当時私が動物実験施設の教員技術職員とともに行なっていたラット受精卵の凍結保存に関する研究を発表することであった。会場ではNIH(米国保健衛生研究所)の動物実験管理を行なっている多くの獣医師の方々と会い、アメリカの ACLAM (American college of Laboratory Animal Medicine:米国実験動物医学協会)組織を具体的に知ることができた。そしてこの組織について詳しく知りたいと思った。

 幸いにも翌年の平成 3 年(1991)10 月 5 日から 11 月 4 日までの1ヶ月間にわたり国立大学動物実験施設協議会より文部省短期在外研究員旅費で再度アメリカを訪問する機会を得た。この時の訪米目的は「米国における動物実験及び実験動物の現状についての調査研究」というものであり、具体的には「臓器移植関連動物実験、ヒト遺伝子導入トランスジェニック、受精卵凍結保存 の現状調査」に加え、「動物実験施設管理に携わる獣医師の業務及び実験動物専門獣医師の養成制度について調査」するとし、訪問先はミシンガン大学、エール大学、ピッツバーグ大学、バージニア州立大学、国立保健衛生研究所(NIH)およびジャクソン研究所であった。そしていくつか の大学は駆け足訪問ではなく、私一人で 1 週間単位で滞在し、ジックリと米国の各種状況を調査する事を目的とした。帰国後の国動協への報告要旨をもとにその内容を記載する。

コラム

[学会情報]日本動物実験代替法学会第 36 回大会開催のご案内

日本実験動物医学会が後援している日本代替法学会が下記の日程で開催されます。JALAM会員は、代替法学会会員価格で大会に参加できますので、ぜひご参加下さい。

大会長 伊藤 晃成(千葉大学大学院薬学研究院)

開催日:2023 年 11 月 27 日(月)〜29 日(水) 

会場:千葉大学 西千葉キャンパス(千葉市稲毛区弥生町 1-33) 

テーマ: 動物実験代替法の終わりなき挑戦 

ホームページ:https://jsaae36.secand.net/index.html

大会事務局:日本実験動物代替法学会第 36 回大会事務局 

千葉大学大学院薬学研究院 生物薬剤学研究室 

〒260-8675 千葉市中央区亥鼻 1-8-1 

TEL: 043-226-2887、FAX: 043-226-2887

E-mail: jsaae36@gmail.com 

運営事務局: 株式会社 JBE 

〒140-0004 東京都品川区南品川三丁目6番地51号 NK南品川301 

TEL: 03-6718-4952、FAX: 03-6718-4952

E-mail: jsaae36@jbe.co.j

コラム

非アルコール性脂肪性肝疾患のモデルマウス

 糖質を増加させることもNAFLD/NASHの発症や進行に影響を与えます。特に過剰なフルクトースはマウスの肝臓に深刻な障害をもたらします[3]。腸管で吸収されたフルクトースは殆どが肝臓で取り込まれアセチルCoAに変換されます。合成されたアセチルCoAはクエン酸回路を介してATP合成に使用されますが、余剰分については脂質合成に用いられることで脂肪肝の原因となります[5]。また腸管においては、フルクトースは腸内細菌叢の異常な増殖を促すことで、門脈を通じて肝臓に流入するバクテリア由来のエンドトキシン量を増やします[3]。結果的にクッパー細胞をはじめとした肝臓内の免疫細胞が活性化され、肝炎の原因となると考えられています。初期の研究でフルクトースとグルコース(以上単糖類)、ショ糖(二糖類)を自由給餌させたマウスではフルクトースが最も肝臓への傷害が大きいことが示されましたが、その後の研究で、フルクトース単独給餌よりグルコースとの混合液の方が腸でのフルクトースの取り込みが促進され、障害が大きくなるという知見もあります[5]。

 肝臓は中性脂肪をVLDL(超低密度リポタンパク質)の形で血液中に放出します。VLDLの放出にはVLDLを構成する主要リン脂質であるホスファチジルコリンが必須であることから、その材料となるメチオニンやコリンは肝臓からの脂質の排泄に不可欠といえます。そこでメチオニンやコリンを欠損させた餌(MCD)を与えることで肝臓に脂質を滞留させることも、NAFLD/NASHを誘導させるために古くから使用される手法です[10]。この方法の欠点は、メチオニンの欠損が肝臓以外の部位にも悪影響を与えることです[16]。事実、MCD給餌マウスでは、顕著な筋重量の減少が知られています。従って純粋に肝臓の異常に起因する変化を解析したいときには不向きなモデルといえます。

 一方、コリン欠乏L-アミノ酸添加飼料(CDAA)モデルもNAFLD/NASHの誘導に広く用いられます。この動物モデルでも、脂肪肝、肝細胞傷害、肝線維化、さらに肝がんの発症が認められますが、体重や肝重量、インスリン感受性などは通常飼育下のマウスと大差ないので、ヒトのNAFLD/NASH病態とは異なる部分があると考えられます[14]。このモデルはラットでは劇的な肝障害をもたらしますが、マウスでは障害作用が限定的であり、実験個体によっては全く障害がみられないこともあることから[16]、個体数削減を考えるうえでは推奨できません。

 このように食餌性NAFLD/NASH誘導モデルには様々な長所・短所が知られていますが、時間をかければ高脂肪餌給餌によって、最終的にマウスに高い確率で肝障害をもたらします。中外製薬の松本らは、この点に着眼しました。彼らはCDAAと高脂肪餌を組み合わせた、コリン欠乏0.1%メチオニン添加高脂肪飼料(CDAHFD)によるNASH誘導モデルを考案しました[13]。CDAHFDを3週間給餌したC57BL/6マウスはCDAA給餌マウスモデルと異なり明らかな肝肥大が認められました[13] (図1)。このモデルでは給餌開始1週間後より脂肪肝の組織像が認められ、血中ALT値が増加します[13]。さらに給餌6週目には高率に肝線維化が認められます[13]。このようなことから、CDAHFDは現在、広くNAFLD/NASH誘導モデルに使用されています。

図1.通常餌またはCDAHFDを4週間給餌したマウスの肝臓の肉眼所見

 CDAHFD(コリン欠乏0.1%メチオニン添加高脂肪飼料、本文参照)を給餌したマウスの肝臓は脂肪肝に伴う臓器色の変化と腫大が認められる。

コラム

ミネラル調節ホルモン「スタニオカルシン-1」:変わらずに変わった変わり者?

II. スタニオカルシン(Stanniocalcin;STC)-1とは?

上で述べた通り、魚類、特に海水魚は、水中から流入した過剰なカルシウムを鰓や腸から排泄します。硬骨魚類には、腎臓にスタニウス小体とよばれる器官が存在しますが、そこから分泌されるスタニオカルシン-1(以下STC1)というホルモンが、血中カルシウム濃度を「下げる」役割を担っています [1, 2](図2)。実際に、スタニウス小体を除去した魚類は高カルシウム血症を呈することが報告されています [3]。また、淡水魚であるコイ類はスタニウス小体が2個であるのに対し、淡水海水両方で生育できるサケ科魚類はスタニウス小体が4個あります。このことからも、STC1が血中カルシウム濃度の維持に重要なホルモンであることが想像できます。一方、哺乳類においては、主に上皮小体ホルモン(PTH)や活性化ビタミンDが血中カルシウム濃度を「上げる」役割を担っています。加えて、血中カルシウム濃度を「下げる」ホルモンとしてカルシトニンが存在します。以上から、哺乳類ではSTC1は、本来の役割を終えて退化していても不思議ではありません。ところが驚くべきことに、魚類から哺乳類まで、幅広くSTC1が保存されています(図3)。このことから、STC1は生体にとって何らかの重要な役割を担っていることが予想されましたが、STC1遺伝子のノックアウトマウスには一切の異常な表現型が見られません [4]。一方で、STC1を全身に過剰発現させたトランスジェニックマウスは、矮小(dwarf)になり、筋肉内のミトコンドリアが肥大化し、エネルギー浪費型となることが報告されています [5]。この報告から、哺乳類では、STC1がミトコンドリアに何らかの作用を有することが予想されますが、その全体像は未だによくわかっていません。

コラム

動物福祉の評価ツールのご紹介-3 福祉を評価するツールを紹介するサイト2: NC3Rsの Welfare Assessment

1.福祉指標の策定

このガイドラインは福祉指標として着目すべき事柄を以下の6つのカテゴリーに分けています。詳細については、欧州委員会の「苦痛度評価の枠組みに関する作業文書」の13ページ下から始まる表“Appearance / Body Functions / Environment / Behaviours / Procedure-specific indicators / Free observations”を引用する建付けになっています。動物の状態のチェックリストとして使うと考えると、この表で十分ではないかと思います。

●身体、被毛、皮膚の状態を含む外見(例:身繕い行動の低下、ラットのポルフィリン着色)

●身体機能(例:摂餌・摂水量の減少、体温の変化など)

●ケージやペンなど内の環境(例:巣の質、排せつの場所など)

●行動(社会的相互作用、姿勢、歩行、常同行動のような望ましくない行動など)

●実験方法特有の指標(例:がん研究における腫瘍の大きさなど)

●自由観察(観察者が予測しなかった苦痛の指標を見た場合、自由にテキストを入力できるようにする)

福祉指標の策定の進め方は以下のように記載されています。

●最初に、各手技に適した福祉指標を具体的に定義する。

●「手順全体を検討」し、「発生しうる苦痛の種類と原因を特定」することから始める。

●「肉体的苦痛」だけでなく、「不安や苦痛」、「科学的処置の直接的影響」、さらに「取り扱いや拘束、あらゆる飼育上の制限」、「安楽死の影響」なども検討する。

●体重などの「客観的基準」と、被毛の状態、姿勢、社会的行動などの「主観的指標」を組み合わせる。

●「重大な苦痛を示す指標(毛玉など)」ばかりに注目するべきではない。また、「劣悪な福祉状況を早期に発見できるような指標(巣の状態の悪化など)」も含める。

●マウスの開腹手術後の苦痛の状態について「術後に鎮痛処置を施さなかった場合、鎮痛処置を施した場合と異なり、心拍数の上昇などが24時間認められ、体重と摂餌量の減少が2・3日続いた」と報告1)されている。

●「指標の数」は、苦痛の兆候を確実に検出するのに十分で、かつ、有能な観察者がその動物を自由に評価できる「設定時間内で観察可能なもの」とする。

●福祉状況記録用紙に「自由記述欄」を設け、追加観察事項を記録可能とする。

●観察のタイミングと頻度は、動物の通常の活動パターン、科学的処置のタイミング、起こりうる苦痛のレベルなどを考慮する。例えば、ラットやマウスは夜行性なので、観察を動物が眠っているはずの明るい時間帯(人間の労働時間)だけに限定すると、重要な行動指標を見逃す可能性がある。同様に、術後や疾患の経過における重要な時期など、有害事象が発生しやすい時期には、より頻繁に評価を行う必要がある。

コラム

動物福祉の評価ツールのご紹介-2
〜福祉を評価するツールを紹介するサイト1:USDAのNational Agricultural Library〜

Welfare Assessment Training and Resources動物福祉の評価のトレーニングとリソース

1)”CCAC Guidelines: Animal Welfare Assessment

 カナダ動物愛護協議会(CCAC, Canadian Council on Animal Care)が2021年に作成したガイドラインへのリンクです。このガイドは、なぜ福祉を評価するのか、福祉指標を特定し、福祉評価の文書化について説明しています。このガイドラインの要点を、極端に短くまとめれば、以下の5点に集約できます。

 ・評価の監督は委員会が担うが、評価そのものは評価実施者に任せる

 ・動物は健康であるべき

 ・福祉評価は定期的に実施する

 ・評価に用いた情報は研究者などが利用できるよう記録する

 ・評価の結果を動物実験委員会は利用する

2)“Welfare Assessment

 “動物実験の3Rsの推進”を図る、英国NC3Rs(The National Centre for the Replacement, Refinement & Reduction of Animals in Research)が作成した“Welfare Assessment”ガイドにリンクしています。このガイドでは、以下の情報を提供しています。

 ・福祉指標の特定

 ・実際上の侵襲性の評価と報告

 ・効果的な記録の保持とレビュー

 ・スタッフのトレーニング

 ・関連リソース

3)“Guide to Welfare Assessment Protocols

 苦痛の軽減(Refinement)に関する英国合同ワーキンググループ(JWGR)が2011年、Laboratory Animals誌に発表した“A guide to defining and implementing protocols for the welfare assessment of laboratory animals: eleventh report of the BVAAWF/FRAME/RSPCA/UFAW Joint Working Group on Refinement へのリンクです。このガイドには、動物の苦痛の軽減に関する事項がかなり細かく記載されています。

 ・効果的な福祉評価スキームのための一般原則

 ・チームアプローチ

 ・良好な福祉の定義

 ・適切な福祉指標の選択

 ・動物福祉指標の記録システム

 ・評価のタイミング・期間・頻度

 ・実践的な福祉評価(観察・潜在的な福祉問題の指摘)

 ・福祉記録の確認

 ・倫理・動物愛護委員会との連携

 ・さらなる情報へのアクセス

コラム