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動物福祉の評価ツールのご紹介-3 福祉を評価するツールを紹介するサイト2: NC3Rsの Welfare Assessment
2.実際上の侵襲性(物理的および心理的傷害)の評価と報告
ここでは、NC3Rsを設けている英国のガイダンス“Guidance to the Operation of the Animals (Scientific Procedures)Act 1986”2)に基づいて重症度の分類や分類時の注意点について説明されています。
●「適切な資格を有する者」は、各処置の実際の重症度を「回復しない」、「軽度」、「中度」、「重度」に分類しなければならない。
●この分類の根拠は、将来的な重症度や処置の種類ではなく、日々の(ケージサイドでの)福祉評価を総括したものなので、その場で目にする重症度とは違うかもしれないし、その後の状況によっては重症度も変わっているかもしれない。
これはつまり、「求められる知識やスキルを保持している人が重症度をしっかりと判定しなさい。加えて、重症度はさまざま条件で変化するので、通り一遍にならないようよく見なさい」ということだろうと思います。
なお、より詳しいガイダンスは、“European Commission severity assessment document and examples”に格納されている” European Commission (2012) Working document on a severity assessment framework“と”European Commission (2013) Examples to illustrate the process of severity classification, day-to-day assessment and actual severity assessment “を見るようにとも記載されています。
動物福祉の評価ツールのご紹介-2
〜福祉を評価するツールを紹介するサイト1:USDAのNational Agricultural Library〜
“Literature on Welfare Assessment and Indicators” 動物福祉の評価と指標に関する文献へのリンク集
福祉評価と福祉指標に関する文献を検索できるよう、産業動物用にPubAg、そして実験動物用にPubMedへのリンクが検索式とともに配置されています。検索式や検索文字列作成の詳細についても触れていて、丁寧です。
“Grimace Scale”
Grimace Scaleは「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説」(平成29年10月)に記載があり、実験動物種ではいまや標準的な福祉指標になっていますが、典型的な実験動物種以外の動物について詳しく調べようとすると案外骨が折れるので、このページを知っていると便利です。Grimace Scaleは、顔の様々な部位や体の姿勢を評価することで、動物の痛みを評価するために用いられるスコアリングシステムです。このパートでは典型的な実験動物種や家畜以外の情報にもリンクが貼られています。
“その他の Web リソース”
最後のパートでは、マカクや動物園動物の福祉アセスメントにも対応できるようリンクが貼られています。
今回はこのくらいにして、次回は、英国NC3Rsの“Welfare Assessment”を扱いたいと思います。
なお、米国USDAの”Animal Welfare Assessments“を閲覧される際には、ぜひ一度は、National Agricultural LibraryのトップサイトのTopicsメニューを開いて”Animal Health and Welfare”のページにも寄ってみて下さい。いろいろな情報があることにお気づきになることと思います。
動物福祉の評価ツールのご紹介-1
〜AVMA主催の“学生動物福祉状況の評価コンテスト”〜
さて、イリノイ大のニュースによると、このコンテストの目的は、「農業、研究、伴侶など、人間のために使用される動物に影響を与える福祉問題の理解と認識を高めるための教育ツールを経験することであり、倫理的推論に対する理解の上に、科学的理論とデータに基づいた動物福祉の客観的評価を促し、批判的思考を促進し、コミュニケーション能力を向上させる」ことです。参加対象は、3・4年学部生、獣医学部生、院生(1チーム3-5人)であり、動物看護師やAVMA会員の獣医師も少数に限り参加できます(ただし、コンテストの対象外)。参加者はいくつかのシナリオに沿って出題される動物とその福祉状況を分析して、その中から優れたシナリオを選び出し、発表するというものです。
ニュースでは、“動物福祉のさまざまな事象をそのときどきの断片として客観的かつ定量的に評価することも可能ですが、福祉問題は連続したものであり、どのあたりで許容できるか、どのあたりが好ましいか、または許容できないかの判断は、多くの場合、倫理に基づく選択に帰着するものです。コンテストでは、問題解決へ学際的にアプローチするため、科学に基づく知識を倫理的価値観と統合することを学生に教えています”という風に審査の方法について説明しています。私たちが学生の動物福祉評価を審査するのであれば、北米でどのような基準やチェック方法に従って動物福祉が評価されているのかの具体例を知りたいところです。
今回はこのくらいにさせていただいて、次は、動物福祉評価のツールについて整理していきたいと思います。
参考文献
1) Beaver B. V. and Bayne K, Chapter 4 – Animal Welfare Assessment Considerations, Laboratory Animal Welfare, 29-38 (2014)
2) Animal welfare judging team provides unique experiential learning for students. (cited 2022. Oct.28)
3) AVMA Animal Welfare Assessment Contest. (cited 2022. Dec. 05)
実験動物の飼育環境
Cedars-Sinai Medical Centerの研究グループは、日和見病原性真菌であるカンジダ菌がマウス腸内に存在しており、DSS投与で大腸上皮が傷害を受けバリア機能が破綻した際にデクチン1が存在しないとカンジダ菌をうまく排除出来ずに炎症が増悪化すると説明していました。これはヒトMRUC患者でも同様に説明可能とのことでした。デクチン1は特定の真菌に対する自然免疫センサー分子としての役割を持っていることから、まさに予想されうる結果です。一方、私たちの動物は極めてクリーンな環境で飼育していたことから腸内真菌が存在せず、このような増悪化は起こりようがなかったのです。そのため、デクチン1の持つ別の機能によって腸管が抗炎症の状態になっていたのです(詳細については参考文献5,6,7をお読みください)。
3. 最後に
私たちは、再現性のある質の高い動物実験を担保するために、実験動物をクリーンな状態を保ちながら大切に飼育しています。これはがん研究や再生医療研究には欠かせないものなのですが、免疫学などに関係する研究を行う際には、少し注意が必要です。SPF環境で飼育されたマウスの免疫状態は、ヒトでいうと未成熟な幼児の状態に近いとの報告もなされています(8)。すなわち、病態を発現させるため“ちょうどよい”程度の感染症(環境微生物)への暴露も必要という概念もあると思うのですが、それをコントロールし、さまざまな研究に対して適切な環境を一律に提供するというのは現実的ではないのかもしれません。
最近、コロナ感染を防ぐ目的による過剰な対応(行き過ぎた清潔な環境維持)のため、子供たちが幼少期にかかることの多い疾患(サイトメガロウイルス、EBウイルス、トキソプラズマなど)にかからずに大人になってしまうことが想定されており、将来の危険性が憂慮されています。
ヒトの現実社会も、実験動物の衛生管理も、一筋縄ではいきませんね。
4. 参考文献
1. 実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準 (環境省)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/nt_h180428_88.html (cited 2022. Sept. 29)
2. 実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説 (環境省)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2911.html (cited 2022. Sept. 29)
3. 六匹のマウスから―「私史」日本の実験動物・45年 講談社(1991)
4. Iliev I.D. et al., Interactions between commensal fungi and the C-type lectin receptor Dectin-1 influence colitis. Science 336(6086): 1314-17 (2012) DOI: 10.1126/science.1221789
5. Tang C. et al., Inhibition of Dectin-1 Signaling Ameliorates Colitis by Inducing Lactobacillus-Mediated Regulatory T Cell Expansion in the Intestine. Cell Host Microbe 18 (2): 183-97 (2015) DOI: 10.1016/j.chom.2015.07.003
6. 唐 策ら.低分子βグルカン摂取により炎症性腸疾患を予防,改善する 昆布がお腹の調子を整える!—腸内細菌を介した分子機構の解明— 生物と化学 55(2): 128-34 (2017) DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.128
7. Iliev I.D. Dectin-1 Exerts Dual Control in the Gut. Cell Host Microbe 18 (2): 139-41 (2015) DOI: 10.1016/j.chom.2015.07.010
8. Beura L.K. et al., Normalizing the environment recapitulates adult human immune traits in laboratory mice. Nature 532(7600): 512-6 (2016) DOI: 10.1038/nature17655
国内承認ワクチンの非臨床試験を垣間見る 〜ワクチン開発と動物実験〜
日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)での合意に基づき、「医薬品の臨床試験のための非臨床試験の実施時期についてのガイドライン」が2010年に改正され、「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験実施についてのガイダンス」がまとめられて現在に至っている (ICH-M3{R2})3)。この改正の主な目的は、承認審査資料の国際的なハーモナイゼーションを推進することにあり、「動物実験の3Rsの原則」に従うこと、および「早期探索的臨床試験のための非臨床試験」という概念を導入することなどにあり、これ以降、毒性試験や薬理試験など12の試験項目の安全性(Safety)についてICHガイドラインが各々整備されてきている (ICH-S1~S12)。
臨床第Ⅰ相試験の初期に実施される「早期探索的臨床試験」に応じて、ヒト初回投与試験までに実施すべきマイクロドーズ試験や単回投与毒性などの非臨床試験が、げっ歯類および非げっ歯類を用いて実施される。すなわち「早期探索的臨床試験の開始時までに実施される非臨床試験は一部にすぎず、実施予定の臨床試験の時期や期間に応じて非臨床試験がデザインされる」のが一般的である。
この分野の専門家ではない著者の私見ではあるが、「ほとんどの動物実験(試験)がヒト臨床に先だって実施されるもの」という、現実からやや乖離した先入観が社会の根底にあるように感じている。時に動物実験(試験)は「非臨床試験(前臨床試験)」などと記載されることもあり、研究者による社会に向けた正確な情報発信という点で誤解を生み易い表現には都度解説する必要があると自戒を込めて考えている。
【参考アドレス】
1. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) 「医療用医薬品 情報検索」
2. 一般社団法人日本医薬情報センター(JAPIC) 「医薬品情報データベース (iyakuSearch)」
3. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) 「ICH 医薬品規制調和国際会議 ガイドライン 」
マウスやラットの技術トレーニングで使用される代替法教材
2. 映像教材
実際に、動画による視覚的イメージが、技術の習得に大きく貢献することが、アメリカの獣医学生を対象とした調査で明らかとなっています。犬の外科手術の際に、教員の講義内容(声)、シュミュレーターでの練習内容、自らまとめたノート、動画教材の視覚的イメージなどの学習内容うち、記憶をどこからリコールしたかを調査したところ、動画の視覚的イメージと回答した学生が圧倒的に多かったと報告されています(2)。
映像教材はビデオカメラがあれば簡単に作成することが可能であり、各施設においてオリジナルの動画が作成・活用されています。また各種関連団体でマウスやラットの基本手技のDVDが販売されています。
映像教材と上述のシミュレーターと組み合わせることによって学習効果はさらに高まります。
・ビデオジャーナル:JoVE
JoVE(Journal of Visualized Experiments)は動物実験技術に限らず様々な分野の実験技術をマニュアル付きで多数公開している査読審査式のビデオジャーナルです。各実験技術の動画が専門家の解説付きでまとめられており、新しく実験系を立ち上げる際などに役立ちます。
JoVEに掲載されている実験動画の例:A Protocol for Housing Mice in an Enriched Environment
・解剖シミュレーションアプリ:3D Rat Anatomy
研究目的で解剖を行う際には、速やかかつ適切に臓器を採材することが要求されますが、そのためには各臓器の位置関係を理解しておく必要があります。3D Anatomyシリーズは3Dアプリの特性を利用することで、各臓器の立体的な位置関係を学習するのに有用な教材です。このシリーズでは犬や牛、鳥類をはじめとした様々な動物種のアプリがラインナップされていますが、小型齧歯類ではラットのアプリが販売されています。アプリはPC(WindowsおよびMacOS)、iPad、iPhone、Androidスマートフォンなど各種端末にダウンロードすることができます。3D Rat Anatomyは画面上の動物の各部位を拡大縮小、回転することができ、各器官の位置関係を容易に可視化することができます。また、骨、筋肉、内臓の透過度を調整したりすることで観察したい部位を強調することができます。なお3D Rat Anatomyは海外製品のため、器官名の表記がすべて英語となります。
biosphera HPにアプリのデモ動画が掲載されています。

[参考文献]
1. Corte GM, Humpenöder M, Pfützner M, Merle R, Wiegard M, Hohlbaum K, Richardson K, Thöne-Reineke C, Plendl J. Anatomical Evaluation of Rat and Mouse Simulators for Laboratory Animal Science Courses. Animals (Basel). 2021, 11(12):3432.
2. Langebæk R, Tanggaard L, Berendt M. Veterinary Students’ Recollection Methods for Surgical Procedures: A Qualitative Study. J Vet Med Educ. 2016, 43(1):64-70.