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実験動物と伴侶動物の二刀流獣医師

とちぎ うさぎ・ことり・ちびっこ動物の病院 早稲田大研究推進部 獨協医科大薬理学講座 寺田節

はじめに

獣医師として活躍できる場は多く、小動物臨床、大動物臨床、公務員、研究職などの選択肢を挙げることができる。その選択肢の中には実験動物の管理に携わる獣医師もある。さらに深く掘り下げると、その獣医師のなかには実験動物医学専門医の資格を有し、より専門的な見地から携わっている獣医師もいる。実験動物医学専門医の資格の有無に関わらず実験動物の管理に携わる獣医師は不足しがちなのが現状である。個人的な意見として、獣医師を目指して大学に入学する学生の多くは、「動物の命を救う」という目標を胸に勉学に励んでおり、動物実験はその志と相反するものであると認識している学生が多いと思われる。そのため、動物実験に携わる獣医師の道に進む学生が少ないのではないかと推察する。私自身もそんな学生のひとりであったが、実験動物学教室の門をくぐることになるのである。

なぜ二刀流獣医師になったのか

将来、競走馬の獣医師になりたいと大学に入学したのだが、研究室配属の際に、学生のうちにしかできない勉強をしたいと思い、当時「動物行動学」を研究していた実験動物学教室の斎藤徹先生に師事したのがはじめの一歩であった。斎藤徹先生は㈶残留農薬研究所毒性部室長の経歴を持つ実験動物学の専門家であり、厳しい指導の下実験動物学及び研究の基礎を学ぶこととなるのである。さらに私の運命を決定づけたのが、私が大学院生の時に斎藤徹先生が大学附属病院にて特殊動物診療科を立ち上げたことであった。これは今で言うエキゾチックペット(犬猫及び野生動物以外の動物)の診療科であり、私はそこの立ち上げメンバーに選ばれたのである。卒業後、医科大学実験動物センターの教員及びセンター長の傍ら、外勤制度を利用してエキゾチックペットの臨床獣医師の非常勤を12年間経験した後、動物病院を開業し実験動物医学専門医と小動物臨床獣医師の二足の草鞋を履き活動することとなる。現代で言う二刀流である。

二刀流の根底は動物への苦痛軽減

 実際、動物実験では実験に用いられる動物の多くは最終的に安楽死処置される。したがって初心で抱いていた「動物の命を救う」という考えに反するのではとジレンマに陥る。しかしながら、医学・獣医学研究において動物実験は必要である。そこには獣医師が不可欠であり、特に実験動物医学専門医の存在が重要となる。二刀流で活躍する中で、見えてくる境地がある。実際には私自身、動物実験も臨床も動物に対しての考え方は根底では同じであると理解している。この理解があるからこそ、二刀流が成り立ち、そんな私だからこそできるアプローチで動物実験及び臨床と活躍の場を広げているのだと考えている。

 基本的に動物実験は法律、ガイドライン、規程等に則り実施されている。その中でも獣医学的ケアは重要な位置づけとなっており、実験動物医学専門医の活躍の場となっている。動物実験に携わる研究者たちは、必ずしも実験動物に精通しているわけでもなく、ましてや獣医学的ケアが全ての実験動物に行き届くとは限らない。動物実験の一部では苦痛度の高い研究も行われるため、これら実験動物において苦痛の緩和に配慮することが求められる。臨床においては伴侶動物たちには飼い主がいて、多くの愛情を注いでもらいながら暮らしている。そんな伴侶動物では飼い主の意識が高く、病気や傷害からの苦痛を取り除くことを求められ、獣医師として積極的に苦痛軽減を行うこととなる。苦痛軽減の方法は多岐にわたり鎮痛薬等の種類も多い。これら知識は実験動物における苦痛軽減にも活かされている。もちろん動物実験において人道的エンドポイントが存在し、鎮痛薬等を使用しても軽減できない苦痛を呈している実験動物には安楽死処置が行われる。一方で我が国の伴侶動物医療において、この「安楽死」は一般的に受け入れられているとは限らない。しかしながら、私は各国、各学会等の動物実験のガイドライン等を参照し、飼い主に安楽死の重要性を説明することもある。これは実験動物医学専門医である知識が活かされているが、根拠なく飼い主に安楽死を勧めることは望ましいとは思えず、伴侶動物の苦痛軽減を最大限に考慮して説明している。

 私が考える二刀流獣医師の考えの根底は動物の苦痛軽減を最大限に追求することと考える。それは治療することはもちろんのこと、治療困難な動物においても積極的に苦痛軽減を行い、動物の福祉を守ることに集約される。

二刀流の利点

 現在は、臨床獣医師に主軸を置き、特にエキゾチックアニマルを専門で診察を行っている。動物実験に携わる期間が長かったことから、マウス、ラット、ハムスター、ウサギと小さい動物の扱いは慣れていて、また手術も実施することができる。実験動物医学専門医からの視点では当然のことであるが、臨床獣医師からの視点では、げっ歯類等の小型動物に麻酔を施し手術をすることの難易度は並大抵ではない。多くの臨床獣医師は、これら動物の扱い方、麻酔方法及び手術が不慣れもしくは不可能なことから敬遠する傾向が強い。そのため現在では近隣の動物病院より症例を紹介していただく機会が多く、近隣のエキゾチックアニマル、飼い主及び動物病院に貢献できていると自負している。また、動物実験は医科大学で経験を積んでいたため、医師の友人が多くでき、その医師たちから医学のスキルを学ぶ機会を得ることが、今の臨床獣医師としての糧となっている。当然、診療で困ったときも相談できるため、重宝しているのも事実である。

 実験動物医学専門医としては、企業等の管理獣医師及び大学関連の動物実験委員等の役職をいただいている。そこでは動物実験が適切に実施されているか、動物福祉・倫理が遵守されているか目を光らせている。臨床獣医師の肩書もあるせいか、麻酔方法、鎮痛剤等の苦痛軽減方法及び治療等の問い合わせでは説得力のある様々な方法を提案することができる。また、疾病に対して早期に診断することも可能である。近年の実験動物は非常に清浄度の高い環境で飼育繁殖されているため、感染性の疾病を見る機会が少ない。一方で、小動物臨床の現場では感染症を含む様々な疾病と遭遇する。そのため小動物臨床での経験が動物実験で活かされるのは疾病の診断治療によるところが大きいと思う。

おわりに 二刀流獣医師ならではのアプローチで相反すると思われる分野でも、お互いの経験を活用し、それぞれのスキルを高めることは可能であり、逆にそれぞれの分野での信頼を得られる機会でもあると考える。この二刀流獣医師は何も私だけができることではなく、多くの獣医師でも活躍は可能であり機会を得ることができると考える。ひとつの分野に縛られることなく、多くの機会、経験を得て、スキルを高め、多種の分野で活躍できる獣医師が今後誕生することを切に願う。

コラム

シンガポールにおける動物研究施設の運用

【NACLAR Guidelines: Training】

本セクションでは、実験従事者、ケアテーカー、獣医、IACUCメンバーなど役割に応じて、必須もしくは推奨されるトレーニングが細かく定められております。細かい部分は機会がありましたらガイドライン自体を見ていただきたいのですが、ここでは特に重要度の高いResponsible Care and Use of Laboratory Animals Course (通称RCULAC) とSALAS Basic IACUC Trainingについて取り上げます。

RCULACはNParks/AVSが認定した施設から提供されるトレーニングで、多くの役割に対して必須という位置づけになっています。動物実験に関する法律・倫理・手技等の基礎を学ぶ研修で、座学パートと実際に動物を使用する手技パートで構成されており、手技パートは動物種ごとにコースが分かれています。座学パートは試験をパスすることで、手技パートは実習を完了することで受講証が発行され、それぞれの役割に従事できるようになります。座学パートはかなり細かい部分までNACLAR Guidelinesを理解する必要があったため、英語というハンデも加わり、試験に合格するか、とても緊張したのを覚えています。

2022年の改訂から座学は5年ごとrefresher courseの受講を、手技は2年以上のブランクがあれば再受講を推奨する、という文言が加わり、認定施設からもrefresherに合わせたトレーニングの提供が開始されました。

SALAS Basic IACUC Trainingは、NParks/AVSが認定したSALASという機関から提供されるトレーニングプログラムです。ガイドラインでは半数以上のIACUC委員が、IACUCに関する正式なトレーニングを受講することを義務付けており、SALAS Basic IACUC Trainingはガイドライン中にも紹介されている、シンガポールで最もメジャーなトレーニングという位置づけです。IACUCの運営に特化した内容で、前半に法規制・研究倫理・動物施設運用を学ぶ座学パートを受講したのち、後半では5-6人のグループに分かれた模擬IACUC委員会を行うという二部構成となっています。模擬IACUC委員会では、AVSの方や有識者が議長となり、事前に用意された研究計画書をもとに議論を実施します。

実際に私が参加した際は、議長から「研究目的と実験方法が合致していると思う?」「3Rsがちゃんと考えられている?」「使用匹数の計算は適切?」といった点について矢継ぎ早に意見を求められた他、「あなたなら実験従事者に対してどのような確認をする?そしてその意図は?」といった形の問いかけもあり、「IACUCとして重要なポイントは何か」を学ぶだけでなく、「自分で考える力」の育成も重視しているのだと感じました(その分、トレーニングはタフでしたが・・・)。また議長より、「科学者だけでなく、一般の人々も理解・納得できるか、という視点を忘れないように」というアドバイスもいただきました。

【NACLAR Guidelines: Occupational Health and Safety】

従事者の安全を守るために、Occupational Health and Safetyについて、改訂前のガイドラインでも触れられておりましたが、2022年の改訂より1つのセクションとして独立しました。本セクションでは、全ての動物研究施設においてoccupational health and safety program (OHSP) の確立・維持を義務付けており、OHSPについての具体的な項目と考慮すべき点が定められています。OHSPの例として、以下が挙げられています。 危険源の特定とリスクアセスメントの実施と、特定したリスクの低減策の実施事故発生時の報告ルートの確立緊急時の対応プランの確立従事者の健康チェックと予防措置の実施施設や設備の設計及びモニタリングを通した安全策の実施

いずれの項目も、動物研究施設に限らず、職場の安全性を確保するために当たり前のことですが、明文化することで抜け漏れなく対応することが容易になりました。またガイドラインは動物施設の関係者だけではなく、安全衛生や研究倫理等に関わる様々な部門と協働することを求めており、より効果的なOHSPの確立を意識した内容となっています。

【さいごに】

以上、簡単にシンガポールの動物研究施設の運用について紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか? 当然日本と共通するところもありますが、少し違った部分もあったかと思います。本コラムが、動物福祉や動物研究施設の運用を考えるうえで、少しでも参考になりましたら幸いです。

<参考>

Animals and Birds Act 1965 (2020 Revised edition), https://sso.agc.gov.sg/Act/ABA1965 (Accessed: 27 October 2023).

Animals and Birds (Care and Use of Animals for Scientific Purposes) Rules (2007 Revised Edition), https://sso.agc.gov.sg/SL/ABA1965-R10 (Accessed: 27 October 2023).

Guidelines on the Care and Use of Animals for Scientific Purposes Second Edition 2022, https://www.nparks.gov.sg/-/media/naclar-guidelines-(second-edition)_v2.ashx (Accessed: 27 October 2023).

コラム

蚊のぬれに着目した新しい蚊対策



 まず蚊の脚をよく見てみます。細かいうろこがびっしりと付いています(図1A)。しかもこのうろこひとつひとつが、水をはじく成分で覆われています。つまり蚊の脚は、成分的にも構造的にも、よく水をはじくのです。そのため蚊は、水に降り立つことができるし、水辺に卵を産むこともできます。それでは、この脚が水をはじけないようにすればよいのではないのでしょうか?そこでシリコーンオイルです。蚊の脚のうろこをたくさん集めて、うろこじゅうたんを作ります。その上に、水とシリコーンオイルをたらしてみます。そうすると水は丸い液滴になってはじかれるのに対し、シリコーンオイルは蚊の脚になじんで、ぬれ広がっていきます(図1B)。先ほど蚊が降り立つことができた表面にシリコーンオイルを塗布すると、0.07秒という短い間に飛び去っていくことがわかりました(動画2)。このとき蚊は何を思って逃げていくのでしょうか?シリコーンオイルに触れたときに脚にかかる力を測りました(図1C)。水に近い性質の液体、グリセリンに脚をつけると、脚には反発する力が働きます。一方で、シリコーンオイルに脚をつけると、脚には引き込まれる力が働くことがわかりました。その力はなんと、蚊の体重の80%でした。60キロの人が、いきなり泥沼にはまり、かつ48キロの力で引っ張られるところを想像してみます。たしかにものすごく嫌ですね。実際に肌にシリコーンオイルを塗っても、蚊は肌にとまりませんでした(動画3)。

図1:蚊の脚におけるシリコーンオイルの作用。

A) 蚊の前脚の電子顕微鏡写真。B) 蚊の脚から集めたうろこに水(上)とシリコーンオイル(下)を滴下した様子。C) グリセリン(◆)とシリコーンオイル(●)に蚊の脚を浸漬したときに蚊の脚が受ける力。

動画2:シリコーンオイルによる降着忌避

動画3:シリコーンオイルを塗布した肌に蚊がとまらない様子

コラム

老化研究と実験動物

3.老化細胞除去薬(Senolytics drug)とは?

現在開発途上の老化細胞除去薬の一例として、ダサチニブとケルセチンという薬剤をご紹介します。ダサシチニブとケルセチンはいずれも老化細胞を選択的に除去する作用を有しており、この2種類の薬を併用することで老化細胞のアポトーシス抑制機構を抑制します(つまり、老化細胞のアポトーシスを促進します)。実際に、この薬をマウスに投与した実験では脂肪肝の減少(13)、肺線維症の改善(14)、アルツハイマーモデルの脳における神経原線維変化が軽減されました(15)。加えて、自然老化マウスの運動機能の改善や寿命の延長、ヒト由来の脂肪細胞からのSASP因子の分泌抑制(16)などの効果も確認されており、ヒトへの臨床応用も検討されています(17)。

4.老化研究に用いられる実験動物

ヒトの老化研究はBLSA(Baltimore Longitudinal Study of Aging) が最古の研究とされており、加齢に伴う代謝機能不全や血液学的変化、歩行速度の低下、認知機能低下といった知見を与えてきました。ですがヒトの平均寿命は80年を超えていることから、研究には長期的な期間を要する上、それに伴い多大なコストを要するといった問題や、検体のサンプリングの制限など大きな制約をいくつも抱えています。

このような問題から、出芽酵母、線虫、ショウジョウバエの老化モデルが用いられてきましたが、ヒトの老化で見られる免疫系や各臓器の老化、痴呆症などの脳神経疾患などを評価するためには、哺乳類モデルが必要不可欠です。非ヒト霊長類を用いたカロリー制限の研究は記憶に新しいと思いますが、非ヒト霊長類の老化研究も非常に時間がかかる研究です(18)。一方、げっ歯類は世代が短く、寿命が比較的短く、取り扱いや飼育に便利であることから、老化研究における哺乳類モデルとして最も使用されております。現在まで、マウスを用いて、寿命に影響を与える様々な因子が検討され、活性酸素除去(19)やテロメア長は寿命に与える効果が不明であり(20)、サーチュイン活性化(21)、メトホルミン投与(22)、mTORC1阻害(23)、GH/IGF-1シグナルの抑制(24)などは、マウスに対して延長効果があることが報告されております。老化は、このような様々な生命現象が複合的に折り重なって起こる現象であるようですこうした老化の機序や治療研究には、遺伝子改変マウスに加え、自然老化したマウスや早老症のモデルマウスが大きく貢献してきました。しかしながら、老化におけるマウスとヒトの相似性と相違性は未だ不明であり、マウスの標準的な老化を包括的に理解する必要が生じてきました。つまり、ヒトへの外挿性について検討が必要となっている状況です。

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第4回)

今後の課題

 本会も昨年 20 周年を迎え、ようやく軌道に乗って来た感がある。ここで、学会としての今後の課題を一つあげる。我が国では動物実験に関する法律や各種規定、指針には獣医師の必要性や役割が全く記載されていないことがある。動物愛護管理法、実験動物に関する基準、文科省を始め 各省庁の動物実験に関する基本指針のどこにも「獣医師」はもとより「獣医学的管理」という言 葉すら見つけることができない。このようなことは世界の主要な国々ではあり得ない。国際医学団体協議会(CIOMS)が 1985 年に制定し、昨年 2013 年に改正された「医学生物学領域の動物実験に関する国際原則」、世界動物保健機構(OIE)が決定した実験動物福祉条項、そして米国国内の指針ながら国際的に使用されている National Research Council の「実験動物の管理と使用に関する指針(第 8 版)」にはすべて、獣医師の役割や獣医学的管理の重要性が謳われている。近年は アジアの国々にも動物実験に関する法規が整備されて来たが、これらの国々の法規にも獣医師の役割が記載されている。グローバル化を叫ぶ我が国のこうした状況は異常としか言いようがない し、もう一つのガラパゴス化であり、その被害は実験動物が被っている。

 実験動物といえども動物であり、第 3 の家畜という言い方もある。この動物の健康管理はも より、研究者の行う実験における苦痛の軽減や術前術後の健康管理に獣医師が関わるのは当然で あり、動物の福祉を求める国民が強く望んでいることである。もちろんこれまでも我々獣医師は 実験動物の飼育や動物実験の現場はもとより、施設の管理や研究者への教育、さらには動物愛護 管理法や各種指針の制定や改正の節目節目に国や学術会議等が設置した委員会等に多くの獣医師が関わって来たし、大きな役割を果たして来た。しかし、上記で示した「異常な状況」が続いており、現在までも改善できないことは、我が国では獣医師の立場が弱いとか、社会の理解がない などのせいばかりではなく、実験動物界に足場を置いてきた私を含めた獣医師の力や努力も圧倒的に足りなかったと言わざるを得ない。

 我が国のこれからの動物実験を含む研究倫理や動物福祉の観念の高まり認識し、また何よりも 実験動物の立場に立った適正な動物実験のあり方を考えるとき、我が国の法規や指針等の公のル ールで獣医師の役割を明確にすることは喫緊の課題である。社会や各種学会、さらには 5 年毎に行われる動物愛護管理法見直しの議論においても本学会の会員の皆さん、また研究機関や教育機 関で重要な立場を占めるようになっている実験動物医学専門医の皆さんの大いなる努力に期待し たい。

 4 回にわたって「私観・日本実験動物医学会史」として、本学会の歩みを振り返ってみた。こ の日本実験動物医学会の設立に至る過程やその後の活動、そして実験動物医学専門医(認定獣医師)制度の設立とその後の発展過程は、私が 1985 年(昭和 60 年)にこの世界に足を踏み入れて 以来の私の活動の軌跡そのものだったように思う。この間、多くの諸先輩、同僚、そして現在第 一線で活躍されている後輩の皆さんと活動を共にできて、大変楽しかったし、充実した活動ができた。この場をお借りしてお礼を述べて、筆を置く。

2014 年 2 月節分

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第3回)

認定制度の反対意見と必要理由

 当時、会員以外の獣医師からはもとより会員間においても根強い意見は、「なぜ、獣医師の中に 認定獣医師を作らなければならないのか?獣医師の資格があればよいのではないか?」というも のであった。ここにある獣医科大学の先生から 1998 年 2 月にいただいた手紙があるが、15 年経っているので時効が成立していると解釈し、その要旨を紹介する。

 『この学会(実験動物医学会)は獣医師による構成と云うことで設立された筈です。この獣医師は国家資格者としての獣医師である。この獣医師は大学で実験動物学の単位を取得している。 国家資格を持つ獣医師に対して「認定獣医師」なる語を使うのは全くおかしい。実験動物に関わる獣医師を特別視(上位視)するが如き印象を与えるのは良くない。獣医師は飼育動物と人の公衆衛生に対応する資格を始めから持っている。動物実験の対象の実験動物も広義では飼育動物と看做して差し支えない。獣医師一人ひとりの前には常に厳しい市民の目がある。市民を甘く見てはならない。「認定獣医師」がトラブルを起こしたときにはまず国家資格者としての獣医師が罰をうける。実験動物医学会はどのような罰を与え得るのか。「認定獣医師」とか「専門獣医師」の制度には大反対である。』

この手紙に代表される意見は繰り返し述べられ、実際、私自身、それまでの認定制度設立への活動の足が思わず止められた思いがした。そして拙速な制度の設立は慎み、もっと会員間での意見の交換を行ない、多くの会員に納得してもらうことが必要であるとの思いに至った。

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第2回)

実験動物の専門獣医師育成をめざして

 さて、本学会の目的は会則の第2条に「本会は実験動物の健康・医学ならびに福祉に関する研究、教育の推進及びその普及を目的とする」としており、これは当初の会則から若干の修正はあったものの基本的に変わっていない。しかし私観を申せば、本会設立の目的は JCLAM を設立することにあった。JALAM ニュースレター第2号(1994 年 8 月)の巻頭言で私は「日本実験動物 医学会に期待するもの」とのタイトルで次の様に記載した。

 「…この会の活動の方向として実験動物専門獣医をめざす若い獣医師の教育システムの充実が必要で、そのためには第一に実験動物医学に関する教育です。これは講義やセミナーによる教育で、内容は実験動物の疾病、予防、麻酔、飼育管理、実験動物の生物学及び遺伝学など多岐にわたります。もちろんこの中には関連法規や倫理等も含まれます。第二には実習トレーニングです。 疾病の診断法および治療法または対処法や麻酔や安楽死法など実験動物管理や動物実験法などの実習です。…そして第三にはリサーチトレーニングです。これは科学論文のレビュー、研究計画の立案、実験の実施、データの解析とまとめ、学会等での発表と論文の科学誌への投稿,掲載な どからなります。…米国においては 30 年以上も前にこのシステムを確立しており、将来のわが国 においても必ず必要なときがやってくるものと思います。この日本実験動物医学研究会を基盤に して、会員の皆様がこのようなシステムの確立のために努力されることを願ってやみません。…」

 このように私にとっては実験動物医学会(研究会)設立の目的は実験動物専門医をめざす若い獣医師の教育システムの確立であり、そしてその認定システムである専門獣医師制度の確立であ った。そして学会活動としては会員の実験動物の専門獣医師としての研鑽の場を提供するもので、 比較するのもおこがましいことではあるが ACLAM の 3 つの活動、すなわち座学としての実験動物医学の勉学の場の提供、つぎに実習トレーニング、すなわちウェットハンド研修の場の提供、 そしてリサーチトレーニングの場の提供をめざす活動を実践することであった。とにかく会は設立され、実験動物医学会の活動がスタートした。

コラム

私観・日本実験動物医学会史(第1回) 

 最初の訪問大学であるミシガン大学には1 週間程滞在した。医学部実験動物医学ユニット・動物実験施設長は Daniel H Ringler 教授であり、彼は 1979-‘80 に ACLAM 会長を勤めている。ここの施設は 1950 年代に設置された。ここでは Ringler 教授から ACLAM について、あらゆることを伺うことを目的とした。Ringler 教授は病理学者であり、様々な病理標本をもち、所属する数名の ACLAM レジデント(ACLAM Diplomate になる受験のための3年間研修コースの研修医)の教育にあたっていた。スタッフには ACLAM Diplomate のみならず数名の ACVP Diplomate (ACVP: American College of Veterinary Pathologist 獣医病理専門医)が在籍して、業務に加えレジデントの教育にあたっている。レジデントは基礎研究や実験動物の臨床を学んでいる。ミシガン大学での エピソードであるが、女性の ACLAM レジデントのイヌの回診についていったときに、イヌの機嫌が悪く同行した男性の技術職員の腕を突然がぶりと咬みついた。ところがその職員は微動だにせず、腕を咬ませたままにし、その後、口をこじ開けて離したことがあった。思わず腕を引くと 腕の肉がえぐれ大変な事故になっていたが、それにしてもその技術職員の肝の座った対応に感心したものである。Ringler 教授からは ACLAM について、その成り立ち、仕組みを伺い、レジデントの研修現場、テキストなどを見たり、多くのスタッフと話し、多くの事を学んだ。また、多くの ACLAM の資料もいただき、これが日本実験動物医学会認定獣医師 (後の実験動物医学専門医) 制度設立に大いに役に立った。

コラム

[学会情報]日本動物実験代替法学会第 36 回大会開催のご案内

日本実験動物医学会が後援している日本代替法学会が下記の日程で開催されます。JALAM会員は、代替法学会会員価格で大会に参加できますので、ぜひご参加下さい。

大会長 伊藤 晃成(千葉大学大学院薬学研究院)

開催日:2023 年 11 月 27 日(月)〜29 日(水) 

会場:千葉大学 西千葉キャンパス(千葉市稲毛区弥生町 1-33) 

テーマ: 動物実験代替法の終わりなき挑戦 

ホームページ:https://jsaae36.secand.net/index.html

大会事務局:日本実験動物代替法学会第 36 回大会事務局 

千葉大学大学院薬学研究院 生物薬剤学研究室 

〒260-8675 千葉市中央区亥鼻 1-8-1 

TEL: 043-226-2887、FAX: 043-226-2887

E-mail: jsaae36@gmail.com 

運営事務局: 株式会社 JBE 

〒140-0004 東京都品川区南品川三丁目6番地51号 NK南品川301 

TEL: 03-6718-4952、FAX: 03-6718-4952

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