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安全性の記事一覧

ミノキシジルの中毒リスクはどれくらいなのか?

文献紹介:犬、猫におけるミノキシジル外用薬の暴露状況とその毒性:211症例(2001-2019)の中で、ミノキシジルの偶発的な暴露による犬や猫の中毒のリスクについて紹介されました。

医薬品の開発においては非臨床試験(動物実験)により、その薬の安全性や毒性が確認されていると考えられますが、動物に対する影響はどのようなものだったのでしょうか。

先のコラムでは後ろ向き研究であることが注意喚起されていますが、調べてみると、微量の暴露が重篤な中毒の危険性を引き起こすということは過剰な結論であるようにも考えられました。

私自身、ミノキシジルは育毛剤としての認識が先行してしまっていましたが、そもそも経口降圧剤として開発されたものであり、本邦では経口薬の承認はされていませんが、現在はファイザー社によってLoniten®として販売されています。その使用において、多毛の副作用が認められたことから、外用発毛剤として開発されたものであるということでした。
したがって、ミノキシジル外用薬を経口摂取した場合の中毒症状というのは、そもそもミノキシジルがもつ主作用である可能性が考えられます。

一方で、医療用医薬品として開発された後に一般用医薬品となっています。その安全性については経口薬の開発段階では十分に調べられていたかもしれませんが、適応を変更した際には改めて詳しくは調べられていないかもしれません。既に必要な安全性が確認されているものであれば再試験をしないということは開発戦略としては妥当と考えられますし、不要な試験をしないということは3Rsの観点からも適切と考えられるところです。

しかし、Loniten®の添付文書ではBoxed Warningが掲載されています。これはFDA(米国食品医薬品局)の指示により記載される警告文で、重篤な副作用を起こす危険性を最も強く警告するものです。 外用薬としての開発にはこの非常に強い主作用と副作用とを逆転させ開発された経緯が伺えます。先の文献のような報告があると、動物を用いた試験をしていないことは、後々こうして人と動物の社会にとってリスクにもなるということも言えるかもしれません。

国内承認されている外用ミノキシジルの申請情報によると、用量変更による申請の内容からですが、非臨床安全性試験に関しては、モルモット皮膚感作性試験、ウサギ皮膚一次刺激性試験、累積刺激性試験、眼刺激性試験、ラット経皮反復毒性試験、サル経皮反復毒性試験が実施されており、イヌを用いた安全性試験は実施されていませんでした。外用薬としての申請ですので、経口投与毒性に関しては試験されていなくてもおかしくありません。妥当なものと考えられますし、心臓に対する作用が最も重要であることも認識されていました。
薬物動態に関する試験としてはイヌの持続静注試験が行われ、0.14mg/kgの用量で静脈内に投与されていましたが、病理組織学的な変化はないということでした。

経口ミノキシジルではどうでしょうか。ラット、イヌ、ミニブタ、サルでの経口投与試験と、ウサギの経皮局所投与試験が行われていました。こちらのイヌへの経口投与量は0.5~20mg/kgでした。この用量では、数日以内の乳頭筋/心内膜下壊死、出血性病変(右心房)、限局性心外膜炎が起こりますが、他のβアドレナリン受容体作動薬、末梢拡張薬でも同様に起こる病変と考えられていました。また長期の投与によって、慢性増殖性心外膜炎、漿液血性心膜液、心肥大および心拡大が起こりますが、慢性的な影響と考えられています。

臨床用量は大人の体重を60kgとすると0.17~1.67mg/kgの投与量なので、動物に投与されていた用量はこの用量と比べると高くなっています。経口治療とされていますので効力試験として実施されたものだと推察されますが、上記のようなリスクは臨床試験へ進める上では効力に比べて大きな問題にならなかったのではないかと考えられます。

ミノキシジル外用薬は患者さんの切実な要望もあり、より濃度の高い製剤が開発されてきたという経緯があります。現在では1%から5%の製剤として多くの国で承認されています。この濃度では、1ml中に10mgから50mgを含むことになりますので、錠剤と比べると高濃度になります。ですが、1滴を0.05mLとすると0.5~2.5mg/滴なので、体重5kgのイヌ・ネコが1~2滴を舐めたとしても体重当たりでみればそれほど高濃度でもありません。先の文献では、ミノキシジル暴露で臨床症状が現れた最低投与量は0.79mg/kgであったとされています。臨床使用では大人も子供も慎重使用が喚起されています。同様の初回投与のリスクは動物に対してもあると考えられますが、元来の主作用を考えれば、中毒とは言え想定内の作用であったとも考えられます。

経皮投与の情報からは、皮膚からの吸収は種差が大きく、ヒトでは吸収され難いものであることが推察されます。吸収され難いということは、継続した使用で髪の毛や寝具に濃縮されて残る可能性は高くなるかもしれません。患者さんの想いからちょっと多めに使用してしまうこともあるかも分かりません。
また、ミノキシジルは経口投与でおよそ90%が吸収されると書かれています。経口摂取した場合は血中濃度が上がりやすいことがリスクになることは推察されますが、文献ではミノキシジル外用薬に晒された後でも動物の57~63%が臨床症状を発現しなかったとされています。実際にどれだけの量に継続暴露されて中毒が引き起こされたのかといったところは、危険性を正しく理解するためにも議論の余地がありそうです。

ネコでは非臨床試験のデータはありませんが、調べられた多種の動物で同様の傾向がありますし、薬物代謝の関係からもイヌに比べても危険性は高くなると考えられます。
また、中毒の臨床症状にはプロピレングリコールなどの溶媒やその他の添加剤も関連している可能性もあります。化学物質のリスク評価については保健や環境面で広く調査されているところですが、人の健康や生態系に加えて、伴侶動物の健康も考慮されるとよいのかもしれません。

もちろん適応外使用は獣医師としての責任や力量が問われるところですので、問題のある使用となってはいけません。正確に、詳しく、くすりのことを理解し、使用により起こる現象に適切に対処する必要があります。開発の経緯を知っていれば著者らの研究背景の認識も違ったものとなっていたかもしれません。

イヌやネコへの影響について、3RSに基づいた必要な前向き研究も実施され、適正で、誤解のない成果が得られ、人と動物が安心して共生できる社会へと繋がる情報がアウトリーチされてゆくとよいと思います。

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