文献紹介(特別編):動物実験に関する一般の方々とのコミュニケーション
Communicating About Animal Research with the Public
Judy MacArthur Clark, Paula Clifford, Wendy Jarrett, Cynthia Pekow
ILAR Journal, Volume 60, Issue 1, 2019, Pages 34–42
https://doi.org/10.1093/ilar/ilz007
【概要】
動物は、生物医学研究やその他の科学的調査の分野で重要な役割を果たしています。しかし、世論は、この分野の科学がどのように規制され、資金が提供されるかに影響を与える上で重要な役割を果たしています。それにもかかわらず、科学者は歴史的に、動物研究について公然と話したり、動物施設を一般に公開したりすることには消極的でした。その結果、入手可能な情報のほとんどは、動物研究に反対する人々からのものでした。このバランスの悪さが、この研究に対する疑念と国民の支持の遅れにつながっている。この影響を逆転させるために、現在、世界の多くの地域で、この分野の公開性と透明性を高めるための努力が行われている。著者らは、動物を含む正当な研究を行うための研究コミュニティの「許可」を維持するためには、より多くの研究機関がこの運動に参加することを奨励し、より良いコミュニケーションに焦点を当てていくことが不可欠であると確信している。この論文では、世論調査で意見を求められたり、選挙で投票したりする社会の断面を「一般の人々」と考えている。また、メディア、他の分野の科学者、動物愛護団体、規制の枠組みを形成する可能性のある政治家など、その他の影響力のあるグループも含まれます。この問題に関する世論は重要である。生物医学研究のための資金提供の大部分は、直接または間接的に公的資金から得ている。製薬研究の場合、資金は消費者に医薬品を販売することから得られる。したがって、私たちは皆、この資金提供に対して既得権益を持っている。さらに、研究における動物の使用を対象とした法律は、動物愛護法に反し ている可能性のあることを科学者が行うことを許可しています。しかし、この許可は通常、世論が適切と判断した倫理的枠組みの中での研究を確実に行うための厳格な保護措置を遵守することを条件としています。オープンで透明性のあるコミュニケーションは、世間の理解を 促進するための最良の方法です。このように、科学者、動物飼育スタッフ、医師、獣医師、倫理委員会のメンバー、管理者、指導者など、動物研究に携わるすべての人には、この研究に対する世間の認識と信頼を支持し、促進する責任があります。状況証拠は、このようなオープンな対話があれば、個人の標的化やハラスメントが減り、関係者全員の仕事への誇りと満足度が向上することを示しています。
かつてイギリスやアメリカなどでは過激な動物実験反対運動が巻き起こったことで、研究者が説明責任を果たす中で動物実験に関する理解が深まったという現象が起きていました。今では法に抵触するような過激な運動は鳴りを潜めたこともあり、研究者から積極的に情報発信することが少なくなり、動物実験の必要性が疑問視されています。
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実験動物の微生物検査
実験動物は一般に販売されている動物と異なり、特定の病原体を有していないことが明らかになっているSPF(Specific Pathogen Free)動物が多く用いられています。これは病原体が動物に与える影響(ノイズ)を排除するためなのですが、では一般の動物はどの程度、病原体に汚染されているのでしょうか。2015年に日本国内のペットショップで販売されているマウスの病原体保有状況を調べた報告(Hayashimoto N et al. Exp Anim. 2015;64:155-160.)がありますが、そちらの報告によると神奈川県と東京都の5つのペットショップに由来する28匹のマウスを検査したところ、以下のような結果(検出率)が得られたとのことです。
このようにペットショップごとにその検出率は異なるものの、多くの動物が微生物汚染を受けていることが分かりました。なお、人獣共通感染症を引き起こす病原体は検出されませんでしたが、動物に影響を及ぼす病原体は複数のペットショップから検出されています。これらの病原体は一般に飼育されている状態では特に問題がないことも多いのですが、動物実験に用いる際には状況が変わってきます。冒頭でも述べましたが、実験動物は余計なノイズを排除する必要があります。「再現性」は動物実験において最も重要な一つの要素ですが、動物によって病原体を持っていたり持っていなかったりすると、動物の状態が安定せず、試験結果の信頼性に影響する場合があります。また、このことによって実験に用いる動物の数が多くなってしまうことは避けるべきです。
ARRIVEガイドライン2.0が公開されました
7月14日にNC3Rs(英国3Rセンター)にてARRIVEガイドライン2.0が公開(https://arriveguidelines.org/)されました。2010年に初めて公開されたARRIVEガイドラインは、動物実験計画において最低限記載すべき項目をまとめたものであり、Natureをはじめ多くの学術雑誌に支持されているガイドラインです。
そもそもこのガイドラインが作成された背景には、動物実験の再現性があまりにも低い(一説には70%以上の実験が再現できない)と言われてきたことがあります。その一因として実験方法の詳細が述べられていないとの指摘がありました。
英国の機関が、動物実験の記載がある271報(1999-2005)の論文を精査したところ、研究の仮説・目的を記載し、かつ動物の数と特徴が記載されていたのは271報のうち、わずか59%であったことを報告(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0007824)しています。
これらの事を受けてNC3Rsは記載すべき20の項目を定めて2010年にARRIVEガイドラインとして発表しました。多くの研究機関や出版社から支持されてきたものの、記載項目が多いことからも問題の根本的な解決には至りませんでした。そこで改訂版であるARRIVEガイドライン2.0が新たに公開されました。
ARRIVEガイドライン2.0の主な変更点は以下のとおりです。
記載すべき最低限の項目を10項目に絞った「ARRIVE Essential 10」とそれらを補完する「Recommended Set」に分類した
ARRIVE Essential 10は以下のとおりです。なお正式な日本語訳は日本実験動物学会等、公的機関によるアナウンスをお待ちください。
1. Study design(研究計画)
2. Sample size(サンプルサイズ)
3. Inclusion and exclusion criteria(包含基準と除外基準)
4. Randomisation(ランダム化)
5. Blinding(盲検化)
6. Outcome measures(実験の帰結)
7. Statistical methods(統計学的方法)
8. Experimental animals(実験動物の情報)
9. Experimental procedures(実験処置)
10. Results(結果)
前回のガイドラインが20項目であったことからも項目数を絞って記載しやすくなっていることが分かります。通常の動物実験審査においては3~5の項目を審査することは少ないのですが、今後はこのあたりも審査することが求められてくるかもしれません。