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教育委員会 の記事一覧

マウスの系統間、亜系統間にみられる遺伝子型、表現型の違い〜 C57BL/6JとC57BL/6Nとの比較を中心に

 C57BL/6は、C. C. リトルがA. E. ラスロップから1921年に入手したマウスから樹立したC57BL系統に由来します[1]。C57BL/6系統は、1948年にアメリカのジャクソン研究所に導入され維持されてきましたが、1951年にはアメリカNIHに導入され、それぞれC57BL/6J, C57BL/6Nとして系統樹立されました。その後様々な施設に導入されて育成・維持された結果、現在ではC57BL/6JおよびC57BL/6Nからそれぞれ数多くの亜系統が派生しました(図1)。C57BL/6Jはマウス全ゲノム配列の決定に最初に用いられた系統であり、C57BL/6Nとともに一般的な動物実験のみならずトランスジェニック動物やノックアウト動物を作製する際にも頻繁に用いられています。

 種々の施設で独立して維持されているC57BL/6亜系統の間では、年月とともにゲノム配列の多型が蓄積されていると予想されます。岡山理科大学の目加田和之先生らは、イルミナ社のマウスSNPジェノタイピングアレイを用いたり、マウスゲノムの一塩基多型(SNP)データベースを比較することによってC57BL/6Jグループの亜系統とC57BL/6Nグループの亜系統の間に存在するSNPを検索し、さらに一部はゲノムシーケンスを行いSNPの存在を明らかにしました [2, 3]。その結果、C57BL/6J(ジャクソン研究所で維持されてきたC57BL/6J系統)とC57BL/6NJ(ジャクソン研究所で維持されてきたC57BL/6N系統)の間に存在するSNPのうち、277箇所を同定しました。その中には翻訳されるタンパク質のアミノ酸置換を伴う10箇所のSNPが含まれていました。さらに、これらのSNPはC57BL/6J亜系統の間においても、さらにはC57BL/6N亜系統間においてもそれぞれ保存の程度に差が見られ、亜系統の分岐の年代等によってSNPの蓄積度に違いがあることが明らかになったとのことです。

コラム

マウスバイオリソースの源流 ~ラスロップ、リトルそしてジャクソン研究所

1. ネズミ愛好家、ラスロップ

“Abbie Lathrop, the “Mouse Woman of Granby”: Rodent Fancier and Accidental Genetics Pioneer”

 これは、C57BL/6Jの元となった「マウス#57」をリトルに提供したラスロップ(Abbie E. C. Lathrop:1868-1918)の生涯と業績を短くまとめた論文のタイトルです[1]。タイトルが示すように、彼女は米国マサチューセッツ州クランビー(生まれはイリノイ州)に生活の拠点を置いていたマウス・ラットの愛好家でした。また、当時としては珍しく動物繁殖業者として研究者にも動物の販売を行っていました。ラスロップは、マウス・ラットの他にもモルモット、ウサギ、フェレットなども飼育していました。そのうちモルモットは、米国政府の要請を受けて第1次世界大戦の戦場での有毒ガス検出に使用されていたそうです。もちろん、最初からこれら小動物の繁殖事業で成功したのでは無く、最初は家禽事業から始めたのですが上手くいかなかったようです。お父さんは教師だったようで(幼少期についての詳細は不明だそうです)、その影響もあって、小さい頃から勉学に優れ、生まれ故郷イリノイ州の教育資格も持っていました。この勤勉な性格が注意深い近親交配によるマウスの繁殖記録とその保存を生むことになり、後のリトルによる近交系の樹立に繋がることになります(その結果、“図らずも” 実験動物学の歴史にその名を残すことになるわけです)。

 ラスロップが繁殖したマウスは、C57BL/6Jの他、C3H/He、CBA、DBA/1, DBA/2など現在の主要な近交系マウスのもとにもなっています。そのため、論文や本に掲載されている近交系マウスの系統樹をみると、C57BL、DBA、C3Hなどの最上流に“Lathropのマウス”という記載を見ることが出来ます [2. 3]。ラスロップの凄いところは、単なるネズミ愛好家・動物繁殖業に留まること無く、その類い希な観察力を研究にまで昇華させたところだと思います。ラスロップは、飼育しているいくつかの動物が異常な皮膚病変を発症していることに気づき、大学の病理学者と共に研究を進めて科学論文を出すまでに至っています。その具体例については論文[1]を参照して頂きたいと思いますが、日々の弛まない動物観察が新しい発見に繋がるのだと彼女の生涯を知ることで改めて思いました。

 なお、参考文献[3]にはラスロップのイラストが掲載されています。もし、学校や大学の図書館、あるいは会社の資料室で蔵書を見つけたら閲覧してみて下さい。

コラム

遺伝性疾患の研究における実験動物の役割と課題〜筋ジストロフィーモデル動物を例に〜

1. 遺伝子変異の解析とモデル動物の作製

 筋ジストロフィーは、40種類以上の遺伝子のいずれかに変異が生じて発症する遺伝性筋疾患の総称です(1)。原因遺伝子によって違いはありますが、進行性の筋力低下と骨格筋の組織変性を主徴とする致死的な疾患です。患者数が最も多いデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、筋細胞膜の構造維持に不可欠な蛋白質をコードするジストロフィン(DMD)遺伝子の変異が原因で発症するX連鎖劣性遺伝疾患です(2)。DMD遺伝子は78個のエクソンから構成される全長2.4 Mbの巨大な遺伝子です。このような巨大な遺伝子上に多様な変異が様々な箇所に生じるため、診断や治療法の開発が困難となっています。

 DMD遺伝子の変異の型は、コドンの読み枠がずれる「アウト・オブ・フレーム型」と読み枠が維持される「イン・フレーム型」に大別されます。前者のアウト・オブ・フレーム型変異ではジストロフィン蛋白質が産生されないため重症のDMDとなりますが、後者のイン・フレーム型変異では短いジストロフィンが産生されるため、多くは軽症のベッカー型筋ジストロフィー(BMD)と診断されます。これらの型はさらに欠失や重複、点変異など様々な変異によって生じるだけでなく、現在では変異パターンに応じて予後が異なることが明らかとなりつつあります(3)。変異の種類に応じた病態を理解するためには、患者と同様な変異を持つ遺伝子改変動物が必要です。しかし、欠失だけでも500種類以上が報告されている変異に対して、それぞれのモデル動物を作製することは現実的ではありません。そこで活躍するのが、遺伝子変異の種類や頻度、症状などの様々な情報がまとめられているデータベースです。DMDを含む遺伝性筋疾患の分野においてもいくつかの国家規模または国際的規模のデータベースを利用することできます(3)。このような情報を利用することで、発生頻度の高い変異や重症度を調べることができます。すなわち、無数にある変異の中から「どのような変異を持つモデル動物を作製すべきか」の指針となる情報が得られる場合があります(図1)。

図1 遺伝性疾患の国際的open database(LOVD: https://www.lovd.nl/)を用いて解析されたDMD遺伝子の欠失変異の頻度と重症度スペクトラム。赤は重症のDMD、青は軽症のBMDを示す。Ex, エクソン(数字は欠失したエクソンの番号); IN, イン・フレーム変異(短縮型ジストロフィンの産生が可能な変異)。記載のない項目は全てジストロフィンを産生できないアウト・オブ・フレーム変異を示す。Echigoya Y, et al. J Pers Med. 2018, licensed under CC BY 4.0.

コラム

がんも遺伝する:モード・スライの功績

近交系黎明期

 以前のコラムでクラレンス・リトルと共に登場したアビー・ラスロップは、1900年、マサチューセッツ州グランビーでペット用の小動物の繁殖会社を起業する。彼女が所有したJWMのペアなど様々な種類の小動物は、ペットとして飼われる他に、全米の多くの研究者から注文が相次いだ。1900年に、メンデルの法則の再発見に関連する論文が発表され、多くの研究者が、同法則の動物への適用に関心を持ったのも一因である。ラスロップが収集・生産したマウスは、すでに毛色などを指標に近親交配を繰り返しており血縁係数が高いものであったようだ。1908年には早くも、ラスロップは、生活環境はほぼ同じであるにもかかわらず、JWMを含むマウスの家系によって、腫瘍の発生部位や発生率が異なることに気づく。1918年までに(この年、彼女は他界)、病理学者のローブと共に、数世代に渡る遺伝実験を行い、マウスの癌の遺伝に複数の因子が関与している可能性を示した [6]。アーネスト・ティザー(ティザー病で有名)も、1907年、マウス家系によって自然発生する腫瘍の発生率が異なることを報告している [7]。

 前コラムの繰り返しになるが、リトルとティザーは、JWMに生じた肉腫の雑種への移植は成功するが、逆方向の移植は拒絶されるという発見をした [8]。この観察からリトルは、がんの研究を進めるためには、遺伝的に非常に近い近交系(純系)動物を作らねばならないと考え、1919年にDBAという純系のマウスを作出した。この発見は、1936年の主要組織適合性複合体およびH-2抗原の発見へと発展していくが、近交系動物が医学・生物学の進歩に及ぼした貢献は計り知れない。

 新しい概念の発見が、同時に複数の研究者によってなされることがある。最近では、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1/ PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体であろうか(本庶佑とジェームズ・アリソンが2018年ノーベル生理学医学賞)。ラスロップ、リトル、ティザー達と同時代に、ひっそりと純系マウスを育て研究している人がいた。

コラム

運動器を制御する非線維性コラーゲン分子の役割  〜遺伝子改変マウスモデル研究からわかったこと〜

1. 結合組織と筋肉を制御するVI型コラーゲン

 VI型コラーゲンは、a1、a2、a3鎖のヘテロトリマーを形成し、細胞外ではビーズ状あるいはマイクロフィブリル構造として認められる分子です。VI型コラーゲンは、N末端とC末端に球状のドメインを持ち、この部分でI、II、IV、XIV型コラーゲンやインテグリン、NG2プロテオグリカンなど様々な細胞外マトリクス分子と相互作用することで、細胞や組織の安定性に寄与していると考えられています(1)。ヒトのVI型コラーゲン遺伝子(COL6A1COL6A2COL6A3)変異は、重症型のウルリッヒ病(厚生労働省指定難病29)と軽症型のベスレムミオパチー(同指定難病31)の原因として知られ、日本ではそれぞれ約300人、100人の罹患者がいると報告されています。本疾患は、生後初期から遠位関節の過伸展、近位関節の拘縮、ならびに筋肉量と筋力の低下を主徴としています。すなわち、筋肉だけでなく、結合組織も機能障害を受けることを特徴とする疾患です。

 Bonaldoらは、1998年にヒトCOL6A1遺伝子のマウスオルソログであるCol6a1遺伝子を欠損させたマウスを作出し、VI型コラーゲンが欠失すること、ベスレムミオパチーの病態モデルとなることを発表しました(2)。彼らはまた、VI型コラーゲン欠失は、持続的なアポトーシスや酸化ストレスの増加、オートファジーの減少を引き起こすことを明らかにし、これが筋再生を障害していると結論づけています(3)。この結果をサポートするように、Merliniらは、VI型コラーゲンの下流のシグナル分子をターゲットとした処置により、病態モデルマウスと罹患者で治療効果を報告しており(4)、VI型コラーゲンが調節する細胞内制御機構が筋病態の発症に重要であることが明らかになってきました。

 一方、我々のグループは、Col6a1遺伝子欠損マウスの腱と骨の研究から、VI型コラーゲンの細胞外マトリクスとしての重要性を明らかにしました。腱は、I型コラーゲン細線維を最小単位とし、これが線維、線維束と集合した構造体であり、各ユニットは、それぞれエピテノン、エンドテノン、ペリテノンと呼ばれる結合組織の膜で覆われ、伸縮時に独立して動くことで、腱の柔軟性を維持しています。一方、I型コラーゲンを産生する腱細胞は、発生・成長過程において、腱の長軸方向に沿って縦列し、細胞体同士で結合することで、縦に連なる細胞群として認められ、同時に、横方向へと細胞突起を伸ばし、近隣の細胞と結合します。腱細胞で産生・重合されたI型コラーゲン細線維は、腱の長軸方向に沿って分泌され、横方向に伸張した腱細胞突起で取り囲まれることで、線維ユニットが形成されます。VI型コラーゲンは、上述した腱の結合組織膜に局在しており、Col6a1遺伝子欠損マウスでは、腱細胞は変形し、突起形成が抑制されることが電子顕微鏡学的解析により明らかになりました。また、細胞外では、I型コラーゲン細線維の配向性の乱れや細線維の密度が増加するとともに、腱の力学特性が低下しました。このため、細胞外のVI型コラーゲンは腱細胞の形状を維持することで、I型コラーゲンの分泌や配向性の制御、その結果として生じる力学的特性の獲得に寄与すると考えられました(5)。実際、このような細胞の変形は、COL6遺伝子変異患者から得られた腱細胞や(6)、Col6a1欠損マウスの骨芽細胞でも確認されています(7)。以上のように、我々は、細胞外VI型コラーゲンが細胞と細胞外環境の維持において重要な役割を担うことを明らかにしました。これらの知見から、細胞外のVI型コラーゲンが欠失することで、細胞形状を維持することが難しくなり、アポトーシスなど細胞内制御が破綻し、筋肉や腱の機能障害を引き起こすと推測されます。

コラム

マウスやラットの技術トレーニングで使用される代替法教材

1. シミュレーター(模型)

マウスシミュレーター: Mimicky® Mouse

 Mimicky® Mouseはマウスの質感やサイズ、重量などを精巧に再現したシミュレーターです。初心者を対象としたシミュレーターであり、動物の抑え方や投与の手順などを確認する際に使用されます。尾の部分には模擬血管が埋め込まれており、尾静脈投与の練習が可能です。尾は本体と取り外しできるようになっており、尾の部分だけ別途購入し付け替えて使用することができます。マウス個体のシミュレーターは世界的に珍しく、その再現性の高さから海外からの評価も高いようです。Mimicky® Mouseの使用例についてはここから動画で確認できます。

また、同社よりサルの静脈採血・投与のシミュレーター(Mimicky® Vessel)も販売されています。

マウスの尾静脈投与・採血のシミュレーター:マウス尾静脈シミュレーター

 尾静脈からの投与・採血に特化したシミュレーターで、尾の部分のみの形で日本クレア株式会社から販売されており、ここから使用方法の動画を視聴できます。シリコン製の尾の内部に尾静脈のチューブが2本埋め込まれており、マウスの尾静脈が精巧に再現されています。保定器に接続し、インクなどの模擬血液をチューブ内に充填後、採血・投与のトレーニングを行います。実際に生体で投与・採血を行う時と比べて難易度はやや低く設定されており、初心者が手順を覚える上で調度よい難易度になっています。また材質の特性から耐久性が高く、繰り返し使用することができます。

ラットシミュレーター:NATSUME RAT

 ラットの基本手技を訓練するための初心者用シミュレーターの一つです。訓練可能な技術は保定、経口投与、尾静脈内投与・採血、気管挿管です。NATSUME RATは比較的古くから使用されてきた国産シミュレーターですが、近年リニューアルが行われ、材質が改良されました。ラットシミュレーターについては国内外で複数のものが存在します。実物のラットと各ラットシミュレーターの形態的な比較を調査した論文で、NATSUME RATは他のシミュレーターと比較し、頭部の形状や血管の位置、尾の構造をはじめとした各部位において形態の再現度が高かったと報告されています(1)。

株式会社夏目製作所 HP

コラム

国内承認ワクチンの非臨床試験を垣間見る    〜ワクチン開発と動物実験〜

 日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)での合意に基づき、「医薬品の臨床試験のための非臨床試験の実施時期についてのガイドライン」が2010年に改正され、「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験実施についてのガイダンス」がまとめられて現在に至っている (ICH-M3{R2})3)。この改正の主な目的は、承認審査資料の国際的なハーモナイゼーションを推進することにあり、「動物実験の3Rsの原則」に従うこと、および「早期探索的臨床試験のための非臨床試験」という概念を導入することなどにあり、これ以降、毒性試験や薬理試験など12の試験項目の安全性(Safety)についてICHガイドラインが各々整備されてきている (ICH-S1~S12)。

 臨床第Ⅰ相試験の初期に実施される「早期探索的臨床試験」に応じて、ヒト初回投与試験までに実施すべきマイクロドーズ試験や単回投与毒性などの非臨床試験が、げっ歯類および非げっ歯類を用いて実施される。すなわち「早期探索的臨床試験の開始時までに実施される非臨床試験は一部にすぎず、実施予定の臨床試験の時期や期間に応じて非臨床試験がデザインされる」のが一般的である。

 この分野の専門家ではない著者の私見ではあるが、「ほとんどの動物実験(試験)がヒト臨床に先だって実施されるもの」という、現実からやや乖離した先入観が社会の根底にあるように感じている。時に動物実験(試験)は「非臨床試験(前臨床試験)」などと記載されることもあり、研究者による社会に向けた正確な情報発信という点で誤解を生み易い表現には都度解説する必要があると自戒を込めて考えている。

【参考アドレス】

1. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) 「医療用医薬品 情報検索」 

2. 一般社団法人日本医薬情報センター(JAPIC) 「医薬品情報データベース (iyakuSearch)」

3. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) 「ICH 医薬品規制調和国際会議 ガイドライン 」

コラム

コットンラット〜全身に病気を併存する不思議な実験動物〜

 コットンラット(英名cotton rat, 学名Sigmodon hispidus)は南北アメリカ大陸に分布するキヌゲネズミ科に属する齧歯類で、ラットの名がついていますがハムスターと近縁です。成体のコットンラットは頭胴長125-200mm、尾長75-166mm、体重70-310gとマウスとラットの中間の大きさです。雑食で、草の生い茂った草原や沼地を好んで生息します(3)。コットンラットの実験動物としての歴史は古く、1930年代にポリオウイルス感染によりヒトに類似する神経麻痺症状を発症することが見出されました。その他にも、コロナウイルスを含む様々なヒトの呼吸器感染症ウイルスへの感受性を持つことが知られ、SARS(4)やCOVID-19(5)研究にも使われています。我が国には1951年に輸入され、主に東大伝染病研究所で維持され、その後多くの研究機関に分与されたようです(6)。現在の日本国内においては、北海道立衛生研究所(HIS/Hiphなど)および宮崎大学(HIS/Mzなど)で近交系コットンラットが維持されています。私たちは北海道立衛生研究所および宮崎大学との共同研究により、近交系コットンラットが頭(水頭症)から尾(皮膚の脆弱性による自切)に至るまで全身に様々な病気を持つことを見出し、その表現型を解析してきました。以下にコットンラットで私たちが新規に見出した「併存症」、「希少疾患」モデル動物としての特性について記載いたします。

コラム

ブタの麻酔医〜周術期管理に関する総論的なお話〜

麻酔の維持管理(術中管理)麻酔導入後は挿管を実施し、麻酔維持(吸入麻酔もしくは静脈麻酔)へ移行します。ブタがどの体位であっても挿管ができなければなりませんが、あまり経験がない方は腹臥位で実施すると挿管しやすいかと思います(図2)。術中は麻酔、呼吸、循環、体温の管理を行う必要がありますが、その管理には生体情報モニタリングシステムが有用です。ただし、モニタリングシステムのみに頼るのではなく、しっかりと動物を観察(見る、触る、聞く)することも重要なポイントです。モニタリングシステムと動物(術野含む)の双方を観察することで生体に何が生じているのか的確に判断することが可能となると私は考えています。

○麻酔管理:当然ながら不適切な麻酔深度は外科的処置を困難にさせるだけでなく生命を脅かす可能性があります。外科処置を円滑に進め、再現性のある手技を行うためには適切な麻酔深度を保つ必要があります。麻酔深度は眼瞼、角膜反射や心拍数、血圧の変化、呼吸数の変化、体動などがその指標として挙げられます[1, 3]。また、自発呼吸にて管理を行っている場合は呼吸数の変化、開腹手術の場合にはさらに腹圧の変化も麻酔深度の指標となります。ヒトの臨床で使用されているBispectral index(脳波等を解析するシステム)については、ブタでの有用性は低いとされており、現時点でブタへの応用は難しいと考えられます[1]。

○呼吸管理:麻酔下での呼吸管理は自発呼吸による管理と陽圧呼吸(人工呼吸)による管理に大きく分けることができます。自発呼吸は文字通り動物の自発呼吸を主体に呼吸管理を実施する方法であり、陽圧呼吸は人工呼吸器や用手法により強制的に換気を行う方法です。これらの呼吸管理は動脈血液ガス(pH:7.3~7.5、PaO2>80 mmHg、PaCO2:35~45 mmHgで維持)もしくは血中酸素飽和度(SpO2)や終末呼気炭酸ガス濃度(EtCO2)を参考(図3)に行います(SpO2:>90%、EtCO2:35~45 mmHgで維持)。自発呼吸管理を行う際には、これらのデータを参考にして、適宜、用手法による補助呼吸を行います。また、陽圧呼吸では換気条件(呼吸回数、1回換気量、吸気時最大気道内圧、PEEP、IE比など)を適宜変える必要があります。

コラム

理研マウスENUミュータジェネシスプロジェクトを利用したフォワードジェネティクス研究

1. 変形性関節症モデル : M451マウス

 はじめに同定した M451マウスは常染色体顕性(優性)形式で短指症を呈するマウスで3)、連鎖解析によって原因遺伝子は第2染色体上にマップされました。この領域には自然発症短指症マウス(bpマウス)の原因遺伝子であるGdf5が存在しており4)、予想通りにM451マウスのGdf5遺伝子にはp.Trp408Arg(408番目のTrpがArgに置換される)ミスセンス変異が同定されました。bpマウス以外にも、Gdf5変異によって短指症を発症するマウスは報告されており、科学的価値があまり高くない結果に落ち着きそうだと落胆していたのですが、研究は急展開していきました。

 私は当時、池川志郎先生が率いる理研生命医科学研究センター・骨関節疾患研究チームに所属していたのですが、池川先生らはヒトGDF5遺伝子上の一塩基多型(SNP)が変形性関節症(OA)の疾患感受性と関連していることを報告していました5)。OAは関節軟骨の変性や消失を特徴とし、疼痛や歩行障害が生じる疾患です。OAの発症には複数の遺伝要因と複数の環境要因がかかわっており、多因子疾患に分類されます。OAの発症にかかわるSNP(+104 T/C)はGDF5遺伝子のプロモーター上に存在し、OA患者が多く持つ+104Tアレルを持つプロモーターの活性は、健常者が多く持つ+104Cアレルを持つプロモーター活性よりも有意に低下します。つまり+104Tアレルを持つとGDF5産生量が低下し、OAに罹患しやすくなると考えられます。そこで、私たちはp.Trp408Arg変異をホモ接合でもつM451マウスの関節を調べた結果、肘関節の関節軟骨にOAと類似した病変が確認されました(図1A)3)。p.Trp408Arg変異は優性阻害を引き起こす強い変異効果を持っており(図1B)、この一種類の変異だけでOA様の病変が誘発されます。

 M451マウスの研究から、マウス遺伝学からもGDF5がOAの感受性遺伝子であることが証明されました。GDF5の機能異常がOAを引き起こすメカニズムは、まだよくわかっていません。GDF5はBMPスーパーファミリーに属する成長因子で胎生期の関節形成に関わっていることから6)、+104 Tアレルを持つヒトは、OAになりやすい構造的な関節の異常を持っているのかもしれません 。これはX線解析などでは判別できないわずかな異常で、加齢に伴い徐々にOA病変が発現してくると考えられます。またGDF5は関節の恒常性維持に関わっているという報告もありますので、+104 Tアレルを持つヒトでは、この維持機構にわずかな異常が生じているのかもしれません。M451マウスはGDF5とOAの関連を調べるためのよいモデル動物です。

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