実験動物の環境エンリッチメント
色々とアイテムを紹介してきましたが、実験動物における環境エンリッチメントとして忘れてはならないのはペアまたはグループによる飼育です。実験動物は動物園で飼育されているような猛獣とは異なり、群れで行動している動物がほとんどです。そのため、実験に支障をきたさない範囲でペアまたはグループ飼育にする必要があります。国際基準に準拠している研究現場ではこれらの理由から基本的に単独飼育は認められず、単独飼育をする場合には動物実験申請をする際に科学的根拠が求められています。
環境エンリッチメントは何でもかんでも導入すれば良いものではなく、マウスに対するビー玉など、導入することでかえって不安を増大させるものもあります。そのため、飼育環境が改善することが報告されているものを導入するか、もしくは改善が認められることを自らの目で確認する必要があります。これらの取り組みをエンリッチメントプログラムなどと呼びますが、動物実験施設では定期的にこれら環境エンリッチメント導入の是非を検証することが求められています。
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動物福祉の評価ツールのご紹介-1
〜AVMA主催の“学生動物福祉状況の評価コンテスト”〜
さて、イリノイ大のニュースによると、このコンテストの目的は、「農業、研究、伴侶など、人間のために使用される動物に影響を与える福祉問題の理解と認識を高めるための教育ツールを経験することであり、倫理的推論に対する理解の上に、科学的理論とデータに基づいた動物福祉の客観的評価を促し、批判的思考を促進し、コミュニケーション能力を向上させる」ことです。参加対象は、3・4年学部生、獣医学部生、院生(1チーム3-5人)であり、動物看護師やAVMA会員の獣医師も少数に限り参加できます(ただし、コンテストの対象外)。参加者はいくつかのシナリオに沿って出題される動物とその福祉状況を分析して、その中から優れたシナリオを選び出し、発表するというものです。
ニュースでは、“動物福祉のさまざまな事象をそのときどきの断片として客観的かつ定量的に評価することも可能ですが、福祉問題は連続したものであり、どのあたりで許容できるか、どのあたりが好ましいか、または許容できないかの判断は、多くの場合、倫理に基づく選択に帰着するものです。コンテストでは、問題解決へ学際的にアプローチするため、科学に基づく知識を倫理的価値観と統合することを学生に教えています”という風に審査の方法について説明しています。私たちが学生の動物福祉評価を審査するのであれば、北米でどのような基準やチェック方法に従って動物福祉が評価されているのかの具体例を知りたいところです。
今回はこのくらいにさせていただいて、次は、動物福祉評価のツールについて整理していきたいと思います。
参考文献
1) Beaver B. V. and Bayne K, Chapter 4 – Animal Welfare Assessment Considerations, Laboratory Animal Welfare, 29-38 (2014)
2) Animal welfare judging team provides unique experiential learning for students. (cited 2022. Oct.28)
3) AVMA Animal Welfare Assessment Contest. (cited 2022. Dec. 05)
動物福祉の評価ツールのご紹介-2
〜福祉を評価するツールを紹介するサイト1:USDAのNational Agricultural Library〜
“Literature on Welfare Assessment and Indicators” 動物福祉の評価と指標に関する文献へのリンク集
福祉評価と福祉指標に関する文献を検索できるよう、産業動物用にPubAg、そして実験動物用にPubMedへのリンクが検索式とともに配置されています。検索式や検索文字列作成の詳細についても触れていて、丁寧です。
“Grimace Scale”
Grimace Scaleは「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説」(平成29年10月)に記載があり、実験動物種ではいまや標準的な福祉指標になっていますが、典型的な実験動物種以外の動物について詳しく調べようとすると案外骨が折れるので、このページを知っていると便利です。Grimace Scaleは、顔の様々な部位や体の姿勢を評価することで、動物の痛みを評価するために用いられるスコアリングシステムです。このパートでは典型的な実験動物種や家畜以外の情報にもリンクが貼られています。
“その他の Web リソース”
最後のパートでは、マカクや動物園動物の福祉アセスメントにも対応できるようリンクが貼られています。
今回はこのくらいにして、次回は、英国NC3Rsの“Welfare Assessment”を扱いたいと思います。
なお、米国USDAの”Animal Welfare Assessments“を閲覧される際には、ぜひ一度は、National Agricultural LibraryのトップサイトのTopicsメニューを開いて”Animal Health and Welfare”のページにも寄ってみて下さい。いろいろな情報があることにお気づきになることと思います。
動物福祉の評価ツールのご紹介-3 福祉を評価するツールを紹介するサイト2: NC3Rsの Welfare Assessment
3.適切な記録の保管方法とそのレビュー
方法は、電子的でも紙ベースでもよいのですが、記録することは効果的な日々の福祉状況の確認とプロジェクトのレビューのために不可欠です。記録方法のポイントは、「福祉上の問題の観察の内容の把握が容易にでき」、「プロジェクトのレビューを作るのに必要な情報を提供し」、「実際の重症度を容易に評価・報告できる」ことです。
また、「適切な間隔で福祉評価記録を点検」し、「進行中の研究において苦痛が効果的に予測されているか」、「最も適切な指標が関係者全員によって一貫して使用されているか」、「苦痛が適切に認識され対処されているか」を確認することも肝心なところです。
研究機関では福祉評価の手順・手法を定期的に把握することが大切です。これにより、問題点がないかどうか、手順・手法が効果的に使われているかどうか、新しい技術や方法(外科的処置後の痛みを評価するためのグリマススケール3)の使用など)を考慮しているかどうかを確認できるはずです。