ミネラル調節ホルモン「スタニオカルシン-1」:変わらずに変わった変わり者?
II. スタニオカルシン(Stanniocalcin;STC)-1とは?
上で述べた通り、魚類、特に海水魚は、水中から流入した過剰なカルシウムを鰓や腸から排泄します。硬骨魚類には、腎臓にスタニウス小体とよばれる器官が存在しますが、そこから分泌されるスタニオカルシン-1(以下STC1)というホルモンが、血中カルシウム濃度を「下げる」役割を担っています [1, 2](図2)。実際に、スタニウス小体を除去した魚類は高カルシウム血症を呈することが報告されています [3]。また、淡水魚であるコイ類はスタニウス小体が2個であるのに対し、淡水海水両方で生育できるサケ科魚類はスタニウス小体が4個あります。このことからも、STC1が血中カルシウム濃度の維持に重要なホルモンであることが想像できます。一方、哺乳類においては、主に上皮小体ホルモン(PTH)や活性化ビタミンDが血中カルシウム濃度を「上げる」役割を担っています。加えて、血中カルシウム濃度を「下げる」ホルモンとしてカルシトニンが存在します。以上から、哺乳類ではSTC1は、本来の役割を終えて退化していても不思議ではありません。ところが驚くべきことに、魚類から哺乳類まで、幅広くSTC1が保存されています(図3)。このことから、STC1は生体にとって何らかの重要な役割を担っていることが予想されましたが、STC1遺伝子のノックアウトマウスには一切の異常な表現型が見られません [4]。一方で、STC1を全身に過剰発現させたトランスジェニックマウスは、矮小(dwarf)になり、筋肉内のミトコンドリアが肥大化し、エネルギー浪費型となることが報告されています [5]。この報告から、哺乳類では、STC1がミトコンドリアに何らかの作用を有することが予想されますが、その全体像は未だによくわかっていません。