ミネラル調節ホルモン「スタニオカルシン-1」:変わらずに変わった変わり者?
iii) 肺がん診断マーカーや分子標的としての可能性
これまでに、ヒト白血病において、血中のSTC1 mRNA発現量が化学療法後の再発と正に相関するという報告がなされていました [11]。また、ヒト腎がん、グリオーマ、肺がん、胃がん、頭頚部がん、子宮頸がんにおいて、STC1発現量が高いと予後が不良であるということが、病理組織を用いた後ろ向き解析で報告されています [12]。次に筆者らは、STC1の肺がん診断マーカーとしての有用性ついて検討しました。興味深いことに、肺がん患者の末梢血中のSTC1濃度は、健常者に比べ高値を示しました(図7)。さらに筆者らは、肺がんの分子標的としてのSTC1の可能性について検討しました。つまり、STC1陽性肺がん細胞を「狙い撃ち」にすることで、がんが退縮するか否かの検証です。STC1陽性肺がん細胞株の1つであるPC-9へ、STC1遺伝子のプロモーター依存性にウラシルホスホリボシル転移酵素(UPRT;抗がん剤5-FUをより毒性の強い物質に変換する酵素)を発現させました(PSTC1-UPRT-PC-9)。この細胞株をマウス皮下へ接種し、腫瘍塊形成後に5-FUを投与したところ、UPRT非発現腫瘍(PSTC1-Null-PC-9)よりも有意な腫瘍退縮効果が認められました(図8)。このことから、STC1が肺がんの分子標的として有用である可能性が示唆されました [13]。