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海外の記事一覧

凄いぞ 実験動物! – 2021 年アルバート・ラスカー賞は光遺伝学 –

実験動物から得られた画期的成果をご紹介します。
〜国立大学法人動物実験施設協議会の許可を得て転載〜

 今年のアルバート・ラスカー基礎医学研究賞は光遺伝学の発展に貢献した 3 名の科学者 が受賞されました。本賞の受賞者はノーベル生理学・医学賞を授与されることが多く、た いへん権威ある賞です。ディーター・エスターヘルト博士は光駆動の水素イオンポンプ活 性を示すバクテリオロドプシンを発見、ペーター・ヘーゲマン博士は現在光遺伝学で汎用 されているイオンチャネル型の光活性化タンパクであるチャネルロドプシンを発見、カー ル・ダイセロス博士はこの分子を神経細胞に発現させ光応答させるシステムを作成、動物 の行動を光で制御することに成功しました。光遺伝学は実験動物の脳機能解析に応用され ており、多くの画期的な研究成果が得られています。今回は、その一部をご紹介します。

心を科学

 初めてのデートや失恋など強い感情はひとつの 記憶として心の中に長く残ります。この記憶は記 憶痕跡と呼ばれます。最近では記憶痕跡が脳のひ とつの場所だけでなく連携し広く存在していると 考えられているようです。事実、記憶には五感的 な要素が含まれ総合的なものなのです。2012 年にマサチューセッツ工科大学の利根川 進先生(1987 年ノーベル生理・医学賞受賞)たちはマウ スの記憶痕跡に関わる脳の特定の神経細胞にチャ ネルロドプシンを遺伝子操作で発現させ、マウス に恐怖体験をさせた後、光刺激のみでマウスの心に残っている恐怖体験の記憶痕跡を想起 させることに成功しました。心は形あるものの変化に基づいていることを光遺伝学と実験 動物で証明した画期的な研究です。

Optogenetic stimulation of a hippocampal engram activates fear memory recall Liu et al., (2012) Nature, 484: 381-385. doi: 10.1038/nature11028

冬眠スイッチ

 野生動物の一部は食料の乏しい冬をのりきるた めに冬眠することが良く知られています。SF 小 説や近未来映画では、長い宇宙旅行の間に歳を取 らないように、冬眠カプセルに入り、はるか遠い 銀河にある星へと向かう描写にしばしば出会いま す。これは夢物語なのでしょうか。2020 年に筑波大学の櫻井 武先生たちは通常は冬眠しないマウスの脳内に存在するピログルタミン化 RF アミドペプチド産生神経細胞(Q ニューロン)を化学的 もしくは物理的に興奮させると冬眠様状態へと誘 発できることを示しました。物理的方法では Q ニ ューロンにチャネルロドプシンを遺伝子操作で発現させ、ある領域の Q ニューロンを光で 刺激すると、マウスは冬眠同様に体温低下と低代謝を起こしました。驚いたことに光刺激 を止めると、体温は戻り、冬眠様状態による組織障害は起こらなかったようです。動物が 秘める冬眠様生理現象誘導の発見は、長期宇宙旅行に用いる冬眠カプセルが現実味のある 夢となり、それ以上に臨床医学では革新的治療への応用が大きく期待さられています。こ れらも光遺伝学と実験動物が開いた画期的な成果です。

A discrete neuronal circuit induces a hibernation-like state in rodents. Takahashi et al., (2020) Nature, 583: 109-114. doi: 10.1038/s41586-020-2163-6

コラム

【Webinar】マウスの環境エンリッチメントと老齢モデルコロニーの維持(EPトレーディング株式会社提供)

実験動物の特殊飼料やエンリッチメント、水分・栄養補給用ジェルなどを取り扱っているEPトレーディング株式会社(https://www.eptrading.co.jp/index.html)に、JALAMのために日本語字幕付きWebinar動画をご提供いただきました。

AALAS(米国実験動物学会)2020で行った、ジャクソンラボラトリー Dr.Schile による「環境エンリッチメントと繁殖」、「老齢モデルコロニー の維持」の解説ビデオ(51分)

https://www.eptrading.co.jp/service/ssp/video.html

コラム

ARRIVEガイドライン2.0が公開されました

7月14日にNC3Rs(英国3Rセンター)にてARRIVEガイドライン2.0が公開(https://arriveguidelines.org/)されました。2010年に初めて公開されたARRIVEガイドラインは、動物実験計画において最低限記載すべき項目をまとめたものであり、Natureをはじめ多くの学術雑誌に支持されているガイドラインです。

そもそもこのガイドラインが作成された背景には、動物実験の再現性があまりにも低い(一説には70%以上の実験が再現できない)と言われてきたことがあります。その一因として実験方法の詳細が述べられていないとの指摘がありました。

英国の機関が、動物実験の記載がある271報(1999-2005)の論文を精査したところ、研究の仮説・目的を記載し、かつ動物の数と特徴が記載されていたのは271報のうち、わずか59%であったことを報告(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0007824)しています。

これらの事を受けてNC3Rsは記載すべき20の項目を定めて2010年にARRIVEガイドラインとして発表しました。多くの研究機関や出版社から支持されてきたものの、記載項目が多いことからも問題の根本的な解決には至りませんでした。そこで改訂版であるARRIVEガイドライン2.0が新たに公開されました。

ARRIVEガイドライン2.0の主な変更点は以下のとおりです。

記載すべき最低限の項目を10項目に絞った「ARRIVE Essential 10」とそれらを補完する「Recommended Set」に分類した

ARRIVE Essential 10は以下のとおりです。なお正式な日本語訳は日本実験動物学会等、公的機関によるアナウンスをお待ちください。
1. Study design(研究計画)
2. Sample size(サンプルサイズ)
3. Inclusion and exclusion criteria(包含基準と除外基準)
4. Randomisation(ランダム化)
5. Blinding(盲検化)
6. Outcome measures(実験の帰結)
7. Statistical methods(統計学的方法)
8. Experimental animals(実験動物の情報)
9. Experimental procedures(実験処置)
10. Results(結果)

前回のガイドラインが20項目であったことからも項目数を絞って記載しやすくなっていることが分かります。通常の動物実験審査においては3~5の項目を審査することは少ないのですが、今後はこのあたりも審査することが求められてくるかもしれません。

コラム

文献紹介:犬、猫におけるミノキシジル外用薬の暴露状況とその毒性:211症例(2001-2019)

Topical Minoxidil Exposures and Toxicoses in Dogs and Cats: 211 Cases (2001-2019)

Kathy C. Tater, MPH, DVM, DACVD, Sharon Gwaltney-Brant, DVM, PhD, DABVT, DABT, Tina Wismer, MS, DVM, DABVT, DABT 

 Am Anim Hosp Assoc. 2021 Sep 1;57(5):225-231.  doi: 10.5326/JAAHA-MS-7154.

ミノキシジルは、CM等で宣伝されている育毛剤の主要成分です。この研究は、データベースに登録されている過去の症例報告に基づき、疾患の要因と発症の関連を調べた後ろ向き研究(retrospective study)であるため、エビデンスレベルは高くありません。本当の意味で犬・猫におけるミノキシジルの毒性を調べるためには、実験的に犬猫にミノキシジルを摂取させる(動物実験)、あるいは育毛剤を使用している飼い主と、使用していない飼い主に飼育されている犬猫の中毒症状の発症率を調べる、前向き研究(prospective study)が必要です。しかしながら、ミノキシジルの毒性については、種差(人間には安全な濃度でも、犬猫には危険)があり、犬猫は少量摂取するだけで臨床症状を呈する可能性があるので、育毛剤の保管や廃棄には十分注意が必要でしょう。また、ミノキシジルは重度の中毒を起こす危険性があるため、犬や猫の脱毛症の治療には使用しない方が良さそうです。

(要旨)

 この論文では、犬と猫におけるミノキシジルへの曝露と中毒の疫学を明らかにするために、米国の動物虐待防止協会の動物毒物管理センターにおけるデータベースに登録されているミノキシジル外用薬に暴露した犬と猫211症例を調べました。臨床的に中毒症状を呈した87例(猫62例、犬25例)については、病歴を詳細に検討しています。猫の場合、最も一般的な暴露状況としては、飼い主が自分の脱毛のためにミノキシジルを塗布している間の、意図しない摂取(例:ペットが飼い主の皮膚や枕カバーを舐めた、薬をこぼしたときにペットが飛び散った)が、最も一般的な暴露状況でした。犬では、探索行動(例:ゴミ箱の中を探す)による暴露状況が最も多く認められました。臨床症状を呈した症例では、ほとんどが中等度または重度の疾患を発症し犬56.0%、猫59.7%)、猫の場合、飼い主がミノキシジルを使用した後に臨床症状を呈した62例中8例(12.9%)が死亡しています。因果関係については、検討の余地はありますが、ペットの飼い主は、ミノキシジルの偶発的な暴露による犬や猫の中毒のリスクについて知っておく必要があります。

コラム

文献紹介:SDラットにおけるアルファキサロン及びアルファキサロン-デクスメデトミジン混合麻酔の腹腔内投与

Intraperitoneal Alfaxalone and Alfaxalone–Dexmedetomidine Anesthesia in Sprague–Dawley Rats (Rattus norvegicus)
Authors: West, Sylvia E; Lee, Jonathan C; Johns, Tinika N; Nunamaker, Elizabeth A
Source: Journal of the American Association for Laboratory Animal Science
Publisher: American Association for Laboratory Animal Science
DOI: https://doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-19-000161
Appeared or available online: 2020/08/05

【概要】
予測不可能性や効果の変化があるため、実験用げっ歯類における注射麻酔薬のレジメンは洗練されたものとなっている。本研究では,近年獣医学的に人気が高まっているアルファキサロンを単独およびデクスメデトミジンと併用して,SDラットに腹腔内投与した場合の麻酔能を評価することを試みた。アルファキサロンのみの3用量と、アルファキサロン-デクスメデトミジンの4用量の組み合わせを雄ラットと雌ラットで試験した。誘導までの時間、麻酔時間、脈拍数、呼吸数、体温、回復までの時間を盲検化された観察者によって記録した。様々な麻酔プロトコルによって誘導された麻酔のレベルは、有害な刺激に対するペダル離脱反射を用いて評価し、反応に応じてスコア化した。処置群に依存して、アティパメゾールまたは生理食塩水を、動物が麻酔の60分に達した時点で腹腔内投与した。投与量にかかわらず、アルファキサロン単独では鎮静レベルの麻酔しか達成できなかったのに対し、アルファキサロン-デクスメデトミジンの組み合わせはすべての動物において外科レベルの麻酔をもたらした。アルファキサロン単独およびデクスメデトミジンとの併用による麻酔レジメンは性差を示し、雌ラットは雄ラットよりも長時間の鎮静または麻酔を維持した。雌雄ともに、デクスメデトミジンの効果と一致する生理的パラメータの減少を示した。以上の結果から、雌ラットの手術麻酔には、鎮静には20mg/kgのアルファキサロンを、手術麻酔には30mg/kgのアルファキサロンと0.05mg/kgのデクスメデトミジンを併用することを推奨する。雄性ラットに対するアルファキサロンのみおよびアルファキサロン-デクスメデトミジンの適切な用量は、本研究では決定されておらず、さらなる評価が必要である。

注射用麻酔でどこまで外科手術をするかという事がありますが、現在、実験動物で多く使用されている三種混合麻酔(メデトミジン、ミダゾラム、ブトルファノール)は血糖値の上昇や体温の低下などの副作用があり若干使いづらい印象があるので、代替麻酔の開発には大いに賛成。でも今回の結果はかなり性差があることが示唆されているため、その点についてはフォローが必要かなという印象です。

ちなみに代替麻酔の話で、日本国内では2020年8月7日にムンディファーマが超短時間作用型の静脈麻酔薬アネレム(一般名:レミマゾラムベシル酸塩)を発売しました。レミマゾラムは日経メディカルの記事にこういった記載があります。

レミマゾラムは、既存のミダゾラムと同じベンゾジアゼピン系全身麻酔薬である。循環抑制作用が少なく、投与時の注射部位反応が少ないこと、拮抗薬フルマゼニルによって拮抗されることなど、既存のミダゾラムと同様の利点もある。ミダゾラムと類似した構造を有しているが、レミマゾラムはジアゼピン環にエステル結合の側鎖を持ち、主に肝臓の組織エステラーゼによって速かに代謝される超短時間作用型静注製剤となっている。また、代謝に肝薬物代謝酵素CYPが関与しておらず、代謝物に活性がないことも、ミダゾラムとの大きな相違点となっている。レミマゾラムはこうした特徴から、高齢者や循環動態が不安定な患者を含め、全身麻酔を施行する幅広い患者に対して有効かつ安全性の高い薬剤として期待されている。

2020/03/13 北村 正樹(東京慈恵会医科⼤学附属病院薬剤部)CYPを介さず代謝される超短時間作用型ベンゾジアゼピン系全身麻酔薬
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/202003/564675.html

代謝にCYPが関与していないのは良いですね。ミダゾラムは3A4によって代謝されるため併用注意が結構ありましたし。加えて、日本人の全身麻酔施行手術患者を対象とした国内第2/3相実薬対照無作為化単盲検比較試験(対照薬:プロポフォール)において、プロポフォールに対する本薬の非劣性が検証されたとの記載もありますので、むしろプロポの代替麻酔として臨床の方が使用されるのも良いのかもしれませんね。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

特集:マウスの最適な飼育室温度(1) NAFLD

実験動物の教科書には、実験用マウスの標準的な飼育室温は20~26℃と記載されています。一方、体温維持にエネルギーを使用しないマウスのサーモニュートラルゾーンは、30℃前後と言われています。室温がマウスの表現型に及ぼす影響を示した文献を紹介し、実験用マウスは何℃で飼育するのが最適なのかを、多面的に考えていきます。

文献紹介:非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のモデルとしてのマウス -サーモニュートラル飼育により、性差のない悪化した病態を再現できる

Giles, D., Moreno-Fernandez, M., Stankiewicz, T. et al. Thermoneutral housing exacerbates nonalcoholic fatty liver disease in mice and allows for sex-independent disease modeling. 

Nat Med 23, 829–838 (2017). https://doi.org/10.1038/nm.4346

(概要)

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肝硬変や肝細胞癌の前兆として知られている、世界的に最も一般的で重要なヒトの慢性肝疾患です。ヒトのNAFLDの病態を再現できるモデル動物を用いることで治療法の開発が可能になります。ところが、広く実験動物として利用されているマウスを用いた場合、高脂肪食給餌などの方法でNAFLDの症状が現れるものの、症状に性差が見られ、肝線維化の進行が制限されるなど、ヒトのNAFLDとは異なる病態を示すそうです。

 実験用マウスの標準的な飼育室温(TS)は20~26℃です(ILAR Guide)。一方、マウスが基礎代謝によって体温を維持できる室温、すなわちサーモニュートラルゾーン(TN)は30~32℃です。マウスをTN条件で飼育すると、寒冷ストレスが緩和され、カテコールアミンやコルチコステロイドの産生量が低下します。また、LPS投与による発熱反応が増強されます。すなわち「代謝」と「炎症」の両方に影響を及ぼします。そこで、著者らはTN飼育によって、より「ヒトに近い」NAFLDのマウスモデルを開発できるのではないかと考え、研究を行いました。

 実験の結果、TN飼育したマウスはTSと比較して、高脂肪食給餌による肝重量の増加、および肝脂肪症が悪化しており、肝臓のケモカイン発現、マクロファージの肝臓への浸潤、細菌の肝臓への移動が顕著に悪化したとのことです。また、ヒトNAFLD患者に類似した腸内細菌叢の変化、特にグラム陰性菌の拡大が見られました。さらにTlr4fl/flマウスとVav1-Creマウスを用いることにより、TN飼育と高脂肪食給餌によるNAFLDの病態進行に、造血系細胞のTLR4シグナルが関与していることが明らかになりました。TN飼育の肥満IL-17軸欠損マウス(Il17ra-/-およびIl17a-/-)は、TN飼育の野生型対照マウスと比較して、耐糖能異常、肝重量および肝細胞障害の悪化から免れました。一方、TN飼育と高脂肪食給餌により、C57BL/6では肝線維化は見られませんでしたが、AKRマウスでは肝線維化が誘導されたそうです。また、雄マウスのみならず雌マウスにもNAFLD様病態の徴候が見られました。以上のことから、TN飼育+高脂肪食給餌によるNAFLDの発症マウスは、免疫反応、代謝応答、腸内細菌叢の変化を伴う、より「ヒトに近い」新しい疾患モデルであることが明らかになりました。

【コメント】

 論文中のコメントにもありましたが、ヒトの場合、先進国では住居内の温度調節機能を利用して、一日の大半を中温域で過ごす傾向にあり、さらに着衣等も考慮に入れるとサーモニュートラルに近い環境で過ごしていると考えられます。遺伝子型だけでなく、飼育温度などの環境的要因を工夫することで表現型の変動をもたらし、ヒト疾患モデルを作出することができた点は、医学生物学の観点のみならず、実験動物学の観点からも興味深いと感じました。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

動物実験の情報発信(イギリス編)

物実験・実験動物の情報発信について、何回かに分けてお伝えしていきたいと思います。情報発信に関してはまずは先達である海外に倣えとのことで、初回はイギリス編です。なお、今回の内容はLABIO 21の記事「特集 イギリスの一般市民への動物実験に関する情報発信の状況 訪問調査研究の報告(1)市民へ動物実験の理解を促す活動団体”UAR”」をもとに構成しています。

イギリスは1800年代から動物虐待に関する法律が制定されるなどの歴史的背景から動物愛護に関する意識が非常に高い国です。そのような流れを受け、動物実験・実験動物に対しても非常に強い反対運動が巻き起こりました。SHAC(Stop Huntingdon Animal Cruelty)と呼ばれる団体がイギリスの大手CRO企業であるハンティンドン・ライフ・サイエンス社に対して放火や実験動物の連れ去りなど、非合法活動を行っていたことも記憶に新しいことかと思います。

イギリスでは1908年にResearch Defence Societyという団体が設立され、以前から研究を擁護してきました。また、2003年頃から市民に向けて研究への理解を推進するための活動を行っていたCoalition for Medical Progressという団体があったのですが、2008年にこれらの団体がまとまり、UAR(Understanding Animal Research;https://www.understandinganimalresearch.org.uk/)が設立されました。元々あった2つの団体はそれぞれ、動物実験に関する理解促進、情報発信活動を行ってきたのですが、名称からは分かりづらいという声が上がっていたことから、新しい団体には目的が分かりやすい名称となったとのことです。

UARの活動は大きく3つの活動に分かれており、ここからはそれぞれの活動を見ていきたいと思います。

教育

UAR HPから引用

主に日本の中学生・高校生にあたる生徒を対象に動物実験に対する正しい理解を深めるべく教育を行っています。主な内容はボランティアの研究者や動物実験技術者による学校訪問であり、年間300件ほど行っているとのことです。現在はイギリス全土で500名ほどのボランティア登録があり、ボランティアとして登録するためにはUARが初めに研修を行います。

さらに一部希望者に関しては実際の動物実験施設への見学ツアーも行っているとのことです。受け入れ側施設の準備などもあるかと思いますが、実際に見学した生徒たちの感想を聞くと、実際に訪問してみて動物の世話が行き届いていることや、スタッフの熱心さを知ることが出来て好評とのことです。このあたりは日本でも積極的に導入していければ良いですね。

ロビー活動

最近、日本でも徐々に見られるようになってきましたが、特定の候補や政党が安易に得票を狙って「動物実験の禁止」などを訴えることの無いよう、動物実験の禁止による医学・獣医学などの発展の阻害などを丁寧に説明して回る活動を行っています。UARは団体としてこれらの活動に熱心に取り組んできたこともあり、イギリスではUAR設立後2回の総選挙を経験していますが、選挙の際にこのような動物実験禁止をマニフェストに掲げるような候補者は出なかったとのことです。日本国内でこれらロビー活動を行っている団体はほとんど無く、日本人ももっとしたたかにこういった活動に取り組むべきだと個人的には考えています。

コミュニケーション

UAR HPから引用

コミュニケーションは情報発信において非常に重要な役割を果たします。UARが設立された当初はテレビや新聞などマスメディアで動物実験擁護活動を展開していましたが、現在ではインターネットやソーシャルメディアでの発信に切り替わってきているようです。動物実験反対派の事実に異なる主張に対し、正しい情報を公開し、その意義を訴えるという姿勢を明確にしており、このことによりメンバーや組織が動物実験に改めて理解を深めることで、さらに自信をもって自らの立場を鮮明にアナウンスすることも出来るようになってきているとのことです。つまりは情報発信側のトレーニングにもなっているようですね。

また、情報開示に関する活動として、UARではweb上で動物実験施設のバーチャルツアーを開設(http://www.labanimaltour.org/)しています。

上記HPから引用

上の写真はオックスフォード大学の動物実験施設のバーチャルツアーです。公開している部屋は限られますが、色の付いている部屋はすべて見ることが出来ますし、Googleのストリートビューのように360度ぐるぐる回して見ることが出来ます。また驚くべきことに、このようにサルに電極を付けた非常にシビアな試験を公開しており、逆にオックスフォードの動物実験に対する透明性を高めるものになっています。

このようにUARの様々な活動を見てきましたが、イギリスでは長年これらの活動に取り組んできただけあって非常に洗練されたものとなっています。現在、日本でもUARの活動を見習って情報発信活動を始める動きが出てきていますが、それにはまず現在の閉鎖的な環境を打破し、胸襟を開いて、動物実験はそもそも何のために行っているのかという原点に立ち返って正しい情報発信を進めていく必要があると考えています。

コラム

文献紹介:フィンランドにおける実験用ビーグルの最初のリホーミング:社会化訓練からフォローアップまでの完全なプロセス

The First Rehoming of Laboratory Beagles in Finland: The Complete Process from Socialisation Training to Follow-up

Laura Hänninen, Marianna Norring

Altern Lab Anim. 2020 May; 48(3): 116-126. doi: 10.1177/0261192920942135

概要
実験動物の運命は、倫理的なジレンマであり、社会的な関心事でもある。EUでは、指令2010/63/EUにより、安楽死ではなく、元実験動物のリホーミングが認められている。しかし、我々の知る限り、フィンランドでビーグルのリホーミングが行われたという報告は過去にない。本研究は、ヘルシンキ大学で初めて行われた実験用ビーグルのリホーミングの過程を説明し、その成功を評価することを目的としている。動物保護団体とヘルシンキ大学の協力のもと、合計16頭の元実験用ビーグルが里親として迎えられた。これらの犬は、動物の認知に関する研究に参加したり、動物用医薬品の開発中に小さな処置を受けたりした経験があります。犬たちがまだ実験室にいた頃、数ヶ月に及ぶ社会化トレーニングプログラムが実施された。里親へのアンケート調査、関係者(研究者、動物保護団体、動物管理者)へのインタビューを通じて、社会化トレーニングプログラム、若い犬と高齢の犬の再導入の比較成功、里親の選定基準、新しい飼い主への再導入の成功など、全体のプロセスが評価された。大半の犬は新しい家庭環境によく適応した。実験的な使用を終えた時点で安楽死させることは不必要であり、欧州指令の目的に反する可能性があった。

フィンランドでは、科学的または教育的目的のための動物の使用を対象とする国内法(Act 497/2013)があり、科学的目的のために使用される動物の保護に関する欧州指令2010/63/EUに基づいています。
EU指令は実験動物の運命に関わり、すべての欧州機関に実験犬が実験用途に不要になった後にリホーミングする機会を与えています。
Article 19では、実験に使用された動物は、動物の健康状態がそれを許し、公衆衛生、動物の健康、環境に対する危険がない場合、一定の条件を満たせば、リホーミングすることができるとしています。また、EU指令の前文26には、「手続きの最後に、動物の将来に関して、動物福祉と環境への潜在的なリスクに基づいて、最も適切な決定がなされるべきである。福祉が損なわれるような動物は、殺処分されるべきである」との記述もあります。
したがって著者らは、暗黙の了解として福祉が損なわれない動物は殺処分されるべきではないと考えています。
本研究は、フィンランドで行われた実験用ビーグルの最初のリホーミングと社会化プログラムについて述べたものです。

対象となった実験用ビーグル犬はヘルシンキ大学が所有する16頭で、すべての犬は商業ブリーダー(オランダのハーラン社)から購入したもので、高齢グループは生後6カ月から8歳まで、若年グループは生後4カ月から2歳まで研究施設で飼養されました。どちらも避妊・去勢済みの8頭(雌2頭、雄6頭)でした。
これらの犬は、犬での実験が必要な動物用医薬品の開発研究として、非侵襲的動物認知研究と犬用の新しい鎮静剤に関する臨床獣医学研究に使用されていました。実験処置としては、前者の研究では、ポジティブオペラント条件付け法によって、コンピュータ画面上の視覚刺激をじっと観察し、脳波や眼球運動を非侵襲的に記録するように訓練されました。後者の研究では、数回の鎮静処置が行なわれ、血液の採取、呼吸と心臓の機能のモニターが実施されました。

社会化トレーニングは、犬を研究施設の外に連れ出しさまざまな路面やリードでの歩行に慣れさせること、屋外での排便・排尿を促すこと、犬不慣れな人を施設に迎え入れることから構成されていました。
高齢犬は1回あたり約1時間、半年間で25〜35回散歩させました。若齢犬には、4ヶ月の準備期間を設け、研究施設に隣接するフェンス付きのパドックで監視下での遊びや休憩も含めて個別にトレーニングが実施されました。また、犬の反応や初対面の人に対する心構えも評価しています。
このトレーニングには、アニマルケアテイカー、研究者、動物保護団体のスタッフ、犬の訓練士など、多くの人が関わりました。また、動物保護団体とその地域会員組織がヘルシンキ大学とともに新しい里親探しを行い、それぞれの犬の所有権を大学から動物保護団体に、そして動物保護団体から新しい所有者に譲渡する契約が結ばれました。残念ながら、最後の1頭となった老犬には不安な行動が見られたことから、慣れ親しんだ8頭の群れがないまま施設にとどまることになりました。

アンケートはリホーミング後1ヶ月、半年〜1年、4年の3回実施され、回答したすべての飼い主が圧倒的に新しい犬を溺愛し、その性格の良さを賞賛していました。人間から攻撃されたとの報告はありませんでした。しかし中には、初めての人や状況、音、知らない犬、飼い主との別れ、車での移動などに対して恐怖心を示す犬もおり、リホーミングから4年後の最終アンケートでは、ほぼすべての犬が分離不安を抱えていることが明らかになりました。

全体的な結果としては、行動上の問題はほとんど報告されず、親しい人や家族の他の犬に対して攻撃的であったり、遊びの最中に噛みついたりする犬もいませんでした。また、爪切りなど、犬の扱いに困難はなかったと報告されています。ただし、最終的なアンケートでは、ほとんどの飼い主がトイレのしつけが不十分であると答えていました。

動物保護団体への聞き取り調査によると、これらの犬は小型で穏やかで扱いやすいため比較的容易にリホーミングできると考えていたようです。ところが、その後は無事に再飼育されましたが、若齢犬のうち3頭(2件の里親から)は動物保護団体に戻されました。また、4年間の期間中には老齢犬4頭、若齢犬1頭が安楽死されました。4頭は健康上の理由、1頭は行動上の問題が続いたことが理由でした。

   

リホーミング後のビーグルの生活において、トイレのしつけに問題があるようでしたが、リホーミングの結果は他の文献紹介にもあるように良好な結果でした。
リホーミングに向けて半年から10カ月のトレーニングが実施され、万全な準備がなされたのではないかと推察できますし、元々非侵襲的な動物認知研究に用いられておりトレーニングに慣れているビーグルであったようにも推察されました。しかし、残念ながら1頭がリホーミングを断念されたこと、3頭が一度里親から返却されたことからは、リホーミングの難しさも垣間見えるのではないかと思います。
分離不安には里親での飼育方法も関連しているとは思いますが、新たな環境においてもストレスを溜め込んでしまう状況もあるのかもしれません。さらに、文化の違いもあるとは思われますし、理由もありますが、リホーミングから4年の間に5頭のビーグルに安楽死が選択されたことも憂慮される点かもしれません。
著者らはさらに家畜など他の多くの動物種のリホーミングの機会もあったことを述べていますが、回答としては、リホーミングのアイデアは気に入っているものの、他の動物にとっては今回のケースで使用された社会化プログラムは、あまりにも計画が不十分で、性急かつ無秩序であったとの見解が示されたと述べています。

リホーミングは実験動物の余生を考える素晴らしい方法ではありますし、著者らもリホーミングを推奨してはいますが、この文献では課題として憂慮されるプロセスも赤裸々に示されており、安易に進めることがまた新たな問題を生じさせてしまう可能性も示唆されます。リホーミングにおいては各動物種に最適な方法を慎重に選択することが必要でしょう。ある意味リホーミングではなくとも、残された1頭のように、実験施設や研究者自身が最初の飼養者としての責任を持ち、アニマルサンクチュアリのように実験施設や自宅での終生飼育を考えるといったことも実験動物の余生を考える選択肢の一つとなるようにも思います。

また 大変興味深いことに、今回リホーミングの対象となった認知研究について、著者らはビーグルを用いて実施していた実験法を家庭犬に用いることで、その後実験用ビーグルの必要性がなくなったと報告していました。動物実験とは通常実験動物を用いて行われるものではありますが、実験法を確立した後の実験には実験動物が必要なくなったということです。こうした動物実験の代替の可能性もあるのかもしれません。

もちろん研究対象は目的に拠るものですが、実際に動物用医薬品の開発でも医薬品の開発でも、ボランティアによる治験や臨床試験が行われます。動物実験とは実験動物を用いて実験をするという側面だけではなく、動物のことを研究して理解を深めてゆくことでもあります。動物の余生についても研究を重ね、多様な選択肢の中で考えを巡らせてみることは、改めて社会として適切な動物実験を実施するとは何かということを考える材料にもなるかもしれません。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

文献紹介:実験用ラットにおける穴掘り、昇り降り、背伸びの重要性

The importance of burrowing, climbing and standing upright for laboratory rats
I. Joanna Makowska and Daniel M. Weary
Royal Society Open Science, June 2016, Vol. 3, Issue 6
https://doi.org/10.1098/rsos.160136

【概要】
標準的な実験用ケージはラット(Rattus norvegicus)が野生で行う多くの行動を妨げていますが、これがラットの福祉にどのような影響を与えるかについてはほとんど知られていません。本研究の目的は、(i)半自然的な環境で飼育された生後3ヶ月、8ヶ月、13ヶ月の実験室用ラットを対象に、穴を掘ったり、登ったり、直立したりする傾向を記録し、(ii)半自然的な環境で飼育されたラットと標準的な環境で飼育されたラットの横方向へのストレッチの頻度を比較することにあります。また、ラットの穴掘りの傾向は加齢とともに一定しており(1日約30回、合計20~30分)、穴掘りがラットにとって重要であることが示唆された。昇り降りは3ヶ月時の76回から13ヶ月時の7回に減少したが、これは身体能力が低下しているためであろう。背伸びは1日あたり178回から73回に減少したが、高齢ラットでも頻繁に発現し続けた。標準飼育ラットは半自然環境での飼育ラットよりもはるかに頻繁にストレッチを行っていた(13ヶ月時点で1日53回対6回)が、おそらく直立姿勢でのストレッチができないことの代償として、また標準的な飼育に関連した運動能力の低下によって引き起こされる硬直を緩和するためであろう。これらの知見は、標準的な実験室のケージは、ラットの福祉を損なう可能性が高い重要な自然な行動を妨害することを示唆している。

要約だけ見ると、へーそうなんだで終わってしまう内容ですが、半自然的な環境を作り出すためのケージ(下図)が凄すぎです…

上記論文から引用

背伸びが出来るような非常に広いスペース、昇り降りのためのハシゴの設置、そして穴掘りのためにオートクレーブで滅菌した実際の土を使用する徹底ぶり。写真にもあるようにトンネル状のエンリッチメントを入れていても穴掘り行動は続いたとのことです。そのため、本能的に重要な行動であることが示唆されるのですが、いかんせん動物実験施設で土を準備するのはハードルが高いので、これを代用するにはWool wood(下図)などを使用するなどの工夫をすべきと述べられています。

Amazon.co.ukから引用

また、半自然的な環境では直立方向の背伸びが加齢に関わらず一定であったのに対し、標準的な環境では代償的にストレッチをする回数が多かったことから、直立方向の背伸びが動物福祉には重要であることが示唆されました。このことからラットの飼育には現在使用されているような標準的なケージでは高さが足りず、いわゆるダブルデッカーと呼ばれる2階建て構造(下図)が望ましいことを裏付ける結果にもなりそうです。

NC3Rs HPから引用
https://nc3rs.org.uk/crackit/double-decker-rodent-telemetry

ラットを飼育していると横方向へ体を伸ばすしぐさをよく見かけるのですが、あれは縦方向への背伸びが出来ないゆえの代償的な行動だったのですね。そう言われると5つの自由にもある、動物の正常な行動の発現にはヨーロッパでの導入が進んでいるダブルデッカーの導入を真剣に考えなければならないかもしれませんね。

また、今回の3つの行動では穴掘りも重要だということが示唆されましたが、上述のように土を準備するのはハードルも高いですし、ひとつのケージだとケージの下方向への展開が必要で、ケージサイズが非常に大きなものになってしまうため現実的ではありません。そうやって考えると複数のケージを連結できるようにして、なおかつ同一のケージをただ連結するのではなく、ここは寝る場所、ここはエサを食べる場所、ここは穴掘りが出来る場所みたいな感じでケージ内でも出来ることを分けた方が良いのかもしれません。でもそのような運用方法で飼育することになったら飼育管理は今よりずっと大変になりそうですね・・・

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

新型コロナウイルス感染症研究における3Rs(in WC11)

The 11th World Congress on Alternatives and Animal Use in the Life Sciences(第11回 国際代替法学会;WC11)は2020年8月にオランダのマーストリヒトで開催する予定だったのですが、コロナの影響で2021年8月に順延されました。

2020年のWC11の開催は無くなりましたが、代わりにタイトルのウェビナー(https://wc11maastricht.org/webinar/)が無料で開催されることになりました。非常に興味深い内容ですし、YouTubeにアーカイブされており日本語(自動翻訳)の字幕を出すことも可能ですので、興味のある方は是非ご覧ください。個人的には2日目のジョンズホプキンス大学CATT(動物実験代替法センター)の方の講演が新型コロナ研究をゴールドラッシュのように例えていて面白かったです。

しかし代替法はあくまで他の試験を代替するものであり、今回の新型コロナウイルスなど試験自体が確立していないもの(動物実験もゴールドスタンダードと言われるものが確立していないもの)に対しては難しいということが明らかになってしまいました。もちろんiPS細胞などin vitroの試験を用いて研究していくことは必要ですが、スピード感が求められている中では動物実験と同時並行で進めていかざるを得ないのが現状です。この中でも私たちのような管理者が出来ることは、非常にシビアな感染実験などに対し、人道的エンドポイントを積極的に適用するなどのRefinementの実践だと考えています。

コラム

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