logo

当サイトではサービス向上のためにCookieを取得します。同意いただける場合は、「同意する」ボタンをクリックしてください。
詳細は、Cookieポリシーのページをご覧ください。

海外の記事一覧

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針2020年版出版記念 -紹介動画-

 日本実験動物医学専門医協会は、AVMAと翻訳契約を取り交わし、「米国獣医学会 動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン):2020年」版の翻訳本(翻訳者代表 黒澤努、鈴木真)を出版しました。本ガイドラインは、国際的に容認される具体的な安楽死法を示しており、主に獣医師を対象に記載されています。専門的ではありますが、最新の情報を網羅しており、獣医師以外の動物にかかわる方々の指針としても重要な文献です。(原文はこちら

 2013年度版から改訂された2020年版では、第3章にS1コンパニオンアニマル、S2実験動物、S3家畜、S4馬、S5鳥類、S6魚類と水生無脊椎動物、S7野生動物と7つの動物に区分されて記載されています。

 日本実験動物医学会および日本実験動物医学専門医協会は、本指針が広く周知されることで、わが国の動物福祉がより向上することを期待します。また、実験動物ならびにその他の動物の人道的な取り扱いを広めるための啓蒙活動を継続していきます。

米国獣医学会(AVMA)動物の安楽死指針(安楽死ガイドライン)2020年版の紹介

https://vimeo.com/719001280

炭酸ガスを用いた安楽死

https://vimeo.com/710990217

Compassion Fatigue(共感疲労)

https://vimeo.com/710990398
https://vimeo.com/720976209

Compassion Fatigueについて、さらに知りたい方はこちらもご覧ください。

安楽死にまつわる諸問題 part2

動物実験従事者におけるCompassion Fatigueの分類(ProQOLを用いた分類)

特集

文献紹介:フィンランドにおける実験用ビーグルの最初のリホーミング:社会化訓練からフォローアップまでの完全なプロセス

The First Rehoming of Laboratory Beagles in Finland: The Complete Process from Socialisation Training to Follow-up

Laura Hänninen, Marianna Norring

Altern Lab Anim. 2020 May; 48(3): 116-126. doi: 10.1177/0261192920942135

概要
実験動物の運命は、倫理的なジレンマであり、社会的な関心事でもある。EUでは、指令2010/63/EUにより、安楽死ではなく、元実験動物のリホーミングが認められている。しかし、我々の知る限り、フィンランドでビーグルのリホーミングが行われたという報告は過去にない。本研究は、ヘルシンキ大学で初めて行われた実験用ビーグルのリホーミングの過程を説明し、その成功を評価することを目的としている。動物保護団体とヘルシンキ大学の協力のもと、合計16頭の元実験用ビーグルが里親として迎えられた。これらの犬は、動物の認知に関する研究に参加したり、動物用医薬品の開発中に小さな処置を受けたりした経験があります。犬たちがまだ実験室にいた頃、数ヶ月に及ぶ社会化トレーニングプログラムが実施された。里親へのアンケート調査、関係者(研究者、動物保護団体、動物管理者)へのインタビューを通じて、社会化トレーニングプログラム、若い犬と高齢の犬の再導入の比較成功、里親の選定基準、新しい飼い主への再導入の成功など、全体のプロセスが評価された。大半の犬は新しい家庭環境によく適応した。実験的な使用を終えた時点で安楽死させることは不必要であり、欧州指令の目的に反する可能性があった。

フィンランドでは、科学的または教育的目的のための動物の使用を対象とする国内法(Act 497/2013)があり、科学的目的のために使用される動物の保護に関する欧州指令2010/63/EUに基づいています。
EU指令は実験動物の運命に関わり、すべての欧州機関に実験犬が実験用途に不要になった後にリホーミングする機会を与えています。
Article 19では、実験に使用された動物は、動物の健康状態がそれを許し、公衆衛生、動物の健康、環境に対する危険がない場合、一定の条件を満たせば、リホーミングすることができるとしています。また、EU指令の前文26には、「手続きの最後に、動物の将来に関して、動物福祉と環境への潜在的なリスクに基づいて、最も適切な決定がなされるべきである。福祉が損なわれるような動物は、殺処分されるべきである」との記述もあります。
したがって著者らは、暗黙の了解として福祉が損なわれない動物は殺処分されるべきではないと考えています。
本研究は、フィンランドで行われた実験用ビーグルの最初のリホーミングと社会化プログラムについて述べたものです。

対象となった実験用ビーグル犬はヘルシンキ大学が所有する16頭で、すべての犬は商業ブリーダー(オランダのハーラン社)から購入したもので、高齢グループは生後6カ月から8歳まで、若年グループは生後4カ月から2歳まで研究施設で飼養されました。どちらも避妊・去勢済みの8頭(雌2頭、雄6頭)でした。
これらの犬は、犬での実験が必要な動物用医薬品の開発研究として、非侵襲的動物認知研究と犬用の新しい鎮静剤に関する臨床獣医学研究に使用されていました。実験処置としては、前者の研究では、ポジティブオペラント条件付け法によって、コンピュータ画面上の視覚刺激をじっと観察し、脳波や眼球運動を非侵襲的に記録するように訓練されました。後者の研究では、数回の鎮静処置が行なわれ、血液の採取、呼吸と心臓の機能のモニターが実施されました。

社会化トレーニングは、犬を研究施設の外に連れ出しさまざまな路面やリードでの歩行に慣れさせること、屋外での排便・排尿を促すこと、犬不慣れな人を施設に迎え入れることから構成されていました。
高齢犬は1回あたり約1時間、半年間で25〜35回散歩させました。若齢犬には、4ヶ月の準備期間を設け、研究施設に隣接するフェンス付きのパドックで監視下での遊びや休憩も含めて個別にトレーニングが実施されました。また、犬の反応や初対面の人に対する心構えも評価しています。
このトレーニングには、アニマルケアテイカー、研究者、動物保護団体のスタッフ、犬の訓練士など、多くの人が関わりました。また、動物保護団体とその地域会員組織がヘルシンキ大学とともに新しい里親探しを行い、それぞれの犬の所有権を大学から動物保護団体に、そして動物保護団体から新しい所有者に譲渡する契約が結ばれました。残念ながら、最後の1頭となった老犬には不安な行動が見られたことから、慣れ親しんだ8頭の群れがないまま施設にとどまることになりました。

アンケートはリホーミング後1ヶ月、半年〜1年、4年の3回実施され、回答したすべての飼い主が圧倒的に新しい犬を溺愛し、その性格の良さを賞賛していました。人間から攻撃されたとの報告はありませんでした。しかし中には、初めての人や状況、音、知らない犬、飼い主との別れ、車での移動などに対して恐怖心を示す犬もおり、リホーミングから4年後の最終アンケートでは、ほぼすべての犬が分離不安を抱えていることが明らかになりました。

全体的な結果としては、行動上の問題はほとんど報告されず、親しい人や家族の他の犬に対して攻撃的であったり、遊びの最中に噛みついたりする犬もいませんでした。また、爪切りなど、犬の扱いに困難はなかったと報告されています。ただし、最終的なアンケートでは、ほとんどの飼い主がトイレのしつけが不十分であると答えていました。

動物保護団体への聞き取り調査によると、これらの犬は小型で穏やかで扱いやすいため比較的容易にリホーミングできると考えていたようです。ところが、その後は無事に再飼育されましたが、若齢犬のうち3頭(2件の里親から)は動物保護団体に戻されました。また、4年間の期間中には老齢犬4頭、若齢犬1頭が安楽死されました。4頭は健康上の理由、1頭は行動上の問題が続いたことが理由でした。

   

リホーミング後のビーグルの生活において、トイレのしつけに問題があるようでしたが、リホーミングの結果は他の文献紹介にもあるように良好な結果でした。
リホーミングに向けて半年から10カ月のトレーニングが実施され、万全な準備がなされたのではないかと推察できますし、元々非侵襲的な動物認知研究に用いられておりトレーニングに慣れているビーグルであったようにも推察されました。しかし、残念ながら1頭がリホーミングを断念されたこと、3頭が一度里親から返却されたことからは、リホーミングの難しさも垣間見えるのではないかと思います。
分離不安には里親での飼育方法も関連しているとは思いますが、新たな環境においてもストレスを溜め込んでしまう状況もあるのかもしれません。さらに、文化の違いもあるとは思われますし、理由もありますが、リホーミングから4年の間に5頭のビーグルに安楽死が選択されたことも憂慮される点かもしれません。
著者らはさらに家畜など他の多くの動物種のリホーミングの機会もあったことを述べていますが、回答としては、リホーミングのアイデアは気に入っているものの、他の動物にとっては今回のケースで使用された社会化プログラムは、あまりにも計画が不十分で、性急かつ無秩序であったとの見解が示されたと述べています。

リホーミングは実験動物の余生を考える素晴らしい方法ではありますし、著者らもリホーミングを推奨してはいますが、この文献では課題として憂慮されるプロセスも赤裸々に示されており、安易に進めることがまた新たな問題を生じさせてしまう可能性も示唆されます。リホーミングにおいては各動物種に最適な方法を慎重に選択することが必要でしょう。ある意味リホーミングではなくとも、残された1頭のように、実験施設や研究者自身が最初の飼養者としての責任を持ち、アニマルサンクチュアリのように実験施設や自宅での終生飼育を考えるといったことも実験動物の余生を考える選択肢の一つとなるようにも思います。

また 大変興味深いことに、今回リホーミングの対象となった認知研究について、著者らはビーグルを用いて実施していた実験法を家庭犬に用いることで、その後実験用ビーグルの必要性がなくなったと報告していました。動物実験とは通常実験動物を用いて行われるものではありますが、実験法を確立した後の実験には実験動物が必要なくなったということです。こうした動物実験の代替の可能性もあるのかもしれません。

もちろん研究対象は目的に拠るものですが、実際に動物用医薬品の開発でも医薬品の開発でも、ボランティアによる治験や臨床試験が行われます。動物実験とは実験動物を用いて実験をするという側面だけではなく、動物のことを研究して理解を深めてゆくことでもあります。動物の余生についても研究を重ね、多様な選択肢の中で考えを巡らせてみることは、改めて社会として適切な動物実験を実施するとは何かということを考える材料にもなるかもしれません。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

特集:マウスの最適な飼育室温度(1) NAFLD

実験動物の教科書には、実験用マウスの標準的な飼育室温は20~26℃と記載されています。一方、体温維持にエネルギーを使用しないマウスのサーモニュートラルゾーンは、30℃前後と言われています。室温がマウスの表現型に及ぼす影響を示した文献を紹介し、実験用マウスは何℃で飼育するのが最適なのかを、多面的に考えていきます。

文献紹介:非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のモデルとしてのマウス -サーモニュートラル飼育により、性差のない悪化した病態を再現できる

Giles, D., Moreno-Fernandez, M., Stankiewicz, T. et al. Thermoneutral housing exacerbates nonalcoholic fatty liver disease in mice and allows for sex-independent disease modeling. 

Nat Med 23, 829–838 (2017). https://doi.org/10.1038/nm.4346

(概要)

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肝硬変や肝細胞癌の前兆として知られている、世界的に最も一般的で重要なヒトの慢性肝疾患です。ヒトのNAFLDの病態を再現できるモデル動物を用いることで治療法の開発が可能になります。ところが、広く実験動物として利用されているマウスを用いた場合、高脂肪食給餌などの方法でNAFLDの症状が現れるものの、症状に性差が見られ、肝線維化の進行が制限されるなど、ヒトのNAFLDとは異なる病態を示すそうです。

 実験用マウスの標準的な飼育室温(TS)は20~26℃です(ILAR Guide)。一方、マウスが基礎代謝によって体温を維持できる室温、すなわちサーモニュートラルゾーン(TN)は30~32℃です。マウスをTN条件で飼育すると、寒冷ストレスが緩和され、カテコールアミンやコルチコステロイドの産生量が低下します。また、LPS投与による発熱反応が増強されます。すなわち「代謝」と「炎症」の両方に影響を及ぼします。そこで、著者らはTN飼育によって、より「ヒトに近い」NAFLDのマウスモデルを開発できるのではないかと考え、研究を行いました。

 実験の結果、TN飼育したマウスはTSと比較して、高脂肪食給餌による肝重量の増加、および肝脂肪症が悪化しており、肝臓のケモカイン発現、マクロファージの肝臓への浸潤、細菌の肝臓への移動が顕著に悪化したとのことです。また、ヒトNAFLD患者に類似した腸内細菌叢の変化、特にグラム陰性菌の拡大が見られました。さらにTlr4fl/flマウスとVav1-Creマウスを用いることにより、TN飼育と高脂肪食給餌によるNAFLDの病態進行に、造血系細胞のTLR4シグナルが関与していることが明らかになりました。TN飼育の肥満IL-17軸欠損マウス(Il17ra-/-およびIl17a-/-)は、TN飼育の野生型対照マウスと比較して、耐糖能異常、肝重量および肝細胞障害の悪化から免れました。一方、TN飼育と高脂肪食給餌により、C57BL/6では肝線維化は見られませんでしたが、AKRマウスでは肝線維化が誘導されたそうです。また、雄マウスのみならず雌マウスにもNAFLD様病態の徴候が見られました。以上のことから、TN飼育+高脂肪食給餌によるNAFLDの発症マウスは、免疫反応、代謝応答、腸内細菌叢の変化を伴う、より「ヒトに近い」新しい疾患モデルであることが明らかになりました。

【コメント】

 論文中のコメントにもありましたが、ヒトの場合、先進国では住居内の温度調節機能を利用して、一日の大半を中温域で過ごす傾向にあり、さらに着衣等も考慮に入れるとサーモニュートラルに近い環境で過ごしていると考えられます。遺伝子型だけでなく、飼育温度などの環境的要因を工夫することで表現型の変動をもたらし、ヒト疾患モデルを作出することができた点は、医学生物学の観点のみならず、実験動物学の観点からも興味深いと感じました。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

文献紹介:犬、猫におけるミノキシジル外用薬の暴露状況とその毒性:211症例(2001-2019)

Topical Minoxidil Exposures and Toxicoses in Dogs and Cats: 211 Cases (2001-2019)

Kathy C. Tater, MPH, DVM, DACVD, Sharon Gwaltney-Brant, DVM, PhD, DABVT, DABT, Tina Wismer, MS, DVM, DABVT, DABT 

 Am Anim Hosp Assoc. 2021 Sep 1;57(5):225-231.  doi: 10.5326/JAAHA-MS-7154.

ミノキシジルは、CM等で宣伝されている育毛剤の主要成分です。この研究は、データベースに登録されている過去の症例報告に基づき、疾患の要因と発症の関連を調べた後ろ向き研究(retrospective study)であるため、エビデンスレベルは高くありません。本当の意味で犬・猫におけるミノキシジルの毒性を調べるためには、実験的に犬猫にミノキシジルを摂取させる(動物実験)、あるいは育毛剤を使用している飼い主と、使用していない飼い主に飼育されている犬猫の中毒症状の発症率を調べる、前向き研究(prospective study)が必要です。しかしながら、ミノキシジルの毒性については、種差(人間には安全な濃度でも、犬猫には危険)があり、犬猫は少量摂取するだけで臨床症状を呈する可能性があるので、育毛剤の保管や廃棄には十分注意が必要でしょう。また、ミノキシジルは重度の中毒を起こす危険性があるため、犬や猫の脱毛症の治療には使用しない方が良さそうです。

(要旨)

 この論文では、犬と猫におけるミノキシジルへの曝露と中毒の疫学を明らかにするために、米国の動物虐待防止協会の動物毒物管理センターにおけるデータベースに登録されているミノキシジル外用薬に暴露した犬と猫211症例を調べました。臨床的に中毒症状を呈した87例(猫62例、犬25例)については、病歴を詳細に検討しています。猫の場合、最も一般的な暴露状況としては、飼い主が自分の脱毛のためにミノキシジルを塗布している間の、意図しない摂取(例:ペットが飼い主の皮膚や枕カバーを舐めた、薬をこぼしたときにペットが飛び散った)が、最も一般的な暴露状況でした。犬では、探索行動(例:ゴミ箱の中を探す)による暴露状況が最も多く認められました。臨床症状を呈した症例では、ほとんどが中等度または重度の疾患を発症し犬56.0%、猫59.7%)、猫の場合、飼い主がミノキシジルを使用した後に臨床症状を呈した62例中8例(12.9%)が死亡しています。因果関係については、検討の余地はありますが、ペットの飼い主は、ミノキシジルの偶発的な暴露による犬や猫の中毒のリスクについて知っておく必要があります。

コラム

【Webinar】マウスの環境エンリッチメントと老齢モデルコロニーの維持(EPトレーディング株式会社提供)

実験動物の特殊飼料やエンリッチメント、水分・栄養補給用ジェルなどを取り扱っているEPトレーディング株式会社(https://www.eptrading.co.jp/index.html)に、JALAMのために日本語字幕付きWebinar動画をご提供いただきました。

AALAS(米国実験動物学会)2020で行った、ジャクソンラボラトリー Dr.Schile による「環境エンリッチメントと繁殖」、「老齢モデルコロニー の維持」の解説ビデオ(51分)

https://www.eptrading.co.jp/service/ssp/video.html

コラム

凄いぞ 実験動物! – 2021 年アルバート・ラスカー賞は光遺伝学 –

実験動物から得られた画期的成果をご紹介します。
〜国立大学法人動物実験施設協議会の許可を得て転載〜

 今年のアルバート・ラスカー基礎医学研究賞は光遺伝学の発展に貢献した 3 名の科学者 が受賞されました。本賞の受賞者はノーベル生理学・医学賞を授与されることが多く、た いへん権威ある賞です。ディーター・エスターヘルト博士は光駆動の水素イオンポンプ活 性を示すバクテリオロドプシンを発見、ペーター・ヘーゲマン博士は現在光遺伝学で汎用 されているイオンチャネル型の光活性化タンパクであるチャネルロドプシンを発見、カー ル・ダイセロス博士はこの分子を神経細胞に発現させ光応答させるシステムを作成、動物 の行動を光で制御することに成功しました。光遺伝学は実験動物の脳機能解析に応用され ており、多くの画期的な研究成果が得られています。今回は、その一部をご紹介します。

心を科学

 初めてのデートや失恋など強い感情はひとつの 記憶として心の中に長く残ります。この記憶は記 憶痕跡と呼ばれます。最近では記憶痕跡が脳のひ とつの場所だけでなく連携し広く存在していると 考えられているようです。事実、記憶には五感的 な要素が含まれ総合的なものなのです。2012 年にマサチューセッツ工科大学の利根川 進先生(1987 年ノーベル生理・医学賞受賞)たちはマウ スの記憶痕跡に関わる脳の特定の神経細胞にチャ ネルロドプシンを遺伝子操作で発現させ、マウス に恐怖体験をさせた後、光刺激のみでマウスの心に残っている恐怖体験の記憶痕跡を想起 させることに成功しました。心は形あるものの変化に基づいていることを光遺伝学と実験 動物で証明した画期的な研究です。

Optogenetic stimulation of a hippocampal engram activates fear memory recall Liu et al., (2012) Nature, 484: 381-385. doi: 10.1038/nature11028

冬眠スイッチ

 野生動物の一部は食料の乏しい冬をのりきるた めに冬眠することが良く知られています。SF 小 説や近未来映画では、長い宇宙旅行の間に歳を取 らないように、冬眠カプセルに入り、はるか遠い 銀河にある星へと向かう描写にしばしば出会いま す。これは夢物語なのでしょうか。2020 年に筑波大学の櫻井 武先生たちは通常は冬眠しないマウスの脳内に存在するピログルタミン化 RF アミドペプチド産生神経細胞(Q ニューロン)を化学的 もしくは物理的に興奮させると冬眠様状態へと誘 発できることを示しました。物理的方法では Q ニ ューロンにチャネルロドプシンを遺伝子操作で発現させ、ある領域の Q ニューロンを光で 刺激すると、マウスは冬眠同様に体温低下と低代謝を起こしました。驚いたことに光刺激 を止めると、体温は戻り、冬眠様状態による組織障害は起こらなかったようです。動物が 秘める冬眠様生理現象誘導の発見は、長期宇宙旅行に用いる冬眠カプセルが現実味のある 夢となり、それ以上に臨床医学では革新的治療への応用が大きく期待さられています。こ れらも光遺伝学と実験動物が開いた画期的な成果です。

A discrete neuronal circuit induces a hibernation-like state in rodents. Takahashi et al., (2020) Nature, 583: 109-114. doi: 10.1038/s41586-020-2163-6

コラム

文献紹介:英国で行われた実験動物のリホーミング実践に関する調査

A semi-structured questionnaire survey of laboratory animal rehoming practice across 41 UK animal research facilities

Tess Skidmore, Emma Roe

PLoS One. 2020 Jun 19;15(6):e0234922. doi: 10.1371/journal.pone.0234922.

概要
実験動物が福祉を損なうことなく実験を乗り切った場合、その将来について交渉しなければならない。リホーミングが考慮されるかもしれない。この論文では、英国の施設における動物のリホーミングの受け入れ状況と、リホーミングするかしないかの判断に関わる道徳的、倫理的、実用的、規制的な考慮事項を示す研究結果について報告している。本研究では、英国の研究施設でリホーミングされている動物の数や種類、リホーミングを行っている主な動機、リホーミングを行っていない施設にとっての障壁などを理解することで、広く知られている文献のギャップを解消することを目的としています。英国にある約160の研究施設のうち、41施設がアンケートに回答し、回答率は約25%でした。その結果、リホーミングは日常的に行われていることが示唆されましたが、その数は少なく、2015年から2017年の間にリホーミングされたとされる動物はわずか2322頭でした。少なくとも10施設のうち1施設はリホーミングを行っていることになります。ある種の動物(主に猫、犬、馬)が他の種(げっ歯類、農耕用動物、霊長類)よりも明らかにリホーミングされることを好む傾向があります。実際、実験室で飼育されている動物の94.15%がげっ歯類であるにもかかわらず、2015年から2017年の間にリホーミングされたことがわかっている動物の5分の1以下(19.14%)を占めています。リホーミングの主な動機は、スタッフの士気を高め、施設の倫理的プロファイルをポジティブにすることです。障壁となるのは、再帰の際の動物の福祉に対する懸念、動物に対する科学的な需要が高く、リホーミングの対象となる動物が少ないこと、そして、特定の動物(主に遺伝子組み換え動物)がリホーミングに適していないことです。この研究の結果は、リホーミングを選択している施設だけでなく、現在リホーミングを行っていない施設にも役立つものです。リホーミングを推進することで、実験動物の生活の質を向上させ、施設のスタッフが殺処分の道徳的ストレスを克服し、実験動物の運命に関する社会的関心に応えることができるという利点があります。英国の研究施設の視点から見たリホーミングについての理解が得られて初めて、適切な政策や支援が可能になります。

英国内務省の定義によると、リホーミングとは、”関連する保護対象動物を施設から、Animals (Scientific Procedures) Act に基づく施設ではないその他の場所に移動させること”とされています。そして、その「場所」としては、農場、水族館、動物園、または個人宅が選ばれています。

調査の結果、2015年から2017年の間に、英国の約160の施設のうち、少なくとも19施設、11.9%がリホーミングをしていました。リホーミングされた数は2322匹で、対象となる動物種に大きく依存していました。

実験室で飼育されている動物の94.15%がげっ歯類であるにもかかわらず、リホーミングされたとされる動物の5分の1以下(19.14%)であり、逆に、鳥類、猫、犬、馬、両生類、農業動物は、飼育されている動物のわずか5.84%を占めるにもかかわらず、リホーミングされた全種の80.86%を占めていました。

研究動物の殺処分は,

1)科学的要求
2)回避可能な苦痛を防ぐため(安楽死)
3)経済的・物流的理由

の3つの主な理由で行われますが、リホーミングの主な機会は、3)経済的・物流的な理由で人道的な殺処分が行われてしまう場合にあります

Directive 2010/63/EUでは、以下の場合に動物をリホーミングさせることができるとしています。

・「動物の健康状態がそれを可能にしている」場合
・「公衆衛生、動物の健康、または環境に危険がない」場合
・「動物の幸福を守るために適切な措置が取られている」場合

この指令では、リホーミングされると福祉が損なわれるような動物は、実験の終了時に殺処分されるべきであることが明示されています。

本研究では、動物が リホーミング に適しているかどうかを評価する際に、さまざまな要素が重要であると考えており、5段階の リホーミング のプロセスが示されています。

1. 動物の選択。健康状態、年齢、種類、気質、そして長期的な健康状態を左右するような処置を受けたかどうか。
2. 効果的な社会化とトレーニング。新しい環境への暴露、必要な医療処置(去勢手術など)の実施が含まれます。
3. 最適な住まいを見つけること。
4. 飼い主の能力を評価すること。これは非常に重要であると判断されています。基準としては、飼い主候補が、過去に動物を飼った経験があること、適切な住居があること、取り扱い能力があることを証明できなければならない。家を訪問/検査して、その適合性を確認することもあります。
5. 新しい飼い主の準備。いくつかの施設では、飼い主に適切な住居と初期のフードを提供しています。飼い主に動物の健康に対する責任と、ペットの飼い主としての法的責任を十分に認識させることの重要性があります。

リホーミングの実施にあたって、大半の施設は問題なかったと回答していましたが、リホーミングを困難にする要因として、プロセスに時間がかかることが挙げられています。

リホーミングの機会については、「スタッフの士気を高める」「積極的な倫理観を示せる」など、動物たちの将来の幸福が期待されていました。

リホーミングの障壁となることは、再帰化した場合の動物の健康に関する福祉面での懸念、需要や研究の必要性から退役する動物が少なくなる傾向にあるという現実的な問題、そしてメディアからの否定的な注目への懸念などの外的な課題が挙げられています。

リホーミング後、飼い主が興味を失って動物を処分してしまうことも考えられるため、動物が施設を離れた後の動物福祉の確保について心配されています。また、施設はリホーミングのプロセスが自分たちとその評判にどう影響するかをコントロールすることはできません。サンクチュアリや一般市民が動物の異常な行動や生理についてメディアで議論し、その結果、施設が否定的なイメージを持たれてしまうことが心配されています。

アンケートの結果、実験動物のリホーミングはよく知られており、検討されているが、その数は比較的少ないことが分かりました。数が少ないにもかかわらず、リホーミングを行っている施設では、動物の福祉、スタッフ、施設全体のためになると解釈しており、可能な限り検討すべきである。リホーミングは、スタッフのモラル・ストレスの克服をサポートするとともに、実験室での動物殺傷が日常的に行われていることに対する社会的な関心を喚起するものである。リホーミングを推進するためには、どの施設がどのようにリホーミングを行っているかについての理解を深め、現在この分野で活動していない施設にも情報を広めることが必要である。著者らはこのように結論付けています。

過去の報告から、リホーミングには、1)不必要な殺処分による精神的ストレスを回避する(負の状態の回避)、2)リホーミングした動物の生活の質を向上させる(正の状態の促進)、という双方向のプロセスが存在することが知られていますが、一方では動物福祉を損ねることにもなりかねないために慎重に実施する必要があるかもしれません。また、動物種は犬、猫に限られたことではないでしょうし、飼育数に反してリホーミングの機会の少ないげっ歯類について関心をもつことも必要かもしれません。

寄稿:実験動物の印象革命<前編>の中でもご紹介いただきましたが、私も過去に、知人のつてで実験動物であったマウスやスナネズミを譲り受け飼育した経験があります。もしかしたら過去には国内でも多くの施設がリホーミングを考えていたのかもしれません。

当時よりも動物福祉の考えが進む現在では、動物福祉を損ねることが憂慮されているのかもしれませんが、改めて多くの動物がリホーミングの機会を持つことが検討され、実験動物が社会の目に触れ、より適正な動物実験が考えられてゆくとよいなと思います。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

特集

文献紹介:リホームされた実験用ビーグルは、日常的な場面でどのような行動をとるのか?観察テストと新しい飼い主へのアンケート調査の結果

How do rehomed laboratory beagles behave in everyday situations? Results from an observational test and a survey of new owners

Dorothea Döring, Ophelia Nick, Alexander Bauer, Helmut Küchenhoff, Michael H Erhard

PLoS One. 2017 Jul 25; 12(7): e0181303. doi: 10.1371/journal.pone.0181303. eCollection 2017.

概要
実験用の犬が一般家庭に戻されると、犬の生活環境は大きく変化します。慣れ親しんだ研究施設の限られた環境を離れ、新しい家庭では生物や無生物の様々な刺激に遭遇します。文献によると、リホームの経験はほとんど肯定的であるとされていますが、日常的な状況における犬の科学的な観察は行われていません。そこで我々は、74頭の実験用ビーグルを用いて、新しい家に迎え入れてから6週間後に観察テストを行った。このテストには標準化されたタスクと要素が含まれており、犬たちは新しい飼い主との具体的なやりとりや散歩中に観察されました。さらに、この74頭と71頭の飼い主は、里親になってから1週間後と12週間後に、標準化された電話インタビューに参加し、日常的な場面での犬の行動について質問に答えました。観察テストでは、犬は人間や犬に対してほとんど友好的に振る舞い、飼い主が操作している間も寛容で、散歩中は交通量が多くてもリラックスしていました。80%(n=71のうち)の犬は、リードを引っ張らずに行儀よく歩いていた。インタビューによると、大多数の犬が望ましい、友好的でリラックスした行動を示しており、アンケート結果は犬と飼い主の絆を反映していた。様々な要因(年齢、性別、出身地など)の影響を混合回帰モデルで分析したところ、過去2回の行動テストとインタビューの結果を確認することができました。具体的には、研究施設で飼育されていた犬は、研究施設が商業的な実験用犬のブリーダーから購入した犬よりも、有意に良いスコアを示した(p = 0.0113)。本研究の結果は、リホームされたビーグルたちが新しい生活環境にうまく適応できたことを示している。

ドイツでは、多くの企業や大学が長年にわたってリホーミングを促進しており、ドイツの動物福祉法は、脊椎動物の殺害を「正当な理由なしに」罰せられる犯罪と宣言しています。ドイツのほとんどの犬は、専門の動物福祉団体を通じてリホームされています。

本研究では、ドイツの製薬会社(Bayer AG, Leverkusen, Germany)で飼育されている145頭の実験用ビーグルが研究対象となりました。平均年齢±標準偏差は2.2±1.5歳、生後2か月から7.9歳のオス65頭、メス80頭でした。研究施設内の6m2の室内犬舎で、主に単独で飼育されており、少なくとも1日1回は屋外のランを利用していました。犬舎には、寝床、木製の噛みつき棒、犬用のおやつが用意されており、また、犬たちは採血、一般的な検査、経口投与、ワクチン接種などの医療行為に慣れていました。

インタビューの結果では、大多数の新しい飼い主は、愛犬が自分との接触を求め、撫でられるのが好きで、グルーミングも喜んで許可し、ほとんどの犬は、子供や他の犬を含む他の家族に対して友好的であると報告されました。犬たちは獣医師に対しても寛容で、通行人や見知らぬ子供に対する犬の行動は友好的で慎重でした。

見知らぬ子供、飼い猫、獣医師に対する行動だけが、時間の経過とともに若干悪化したとのことですが、時間の経過とともに望ましい行動の出現率が増加しており、犬は日常生活に適応し、飼い主との情緒的な結びつきが見られたと考えられています。

観察テストでは攻撃的な行動は見られませんでした。大多数の犬はリードをつけて行儀よく歩き、車やトラックが通りかかってもリラックスしていて、階段の上り下りも問題なくでき、犬たちはほとんどリラックスして望ましい行動をとっていました。これらの結果は、リホーミングされた実験犬の適応能力の高さを示すものであり、非常にポジティブな結果であったと著者らは考えています。

動物実験実施施設では実験動物福祉の考え方に基づき、それを実現するための管理をしています。少ない例ではありますが、寄稿:実験動物の印象革命<後編>でもご紹介いただき、こうした施設からリホーミングされた動物が、虐待を受けた動物のように人間に不信感をもっているということではなく、一般社会に上手く適応できるということであれば、動物実験実施者としての実験動物に対する気持ちは救われますし、嬉しくも感じるのではないでしょうか。

一方で、著者らは、ポジティブな結果については、研究施設の犬は刺激が少なかったことが理由でもあったのではないかとも考えています。全ての犬が良好な結果であったというものでもありませんでした。リホーミング実施の有無にかかわらず、動物実験実施者はより洗練した管理をしなければならないと、厳しく受け止める必要もあるのだと思います。

リホーミングを実施している施設は、実際のところ社会の期待よりも多くはないかもしれません。そうした施設がもっと多くなれば、実験動物の余生はより豊かになるでしょうし、安楽死を実施せざるを得ない場合の実施者の精神的負担も軽減されるでしょう。多くの実験動物が社会の目に触れることで、引き取られた実験動物を通じて一般社会が動物実験を知る機会も増えてゆくのではないでしょうか。そしてわが身を振り返るきっかけにもなるのではないでしょうか。

実験動物のリホーミングは、社会全体で適切な動物実験を考え遂行するために、鍵となる重要な手法かもしれません。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

特集

文献紹介:フェンタニル-ミダゾラム-メデトミジンを用いたマウスの麻酔:拮抗剤と周術期ケアの重要性

Injection anaesthesia with fentanyl–midazolam–medetomidine in adult female mice: importance of antagonization and perioperative care. 

Thea Fleischmann, Paulin Jirkof, Julia Henke, Margarete Arras and Nikola Cesarovic Laboratory Animals 2016, Vol. 50(4) 264–274  DOI: 10.1177/0023677216631458 

【コメント】
 国内では、一般的にメデトミジン-ミダゾラム-ブトルファノールの3剤が使用されていますが(Kawai S. et al, Exp. Anim, 2011)、ブトルファノールをより鎮痛効果が強いフェンタニルに変更したメデトミジン(0.5mg/kg)-ミダゾラム(5mg/kg)-フェンタニル(0.05mg/kg)の3剤によるバランス麻酔薬です。フェンタニルを使用するときは、麻薬研究者の免許が必要です。鎮痛効果が強いフェンタニルに変更することで、より侵襲度が高い手術も可能になると期待しましたが、足の引き込み反射、尾部および後脚第一趾骨の刺激による体動を完全に抑えることができなかったので、侵襲度の低い手術のみの適用になりそうです。著者らも侵襲的な治療や苦痛を伴う介入に使用する場合は、投与量を調整する必要があると結論づけています。

 拮抗薬のナロキソン-フルマゼニル-アチパメゾールを腹腔内に投与すると、数分以内に麻酔から回復しました。現在、三種混合麻酔薬は、メデトミジンの拮抗薬のみが使用されていますが、覚醒後の鎮静時間が長く、低体温になりやすいので、ミダゾラムの拮抗薬であるフルマゼニルも併用することで、覚醒後の鎮静がより短くなるかもしれません。また、著者らは、実際に手術に使う場合は、術後の痛みを取るため、(i)フェンタニルの拮抗剤であるナロキソンを除く、(ii) 術後の痛みを数時間緩和するためにブプレノルフィンを投与することを提案しています。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

文献紹介:実験動物獣医師の生物医学研究におけるマウスの福祉に対する調査

A Survey of Laboratory Animal Veterinarians Regarding Mouse Welfare in Biomedical Research.
Marx, James O ; Jacobsen, Kenneth O ; Petervary, Nicolette A ; Casebolt, Donald B
JAALAS, Volume 60, Number 2, March 2021, pp. 139-145(7)
doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-20-000063

【概要】
研究用動物の福祉の質は、その動物から生み出される科学的成果の質に否応なく結びついている。マウスは生物医学研究において最もよく用いられる哺乳動物種であるが、将来の進歩を促すためにどのような要素を考慮すべきかについては、ほとんど情報がない。この問題を解決するために、米国実験動物獣医師会(ASLAP)の動物福祉委員会は、実験動物獣医師を対象に、マウスの福祉に関する意見を聞き、生物医学研究における動物福祉に大きく影響する5つの要因(飼育、臨床ケア、実験使用、規制監督、訓練)の役割を検討するための調査を行った。調査の結果、95%の獣医師がマウスの福祉について「許容できる」から「素晴らしい」と評価しましたが、改善すべき点も残されていた。これらの分野には以下が含まれる。

1)実験を行う研究者のトレーニング
2)実験操作によって痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングの頻度
3)痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングに機関の獣医師スタッフを含めること
4)マウスに提供される環境エンリッチメントの継続的な改善
5)研究室内および機関内の他の研究グループでの再発を防止するために、IACUC(動物実験委員会)がコンプライアンス違反の事例に完全に対処する能力があること
6)病気や怪我をしたマウスの検査、病気の診断、治療の処方を獣医師以外の人に頼っていること

アメリカの動物実験規制は自主管理を柱とする体制であり、日本の動物実験に関する法制度の基本的な枠組みもこの自主管理制度を参考にしているとされています。しかし、これらの法的根拠となる動物福祉法(Animal Welfare Act; AWA)の対象動物には動物実験で多く用いられるマウスやラットなどが含まれておらず、どのように動物福祉が担保されているか外からは分かりづらい問題がありました。そこでASLAPはマウスの福祉が実際にはどうなっているか、会員にアンケートを実施したのがこの論文の趣旨です。

今回の調査では、95%の獣医師がマウスの福祉全般を「許容できる」から「優れている」と評価した一方で、半数の獣医師が、ケアの水準向上を正当化する科学的データがないことが、研究用マウスの福祉向上の主な制約になっていると考えているとのことです。特に、環境エンリッチメントの評価にばらつきがあるのは、環境エンリッチメントの基準を裏付ける実験データがないことが原因と考えられています。

また、実験手順によって痛みや苦痛を感じる可能性のある動物の観察頻度にも懸念があることが報告されました。動物福祉に満足していると回答した獣医師の多くは、観察頻度を1日あたり3回以上に設定しているのに対し、動物福祉が不十分であると回答した獣医師の多くは、観察頻度が1日1回以下であると回答しています(下表)。満足度は必ずしもケアの回数に比例するわけではありませんが、獣医師の満足度が高い施設では相対的に観察頻度が高くなっているようです。このように、動物に対して単にケアするだけではなく、どれだけ手厚くケアができるかということも動物福祉の重要な要素になっています。

観察頻度に対する回答(上記論文から引用)

日本国内では比較的小規模施設の多くが、マウスやラットのみを飼育している施設であり、実験動物獣医師などの専門家を配置することが出来ずにいます。これらの施設にどうやって動物福祉の考え方を浸透させることができるか、関係者は知恵を絞って考える必要がありそうです。

(本コラムの引用文献は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム