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動物が人になつく ~その不思議な行動のしくみ解明を目指して~

コラム

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人に能動的になつくマウスは遊び好き?

 では、人の手に能動的になつくようになったマウスは、他にどのような特徴を持っているのでしょうか?選択群と非選択群のマウスについて行動学的な解析をすることで調べてみました。行動としては、不安様行動、新規環境での探索行動、新奇物体への嗜好性、社会的親和性、社会的新奇刺激嗜好性、攻撃性、非攻撃的社会性などについて各種の行動テストで解析しました。その結果、能動的なつき行動の選択群マウスは非選択群に対して、高い社会性を示して社会的親和性が高くなる一方で、攻撃性・社会的新奇刺激嗜好性・新奇物体指向性や不安様行動などには顕著な違いが見られなかったのです(4)。このことから、人に対する能動的なつき行動を示すマウスは、同種個体間での社会性も高く、これら二つの行動が同じ遺伝的しくみにより調節されている可能性がみえてきました。

 マウスに比べると社会性がより高いとされるラットは、人の手で繰り返し腹部をくすぐられるとやがてそれに反応して超音波を発するようになり、くすぐっていた手をラットから逃げるようにすると今度はラットがその手を追いかけるようになることが報告されています(5)。この解析を行った石山晋平博士(現在Central Institute of Mental Health、ドイツ)らは、人がくすぐりに対して笑うのと同様に、ラットも「笑い」様の反応を示すと共に「遊び」様行動をしているのではないかと報告しています。一方で、石山らはマウスのC57BL/6 (B6)系統を用いてくすぐりを行ったことがあるものの同様な超音波の発声や手を追いかける行動を示すことはなく、こうした行動はマウスでは見られないとされてきました。

 選択交配により人に自発的になつくようになったマウスは果たしてくすぐりに反応するのでしょうか?そこで、石山らは筆者との共同研究として国立遺伝学研究所に滞在し、能動的なつき行動の選択群と非選択群を用いてくすぐりの効果を調べる実験を行ったのです。毎日、「背中のくすぐり」―「背中をなでる」-「マウスから手を遠ざける」という処置を、短い間隔で3分間にわたって繰り返し、それを7日間続けました。その結果、数日後には、選択群のマウスは背中をくすぐられている間はそのくすぐりを受け入れると同時に超音波を高い頻度で発するようになり、逃げる手に対してそのあとを追いかける遊び様行動を示すようになったのです(動画)。一方、非選択群のマウスはくすぐられることを嫌がって逃げると共に超音波を発することはほとんどなく、自分から遠ざかる手を追いかけることもありませんでした(6)。この結果は、能動的なつき行動を示すための遺伝的なしくみは、「笑い」や「遊び」といった人に特徴的な高次の行動とも関連している可能性を示唆しているのです。

 能動的なつき行動に関する選択交配により作製した、人に自発的になつくマウスは、これまでマウスが示すことのなかった、新しく驚くべき行動を示すようになりました。こうした変化は、もともと遺伝的に多様な野生マウスが持っていた行動のポテンシャルを拾い上げて、より顕著に安定して見られるようにしたにすぎません。つまり、マウスが本来持っている行動の一つなのです。こうした行動は野生の環境では捕食者に狙われやすくなるため、自発的に他種である人に近づいていくような行動を示す個体は淘汰されていくことになります。しかし、ひとたび人の飼育下に入れば人との関係性をより良いものにすることになり、より生存のチャンスを増やすことになるでしょう。まさしく、家畜化で生じる行動変化をこの研究では示していると言えるのです。 この研究により、「能動的なつき行動」という不思議な行動の一端がみえてきました。しかし、まだ多くの謎があります。選択交配により多くの世代を重ねて能動的なつき行動の変化が見られるようになってきましたが、その背景にはマウスヘテロジニアスストック集団内の遺伝的選択が生じていることが考えられます。過去の研究では11番染色体上の近接する2つの遺伝子座がこの行動に関与していることを報告していますが、まだ遺伝子同定には至っていません(3)。今後は、これらの遺伝子座も含めた更に詳細な遺伝解析により、この行動に関わる遺伝メカニズムの解明が求められます。また、遺伝的変化だけでなく腸内細菌のLimosilactobacillus reuteriが血中のオキシトシン濃度の上昇を介して能動的なつき行動に関与していることを報告しました(7)。L. reuteriがどのように血中オキシトシン濃度の増加に関わるのか、そのメカニズムの解明と共に、他の家畜動物のなつき行動改善に向けた幅広い応用も期待できます。また、能動的なつき行動をもたらす脳内のしくみはどのようなものなのか、その解明も期待されます。これらの研究を通して、家畜化における能動的なつき行動の役割やそこでどのような変化が関わっているかなど、より深く理解することにつながります。

動画.能動的なつき行動を示す選択群マウスを用いたくすぐりに対する反応の解析 
能動的なつき行動を示すマウスはくすぐりに対して超音波発声の反応を示し、マウスから逃げる手を追いかける行動を示す。文献6より改変(石山博士提供)。

引用文献
1. E. O. Price: Animal Domestication and Behavior. CABI Publishing (2002)
2. Goto T, Tanave A, Moriwaki K, Shiroishi T, Koide T. Selection for reluctance to avoid humans during the domestication of mice. Genes, Brain, and Behavior 12, 760-770 (2013).
3. Matsumoto Y, Goto T, Nishino J, Nakaoka H, Tanave A, Takano-Shimizu T, Mott RF, Koide T. Selective breeding and selection mapping using a novel wild-derived heterogeneous stock of mice revealed two closely-linked loci for tameness. Scientific Reports 7, 4607 (2017).
4. Venkatachalam B, Biswa B.B, Nagayama H, Koide T. Association of tameness and sociability but no sign of domestication syndrome in mice selectively bred for active tameness. Genes, Brain and Behavior 23, 1: e12887 (2024).
5. Ishiyama S, Brecht M. Neural correlates of ticklishness in the rat somatosensory cortex. Science 354,757-760(2016).
6. Dagher S, DeAngelo D, Sato RY, Norimoto H, Koide T*, Ishiyama S.* (*co-corresponding author) Comparative analysis of tickling and conspecific play in tame mice and golden hamsters. Behavioural Brain Research. 496, 115849 (2026).
7. Biswa BB, Mori K, Toyoda A, Fujiwara K, Kurokawa K, Koide T. Increased abundance of Limosilactobacillus reuteri in the gut of selectively bred high-tameness mice and its association with behavioural changes. DNA Research33, dsag006 (2026).

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国立遺伝学研究所マウス開発研究室 小出剛

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 実験動物といえども動物であり、第 3 の家畜という言い方もある。この動物の健康管理はも より、研究者の行う実験における苦痛の軽減や術前術後の健康管理に獣医師が関わるのは当然で あり、動物の福祉を求める国民が強く望んでいることである。もちろんこれまでも我々獣医師は 実験動物の飼育や動物実験の現場はもとより、施設の管理や研究者への教育、さらには動物愛護 管理法や各種指針の制定や改正の節目節目に国や学術会議等が設置した委員会等に多くの獣医師が関わって来たし、大きな役割を果たして来た。しかし、上記で示した「異常な状況」が続いており、現在までも改善できないことは、我が国では獣医師の立場が弱いとか、社会の理解がない などのせいばかりではなく、実験動物界に足場を置いてきた私を含めた獣医師の力や努力も圧倒的に足りなかったと言わざるを得ない。

 我が国のこれからの動物実験を含む研究倫理や動物福祉の観念の高まり認識し、また何よりも 実験動物の立場に立った適正な動物実験のあり方を考えるとき、我が国の法規や指針等の公のル ールで獣医師の役割を明確にすることは喫緊の課題である。社会や各種学会、さらには 5 年毎に行われる動物愛護管理法見直しの議論においても本学会の会員の皆さん、また研究機関や教育機 関で重要な立場を占めるようになっている実験動物医学専門医の皆さんの大いなる努力に期待し たい。

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2014 年 2 月節分

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