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文献紹介の記事一覧

文献紹介:フェンタニル-ミダゾラム-メデトミジンを用いたマウスの麻酔:拮抗剤と周術期ケアの重要性

Injection anaesthesia with fentanyl–midazolam–medetomidine in adult female mice: importance of antagonization and perioperative care. 

Thea Fleischmann, Paulin Jirkof, Julia Henke, Margarete Arras and Nikola Cesarovic Laboratory Animals 2016, Vol. 50(4) 264–274  DOI: 10.1177/0023677216631458 

【コメント】
 国内では、一般的にメデトミジン-ミダゾラム-ブトルファノールの3剤が使用されていますが(Kawai S. et al, Exp. Anim, 2011)、ブトルファノールをより鎮痛効果が強いフェンタニルに変更したメデトミジン(0.5mg/kg)-ミダゾラム(5mg/kg)-フェンタニル(0.05mg/kg)の3剤によるバランス麻酔薬です。フェンタニルを使用するときは、麻薬研究者の免許が必要です。鎮痛効果が強いフェンタニルに変更することで、より侵襲度が高い手術も可能になると期待しましたが、足の引き込み反射、尾部および後脚第一趾骨の刺激による体動を完全に抑えることができなかったので、侵襲度の低い手術のみの適用になりそうです。著者らも侵襲的な治療や苦痛を伴う介入に使用する場合は、投与量を調整する必要があると結論づけています。

 拮抗薬のナロキソン-フルマゼニル-アチパメゾールを腹腔内に投与すると、数分以内に麻酔から回復しました。現在、三種混合麻酔薬は、メデトミジンの拮抗薬のみが使用されていますが、覚醒後の鎮静時間が長く、低体温になりやすいので、ミダゾラムの拮抗薬であるフルマゼニルも併用することで、覚醒後の鎮静がより短くなるかもしれません。また、著者らは、実際に手術に使う場合は、術後の痛みを取るため、(i)フェンタニルの拮抗剤であるナロキソンを除く、(ii) 術後の痛みを数時間緩和するためにブプレノルフィンを投与することを提案しています。

コラム

文献紹介:実験動物獣医師の生物医学研究におけるマウスの福祉に対する調査

A Survey of Laboratory Animal Veterinarians Regarding Mouse Welfare in Biomedical Research.
Marx, James O ; Jacobsen, Kenneth O ; Petervary, Nicolette A ; Casebolt, Donald B
JAALAS, Volume 60, Number 2, March 2021, pp. 139-145(7)
doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-20-000063

【概要】
研究用動物の福祉の質は、その動物から生み出される科学的成果の質に否応なく結びついている。マウスは生物医学研究において最もよく用いられる哺乳動物種であるが、将来の進歩を促すためにどのような要素を考慮すべきかについては、ほとんど情報がない。この問題を解決するために、米国実験動物獣医師会(ASLAP)の動物福祉委員会は、実験動物獣医師を対象に、マウスの福祉に関する意見を聞き、生物医学研究における動物福祉に大きく影響する5つの要因(飼育、臨床ケア、実験使用、規制監督、訓練)の役割を検討するための調査を行った。調査の結果、95%の獣医師がマウスの福祉について「許容できる」から「素晴らしい」と評価しましたが、改善すべき点も残されていた。これらの分野には以下が含まれる。

1)実験を行う研究者のトレーニング
2)実験操作によって痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングの頻度
3)痛みや苦痛を感じる可能性のあるマウスのモニタリングに機関の獣医師スタッフを含めること
4)マウスに提供される環境エンリッチメントの継続的な改善
5)研究室内および機関内の他の研究グループでの再発を防止するために、IACUC(動物実験委員会)がコンプライアンス違反の事例に完全に対処する能力があること
6)病気や怪我をしたマウスの検査、病気の診断、治療の処方を獣医師以外の人に頼っていること

アメリカの動物実験規制は自主管理を柱とする体制であり、日本の動物実験に関する法制度の基本的な枠組みもこの自主管理制度を参考にしているとされています。しかし、これらの法的根拠となる動物福祉法(Animal Welfare Act; AWA)の対象動物には動物実験で多く用いられるマウスやラットなどが含まれておらず、どのように動物福祉が担保されているか外からは分かりづらい問題がありました。そこでASLAPはマウスの福祉が実際にはどうなっているか、会員にアンケートを実施したのがこの論文の趣旨です。

今回の調査では、95%の獣医師がマウスの福祉全般を「許容できる」から「優れている」と評価した一方で、半数の獣医師が、ケアの水準向上を正当化する科学的データがないことが、研究用マウスの福祉向上の主な制約になっていると考えているとのことです。特に、環境エンリッチメントの評価にばらつきがあるのは、環境エンリッチメントの基準を裏付ける実験データがないことが原因と考えられています。

また、実験手順によって痛みや苦痛を感じる可能性のある動物の観察頻度にも懸念があることが報告されました。動物福祉に満足していると回答した獣医師の多くは、観察頻度を1日あたり3回以上に設定しているのに対し、動物福祉が不十分であると回答した獣医師の多くは、観察頻度が1日1回以下であると回答しています(下表)。満足度は必ずしもケアの回数に比例するわけではありませんが、獣医師の満足度が高い施設では相対的に観察頻度が高くなっているようです。このように、動物に対して単にケアするだけではなく、どれだけ手厚くケアができるかということも動物福祉の重要な要素になっています。

観察頻度に対する回答(上記論文から引用)

日本国内では比較的小規模施設の多くが、マウスやラットのみを飼育している施設であり、実験動物獣医師などの専門家を配置することが出来ずにいます。これらの施設にどうやって動物福祉の考え方を浸透させることができるか、関係者は知恵を絞って考える必要がありそうです。

コラム

文献紹介(特別編):動物実験に関する一般の方々とのコミュニケーション

その中で2014年にイギリスで締結された「動物実験に関する情報開示のための協定(Concordat for Openness on Animal Research in UK)」は非常に画期的なものであり、署名している機関は現在120を超え、署名機関は以下の4項目の遵守が求められています。

この協定を結んでいる機関は積極的に情報を発信しており、大学などでは使用した動物種や動物数を公開し、大手の製薬企業では従業員全員(動物実験を実施するしない関わらず)に対してなぜ動物実験が必要なのかなど説明責任を果たしているとのことです。

こちらの取り組みに比べて、日本は以下のようにだけ記載されています。

日本では、動物実験関係者連絡協議会が中心となって、動物研究に関するよくある質問を掲載したウェブサイトを開設したり、動物をモデルとした研究の必要性を説明したパンフレットを発行しています。動物実験関係者連絡協議会を支援している団体には、日本生理学会、神経生理学会などがあります。日本実験動物学会でも一般向けのパンフレットを作成しています。また、日本の大手公共放送であるNHKの番組では、医学の進歩を紹介する番組があり、その中で実験動物が科学の発展に果たす役割を紹介することが多いです。

また、終盤のセクションで非常に興味深いフレーズがあります。

科学界は、研究動物に依存している研究の価値を平易な言葉で公に共有するのが遅れている。さらに、その研究がどのようにして達成されているのか、また実験動物を使って仕事をしている人たちの思いやりの文化を説明することにも抵抗感を持っている。このような抵抗感は、これまで述べてきたオープン性と透明性を 促進する取り組みに支えられて、変化しつつあります。しかし、米国や他の国では、現在の変化の速度は遅すぎます。

そうなんです、科学の進歩に対してそれらを一般の方々に説明できる人間が少なすぎると個人的には思うのです。もっと自分たちの行っていることに対して誇りをもって積極的に分かりやすく開示していけば良いのですが、それがイギリス以外の国々ではなかなか出来ていないのが現状です。現在はこのような現状を受けて科学コミュニケーターの育成が国内でも進みつつあります。このあたりの話はまたどこかで出来ればいいと思っています。

長々と書いてきましたが、最後に文末の部分を引用して終えたいと思います。

国民の信頼を得て、動物を必要とする生物医学科学への支持が明らかに低下しているのを逆転させるためには、 築き上げなければならないことがたくさんある。実験動物は、医学の進歩に不可欠な資源であることに変わりはない。研究機関は、透明性を求める動きを受け入れ、研究室を開放し、将来の有権者と誠実に関わっていかなければならない。そうでなければ、不必要に制限的な法律が後を絶たず、医学の進歩を妨げることになる。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

文献紹介:環境経済学における動物福祉の直接評価

Directly Valuing Animal Welfare in (Environmental) Economics.
Carlier, Alexis and Treich, Nicolas
International Review of Environmental and Resource Economics, 14 (1). pp. 113-152. (2020)

【概要】
経済学の研究は人間中心である。人間の福祉にしか関心がなく、通常は動物には関心がない。その場合、動物は資源、生物多様性、あるいは食料として扱われます。つまり、動物は人間にとって道具的な価値しかないのです。しかし、水や木や野菜と違って、人間と同じように、ほとんどの動物は脳と神経系を持っています。痛みや快楽を感じることができるので、動物の福祉は重要であると多くの人が主張しています。経済学の研究の中には、動物の福祉を評価するものもあるが、人間の利他的な評価によって間接的にしか評価されない。このような経済学の全体的な立場は、利他主義の伝統と矛盾しており、種差別主義者としての資格を得ることができる。我々は、経済学は、少なくとも時には近くのある動物の福祉を直接評価すべきであると提案する。我々は、(環境)経済学のために考えられるいくつかの意味合いと課題について簡単に論じる。

動物福祉を定量化することは非常に難しいことです。実験動物分野における環境エンリッチメントの効果をストレスホルモンの測定などで定量化する動きもありますが、測定時のストレスの方が大きかったりするなどして効果判定を明確化するのは難しいのが現状です。

この論文では経済学の観点から動物福祉を評価する試みをまとめていますが、結論から言うとまだまだ難しいようです。人間は肉用家畜のような草食動物に穀物を与えますが、動物の欲するままに穀物を与えることである意味動物の福祉を向上させることは出来ます。しかしその一方で肥満によって動物自身の体調を悪くし、結果的にQOLを下げることにもつながります。これらの解決策として動物の福祉と動物の体調のバランスをとって、肉の生産量を多くすることが挙げられていますが、これは動物を食肉として消費することを前提とした考えであり、そもそも人間が食肉をせず穀物だけ摂取していればこれらの問題が生じることも無いといった考えもあります。

このように食肉など動物の利用を前提とした動物福祉の考えと、そもそも動物を利用しないことが望ましいとするヴィーガニズムが同時に存在することで評価軸がブレてしまい、経済学でまとめることができないのが問題のようです。動物福祉に関する費用対効果を試算する試みは興味深い分野ですので、今後も多くの研究がなされると思いますが、根本的な解決にはまだまだ時間がかかりそうです。そして、この論文の最後の部分に非常に興味深いことが記載されていました。

一般の人々は、野生動物の絶滅問題や、工業的農業に伴う動物の飼育条件の悪さをますます認識するようになってきています。多くの豊かな国では、ベジタリアンやヴィーガン(通常は3~10%)の割合が、人口に占める農家の割合を上回っています。

動物の飼養環境が悪いことを認識することでベジタリアンやヴィーガンの割合が増加し、消費される動物がさらに少なくなり、質の悪い動物福祉を重視しない農家が廃業することで、残る動物の福祉が向上するといった全体のバランスが今後は取れていくのかもしれませんね。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

文献紹介:実験動物の福祉と人間の態度 異種特異的な遊びや「ラットのくすぐり」に関する横断的調査

Laboratory animal welfare and human attitudes: A cross-sectional survey on heterospecific play or “rat tickling”.
LaFollette MR, Cloutier S, Brady C, Gaskill BN, O’Haire ME
PLoS ONE 14(8): e0220580 (2019).
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0220580

【概要】
導入
実験室のラットの福祉は様々なエンリッチメント技術の実装、または実装の欠如を通じて、実験動物の担当者によって影響を受けています。そのような有望な技術の一つが異種特異的な遊び、つまり「ラットのくすぐり」であり、これはラットの“けんかごっこ”を模倣したもので、福祉の向上に貢献することができますが、実施されることは少ないかもしれません。計画行動理論を用いて、行動態度(良いか悪いか)、主観的規範(提供することに対する社会的・職業的要望があるかどうか)、コントロール信念(提供することに対してコントロールされていると感じているかどうか)など、ラットのくすぐりに対する意図や信念を測定することで、実施の検討を行うことができます。そこで、本研究の目的は、米国とカナダの実験動物従事者の間で、現在のラットのくすぐりの実施率と予測因子を特定することでした。我々の仮説では、ラットのくすぐりの実施率は低く、その実践、エンリッチメント、実験動物全般に関する信念と関連しているとしました。
方法
実験動物関係者は、広範なオンラインプロモーションから募集した。合計794名(平均=40±11歳、白人80%、女性80%)が混合法オンライン調査の少なくとも50%を完了し、現在米国またはカナダで実験用ラットを使って仕事をしているという包含基準を満たした。調査には、人口統計学、豊かになるための実践と信念、ラットに対する態度、一般的な肯定的な行動(実験動物との会話など)、ラットのくすぐりに関する実践と信念に関する質問が含まれていました。質的データは、テーマ別分析を用いてコード化した。量的データは一般的な線形モデルを用いて分析した。
結果
実験室の職員はラットのくすぐりの実施レベルが低く、89%の参加者がラットのくすぐりを実施したことがない、またはめったに実施しないと報告しています。研究室関係者は、定性的分析を用いて、ラットのくすぐりに対する2つの重要な利点(ハンドリング:61%、福祉:55%)と3つの重要な障壁(時間:59%、人員:22%、研究:22%)を報告しています。現在のラットのくすぐり行為と計画的なくすぐり行為は、よりポジティブな信念(社会的/専門家の要望 p<0.0001、くすぐり行為を提供することのコントロール p<0.0001)とくすぐり行為への親しみやすさ(p<0.0001)と正の関連がありました。また、現在のラットのくすぐりは、動物に名前をつけるなど、実験動物に対するより積極的な一般行動と正の相関がありました(p<0.0001)。今後のラットのくすぐりは、くすぐりに対する肯定的な態度(p<0.0001)と、より豊かにしたいという願望(p<0.01)と正の関連があった。
結論
その結果、ラットのくすぐりは、現在のところ実施率が低いにもかかわらず、職員の信念、親しみやすさ、一般的な態度、そしてもっと充実したものにしたいという欲求と正の関係があることが示されました。つまり、実験動物の担当者は、ラットのくすぐりを提供することに慣れていて、提供することは良いことであり、自分の管理下にあると考えていて、社会的・職業的な要望を受けていると感じている場合には、ラットのくすぐりを提供する可能性が高く、また、より豊かにしたいと考えている場合や、実験動物に対してより積極的な行動をとっている場合には、実験動物の担当者はラットのくすぐりを提供する可能性が高いことがわかりました。トレーニングを行うことで、スタッフの手順への親しみやすさを高め、必要な時間を短縮し、スタッフの信念を変えることで、ラットのくすぐりを増やすことができる可能性があり、それによってラットの福祉を向上させることができます。

動物実験で実際の実験操作をする前には、動物を十分ハンドリングしておく必要があります。これは人に触られるのを慣れさせておくことで、その後の実験操作をスムースに行えるとのメリットがあります。しかし今回の調査の目的はそうではなく、ラットをくすぐるスタッフはどういった環境で働いているかを調査したものです。

この文献でいうラットのくすぐりですが、こんな感じで実施しているところだそうです。

上記文献から引用

結論だけ見てみると当たり前かもしれませんが、時間的余裕が無いとこれらの行動をとることは出来ないという事が明らかになりました。実験動物従事者は動物の状態がより良いものにすることで様々な研究に貢献しています。日々の飼育管理だけではなく、これらプラスアルファの活動こそが彼らの糧になるものであり、やりがいを自覚するものでもあります。管理側には適切な人数配置が求められますが、最低限賄えるといったギリギリの環境にするのではなく、こういった時間的余裕を生み出せる職場環境づくりが今後は必要なようです。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

文献紹介:実験用ラットにおける穴掘り、昇り降り、背伸びの重要性

The importance of burrowing, climbing and standing upright for laboratory rats
I. Joanna Makowska and Daniel M. Weary
Royal Society Open Science, June 2016, Vol. 3, Issue 6
https://doi.org/10.1098/rsos.160136

【概要】
標準的な実験用ケージはラット(Rattus norvegicus)が野生で行う多くの行動を妨げていますが、これがラットの福祉にどのような影響を与えるかについてはほとんど知られていません。本研究の目的は、(i)半自然的な環境で飼育された生後3ヶ月、8ヶ月、13ヶ月の実験室用ラットを対象に、穴を掘ったり、登ったり、直立したりする傾向を記録し、(ii)半自然的な環境で飼育されたラットと標準的な環境で飼育されたラットの横方向へのストレッチの頻度を比較することにあります。また、ラットの穴掘りの傾向は加齢とともに一定しており(1日約30回、合計20~30分)、穴掘りがラットにとって重要であることが示唆された。昇り降りは3ヶ月時の76回から13ヶ月時の7回に減少したが、これは身体能力が低下しているためであろう。背伸びは1日あたり178回から73回に減少したが、高齢ラットでも頻繁に発現し続けた。標準飼育ラットは半自然環境での飼育ラットよりもはるかに頻繁にストレッチを行っていた(13ヶ月時点で1日53回対6回)が、おそらく直立姿勢でのストレッチができないことの代償として、また標準的な飼育に関連した運動能力の低下によって引き起こされる硬直を緩和するためであろう。これらの知見は、標準的な実験室のケージは、ラットの福祉を損なう可能性が高い重要な自然な行動を妨害することを示唆している。

要約だけ見ると、へーそうなんだで終わってしまう内容ですが、半自然的な環境を作り出すためのケージ(下図)が凄すぎです…

上記論文から引用

背伸びが出来るような非常に広いスペース、昇り降りのためのハシゴの設置、そして穴掘りのためにオートクレーブで滅菌した実際の土を使用する徹底ぶり。写真にもあるようにトンネル状のエンリッチメントを入れていても穴掘り行動は続いたとのことです。そのため、本能的に重要な行動であることが示唆されるのですが、いかんせん動物実験施設で土を準備するのはハードルが高いので、これを代用するにはWool wood(下図)などを使用するなどの工夫をすべきと述べられています。

Amazon.co.ukから引用

また、半自然的な環境では直立方向の背伸びが加齢に関わらず一定であったのに対し、標準的な環境では代償的にストレッチをする回数が多かったことから、直立方向の背伸びが動物福祉には重要であることが示唆されました。このことからラットの飼育には現在使用されているような標準的なケージでは高さが足りず、いわゆるダブルデッカーと呼ばれる2階建て構造(下図)が望ましいことを裏付ける結果にもなりそうです。

NC3Rs HPから引用
https://nc3rs.org.uk/crackit/double-decker-rodent-telemetry

ラットを飼育していると横方向へ体を伸ばすしぐさをよく見かけるのですが、あれは縦方向への背伸びが出来ないゆえの代償的な行動だったのですね。そう言われると5つの自由にもある、動物の正常な行動の発現にはヨーロッパでの導入が進んでいるダブルデッカーの導入を真剣に考えなければならないかもしれませんね。

また、今回の3つの行動では穴掘りも重要だということが示唆されましたが、上述のように土を準備するのはハードルも高いですし、ひとつのケージだとケージの下方向への展開が必要で、ケージサイズが非常に大きなものになってしまうため現実的ではありません。そうやって考えると複数のケージを連結できるようにして、なおかつ同一のケージをただ連結するのではなく、ここは寝る場所、ここはエサを食べる場所、ここは穴掘りが出来る場所みたいな感じでケージ内でも出来ることを分けた方が良いのかもしれません。でもそのような運用方法で飼育することになったら飼育管理は今よりずっと大変になりそうですね・・・

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

コラム

文献紹介:SDラットにおけるアルファキサロン及びアルファキサロン-デクスメデトミジン混合麻酔の腹腔内投与

Intraperitoneal Alfaxalone and Alfaxalone–Dexmedetomidine Anesthesia in Sprague–Dawley Rats (Rattus norvegicus)
Authors: West, Sylvia E; Lee, Jonathan C; Johns, Tinika N; Nunamaker, Elizabeth A
Source: Journal of the American Association for Laboratory Animal Science
Publisher: American Association for Laboratory Animal Science
DOI: https://doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-19-000161
Appeared or available online: 2020/08/05

【概要】
予測不可能性や効果の変化があるため、実験用げっ歯類における注射麻酔薬のレジメンは洗練されたものとなっている。本研究では,近年獣医学的に人気が高まっているアルファキサロンを単独およびデクスメデトミジンと併用して,SDラットに腹腔内投与した場合の麻酔能を評価することを試みた。アルファキサロンのみの3用量と、アルファキサロン-デクスメデトミジンの4用量の組み合わせを雄ラットと雌ラットで試験した。誘導までの時間、麻酔時間、脈拍数、呼吸数、体温、回復までの時間を盲検化された観察者によって記録した。様々な麻酔プロトコルによって誘導された麻酔のレベルは、有害な刺激に対するペダル離脱反射を用いて評価し、反応に応じてスコア化した。処置群に依存して、アティパメゾールまたは生理食塩水を、動物が麻酔の60分に達した時点で腹腔内投与した。投与量にかかわらず、アルファキサロン単独では鎮静レベルの麻酔しか達成できなかったのに対し、アルファキサロン-デクスメデトミジンの組み合わせはすべての動物において外科レベルの麻酔をもたらした。アルファキサロン単独およびデクスメデトミジンとの併用による麻酔レジメンは性差を示し、雌ラットは雄ラットよりも長時間の鎮静または麻酔を維持した。雌雄ともに、デクスメデトミジンの効果と一致する生理的パラメータの減少を示した。以上の結果から、雌ラットの手術麻酔には、鎮静には20mg/kgのアルファキサロンを、手術麻酔には30mg/kgのアルファキサロンと0.05mg/kgのデクスメデトミジンを併用することを推奨する。雄性ラットに対するアルファキサロンのみおよびアルファキサロン-デクスメデトミジンの適切な用量は、本研究では決定されておらず、さらなる評価が必要である。

注射用麻酔でどこまで外科手術をするかという事がありますが、現在、実験動物で多く使用されている三種混合麻酔(メデトミジン、ミダゾラム、ブトルファノール)は血糖値の上昇や体温の低下などの副作用があり若干使いづらい印象があるので、代替麻酔の開発には大いに賛成。でも今回の結果はかなり性差があることが示唆されているため、その点についてはフォローが必要かなという印象です。

ちなみに代替麻酔の話で、日本国内では2020年8月7日にムンディファーマが超短時間作用型の静脈麻酔薬アネレム(一般名:レミマゾラムベシル酸塩)を発売しました。レミマゾラムは日経メディカルの記事にこういった記載があります。

レミマゾラムは、既存のミダゾラムと同じベンゾジアゼピン系全身麻酔薬である。循環抑制作用が少なく、投与時の注射部位反応が少ないこと、拮抗薬フルマゼニルによって拮抗されることなど、既存のミダゾラムと同様の利点もある。ミダゾラムと類似した構造を有しているが、レミマゾラムはジアゼピン環にエステル結合の側鎖を持ち、主に肝臓の組織エステラーゼによって速かに代謝される超短時間作用型静注製剤となっている。また、代謝に肝薬物代謝酵素CYPが関与しておらず、代謝物に活性がないことも、ミダゾラムとの大きな相違点となっている。レミマゾラムはこうした特徴から、高齢者や循環動態が不安定な患者を含め、全身麻酔を施行する幅広い患者に対して有効かつ安全性の高い薬剤として期待されている。

2020/03/13 北村 正樹(東京慈恵会医科⼤学附属病院薬剤部)CYPを介さず代謝される超短時間作用型ベンゾジアゼピン系全身麻酔薬
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/202003/564675.html

代謝にCYPが関与していないのは良いですね。ミダゾラムは3A4によって代謝されるため併用注意が結構ありましたし。加えて、日本人の全身麻酔施行手術患者を対象とした国内第2/3相実薬対照無作為化単盲検比較試験(対照薬:プロポフォール)において、プロポフォールに対する本薬の非劣性が検証されたとの記載もありますので、むしろプロポの代替麻酔として臨床の方が使用されるのも良いのかもしれませんね。

(本コラムの引用文献、図は、クリエイティブコモンズライセンスの下に提供されています。)

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